約束手形や小切手の廃止方針を聞いて、不安に感じていませんか。政府は2026年度末までに紙の約束手形・小切手の利用を実質的に廃止する方針を示しています。
「いつから使えなくなる?」「廃止後の資金繰りは?」と戸惑う企業も多いでしょう。
本記事では、廃止の時期と背景、企業への影響を整理したうえで、今から取るべき対応策と、代替手段(でんさい等)の特徴・選び方を分かりやすく解説します。
目次
約束手形・小切手はいつから廃止される?
まずは一番の関心事、「いつまで手形・小切手が使えるのか」について明確にしましょう。
2026年度末(2027年3月末)が廃止のタイミング
政府および業界団体の方針によれば、紙の約束手形・小切手は2026年度末までに廃止される予定です。年度末とは2027年3月末のことを指し、この時点で全国の銀行間で行われる手形・小切手の交換業務を停止し、紙の手形・小切手は取引の場から姿を消す見通しです。
⑨中小企業等のDX
約束手形・小切手の利用廃止に向けたフォローアップを行う。
新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版|内閣官房
2027年3月末までに紙の手形・小切手の交換が廃止されます。
紙の手形・小切手利用廃止へ | 一般社団法人 全国銀行協会
ただし、これはあくまで「目標」であり、法律で使用禁止になるわけではありません。2027年4月以降に紙の手形や小切手を使っても直ちに違法となるわけではなく、罰則もありません。とはいえ現実問題として、銀行が紙の手形・小切手を受け付けなくなれば事実上利用できなくなります。
したがって企業実務としては2027年3月末までをデッドラインと考え、以降は紙の手形・小切手に頼らず決済できる体制を整えておく必要があります。
廃止までのスケジュールと現在の進捗
2026年度末の全面廃止に向け、段階的なスケジュールが進行中です。主な流れを時系列で押さえておきましょう。
- 2021年6月:
- 「成長戦略実行計画」閣議決定にて「5年後(=2026年度末)の約束手形廃止・小切手全面電子化」方針が示される。
- 2021年7月:
- 全国銀行協会が自主行動計画で「2026年度末までに全国の手形交換所での手形・小切手交換枚数をゼロにする」目標を掲げる。
- 2024-25年:
- 多くの銀行が紙の手形・小切手の新規発行受付を順次終了。例えば、みずほ銀行は2024年1月4日以降に開設する当座預金口座では紙の手形・小切手を発行しない措置。三菱UFJ銀行も2025年9月30日をもって現行当座勘定での手形・小切手の発行受付を終了。
- 手形利用慣行の見直し期間。2024年11月以降は、下請取引において支払サイトが60日を超える手形を発行すると行政指導・処分の対象となり得る新ルールを施行(※詳細は後述)。
- 2026年:
- 移行最終段階。この時点で多くの企業が電子決済等へ移行済みとなり、紙の手形・小切手の流通量は大幅に減少している見込みです。2026年内には各金融機関が手形帳の発行や手形の取立(決済)受付を完全終了するスケジュールです。
以上をまとめると、「2027年3月末で完全停止」という最終目標に向け、2024~2025年中に実質的な新規発行は止まり、以降は消化試合的に残りの手形・小切手決済を処理していく段取りです。2026年度が紙の決済卒業期間と位置付けられていると考えてください。
補足: 一部「手形・小切手廃止はいつから義務?」との疑問がありますが、繰り返しになりますが法律で強制される廃止ではないため、「〇月〇日から使ってはいけない」という厳密な期限はありません。ただし銀行や交換所が扱わなくなると事実上使えないため、ビジネス実務では「2026年度末がタイムリミット」という理解が浸透しています。
なぜ約束手形・小切手は廃止されるのか?
長年利用されてきた手形・小切手が廃止される背景には、時代の流れに合わなくなった現状と中小企業保護の観点があります。ここでは大きく2つの理由を解説します。
デジタル化の時代に合わないアナログ手続き
まず一つ目の理由は、急速に進む取引のデジタル化に紙の手形・小切手が適応しなくなったことです。
手形・小切手の取り扱いには、発行のための印刷・押印、台帳への記帳、受取後の郵送・保管、銀行への持ち込みなど、多くの手間がかかります。さらに取引ごとに印紙税や郵送料といったコストも発生し、事務負担・費用負担が大きいのが実情でした。紙そのものをやり取りする以上、紛失・盗難のリスクも常につきまといます。
現代ではインターネットを介したオンライン取引が当たり前となり、ペーパーレスでスピーディーな決済手段が求められています。こうした状況下で、紙とハンコに依存する手形・小切手は「取引環境に適応しなくなっている」と指摘されてきました。
政府が2021年に手形・小切手廃止を打ち出したのも、民間のDX(デジタルトランスフォーメーション)を促進し取引の効率化を図る狙いがあります。
さらに、紙の使用に伴う社会的コストも無視できません。中小企業庁の資料によれば、手形・小切手のために紙を使用していること自体で、社会全体で年間約2,000億円ものコストが発生しているとの試算があります(全銀協)。用紙代や印紙税、郵送費、人件費などの総計ですが、非常に大きな無駄と言えます。このような非効率の解消が廃止の重要な理由です。
中小企業の資金繰り負担を軽減するため
二つ目の理由は、約束手形が中小企業の資金繰りを圧迫する要因となってきたためです。
約束手形は、支払企業(振出人)にとっては資金繰りを延ばせるメリットがありました。現金決済であれば商品受け渡しの1ヶ月後などに支払うのが通常ですが、手形であればさらに長い支払期日(例えば120日後など)を設定でき、支払を待ってもらうことが可能です。
このメリットから、高額取引が多い製造業・建設業などでは手形が長年活用されてきました。
しかしその裏で、手形を受け取る側(中小の下請企業など)の負担は非常に大きかったのです。手形は現金化まで平均して3~4ヶ月程度かかり、商品やサービスを提供しても数ヶ月はお金が入ってこない状態が続きます。
その間に支払企業が倒産すれば不渡りになり一銭も受け取れませんし、現金化を早めようと銀行に手形割引を依頼すれば高い割引料(金利相当の手数料)を取られます。つまり手形のツケは弱い立場の企業に回っていたのです。
このような不均衡への問題意識から、政府・中小企業庁や公正取引委員会は以前から手形慣行の改善に取り組んでいました。2021年の検討会報告でも、手形利用による下請企業の負担や、日本以外では手形がほとんど使われていないことなどが指摘されています。取引の適正化と下請企業保護の観点で、約束手形の廃止は避けられない流れとなったのです。
以上二つが主な理由です。まとめると、「手形・小切手は時代遅れで不便・危険だし、中小企業にも優しくない。だから電子化して効率的で公平な取引に変えましょう」というのが廃止の背景と言えるでしょう。
約束手形・小切手廃止で企業に生じる影響とは
では、実際に手形・小切手が無くなると企業にはどんな変化があるのでしょうか。ここではプラスの影響(メリット)とマイナスの影響(デメリットや課題)の両面から整理します。廃止に不安を覚えている方も多いでしょうが、メリットもしっかり存在しますので確認しましょう。
【メリット】資金繰りの改善や事務効率化などポジティブな効果
手形・小切手が廃止され電子決済へ移行すると、受取企業・支払企業それぞれに以下のようなメリットが期待できます。
資金繰りの円滑化(受取側)
紙の手形のように現金化まで何ヶ月も待たされることがなくなります。例えば電子記録債権(後述するでんさい)であれば、手形割引と同様に期日前の資金化も可能ですが、その際の手数料も低めに設定されておりコスト負担が軽減されます。
現金支払いに切り替わればなおさら、売上債権の早期回収で下請企業の資金繰り負担が大きく減るでしょう。資金繰りに余裕ができれば、経営の安定化や新たな投資・成長施策にも取り組みやすくなります。
事務作業の効率化(支払・受取双方)
手形・小切手に伴う煩雑な事務手続きが削減されます。振出のための印紙貼付や帳簿記入、受取後の銀行持ち込みや郵送といったプロセスが不要になり、経理担当者の作業時間を大幅に短縮できます。電子化すれば支払期日の管理もシステム任せにでき、ヒューマンエラー(期日忘れ・二重計上等)も防ぎやすくなります。
コスト削減(支払・受取双方)
紙とハンコの決済をやめることで、これまでかかっていた印紙税・郵送費・手形用紙代などの直接コストがゼロになります。例えば約束手形には手形金額に応じて印紙税が課税されます(10万円以上100万円以下の場合は200円、100万円超200万円以下の場合は400円など)が、電子記録債権には印紙税は非課税です。
大量の手形を扱っていた企業ほど、このコスト削減効果は無視できません。
さらに、現物保管や廃棄にかかる費用、紛失時の調査費用なども不要となり、見えにくい経費の削減にもつながります。
紛失・盗難・不正利用リスクの低減
紙の券面が存在しなくなることで、物理的な盗難・紛失の心配がほぼ無くなります。過去には小切手の盗難紛失による不正換金事件などもありましたが、電子記録債権であればデータ上のやり取りなので第三者による不正入手は極めて困難です。
また、紙の手形では一部で裏書譲渡を使った不正(融通手形)も問題視されていましたが、電子記録債権ではこうした不正利用も抑制されると期待されます。
不渡り・決済不能リスクの低減
従来、振出人が決済資金を用意できず手形が不渡りになると、受取企業は泣き寝入りでした。また不渡りを2回出すと振出人は銀行取引停止(いわゆる銀行ブラック)となり信用失墜します。
手形廃止後はこの「不渡り」という仕組み自体が無くなります。もちろん支払企業が支払期日に支払いをしなければ契約不履行となる点は変わりませんが、銀行取引停止などの制度上のペナルティがなくなるため、小切手・手形特有の信用不安システムは消えます。
以上のように、手形・小切手廃止には多くのポジティブな側面があります。特に「下請企業の資金繰り改善」や「事務・コスト削減」は政府が掲げる狙いそのものでもあり、中小企業にとって恩恵が大きいでしょう。
【デメリット】システム導入費や取引先調整など新たな課題も
良いことばかりに見える手形廃止ですが、実際に移行する際にはいくつかの課題や注意点もあります。ここでは企業が直面しうるデメリット・懸念点を整理します。
代替となる決済方法の導入コスト
紙の決済をやめる以上、代わりの電子決済手段を用意しなければなりません。約束手形の機能(信用供与や割引等)を代替するには電子記録債権(でんさい)の導入が推奨されています。
しかし、でんさいを利用するには金融機関との契約や社内システム対応が必要で、初期費用や手間がかかります。
また場合によっては社内システムをアップグレードしたりと、IT投資コストが発生します。中小企業にとってはこの初期費用やランニングコストが負担に感じられるケースもあるでしょう。
セキュリティ・運用面の強化が必要
電子決済に移行すると、サイバーセキュリティの重要性が高まります。紙の紛失リスクは無くなりますが、フィッシング詐欺やなりすまし請求などデジタルならではのリスクには注意が必要です。
例えば、「請求書の送付先メールが乗っ取られ口座を書き換えられる」等の事例も考えられます。したがって社員へのセキュリティ教育や、電子取引システムへの十分なアクセス制限・認証強化など、新たなリスク対策に取り組む必要があります。
取引先との調整・交渉
決済方法の変更は、自社だけでは完結しません。取引先にも協力してもらう必要があります。特に親会社・大口発注者がまだ手形を使っている場合、下請企業としては「手形ではなく現金(またはでんさい)で支払ってほしい」と交渉しなければなりません。長年の慣習で手形払いが定着している相手には説得が難航する可能性もあります。
一方、自社が支払側で取引先が手形を希望する場合も、「何とか電子決済に切り替えてほしい」と依頼・説明する手間がかかります。業界全体で同時進行なら良いですが、移行時期は企業によってズレる可能性もあり、その過渡期において支払条件の個別調整が増えることが予想されます。
一時的な資金繰り悪化(発行側)
廃止直後には「支払猶予が無くなり資金繰りが厳しい」「慣れない電子システムでミスが起きた」等の混乱も一部懸念されています。特に、これまで120日サイトに頼っていた企業には資金繰り上のショックがあり得ます。
そうした企業は銀行借入等で対応する必要がありますが、それも含めた計画を立てないと「廃止で経営が傾く」など本末転倒な事態も起こりかねません。
以上のように、手形・小切手の廃止には乗り越えるべきハードルも存在します。しかし、これらは事前に対策を講じたり周到に準備したりすることで十分対応可能なものです。
小切手・約束手形の廃止後、代替手段は何がある?
小切手・手形の廃止により、企業間取引の決済手段は大きな転換点を迎えます。ここでは、主な代替手段について、受領企業(売掛側)と発行企業(買掛側)それぞれの視点から、その特徴やメリット・注意点を整理します。
代替手段1:でんさい(電子記録債権)
でんさい(電子記録債権)は、紙の手形に代わる電子的な金銭債権です。でんさいネットを通じて債権の発行・譲渡・決済が行われ、印紙税や郵送の手間を省きつつ、支払サイトの維持や債権流動化も可能です。
受領企業:
- 債権譲渡や期日前割引(資金化)が可能で、紙の手形に近い運用ができる
- 紛失・盗難リスクがなく、電子上での記録・管理が可能
- ただし、取引先(発行企業)がでんさいに対応していなければ利用できない
- 自社システムとの連携によって運用効率化も期待できる
発行企業:
- 支払期日の維持が可能で、資金繰りのコントロールがしやすい
- 印紙税や郵送コストが不要となり、事務負担の削減が見込める
- 利用には金融機関との契約・初期設定・社内ルールの整備が必要
- 取引先にも導入を促す必要があるため、浸透には一定の時間がかかる
でんさいの導入手順や注意点は『約束手形廃止に備えるでんさい導入方法|メリットから移行ステップ・注意点まで徹底解説』で詳しく解説しています。
代替手段2:銀行振込(インターネットバンキング)
銀行振込は、企業間決済で最も一般的な手段です。指定期日に取引先の口座へ直接送金する仕組みで、オンライン対応により利便性が高く、導入の即応性に優れています。
受領企業:
- 即時入金で現金化がスムーズ。回収リスクが低下
- 多くの企業がすでに対応済みで、導入ハードルが低い
- ただし、従来の手形よりも支払サイトが短くなる可能性あり
- 相手先の送金ミスや確認手続きの負荷が増すケースも
発行企業:
- 手形に比べ即時性が高く、振込スケジュールに柔軟性あり
- インターネットバンキングで24時間対応でき、業務効率化可能
- サイト短縮により運転資金確保がより重要に
- 口座情報管理、振込ミスの防止策など内部統制が求められる
代替手段3:法人クレジットカード、決済代行サービス
法人クレジットカードや決済代行サービスを活用することで、支払を先延ばししながら売り手には即時入金を提供することができます。小口取引や経費精算に加え、資金繰りの調整にも役立ちます。
受領企業:
- 即時入金や与信リスクの軽減が期待できる(決済代行の利用含む)
- ただし、加盟店手数料が数%発生し、利益を圧迫する可能性あり
- カード決済に対応したシステム・契約が必要
発行企業:
- 利用月から最大60日程度の支払猶予が得られ、資金繰りに余裕
- 振込手数料が不要で、小口決済の手間削減にも有効
- 利用限度額や対象取引先の制限あり。社内のカード運用ルール整備も必要
- BtoB決済代行サービスを活用することで導入障壁は下げられる
代替手段4:電子マネー決済(ICカード・QRコード決済)
交通系ICカードやQRコード決済などの電子マネーは、主に小口支払い・経費精算に利用され、現金や紙の領収処理の手間を減らすキャッシュレス手段として活用されています。
受領企業:
- 経費精算や小口支払の効率化に役立つ
- 即時決済・キャッシュレス化により経理業務が軽減
- ただし高額取引には不向き。加盟店対応の確認が必要
発行企業:
- 少額支払や社内経費処理のデジタル化に活用可能
- 社員の経費精算の負担が減る
- 使える場面が限られるため、限定的な活用にとどまる
代替手段5:ファクタリング
ファクタリングは、売掛債権をファクタリング会社に売却して現金化する資金調達手段です。手形割引に似ていますが、請求書債権なども対象となるため、汎用性が高いのが特徴です。
受領企業:
- サイトの長い債権を早期資金化でき、キャッシュフローを安定させやすい
- オンライン完結型のサービスもあり、スピーディな導入が可能
- 手数料(5〜10%前後)が発生し、コスト負担がネック
発行企業:
- 直接的な利用は少ないが、取引先の資金ニーズや交渉材料として理解しておくことが重要
- 債権者側の早期資金化を認めることで、取引関係の継続・円滑化に寄与する可能性あり
このように各代替手段には、発行企業・受領企業それぞれに異なるメリットと注意点があります。たとえば、でんさいは従来の支払サイトを維持しやすく、紙の手形に近い運用が可能ですが、導入には一定の準備が必要です。一方で、銀行振込やクレジットカード決済は手軽に利用できる反面、資金繰りへの影響やコスト面の課題もあります。
自社の業種・取引規模・資金繰り方針・取引先の対応状況などを踏まえて、どの手段が適しているかを見極めることが重要です。
約束手形・小切手廃止に向け企業が取るべき対応策
手形・小切手の廃止時期と代替策が把握できたら、あとは実行あるのみです。この章では、企業が廃止までの期間に「やるべきこと」を具体的にリストアップします。自社の状況に照らし、一つずつ準備を進めましょう。
1. 自社の手形・小切手利用状況を把握する
まずは現状分析です。自社がどの程度手形・小切手に依存しているかを正確に把握しましょう。ポイントは以下の通りです。
- 年間発行(受入)枚数・金額の把握
- 毎年何枚くらい手形や小切手を振り出していますか?またはいくつ受け取っていますか?金額ベースでは売上債権全体の何%を占めますか?これを洗い出すと、移行による影響度(インパクト)が見えてきます。例えば「100社中2社との取引でしか使っていない」なら限定的ですが、「主要取引先ほぼ全社と手形取引」なら影響大です。
- 取引先ごとの利用状況
- どの取引先と手形決済を行っているか一覧化します。加えて、その取引先が手形を支払手段として使っている理由も可能なら想定しましょう(慣習なのか資金繰り上の必要性なのか)。後の交渉で役立ちます。
- 社内ルール・帳票類
- 社内の経理規程や与信管理ルールで、手形・小切手に関する取り決めがある場合、内容を確認します(例:「受取手形は120日サイトまで容認」「小切手持参時の経理処理フロー」など)。また会計処理上、受取手形勘定や支払手形勘定の運用方法、手形帳の在庫状況などもチェックします。不要になる手形用紙が大量に残っていないか、など細部も含めて棚卸しします。
現状把握なくして有効な対策は打てません。時間をかけずにまずデータを集計し、自社の「手形依存度」を定量的に掴んでください。そうすれば次のステップで「どこから手を付けるか」の優先順位が見えてきます。
2. 支払条件の見直し(サイト短縮等)
続いて、取引条件(特に支払サイト=支払までの期間)を見直す作業です。これは自社が支払側であっても受取側であっても重要なポイントになります。
公正取引委員会と中小企業庁の通達(2021年3月31日付)では、前述したように「下請代金の手形サイトは60日以内に」と要請されています。さらにその実施目途が「おおむね3年以内(=2024年3月まで)」と示唆されました。この通り、多くの大企業は支払サイトを120日→60日に短縮する取り組みを進めています。
したがって、まだ120日サイトの手形条件で支払っている企業は、すぐにでも60日以内へ見直す必要があります。親事業者側であるなら、下請企業と協議の上で契約書の支払条件を修正する必要がありますし、下請側なら親事業者に短縮を要請しましょう。
「法律上の義務ではない」とはいえ、業界全体のコンプライアンスや持続可能性の観点からサイト短縮は避けられない流れです。
また、単に支払サイトを短縮するだけでなく、「可能な限り現金払いにする」ことも求められています。今後は「短期サイト+現金(振込)」または「60日以内サイト+でんさい」が主流になると見られます。
資金繰りに不安がある場合は、完全な現金化にこだわらず、60日以内のでんさい支払いを選ぶことも現実的な対応です。一方、受取側にとっては即現金化が望ましく、双方の状況を踏まえながら、取引条件を見直すことが重要です。
3. 代替手段の選定と社内ルール策定
次に、具体的にどの決済手段を採用するかを決めます。すでに前章で様々な選択肢を見てきましたが、ここで自社および主要取引先にフィットする方法を選定しましょう。また、それらをどのように使い分けるかといった社内ルールも合わせて決めておくとスムーズです。
代替手段の選定
基本的には以下のいずれか、または複数併用になります。
- 主要取引には「でんさい」を導入するか否か
- 手形・小切手の代替を「銀行振込中心」でいくか
- 一部取引で「カード決済」等を採用するか
例えば「長期サイトを要する取引が多いので、でんさいは必須。でも小口の反復取引は都度振込にしよう」「取引先が零細企業中心なので全社振込に切り替える。ただし月々の支払件数が多いので一括振込サービスを導入する」等、業態によって方針は様々でしょう。
社内ルール策定
代替手段を決めたら、それをどのように運用するか社内規程やマニュアルを作ります。ポイントは以下です。
- 利用基準の明確化
- 例えば「取引金額が○○円以上or支払条件○ヶ月以上の場合はでんさい、それ以下は振込」といった基準を決めておくと、営業担当者が新規取引条件を決める際に迷いません。また受取側の場合、「原則すべて現金(振込)で依頼。ただし相手が希望する場合は60日サイト以内ででんさい受取も許容」など、自社方針を整理します。
- 承認フロー
- 手形廃止後、でんさい発生記録やカード払いなど新しい決済には新しい承認ステップが必要になるかもしれません。誰が発行データを入力し、誰が最終承認するか、振込と同じで良いのか等を検討し、社内の稟議フローを調整します。
- 経理処理方法
- 会計上の仕訳ルールも明確にします。特に電子記録債権を使う場合、貸借対照表科目として「電子記録債権」「電子記録債務」を使うことになります。社内の勘定科目体系に追加が必要か確認しましょう(既に最新の会計ソフトには科目が用意されています)。
これらを文書化(規程改定やマニュアル作成)し、社内周知することが後の混乱を防ぎます。
4. 取引先への事前周知と協議
社内の方針を固めたら、社外(取引先)への説明・交渉に移ります。お互いに合意しなければ決済方法は変えられませんので、早め早めのコミュニケーションが肝心です。
主要取引先への案内
まずは手形・小切手取引をしている取引先に対し、「〇月をもって紙の手形・小切手による支払いを終了し、今後は△△による決済とさせていただきたく存じます」と事前に案内文を出しましょう。経済産業省や全国銀行協会から手形廃止のリーフレット等も出ていますので、それらを添付して「世の中全体の動きである」ことを理解してもらうとスムーズです。
個別協議の実施
案内だけでなく、重要な取引先とは直接話し合いを持つことをおすすめします。特に下請企業の立場で親会社と交渉する場合、単に「手形は嫌なので現金にしてください」ではなく、具体的な理由や双方のメリットを伝えると良いでしょう。
また交渉のタイミングも重要で、新規契約時や契約更新時など節目に合わせて提案するのが効果的です。
費用負担の取り決め
取引先との協議では、例えば「でんさいの手数料はどちらが負担するのか」「カード決済手数料○%分、単価に加算して良いか」など費用負担のルールも決めておきましょう。下請ガイドラインでは、手形割引料など下請側負担がないよう親子で十分協議せよとされています。
これに倣い、親事業者は可能な限りコストを持つ姿勢が望ましいですが、現実問題として納入価格に織り込む等の形で調整するケースもあるでしょう。
合意内容の文書化
決まった内容は契約書や基本合意書に反映しておきます。支払条件(サイト、決済方法、振込口座等)は書面に残しましょう。後で担当者が変わっても混乱しないようにするためです。
これらの協議は早めに開始し、2026年度末のかなり前(理想は2024~2025年中)に新しい条件に合意しておくことが望ましいです。
5. 社内システム・経理業務フローの改修
取引条件が決まったら、社内システムや業務フローを新しい決済方法に合わせて変更します。
会計・債権管理システムの対応
手形や小切手に関する設定は不要となるため、システム上の関連メニューは削除・無効化します。代わりに電子記録債権やでんさいに対応する機能があるか確認し、必要に応じてシステム更新や会計ソフトのバージョンアップを行いましょう。
連携機能がない場合はCSV取込などで代用できますが、件数が多ければ刷新を検討すべきです。
経理・営業の業務フロー変更
受取手形の取立依頼など紙運用の作業がなくなり、電子データの照合や入金確認が中心となります。請求書や見積書の表記方法、通知手段なども変更が必要です。部署横断で現行フローを洗い出し、どこに影響があるかを明確にしておくことが重要です。
6. 従業員への教育・トレーニング
最後に、社内教育です。経理・財務担当者だけでなく、営業や管理部門など関係者全員に手形・小切手廃止の背景と新体制を周知することが大切です。
社内説明と方針共有
手形廃止の背景やメリット、自社の対応方針(例:でんさい導入、支払サイト短縮など)を説明し、関係部署での変更点を共有します。目的を明確に伝えることで社内理解を得やすくなります。
実務トレーニングの実施
経理担当者にはでんさい操作や新しい振込手順の習熟を、営業担当者には取引先への説明対応などの実務訓練を行います。銀行のマニュアルやテスト環境も活用すると効果的です。
移行スケジュールと継続的フォロー
制度の完全廃止は2026年度末ですが、移行は早めに着手し、2025年中の完了を目指しましょう。定期的な進捗確認と社内フォロー体制の構築が重要です。
7. 金融機関や専門家への相談
自社だけで解決が難しい場合は、遠慮なく外部の力を借りることも検討してください。
取引金融機関への相談
メインバンクは今回の件で各社支援策を用意しています。でんさい導入に関する質問や、場合によっては資金繰り支援(運転資金の増額融資等)も相談に乗ってくれるでしょう。銀行も顧客企業が混乱すると困るので、セミナー開催や個別相談を受け付けています。企業側から積極的に情報収集・質問をして、連携して進めるのがおすすめです。
IT・会計の専門家への相談
自社のシステム対応や業務フロー改革に不安があれば、ITコンサルタントや会計士・税理士など専門家に相談するのも手です。特に会計士・税理士は多くの企業の事例を知っているため、「他社はこうしている」という有益な情報を提供してくれるでしょう。
商工会議所や中小企業支援センターでも相談窓口を設けている場合がありますので、地域の支援策もチェックしてください。
以上、企業が取るべき主な対応策を7つ挙げました。ポイントは、早めに計画を立てて順次実行することです。手形・小切手は100年以上日本の商取引で使われてきた慣習ですが、それが変わる転換期にいます。
逆に言えば、ここでしっかり対応すれば経理業務の近代化・効率化が大きく進むチャンスです。ぜひ前向きに捉えて、社内外の協力を得ながらスムーズな移行を目指しましょう。
よくある質問(FAQ)
最後に、手形・小切手廃止に関してよく寄せられる疑問にQ&A形式でお答えします。
Q.約束手形・小切手の廃止はいつから?
A.2026年度末、すなわち2027年3月末をもって紙の約束手形・小切手の取扱いは事実上終了します。法律上の使用禁止ではありませんが、全国銀行協会が手形交換業務を終了するため、実務では使用できなくなります。
また、金融機関の多くが2025年中に新規発行や取り立てを停止する予定です。例えば三菱UFJ銀行では、2025年9月末で紙の手形・小切手の発行受付を終了予定。2025年末までの移行完了が現実的な目安です。
Q.2027年以降に紙の手形や小切手を使ったら罰則はある?
A.罰則はありません。法律改正により使用が禁止されるわけではないため、2027年4月以降に所持・使用しても処罰対象にはなりません。
ただし、銀行や交換所で取扱いが終了しているため、決済手段としては機能しません。現金化もできず、実質的には“使えない状態”になります。事実上、2026年度末が最終使用期限と考えるべきです。
Q.なぜ約束手形が廃止されるのですか?
A.中小企業の資金繰り負担や事務手続きの非効率さが問題視されたことが主な理由です。支払側には有利でも、受取側が長期サイトで資金を待たされる構造が常態化していました。
また、紛失リスクや手間が多く、デジタル化が進む現代にそぐわない決済手段となっています。政府はこれを中小企業支援と取引の健全化の一環として位置づけ、廃止を後押ししています。
Q.廃止後の支払いは何を使えば良い?
A.メインは電子記録債権(でんさい)です。手形と同様の機能を持ちつつ、オンライン完結・印紙税不要など多くの利点があります。割引も可能で、長期サイトの代替に最適です。
そのほか、通常の銀行振込(現金払い)も主流です。小切手の代替や短期サイトの取引であれば振込で十分。一部ではクレジットカードや決済代行サービスも選択肢になります。取引規模や相手先に応じた使い分けがポイントです。
Q.電子記録債権(でんさい)はどうやって導入する?
A.まず、取引銀行に申し込みます。契約後に発行される「利用者コード」により、専用Webやインターネットバンキングで発行・譲渡・残高確認などが可能になります。
併せて、会計システムや債権管理ツールの対応状況も確認しましょう。でんさいに対応した科目設定や連携設定が必要です。銀行のマニュアルや操作サポートを活用すれば、スムーズな導入が可能です。
まとめ|電子決済への移行を早めに進めましょう
紙の約束手形・小切手は、2026年度末(2027年3月末)を目標に利用廃止が進みます。罰則はありませんが、銀行側が紙を扱わなくなれば、対応が遅い企業ほど実務で困る可能性が高まります。早めに電子決済への移行準備を進めましょう。
手形・小切手の廃止は負担だけではなく、電子化によって資金繰りの改善、事務作業やコストの削減につながるチャンスでもあります。まずは現状把握と社内方針の決定から始め、社内外への説明と調整を丁寧に進めてください。インボイス制度や電子帳簿保存など周辺のデジタル化も追い風になります。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修者は記事の内容について監修しています。



