企業の成長に欠かせないのが「人材」。優秀な社員の確保・定着は、多くの経営者にとって重要な課題です。
近年は転職市場の活発化により、給与だけでなく「働きがい」や「安心できる福利厚生」が企業選びの基準となっています。
その中でも古くから導入されているのが「生命保険」。しかし、「本当に必要なのか」「従業員にメリットがあるのか」「コストに見合うのか」と悩む企業も多いでしょう。
本記事では、福利厚生としての生命保険の必要性やメリット・デメリット、保険の種類、導入時のポイントを分かりやすく解説します。自社に最適な制度設計の判断材料としてご活用ください。
目次
結論:福利厚生としての生命保険は、企業の状況によって「有力な選択肢」にも「不要なコスト」にもなり得る
最初に結論からお伝えすると、福利厚生としての生命保険は、すべての企業にとって必須の制度ではありません。
しかし、企業の目的や従業員構成、予算によっては、他のどの制度よりも高い効果を発揮する可能性を秘めた、非常に有力な選択肢です。
この制度が「有力な選択肢」になるか、「不要なコスト」に終わるかの分かれ道は、「何のために導入するのか」という目的の明確化と、それに見合う費用対効果が得られるかという冷静な分析にかかっています。
本記事を通じて、その判断基準を一つひとつ確認していきましょう。
そもそも、なぜ福利厚生に生命保険が選ばれるのか?
企業が従業員のために掛ける生命保険は、「法人保険」とも呼ばれます。なぜ多くの企業がこの仕組みを福利厚生として採用するのでしょうか。その背景には、大きく3つの理由があります。
理由1:従業員の「万が一」を支え、安心感を提供する
従業員本人やその家族にとって、最大の不安は病気や事故、そして死亡といった不測の事態です。企業が生命保険や医療保険を用意することで、従業員は「この会社は、万が一の時にも自分や家族を守ってくれる」という強い安心感を得ることができます。
この安心感は、日々の業務への集中力を高め、企業への帰属意識(エンゲージメント)を育む土壌となります。
理由2:企業の福利厚生制度を手厚く見せる効果
求職者が企業を選ぶ際、福利厚生の充実は重要な比較ポイントです。「死亡保障」「入院保障」「退職金準備」といった制度が整っていることは、求職者に対して「従業員を大切にする企業」というポジティブなメッセージを発信します。
特に中小企業が大手企業と人材獲得で競合する上で、特色ある福利厚生は強力なアピールポイントとなり得ます。
理由3:法人保険ならではの税制上のメリット
福利厚生として導入する生命保険の保険料は、一定の要件を満たすことで、その全部または一部を損金として経理処理することが可能です。
これは、法人税の負担を軽減しながら、従業員のための保障制度を構築できることを意味します。この税制上のメリットが、多くの経営者にとって導入の大きな動機となっています。
【企業側の視点】福利厚生で生命保険を導入する5つのメリット
では、具体的に企業側にはどのようなメリットがあるのでしょうか。5つの視点から整理します。
メリット1:優秀な人材の確保と定着率向上
魅力的な福利厚生は、採用競争において強力な武器となります。 特に、従業員のライフプランをサポートする生命保険制度は、「人を大切にする企業文化」の象徴となり、優秀な人材の獲得につながります。
また、既存の従業員にとっても、手厚い保障は現在の職場に留まる大きな動機となり、離職率の低下に貢献します。
メリット2:従業員のエンゲージメント向上
企業が従業員の万が一に備える姿勢を示すことは、従業員の満足度と企業への信頼感を高めます。
自分や家族の将来に対する経済的な不安が軽減されることで、従業員は安心して業務に専念でき、結果として生産性の向上や組織全体の活性化が期待できます。
メリット3:保険料の損金算入による節税効果
福利厚生を目的として全従業員を対象とするなど、一定の要件を満たすことで、企業が支払う保険料の全部または一部を損金として計上できます。
これにより、法人税の課税対象となる所得を圧縮できるため、税負担を軽減しながら従業員のための保障を準備することが可能です。
メリット4:事業保障(弔慰金・死亡退職金の財源確保)
従業員が業務内外の理由で万が一亡くなった場合、企業は弔慰金や死亡退職金を遺族に支払うことが一般的です。生命保険に加入しておくことで、その保険金を原資とすることができます。
これにより、企業の財務状況に大きな影響を与えることなく、社会的・道義的責任を果たすことが可能になります。
メリット5:退職金準備としての活用
養老保険のように貯蓄性のある保険を活用すれば、従業員の退職金の原資として計画的に準備することができます。
満期保険金や解約返戻金を退職金支払いに充当することで、将来のキャッシュアウトに備えることができます。
退職金準備と経営者保険については『経営者の退職金準備とは?経営者保険のメリットと税務上の注意点を徹底解説』にて詳しく解説しています。
【従業員側の視点】福利厚生で生命保険に加入する3つのメリット
一方で、従業員にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
メリット1:個人で加入するより割安な保険料
企業が団体として契約するため、スケールメリットが働き、個人で同じ保障内容の保険に加入するよりも保険料が割安になるケースがほとんどです。
また、企業が保険料の全部または一部を負担する場合、従業員は少ない自己負担で手厚い保障を得ることができます。
メリット2:健康状態の告知が緩やかな場合がある(加入しやすい)
団体保険の場合、多くの従業員がまとめて加入することを前提としているため、個人の健康状態に関する告知義務が緩和されていたり、医師の診査が不要であったりすることがあります。
これにより、持病などがあって個人では保険に加入しにくい従業員でも、保障を得られる可能性があります。
メリット3:所得税・住民税の負担なく保障を受けられる
企業が負担した保険料は、原則として従業員の給与とはみなされません。そのため、従業員は所得税や住民税の負担が増えることなく、保障という恩恵を受けることができます。
デメリットと注意点|「いらない」と言われる理由
ここまでメリットを解説してきましたが、物事には必ず裏表があります。福利厚生としての生命保険が「いらない」と判断される理由、すなわちデメリットや注意点についても、企業側・従業員側双方の視点から見ていきましょう。
【企業側】継続的なコスト負担が発生する
最大のデメリットは、保険料という固定費が継続的に発生することです。特に、掛け捨て型の保険の場合、解約しても支払った保険料は戻ってきません。
企業の業績が不安定な時期には、このコスト負担が経営を圧迫する可能性があります。
【企業側】退職者が出た場合の手続きが煩雑
従業員の入退社に伴い、保険の加入・脱退手続きがその都度発生します。 従業員数が多い企業ほど、人事・労務担当者の事務的な負担が増加する点は無視できません。
【企業側】保険の種類や経理処理が複雑
法人保険の税務ルールは複雑であり、保険の種類や契約形態によって損金に算入できる割合が異なります。
また、税制は改正されることもあるため、常に最新の情報を把握し、適切に経理処理を行う必要があります。誤った処理をしてしまうと、税務調査で指摘を受けるリスクもあります。
【従業員側】退職すると保障がなくなる(継続できない場合も)
これは従業員にとって最大のデメリットです。福利厚生の保険は、あくまでその企業に在籍していることが加入の条件であるため、退職すれば基本的に保障は終了します。
退職後に個人で保険に入り直そうとしても、年齢が上がっているため保険料が高くなったり、健康状態によっては加入できなかったりするリスクがあります。
【従業員側】保障内容が画一的で、個人のニーズに合わない可能性がある
企業が用意する保険は、全従業員を対象とした画一的な保障内容になりがちです。独身の若手社員と、扶養家族のいるベテラン社員とでは、必要な保障額や内容は大きく異なります。
個々のライフプランに合わせた柔軟な設計が難しい点はデメリットと言えるでしょう。
福利厚生で活用される生命保険の主な種類と特徴
福利厚生として導入される生命保険には、主に以下のような種類があります。それぞれの特徴を理解し、自社の目的に合ったものを選ぶことが重要です。
種類1:総合福祉団体定期保険
企業の福利厚生制度として最も広く利用されている保険の一つです。役員や従業員が死亡または高度障害状態になった場合に保険金が支払われる、1年更新の掛け捨て型保険です。
- 特徴
- 比較的安い保険料で大きな保障を準備できる。
- 弔慰金や死亡退職金の原資として活用しやすい。
- 保険料は全額損金算入が可能(福利厚生費として)。
- 健康状態の告知が緩やかで加入しやすい場合が多い。
種類2:養老保険(ハーフタックスプラン)
死亡保障と貯蓄性を兼ね備えた保険です。満期時には死亡保険金と同額の満期保険金が支払われます。
- 特徴
- 死亡保険金の受取人を「従業員の遺族」、満期保険金の受取人を「法人」とすることで、支払保険料の1/2を福利厚生費として損金算入できます(これをハーフタックスプランと呼びます)。
- 従業員の死亡保障と、企業の退職金準備を同時に行うことができます。
- 全従業員を対象とすることが損金算入の条件となります。
種類3:定期保険/長期平準定期保険
総合福祉団体定期保険と同様に掛け捨て型の死亡保障ですが、保険期間を長期(例:99歳まで)で設定できる商品もあります。経営者の事業保障や役員退職金の準備によく利用されますが、従業員向けに活用することも可能です。
- 特徴
- 保険期間が長期にわたるため、退職時期が異なる従業員にも対応しやすい。
- 解約返戻金があるタイプもあり、それを資金需要に充てることも可能だが、税務ルールが複雑なため注意が必要。
種類4:医療保険・がん保険
従業員が病気やケガで入院・手術をした場合に給付金が支払われる保険です。 死亡保障だけでなく、生きている間のリスクに備えることで、従業員の安心感をより高めることができます。
- 特徴
- 公的な医療保険制度を補完する役割を果たす。
- 従業員の見舞金規定の財源として活用できる。
- 従業員の健康意識を高め、「健康経営」を推進する一助となる。
【比較表】目的別・保険の種類早わかりチャート
| 目的 | 最適な保険の種類 | 特徴 |
|---|---|---|
| 弔慰金・死亡退職金 | 総合福祉団体定期保険 | 低コストで大きな死亡保障を確保。全額損金算入が可能。 |
| 退職金準備+死亡保障 | 養老保険(ハーフタックス) | 貯蓄性があり、退職金の計画的な準備が可能。1/2損金。 |
| 役員・従業員の長期保障 | 定期保険/長期平準定期保険 | 長期間の保障を確保。解約返戻金を活用できる場合も。 |
| 病気やケガへの備え | 医療保険・がん保険 | 入院や手術時の経済的負担を軽減。従業員の安心感向上。 |
【実践編】福利厚生としての生命保険の導入5ステップ
さて、ここからは実際に生命保険の導入を検討する際の実践的なステップを解説します。勢いで進めるのではなく、一つひとつのステップを丁寧に進めることが成功の鍵です。
Step 1:導入目的を明確にする
まず最も重要なのが、「何のために生命保険制度を導入するのか」という目的を明確にすることです。
- 例1:若手・中堅社員の離職率低下が課題 → 死亡保障に加え、医療保障も手厚くし、現役世代の安心感を高める。
- 例2:退職金制度が未整備 → 養老保険を活用し、計画的な退職金準備を始める。
- 例3:採用活動で他社との差別化を図りたい → 「万が一の保障も手厚い企業」として、福利厚生の充実をアピールする。
目的が明確になれば、自ずと選ぶべき保険の種類や保障額の方向性が定まります。
Step 2:予算と対象従業員の範囲を決める
次に、企業として年間いくらまで保険料を負担できるのか、予算の上限を決定します。同時に、誰を保障の対象とするのか(正社員のみか、契約社員やパート・アルバイトも含むかなど)を検討します。
特に、養老保険のハーフタックスプランのように「全従業員加入」が税務上の要件となる場合は注意が必要です。
Step 3:保険の種類と商品を選定する
Step1で明確にした目的に基づき、保険の種類を選定します。その後、複数の保険会社から同種の商品の提案を受け、保障内容、保険料、付帯サービスなどを比較検討します。特定の保険会社に偏らず、保険代理店なども活用して、客観的な視点で選ぶことが重要です。
Step 4:福利厚生規程を作成・整備する
生命保険を福利厚生として導入する場合、「弔慰金規程」や「死亡退職金規程」といった社内規程を整備することが不可欠です。
どのような場合に、誰に、いくら支払うのかを明文化しておくことで、保険金の支払いがスムーズに行われ、税務上も福利厚生費として認められやすくなります。
Step 5:従業員への説明と同意を得る
制度を導入する際は、必ず従業員一人ひとりに対して、その目的や保障内容、メリット・デメリットを丁寧に説明し、加入への同意を得る必要があります。せっかくの制度も、従業員にその価値が伝わらなければ形骸化してしまいます。
「会社は私たちのことを考えてくれている」と感じてもらうことが、エンゲージメント向上につながるのです。
生命保険以外の選択肢は?主要な福利厚生制度との比較
もちろん、従業員の安心感や満足度を高める福利厚生は生命保険だけではありません。ここで、他の代表的な制度と比較し、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
確定拠出年金(DC)・確定給付企業年金(DB)
主に老後の資産形成を目的とした私的年金制度です。企業が掛金を拠出し、従業員が自ら運用(DCの場合)または企業が運用(DBの場合)します。
生命保険が「万が一の保障」に強いのに対し、こちらは「老後の生活資金準備」に特化しています。
財形貯蓄制度
従業員が給与天引きで計画的に貯蓄を行うのを、国と企業が支援する制度です。利子等への非課税措置などのメリットがあります。あくまで自助努力を支援する制度であり、企業からの直接的な保障という側面は薄くなります。
食事補助、住宅手当など
日々の生活に直結する金銭的な補助です。従業員の可処分所得を実質的に増やす効果があり、多くの従業員に喜ばれますが、保障という観点とは異なります。
結局、自社には何が最適か?
重要なのは、これらの制度の優劣を論じるのではなく、自社の経営課題や従業員のニーズに合ったものを、バランス良く組み合わせることです。
例えば、「日々の生活は食事補助でサポートし、万が一のリスクは生命保険でカバー、老後の安心は確定拠出年金で準備する」といった複合的な制度設計が、従業員満足度を最大化する鍵となります。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 保険料は全額損金になりますか?
A1. 保険の種類や契約形態によって異なります。例えば、「総合福祉団体定期保険」のように全従業員を対象とした掛け捨て型の保険は、全額を福利厚生費として損金算入できるのが一般的です。一方、「養老保険」のハーフタックスプランでは、支払保険料の1/2が損金となります。導入前に必ず税理士などの専門家にご確認ください。
Q2. 役員だけでも加入できますか?
A2. 役員のみを対象とした生命保険に加入すること自体は可能です。しかし、その保険料を福利厚生費として損金処理するためには、「全従業員を対象とした普遍的な加入」が原則となります。役員など特定の人だけを対象とする場合、その保険料は役員賞与(損金不算入)とみなされる可能性が高いため注意が必要です。
Q3. パートやアルバイトも対象にできますか?
A3. はい、可能です。福利厚生規程において対象者を「全従業員」と定め、その範囲にパートタイマーやアルバイトを含めることで、彼らも保障の対象とすることができます。多様な働き方をサポートする姿勢を示すことは、企業イメージの向上にもつながります。
まとめ:自社の未来を描き、最適な福利厚生制度を構築するために
本記事では、福利厚生としての生命保険について、そのメリット・デメリット、種類、導入ステップ、そして他の制度との比較まで、網羅的に解説してきました。
本記事の要点
- 福利厚生の生命保険は、人材定着、エンゲージメント向上、節税などの企業側メリットと、割安な保険料、加入しやすさといった従業員側メリットがある。
- 一方で、コスト負担や手続きの煩雑さ、退職時に保障がなくなるといったデメリットも存在する。
- 「総合福祉団体定期保険」「養老保険」などが代表的な種類であり、「保障」「貯蓄」など目的によって選択肢が異なる。
- 導入成功の鍵は、目的の明確化、適切な商品選定、社内規程の整備、そして従業員への丁寧な説明にある。
福利厚生としての生命保険は、単なるコストではありません。企業の「従業員を大切にする」という姿勢を具体的に示す、未来への投資です。
しかし、その効果を最大化するためには、自社の状況を冷静に分析し、目的意識を持って制度を設計することが不可欠です。
どの保険が最適か、どのサービスを組み合わせるべきか。その答えは一社一社異なります。
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