2023年10月に施行されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、経理実務に大きなインパクトを与えました。
請求書の確認作業や仕訳ルールが一新され、「制度にどう対応すべきか」に頭を悩ませている経理担当者も少なくありません。

実際、2024年に日本商工会議所が実施した調査では、制度導入により約5割(48.8%)の事業者がコスト増を、約8割(82.2%)の事業者が事務負担の増を感じていると回答し、多くの企業の負担になっていることがわかります。それでも、制度のポイントとやるべき対応を正しく押さえれば、業務の混乱を抑え、スムーズな移行が可能です。
本記事では、インボイス制度によって経理業務がどのように変化するのか、今すぐ取り組むべき対応事項は何かを整理し、実務に役立つ知識としてわかりやすく解説します。「うちはまだ対応が不十分かも」と感じている方こそ、ぜひご一読ください。
目次
インボイス制度とは?経理業務への影響をわかりやすく解説
インボイス制度(正式名称:適格請求書等保存方式)とは、消費税の仕入税額控除を受けるために、「適格請求書(インボイス)」の保存が必要になる制度です。2023年10月1日に導入され、課税事業者を中心に実務上の対応が求められています。
これまでの「区分記載請求書」に代わって、税率別の金額や登録番号など、より詳細な情報の記載が求められる「適格請求書」の発行・受領・保存が必須になりました。とくに経理担当者にとっては、取引先の登録状況の管理や、仕訳処理の見直し、帳簿保存の厳格化など、日常業務への影響が非常に大きい制度です。
適格請求書とは?
適格請求書とは、インボイス制度で定められた一定の記載要件を満たす請求書のことです。仕入税額控除を受けるには、従来の請求書ではなく、この「適格請求書」を保存しておく必要があります。

具体的には、以下の項目を記載することが義務付けられています。
- インボイスの交付先である相手方の氏名または名称
- 売手(自社)の氏名又は名称及び登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 10%・8%それぞれの対象となる対価の総額及び適用税率
- 10%・8%それぞれの消費税額等
これらを満たしていない請求書は、たとえ従来の形式であっても、仕入税額控除の対象とはなりません。
なお、取引相手である買い手の「氏名または名称」の記載が不要な適格簡易請求書については『適格請求書と適格簡易請求書の違いとは? 請求書の受け手・発行者の対応策も解説』をご覧ください。
インボイス制度で経理担当者がやるべき対応
企業の経理担当者が対応すべき実務項目を網羅的に整理しました。インボイス対応で抜けやすいポイントや、実務でミスが起きやすい点も含めて解説します。チェックリストのように確認できる構成になっていますので、ぜひ貴社の対応状況を点検する手がかりにしてください。

1. 適格請求書発行事業者への登録申請
インボイスを交付するには事前登録が必要です。申請後、登録通知まで通常1~1.5ヶ月かかるため、できるだけ早めに手続きをしましょう(e-Taxなら約1ヶ月、書面なら約1.5ヶ月の処理期間)。
なお、免税事業者が登録申請する場合は課税事業者への切り替え手続きが別途必要になる点にも注意が必要です。
2. 取引先の区分管理・登録番号確認
取引先ごとに「適格請求書発行事業者か」を管理し、登録済みの場合はその登録番号を社内マスタに記録します。インボイス開始当初は取引先の登録状況が刻々と変化する可能性があるため、常に最新の登録情報を把握できる体制を作りましょう。
登録していない取引先との取引では原則仕入税額控除が受けられないため、その場合は経過措置を前提に仕訳する必要があります(後述)。
3. 請求書フォーマットと記載項目の見直し
従来型の請求書(区分記載請求書)から、適格請求書では記載すべき項目が増えます。たとえば、請求書には自社と取引先双方の氏名・登録番号、税率ごとの税込額・税額、軽減税率対象品目の明示などが必須です。
経理担当者は社内の請求書テンプレートを更新して要件を満たすよう修正し、また取引先にも請求書の改訂・再発行を依頼しましょう。請求書記載のチェックは重要で、金額や税率に不備があれば仕入税額控除の対象外になり得ますので、受領後は必ず確認作業を実施します。
4. 仕訳・仕入税額控除処理の変更
インボイス制度の導入により、仕訳処理の方法が変わります。適格請求書を受領した課税仕入れは「仕入税額控除対象」となりますが、インボイスがない仕入れ(免税事業者から等)は原則控除対象外です。
ただし2023年10月1日以降、段階的な経過措置が適用され、当初3年間(2023/10~2026/9)は80%控除、次の3年間(2026/10~2029/9)は50%控除が認められます。
経理担当者は経過措置対象となる取引である旨を仕訳・帳簿に明記し(例:「80%控除対象」などと注記)、計算根拠がわかるように管理しておきましょう。
5. 帳簿・証憑保存ルールの強化
仕入税額控除を受けるには、適格請求書と同等の帳簿保存が要件となります。従来より保存義務が厳格化するため、受け取った請求書や領収書は漏れなく保存し、帳簿記載に抜け漏れがないか点検することが重要です。
経過措置を適用する際は、帳簿に「経過措置適用対象の課税仕入れである旨」の記載が求められます。制度開始前に比べて保存チェックが増える分、経理部門内でダブルチェック体制を整えるなど、ミス予防の仕組み作りを行いましょう。
6. 会計システム・業務フローの整備
経理システムは適格請求書対応の設定やバージョンアップを必ず行いましょう。販売・購買管理システムがあれば、請求書フォーマットに新項目を含めるよう更新し、会計ソフトも税率や登録番号を登録できるように設定します。
また、経理の業務フロー自体も見直し、適格請求書のチェックポイントを明確にします。具体的には、「取引先が登録事業者か」「請求書に登録番号や適用税率が正しく記載されているか」をチェックリスト化し、業務手順に組み込みましょう。
制度への理解不足によるミスを防ぐため、制度説明会や社内共有会で情報を共有し、わからない点は早めに確認しておくことが大切です。
7. 従業員教育とマニュアル整備
初めての対応でミスを避けるには、経理担当者同士で知識共有する研修や勉強会が有効です。インボイス制度の背景や具体的な手順を学び合うことで、作業ミスの抑止につながります。
併せて、新しい仕訳例やチェック手順を盛り込んだマニュアルを作成し、社内に周知しておきましょう。万全の準備を整えておけば、制度スタート後も安心して業務を進められます。
インボイス制度による経理業務の変化と負担増
インボイス制度への対応により、経理部門は多岐にわたる業務変更を求められています。中でも最も大きな影響は、「仕訳フローと消費税計算」に関する実務です。
仕訳と消費税処理の複雑化
適格請求書が必須となり、経理処理の初期段階で新たな確認作業が発生します。たとえば、受領した請求書が適格請求書かどうかを確認し、適切に仕訳する必要があります。この確認が不十分だと、仕入税額控除の漏れにつながるリスクがあります。
税率ごとの入力とシステム活用
従来は一括で仕訳していた税額処理も、税率ごとに分けて入力する必要が出てきました。区分ミスを防ぐためには、クラウド会計ソフトの「税区分自動判定機能」や「チェック機能」の活用が有効です。
請求書の記載要件とチェック体制
インボイス制度により、請求書の記載要件が増加しています。特に「登録番号」や「税率ごとの消費税額」の記載がないと控除対象になりません。経理担当者は受領時にこれらの項目を必ずチェックし、不備があれば取引先へ修正依頼を行う運用が必要です。
取引先対応と業務負担の増加
請求書フォーマットの変更により、取引先との調整や問い合わせ対応も増加します。制度導入の過渡期には、経理負担の一時的な増加が避けられません。
取引先の登録状況の管理
新たな業務として、仕入先が適格請求書発行事業者かどうかの把握・管理が求められます。特に中小企業では免税事業者との取引も多く、登録の有無によって仕訳や連絡方法を切り替える手間が発生します。
ミス防止とIT活用が鍵
経理業務は制度対応により複雑化しましたが、対応は避けられません。経過措置やITツールを活用し、ケアレスミスを徹底的に防ぐ工夫が重要です。
インボイス制度の経理業務負担を軽減するためには?
インボイス制度に関する経理業務負担を軽減するには、デジタル化によって様々な入力・確認作業などを効率化することが重要です。
電子インボイス(EDI)の活用
政府が推奨するPeppolやJP PINTといった標準仕様に対応した電子インボイスシステムを導入することで、請求書の発行・受領から帳簿入力までを電子データで完結できます。これにより手作業が減り、ヒューマンエラーのリスクも低減されます。
クラウド会計ソフト・AI-OCRの活用
領収書や紙の請求書をスキャンし、AI-OCRで自動データ化する仕組みを活用すれば、経理担当者の入力負担を大きく減らせます。
例えば、あるクラウド会計ソフトでは、証憑を取り込むだけでAIが消費税区分や勘定科目を自動判定し、仕訳まで自動生成されます。証憑の枚数が多くてもミスなく処理でき、経過措置適用の切り替えにも自動で対応可能です。
請求代行サービスの活用
インボイス制度による経理業務の複雑化に伴い、請求書の発行や管理業務をアウトソースできる「請求代行サービス」も有効な選択肢です。業務効率化やヒューマンエラーの削減につながるだけでなく、制度対応の負担軽減にも寄与します。
導入を検討する際は、おすすめ請求代行サービスの比較|費用・導入メリット・業種別の選び方を紹介の記事もあわせてご覧ください。
承認ワークフローとの連携
社内の申請承認ワークフローを会計ソフトと連携させることで、経理担当者は申請内容とインボイス情報を同時に確認・保存でき、二重チェックによる正確性も高まります。
ペーパーレス化と電子帳簿保存
紙の請求書や領収書をクラウド上で一元管理すれば、紛失リスクを減らせます。電子帳簿保存法に則った保存体制を整えることも、インボイス制度への対応信頼性を高める重要なポイントです。
専門家への相談
自社だけでの対応に不安がある場合は、税理士やITベンダーに相談することも有効です。最新の法令Q&Aや解説資料を参考にしながら、ミスのない運用を心がけましょう。
早めの対応と体制整備がカギ
これらの対策を事前に講じることで、「インボイス制度だから大変」という不安を和らげられます。経理担当者の過度な負担を防ぐには、早めのシステム投資と業務フローの見直しが鍵です。効率化と教育を両立させ、安心して制度対応を進めましょう。
FAQ(よくある質問)
Q1.適格請求書発行事業者に登録しないとどうなる?
A.登録していない事業者は「適格請求書(インボイス)」を発行できません。
そのため、仕入先(買い手)が課税事業者の場合、仕入税額控除を受けるには適格請求書が必要となるため、登録していない事業者との取引においては原則として仕入税額控除ができなくなります。
ただし、2023年10月からの6年間は経過措置があり、免税事業者などインボイスを発行できない取引先との取引であっても、一定割合の仕入税額控除が認められます(2023年10月~2026年9月までは80%、2026年10月~2029年9月までは50%)。
自社が課税事業者で取引先から「インボイスを求められる」ケースがある場合は、適格請求書発行事業者への登録を検討する必要があります。
Q2.経過措置の要件はどう確認すればいい?
A.経過措置の適用を受けるには、以下の2点を満たすことが必要です。
- インボイスを発行できない事業者(未登録の課税事業者または免税事業者)との取引であること
- 帳簿に、経過措置の対象である旨を記載していること(適格請求書の保存は不要)
帳簿には、以下の内容を記載する必要があります(※仕入税額控除の要件として):
- 取引年月日
- 取引先の氏名または名称
- 取引の内容(品目・数量・役務の内容等)
- 対価の額(税込)
- 「経過措置対象」など、経過措置の適用を受ける旨の記載
たとえば、「免税事業者からの仕入れ(80%控除)」などと注記する形が推奨されます。
適用期間は以下のとおりです。
- 2023年10月1日~2026年9月30日:80%の控除
- 2026年10月1日~2029年9月30日:50%の控除
※2029年10月1日以降は、インボイスがない取引については一切仕入税額控除が認められなくなりますので、制度終了期限には十分注意が必要です。
Q3.電子インボイス(EDI)に切り替えるメリットは?
A.電子インボイスとは、請求書の内容を紙やPDFではなく、データ形式のままやり取りできる仕組みです。たとえば、政府が推奨する「Peppol(ペポル)」という国際標準に対応した請求書送受信サービスを使うと、取引先からの請求情報をそのまま会計システムに取り込めるようになります。
このような仕組みを使えば、次のようなメリットがあります。
- 請求書の手入力が不要になり、作業時間とミスが大幅に減る
- 計算や消費税の確認もシステムが自動で処理してくれる
- 承認・仕訳・保存までを一括で行えるサービスもある
また、相手がまだ紙やPDFで請求書を発行している場合でも、freeeやマネーフォワードなどの会計ソフトが提供する「AI-OCR機能」を使えば、スキャン画像やPDFから金額や日付を自動で読み取ってくれるため、入力作業の手間が大きく減ります。
将来的には、インボイス制度や電子帳簿保存法への対応を見据えて、こうした仕組みを整えておくことが、業務効率化の鍵となります。
Q4.取引先がインボイス未登録の場合、どう対応すればいい?
A.インボイス制度では、取引先が「適格請求書発行事業者」に登録していない場合、原則として仕入税額控除ができなくなります。そのため、取引先の登録状況を把握し、必要に応じて対応を依頼することが早急に求められます。
まずは自社の登録番号を取引先に共有し、請求書の記載内容やフォーマット変更が必要なことを伝えましょう。未登録の取引先には、制度の趣旨や登録要件(税務署での申請手続き)を丁寧に説明し、取引継続のために登録を検討してもらうよう働きかけることが重要です。
社内では、次のような対応がおすすめです。
- 取引先ごとに「登録済み・未登録」の一覧を管理(Excelや会計ソフトでも可)
- 未登録先との取引には、経過措置の対象である旨を仕訳で明示
- 経理部門内で「登録有無の確認フロー」を共有し、ミスを防止
取引先が中小・個人事業主の場合、制度への理解や準備が追いついていないケースも多いため、早めの声がけとフォロー体制の整備が、実務トラブルを防ぐカギになります。
Q5.インボイス制度に対応するために、会計ソフトの設定は何を確認すべき?
A.インボイス制度に対応するには、会計ソフト側の設定も見直す必要があります対応済みのソフトを導入していても、初期設定のままでは機能を十分に活用できないケースもあるため、以下の点をチェックしましょう。
- 適格請求書発行事業者の登録番号欄の有無:仕訳入力時や請求書発行時に登録番号を記録・表示できるか
- 消費税率ごとの明細区分:軽減税率・標準税率を税区分別に記録できるか
- 取引先ごとのインボイス登録状況の管理:マスタで「登録済/未登録」の区分を管理できるか
- 仕訳時の控除率の設定(経過措置対応):2023~2026年は80%、2026~2029年は50%控除を自動判定できるか
これらが正しく設定されていないと、請求書発行時の要件不足や、仕入税額控除の誤計算につながるリスクがあります。
導入済みのソフトがインボイス対応済かどうかを確認したうえで、必要に応じてベンダーのサポートやマニュアルを参照しながら、自社に合った運用設定を見直しておきましょう。
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松嶋真倫
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