2025年11月18日、Ethereum Foundationは公式ブログ記事において、Ethereumのエコシステム内で課題となっているレイヤー2の断片化問題を解決するための新たな構想「Ethereum Interop Layer(EIL)」の詳細を発表しました。EILは2025年8月に構想が公開されていたもので、ユーザーが複数のチェーンを意識することなく、まるで単一のEthereumブロックチェーンを利用しているかのような体験を提供するための標準規格案です。
今回はこのEILについて、どのような技術なのか、実装後にEthereumやレイヤー2にどのような体験をもたらすのかについて詳しく見ていきます。
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サービス掲載を相談するレイヤー2の断片化と「EIL」が目指すもの
まずは、現在のEthereumが抱える「UXの断片化」という課題を整理しましょう。OptimismやArbitrum、Baseといったレイヤー2の普及により、Ethereumのスケーラビリティ(処理能力)は大幅に向上し、レイヤー2上において非常に安価でトランザクションを実行できるようになりました。しかし、その副作用としてユーザー体験(UX)は複雑化しています。
複数のレイヤー2が存在するために、「どのチェーンに資産があるか確認し、専用のブリッジツールで資産を移動させ、それぞれのチェーンでガス代(手数料)用のトークンを別途用意する」といった手間が、ユーザーにとって大きな負担となっています。
Ethereum Foundationが発表したEILは、こうした手間をなくし、ユーザーが意識しない裏側でこれらの処理を行うための技術です。より具体的には、アカウント抽象化(Account Abstraction)の規格である「ERC-4337」を拡張して、クロスチェーン取引のロジックをオンチェーンおよびウォレット内に直接組み込むものです。
EILの技術的詳細とユーザー体験
従来の仕組みでは、たとえばArbitrumにあるETHをBaseにあるウォレットに送り、そこでNFTをMintする場合、それぞれのチェーンで署名して承認する作業が必要でした。
EILでは、こうした複数のチェーンに対する操作リクエスト(UserOps)を、「Merkle Tree」と呼ばれるデータ構造を用いてひとつのデータに集約します。ユーザーは、この集約されたデータに対して一度だけ署名を行うことで、すべてのチェーンでの処理を完了できるようになります。これにより、ユーザーは「ArbitrumにあるETHをBaseにあるウォレットに送り、そこでNFTをMintする」といったクロスチェーン取引を、単一の署名操作で完了できるようになります。
もうひとつの大きな課題である、「それぞれのチェーンでガス代(手数料)用のトークンを別途用意する」といった手間を解決するために、さらに「CrossChainPaymaster」という機能も用意されています。CrossChainPaymasterは、ユーザーの手持ちの資産を一時的に立て替え、別のチェーンにおけるガス代の支払いを代行することのできるスマートコントラクトです。実際の立て替えおよび支払いは、クロスチェーン流動性プロバイダー(XLP)と呼ばれる役割を担う主体がCrossChainPaymasterを通じて行います。
XLPは複数のチェーンのCrossChainPaymasterコントラクトにトークンをステーキングすることで、立て替えおよび支払い用のトークンを用意します。実際に立て替えおよび支払いを行うと、一定の報酬を獲得できる仕組みになっています。
これによって、ユーザー視点では「署名ボタンを一度押すだけ」で、裏側のクロスチェーン取引やガス代の支払いがすべて完了する体験が実現します。「ArbitrumにあるETHをBaseにあるウォレットに送り、そこでNFTをMintする」際に、ユーザーはMintするウォレットアドレスを指定するだけでよく、どのチェーンを経由するのかを気にする必要がなくなります。
Intentとの違いは?
クロスチェーンのUXを改善するアプローチとしては、近年「Intent」と呼ばれる技術も注目を集めています。これは、ユーザーが実現したい取引結果のみを提示し、「Solver」と呼ばれる第三者がその実行経路を最適化して取引を代行するモデルで、UniswapXなどがこのIntentアプローチを採用しています。
しかし、Ethereum Foundationの技術解説記事では、EILとIntentには明確な違いがあることを強調しています。Intentモデルでは、Solverという第三者に事前に実現したい取引結果を公開する必要があるため、フロントランニングのリスクやプライバシー侵害の懸念が生じます。また、特定の第三者に依存するため、取引の検閲リスクも存在します。
対して、EILは「アカウントベース」のアプローチを採用しています。ユーザー自身のSCA(スマートコントラクトアカウント)ウォレットが直接各チェーン上のコントラクトを実行するため、Solverのような第三者を信頼する必要がありません。EILは、Ethereumが持つ特徴である「検閲耐性」や「トラストレス」な性質を維持したまま、UXのみを改善しようとする試みと言えます。
今後のロードマップ
EILの実装においては、2025年5月のPectraアップグレードで実装されたAccount Abstraction提案である「EIP-7702」や、次世代のAccount Abstraction提案である「EIP-7701」との連携も視野に入れられています。これにより、ハードウェアウォレットなどの既存のEOA(外部所有アカウント)ウォレットでも、EILの機能を利用できるようになることが想定されます。
一部の報道によると、11月18日時点でEILはテストネット上で公開可能な状態にあり、11月21日から23日に開催されるETHGlobalでフィードバックプロセスを開始する予定とされています。今後、テストと監査を経たのち、メインネットにて一般公開される見込みです。
考察:Ethereumエコシステムにおける「HTTP」になれるか
今回の発表は、Ethereum Foundationが公式記事にて説明しているように、Ethereumがインターネットにおける「HTTP」のような標準規格を確立しようとしている動きと捉えることができます。かつてのインターネットも、個別のサーバーに接続する複雑さがありましたが、HTTPとブラウザの登場により、ユーザーはサーバーの存在を意識することなく、誰でもインターネットを利用できるようになりました。EILは、各レイヤー2を繋ぎ、ウォレットを通じてシームレスに行き来できる「Web3版のHTTP」を目指していると言えるでしょう。
EILの実装によって、ウォレット開発者やDapps開発者にとっても、チェーンごとの個別対応から解放されるというメリットがあります。EILという標準規格に対応するだけでデフォルトでマルチチェーンネイティブになり、また今後実装される新しいレイヤー2への互換性も自動的に保たれるようになります。
課題としては、このEILという標準が、各レイヤー2を運営するエンティティやウォレット開発者にどれだけ速やかに採用されるかが挙げられます。しかし、Ethereum Foundationが主導し、トラストレスな原則に基づいた標準を提示したことは、バラバラになりつつあったEthereumエコシステムを再び「World Computer」として統合する強力な引力となるはずです。
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