2026年度末を目途に紙の約束手形が姿を消します。そこで従来の手形に代わる電子決済手段として注目されているのが「でんさい(電子記録債権)」です。
しかし、新しい仕組みだけに、「本当にメリットはあるの?」「導入方法や手続きが複雑では?」と不安に思う方も多いでしょう。
この記事では、でんさいの基本から具体的な導入方法、移行を成功させるポイントまで、最新動向を踏まえてわかりやすく解説します。
目次
約束手形の廃止と電子記録債権「でんさい」への移行
2026年度末で紙の約束手形は事実上廃止へ
長年企業間決済で使われてきた手形ですが、デジタル化の波の中でその非効率さが課題視され、政府は2026年3月末を目途に手形利用を止める方針を示しました。
全国銀行協会も同時期までに手形・小切手の決済をゼロにすべく取り組んでおり、企業は手形に代わる決済手段への移行を迫られています。
約束手形の廃止の背景や詳細は『小切手・約束手形の廃止はいつ?背景と影響、でんさい等代替サービスの比較と対応策』で詳しく解説しています。
手形の代替として推奨される「でんさい」とは
手形の代替として今強く推奨されているのが「でんさい」です。でんさい(電子記録債権)とは、手形や売掛金などの金銭債権を電子的に記録・管理して決済に利用できる仕組みです。
正式には2008年施行の電子記録債権法に基づく制度で、全国銀行協会傘下の株式会社全銀電子債権ネットワーク(通称:でんさいネット)が運営する全国規模の電子債権記録機関を通じて利用します。簡単に言えば、“オンライン上でやり取りできる手形”とイメージすると分かりやすいでしょう。
参考:全国銀行協会『全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)』
でんさいの仕組み:発行から決済までオンラインで完結
従来の紙の手形では振出・裏書・現物保管・期日照合など煩雑な手続きが伴いましたが、でんさいではそれらがすべてオンライン上で完結します。発生記録(債権の発行)から譲渡記録(債権の受け渡し)、期日到来時の決済まで、一連の処理がでんさいネット上で電子的に行われ、期日には自動決済されます。
紙やハンコが不要で、郵送の手間もありません。その意味で、でんさいネットは「電子手形のオンライン取引所」とも言える存在です。
約束手形廃止の背景:資金繰り圧迫と非効率の解消
約束手形廃止の背景には、手形が中小企業の資金繰りを圧迫し非効率を生んでいる現状があります。平均支払サイトが100日前後と現金化に時間がかかり、紛失・盗難・不渡りのリスクも伴う手形は、デジタル時代にそぐわない決済手段になりつつあります。
そこで、政府は企業間決済をより迅速で公正なものに改めるべく電子記録債権等への移行を促しているのです。
早急な対応が必要な業種:製造業・建設業など
でんさいへの移行はまさにこの流れの中心にあり、特に手形取引の多い製造業・建設業などでは早急な対応が求められています。
でんさいを導入するメリットとデメリット
でんさいには、紙の手形にはない様々な利点がありますが、一方で利用にあたって知っておくべきポイントも存在します。ここでは主なメリット3点と注意点3点を整理します。
でんさい導入で得られる主なメリット
印紙税・郵送コストの削減
紙の手形では額面に応じた印紙税が必要でしたが、でんさいの電子記録そのものには印紙税がかかりません。例えば100万円の手形には約200円の印紙が必要でしたが、でんさいならゼロになります。
同様に、手形用紙代や郵送・保管にかかる費用も不要です。全銀協の試算では、紙の手形使用による社会全体のコストは年間数百億円にも及ぶとされますが、でんさいへの移行でこれらコストを大幅に削減できます。
事務負担の軽減と決済業務の効率化
でんさいはオンライン手続きで完結するため、これまで手形管理にかかっていた事務作業が劇的に減ります。受取企業側は期日入金のための銀行取り立てが不要になり、発行企業側も紙の発行・押印・郵送作業から解放されます。
また、期日になれば自動で入金されるので、担当者が期日管理に追われることもありません。さらに、電子記録債権は1円から利用でき分割譲渡も可能なので、必要な分だけ資金化(割引)するなど柔軟な資金運用もできます。
リスク低減と資金繰りの円滑化
紙の手形に付きまとった紛失・盗難・偽造のリスクが、でんさいではありません。データで管理されるため、物理的な紛失はなく、権利関係も明確に記録されます。また受取企業にとっては、期日当日に資金が使える点も大きなメリットです。
従来、手形は期日翌営業日にならないと現金化できず資金繰りを圧迫していましたが、でんさいなら期日=入金日となりキャッシュフローの改善につながります。加えて、不渡りになった場合の処置(一定回数で債務者として利用停止等)も制度化されており、信用リスク対策も整備されています。
企業間の取引の信頼性を高め、公正な決済を促進する効果が期待できます。
導入前に知っておきたい注意点(デメリット)
取引先も利用者である必要がある
でんさいは自社だけで完結できず、取引の相手方もでんさいネットに契約・登録していなければ利用できません。この点が導入の最大のハードルであり、まずは主要な取引先に対してでんさい利用の承諾を得る活動が必要になります。
自社の都合だけで進められないため、特に取引先が多い企業では徐々に説得・移行していく計画性が求められます。
初期手続きや社内ルール変更の手間
でんさい導入時には、銀行への申込や審査といった初期手続きが必要です。また、実際に運用する際には、従来の紙ベース業務を社内で電子債権対応に変える作業も発生します。
経理システムがでんさいに対応しているか確認し、場合によってはソフトウェアアップデートや新システム導入も検討しなければなりません。さらに社員への周知・教育も必要です。
これら準備に一定の手間と時間がかかる点は覚悟しておくべきでしょう。しかし、このハードルは一度クリアすれば大きな効率化メリットとなって返ってきます。
利用手数料などコスト面のチェック
でんさいそのものには印紙税が不要になるとはいえ、利用料がまったくゼロではありません。通常、でんさいネットを利用する金融機関では基本利用料(月額数百円~数千円)や、発生記録・譲渡記録ごとの手数料(1件あたり数百円程度)を設定しています。
例えばある銀行では月額基本料1,100円、発生記録1件220円といった具合です(料金は金融機関によって異なります)。
したがって、でんさい利用が極めて少ない企業にとってはコストメリットが薄い可能性もあります。小規模取引しかない場合は、無理に導入せず様子を見る判断も一つです。もっとも、手形利用が多い企業であれば印紙税や郵送費の削減効果で十分お釣りが来るケースがほとんどなので、過度に心配しすぎる必要はありません。
でんさい導入方法・手順【申し込みから利用開始まで】
それでは本題の「でんさい導入方法」について、具体的な手順を解説します。大まかな流れは、1) 窓口金融機関へ申し込み → 2) 審査 → 3) 利用契約締結とユーザー登録の3ステップです。順を追って見ていきましょう。
Step1. 窓口金融機関への申し込み
まず、でんさいを利用するには金融機関での手続きが必要です。あなたの会社が普段使っているメインバンクや取引銀行が、でんさいネットに参加しているかを確認しましょう。都市銀行・地方銀行・信用金庫・信用組合など、多くの金融機関が参加していますが、万一主要取引銀行が未参加の場合は別の銀行を探す必要があります。
利用金融機関が決まったら、その窓口(担当部署)に「でんさい利用申込書」を提出します。申込書の入手方法は銀行窓口や公式サイトからダウンロード等が可能です。申し込み時に必要となる書類は銀行によって多少異なりますが、一般的に以下の書類を求められるケースが多いです。
- 利用申込書(所定のフォーマットに会社情報等を記入)
- 印鑑証明書(代表者印の証明)
- 登記事項証明書(登記簿謄本) – 法人の場合(会社の基本情報確認のため)
- 代表者の本人確認書類 – 法人の場合(金融犯罪防止のため求められることがあります)
- 住民票 – 個人事業主の場合
銀行によっては他の書類や補足資料を求められる場合もありますので、事前に窓口金融機関へ必要書類リストを問い合わせておくと安心です。書類不備があると再提出で時間を取られますので、余裕を持って準備しましょう。
Step2. 金融機関での審査と承認
申込書類を提出すると、次に金融機関での審査が行われます。銀行側はあなたの会社がきちんと電子債権を扱える信用力・体制があるか確認するわけですが、実際のところ詳細な審査基準は公表されていません。一般には、銀行取引の与信審査に準じたチェック(信用情報や財務内容の確認等)が行われると考えられます。
審査にどれくらい時間がかかるかは金融機関によって異なります。早ければ数日、慎重な場合は数週間程度かかるケースもあります。申し込み時に「審査期間の目安」を尋ねておくとよいでしょう。また、手続き状況について銀行の担当者と連絡を取り合い、必要に応じ追加書類の提出や確認に対応します。
なお、審査にあたって特段の費用はかかりません。無料またはごく低額で利用開始まで進められる場合が大半です。仮に審査に通らなかった場合(極めて稀ですが)、銀行担当者と相談し、理由によっては再申込や別銀行での申込を検討しましょう。
Step3. 利用契約の締結とユーザー登録
審査を無事通過すると、「利用契約」の締結に移ります。これは申込企業(あなたの会社)・窓口金融機関・でんさいネット運営会社の三者間で交わされる契約です。契約書には、でんさいネットの業務規程や利用上の注意事項などが含まれますので、内容をよく確認した上で署名押印します。窓口金融機関から規程等の説明も受けるはずです。
契約締結が完了すると、あなたの会社には「利用者番号」が付与されます。この利用者番号(英数字9桁)は、でんさいネット上であなたの会社を識別するIDです。以後、でんさいで取引を行う際は相手方とお互いの利用者番号をやり取りして登録することになります。
例えば請求書などに「当社でんさい利用者番号:XXXXXXX」と記載しておけば、取引先同士で番号を確認できます。
こうして利用者登録が完了すれば、あとは実際にでんさいを利用開始できます。多くの場合、利用形態としては「金融機関のインターネットバンキング画面から操作」するスタイルになります。
銀行によっては専用の「でんさいサービス」画面を用意していますし、既存の法人ネットバンキングに組み込まれているケースもあります。初回ログイン時にはパスワード設定等の手順がありますので、案内に従い設定しましょう。これで、自社が支払企業の場合はでんさい発行処理が、受取企業の場合は受領処理が行えるようになります。

以下はでんさいの基本的な流れを示したものです。
- 支払企業(振出人)から納入企業(受取人)に対し、でんさい発生記録を行う
- 必要に応じて受取人がさらに別の企業へ譲渡記録する
- 期日到来時に自動決済される
実際の操作は各社の金融機関経由ででんさいネットにアクセスして行われます。
導入後はこのように取引先との間で電子債権のやり取りをすることになります。次章では、導入後の運用をスムーズに軌道に乗せるためのポイントを解説します。
でんさいを導入する際におさえておくべきポイント
仕組みを入れるだけでは定着しません取引先の合意形成、社内ルール・システム整備、段階的な移行設計、コスト把握とサービス選択です。
取引先への切替案内と合意形成
でんさい導入の第一関門は取引先の同意です。相手が未契約なら運用できないため、主要取引先へ早めに切替意向を伝え、案内文や説明資料で協力を依頼します。印紙税不要・期日自動入金・紛失リスクなしなど受取側のメリットも示し、Win-Winで理解してもらうことが重要です。
すぐ同意が難しい場合は無理強いせず、合意済みの取引先から順に切り替えて範囲を広げます。取引先の契約状況は、でんさいネットの利用状況検索サービス等で事前確認できます。
社内ルール・会計/債権管理システムの整備
社内体制として、会計システム・債権管理システムがでんさいデータ取り込みや仕訳に対応しているかを確認し、必要ならアップデートやオプション導入を検討します。
紙と電子の併用期間は二重管理が事故を生むため、台帳や照合をできるだけ一元化し、稟議・与信・割引などの社内規程も電子記録債権に合わせて見直します。担当者向けの研修やマニュアル整備、まず小口取引で試すのも有効です。
段階的な移行と併用期間の運用設計
移行は一気に進めず、例えば「今年中に半分、来年度に残り」といったロードマップを作り、取引先ごとに進捗を管理すると、2026年までの電子化完了に向けて可視化できます。併用期間中は紙の処理も残るため、体制と運用フローは現実的に設計し、必要に応じて他手段も組み合わせて対応します。
導入コストの把握と「でんさいライト」含むサービス選択
でんさいは初期費用や月額基本料、記録手数料が発生しますが、印紙代や郵送、事務工数が減るためトータルで負担減になるケースも多いです。一方で取引件数が少ない企業では基本料が重く感じられるため、少額・小規模向けの「でんさいライト」なども含め、自社の取引規模と削減効果を比較して最適な形態を選びましょう。
必要ならコスト診断ツールで効果を概算し、経営判断につなげるとスムーズです。
でんさい導入に合わせてFinTechサービスの活用も検討を
ここまで自社内の準備ポイントを述べてきましたが、「自社だけで全部進めるのは不安」という場合は、外部サービスの活用も現実的です。
でんさい(電子記録債権)は、でんさいネットを通じて原則金融機関経由で利用し、発生記録請求・譲渡記録請求・期日管理などの正式手続きは、銀行が提供するでんさい対応サービス上で行います。三菱UFJ銀行「でんさいSTATION」、三井住友銀行「でんさいサービス」、みずほ銀行「でんさいネットサービス」など、メガバンクをはじめ多くの銀行でオンライン手続きが可能です。
一方で銀行が担うのはあくまで「記録手続き」であり、請求書発行、売掛金管理、入金消込、会計処理といった周辺業務の効率化は別途必要です。ここはインフォマート「BtoBプラットフォーム 請求書」やマネーフォワード クラウド、freee会計、奉行クラウドなどのクラウドSaaSを組み合わせると、一元管理しやすくなります。
つまり、正式手続きは銀行、社内の請求・債権管理や会計連携はSaaSという役割分担が実務的で、取引先が多い企業や経理人員が限られる企業ほど移行負担を減らせます。
MCB FinTechカタログでは、でんさい導入と併せて検討したい請求管理・債権管理・会計連携などのソリューションを比較でき、複数社への資料請求も一括で行えます。資料請求は無料なので、連携方法や運用イメージを具体化するためにも、次のステップとして比較・検討を進めてみてください。
よくある質問(FAQ)
最後に、でんさい導入に関して読者の皆様から寄せられがちな疑問にQ&A形式でお答えします。
Q1. 2026年以降、でんさいの利用は必須になりますか?
A.法的に「でんさいの利用義務」が課されるわけではありません。ただし、2026年度末で全国の手形交換所における約束手形の取り扱いが終了する方針が示されており、紙の手形決済は事実上できなくなります。そのため、振込など他の手段に切り替えるか、でんさい等の電子手段へ移行する対応は不可避です。
特に手形取引が多い企業にとっては、実務上でんさいが有力な代替手段となります。「義務」ではないものの、「対応しなければ決済手段を失う可能性がある」という意味で、事実上の必須対応といえるでしょう。
Q2. 取引先がでんさい未導入の場合、取引はどうすれば?
A.でんさいは双方が利用して初めて成立する仕組みのため、取引先が未導入の場合は従来通り銀行振込や現金決済などで対応します。無理に取引を止める必要はありません。
そのうえで、印紙税不要や期日決済による資金繰り安定といったメリットを丁寧に説明し、段階的な切替を提案することが重要です。関係性を損なわないよう配慮しながら、継続的に理解を得ていく姿勢が現実的です。
Q3. でんさいの利用に費用はどれくらいかかりますか?
A.費用は金融機関によって異なりますが、一般的に月額基本料は数百円~数千円程度、発生記録や譲渡記録ごとに数百円の手数料がかかります。初期費用は無料または低額の場合が多いです。
紙手形で必要だった印紙税や郵送費、手形帳購入費が不要になるため、総コストは同程度かそれ以下に収まるケースが多いといえます。取引件数が少ない場合は基本料の負担割合が高くなるため、自社の利用頻度に応じて判断するとよいでしょう。
Q4. 「でんさいライト」と通常の「でんさい」の違いは何ですか?
A.通常版は法人向けの本格サービスで、銀行の法人向けインターネットバンキング等を通じて利用します。機能制限がなく、大口取引や分割譲渡などにも対応でき、業務システムとの連携にも適しています。
一方、でんさいライトはスマートフォンアプリで利用できる簡易版で、基本料無料など手軽に始められる点が特徴です。ただし、1取引あたり100万円までの上限など機能制限があります。小規模取引ならライト版、本格運用なら通常版が適しています。
Q5. 紙の手形とでんさいを並行して使っても良いのでしょうか?
A.移行期間中は紙とでんさいの併用が一般的です。すべての取引先が同時に電子化できるとは限らないため、段階的に切り替えていく方法が現実的です。
ただし、併用期間中は二重管理となるため、管理ミスには注意が必要です。最終的には紙手形の廃止を前提に、協力的な取引先から順次電子化を進めていくことが望ましいでしょう。
以上、でんさい導入の方法からメリット・注意点、そしてよくある疑問への回答まで解説しました。約束手形という長年の慣行を変えるのは一大プロジェクトですが、国を挙げて推進されている流れでもあります。本記事がお伝えしたポイントを参考に、ぜひ早めの検討・準備を進めてください。
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松嶋真倫
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