2025年9月19日、Ethereum開発者コミュニティの定例会議「All Core Devs #165」にて、次期大型アップグレード「Fusaka」のメインネットローンチを12月3日に暫定的に決定したことが発表されました。今回のアップグレードでは、Ethereumのスケーラビリティ改善を予定しています。
今回は、Fusakaがもたらす技術的な変化、特に重要とされている「PeerDAS」の仕組みと、レイヤー2やユーザー体験に与える影響について深く掘り下げていきます。
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サービス掲載を相談するFusakaで実装される変更:PeerDASとは?
Fusakaアップグレードの目玉となるのが、「PeerDAS(Peer Data Availability Sampling)」の実装です。「EIP-7594」としても知られており、イーサリアムのスケーラビリティを向上させるための重要な技術です。
現在、ArbitrumやOptimismといったレイヤー2は、レイヤー2内で発生したトランザクションのデータを「blob」と呼ばれる一時的なデータ形式でEthereum本体(レイヤー1)にアップロードしています。これにより、レイヤー2で発生したトランザクションの正当性をレイヤー1のセキュリティで担保しています。しかし、レイヤー2の活動が活発になるにつれてblobのデータ量が増加してしまい、これを検証するEthreum側のノード負荷が高まっていたことや、ネットワークの帯域幅を消費してしまうことが課題となっていました。
PeerDASは、すべてのblobをダウンロードすることなく、すべてのblobが検証可能な状態であることを証明する技術です。PeerDASを導入することによって、各ノードはblobデータをダウンロードする代わりに、blobデータの一部を保存するだけで、blobの有効性を確認できるようになります。
Ethereum Foundationによると、各ノードが保存するのはblobデータ全体の約1/8となっており、非常にコンパクトになっています。また、blobデータの分割には「KZG proof」という技術が利用されており、分割されたうち50%のデータさえあれば元のblobデータを復元できる設計になっているため、高い可用性があることも特徴のひとつです。
これにより、ノードのハードウェアやネットワーク帯域幅への要求を現行よりも低く抑えながら、ネットワーク全体として扱うblobの容量を理論上8倍までスケールさせることが可能になるとされています。
詳細なロードマップとその他の主要な改善点
今回発表された暫定スケジュールによると、Fusakaはメインネットローンチに先立ち、以下の日時でテストネットに実装され、テストが行われる予定となっています。
- Holeskyテストネット: 10月1日
- Sepoliaテストネット: 10月14日
- Hoodiテストネット: 10月28日
また、FusakaにはPeerDAS以外にも重要な改善が複数含まれています。
たとえば、ブロックごとのガス上限の引き上げが挙げられます。ブロックごとのトランザクション処理能力を向上させるために、ガス上限を現在の3,000万ユニットから最大1億5,000万ユニットまで引き上げる案が検討されています。
また、Verkle Treesの導入も重要な改善のひとつです。データストレージの効率を改善し、検証に必要なデータサイズを削減することが可能です。Verkle Treesの詳細については、過去のEthereum技術解説記事にて解説していますので、ぜひそちらもご覧ください。
ユーザーのUX向上という観点からは、パスキーへの対応(EIP-7951)も非常に重要な改善となっています。iOSにおけるFace ID(Apple Secure Enclave)や、Androidにおける指紋認証(AndroidKeystore)などで使われる「secp256r1」という暗号曲線がサポートされます。これにより、ウォレットアプリで「パスキー」が利用可能になり、シードフレーズを必要としない、より安全で簡単なユーザー体験が実現します。
L2のコスト構造を変えるゲームチェンジャーとなるか
Fusaka、特にPeerDASの導入は、イーサリアムのL2エコシステムにおける競争環境を大きく変える可能性があります。
現在、レイヤー2のトランザクション手数料の大部分は、トランザクションデータをblobとしてEthereumに書き込むためのコストが占めています。FusakaによってEthereum側のblobの容量が増加し、コストが低下することで、レイヤー2のトランザクション手数料がさらに下がることが期待されます。
この動きは、Data Availability(DA:トランザクションデータの保存)に特化したブロックチェーンであるCelestiaとの関係性においても重要です。Celestiaは、イーサリアムよりも安価なData Availability Layer(DAに特化したチェーン)を提供することで、いくつかのレイヤー2に採用されてきました。L2BEATによると、2025年9月時点で、CelestiaをDAとして利用するレイヤー2の数は17を超えています。
Fusakaの導入により、EthereumのDAコストがCelestiaに匹敵するレベルまで下がれば、レイヤー2プロジェクトはセキュリティと分散性で優位に立つEthereumをDAレイヤーとして選択するインセンティブが高まることが想定されます。
考察:Data Availability Layerへと変化するEthereum
レイヤー2が普及するまでのEthereumは、トランザクションやスマートコントラクトを実行し、その内容についての検証や合意を行い、トランザクションデータを保存するといった一連の役割をすべて担っていました。このように、すべての役割を実行するブロックチェーンのことを「モノリシックブロックチェーン(Monolithic Blockchain)」と呼びます。
今回のFusakaアップグレードは、Ethereumがこのようなモノリシックチェーンから、レイヤー2のトランザクションデータを保存するData Availability Layerへと、その役割を変化させていることを示しています。これは、イーサリアムの創設者であるVitalik Buterin氏が提唱する「モジュラーブロックチェーン(Modular Blockchain)」という考え方の実現に他なりません。モジュラーブロックチェーンは、複数のレイヤーに役割を分散させたり、場合によっては外部のレイヤーに役割をアウトソーシングするブロックチェーンのことを指します。
PeerDASによってレイヤー2のスケーラビリティと経済性が向上すれば、これまでコストの制約から実現が難しかった、高頻度のトランザクションを必要とするブロックチェーンゲームやSNSなどといった新しいアプリケーションが現実味を帯びてきます。
また、EIP-7951によるパスキー対応は、ウォレットサービスを一般的なWebサービスと同じくらいシームレスに利用できるようになる、UXの改善に繋がります。
Fusakaの先には、2026年に予定される「Glamsterdam」アップグレードが見据えられており、さらなるスケーラビリティ向上が計画されています。今後のロードマップにも、引き続き注目したいところです。
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