「取引先が支払いを滞納したら…」そんな不安を感じていませんか? 与信管理は重要と分かっていても、何から始めればよいか悩む方も多いでしょう。
実は、社内に明確な与信管理ルールを整えることで、売掛金の未回収リスクを大きく減らせます。
本記事では、与信管理の基本から実践手順、社内ルールづくりのポイントまでを分かりやすく解説。後半では、ITツールや外部サービスの活用法にも触れ、効率的に管理を行う方法をご紹介します。自社の資金を守る第一歩として、ぜひ参考にしてください。
目次
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サービス掲載を相談する与信(信用取引)とは何か?基礎知識をおさらい
「与信(よしん)」とは、企業間取引において商品やサービスを先に提供し、代金の支払いを後日に受ける信用取引のことです。
たとえば製造業なら、製品を納品してから数ヶ月後に代金を回収するといった取引形態が一般的です。このように取引先を信用して支払いを猶予する行為そのものが「与信」です。もちろん、代金回収まで時間差がある以上、取引先が途中で倒産したり支払い遅延すれば売掛金が回収できなくなるリスクが常に存在します。
つまり企業間取引では、お互いの信用力を前提に「この相手はきちんと支払えるはずだ」と信じて取引を行っているのです。

企業間取引における与信のイメージ。A社(販売側)は商品・サービスを提供し、B社(購入側)は後日支払いを行う。提供から支払いまでタイムラグがある間、A社はB社の信用力を信頼して取引を進める(信用取引)。この信用こそが「与信」である。
与信管理とは?目的と必要性
「与信管理」とは、先述した与信取引に伴う「売掛金が回収不能となるリスク」を管理することを指します。
具体的には、取引開始前に取引先の信用力(財務状況や支払い能力)を調査・評価し、取引可否や与信限度額(取引上限額)を決定すること、さらに取引開始後も定期的に取引先の状況を監視し必要なら取引条件を見直すことを含みます。
与信管理は取引前の審査から取引後のフォローまで一連のプロセスを指し、要するに「取引先に安心して掛取引をして大丈夫かを見極め、万一の損失を防ぐための事前管理」と言えます。
では、なぜこれほど与信管理が重要なのでしょうか?主な理由は以下の通りです。
▼貸倒れ(未回収)リスクの回避
売上自体は計上していても、代金が回収できなければ利益にはなりません。最悪の場合、黒字経営であっても資金繰りが回らず倒産してしまう「黒字倒産」のリスクすらあります。
実際に取引先の倒産が連鎖して自社も倒産に追い込まれる「連鎖倒産」の事例もあるため、与信管理で取引先の信用状況をチェックし危険な取引を避けることは企業存続に直結します。
▼安定したキャッシュフローの確保
与信管理を徹底することで、売掛金の未回収を未然に防ぎ資金繰りの安定化を図れます。資金繰りが安定すれば、仕入先への支払いも滞りなく行え、自社の信用も守られます。
逆に回収トラブルが起これば、連鎖的に支払い遅延が広がり取引先にも迷惑をかけてしまい、自社の対外信用が失墜する恐れがあります。そうした信用低下も防ぐ意味で重要です。
▼営業戦略・与信のバランス
利益拡大のためには売上を伸ばしたい一方で、与信を拡大すると不良債権発生のリスクも増大します。このトレードオフをうまく管理し、「攻めすぎず、守りすぎず」の健全な取引拡大を支えるのが与信管理です。
適切な審査基準を設ければ、リスクに見合った範囲で大胆な取引も可能になり、結果的に事業成長を後押しします。
以上の理由から、与信管理は企業経営において欠かせないリスクマネジメント活動です。
与信管理を怠った場合に起こりうるリスク
与信管理をしないまま信用取引を行うと、現実にどんなリスクがあるのか具体例を挙げます。
黒字倒産
「売上は順調なのに資金繰りがつかず倒産」という事態です。例えば利益率10%の企業で100万円の貸倒れ(未回収)が発生した場合、その穴埋めには100万円÷ 10%=1,000万円の新規売上が必要になる計算です。
本来得られるはずだった利益が吹き飛ぶばかりか、大きな売上追加が求められるため、非常に大きな負担となります。下手をすると利益は出ていても資金が尽きて倒産、ということにもなりかねません。
連鎖倒産
取引先が倒産したことで、自社も回収不能額が大きく経営危機に陥り倒産するケースです。
他社の倒産件数が増える不況時には特に注意が必要です。例えば、日本における法的倒産(会社更生・破産等)の割合は1990年代後半から2010年代前半にかけて急増し、取引先の倒産形態が大きく変化しています。
法的倒産では売掛金回収が困難なため、こうした環境変化も踏まえ事前に信用調査を徹底する重要性が増しています。
信用低下と取引縮小
与信管理が甘い会社だと市場に知れ渡れば、「あの会社と取引するとウチまで連鎖倒産の危険がある」と敬遠され、新規取引に消極的にされる可能性もあります。
また、実際に未回収事故を起こせば金融機関からの信用も下がり、融資条件が悪化するなど間接的な悪影響も招きます。
以上のような深刻なリスクを避けるためにも、与信管理の仕組みをきちんと整えることが企業を守る防波堤になるのです。
与信管理と債権管理の違い
「与信管理」とよく比較される言葉に「債権管理」があります。
- 与信管理
- 取引を開始する前に行う管理。取引相手の信用度を調査・審査し、取引条件(与信限度額や決済条件)を設定して貸倒れリスクを事前に抑える活動を指します。言わば予防線としての管理です。
- 債権管理
- 取引によって発生した売掛金などの債権を回収するための管理。取引開始後に行う活動で、請求書発行から入金確認、入金がなければ督促や回収交渉、法的手段の検討までを含みます。与信管理に比べると、既に債権が発生した後の事後対応という位置づけです。
まとめると、与信管理は取引前の信用チェックと取引条件設定、債権管理は取引後の回収管理という違いがあります。両者は連続したプロセスであり、どちらか一方だけで完結するものではありません。
例えば、取引前の与信管理で信用力が高いと判断した取引先でも、取引後に予期せぬ事情で支払い遅延が起こるかもしれません。そうした場合は債権管理の出番ですし、逆に債権管理の経験(回収遅延の発生など)を踏まえて「次回から与信限度額を引き下げよう」と与信管理の基準を見直すこともあります。
このように、与信管理と債権管理は車の両輪です。特に中小企業では人手の関係で兼任の場合も多いでしょうが、本記事では主に取引開始前の「与信管理」に焦点を当てて解説を進めます(必要に応じて債権管理にも触れます)。
債権管理の詳細は『債権管理とは?「きつい」と言われる理由とメリット・デメリット、業務フローをわかりやすく解説』をご覧ください。
与信管理の基準と社内規程の策定
次に、与信管理を社内ルールとして定める「基準」や「規程」について説明します。明確な基準を設け順守することで、属人的ではない一貫した与信判断が可能になります。ここでは、与信管理で用いる評価指標の例や、社内で作成すべき「与信管理規程」の概要、その運用のコツを紹介します。
与信管理基準とは?取引先を評価する指標の例
「与信管理基準」とは、取引先ごとにどの程度の信用リスクを許容し、どの水準まで取引を認めるかを判断する社内基準・指標のことです。
企業はこれを定めることで、すべての取引先に対して統一されたルールで与信判断を行えます。では具体的にどんな指標が基準となりうるか、代表的な例を挙げます。
▼財務指標による基準
取引先企業の財務データを基に信用度を数値評価します。例えば「自己資本比率〇%以上なら最大取引額△△万円までOK」などの基準です。
具体例として、自社の純資産額や年間売上高に対する比率で与信枠を設定する方法があります(自社純資産の○%以内に取引先への与信総額を抑える 等)。
▼格付け(スコアリング)による基準
取引先をA~Eランク等に社内格付けし、ランク別に与信限度や決済条件を決めます。格付けには財務指標だけでなく、業歴や業界地位、過去の取引実績、支払遅延の有無といった定性情報も加味します。
例えば「Aランク:与信限度なし、Bランク:月商の2倍まで、Cランク:先払い限定」等、ランクごとに基準を設けるイメージです。
▼取引金額・期間による基準
新規取引開始から一定期間は取引額を抑える、というステップ方式も基準になります。
例えば「初取引から3ヶ月間は月△△万円まで、それ以降は支払い状況に応じ再審査」といった形です。これは新規取引先にいきなり大口与信を与えない安全策として多くの企業で採用されています。
以上のような基準を複数組み合わせて、「与信審査チェックリスト」のような形で社内文書化すると良いでしょう。大事なのは、客観的な指標に基づき誰が判断しても同じ結論になる仕組みにすることです。
属人的な裁量だけに頼っていると、担当者の交代時に基準がぶれてしまいリスク管理が形骸化しかねません。また、新たな情報(例えば取引先の決算悪化)が出たらその基準に照らして即座に見直すこともポイントです。
与信管理規程を作る意義と主な項目
自社で与信管理を徹底するなら、「与信管理規程」と呼ばれる社内規程を整備することをおすすめします。この規程は、今述べた与信管理基準や手続きを社内ルールとして文書化したものです。与信管理規程を設ける意義は、以下の通りです。
▼客観的な判断基準の明文化
規程により「どういう条件の取引先にはどんな与信枠を設定するか」「審査プロセスはどうするか」を明記すれば、誰が担当しても同じ基準で判断できます。属人的判断に頼らず一貫性と公平性を担保できる点が最大のメリットです。
▼社内統制と責任の明確化
取引先に与信を与える判断は企業にとって重要な意思決定です。規程で「最終承認者は誰か(例:経理部長以上)」「定期見直しは年○回行う」などプロセスを定めておけば、不透明な決裁やミスを防ぎ、リスク発生時の責任範囲も明確になります。
▼取引先とのトラブル防止
実は与信管理規程は取引先との契約書の一部として締結するケースもあります。例えば「支払い能力に問題が生じた場合には与信枠を見直す」「場合によっては出荷停止もありうる」といった内容を事前に取り決めておくのです。
こうすることで、万一取引を停止せざるを得なくなった際も「社内規程に則った対応」である旨を説明でき、相手の理解を得やすくなります。
与信管理規程に盛り込む主な項目
企業規模や業種によって多少異なりますが、一般的には以下のような構成になります。
- 総則
- 規程の目的や適用範囲、用語定義など。例えば「本規程は当社と取引先との信用取引における与信限度の設定・管理および債権保全に必要な手続きを定める」といった宣言をします。
- 新規取引の開始と与信の設定
- 新規取引先と取引を開始する際の審査手順です。具体的には「与信審査申請書の提出→信用調査の実施→審査会議での承認」といったフローや、どの部署が何を行うかを定めます。
- 与信の管理
- 継続取引先の与信枠管理についてです。定期的な信用状態のモニタリング方法(決算書入手やニュースチェックの頻度)、与信枠の見直し基準(業績悪化が見られたら即再審査等)を記載します。与信限度額の具体的設定方法(誰がどう計算・決定するか)もここに含めます。
- 債権回収の管理
- 債権管理との連携部分です。回収不能の兆候が出た場合の社内報告手順や、法務部への連絡フロー、最終的な貸倒処理の判断基準などを規定します。「一定期間入金遅延が続いたら新規出荷停止」などの措置もここで定めます。
- その他
- 反社会的勢力の排除条項や、規程の改定方法(例:取締役会決議事項)などを付記する場合もあります。
規程を作成したら終わりではなく、運用方法や変更手順も決めておくことが大切です。たとえば規程遵守を徹底するために「新規取引開始時には必ず担当者が規程を確認する」「年に一度全社員に規程内容を周知する研修を行う」といった仕組みを設けると良いでしょう。
また、経営環境や取引実態に合わせて規程内容を見直す手続き(誰が見直しを提案し、どの会議体で承認するか等)も明記しておけば、状況変化に応じ柔軟な対応ができます。
与信限度額の設定方法(管理規程として定めるポイント)
規程の中でも特に重要なのが「与信限度額」(与信枠)の設定です。与信限度額とは、「取引先に対して売掛でどこまで取引してよいか」という上限金額のことです。設定のポイントを挙げます。
- 自社のリスク許容度から算出
- 一般に「最悪回収不能となっても自社が耐えられる損失額」が一つの目安です。例えば、自社の純資産や年間利益の○%以内に各取引先の与信枠総額を収めるよう設計します。一社で致命傷を負わないよう、分散投資の考え方です。
- 取引先の信用力から算出
- 取引先の財務指標(純資産額、年間売上、営業利益等)に基づき、「その会社ならこの金額までは支払い可能だろう」という推定値で決める方法です。例えば取引先の自己資本が1億円なら、その10%の1,000万円が上限、といった具合です。これは取引先側の支払い余力に着目した方法と言えます。
- 取引種類・担保状況も考慮
- 同じ取引額でも、現金前払いならリスクはゼロですが、無担保の後払いならリスク大です。また、掛け売りでも商品に担保価値(すぐ現金化しやすい)がある場合とサービス提供のように無形の場合とで回収可能性が異なります。従って与信枠設定時は、支払いサイトの長短や担保・保証の有無も加味する必要があります。担保や保証人があれば多少多めに枠を設定する余地があるでしょう。
与信限度額の社内ルール化では、「誰がどのように計算・承認するか」を明記します。例えば「営業部が与信審査申請書に試算を書き、財務部がチェックして審査会で決定」といったプロセスです。
ポイントは、過大にも過小にも設定しないこと。過大な枠はリスクを生み、過小な枠はビジネスチャンスを逃します。規程では「取引実績や支払状況に応じ枠の増減を柔軟に見直す」旨も盛り込み、固定的になりすぎない運用にしましょう。
新規取引開始時の審査フローと承認プロセス
新規取引の審査フローは、規程の中でも具体的な手続き部分です。一般的な流れの一例を示します。
- 取引担当者(営業担当など)が取引申請
- 「〇〇社と掛取引を開始したい、見込み月商○万円」等を社内申請します。この際、取引先企業の基本情報(登記情報・業歴・業種)や取引条件(支払いサイト等)も提出します。
- 「〇〇社と掛取引を開始したい、見込み月商○万円」等を社内申請します。この際、取引先企業の基本情報(登記情報・業歴・業種)や取引条件(支払いサイト等)も提出します。
- 経理/財務部門による信用調査
- 提出情報をもとに、決算書の入手・分析や外部信用調査の発注を行います。詳しい方法は後述する「信用調査の方法」で解説しますが、要はその企業に与信取引して大丈夫か財務的・信用的にチェックする段階です。
- 審査会や上長による承認
- 調査結果を踏まえ、「最大いくらまで与信を与えるか(与信限度額)」「決済条件(例えば掛け払い30日など)」を社内で審議します。規程ではどの職位までの承認が必要かを決めておきます(例えば少額なら課長決裁、大口なら経営会議決裁など)。
- 結果のフィードバックと契約
- 与信枠と条件が決まったら取引担当者に伝達し、相手先とも条件合意します。場合によっては基本契約書にその与信条件(取引条件)を明記します。
上記のようなプロセスを経ることで、新規取引先といえども無防備に信用取引を始めるリスクを軽減できます。規程では「必要に応じ社外の信用調査機関資料を用いる」「取引金額によって承認フローを簡略化/厳格化する」等の細則も定めておくと実務的です。
例えば、小口取引(少額の取引)の場合は簡易調査で即日承認、大口の場合は詳細調査+審査会開催、というようにリスクに応じた審査のメリハリをつけると運用しやすくなります。
既存取引先のモニタリングと見直しルール
一度与信を設定して取引を始めたら、それで終わりではありません。取引先の状況は時間とともに変化するため、既存取引先についても定期的なモニタリングと与信見直しが必要です。社内規程にもこの点をぜひ組み込んでください。ポイントは以下です。
- 定期レビューの実施
- 一般には年1回や半年に1回、すべての主要取引先の信用状態を見直します。具体的には最新の決算書を取り寄せて財務チェックをしたり、支払い遅延の有無を確認したりします。与信管理はPDCAとも言われ、Plan(設定)→Do(取引)→Check(見直し)→Act(枠変更)のサイクルで継続的に改善することが重要です。
- マイナス情報発生時の臨時見直し
- 定期を待たずとも、たとえば取引先から「業績下方修正」のニュースが出たり、支払い遅延が発生したりとリスク兆候が見えた場合は即座に与信を再検討します。場合によっては出荷を一時停止したり、与信枠を縮小して追加受注を制限する等の措置が取られます。この「臨時見直し」判断も、規程上「○○の事由が発生したら経理部は直ちに報告」と決めておくとスムーズです。
- 与信枠拡大の検討
- 反対に、取引が順調で相手の業績も良好な場合、営業から「もっと取引額を増やしたいので枠を広げたい」と要望が出ることもあります。この際も一度改めて審査を行い、根拠を持って枠変更することが大切です。安易に枠を拡大せず、新規取引開始時と同様の慎重さで判断しましょう。
こうした既存先のモニタリングルールを設けておけば、常に最新の信用状況に合わせて与信管理ができ、気づいたら取引先が悪化していたのに放置して大損…という事態を防げます。
与信管理規程を運用・徹底するコツ(社内周知と遵守の仕組み作り)
最後に、作成した規程を絵に描いた餅にしないためのポイントです。どんな立派なルールも、社員が守らなければ意味がありません。そこで規程遵守を促すコツを紹介します。
- トップダウンで重要性を周知
- 経営トップや財務責任者から「与信管理規程を遵守せよ」というメッセージを発信してもらいましょう。例えば全社朝礼や社内報で規程の趣旨を説明し、「このルールで会社全体を守る」ことを強調します。トップが旗を振れば現場も動きやすくなります。
- 現場への教育・トレーニング
- 営業担当者など実際に取引先と向き合う社員に対し、規程の具体的運用方法をトレーニングします。新規取引時の申請書記入の仕方や、どういう情報を集めれば審査が通りやすいかなど実践的な知識も含め教えます。与信管理は営業活動の一部であるとの意識づけが大切です。
- 業務フローへの組み込み
- 規程を守らないと手続きが先に進めないよう、業務プロセス自体に組み込む方法も有効です。例えば社内システム上で新規取引先を登録する際、「与信審査済みか未審査か」をフラグ管理し、未審査だと受注処理ができないようにする等、システム的な統制をかけます。これなら否応なく規程遵守が担保できます。
- 定期的な見直しと改善
- 実運用していく中で、「このルールは厳しすぎて営業現場に支障が出ている」あるいは「この手順は形骸化している」など問題も出てくるでしょう。その際は適宜規程を改定します。社員からの意見を吸い上げ、定期改定の場を設けると、現場にフィットした生きた規程となり、みんなが守りやすくなります。
以上、与信管理基準と規程について説明しました。明文化されたルールと基準があればブレのない与信管理が可能になります。
与信管理の具体的な方法ステップ4(やり方)
ここからは実務担当者向けに、与信管理を進める具体的なステップを詳しく解説します。新規取引先の審査から取引条件の設定、取引開始後のフォローまで、一連の流れを順に追っていきます。
各ステップで使える信用調査の方法や与信限度額の決め方、そして契約時の注意点など、実践ノウハウも交えて説明します。
ステップ1.取引先情報の収集と信用力の評価
与信管理の第一歩は、取引先の情報収集と信用力(支払い能力・信頼性)の評価です。具体的なやり方を見ていきましょう。
▼信用調査の方法(社内データ分析・外部データベース活用・訪問によるヒアリング)
信用調査とは、簡単に言えば「この取引先は信用して大丈夫か?」を判断するために情報を集めることです。方法は大きく分けて内部・直接・外部の3種類があります。
- 内部調査(社内データ分析)
- すでに過去に取引がある相手なら、社内に蓄積されたデータをまず活用します。過去の支払い遅延の有無、取引額の推移、営業担当者からのヒアリングなどが主な情報源です。新規取引先の場合は、同業他社の取引状況や、紹介者からの評判など間接情報を集めることもあります。いずれにせよ自社内で入手できる範囲の情報を洗い出すのが内部調査です。
- 直接調査(取引先へのヒアリング)
- 必要に応じて、取引先企業に直接質問や訪問をして情報を得ます。例えば「取引開始前に御社の業況をお伺いしたい」と決算書や資金繰り状況について尋ねたり、会社訪問して社屋の様子や社員の雰囲気を見るといったものです。直接会うことで得られる感触(対応の誠実さや社内の活気など)も貴重な情報です。ただし、踏み込みすぎると失礼と受け取られかねないため、質問内容や態度には配慮が必要です。
- 外部調査(データベース・信用調査会社の活用)
- 社外の情報源から客観データを取得します。有名なのは帝国データバンクや東京商工リサーチ等の企業信用調査レポートで、企業の財務情報から代表者経歴、取引傾向、評判まで網羅した資料を入手できます。費用は1社あたり数万円程度かかりますが、客観性が高く、特に初取引の相手には有用です。
- また、官公庁データ(官報の破産情報など)や業界団体のデータベース、インターネット上のニュース・口コミも貴重な外部情報です。昨今はインターネットで登記簿謄本を取得したり、SNSで風評を探るケースもあります。可能な限り多くの情報源をチェックするのが外部調査のポイントです。
これらの方法を組み合わせ、取引先の定量情報(財務数値・規模等)と定性情報(経営者の人柄・社風・評判等)の両面から信用力を評価します。一例として、以下の点を確認すると良いでしょう。
- 財務の健全性
- 自己資本比率や利益率、負債の多寡など。(上場企業なら有価証券報告書、非上場でも信用調査レポートや帝国データバンクの企業スコアで把握可能)
- 支払い状況の実績
- 他社への支払い遅延が頻発していないか。取引先から他に評判を聞ければベスト。
- 代表者・経営層の経歴
- 頻繁に経営者が交代していないか、不祥事歴がないか。代表者や企業名でネット検索して訴訟やトラブルがないか確認するのも有効です。
- 事業の安定性
- 主要取引先が偏っていないか(1社依存だと危険)、属する業界の景況感はどうか。将来性にも目を向けます。
調査には手間もコストもかかりますが、ここを疎かにすると後工程すべてが無意味になるため、最も重要なステップと言えます。
「あまり情報を公開していない企業もあるため、有料サービスの利用も方法のひとつです」という指摘の通り、非上場企業など情報開示が少ない場合は積極的に信用調査会社の力を借りましょう。有料ではありますが、未然に貸倒れを防げると考えれば安いものです。
▼信用調査会社の活用メリットとデメリット(外部調査の上手な使い方)
信用調査会社(帝国データバンク、東京商工リサーチ等)のレポート活用メリット・デメリットも押さえておきます。
- メリット
- プロが収集・分析した信用情報を得られるため、調査漏れや主観の入り込みを防げることが最大の利点です。自社だけでは把握しにくい他社からの評価や、過去の不渡り・倒産履歴なども知ることができます。また、調査会社名で訪問やヒアリングを行うケースでは、企業側も正式な調査と認識して協力しやすい面があります。一定のスコアリングや格付けも示されるため、客観的根拠として社内説明に使いやすいです。
- デメリット
- やはり費用がかかる点です。1社調査するだけでも1〜3万円程度、詳細調査なら5万円以上の場合もあります。取引先候補が多いと全社分調査するのは現実的でないため、全件ではなく必要に応じて利用する工夫が必要です。また、情報が最新とは限らない点も注意です。年1回の決算情報がベースなので、直近の急激な状況変化(例えば直近で大型不良案件を抱えた等)はレポートに現れないこともあります。
上記を踏まえ、コストを抑えるコツとしては、まず自社で可能な限りの情報収集とスクリーニングを行い(例えば簡易に財務諸表チェックやWeb検索で不穏情報チェック)、本格調査が必要な先だけ調査会社に依頼するという段階的アプローチが有効です。
調査結果が出揃ったら、次はそれらを踏まえて取引先の信用力を総合評価します(これを与信審査と呼ぶこともあります)。定量評価(財務スコア等)と定性評価(経営者信用など)を総合し、「この取引先は取引OKか、条件付きか、見送りか」を判断する段階です。社内で審査会がある場合は、ここまでの調査資料を資料化して提出することになります。
審査の具体的方法は各社で異なりますが、一例として社内格付けに当てはめて評価する方法は有効です。例えば点数化して80点以上ならAランク(無制限OK)、60〜79点ならBランク(中口までOK)、59点以下はCランク(小口のみor取引不可)といったように、数値基準に沿って判断すればブレが少なくなります。
ステップ2.与信限度額(取引上限額)の設定
信用力評価ができたら、具体的に「この取引先にはいくらまで掛取引で売って良いか」を決めます。これが与信限度額の設定です。前述の社内規程の話と重複する部分もありますが、ここでは実務上の算定ポイントを補足します。
▼与信限度額を決める指標(財務指標や取引規模に応じた算定)
取引先の信用度が高いほど多く与信を与えても大丈夫…とはいえ、自社側にもキャパシティがあります。与信限度額設定の際は、以下のような指標を参考にしましょう。
- 自社の自己資本・キャッシュフロー
- 取引先別だけでなく、自社が許容できる売掛金総額との兼ね合いです。自社の自己資本が薄いのに大量の売掛金を抱えるのは危険です。これは「ポートフォリオ全体のリスク管理」として重要で、全取引先の与信残高合計が自己資本の○倍以内など社内ルールを持つ会社もあります(例:リスクモンスター社では「与信総額は自己資本の5倍まで」等のガイドを示しています)。個別取引先の枠も、この全体方針から逆算して配分します。
- 売上債権回転期間
- 少し専門的ですが、与信を与える期間も考慮します。例えば支払いサイト30日と90日では、同じ限度額でもリスクのかかり方が違います。「月商○ヶ月分」という考え方がよく用いられ、取引先の平均月商や自社との取引実績から「●ヶ月分まで未回収でも耐えられる」という設定をします。新規取引なら想定月商ベース、既存なら実績ベースで計算できます。
- 取引先の純資産・資本金
- 取引先企業の規模感から妥当な額を推測します。極端に言えば、資本金500万円の会社に対し1億円の与信を出すのは無謀でしょう。相手の財務体力から見て返済可能な範囲、という視点です。もちろん財務力があっても払う意思がないと意味がないですが、「財務的に到底無理な額は避ける」基本原則は重要です。
これらの指標を組み合わせ、「この取引先なら●万円まで信用して売っても良い」というラインを決定します。実務上は、調査資料に基づき経理部門が試算を提示し、最終的に経営陣が了承する形が多いでしょう。
設定した与信限度額は、社内システムや台帳で管理し、営業担当者にも周知します。「A社 与信限度500万円」と登録しておき、それを超える受注が来た場合は自動警告が出る仕組みにするなど、現場で守れる形に落とし込むことも必要です。
▼自社の許容損失ラインから考える方法(純資産や利益率に基づく算定例)
自社起点で考える方法の補足です。例えば「1社からの貸倒れで当社経常利益の○%以上が吹き飛ぶのは避けたい」といった経営陣の意向がある場合、それを裏返して上限額を計算します。
具体例: 当社経常利益が年間1億円で、5%(500万円)以上の損失は痛手となるなら、一社あたり500万円以上の未収リスクは避けたい→与信限度額を最大500万円程度に抑える、といった具合です。
ただし実際には取引規模がそれ以上になる場合も多いので、そういうケースは掛け取引と前金を組み合わせる等の工夫で調整します。要するに「最悪貸倒れても会社が潰れないライン」を想定して個別の枠も決める方法で、保守的ですが安全重視の企業では採用されています。
以上のように算定した与信限度額は、あくまで目安であり、実際の契約では取引条件全般とセットで考えます。
ステップ3.取引条件の決定と契約時の注意事項
審査を経て与信限度額が決まったら、取引先との具体的な取引条件を取り決めます。掛取引における条件とは、主に支払いサイト(支払期限)や支払い方法、必要に応じて担保・保証の設定などです。ここでの決め方次第でリスクヘッジ度合いが変わるため、押さえておきましょう。
▼支払いサイトや担保・保証の設定などリスク軽減策
- 支払いサイト(与信期間)の調整
- 商品やサービス提供から代金支払いまでの期間が長いほどリスクは高まります。可能であればサイトを短くしてもらう、例えば「通常60日サイトのところを最初の半年間は30日サイトにする」など交渉の余地があります
- また、分割請求や月2回請求にして未収リスクの期間を短縮する方法もあります。相手の資金繰りと交渉になりますが、新規取引時は安全策として短めサイトから始め、信頼関係が構築できれば緩和していくのがおすすめです。
- 支払い方法の指定
- 銀行振込だけでなく、手形や小切手払いの場合も注意が必要です。約束手形の場合、期日が先で不渡りリスクがあるため、相手先の信用度によっては受け取りを断るか、手形サイトをできるだけ短くする交渉をします。
- また、保証金の預託(一定金額を保証金として預かっておく)や信用状(L/C)の活用など、金融取引の手法を用いてリスク軽減することも可能ですが、国内取引では稀です。
- 担保・保証
- 不安が大きい場合、担保を設定する手があります。例えば相手の不動産や有価証券を担保に取る、もしくは連帯保証人(親会社や経営者個人)を立ててもらう方法です。ただ、中小企業間取引で担保や保証人を求めるのは現実的に難しい場合も多いでしょう。
- そこで登場するのが売掛保証サービス(信用保証会社が取引先の倒産による未回収を保証してくれるサービス)や取引信用保険です。これらを契約しておけば、取引先が万一倒産しても一定割合の売掛金は保険金でカバーできます。取引条件として相手に求めるわけではなく、自社のリスク対策として加入するものですが、掛取引の安心材料として有効です。
▼取引基本契約書に盛り込むべき与信関連条項
取引開始に際しては、なるべく取引基本契約書を締結しましょう。これは継続取引における包括的な契約書で、注文書や請求書とは別に基本ルールを定めるものです。その中に与信関連の条項も入れておくと安心です。盛り込むべき事項の例:
- 与信限度額の明示
- 「掛売りによる未払い残高は常に●円を超えないものとする。超過した場合、甲(売り手)は新規出荷を停止できる。」といった内容です。これで双方与信枠を共有し、守れなければ取引停止もやむなしと合意してもらいます。
- 支払い遅延時の措置
- 「支払期日を○日以上経過しても入金がない場合、直ちに全取引を停止できる」「延滞利息○%を請求できる」等の取り決めです。いざという時の強制力を契約上担保します。
- 情報開示・報告義務
- 「相手方は重大な財務悪化や訴訟等が発生した場合、速やかに通知するものとする」など、リスクに関わる情報を知らせる義務を課す条項です。実効性は期待しすぎずとも、道義的責任として相手に意識させる効果はあります。
- 保証人や担保に関する事項
- 前述の連帯保証人を求める場合や、所有権留保(商品代金完済まで商品の所有権は売り手にある)などの特約も契約に入れます。
契約書にこうした条項を入れておくことで、取引先にも「きちんと管理されている」というメッセージになりますし、いざというときの交渉材料にもなります。もちろん契約で縛ったからといって油断は禁物ですが、事前に決められるリスク軽減策は全て講じておく姿勢が大切です。
ステップ4.取引開始後のフォロー(債権管理との連携)
取引が始まったら、今度は債権管理(売掛金管理)のフェーズに移ります。これは本記事のメインテーマ「与信管理」の範疇からは少し外れますが、与信管理と連動して重要なので簡単に触れておきます。
▼定期的な取引先情報のアップデートと与信枠見直し
前述したように、定期モニタリングは必須です。決算期ごとの財務チェックやニュースチェックは継続しましょう。また営業担当からヒアリングするなど、常に「この取引先は大丈夫か?」を気にかけてください。
少しでも怪しい兆候(発注ペースの急減、担当者の異動頻発、支払い条件変更の打診 etc.)があればシグナルと捉え、即座に内部共有して与信枠引き下げなどの措置を検討します。
▼万一支払い遅延が発生した場合の初期対応策
どんなに気をつけていても、取引先の急な資金繰り悪化などで支払い遅延が発生することがあります。その際の初動対応も決めておきましょう。
- 即時社内報告
- 営業担当者だけで抱え込まず、経理・上司に速やかに報告します。小さな遅延でも放置せず、「○○社が約定日に振込なく翌週になるとの連絡あり」など共有することで、社内で注意喚起できます。
- 原因の確認
- 取引先に事実関係と理由を確認します。単なる事務ミスなのか、資金繰り難なのかで対応が変わります。理由を聞く際は慎重に(相手のプライドもあるため)。
- 追加出荷・受注の抑制
- 理由が判明し悪質でないにせよ、入金あるまで新規の出荷を停止する判断が必要です。ズルズル売上だけ積み上がると未収が膨らむので、一旦ストップをかけます。これは営業判断ではなく会社方針としてルール化しておきます。
- 代替案の検討
- 支払い計画を相手と再協議します。分割でも回収できるなら妥協する、取引条件を現金払いに切り替えるなど、生きたプランを立てます。また、取引先が危ないと判断したら信用保険請求や法的手段準備など最悪を想定した動きも並行します。
初期対応を誤ると取り返しがつかなくなるので、平時から「こうなったらこうする」とマニュアル化しておくと安心です。
与信管理を行う上でのメリット・デメリット
与信管理を実践すると具体的にどんな良いことがあるのか(メリット)、一方で気をつけるべきデメリットや課題は何かをまとめます。メリットを押さえれば上司や経営者への提案の説得材料になりますし、デメリットを知っておけば事前に対策を講じられます。
与信管理を徹底するメリット
既に重要性の部分で触れた内容とも重複しますが、整理すると以下のようになります。
- 資金繰りの安定と黒字倒産リスクの低減
- 適切な与信管理により売掛債権の未回収が防げれば、キャッシュフローが安定します。安定した資金繰りは仕入や人件費の支払いも滞らなくなることを意味し、倒産リスクの大幅低減につながります。
- 特に黒字倒産や連鎖倒産といった最悪の事態を防げるのは最大のメリットです。これは経営陣にとって非常に響くポイントでしょう。
- 取引先の健全な成長を促し関係性を強化できる
- 与信管理というと取引先を信用しない冷たい行為のように感じるかもしれませんが、実は逆です。しっかり信用調査を行い適切な枠を設定することで、双方が無理なくビジネスを拡大できます。無理な与信で相手を苦しめることもなく、問題があれば早期に話し合って解決できます。
- 結果としてウィンウィンの関係構築につながり、長期的な信頼関係が強まります。良い取引先とは健全な範囲で取引を増やし、お互い発展していけるのです。
- 社内統制の強化による対外信用の維持
- 与信管理体制がしっかりしている企業は、それ自体が信用力の高さを示します。銀行から融資を受ける際も、「当社は与信管理規程に基づきリスク管理しています」と説明できればプラス評価でしょう。
- また、社内的にも、営業現場の暴走(無理な値引きや回収不能な売上追求)を防ぎコンプライアンスが向上します。結果的に企業イメージが良くなり外部からの信頼が守られるというメリットも見逃せません。
他にも、人によっては「与信管理をちゃんとやっていると未収が減るので精神的安心感がある」という実感的なメリットもあるでしょう。社員のモチベーション維持にも貢献すると言われます(未収対応に追われると疲弊しますから、それが無い状態を保てるのは大きい)。総じて、経営の安定と信頼性向上がメリットとして挙げられます。
与信管理を行う際のデメリット・課題
一方、与信管理にもコストや難しさが伴います。主なデメリットや課題は次の通りです。
▼調査やモニタリングに工数・コストがかかる
与信管理の最大のハードルはこれでしょう。手間もお金もある程度かかるのは避けられません。信用調査会社への依頼費用は前述した通り1社数万円程度ですし、社内で決算書を読むスキルも必要です。また定期見直しも工数がかさみます。特に取引先が多い場合、全部を細かくチェックするのは現実的に困難です。
対策としては、重要取引先に絞って深く管理し、小口取引先はある程度まとめて管理するなどメリハリをつけた運用が必要です。ITシステムや外部サービスで省力化する方法については次章で触れます。
▼与信を厳格にしすぎることによる販売機会損失の可能性
リスクを嫌うあまり過度に与信を絞ると、ビジネスチャンスを逃す恐れがあります。例えば「安全第一」で新規取引をどんどん断っていたら、売上拡大の機会を逸します。競合他社がもう少しリスクを取って取引している間に、自社だけ機会損失してしまうかもしれません。
与信管理はあくまでリスクとリターンのバランスなので、攻めとのバランス感覚が問われます。この課題は経営陣と現場のコミュニケーションで解決し、戦略的にどこまでリスク許容するか方針を共有しておくことが重要です。
▼社内に専門知識や判断力が必要
与信管理には財務分析や法務知識、業界理解など幅広いスキルが関与します。中小企業ではそうした専門人材が不足しがちで、「何から手を付けて良いかわからない」という状況になりがちです。たとえば決算書を読めない担当者だけだと、本当は危ない兆候を見逃す可能性があります。
また、営業と管理部門の意見対立(営業は売りたい、管理は絞りたい)もよくある課題で、社内調整力も求められます。これらは人材育成や組織横断の仕組みづくりで補う必要があります。場合によっては外部のコンサルタントにアドバイスを求めたり、研修を受けたりするのも有効です。
以上がデメリットですが、裏を返せば「コストや手間の問題さえクリアできれば与信管理はやる価値が大きい」とも言えます。
与信管理を効率化する方法(やり方)
与信管理のデメリットで挙げた「手間・コスト」を解消するための方法として、専門のシステムや外部サービスの活用があります。
与信管理システムの活用メリット
近年はクラウド型の与信管理システムが登場し、中堅・中小企業でも導入が進んでいます。これらシステムを使うメリットは大きく2つです。
- リアルタイムの与信チェック
- システムによっては、取引先の財務データや信用情報をデータベース連携しており、取引の都度または定期的に自動スコアリングしてくれます。
- 例えば受注登録すると即座にその取引が与信枠内か超過かアラートを出す、取引先の格付けが下がったらメール通知が来る、といったリアルタイム監視が可能になります。
- これにより、担当者が逐一手計算で管理しなくてもシステムが見張ってくれる状態になり、ヒューマンエラーの防止につながります。
- 自動モニタリング・情報更新
- 従来は決算書を年1回人手で集めて評価…という流れでしたが、与信管理システムでは外部データソースと連携し、取引先の登記情報変更や官報公告、倒産情報などが出たら自動で知らせてくれる機能があります。
- これによって常に最新の信用情報を把握でき、見落としを減らせます。また管理画面上で取引先一覧の信用度を可視化できるため、全体のポートフォリオ把握も容易です。
信用調査会社・与信管理代行サービスの活用メリットと注意点
前述のシステムはあくまでツールですが、与信管理そのものをアウトソーシング(外部委託)する選択肢もあります。信用調査会社によっては、個別調査だけでなく継続的な取引先モニタリングサービスを提供していたり、コンサル会社による与信管理体制構築支援などもあります。
また、金融機関系では、取引信用保証と与信管理代行をセットにしたサービスもあります。これらを活用するメリット・注意点は以下です。
- メリット
- プロの経験とデータをフル活用できる点です。自社では見抜けないリスクも豊富なデータベースから察知してくれたり、業界の専門家が分析してくれるので精度が高まります。
- また、社内リソースを割かずに済むので本業に注力できます。中小企業では担当者が他業務と兼任で手一杯という場合も多いので、任せられる部分は任せることで効率が上がります。
- 注意点
- 完全にお任せにしてしまうと、自社内にノウハウが蓄積されないというデメリットがあります。アウトソーシングとはいえ最終判断は自社で行う必要があるので、結果を正しく理解し活用できる社内力は残すことが重要です。
- またコストとの兼ね合いもあります。件数課金や月額課金など料金形態は色々ですが、自社規模に見合った範囲で利用しないと割高になることも。外部サービスに出す範囲と社内対応範囲を明確に決めておくと良いでしょう。
- 例えば「大型案件や不安な相手だけ調査会社利用、それ以外は社内簡易審査」といった住み分けです。
総じて、システムにせよサービスにせよ、「すべて自前でやらなければ」という発想を捨てて頼れるところは頼るのが現代的な与信管理のコツです。特にITツールは年々進化していますし、情報量ではやはり専門機関に軍配が上がります。自社のリソースと相談し、ベストミックスを探しましょう。
社内ワークフローシステムで与信審査プロセスを標準化する方法
与信審査の効率化には、ワークフローシステム(電子稟議・承認システム)の活用も有効です。例えば、新規取引申請をワークフロー化すれば、財務情報や与信希望額の入力、承認ルートの設定、通知や履歴管理まで一括で対応できます。
紙やメールでのやりとりに比べてスピード・正確性が向上し、承認後の情報もモニタリングに活用可能です。専用の与信管理システムがなくても、こうしたツールで基盤を整えるだけでも十分効果があります。クラウド型で導入しやすいサービスも多いため、まずは導入を検討してみてはいかがでしょうか。
与信管理を根付かせるためのポイントと注意点
最後に、与信管理を社内で根付かせるための運用上のポイントや注意点をまとめます。せっかく仕組みを整えても、実践が伴わなければ意味がありません。ここでは特に組織的な取り組みや継続的な見直しなど重要事項を確認します。
営業部門・経理部門の連携体制づくり
与信管理は一部署だけでは完結しません。営業(フロント)部門と経理・財務(管理)部門の二人三脚が不可欠です。営業は売上拡大がミッション、経理はリスク管理がミッションなので、時に対立しがちですが、目的は「会社を成長させつつ守る」ことで一致しています。そのためには以下の連携が重要です。
- 情報共有
- 営業は取引先の最新情報をいち早くキャッチできます。訪問して感じた雰囲気や雑談レベルの話でも、気になることがあれば経理に共有しましょう。「最近○○社の社長交代したらしい」「経理担当が資金繰り厳しいと言っていた」等、生の情報は貴重です。
- 一方、経理から営業へは「この会社は決算悪化しているので注意して」といった財務情報を伝えます。お互い自分だけでは得られない情報を交換する意識が大切です。
- 方針のすり合わせ
- 先述のように、リスク許容度合いの判断は経営判断でもありますが、現場同士でも定期的にディスカッションすると理解が深まります。例えば月次の営業会議に財務担当も参加し、与信NGになった案件の代替策を一緒に考える、などです。
- 「なぜこの案件は与信出せないのか」を営業が理解すれば次回から事前に防げますし、経理側も営業のプレッシャーを知れば柔軟な対策を提案できるかもしれません。部署を超えたチームワークが与信管理成功の鍵です。
取引先の信用情報を定期的に見直す重要性
企業の信用力は変動します。特に中小企業は1社大型事故があれば一気に傾きます。したがって定期見直しをルーチン化することが重要です。
忙しいと後回しにされがちですが、スケジュールに組み込んで確実に実施しましょう。理想的には四半期に一度くらい全主要取引先をざっとスクリーニングできるとベストです。
最近ではAIを活用して数百社の財務データを自動分析し危険信号をリストアップするようなサービスもありますので、そうしたツールに助けてもらうのも良いでしょう。常に最新情報にアップデートするだけで貸倒れリスクは格段に下がります。
与信調査範囲とコストのバランスを取るには
前述のデメリット部分とも関連しますが、調査範囲と深さのバランスをどう取るかは現実的な課題です。リソース無限ではない以上、全取引先を徹底調査するのは無理があります。そこで、リスクアプローチでメリハリを付けましょう。
- リスクが高い先に集中
- 売上規模が大きい相手、支払いサイトが長い相手、過去に延滞歴がある相手など、リスクプロファイルの高い取引先に重点的に調査コストをかけます。反対に、月数万円程度の小口取引先であれば、詳細調査までは不要かもしれません。
- ABC分析
- 取引先を重要度でランク分けする、いわゆるABC分析も有効です。Aランク(重要取引先)は年2回詳細調査、Bは年1回簡易チェック、Cはモニタリングのみ…などランク別にやり方を決めます。
- 発生主義 vs 例外対応
- 普段はざっくり管理に留め、何か不穏な兆候が出たらそのとき深掘り調査するというやり方も一つです。全部を濃くやるのは困難なので、起きたら対応する方針。ただしこの場合、兆候を見逃さない仕組み(社内通報、外部データ監視)が前提になります。
非常時の対応策も含めたシミュレーション
どれだけ与信管理を頑張っても、ゼロリスクにはできません。万一大口取引先の倒産など最悪のケースが起きたときにどうするか、事前にシミュレーションしておくことも大切です。
- 緊急時の資金繰り計画
- 〇〇社が倒産して○千万円回収不能になったら、銀行借り入れで一時凌ぐのか、他の資産を売却するのか、といった資金繰り策を想定しておきます。銀行とも普段から信用取引を築き、いざというとき融資が受けられるようにしておくのもリスク管理の一環です。
- 社内危機対応フロー
- 貸倒れが発生したとき、社内でどのように報告・対処するか決めておきます。経営会議を即時開催する、関係部署でタスクフォースを組む等、パニックにならない体制を準備します。
- 取引先・取引額分散
- シミュレーションをすると、「一社に依存しすぎているのは危ない」と気づくことがあります。その場合は平時から取引先を分散させる戦略を取ることも検討しましょう。
こうしたシミュレーションは与信管理担当者だけでなく経営企画や財務も含めて実施すると効果的です。最悪を想定して備えることも、広い意味での与信管理であると言えます。
社内への啓蒙と教育
最後に、人の問題です。与信管理は経理部門だけの仕事ではなく、全社的な課題だという認識を広めましょう。営業しかり、時には現場で商品の出荷を管理する人まで含めて、「この会社に出荷して大丈夫?」「支払い遅れてない?」と気を配る企業文化が理想です。
- 研修や勉強会
- 社内向けに与信管理の基礎講座を開く、他社の失敗事例を紹介するなどして、社員一人ひとりが危機感と知識を持つようにします。新人営業研修に組み込むのも良いでしょう。
- 成功体験・失敗体験の共有
- 過去に与信管理が功を奏してリスクを回避できた事例や、逆に甘く見ていて痛手を負った事例を社内共有します。「○○さんがちゃんと調べていたおかげで未然に防げました」といった成功談はモチベーションになりますし、「△△社で回収不能が出て大変なことになった」という他社の失敗談は教訓になります。
- 全社目標への位置付け
- 例えば「当期の貸倒損失ゼロを目指す」といった目標を掲げ、営業のKPIの一つに含めるなど、会社の目標として与信管理を組み込むのも効果的です。
このように、与信管理は裏方の管理業務ではなく会社を守り育てる重要テーマであることを全社員に理解してもらうことが、長期的には最も重要かもしれません。
まとめ
本記事では、与信管理の基本概念から社内ルール策定、具体的な実践手順、メリット・デメリット、効率化のためのツール活用、そして運用のコツまで幅広く解説しました。
- 与信管理とは:取引前に信用力を見極め、売掛金回収不能のリスクを減らす管理手法。審査からモニタリングまでを含む。
- 必要性:怠れば黒字倒産・連鎖倒産のリスクが高まる。適切な運用で資金繰りを安定させ、対外信用を守れる。
- 社内ルール整備:財務指標や格付けなど客観的基準を用いて与信管理規程を作成し、判断のブレを防ぐ。
- 実務フロー:信用調査→評価→与信枠設定→契約→モニタリング。必要に応じて調査会社を活用し、与信枠は損失許容度と相手の財務状況を基に算定。取引後も継続的に見直す。
- メリット:資金繰りの安定、取引先との関係強化、社内統制や従業員の安心感向上。
- 課題と対応:手間や費用はITで軽減、過度な与信制限は経営方針と調整、知識不足は人材育成や外部支援で補完。
- 効率化ツール:クラウド型管理システムや信用調査会社、ワークフロー活用でプロセスを自動化・標準化。MCB FinTechカタログを使えばサービス比較や資料請求も可能。
- ポイント:営業との連携、情報の定期更新、重点管理、緊急時対応の準備、全社的な意識づけが重要。
まずは主要取引先の信用状況を確認しましょう。決算書があれば最新期を、なければ帝国データバンクなどの簡易スコアを活用するのも有効です。
与信管理のルールがなければ、簡単なチェックリストの作成から始めてみてください。項目を整理するだけでも意識が変わります。
営業担当とも情報を共有できる体制づくりが理想です。リソースが足りなければ、外部サービスの活用も選択肢に。
まずは小さな一歩から、貴社に合った与信管理の仕組みを整えていきましょう。
FAQ(よくある質問)
Q1. 与信管理をこれから始める中小企業ですが、まず何から手を付けるべきでしょうか?
A1. 第一歩として現状把握が肝心です。現在取引中の主要顧客の財務状況や支払い状況をリストアップし、リスク度合いを洗い出しましょう。その上で簡易的で良いので与信管理のルールを作ります(例:「新規取引先とはまず現金取引から開始する」「○万円以上の掛売りは社長承認が必要」等)。最初から完璧を目指す必要はありません。徐々に体制を整えつつ、必要に応じて信用調査会社のレポートを取り寄せたり、専門家に相談したりすると良いでしょう。
Q2. 与信管理と債権管理の違いは何ですか?
A2. 与信管理は取引を始める前に行う信用リスクの管理で、取引先を信用して良いか評価し取引条件(与信限度や支払条件)を決定するプロセスです。一方、債権管理は取引開始後の売掛金回収管理で、請求・入金確認や滞留債権の督促回収が中心です。簡単に言えば、与信管理=「貸さない工夫」, 債権管理=「貸したお金を確実に回収する工夫」となります。両者は連携して機能し、与信管理で予防しつつ、債権管理で発生した債権を守るという役割分担です。
Q3. 与信管理は主にどの部署が担当すべきでしょうか?
A3. 企業規模によりますが、財務・経理部門が中心となり、営業部門と連携して行うケースが多いです。大企業では審査部や信用管理部といった専門部署があることも。中小企業では経理担当者が兼任することが多いため、営業とのコミュニケーションが特に重要になります。また、最終判断は経営者や役員クラスが行う場合もあります。いずれにせよ、現場(営業)と管理(経理)の協働が不可欠です。
Q4. 与信限度額はどうやって決めればいいですか?
A4. 与信限度額の決め方はいくつかのアプローチがあります。一般的には取引先の財務状況(自己資本額や年間売上)や自社のリスク許容度を基準に計算します。例えば「相手先の純資産の○%まで」や「自社年間利益の○%を超えるリスクは取らない」といった指標です。具体的算定には専門知識も要りますが、簡易には帝国データバンク等の信用度スコアから推奨与信額を参考にする方法もあります。最初は保守的に設定し、取引実績を積みながら見直すのが良策です。
Q5. 与信管理を怠るとどうなりますか?
A5. 端的に言えば、貸倒れによる損失や資金繰り悪化といったリスクが高まります。極端な場合、黒字経営でも資金ショートして黒字倒産する可能性もあります。また未回収が発生するとその穴埋めに余計なコストや労力がかかり、社員の士気低下や業績悪化にもつながりかねません。さらに信用管理が甘い会社だと市場に認知されれば、取引先や金融機関からの信頼も損なわれます。要するに、与信管理をしないことは企業経営において致命的なリスクを放置することと同義なのです。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋 真倫

