マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策(AML/CFT)の重要性が世界的に高まる中、金融庁は「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」において、金融サービスや不動産業などの特定事業者に対して「顧客管理(Customer Due Diligence)」および「継続的顧客管理(Ongoing Due Diligence)」の徹底を求めています。
背景には、2021年8月に公表されたFATF(金融活動作業部会)による第4次対日相互審査の結果があります。日本は「重点フォローアップ国」と位置付けられたことで、金融庁は金融機関等に対し、2024年3月末までにガイドラインに基づく態勢整備を完了するように要請しました。期限を過ぎた現在、未対応の事業者は早急な是正を求められるだけでなく、継続的な運用フェーズにおいて更なる厳格な対応を迫られています。
特定事業者にとって、口座・アカウント開設時の本人確認だけでなく、属性情報の定期的な確認やリスク評価の更新は、犯罪収益移転防止法(犯収法)に基づく法的要請であると同時に、膨大な事務負担を伴う業務です。特に金融サービスや不動産業などにおいては、顧客数の増加に伴い、本人確認書類の再取得や郵送確認にかかるコストが経営を圧迫する要因となりつつあります。
本記事では、犯罪収益移転防止法(犯収法)の対象となる具体的な業種や、金融庁ガイドラインおよび同庁公表の「マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)」に基づき、継続的顧客管理の具体的な実施頻度や手法について解説します。あわせて、郵送実務のアウトソーシングやeKYC活用による効率化の事例を紹介し、コンプライアンス遵守と業務コスト削減を両立するための手法についても解説します。
目次
継続的顧客管理(ODD)とは何か
継続的顧客管理(ODD:Ongoing Due Diligence)とは、顧客との取引開始時だけでなく、取引継続中においても定期的に顧客情報の確認やリスク評価を行うプロセスを指します。金融庁ガイドラインにおける「(ⅱ)顧客管理(カスタマー・デュー・ディリジェンス:CDD)」のうち、取引関係の継続時に行う顧客情報の確認・更新等に相当します。
継続的顧客管理が求められる「特定事業者」とは
犯罪収益移転防止法(犯収法)では、銀行、クレジットカード会社、宅地建物取引業者などの「特定事業者」に対し、取引時確認(本人確認)を義務付けています。 法律上も、犯罪収益移転防止法において取引時の確認義務が定められているほか、施行規則等を通じて継続的な確認の必要性が示されています。
対象となる主な業種
犯罪収益移転防止法第2条第2項に基づくと、以下のような業種が該当します。
- 金融機関等: 銀行、信用金庫、保険会社、証券会社、暗号資産交換業者など
- 不動産業: 宅地建物取引業者、不動産特定共同事業者など
- 士業: 弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士など
- その他: ファイナンスリース事業者、クレジットカード事業者、宝石・貴金属等取扱事業者、郵便物受取サービス業者、電話受付代行業者、カジノ事業者など
リスクベース・アプローチの考え方
継続的顧客管理では、すべての顧客に対して一律の頻度や深度で調査を行うわけではありません。顧客の属性、取引の種類、国・地域などを総合的に勘案し、リスクの度合いに応じて対応を変える「リスクベース・アプローチ」が採用されます。
たとえば、特定事業者自らがリスクが高いと判断した顧客(外国PEPsや特定国等に係る取引を行う顧客など)に対しては、対応頻度を高く設定したより詳細な情報収集(EDD:Enhanced Due Diligence)を行い、リスクが低いと判断した顧客に対しては、簡素な顧客管理(SDD:Simplified Due Diligence)を適用し、確認頻度を下げるといった対応が考えられます。
このようにリソースを適切に配分することで、実効性のあるAML/CFT体制を構築することが求められます。
継続的顧客管理の実施頻度と確認手法
実務担当者が最も頭を悩ませるのが、「どの程度の頻度で、どのような手段を用いて確認すべきか」という点です。
顧客のリスクに応じた確認頻度
金融庁の「マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)」において、「継続的な顧客管理については、顧客に係る全ての情報を更新することが常に必要となるものではなく、顧客のリスクに応じて、調査の頻度・項目・手法等を個別具体的に判断していただく必要があります」と明記されています。
つまり、具体的な「〇年に1回」という法的規定はありませんが、各事業者は自社の「特定事業者作成書面(リスク評価書)」に基づき、合理的な頻度を定義する必要があります。金融庁のFAQでは、運用の目安として以下のような頻度を提示しています。
- 高リスク先(外国PEPsなど): 1年に1回以上の頻度で実施
- 中リスク先: 2年に1回程度の頻度で実施
- 低リスク先: 3年に1回程度の頻度で実施
具体的な確認プロセス
継続的顧客管理の実務では、以下の3つのステップが実施されます。
- 情報の更新依頼: 調査票の郵送やWebポータル、アプリを通じて、現在登録されている情報に変更がないか顧客に回答を求める。
- スクリーニング: 取得した最新情報について、データベースに登録されている情報から変更点がないか確認し、再度リスクを洗い出す。
- リスク評価の更新: スクリーニング結果に基づき、顧客ごとのリスク(高・中・低など)を更新する。疑わしい取引が検知された場合は、当局への届出を行う。
継続的顧客管理における課題とコスト
厳格な管理が求められる一方で、実務現場ではアナログな作業による非効率性が課題となっています。
郵送確認に伴うコストと事務負担
金融庁が公表した「マネー・ローンダリング等対策の取組と課題(2024年6月)」によれば、多くの金融機関がいまだにダイレクトメール(郵送)による調査票送付を行っており、その回収率の低さが課題として挙げられています。また、郵送による調査票送付には、以下のようなコストも発生します。
- 資材・郵送費: 封筒、印刷代、郵便料金など
- 人件費: 封入作業、宛所不明で返送された郵便物の整理とデータ入力など
たとえば、顧客数が1万人の中小規模の事業者であっても、全顧客に郵送確認を行えば資材・運送費のみで数百万円規模のコストが発生することが想定されます。
顧客側の回答率低下と離脱リスク
また、ダイレクトメール(調査票)による確認は顧客にとっても負担です。「書類を記入し、本人確認書類のコピーを取り、ポストに投函する」というプロセスは煩雑であり、回答率の低下を招きます。
継続的顧客管理の効率化を実現するソリューションとは?
これらの課題を解決するため、継続的顧客管理が求められる特定事業者において、eKYC(オンライン本人確認)を導入する企業が増加しています。
eKYCの方式の種類やセキュリティに関しては『eKYCとは?4つの方式の種類と危険性・セキュリティを専門家が徹底解説』をご覧ください。
しかし、継続的顧客管理はeKYCを導入すれば完了するものではありません。「郵便が戻ってきた場合の対応」や「システムを使えない高齢者への対応」など、アナログな業務が必ず残ります。 そのため、通知の発送から回答の回収、データ化、そして未回答者への督促までを一気通貫で委託できるサービスの利用が推奨されます。
このように、継続的顧客管理の効率化にはeKYCとアナログな業務を委託するBPOのハイブリッド活用が求められます。近年ではこうしたeKYCとBPOを統合したサービスも登場しており、その一例として「ネクスウェイの本人確認ソリューション」が挙げられます。
ネクスウェイの本人確認ソリューション

TISインテックグループの株式会社ネクスウェイが提供する「本人確認ソリューション」は、犯収法に対応したeKYC機能に加え、本人確認業務に特化したBPOセンターを保有している点が特徴です。
- デジタルとアナログのハイブリッド: スマートフォンを持つ顧客にはeKYCで即時完結させ、不慣れな顧客には郵送で対応するなど、顧客属性に合わせた手段を使い分けることが可能です。
- 転送不要郵便の発送代行: 継続的顧客管理において避けて通れない郵送業務(印刷、封入、発送、戻り管理)をすべて代行します。
- 特定事業者としてのノウハウ: 金融機関や不動産特定共同事業者など、厳しい規制業種での導入実績が豊富であり、監査に耐えうる証跡管理体制が構築されています。
継続的顧客管理の効率化事例3選
継続的顧客管理が求められる特定事業者において、「ネクスウェイの本人確認ソリューション」を導入し、業務効率化を実現した企業の事例をご紹介します。
1. コインチェック株式会社:受取率94.2%を実現し、1日数千通の発送体制を構築(暗号資産交換業)
暗号資産交換業を営むコインチェック株式会社では、口座開設数の急増に伴い、本人確認ハガキ(転送不要郵便)の発送業務や追跡データ管理の手間が大きな課題となっていました。 ネクスウェイのサービスを導入したことで、配送状況に合わせた受取促進メールの自動配信などが可能になり、ハガキの受取コンバージョン率は94.2%を実現。1日に数千通規模の発送にも耐えうる、スケーラブルで高効率なコンプライアンス体制を構築しています。
2. BASE株式会社:eKYCと郵送の「ハイブリッド対応」で業務負荷を軽減(クレジットカード事業者)
ECプラットフォームを運営するBASE株式会社では、「BASEカード」発行時の本人確認において、スマホ完結型のeKYCと従来の郵送確認を併用する必要がありました。 導入後は、eKYC画像の目視確認に加え、eKYCに対応できないユーザーへの転送不要郵便の発送までをネクスウェイに一括して委託。法要件を満たした「デジタルとアナログのハイブリッド運用」をアウトソーシングで実現し、社内リソースをコア業務へ集中させています。
3. FPL証券株式会社:郵便物なしでの口座開設を実現し、リードタイムを大幅短縮(証券会社)
証券会社のFPL証券株式会社では、口座開設までのスピード向上と業務効率化を目指して同サービスを採用しました。 郵便物を介さない本人確認フローを構築したことで、申込から口座開設までの期間を大幅に短縮。顧客が投資のタイミングを逃さないスピーディーなオンボーディングを実現すると同時に、社内の事務工数削減にも成功しています。
【比較表】継続的顧客管理を支援するサービス
以下はご紹介したサービスと、一般的なeKYCサービスおよび印刷・発送代行業者との比較表です。
| ネクスウェイの本人確認ソリューション | 一般的なeKYCツール | 印刷・発送代行会社 | |
|---|---|---|---|
| ロゴ | ![]() | – | – |
| 提供会社 | 株式会社ネクスウェイ | A社 | B社 |
| 対応手法 | eKYC + 郵送BPO(ハイブリッド) | eKYC(アプリ・Web)のみ | 郵送のみ |
| 転送不要郵便の発送 | ● | × | ● |
| 未着戻り管理 | ● | × | オプション対応 |
| Web回答フォーム | ● | ● | × |
| 犯収法準拠 | ● | ● | 顧客指示に依存 |
| 詳細情報 | 公式資料はこちら | 公式サイトをご覧ください | 公式サイトをご覧ください |
以下の記事では一般的なeKYCサービスについて、選び方や機能などを詳細に解説しています。導入を検討される方は、ぜひこちらもご覧ください。
まとめ
継続的顧客管理(ODD)は、犯罪収益移転防止法および金融庁ガイドラインに基づき、特定事業者に求められる重要な業務です。2024年までの態勢整備期間を経て、2026年現在は「形式的な整備」から「実効性のある運用」へとフェーズが移行しています。
事業者は以下のポイントを押さえ、持続可能な管理体制を構築する必要があります。
- リスクベース・アプローチの徹底: 全顧客一律ではなく、高リスク顧客への頻度を高め、低リスク顧客は簡素化するなど、メリハリのある運用を行う。
- デジタルとアナログの融合: eKYCによる効率化を進めつつ、スマホ不慣れ層や未回答者には郵送BPOを活用し、網羅的な確認体制を敷く。
- 専門サービスの活用: 法改正への追従や複雑な郵送実務は、自社リソースだけで抱え込まず、外部ソリューションへのアウトソーシングを検討する。
コンプライアンス対応は「コスト」と捉えられがちですが、適切なツール導入により業務効率化と顧客体験の向上(UX改善)につなげることが可能です。貴社の状況に合わせ、最適な手法を選択してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 継続的顧客管理の実施が不十分である場合、どのようなリスクがありますか?
A. 金融庁FAQによると、法律又は政省令に違反していない場合であっても、顧客管理として対応が求められる事項に係る措置が不十分である場合、法令に基づき行政対応を行う場合があると明記されています。
Q. 顧客が確認に応じない場合、どうすればよいですか?
A. 金融庁ガイドラインにおいて、「必要とされる情報の提供を利用者から受けられないなど、自らが定める適切な顧客管理を実施できないと判断した顧客・取引等については、取引の謝絶を行うこと等を含め、リスク遮断を図る」ことがリスク低減措置の一つとして示されています。ただし、その際にマネロン・テロ資金供与対策の名目で合理的な理由なく謝絶等を行わないこともあわせて求められています。
Q. 継続的顧客管理はシステム化が必須ですか?
A. 必須ではありませんが、顧客数が増加すると手作業での管理(Excelなど)は限界を迎えます。リスク評価の更新漏れや、送付履歴の紛失といったヒューマンエラーを防ぐため、CRMやKYCツールなどの導入が推奨されます。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
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