毎月の予実管理、Excelのバケツリレーで限界を感じていませんか？

多くの経営企画担当者やCFOが、膨大なスプレッドシートの集計作業、複雑怪奇な計算式の修正、そして版数管理（最新ファイルがどれか分からない問題）に頭を抱えています。

現在、日本国内では「脱Excel」を掲げ、クラウド型の予算管理システム（経営管理クラウド）を導入する企業が急増しています。市場規模は過去10年で10倍以上に拡大し、SaaS型ツールの普及がその成長を牽引しています。

もはや予算管理システムは、一部の大企業だけのものではなく、成長企業にとっての「標準装備」となりつつあります。

本記事では、最新の市場調査データに基づき、予算管理システムの市場規模、シェア動向、そしてなぜ今導入が進んでいるのかを徹底解説します。さらに、企業のフェーズに合わせた最適なシステムの選び方まで網羅しています。

予算管理システム市場規模の現状と予測

まずは、客観的な数字を用いて市場の「今」と「これから」を紐解きます。

1. 急成長する国内市場：100億円規模への到達

アイ・ティ・アール（ITR）などの主要な市場調査機関のデータによると、国内の予算管理市場は驚異的なペースで成長を続けています。

• 市場規模の拡大
  • 2014年度にはわずか8億円程度だった市場は、2024年度には100億円を突破する見込みです。この10年間で市場規模は10倍以上に拡大しており、エンタープライズ・アプリケーション（業務ソフト）分野の中でも特筆すべき成長率を誇ります。
• 直近の成長率
  • 2023年度の売上金額は前年度比約19.4%増、2024年度も約20.4%増と予測されており、依然として二桁成長が続いています。
• 将来予測 (CAGR)
  • 2023年度から2028年度にかけての年平均成長率（CAGR）は19.3%と予測されています。これは、多くの日本企業が「Excelによる手作業」から「システムによる自動化」へ大きく舵を切っていることの証明です。

参考：株式会社アイ・ティ・アール プレスリリース

2. 「パッケージ」から「SaaS」への構造変化

市場成長の中身を詳しく見ると、システムの提供形態に大きな変化が起きています。

• SaaS市場の躍進
  • 従来型の「パッケージ（オンプレミス含む）」市場が横ばいまたは微減傾向にあるのに対し、クラウド経由で利用するSaaS（Software as a Service）市場は前年度比26.6%増（2023年度）という高い伸びを示しています。
• 市場の9割がSaaSへ
  • ITRの予測では、2028年度には市場全体の約9割をSaaSが占める見通しです。

この背景には、初期費用を抑えてスモールスタートできる点や、リモートワーク環境下でもブラウザ一つで予算編成が可能になる利便性が挙げられます。特に、「Loglass（ログラス）」や「DIGGLE（ディグル）」、「Manageboard（マネージボード）」といった新興SaaSベンダーの台頭が市場を活性化させています。

3. なぜ市場は拡大し続けるのか（3つのドライバー）

単なるITトレンドではなく、経営環境の変化がこの需要を生み出しています。

1. DX（デジタルトランスフォーメーション）の加速
   • 経理・財務部門におけるDXの一環として、非効率なExcel業務の排除が急務となっています。
2. 経営判断のスピード化（アジャイル経営）
   • 変化の激しい時代において、月次決算の早期化や、リアルタイムな予実分析が競争力の源泉となっています。「締めてみないと分からない」状態からの脱却が求められています。
3. IPO・内部統制の強化
   • スタートアップのIPO（新規上場）準備において、予実管理体制の構築は必須事項です。Excel管理の脆弱性（計算ミス、改ざんリスク）は監査上の懸念点となるため、システム導入が進んでいます。

予算管理システムの仕組みやメリット・デメリットについては『予算管理システムとは？Excelからの乗り換え導入方法と選び方・補助金制度まで徹底解説』をご覧ください。

予算管理システムのシェアと主要ベンダー動向

市場には多数のツールが存在しますが、それぞれ得意とする企業規模や業種が異なります。シェア動向と主要プレイヤーを整理します。

市場シェアの構造：3つの勢力図

予算管理システム市場は、大きく3つのグループに分類できます。

1.独立系・経営管理SaaS（急成長グループ）

現在、最も勢いがありシェアを伸ばしている層です。日本の商習慣に合わせたUI/UXと、導入のしやすさが特徴です。

• Loglass（ログラス）: 「経営の意思決定をテクノロジーで再現性のあるものにする」を掲げ、急速にシェアを拡大。大規模なデータ処理と使いやすさを両立し、中堅〜大企業での採用が進んでいます。
• DIGGLE（ディグル）: 予実管理の「運用」にフォーカスし、現場部門が使いやすい設計が強み。着地見込みの更新など、現場を巻き込んだ運用に定評があります。
• BizForecast（ビズフォーキャスト）: 「脱Excel」ではなく「活Excel（Excelの良さを活かす）」をコンセプトに、長年高いシェアを維持しています。Excelの見た目をそのままシステム化したい企業に人気です。

2.外資系・グローバルERP（エンタープライズ層）

グローバル展開する大企業や、複雑な連結経営を行う企業で高いシェアを持ちます。

• Workday Adaptive Planning: 全世界で数千社の導入実績を持つグローバルリーダー。強力な分析機能と柔軟性を持ちますが、運用定着には専門的な知識が求められる場合があります。
• Oracle EPM Cloud / SAP Analytics Cloud: 基幹システム（ERP）としてOracleやSAPを使用している大企業が、エコシステムの一環として導入するケースが多いです。

3.中小・スタートアップ特化型

会計ソフトとの連携を重視し、安価かつ即座に導入できるツール群です。

• Manageboard（マネージボード）: マネーフォワードやfreeeなどのクラウド会計ソフトとAPI連携し、財務データを自動で可視化。AIによる将来予測機能なども搭載しており、中小企業や税理士事務所での利用が広がっています。

「脱Excel」vs「活Excel」のシェア争い

シェアを見る上で重要な視点が、UI（ユーザーインターフェース）のアプローチです。

• データベース型（Web UI）: Excelとは異なる専用の画面で入力・管理するタイプ。データの一貫性が保ちやすく、LoglassやDIGGLEがこれに該当します。
• スプレッドシート型（Excel UI）: Excelのような見た目や操作感を再現するタイプ。現場の学習コストを下げたい企業に選ばれており、BizForecastやWorkday Adaptive Planningが強みを持っています。

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なぜ今、予算管理システムの導入が進むのか：現場の悲鳴と経営の要請

市場データだけでなく、現場で起きている「具体的な課題」に焦点を当てます。もし貴社の状況が以下に当てはまるなら、システム導入の検討時期と言えるでしょう。

1. 「脱Excel」の限界点（The Limit of Excel）

Excelは素晴らしい表計算ソフトですが、全社の予算管理データベースとしては不向きです。多くの企業が以下の「Excel地獄」に直面しています。

• 集計作業の忙殺
  • 各部門から送られてくる数十個のExcelファイルを開き、コピペして集計するだけで数日が終わる。
• 計算式エラーの恐怖
  • 誰かが行を挿入したせいで参照セルがズレていても、気づかずに経営会議に提出してしまうリスク。
• 属人化の極み
  • 複雑怪奇なマクロを組んだ担当者が退職し、誰もメンテナンスできない「ブラックボックス化」したファイル。
• バージョン管理の崩壊
  • 「予算案_最終.xlsx」「予算案_最終_v2_修正.xlsx」「予算案_最新_本当の最終.xlsx」が乱立し、どれが正しい数値か不明。

2. 経営判断のスピード化と精緻化

現代のビジネス環境では、年度初めに決めた予算をただ追いかけるだけでは不十分です。

• フォーキャスト（着地見込）管理
  • 「今のペースだと期末にどうなるか？」を毎月、あるいは毎週アップデートし、早期に対策を打つ必要があります。Excelではこの更新頻度に耐えられません。
• 多軸分析のニーズ
  • 「商品別」「地域別」「チャネル別」「担当者別」など、ドリルダウンして赤字の原因を特定したい場合、データベース化されたシステムが必要です。

3. 非財務情報（KPI）との統合

売上・利益といった財務数値だけでなく、SaaSにおける「解約率」や「MRR」、製造業における「稼働率」や「歩留まり」といった非財務KPIと財務数値を紐づけて管理するニーズが高まっています。これらを統合管理できるのが、現代の予算管理システムの強みです。

企業規模別：予算管理システムの選び方

「市場規模は分かったが、自社にはどれが合うのか？」
企業の規模とフェーズによって、選ぶべきシステムの基準は明確に異なります。

1. スタートアップ〜小規模企業（売上数億円〜10億円未満）

• 課題
  • とにかくリソースがない。専任の経営企画がいない。
• 選定ポイント
  • 会計ソフトとの連携
    • freeeやマネーフォワードなどのデータを自動連携できるか。
  • 低コスト
    • 月額数万円から始められるか。
  • 簡易性
    • 設定にコンサルタントが不要で、自力で導入できるか。
• 推奨ツール例
  • Manageboard、bixid など

2. 中堅・成長企業（売上10億円〜100億円・IPO準備中）

• 課題
  • 部門が増え、Excelでの集計が限界。IPOに向けた予実統制が必要。
• 選定ポイント
  • 権限管理
    • 部門長に入力権限を付与し、ワークフローを回せるか。
  • 変更ログ
    • 「いつ、誰が、なぜ数値を修正したか」の履歴が残るか（監査対応）。
  • 拡張性
    • 人員増加や組織変更に柔軟に対応できるか（マスタ管理のしやすさ）。
• 推奨ツール例
  • Loglass、DIGGLE、Amoeba Pro など

3. 大企業・上場企業（売上100億円以上〜）

• 課題
  • 連結子会社が多く、グローバル対応や複雑な配賦計算が必要。
• 選定ポイント
  • 連結管理
    • 複数法人のデータを統合し、連結予実を作成できるか。
  • パフォーマンス
    • 大量のデータを処理しても動作が重くならないか。
  • ERP連携
    • SAPやOracleなどの基幹システムとシームレスに連携できるか。
• 推奨ツール例
  • Workday Adaptive Planning、BizForecast、Oracle EPM、Tagetik など

今後の市場トレンド：AIと「xP&A」

最後に、これからシステムを選定する上で知っておくべき、少し先の未来の話をします。

生成AIと予測AIの活用

一部の先進的なツールでは、AI機能の実装が始まっています。

• 実績データからの自動予測
  • 過去のトレンドを加味して、AIが来月の売上着地を予測する。
• 差異分析のコメント生成
  • 「なぜ予算未達なのか？」の分析コメント案を生成AIが下書きする。

xP&A（Extended Planning and Analysis）への進化

これまで「財務」の中に閉じていた予算管理が、全社的な計画業務（xP&A）へと拡張しています。

• 人事計画（要員計画・人件費）
• 営業計画（SFA/CRM連携）
• サプライチェーン計画

これらを一つのプラットフォームで統合管理し、例えば「採用計画の遅れが、将来の売上にどうインパクトするか」をシミュレーションできる世界観が主流になっていくでしょう。

FAQ：予算管理システムに関するよくある質問

Q1. 予算管理システムと会計ソフトの違いは何ですか？

A. 会計ソフトは「過去の実績（決算書）」を作るためのツールですが、予算管理システムは「未来の計画（予算・見込）」を管理し、それと実績を比較するためのツールです。会計ソフトでは難しい「組織変更のシミュレーション」や「見込データの頻繁な更新」が得意です。

Q2. 導入にかかる期間はどれくらいですか？

A. クラウド型（SaaS）の場合、早ければ1ヶ月〜3ヶ月程度で稼働可能です。大規模なオンプレミス型や、複雑な要件定義が必要な場合は半年〜1年以上かかることもあります。まずはスモールスタートで導入することをお勧めします。

Q3. Excelを完全にゼロにする必要がありますか？

A. 必ずしもゼロにする必要はありません。入力インターフェースとしてExcelを使い続け、裏側のデータベースとしてシステムを使う「BizForecast」のようなツールもあります。現場のITリテラシーに合わせて、段階的に移行するのが成功の鍵です。

Q4. 費用対効果（ROI）はどう説明すればよいですか？

A. 「集計作業の工数削減（コストカット）」だけでなく、「経営判断の早期化による機会損失の防止」「予実精度の向上による投資判断の適正化」といった定性的なメリットを強調すると、経営陣の理解を得やすくなります。また、内部統制強化によるリスク回避も重要なポイントです。

まとめ：脱Excelは「攻めの経営」への第一歩

予算管理システムの市場規模は急速に拡大しており、SaaS型ツールの導入はもはや「当たり前」になりつつあります。

しかし、システム導入の真の目的は、単に集計作業を楽にすることではありません。

「過去の数字を集める時間」を最小化し、「未来の対策を考える時間」を最大化することこそが、本質的な価値です。

自社のフェーズに合ったツールを選び、Excel業務から解放されれば、経営企画部門は本来の役割である「経営のナビゲーター」としての機能を取り戻すことができるでしょう。

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