最近「M&A」という言葉を耳にしつつも、「自社に関係あるのか」「何を指すのか」と疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。事業承継や成長戦略を考える中で、不安と関心が入り混じるテーマかもしれません。
M&A(エムアンドエー)とは企業の合併・買収を指しますが、近年では中小企業にとっても身近な経営手法となっています。実際、日本では中小企業のM&A件数が増加しており、後継者不在の解消や事業拡大の選択肢として注目されています。
本記事では、M&Aの基本から目的・メリット、進め方の流れまでを初心者向けに解説します。あわせて注意点や成功のポイントにも触れ、「M&Aを活用すると何が変わるのか」を分かりやすく整理します。
M&Aの全体像をつかみたい方は、ぜひ読み進めてみてください。
目次
M&Aとは?仕組みを簡単にわかりやすく解説
M&A(エムアンドエー)とは「Merger(合併) & Acquisition(買収)」の略で、企業の合併や買収によって経営権や事業を他社と統合することを指します。文字通り一つ以上の会社が一体化するイメージで、たとえばA社とB社が合併して一つの会社になったり、A社がB社を買収して自社グループに取り込んだりすることです。
一般的にニュースで「M&A」と言えば、この合併や買収全般をまとめて指しています(狭義には合併・買収だけですが、場合によっては業務提携など資本参加を含め広く使われます)。
M&Aはビジネスにおいて、企業が成長戦略や課題解決のために用いる重要な手段です。自社だけの努力(内部成長)では得られない技術や人材、顧客基盤を他社との統合で獲得したり、後継者がいない企業が第三者に会社を譲って存続させたりと、その活用場面は様々です。
特に日本の中小企業では後継者不在が深刻な問題となっており、事業承継の解決策としてM&A(第三者承継)が注目されています。また、成長意欲のある企業にとっても、新規分野に参入したいときに既に成功している会社を買収する方が速い、というケースが増えています。

要するに、M&Aとは企業同士の「結婚」のようなものです。お互いの強みを合わせ、弱みを補完し合うことで単独では成し得ない未来を築くことができます。ただし、それにはお互いの相性や条件の折り合いも重要です。この後では、そんなM&Aを企業がなぜ行うのか(目的)、そしてどんな利点・課題があるのかを見ていきましょう。
M&Aと混同されがちな「企業買収」については『企業買収とは?M&Aとの違いから手法、メリット、成功の秘訣まで経営者向けに徹底解説』をご覧ください。
M&Aを行う目的とメリット
企業がM&Aを決断する背景には、明確な経営上の目的があります。ここでは、売却する側(譲渡企業)と買収する側(譲受企業)のそれぞれについて、主な目的・メリットを整理します。
売り手企業(譲渡側)の目的・メリット
後継者問題の解決
社長の高齢化などで後継者がいない場合、M&Aにより第三者に事業を引き継ぐことで会社を存続できます。自分の子どもや親族に継がせられなくても、適切な買い手が見つかれば社員や取引先とともに会社の歴史を続けることが可能です。
実際、少子高齢化に伴い「子に事業を継がせない・継げない」中小企業が増えており、M&Aが事業承継問題の有力な解決策となっています。
従業員の雇用維持・企業の存続
M&Aによって強い企業の傘下に入れば、経営基盤が安定し社員の雇用を守れます。中小企業同士のM&Aでは、「従業員の雇用を守ってくれること」を買い手選定の条件にするケースも多いです。
例えば、大手企業に買われた場合、社員は新オーナーの下で従来と同じ待遇で働き続けられることが一般的です。また、給与や福利厚生が向上する場合もあり、従業員にとってもメリットがあります。会社を畳めば雇用は失われますが、M&Aなら社員の雇用の場を残せるのです。
創業者利益の獲得(キャピタルゲイン)
上場していない中小企業では、創業オーナーが会社株式を現金化する機会はほとんどありません。しかしM&Aで株式譲渡を行えば、オーナー経営者は株式の売却益(創業者利潤)を得ることができます。
長年築いた事業の価値を現金という形で手にし、引退後の資金や新たな挑戦の原資にできます。近年は「事業を大きく育てて売却する」(エグジット戦略)前提で起業し、ある程度成長したらM&Aで売却する起業家も出てきています。それだけ中小企業の株式も資産になる時代と言えます。
事業の更なる発展
自社では成し遂げられない事業成長を、他社に託すという考え方もあります。例えば、自社事業をより大きなグループの一員にしてもらうことで、設備投資や営業チャネル拡大など単独では難しかった成長を実現できる可能性があります。
また、売却により得た資金を別事業に集中投下して新たな展開を図る経営者もいます(選択と集中)。M&Aによって企業を譲ることは終わりではなく、次の展開へのステップともなり得るのです。
買い手企業(譲受側)の目的・メリット
市場シェア・事業規模の拡大
買い手企業にとって最大の目的は事業規模を一気に拡大できることです。競合他社を買収すれば、その会社の顧客や売上をごそっと自社に取り込めます。新たな支店をゼロから展開するより、既にその地域で実績のある会社を買った方が早いわけです。
また、同業他社を取り込めば業界シェアが上がり、競争優位性を高めることができます。激しい市場競争下では、スピード勝負で規模拡大できるM&Aは大きな武器となります。
新規事業への参入・多角化
未経験の分野に進出する際、M&Aは有効な手段です。自前で一から立ち上げると時間とリスクがかかりますが、既にその分野で成功している企業を買収すれば短期間でノウハウや顧客基盤を獲得できます。例えば製造業の会社がIT事業に参入したい場合、IT企業を買えば人材も技術も一挙に手に入ります。
こうして事業ポートフォリオを多角化し、複数の収益源を持つことで経営の安定性も増します。自社単独の新規事業だと成功するか不確実ですが、M&Aなら成功確率の高い既存事業を取り込める点で優れています。
経営資源の獲得(技術・人材・ブランドなど)
M&Aは単に売上や顧客を増やすだけでなく、足りない経営資源を補う手段でもあります。例えば、優れた技術を持つ中小企業を買えば自社の技術力が一気に向上します。他にも、老舗企業を買収してそのブランド力や信用を得たり、優秀なエンジニアや職人といった人材を確保する目的でM&Aが行われることもあります。
日本では人材不足が深刻ですが、M&Aなら組織ごと人を迎え入れられるため即戦力確保につながります。また、許認可事業の場合は相手企業が持つ免許・許認可を承継できる点もメリットです。このように、自社に足りないピースを埋めるのが買い手側メリットの一つです。
経営効率化・シナジー効果
同業他社を買収すると、規模の経済(スケールメリット)による効率化が期待できます。たとえば仕入れを一本化してコストダウンを図ったり、重複する部署を統合して人件費を削減したりといった効果です。
同じ業界内のM&Aではこの経営効率化が大きな目的になります。
また、異業種でもお互いの強みを組み合わせて新しい価値を生むシナジー効果を狙えます。製品と販売チャネルの組み合わせで売上増、技術と資金の組み合わせで革新的商品開発、など1+1を3にも4にもする相乗効果がM&Aにはあります。
もちろん思惑通りにいかないケースもありますが、成功すれば単独では得られなかった利益向上が望めます。
以上のように、M&Aには売り手・買い手双方に多くの目的とメリットがあります。まとめれば、売り手は「守り」と「次への一手」のため、買い手は「攻め」の成長のためにM&Aを活用する傾向があります。お互いの利害が一致することが、良いM&A成立の前提条件です。
では逆に、M&Aにはどんなデメリットやリスクがあるのか、次に確認しておきましょう。
M&Aのデメリット・注意すべき点
メリットが大きいM&Aですが、当然ながらリスクやデメリットも存在します。事前に注意点を理解しておくことが大切です。ここでは売り手側・買い手側それぞれのデメリット、および共通する課題を説明します。
売り手側のデメリット・注意点
思い通りに進まない場合がある
M&Aプロセスは自社だけでは完結せず相手あってのものです。希望条件(売却額や相手企業の属性)が高すぎると相手が見つからないこともありますし、交渉が長引いて当初の予定より時間やコストがかかるケースもあります。中には交渉途中で相手が買収を撤回することもあり得ます。
また、基本合意してもデューデリジェンスで問題が見つかり破談…ということもゼロではありません。必ずしも計画通りに成約するとは限らない点は念頭に置く必要があります。
社内外への影響・不安の発生
M&Aを決断した後、難しいのが従業員や取引先への説明です。突然「会社を売ります」と聞けば社員は驚き不安になるでしょう。待遇はどうなるのか、リストラされないか、といった心配が広がれば士気が下がり業績にも影響します。
主要取引先にも契約上の確認事項(チェンジオブコントロール条項=経営権移動時の契約見直し規定)がある場合、事前承諾が必要です。
こうした周囲への説明・調整には神経を使います。情報漏洩を防びつつキーパーソンには理解を得るという綱渡りが必要で、コミュニケーション不足はトラブルのもとになります。
売り手側にとってM&Aは、経営者だけでなく従業員にも大きな影響を与える重要な意思決定です。従業員・経営者への具体的な影響や考え方については、『会社買収されるとどうなる?従業員・経営者の影響からリストラ対策、M&Aを乗り越える行動指針』で詳しく解説しています。
企業文化や方針の違い
売却後、自社が誰かの傘下に入ると経営方針や社風が変わる可能性があります。オーナー経営者が代わるわけですから、今までのやり方が通用しなくなるかもしれません。社員にとっても新オーナーの文化に適応できるか不安材料です。
企業文化の融合はM&A後の大きな課題であり、売り手としても「自社の文化や理念を理解してくれる相手か」を見極めることが重要です。これを怠ると、売却後に「こんなはずでは…」という事態になりかねません。
買い手側のデメリット・注意点
期待した効果がすぐ出ない
M&A後にすぐ業績が上向くとは限りません。買収企業の統合には時間がかかり、シナジー効果が表れるまで数年を要することも普通です。短期で成果が出ないからと焦ってしまうと、かえって統合作業が拙速になり失敗する恐れがあります。経営陣は中長期的視点で統合プロセスを見守る忍耐が必要です。
簿外債務や隠れたリスク
デューデリジェンスで調べても、簿外債務(帳簿に表れていない負債)など思わぬリスクを承継してしまう可能性があります。例えば過去の環境汚染対策費用や訴訟リスクなど、帳簿だけでは見えない問題もあります。また買収先の技術が思ったほど独自性がなかった、顧客が離反してしまった、など事前予想と違う展開になることもあります。
要するに買ってみるまで分からない部分がゼロにはできません。これを極力減らすには綿密な調査と経験豊富なプロの目が必要です。それでも想定外リスクは残り得ると理解しておくことが大事です。
統合コストと組織混乱
企業同士を一つにまとめるには、システム統合や人事制度調整など様々なコストがかかります。ITシステムを統一するだけでも多額の投資が必要ですし、組織図を変えればポスト調整で人心にも影響します。
PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)と呼ばれる統合作業を計画的に行わないと、せっかく買った会社の良さを活かせず無駄にしてしまう恐れがあります。
具体的には、重要な人材が統合ストレスで辞めてしまったり、顧客対応が混乱して信用を落としたり、といったリスクです。買い手側は、「買って終わりではなく統合からが勝負」という意識で臨む必要があります。
共通の注意点
売り手・買い手に共通するのは、相手選びを間違えないことです。目的に合わない相手と組んでもシナジーは生まれませんし、条件交渉も難航します。最初に誰と組むかで成功確率の大半が決まると言っても過言ではありません。
また、秘密保持と情報管理も両者に大事なポイントです。M&A交渉では他社の機密情報を扱うため、漏洩すれば信用問題になります。噂が広まって社員が動揺…ということの無いよう、情報管理ルールを守ることが求められます。
以上のように、M&Aには多様なデメリット・リスクが潜んでいます。ただし、これらは事前に認識し対策を講じることで大きく軽減できます。逆に何も知らずに進めると失敗の確率が上がってしまいます。メリットとデメリットの両面を理解したうえで、慎重に計画することがM&A成功の第一歩です。
M&Aの種類・手法
一口にM&Aと言っても、実際の取引形態(スキーム)にはいくつか種類があります。手法によって「会社を丸ごと譲るのか」「特定の事業だけを切り出すのか」といった違いがあるため、代表的な5つの手法を押さえておきましょう。

1. 合併(複数の会社を一つに統合)
2つ以上の会社を契約によって1つの法人に統合する手法です。一方が存続する「吸収合併」が一般的です。
- 特徴: 組織が完全に一体化するため、シナジー(相乗効果)を最大化しやすいのが特徴です。
- メリット: 完全に一つの組織になることで、管理コストの削減やブランドの統一が図れます。
2. 株式譲渡(中小企業で主流の手法)
オーナー株主が保有する株式を買い手企業に売却し、経営権を移転させる手法です。
- 特徴: 手続きが非常にシンプルで、中小企業のM&Aの約9割がこの手法で行われます。
- メリット: 会社そのものは存続するため、許認可や従業員との契約などをそのまま引き継ぎやすいのが利点です。
3. 事業譲渡(特定の事業のみを売買)
会社全体ではなく、特定の事業部門や店舗、資産だけを選んで売買する手法です。
- 特徴: 「不採算部門だけを切り離したい」「特定の成長事業だけを買い取りたい」という場合に適しています。
- メリット: 買い手側は不要な負債を引き継ぐリスクを避けられる一方、契約の巻き直しが必要になるなど手続きはやや複雑です。
4. 会社分割(事業部門を切り出し・承継)
会社の一部門を切り出し、別の会社(既存または新設)に承継させる手法です。
- 特徴: グループ内の組織再編や、特定の部門を他社に譲渡する際の中間ステップとして使われます。
- メリット: 労働契約などが包括的に承継されるため、事業譲渡よりも権利の移転がスムーズな場合があります。
5. 株式交換(現金を介さず完全子会社化)
買い手企業の株式と売り手企業の株式を交換することで、売り手側を「100%子会社」にする手法です。
- 特徴: 親子関係を構築する際に用いられ、上場企業同士のM&Aでよく見られます。
- メリット: 自社株を対価にできるため、買い手側は多額の現金を用意しなくても買収が可能です。
M&Aの手法は、売り手の目的や税務、法務上のリスクによって最適なものが異なります。まずは「何を、どこまで譲るのか」という視点で検討を始め、具体的な選択については専門家のアドバイスを受けることが成功への近道です。
M&Aの基本的な流れ・プロセス
M&Aを実行する際の一連の流れを把握しておきましょう。実際の手順は案件や当事者によって多少異なりますが、ここでは一般的な中小企業M&Aのプロセスをステップごとに説明します。
1. 戦略の策定・準備
まずは社内の方針決定と準備です。売り手なら「会社を譲渡する目的(例: 後継者不在解決)や希望条件(従業員の雇用維持、希望売却額など)」を明確にします。買い手なら「買収の目的(新規事業参入か規模拡大か)や買収対象の条件(業種・規模・地域・予算)」を定めます。
その上で、財務資料の整備や企業価値の目安算定を行い、必要に応じてM&Aアドバイザーや仲介会社に相談します。プロの目で自社の強み・弱みを分析し、事前準備をしっかり行う段階です。
2. 候補先の探索・マッチング
次に相手探しに入ります。仲介会社と契約した場合、ネットワークを駆使して条件に合う候補企業をリストアップしてもらえます。自社で探す場合も、業界の知人や金融機関経由で打診することもあります。この段階では通常、相手同士名前を伏せたノンネームシート(匿名の会社概要書)で予備情報を交換します。
お互い関心が持てそうだとなれば、秘密保持契約(NDA)を締結し、詳細な情報交換に入ります。ここまでがマッチングフェーズです。
3. 打診・交渉(基本合意)
相手の候補と直接コンタクトを取り、トップ面談などを行います。売り手は社長自身が会社の強みや事業内容をアピールし、買い手は自社が引き継いだ後のビジョンや提供できる価値を説明します。双方の意向が合えば、買収金額の大枠や主要条件について交渉し、合意します。
この段階で締結されるのが基本合意書(LOI)です。基本合意書には、暫定的な価格レンジや独占交渉権(一定期間は他と交渉しない約束)、秘密保持や今後のスケジュールなどが記載されます。まだ法的拘束力は弱いものの、M&A交渉を本格化させるロードマップとなるものです。
4. デューデリジェンス(詳細調査)
基本合意後、買い手は売り手企業の詳しい調査を行います。これをデューデリジェンス(DD)と呼び、財務DD・税務DD・法務DD・ビジネスDDなど分野ごとに専門家チームがチェックします。
帳簿類を精査し、簿外債務や潜在債務がないか確認したり、契約関係や知的財産の状況、従業員の雇用契約などあらゆる面を調べます。工場や店舗があれば現地訪問し、環境汚染の有無や設備状況も見ます。
要は買った後に困る問題が隠れていないか徹底的に洗い出す作業です。売り手にとっては少し負担ですが、ここをクリアすれば買い手の安心感が高まり、最終条件の詰めに入れます。
5. 最終契約の締結
DDの結果、問題がなければ最終の条件交渉を行います。もしDDで懸念事項が見つかった場合、価格を調整したり表明保証(特定リスクについて売り手が保証する条項)を盛り込むなどしてリスク分担します。合意に至れば、最終契約書(譲渡契約・合併契約等)を締結します。
ここで初めて法的拘束力のある契約となり、取締役会や株主総会で承認決議が必要な場合はこの直前〜直後に行われます。中小企業の株式譲渡なら、オーナーが合意すれば即契約できますが、合併等では法律に則った手続き(債権者保護手続など)が発生することもあります。
6. クロージング(決済・引き渡し)
契約書に従い、実際にお金の支払いと株式・資産の譲渡を行います。これをクロージングと呼びます。具体的には、買い手から売り手に約束の譲渡対価を支払い、同時に売り手から買い手へ株券や株式名義書換、資産や契約の名義変更などを実行します。
譲渡金額の大きい場合はエスクロー(第三者預託)を利用することもありますが、中小企業M&Aでは銀行振込等で一括決済するケースが多いです。このクロージングをもって経営権が正式に買い手に移転し、M&A成立となります。
7. PMI(買収後の統合)
M&A成立はゴールではなく、新しいスタートです。買い手はグループ入りした会社との統合作業(PMI:Post Merger Integration)を計画的に進めます。具体的には、人事制度や給与体系の統一、ITシステムの接続、社内ルール・ブランドの統合、重複部門の再編など多岐にわたります。従業員への説明会を開いて不安を解消し、モチベーションを維持することも重要です。
統合がスムーズに進めば、シナジー効果が発揮され業績も向上していきます。しかし統合をおろそかにすると、せっかくのM&A効果を得られなかったり最悪の場合事業が悪化するリスクもあります。PMIまで完遂して初めてM&A成功と言えるので、計画的かつ丁寧な統合を行いましょう。
以上がM&Aの一般的な流れです。中小企業の場合、早ければ交渉開始からクロージングまで半年程度、通常は1年前後かかることが多いです。規模が大きかったり条件調整に時間がかかれば2年以上ということもあります。
大事なのは拙速に進めず、それぞれの段階で専門家の助言を受けながら確実に進行することです。初めての経営者にとってM&A手続きは複雑ですが、一つひとつステップを踏めば決して実現不可能なものではありません。
M&Aを成功させるためのポイント
M&Aを単に実行するだけでなく、「成功だった」と言える結果に導くにはいくつかのポイントがあります。経験者の教訓や専門家の意見から、以下の点が特に重要と言われています。
目的を明確にし、相手選びを慎重に
「何のためにM&Aをするのか」という軸がぶれてはいけません。目的がはっきりしていれば、相手企業に求める条件も明確になります。買い手と売り手の目的が一致していることが成功の大前提です。
たとえば売り手が「従業員を大事にしてくれる会社に譲りたい」と望むなら、買い手はその意向を尊重し社員を活かす気持ちがないといけません。逆に買い手が「技術だけ欲しいから人はいらない」というスタンスではミスマッチです。
このように、お互いの戦略・ビジョンが合致する組み合わせを探すことが大切です。仲介会社は多数の案件から条件の合う相手を紹介してくれますし、自社でも譲れない条件を整理しておきましょう。適切なマッチングができれば、M&A後の統合作業も円滑に進みやすくなります。
徹底したリスクの把握(デューデリジェンスの重視)
前述の通り、M&Aには見えないリスクが潜みます。これをできるだけ炙り出すために、デューデリジェンス(DD)を怠らないことが成功の鍵です。買い手側はプロの力を借りて財務・法務・税務・ビジネスなど全方向から対象会社を調べ上げましょう。売り手側も、開示すべき資料はしっかり整備して提供します。
DDで判明したリスクは、契約条件に盛り込んで対処(価格減額や保証条項)することでコントロールできます。仮に大きな問題が見つかれば、無理に進めず撤退の判断も必要です。「知らなかった」では済まされないのが経営判断ですから、事前に知り尽くす努力をしましょう。
また、財務数字だけでなく社風や人材の状況など定量化しにくい面も含めて評価することが大切です。最終的に、想定されるリスクに対し「この条件なら許容できる」という納得感が得られればGoサインです。
専門家(M&Aアドバイザー)の協力
M&Aは法律・財務・税務・労務など専門知識の塊ですし、交渉術や市場相場の勘所も求められます。経験豊富な専門家を味方につけることで成功率は格段に上がります。
具体的には、仲介会社やFA(フィナンシャルアドバイザー)のM&A担当者、企業法務に強い弁護士、会計士・税理士などです。彼らは第三者の視点で冷静に助言し、適正な株価算定や契約条件の落とし所を示してくれます。特にオーナー同士の直接交渉では言いにくいことも、間にアドバイザーが入ればスムーズです。
また企業価値評価や法務チェック、クロージングの事務までプロがサポートするため、当事者は経営に集中できます。費用はかかりますが、M&Aが成功しなければ元も子もありません。「餅は餅屋」で、しかるべき専門家チームを編成することをおすすめします。
ステークホルダーへの丁寧な対応
M&Aは会社の形を変える大きなイベントです。当然、従業員や取引先・顧客など多くの人に影響があります。周囲のステークホルダーへの配慮と丁寧なコミュニケーションは欠かせません。
特に従業員にとって、会社が売却されることは将来への不安を伴います。売り手経営者は「社員の待遇は守られる」「今後も会社は発展していく」といったビジョンをしっかり伝え、不安を取り除く努力をしましょう。
説明が足りないと憶測で不安が広がり士気が下がるので注意です。買い手側も、迎え入れる社員に対し「一緒に成長していこう」という姿勢でコミュニケーションを取ることが大切です。
取引先への説明もタイミングを見て行います。突然担当者が変わると先方も驚くので、主要顧客には事前に経営統合の趣旨や今後の対応を説明し信頼継続に努めます。「人」に焦点を当てたケアが、M&A成功の陰の主役と言えるでしょう。
統合プロセス(PMI)を計画的に進める
繰り返しになりますが、M&A後の統合なくして成功なしです。PMIにしっかりとリソースと時間を割くよう経営層がコミットしましょう。具体的には、統合作業を推進する専任チームを作り、統合計画表を作成し、定期的に進捗を確認します。組織が大きい場合はコンサルタントの支援を受けるのも手です。
ありがちなのは日常業務に追われて統合がおろそかになるケースです。しかし統合を放置すると、せっかくのシナジーが得られないどころか、二重体制のまま非効率が続いたり文化の違いで内部対立が生じたりします。
そうならないよう、最初の100日計画など短期集中的に取り組む施策も有効です。経営トップ自ら統合作業の陣頭指揮を執るくらいの意気込みで、組織の再編・融合を進めてください。統合が成功すれば、M&Aのメリットが実りとなって現れてくるでしょう。
以上、M&Aを成功に導くポイントを挙げました。端的に言えば、「事前によく準備し、プロの力を借り、最後までやり抜く」ことです。初めてだと難しく感じるかもしれませんが、近年は中小企業向けの支援体制も整っています。適切なアドバイスを受けながら進めれば、きっと良い成果が得られるはずです。
M&Aを検討する際の相談先・支援サービス
M&Aを現実に進めるには信頼できる相談相手を見つけることが大切です。ここでは、主な相談先とその特徴を紹介しつつ、効率的な情報収集の方法について触れます。
銀行・証券会社など金融機関
メガバンクや地方銀行には事業承継・M&A専門の部署があり、顧客企業のM&A相談に乗っています。金融機関は取引先企業の財務状況を把握している強みがあり、買い手・売り手双方の紹介が可能です。手数料は仲介会社と同程度かそれ以上になりますが、大企業から中堅企業まで幅広いネットワークを持っています。
ただし案件規模の基準があり、あまり小さい会社だと対応範囲外の場合もあります。金融機関は信頼感がありますが、担当者によってM&A実務経験に差があることもあるので、実績を確認して依頼すると良いでしょう。
M&A仲介会社・アドバイザリー会社
民間の仲介専門会社は中小企業M&Aの支援を数多く手掛けています。日本M&AセンターやM&Aキャピタルパートナーズ、M&A総合研究所、ストライクなど大手から、地域密着・業界特化の中小仲介会社まで様々です。それぞれ強みの業種や得意エリアがありますので、自社の業種に明るい会社に依頼するのがおすすめです。
仲介会社は成功報酬型(成約しなければ報酬不要)が多く、本気で成約に向けて奔走してくれます。担当アドバイザーが付いて、相手探しから交渉、契約締結まで一気通貫でリードしてくれるため、初めてでも安心感があります。複数の仲介会社に声をかけてみて、対応の丁寧さや実績を比較するのも良いでしょう。
M&Aプラットフォーム・マッチングサイト
最近はインターネット上でM&A希望案件を検索・マッチングできるサービスも登場しています。Batonz(バトンズ)やTRANBI(トランビ)などが有名です。売り案件情報を匿名掲載し、興味ある買い手が問い合わせる仕組みで、マッチングの場をオンライン提供するイメージです。
仲介会社を介さず直接やり取りも可能で、手数料が割安というメリットがあります。ただし交渉や手続きは当事者主体で進める必要があるため、M&A経験がない場合は結局専門家を別途頼むケースも多いです。
プラットフォームはまず市場にどんな案件があるか見てみたいというときに便利です。小規模案件も豊富なので、個人による会社買収などにも利用されています。
公的機関・支援センター
中小企業基盤整備機構や各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターなど、公的機関でもM&Aや事業承継の無料相談を受け付けています。公的機関は中立の立場でアドバイスしてくれ、譲渡希望者と譲受希望者のマッチング支援も行っています。
費用負担が少ない反面、案件規模やマッチング範囲に限りがある場合もあります。とはいえ一度相談してみる価値はあります。特に事業承継センターは全国ネットワークで案件情報を共有しているので、意外な縁が見つかるかもしれません。
以上のように相談先は色々ありますが、「結局どこに頼めばいいの?」と迷われる方も多いでしょう。
そこで役立つのがMCB FinTechカタログです。当サイトは金融・FinTech領域の法人向けサービスを横断的に比較できるプラットフォームで、多数のM&A支援サービスの情報を一括して収集可能です。具体的には、大手仲介会社から専門性の高いアドバイザリー、小規模案件に強いマッチングサイトまで、各サービスの特徴や強みを一覧できます。
そして気になるサービスがあれば一括で資料請求ができます。これにより、一社ごとに問い合わせる手間を省き、短時間で複数社の提案を比較できます。どの仲介会社が自社にマッチしそうか、手数料体系や実績はどうか、といったポイントをじっくり検討できます。
初めてのM&Aでは、相談先選び自体が成功のカギを握ります。ぜひMCB FinTechカタログを情報収集にお役立てください。信頼できるパートナーと巡り会えれば、M&Aプロジェクトの心強い伴走者となってくれるはずです。
よくある質問(FAQ)
Q1. M&Aと合併・買収はどう違うのですか?
A. 「M&A」はMerger(合併)& Acquisition(買収)の略で、合併と買収をまとめた総称です。つまり、M&Aという言葉の中に両方が含まれます。
合併は複数の会社が一つになる形で、少なくとも1社は消滅します。一方、買収は他社の経営権を取得することで、会社自体は存続したまま所有者が変わります。
簡単に言えば、合併は会社同士の統合、買収は会社の買い取りです。一般に「M&A」はこの両方を指します。
Q2. 中小企業でもM&Aは可能でしょうか?
A. はい、可能です。近年は中小企業のM&Aが活発で、後継者不足を背景に事業承継型M&Aが増えています。
日本のM&A件数は近年4,000件超で推移しており、多くの中小企業案件が含まれています。技術力や地域シェアを評価されて買収される例や、同業同士の合併も珍しくありません。
重要なのは自社の強みを把握し、関心を持つ相手を見つけることです。仲介会社や支援機関を活用すれば、中小企業同士のM&Aも十分可能です。
Q3. M&Aにはどれくらい費用がかかりますか?
A. 主な費用は、仲介会社への手数料、デューデリジェンス(DD)費用、契約関連の専門家報酬です。仲介手数料は成功報酬型が一般的で、譲渡額に応じたレーマン方式が多く採用されています。最近は着手金無料の完全成功報酬型も増えています。
DD費用は主に買い手側が負担し、中小企業では100万〜500万円程度が目安です。その他の諸費用は比較的小額です。
費用体系は仲介会社ごとに異なるため、事前に複数社を比較することが重要です。
Q4. M&Aを成功させるコツは何ですか?
A. 事前準備・専門家の活用・統合への注力が重要です。目的や条件を整理し、財務や事業内容を事前に整えておくことで失敗リスクを下げられます。
信頼できる仲介会社やアドバイザーの支援を受けることで、交渉やリスク判断もスムーズになります。また、成立後のPMI(統合プロセス)を丁寧に行い、従業員への配慮を欠かさないことも大切です。
準備を重視し、対話を重ねる姿勢が成功につながります。
Q5. M&Aの相談はどこにすれば良いですか?
A. 銀行や信用金庫、M&A仲介会社、公的な事業承継支援センターなどが主な相談先です。無料相談が可能な機関もあります。
2〜3社と面談し、提案内容や担当者との相性を確認した上で選ぶのがおすすめです。信頼できる相手を見つけることが、M&A成功の第一歩となります。
以上、よくある質問への回答でした。M&Aは複雑なテーマですが、段階的に理解を深めていけば、現実的な選択肢として検討できるようになるでしょう。
まとめ
M&Aとは企業の合併・買収による経営統合であり、中小企業にとっても事業承継や成長戦略の現実的な選択肢です。本記事では、M&Aの基本から目的・メリット、手法や流れ、注意点、成功のポイントまでを解説してきました。ここで要点を整理します。
M&Aの基本
合併や買収により、後継者不在や事業拡大、技術獲得といった課題を解決する経営手段。近年は中小企業でも活用が広がっています。
目的・メリット
売り手は事業承継や雇用維持などの「守り」、買い手は市場拡大や新分野参入といった「攻め」が目的。双方のメリットが一致することが重要です。
デメリット・リスク
文化の違いや想定外の負債、統合コストなどのリスクがありますが、DDやPMIを丁寧に行うことで抑えられます。
手法・流れ
株式譲渡や事業譲渡など複数の方法があり、準備から統合まで段階的に進めます。専門家の支援が有効です。
成功のポイント
目的の明確化、相手選定、リスク管理、関係者への説明、そして統合への注力が成否を分けます。特に初めてのM&Aでは、信頼できるアドバイザーが欠かせません。
M&Aは大企業だけのものではなく、自社の課題を解決し得る身近な手段です。ただし、必要性やタイミングは慎重に見極める必要があります。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修者は記事の内容について監修しています。




