2025年9月23日、米国のデリバティブ市場を監督する米商品先物取引委員会(CFTC)は、デリバティブ取引の担保として、ステーブルコインを含むトークン化された非現金担保(Tokenized Non-Cash Collateral)の利用を認めるパイロットプログラムを発表しました。
これは、清算機関と市場参加者間の適格担保制度を拡張することを目的としており、個人投資家などが金融機関に対して担保に差し入れる仕組みを直接変えるものではありませんが、伝統的な金融市場のシステムに大きな変化をもたらす可能性があります。
今回は、この発表がどのような変化をもたらすのか、その背景と将来の展望を解説します。
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サービス掲載を相談するステーブルコインを適格担保として利用可能に
CFTCが発表した今回のパイロットプログラムを理解するために、まずはデリバティブ取引を含めた金融取引がどのように行われているのかについて見ていきましょう。金融取引は、大きく分けて1. 売買、2. 清算、3. 決済という3つの流れで進みます。
まず1. 売買の段階では、投資家が注文を出すと、証券会社などの「市場参加者」がそれらを取りまとめて取引所で売買を成立させます。ここで、実際に取引所で売買を行っているのは、投資家ではなく市場参加者であるということに注意が必要です。次に2. 清算の段階へ移行し、売買の結果として生じた債権と債務が確定されます。そして最後に3. 決済で、実際に株式や代金の受け渡しが行われ、取引が完了します。
この中で特に重要なのが2. 清算です。市場参加者同士のやり取りにおいては、「相手が倒産して代金を支払えない」といったカウンターパーティーリスクが常に発生します。このリスクを引き受け、市場全体の安定を維持しているのが「清算機関」という主体です。清算機関は、すべての市場参加者の間に入ることで、双方の債務をまとめて引き受け、取引の完了を保証しています。ここで、債務を引き受ける際に市場参加者との間で担保を受け入れており、これらの担保のことは適格担保と呼ばれています。
これまで、米国において清算機関が受け入れることのできる適格担保は現金や国債などが中心で、トークン化資産は明示的には含まれていませんでした。今回の制度拡張は、清算機関と市場参加者間で、ステーブルコインなどのトークン化資産を担保としてやり取りできるようにするものです。
なぜ担保としてステーブルコインが求められるのか
従来、米国において清算機関と市場参加者間における担保の送受信は、Fedwireのような銀行間の送金システムを通じて、銀行の営業時間内にその大部分が行われてきました。しかし今回のパイロットプログラムでは、USDCのようなステーブルコインを担保として利用することが認められます。これにより、銀行の営業時間外などの状況下で数時間から数日かかっていた担保の移動が、ブロックチェーン上で数秒から数分で完了できるようになる可能性があります。
従来の銀行システムは、取引データを一定時間ごとにまとめて処理するバッチ処理を一部で利用しており、即時性に欠けるという課題がありました。特に、週末や深夜に急なマージンコール(追加担保の要求)が発生した場合、銀行が営業を開始するまで対応できない可能性があるという「決済遅延(Settlement Latency)」のリスクが常に存在していたのです。
ブロックチェーンを用いることで、銀行間の送金システムを使用せずとも、24時間365日、ほぼリアルタイムでの決済が可能になります。これによって、金融市場のバックエンドで長年続いてきた非効率性を解決できる可能性があります。
考察:伝統的金融市場への影響は?
この変化によって、明確なメリットが発生するのは暗号資産を取り扱う経験を持ったスワップディーラー(米国において、デリバティブ取引のマーケットメイクを行うCFTC登録済みの主体)やステーブルコイン発行者です。Galaxy DigitalやFalconXといった暗号資産を取り扱う経験を持ったスワップディーラーは、ステーブルコインを担保として取り扱うことで、担保をより動的に調整し、カウンターパーティリスクを低減することができると考えられます。
また、USDCのようなステーブルコインは、従来の米国債と同様の担保資産として利用が拡大することで、そのAUMを大きく増やすことが見込まれます。国際決済銀行(BIS)によると、2023年末時点で世界の店頭デリバティブ市場の想定元本残高は667兆ドル規模に達しており、その一部がステーブルコインに置き換わるだけでも、市場へのインパクトは計り知れません。
このCFTCのパイロットプログラムについて、日本においても、規制当局や日本証券クリアリング機構(JSCC)などの清算機関が動向を注視すると想定されます。
金融市場の効率化による国際競争力向上は日本にとっても喫緊の課題です。米国の取り組みが成功し、ステーブルコイン導入によって市場の効率性向上が実証されれば、日本もその潮流から取り残されるわけにはいきません。将来的には、国内の金融機関を巻き込んだ形での実証実験や、限定的なパイロットプログラムの実施が検討される可能性は十分に考えられます。今回のCFTCの動きは、米国だけでなく、世界全体の金融市場のシステムに非常に大きな影響力を持つことが想定されます。
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