2025年8月18日、英国のチャレンジャーバンクであるMonzoが、独自の携帯電話サービスを英国内で開始する予定であるとの報道がありました。Monzoだけでなく、直近ではRevolutやKlarnaなどといった大手FinTech企業も通信事業への参入を発表しています。
今回は、この発表が持つ意味と、海外・国内での動向について解説します。
※本記事の内容は、マネックスクリプトバンクが週次で配信しているニュースレター「MCB FinTechカタログ通信」の抜粋です。毎週月曜17時に配信しており、無料でご購読いただくと、FinTech・Web3の注目トピックスを解説するニュースレターに加え、注目の特集記事、ビットコイン最新動向や相場予想などもお読みいただけます。
目次
なぜFinTech企業が通信事業に?
このニュースを理解する上で、まず2つのキーワードを押さえておきましょう。
1つ目は「チャレンジャーバンク」です。これは、店舗を持たず、スマートフォンアプリを中心にサービスを展開する新しい形態の銀行を指します。既存の巨大銀行(メガバンク)が持つ伝統的なシステムや慣習に縛られず、テクノロジーを駆使して利便性の高い金融体験を提供することで、若年層を中心に急速に顧客を増やしています。今回取り上げるMonzoや、Revolutなどがチャレンジャーバンクの代表例です。
2つ目は「MVNO(仮想移動体通信事業者)」という仕組みです。自社で大規模な通信アンテナなどのインフラを持たず、既存の大手通信事業者のネットワークを借りてサービスを提供するビジネスモデルで、比較的低コストで市場に参入できる特徴があります。
Monzoの狙いは、このMVNOを活用し、アプリ内で契約が完結するデジタルSIMカード(eSIM)を通じて、金融から通信までをシームレスに提供することにあります。
Monzoが持つ、1,260万人の顧客基盤
Monzoの計画はまだ初期段階にありますが、同社の広報担当者はGuardian紙の取材に対し、「顧客から携帯電話の契約が煩雑だという声を受け、Monzoならではの解決策を模索し始めた」とコメントしています。
Monzoの最大の強みは、1,200万人の個人顧客と、60万人以上の法人顧客を含む、合計1,260万人以上の巨大な顧客基盤です。この既存顧客に対して通信サービスをクロスセル(合わせ売り)できるため、新規顧客獲得コストを大幅に抑えることが可能になります。
また、この動きは、将来のIPO(新規株式公開)を見据え、収益源を多様化し企業価値を高める狙いもあると考えられます。
海外で相次ぐFinTech企業による通信参入
FinTech企業による通信事業への参入は、Monzoが初めてではありません。欧米のFinTech業界では、すでに同様の動きが活発化しています。
Monzoと同様に英国のチャレンジャーバンクであるRevolutも、2025年4月に携帯電話プラン「Mobile Plans」を発表しています。Revolutは世界で5,250万人以上の顧客を抱えており、Monzoと同様にクロスセルによる収益拡大を狙っているとみられます。2024年には海外旅行者向け通信サービス「Revolut eSIM」を提供開始しており、このサービスが一定の成功を収めたことが、「Mobile Plans」でのMVNO事業参入の一因になったと公式発表で説明しています。
チャレンジャーバンクではありませんが、BNPLを提供するFinTech大手であるKlarnaも2025年6月にMVNOへの参入を発表しています。MVNOサービスをホワイトラベルで提供しているGigs社と提携しており、米国でAT&Tのネットワークを用いたデータ無制限プランを月額40ドル(約6,000円)で提供開始しています。
総務省の調査によると、2024年9月現在、英国におけるMVNO加入数の全移動体通信加入者に占める割合はほぼ4分の1となっており、成長を続けています。
巨大な顧客基盤と競争力のある価格設定を強みとするMonzoやRevolutの新規参入により、英国の既存大手通信事業者は厳しい競争に直面することになりそうです。Telefonica傘下のO2 UK、BTグループ傘下のEE、Vodafone UKなどの事業者にとって、ARPU(1ユーザーあたりの平均収益)への下方圧力は避けられない課題となるでしょう。
考察
MonzoやRevolutの動きは、クロスセルによる収益拡大を目的とするだけでなく、FinTech企業が持つ決済情報や資産状況といった金融データを統合し、新たなサービスを提供する狙いがある可能性があります。
実際に、KlarnaのCEOであるSebastian Siemiatkowski氏はCNBCに対し、同社の通信サービスについて、「携帯電話会社のサブスクリプションやデータ通信料を過剰に支払っていることが分かった場合に、より良い価格モデルを提案することを目指している」とコメントしています。
FinTech企業による通信事業への参入は、日本でEC・金融・通信の経済圏を築いた楽天のモデルとも重なります。国内でFinTech企業が通信事業に参入した事例はまだ限られていますが、メルカリが2025年3月にMVNOとして「メルカリモバイル」の提供を開始するなど、一部で動きがみられます。
今回の報道のようなグローバル市場での潮流を受け、国内でもFinTech企業によるMVNO参入が活発化する可能性があります。
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