2025年8月27日、Google CloudのWeb3戦略責任者であるRich Widmann氏が、金融セクター向けの独自ブロックチェーン「Google Cloud Universal Ledger(GCUL)」を開発中であると発表しました。
大手フィンテック企業であるStripeやCircleも同様のプロジェクトを進めており、次世代の金融インフラを巡る競争が本格化しています。
今回は、この発表が持つ意味と、大手企業がひしめくこの領域の動向について解説します。
※本記事の内容は、マネックスクリプトバンクが週次で配信しているニュースレター「MCB FinTechカタログ通信」の抜粋です。毎週月曜17時に配信しており、無料でご購読いただくと、FinTech・Web3の注目トピックスを解説するニュースレターに加え、注目の特集記事、ビットコイン最新動向や相場予想などもお読みいただけます。
目次
GCUL(Google Cloud Universal Ledger)の詳細
Rich Widmann氏のLinkedIn投稿やGoogle Cloudの公式情報によると、GCULは金融機関に対し、「高性能かつ信頼できる中立的な」ブロックチェーン基盤を提供することを目指しています。 現在、GCULはプライベートテストネットの段階にありますが、現時点で判明している特徴は以下の通りです。
大手金融機関との連携: 世界最大級のコモディティ取引所を運営するCMEグループが、決済および資産トークン化の分野においてGCULを活用したソリューションの試験導入を開始していることを、Widmann氏が明らかにしています。
パーミッション型: Google Cloudが管理主体となる、許可されたエンティティのみがデータへのアクセスやトランザクションの検証に参加できる「パーミッション型ブロックチェーン」として運用されます。コンプライアンスを重視する金融機関向けの設計です。
Pythonベースのスマートコントラクト: Web3分野で主流の言語(Ethereumが用いるSolidityなど)ではなく、金融業界で広く使われているPythonを採用することで、既存の開発者が参入しやすい環境を整えています。
なぜ大手テック企業が独自ブロックチェーンを開発するのか
Google Cloudによる独自ブロックチェーンの開発は、自社の既存事業を強化するための戦略的な動きと捉えることができます。 GCULが「パーミッション型」である点は、そのビジネスモデルを理解する上で重要です。Ethereumのようなパーミッション型ではないオープンなブロックチェーンでは、取引手数料(ガス代)は不特定多数のバリデーターへの報酬となります。一方で、GCULのような企業が管理するブロックチェーンでは、自社または選ばれたパートナーをバリデーターに指定し、ネットワーク上で発生する取引手数料を収益源とすることが可能です。
Google Cloudはバリデーターの運用に必要となるコンピューティングリソースを自社で保有しているため、その点においても優位であるといえます。
また、収益は取引手数料だけにとどまりません。より重要なのは、ブロックチェーンが自社の既存サービス利用を促進する「ハブ」として機能する点です。例えば、金融機関がGCUL上でシステムを構築すれば、その周辺のデータ分析やセキュリティ基盤として、自然とGoogle Cloud Platform(GCP)が採用されやすくなると考えられます。これは、顧客を自社のクラウドエコシステムに深く取り込むための強力な手段です。 同様に、Stripeにとっては決済事業の、CircleにとってはUSDCという自社ステーブルコインの利用拡大に直結します。自社でインフラの最下層(レイヤー1)をコントロールすることで、手数料の最適化やサービスの垂直統合が可能になり、競合に対する優位性を築く狙いがあるのです。
競合プロジェクトとの比較
金融・決済領域のブロックチェーン開発競争では、Google Cloudの他にStripeとCircleが先行しています。Circleは2025年8月12日に独自のブロックチェーンである「Arc」を発表しています。また、Stripeは公式に発表はしていないものの、2025年8月11日に独自ブロックチェーン「Tempo」を開発中であるという報道がありました。以下の図は、Widmann氏が作成したそれぞれの特徴を示したものです。

Stripeが開発する「Tempo」の強みは、Stripeの持つ決済基盤や、すでにStripeが買収済みであるBridgeやPrivyといったWeb3インフラとの連携です。Bridgeはステーブルコイン決済プラットフォーム、Privyはウォレット基盤となっており、ブロックチェーン上での決済に必要となる技術スタックを網羅しています。
Circleが開発する「Arc」は、自社で発行する米ドルステーブルコイン「USDC」を取引手数料(ガス代)の支払いに利用できるため、金融機関にとって会計処理がしやすい・予測しやすいことが強みとなっています。
また、「Arc」と「Tempo」はいずれもEVM互換性(Ethereumとの互換性)があるとされています。
考察
Googleのような巨大テック企業が、金融インフラの中核を担おうとする動きは、業界に大きな影響を与えるでしょう。特に、GCULがスマートコントラクト言語としてPythonを採用した点は、特筆に値します。金融機関に在籍するPython開発者を直接取り込むことで開発のハードルを下げ、既存の金融システムのロジックをスムーズに移行させることを狙っていると考えられます。
その一方で、GCULはGoogle Cloudが管理するパーミッション型ブロックチェーンであるため、「真に中立的かつ分散的か」という点については、コミュニティから懐疑的な見方も出ています。 特定の企業に依存する中央集権的なインフラは、ブロックチェーンが本来目指した思想とは異なるとの指摘です。
今後注目すべきは、各プラットフォームが実際にどのような金融機関やアプリケーションを自社のエコシステムに取り込み、具体的なユースケースを生み出せるかという点です。企業の技術選定や事業戦略を考える上でも、これらのインフラが互いに連携する未来が訪れるのか、あるいは特定のプラットフォームがデファクトスタンダードとなるのか、各社の動向を引き続き注視していく必要があります。
解説コメントを毎週お届けする「MCB FinTechカタログ通信」
毎週月曜17時に配信。無料でご購読いただくと、FinTech・Web3の注目トピックスを解説するニュースレターに加え、注目の特集記事、ビットコイン最新動向や相場予想などもお読みいただけます。






