「パスワードマネージャーって、本当に安全なの?」「パスワード管理アプリを使うのは、かえって危険じゃないか?」
そんな疑問をお持ちの方も多いと思いますが、パスワード管理アプリは、使い方次第で非常に安全かつ効果的なソリューションです。実際、多くのサイバーセキュリティ専門家や政府機関も、安全なパスワード管理の手段としてその利用を推奨しています。
たしかに、マスターパスワードの漏洩リスクやクラウドサービスの脆弱性など、注意すべき危険性は存在します。しかし、それらを理解した上で信頼性の高いパスワードマネージャーを選び、適切に運用すれば、企業のセキュリティ強化や業務効率化に大きく貢献できます。
本記事では、パスワード管理アプリが持つ「危険性」と、それを上回る「安全性」の両面を徹底的に掘り下げます。企業が直面するパスワード管理の具体的な課題を明確にし、法人向けパスワードマネージャーの導入が、いかにセキュリティ強化、業務効率化、コンプライアンス遵守に貢献するかを具体的に解説。貴社に最適なソリューションを見つけるための正しい選び方と実践的な情報を提供します。
目次
企業におけるパスワード管理に潜む危険性とは?
近年、働き方改革の推進や新型コロナウイルス感染症の影響によりテレワークが急速に普及し、これに伴い企業でのクラウドサービス(SaaS等)の利用が大幅に増加しています。
IIJが実施した調査では、過去数年間でクラウドサービス利用が「大幅に増加した」「少し増加した」と回答した企業は80%以上に達していると報告されています。
この変化は、従業員一人ひとりが管理すべきIDとパスワードの数を飛躍的に増加させ、平均して「5~6個」または「7~10個」のシステムでID/パスワードが求められる状況を生み出しています。
このような業務環境の変化は、企業が直面するセキュリティリスクを根本的に高めています。多くのパスワードを記憶し、それぞれを適切に管理することの困難さは、結果的に情報セキュリティの脆弱性へと直結します。
利便性を追求したデジタルトランスフォーメーション(DX)が、適切な管理体制なしでは新たな脆弱性を生み出すという因果関係が明確に現れているでしょう。
企業が直面するパスワード管理の危険性
増え続けるID・パスワードと管理負担の増大
クラウドサービスの普及により、業務で使用するID・パスワードの数は年々増加しています。多くの企業では、従業員が個人でID・パスワードを管理しており、その管理方法もメモ帳やノート、Excelなど多岐にわたります。
この個人任せの管理は、社員の手間や負担を増やし、結果としてパスワードの使い回しや簡素化が横行する原因となります。
リモートワークに伴うセキュリティ不安
リモートワークの普及は、PCやスマートフォン、タブレットなど多様な端末からのシステムアクセスを増加させ、セキュリティリスクを高めています。自宅で使用している端末にパスワードが記録され、家族や友人によるアクセスリスク、カフェなど公共の場所での覗き見リスクも懸念されます。
また、監視の目が届かない環境では、パスワード管理がおざなりになる可能性も指摘されています。
退職・異動時のアカウント管理の煩雑さ
企業が特に頭を悩ませているのが、退職者や異動者が出た際のアカウント管理です。退職者のアカウント削除や権限変更がタイムリーに徹底されず、不正アクセスの温床となるケースや、共有アカウントのパスワード変更が曖昧になる問題が報告されています。
先述したIIJの調査でも、人事部との情報連携の遅れが、退職者のID削除遅延や異動後の誤った権限付与に繋がっているという実態が明らかになっています。
これらの手作業による管理は、設定ミスや管理漏れによるセキュリティ事故のリスクを増加させ、業務の属人化も引き起こします。
情報漏洩・不正アクセスがもたらす甚大な被害
パスワード管理の甘さが原因で、不正アクセスやアカウントの乗っ取りなどによる情報漏洩や金銭被害が数多く発生しています。情報漏洩は、企業に甚大な損害をもたらします。例えば、以下のような被害が挙げられます。
- 不正ログインによるデータ改ざん・消去
- 顧客データや機密情報が不正に操作され、業務に支障をきたすだけでなく、復旧に多大なコストと時間を要します。
- 第三者への個人情報流出
- 顧客や従業員の個人情報が流出すれば、個人情報保護法に基づく報告義務や被害者通知に加え、取引先との契約違反(NDA違反)に発展する可能性があります。
- 多額の賠償金請求
- 企業の場合、顧客の個人情報が漏洩した際には、多額の賠償金を請求される可能性があります。
- 企業としての信用やブランドイメージの失墜
- 一度失った信用を取り戻すのは容易ではありません。情報漏洩は企業のブランドイメージを著しく損ない、顧客離れや株価下落に繋がる可能性があります。
会社の具体的なID・パスワード管理方法については『ID・パスワード管理はどうしてる?管理方法とセキュリティ強化の必要性』でも詳しく解説しています。
パスワードマネージャー(管理アプリ)の「危険性」を徹底解剖
パスワードマネージャーは、安全で便利なパスワード管理アプリとして企業が抱えるセキュリティの課題を解決する一方で、利用方法やサービス選定を誤ると、新たなリスクを生む可能性もはらんでいます。ここでは、パスワードマネージャーおよび一般的なパスワード管理方法に潜む危険性を詳細に解説します。
パスワードマネージャー(管理アプリ)自体の危険性
マスターパスワードの漏洩・紛失リスク
パスワードマネージャーは、すべてのパスワードを「マスターパスワード」一つで管理するという特性を持っています。この特性は利便性を大幅に向上させるものの、マスターパスワードが漏洩したり、忘れてしまったりした場合、保存されているすべてのパスワードが危険にさらされるという「シングルポイントのリスク」を抱えています。
したがって、マスターパスワードは「忘れずに保管し」、かつ「誰も入力できないような難しくて、長いパスワード」を設定し、過去に流出歴のないものを使用することが極めて重要です。
サービス終了・データ損失のリスク
パスワードマネージャーサービスが突然終了したり、提供元の企業が倒産したりする可能性はゼロではありません。その場合、保存していたパスワードにアクセスできなくなるリスクが存在します。
また、使用している端末の故障やクラウド上のデータ破損により、予期せぬデータ損失が発生し、パスワードの回復が困難になる可能性もあります。
これらのリスクを軽減するためには、定期的なバックアップ(バックアップファイルにもパスワードを設定)や、信頼性の高いベンダーの選定が不可欠です。
ベンダー側のセキュリティ脆弱性
クラウドベースのパスワードマネージャーを利用する場合、データはサービスプロバイダーのサーバーに保存されるため、そのサービスの信頼性やセキュリティレベルに依存することになります。
LastPassのデータ漏洩事件のように、パスワードマネージャー自体がサイバー攻撃の標的となり、情報漏洩を引き起こす可能性も指摘されており 、ベンダー側のセキュリティ脆弱性やインシデントが、自社の情報漏洩リスクに直結する状況が生じます。
したがって、サービス導入の際には、単に機能や価格だけでなく、ベンダーのセキュリティ体制(ゼロ知識暗号化、ゼロトラストモデル、セキュリティ監査実績など)や信頼性、過去のインシデント対応について徹底的なデューデリジェンスを行うことが、企業にとって不可欠なリスクマネジメントとなります。
一般的なパスワード管理方法に潜む危険性
推測されやすいパスワードの使用
「password」「123456」のようなシンプルなパスワードや、誕生日、名前、社員コードなど個人情報から推測されやすいパスワードは、ブルートフォース攻撃(総当たり攻撃)や辞書攻撃によって容易に解読される危険性があります。
パスワードの使い回し
複数のアカウントで同じパスワードを使い回す「パスワードの使い回し」は、最も危険な行為の一つです。トレンドマイクロの調査では、Webサービス利用者の8割以上が使い回しをしており、約2割が不正アクセスや情報流出の被害に遭っていると報告されています。
一つのサービスでパスワードが漏洩すると、パスワードリスト攻撃によって他の全てのサービスにも不正ログインされるリスクが飛躍的に高まります。
不適切なパスワードの保管方法
紙や手書きメモをデスクに貼り付けたり、鍵のかからない引き出しに保管したりすると、物理的な盗難や覗き見のリスクが高まります。また、火災や水濡れ、劣化による読み取り不能、紛失のリスクも伴います。
Excelやスマホメモに保存する場合、ファイル名を「パスワード一覧」にするなど分かりやすい場所に保存したり、暗号化せずに保存したり、スマホにロックをかけずにメモアプリに保存したりすると、端末の盗難・紛失時やマルウェア感染時に情報が流出する危険性があります。
Webブラウザへの保存
Webブラウザにパスワードを保存することは、NISC(内閣サイバーセキュリティセンター)も推奨しない行為です。これは、席を離れた際に他人に勝手に利用されたり、パソコンがクラッキングされた際にパスワードが盗まれたりする可能性があるためです。
ブラウザの暗号化レベルが不十分であったり、アクセス制御が細かく設定できない点も問題として指摘されています。
一般的なパスワード管理方法のリスク比較表
| 管理方法 | 利便性 | 情報漏洩リスク | 不正アクセスリスク | 紛失/データ損失リスク | 管理負担(従業員) | 管理負担(管理者) | 企業向け推奨度 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 自己記憶 | 中 | 低(記憶力依存) | 低(記憶力依存) | 低 | 高 | 低 | 低 |
| 紙メモ | 高 | 高 | 高 | 中(物理リスク) | 低 | 低 | 低 |
| Excel/メモアプリ | 中 | 中 | 中 | 中(端末依存) | 中 | 中 | 低 |
| Webブラウザ保存 | 高 | 中 | 中 | 低 | 低 | 低 | 低 |
| パスワードマネージャー | 高 | 低 | 低 | 低 | 低 | 低 | 高 |
モバイルデバイス(特にiPhone)におけるパスワード管理の危険性
スマートフォンは個人情報や業務データが集中するデバイスであり、そのパスワード管理には特有のリスクが伴います。
OS標準パスワードアプリの脆弱性
iOS 18で導入されたAppleの「パスワード」アプリに、暗号化されていないHTTP経由で通信を行う脆弱性が存在し、ユーザーが知らぬ間にフィッシングサイトへ誘導される危険性があったことが明らかになりました。
この脆弱性はMyskによって2024年9月に報告されましたが、AppleがiOS 18.2で修正するまで約3カ月を要し、セキュリティアップデートの詳細報告はさらに遅れました。
端末共有・盗難・マルウェア感染
家族などで端末を共有している場合、権限設定によってはパスワードが共同使用者に閲覧されてしまう可能性があります。端末が盗難された際、メモアプリにロックがかかっていなければパスワードが流出する危険性があります。
さらに、マルウェアに感染した場合、パスワードを保存しているメモやアプリからデータが流出する可能性も否定できません。
パスコードの脆弱性
Appleのパスワードアプリに保存されたパスワードの安全性は、デバイスのパスコードの安全性と同程度です。推測しやすいパスコードを設定している場合や、悪意のある人物にパスコードが知られている場合、パスワードが漏洩するリスクが高まります。
パスワードマネージャー(管理アプリ)がもたらす「安全性」とビジネスメリット
パスワードマネージャーは、前述のリスクを理解し適切に運用することで、企業の情報セキュリティを劇的に向上させ、同時に業務効率化とコスト削減に大きく貢献するツールです。
セキュリティ強化のメカニズム
強力なパスワードの自動生成と保管
パスワードマネージャーの最大の利点の一つは、サービスごとに異なる、長く複雑で推測困難なパスワードを自動生成し、安全に保管できる点です。これにより、従業員が覚えやすい単純なパスワードを設定したり、使い回したりするヒューマンエラーを防ぎます。
自動生成されるパスワードは、英大文字/小文字、数字、記号を組み合わせた10桁以上(推奨は16文字以上、または60~80文字)の文字列であり、解読が極めて困難です。
高度な暗号化とゼロ知識設計
信頼性の高いパスワードマネージャーは、保存されたパスワードをAES-256(Advanced Encryption Standard 256ビット)のような強力な暗号化技術で保護します 。
さらに、「ゼロ知識暗号化」を採用しているサービスでは、ユーザー自身以外(ベンダーを含む)が保存されたデータにアクセスできない仕組みとなっており、最高レベルのプライバシーとセキュリティを保証します。
多要素認証(MFA)とシングルサインオン(SSO)
多くのパスワードマネージャーは、マスターパスワードに加えて指紋認証、顔認証、PINコード、ワンタイムパスワードなどの多要素認証(MFA/2FA)をサポートしており、これによりセキュリティ層を強化します。
シングルサインオン(SSO)機能を持つパスワードマネージャーは、一度の認証で複数のシステムやサービスにアクセスできるようにすることで、従業員の負担を軽減しつつ、システムへの入り口を一本化してセキュリティを強化します。
フィッシング対策
パスワードマネージャーの自動入力機能は、URLや信用情報が一致するかを判別し、正規のサイトにのみ自動入力を行います。これにより、フィッシングサイトなど悪意のあるウェブサイトに誤ってパスワードを入力してしまうリスクを大幅に低減できます。
業務効率化とコスト削減
従業員の負担軽減と生産性向上
従業員は複雑なパスワードを覚える必要がなくなり、ログイン時の手入力の手間も省けるため、パスワード忘れによるリセット作業や新しいツール利用時のパスワード作成といったタスクが大幅に削減されます。これにより、従業員は本来のコア業務に集中できるようになり、企業全体の生産性向上が期待できます。
ITサポート部門の負担軽減
パスワードマネージャー導入により、従業員からのパスワードリセットや問い合わせが大幅に減少し、ITサポート部門や管理部門の負担が軽減されます。ID管理の自動化が進むことで、手作業による管理や棚卸しの手間が削減され、設定ミスや管理漏れによるセキュリティ事故のリスクも減少します。
入退社時のアカウント管理の効率化
従業員の入社時には、必要なアカウントやシステムの認証情報を即座に安全に共有でき、権限管理機能により必要なアクセス権をロール単位で設定できます。退社時には、退職した従業員のアクセス権を簡単かつすぐに無効化できるため、内部脅威による情報漏洩のリスクを大幅に軽減できます。
間接コストの削減とROI向上
パスワード管理や復旧にかかる間接コスト(人件費、時間)を効果的に削減できます。IBMの調査によると、情報漏洩の平均コストは世界的に488万ドル(約7億円以上)と報告されており、情報漏洩を未然に防ぐことは、潜在的な巨額の損失を回避することに繋がります。
パスワードマネージャーへの投資は、単なるコストではなく、セキュリティリスクを低減し、業務効率を向上させることで、長期的に見て企業の財務的な健全性と競争力を高める戦略的な投資であると言えます。
コンプライアンス強化と内部統制
社内規定の遵守と不正防止
パスワードマネージャーに自社のセキュリティポリシーを設定することで、規程外のパスワード設定や共有があった場合に自動でアラートを出すなど、社内規定の遵守を自動化できます。アクセス状況やパスワード変更履歴を一元管理・可視化できるため、不正行為を防止し、コーポレートガバナンスを強化できます。
監査対応の効率化
多くの法人向けパスワードマネージャーは、各アカウントへのアクセス状況やパスワードの変更履歴を自動的に記録する監査ログ機能やレポート作成機能を備えています。これにより、必要に応じてすぐに確認や出力が可能となり、法令遵守(個人情報保護法、サイバーセキュリティ基本法など)や内部監査の作業負担を大幅に軽減します。
ISMS認証の取得・維持への貢献
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証の取得・維持には、情報資産の「機密性」「完全性」「可用性」を維持するための厳格なセキュリティ対策が求められます 。パスワードマネージャーは、信頼性の高いセキュリティ対策ツールとして、このISMS認証の取得・維持に大きく貢献します。
パスワードマネージャー(管理アプリ)の選び方
自社に最適なパスワードマネージャーを選定し、効果的に導入するためには、慎重な検討と計画的なステップが必要です。
選定基準:自社に最適な管理アプリを見極める
法人向けパスワードマネージャーを選定する際は、個人利用の延長線上ではなく、企業特有のセキュリティ要件(コンプライアンス、内部統制、チームでの安全な共有)を満たせるかどうかが最も重要な判断基準となります。
セキュリティレベルと機能
- 強力な暗号化とゼロ知識設計
- AES-256などの強固な暗号化方式を採用し、ベンダーでさえデータにアクセスできないゼロ知識アーキテクチャを持つ製品を選定することが推奨されます 。
- 多要素認証(MFA)対応
- マスターパスワードだけでなく、生体認証やワンタイムパスワードなど複数の認証要素を組み合わせられるMFA機能が必須です 。
- 監査ログ・レポート機能
- 誰がいつ、どのアカウントにアクセスしたか、パスワードが変更されたかなどの履歴を記録し、レポートとして出力できる機能は、内部統制とコンプライアンス遵守に不可欠です 。
- 共有機能とアクセス権限設定
- チームや部署内で安全にパスワードを共有できる機能や、ロールベースでアクセス権限を細かく設定できる機能は、企業での利用において重要です。
対応OS・デバイスと既存システムとの連携
従業員が使用するPC(Windows/Mac)、スマートフォン(iOS/Android)、タブレットなど、多様なOSやデバイスに対応しているかを確認する必要があります。
企業は複数のシステムを運用しており、ID管理はそれらと密接に関わるため、既存のActive Directory (AD) やLDAP、人事システム、経費精算システム、会計システム(例: 楽楽精算、マネーフォワード クラウド、freee)など、社内システムと連携できるかどうかも重要なポイントです。
費用対効果とサポート体制
初期費用、月額利用料、ユーザー数に応じた課金体系など、費用体系を明確に把握し、自社の予算と照らし合わせて費用対効果を検討しましょう。無料トライアルやデモを活用し、実際の使い勝手を確認することも推奨されます。
導入後も持続可能な運用を見据え、費用だけでなく、ベンダーの信頼性、サポート体制、将来的な拡張性なども総合的に評価することが、企業の成長を支えるIT戦略となります。
パスワードマネージャー(管理アプリ)の導入プロセス
パスワードマネージャーの導入は、単発のプロジェクトではなく、企業のセキュリティ文化と運用体制を継続的に改善していくための「プロセス」です。
1.社内パスワード管理の実態調査と課題整理
ツール選定の前に、まず社内のパスワード管理の現状(パスワードの使い回し状況、保管方法、従業員の負担など)を詳細に調査し、潜在的なリスクや具体的な課題を明確にします。簡単なアンケートやヒアリングが有効です。
2.必要な機能の明確化とツール選定
調査結果に基づき、自社がパスワードマネージャーに求める機能(クラウド対応、多要素認証、監査ログ取得、共有機能、既存システム連携など)を整理し、優先順位をつけます。整理した要件に基づき、複数の候補ツールを比較検討し、選定します。
3.トライアル運用と従業員への教育・ルール策定
可能であれば、選定したツールを一部の部門で試験的に導入し、使い勝手や既存業務フローとの適合性を確認します。ツールを導入するだけでなく、従業員がそのツールを使いこなせるよう、適切なセキュリティ教育と、新しいパスワード管理ルール(マスターパスワードの管理方法、共有ルールなど)の策定・周知を並行して進めることが重要です。
4.段階的な展開と継続的な見直し
まずは小規模な部門やチームから導入を開始し、その結果を踏まえて徐々に全社展開していくのが現実的なアプローチです。導入後も、定期的にパスワード管理状況を評価し、必要に応じてルールやツールの見直しを行うことで、常に最適なセキュリティ体制を維持します。
法人向けパスワードマネージャー選定チェックリスト
| 選定チェック項目 | 詳細 | 考慮点 |
|---|---|---|
| 強力な暗号化方式(AES-256など) | 保存データの暗号化レベル。 | 業界標準以上の暗号化技術を採用しているか。 |
| ゼロ知識アーキテクチャ | ベンダーでさえデータにアクセスできない設計。 | プライバシーとセキュリティの最高レベルを保証するか。 |
| 多要素認証(MFA/2FA)対応 | マスターパスワード以外の認証要素(生体認証、TOTPなど)の有無。 | 従業員の利便性とセキュリティ強化を両立できるか。 |
| パスワード自動生成機能 | 複雑で推測困難なパスワードの自動生成。 | 文字数、文字種(英大小文字、数字、記号)のカスタマイズ性。 |
| フィッシングサイト判別・自動入力制御 | 不正サイトでの自動入力を防止する機能。 | 従業員のヒューマンエラーによる被害を軽減できるか。 |
| パスワード強度チェック・漏洩監視機能 | 既存パスワードの脆弱性や漏洩状況を検知・通知する機能。 | 従業員のセキュリティ意識向上とリスク早期発見に役立つか。 |
| 監査ログ・レポート機能 | 誰がいつ、どのアカウントにアクセスしたかなどの履歴記録。 | 内部統制、コンプライアンス遵守、不正検知に活用できるか。 |
| チーム/部署での安全な共有機能 | 組織内でのパスワードの安全な共有方法。 | 共有アカウントの管理や引き継ぎを効率化できるか。 |
| ロールベースのアクセス権限設定 | 役職や部署に応じたアクセス権限の細かな設定。 | 最小権限の原則を適用し、情報漏洩リスクを低減できるか。 |
| アカウントのライフサイクル管理(入退社時の自動化) | 従業員の入退社に伴うアカウントの自動プロビジョニング/デプロビジョニング。 | 管理者の負担軽減と退職者による不正アクセス防止に貢献するか。 |
| モバイルデバイス対応(iOS/Androidアプリ) | スマートフォンやタブレットからの利用可否。 | テレワークや外出先での業務効率を維持できるか。 |
| ブラウザ拡張機能の有無 | 主要ブラウザ(Chrome, Edge, Firefoxなど)での連携。 | 自動入力の利便性を高め、従業員の利用を促進できるか。 |
| Active Directory (AD) / LDAP連携 | 既存のID管理基盤との連携。 | 既存のITインフラとのシームレスな統合が可能か。 |
| シングルサインオン(SSO)対応サービス数 | 一度の認証でアクセスできるクラウドサービスや社内システムの数。 | 従業員のログイン負担を大幅に軽減できるか。 |
| 既存の経費精算/会計システム連携 | 経費精算や会計業務とのデータ連携。 | バックオフィス業務全体の効率化に貢献できるか。 |
| 人事システム連携 | 人事情報(入退社、異動など)との自動連携。 | アカウントのライフサイクル管理の精度と効率を高められるか。 |
| ベンダーの信頼性・実績 | サービス提供企業の事業継続性、セキュリティ実績、評判。 | 長期的なパートナーシップを築ける信頼性があるか。 |
| サポート体制(日本語対応、対応時間) | 導入後やトラブル発生時のサポートの質と迅速性。 | 日本語でのサポートが充実しているか、24時間365日対応か。 |
| 導入支援・コンサルティングの有無 | システム導入時のサポートやコンサルティングサービス。 | 自社に合わせた最適な導入計画を策定できるか。 |
| 初期費用 | 導入時に発生する費用。 | 予算内で導入可能か、隠れたコストはないか。 |
| 月額利用料/ユーザー課金体系 | 継続的に発生する費用と課金モデル。 | ユーザー数や利用状況に応じた費用対効果は適切か。 |
| 無料トライアル/デモの有無 | 導入前の試用期間。 | 実際の使い勝手や機能を事前に確認できるか。 |
| 費用対効果の明確さ | 導入によるコスト削減や業務効率化の具体的な数値。 | 経営層への説得材料となるか。 |
パスワードレス認証の未来とパスワードマネージャー(管理アプリ)の役割
パスワード管理の課題が顕在化する中で、次世代の認証技術として「パスワードレス認証」が注目されています。
パスキー、DID、行動認証など最新トレンドの概要
パスワードレス認証は、従来のパスワードに依存しない新しい認証方式を指します。その主なメリットは、パスワードの脆弱性や管理の煩雑さから解放されることです。
- パスキー (Passkeys)
- FIDO Allianceが定めたパスワードレス認証の規格であり、公開鍵暗号方式を利用します。フィッシング攻撃に強く、パスワードを覚える必要がない利便性から、Google、Apple、Microsoftなどの大手企業が積極的に採用を進めています。
- 分散型認証(DID – Decentralized Identity)
- 中央集権的な認証機関に依存せず、ブロックチェーンなどの分散型台帳技術を用いて、個人が自身のID情報を管理・制御する仕組みです。プライバシー保護と自己主権型アイデンティティの実現を目指します。
- 行動認証(Behavioral Biometrics)
- ユーザーのキーボード入力パターン、マウスの動き、スマートフォンの持ち方、歩き方など、行動パターンに基づいて個人を識別する技術です。特別なデバイスを必要とせず、シームレスな認証体験を提供し、不正アクセス検知に有効です。
その他、脳波認証、心拍認証、量子認証、DNA認証、静脈認証、顔認証、虹彩認証、声紋認証といった多様な個人認証技術が研究・開発されています。
これらの認証技術の進化は、パスワード中心の時代から、生体情報や行動パターン、分散型台帳技術を活用する「パスワードレス社会」へとパラダイムシフトしていることを示しています。
パスワードレス社会への移行におけるパスワードマネージャーの継続的価値
パスワードレス認証が普及しても、既存の多くのWebサービスやシステムがすぐにパスワード認証を廃止するわけではありません。そのため、パスワードレス認証への移行期間中、パスワードマネージャーは引き続き重要な役割を担います。
パスワードマネージャーは、パスワードレス認証に対応していないレガシーシステムや、MFA未対応のサービスに対するセキュリティ層として機能します。また、パスキーなどの新しい認証情報を安全に保管・管理する「ボルト」としての役割も果たします。パスワードレス社会は理想ですが、現実的には長期的な移行期間を要します。
企業は、パスワードマネージャーを「未来の認証戦略の一部」として位置づけ、既存のパスワード資産を安全に管理しつつ、段階的にパスワードレス認証への移行を進める「共存戦略」を採ることが賢明であると考えられます。
まとめ:企業セキュリティ強化のためのパスワード管理戦略
クラウド利用やテレワークの普及により、企業のパスワード管理はますます複雑化し、情報漏洩リスクも高まっています。個人任せの運用では、ヒューマンエラーや不適切な管理によるトラブルが避けられません。
法人向けパスワードマネージャーは、強力なパスワード生成、高度な暗号化、多要素認証、SSO連携などにより、セキュリティ強化と業務効率化を両立させる有効な手段です。従業員の使い回しや管理ミスを自動的にカバーし、IT部門の負担も軽減します。
導入時は、セキュリティ機能、既存システムとの連携、費用対効果、サポート体制を総合的に比較検討することが重要です。単なるインストールではなく、社内調査から教育、段階的な運用、見直しまで一連の取り組みとして導入を進めましょう。
パスワードレス時代に向けても、パスワードマネージャーはその橋渡しとして重要な役割を果たします。
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よくある質問(FAQ)
Q1.パスワードマネージャーとID管理システム(IDM/IDaaS)の違いは何ですか?
A1.パスワードマネージャーは、主に個々のユーザーが利用する多数のパスワードを安全に生成・保存・自動入力するためのツールです。一方、ID管理システム(IDM/IDaaS)は、企業全体のアカウント(ID)のライフサイクル管理(登録、変更、削除)や、アクセス権限の統制、シングルサインオン(SSO)や多要素認証(MFA)の適用など、より広範なID管理を目的としたシステムです。
パスワード管理ツールが「パスワード」に焦点を当てるのに対し、ID管理システムは「ID」とそれに紐づく「アクセス権限」の全体的な管理と統制に焦点を当てています。
Q2.パスワードマネージャーのマスターパスワードが漏洩したらどうなりますか?
A2.パスワードマネージャーのマスターパスワードが漏洩した場合、保存されているすべてのパスワードが危険にさらされるという「シングルポイントのリスク」があります。
そのため、マスターパスワードは「死ぬ気で覚え」、かつ「誰も入力できないような難しくて、長いパスワード」(目安として60~80文字程度)を設定し、過去に流出歴のないものを使用することが極めて重要です。また、マスターパスワードには多要素認証(MFA)を設定し、セキュリティを強化することも推奨されます。
Q3.パスワードを定期的に変更する必要はありますか?
A3.以前はパスワードの定期的な変更が推奨されていましたが、最近のセキュリティのベストプラクティスでは、強制的な頻繁なパスワード変更は推奨されていません。これは、頻繁な変更がユーザーの利便性を損ない、結果として推測されやすい弱いパスワードの使い回しに繋がりやすいリスクがあるためです。その代わりに、以下の状況でパスワードを変更することが重要とされています。
- 情報漏洩や不正アクセスが確認された場合
- パスワードが第三者に知られた可能性がある場合
- 多要素認証(MFA)を導入し、パスワード以外の認証要素でセキュリティを強化している場合
Q4.iPhoneのパスワード管理機能は安全ですか?
A4.iPhoneのパスワード管理機能(iCloudキーチェーンやパスワードアプリ)は、基本的なセキュリティ対策が施されており、強力なパスワードの自動生成やデータ漏洩の通知機能など、利便性と安全性を兼ね備えています。
しかし、iOS 18で導入されたパスワードアプリには、HTTP経由の通信によるフィッシングサイトへの誘導リスクといった脆弱性が過去に報告されており、Appleが修正するまで時間を要した事例もあります。
また、パスワードアプリに保存されたパスワードの安全性は、デバイスのパスコードの安全性と同程度であり、推測しやすいパスコードを設定している場合や、端末が共有されている場合は、パスワードが漏洩するリスクが高まります。
企業でiPhoneを利用する場合は、MDM(モバイルデバイス管理)の導入や、より高度なセキュリティ機能を持つ法人向けパスワードマネージャーの利用を検討し、総合的なセキュリティ対策を講じることが重要です。
Q5.中小企業でもパスワードマネージャーは必要ですか?
A5.はい、中小企業でもパスワードマネージャーは必要です。中小企業では、専任のIT担当者を配置できないケースが多く、管理者が手探りで対処し、「どのアカウントが誰の手元にあるのか分からない」という危険な状況になりやすい傾向があります。
また、情報漏洩は企業の規模に関わらず甚大な損害をもたらす可能性があり、一度の漏洩事故で事業継続が困難になるリスクも報告されています。
パスワードマネージャーは、限られたリソースの中でも効率的かつ安全なパスワード管理体制を構築し、セキュリティリスクを低減し、コンプライアンスを遵守するために有効な投資と言えます。クラウド型のパスワードマネージャーは、導入が容易で運用負荷が低いというメリットもあります。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修者は記事の内容について監修しています。






