長年築いてきた会社を次世代に託す今、ご自身の豊かなセカンドライフを支える「退職金」について考える時期ではないでしょうか。
とはいえ、「何から始めればいいのか」「税金はどのくらいかかるのか」と悩む経営者も少なくありません。経営者の退職金準備には、会社の資金繰りと自身の資産形成を両立させるための戦略が必要です。
本記事では、多くの経営者が活用する「生命保険(経営者保険)」を中心に、退職金の重要性や適正額の考え方、効果的な準備方法を解説します。最新の税制に基づき、経営者と会社双方にとって最適な退職金プランを見つけるためのヒントをお届けします。
目次
なぜ今、経営者の退職金準備が重要なのか?
まず、経営者にとって退職金が持つ3つの重要な意味について確認しておきましょう。
勇退後の豊かな生活を支える「第二の報酬」
経営者には、従業員のような退職金制度が自動的に用意されているわけではありません。ご自身で計画的に準備してはじめて、長年の功労に報いる資金を確保し、引退後の生活を経済的に支えることができます。
事業承継を円滑に進めるための「財務戦略」
後継者へスムーズにバトンタッチするためには、会社の財務状況を安定させることが不可欠です。退職金を計画的に準備することで、退職時に会社のキャッシュフローを急激に悪化させる事態を防ぎ、円滑な事業承継を実現します。
相続対策としての側面も
経営者の資産は自社株に偏りがちです。退職金として現金を受け取ることで、個人の金融資産を増やし、将来の相続発生時に納税資金で困ったり、遺産分割で揉めたりするリスクを軽減する効果も期待できます。
そもそも経営者の退職金はいくらが妥当?適正額の計算方法
経営者の退職金(役員退職慰労金)は、自由に金額を決められるわけではありません。税務上「不相当に高額」と判断されると、超過分が損金として認められない(損金不算入)ペナルティがあります。そのため、客観的かつ合理的な根拠に基づいて金額を算出する必要があります。
役員退職金の基本:「役員退職慰労金」とは
会社の役員に対して、その退任を事由に支給される金銭を「役員退職慰労金」と呼びます。これを会社の経費(損金)として計上するためには、原則として株主総会の決議が必要です。
また、金額の算定根拠を明確にするため、「役員退職慰労金規程」を事前に整備しておくことが極めて重要です。
適正額の算出に使われる「功績倍率法」
実務上、役員退職金の適正額を算出するために最も一般的に用いられるのが「功績倍率法」です。
計算式: 最終役員報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率
- 最終役員報酬月額
- 退任時の役員報酬の月額。不当に引き上げられた報酬は否認される可能性があるため注意が必要です。
- 役員在任年数
- 会社法上の役員として登記されていた期間。
- 功績倍率
- 役員の会社への貢献度を示す係数。役職に応じて設定され、過去の裁判例などから、以下の数値が一般的とされています。
- 社長(代表取締役): 2.5倍~3.0倍
- 専務取締役: 2.0倍~2.5倍
- 常務取締役: 1.5倍~2.0倍
- 取締役(平): 1.0倍~1.5倍
- 役員の会社への貢献度を示す係数。役職に応じて設定され、過去の裁判例などから、以下の数値が一般的とされています。
【計算例】
- 最終役員報酬月額:200万円
- 役員在任年数:30年
- 功績倍率:3.0倍
- 退職金額:200万円 × 30年 × 3.0 = 1億8,000万円
過大な役員退職金が「損金不算入」となるリスク
上記の功績倍率法で算出した金額はあくまで一つの目安です。同業種・同規模の他社の支給状況と比較して著しく高額である場合なども、税務調査で否認されるリスクがあります。顧問税理士などの専門家と相談の上、自社の実態に合った妥当な金額を設定することが肝要です。
【データで見る】役員退職金の相場観
企業の役員退職金に関する調査によると、役員の退職金は企業の規模や業種によって異なりますが、一つの参考データとして、中小企業における社長の平均的な退職金額は数千万円から1億円超の範囲に分布しています。
自社の状況と照らし合わせ、準備すべき金額のイメージを掴みましょう。
経営者の退職金、主な準備方法5選を徹底比較
経営者の退職金を準備するには、いくつかの方法があります。ここでは代表的な5つの方法を比較し、それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。
| 準備方法 | メリット | デメリット | 損金性 | 流動性 |
|---|---|---|---|---|
| 1. 生命保険 | ・保障と資産形成を両立 ・保険料の一部/全額が損金 ・簿外で計画的に積立可能 | ・早期解約は元本割れリスク ・商品設計が複雑 | △~◎ | △ |
| 2. 小規模企業共済 | ・掛金が全額所得控除 ・受取時の税制優遇が大きい ・低リスクで確実な積立 | ・掛金上限が月7万円 ・原則65歳まで引き出せない | × (個人) | × |
| 3. iDeCo | ・掛金が全額所得控除 ・運用益が非課税 ・受取時の税制優遇 | ・原則60歳まで引き出せない ・運用リスクがある | × (個人) | × |
| 4. 自社株の買い取り | ・会社の資金で株を現金化 ・後継者の負担軽減 | ・会社の資金繰りを圧迫 ・株価算定が複雑 | × | 〇 |
| 5. 内部留保 | ・最もシンプルで確実 ・いつでも引き出せる | ・法人税課税後の資金 ・計画性が無いと不足しがち | × | ◎ |
【結論】どの方法にも一長一短がありますが、「法人税を軽減しながら」「会社の事業保障を確保し」「計画的に簿外で資金を積み立てる」という複数の目的を同時に達成できる点で、生命保険(経営者保険)は非常に有効な選択肢と言えます。次章では、その具体的なメリットをさらに詳しく掘り下げます。
なぜ「経営者保険」が退職金準備に選ばれるのか?4つのメリット
経営者保険が退職金準備に最適な理由として、主に4つのメリットが挙げられます。
メリット1:保障と資産形成を両立できる
経営者保険の最大の特長は、万が一の際の保障機能と、将来の退職金原資となる貯蓄機能を兼ね備えている点です。経営者であるご自身に不測の事態が起きた場合、死亡保険金が会社に支払われ、借入金の返済や当面の運転資金、従業員の給与などに充てることができます。
これは、会社の信用維持と事業継続に直結する重要なリスクヘッジです。平穏に事業を継続できた場合は、経営の第一線を退くタイミングで保険を解約し、その解約返戻金を退職金の原資として活用します。
このように、「万が一の保障」と「勇退時の資金準備」を一つの仕組みで両立できるのが、他の金融商品にはない大きな魅力です。
メリット2:保険料の一部または全額を損金算入し、法人税を軽減できる
法人契約の生命保険は、その種類や契約形態に応じて、支払う保険料の一部または全額を会社の経費(損金)として計上できます。利益が出ている会社であれば、損金が増えることで課税所得が圧縮され、結果的に法人税の負担を軽減する効果があります。
つまり、実質的な法人税負担を抑えながら、将来の退職金原資を社外に積み立てていくことが可能になります。
これは、内部留保(現預金)で準備する場合との大きな違いです。(※損金算入のルールについては後述します)
メリット3:会社の資金繰りを圧迫しにくい(簿外での積立)
保険料として社外に払い出した資金(解約返戻金)は、会社の貸借対照表(バランスシート)には資産として計上されません(※一部例外あり)。いわゆる「簿外資産」として積み立てられていくため、決算書上の資産をスリムに見せることができます。
また、銀行預金のようにいつでも引き出せるわけではないため、安易な取り崩しを防ぎ、長期的な視点で計画的に退職金原資を確保しやすいというメリットもあります。
メリット4:退職所得控除による大きな税制優遇を受けられる
保険で積み立てた資金は、退職時に会社が解約返戻金として受け取り、そこから経営者個人に「退職金」として支払われます。個人が受け取る退職金は「退職所得」として、給与所得など他の所得とは分離して課税され、非常に手厚い「退職所得控除」が適用されます。
退職所得の計算方法(収入金額(退職金額) - 退職所得控除額) × 1/2 = 課税退職所得金額
退職所得控除額
- 勤続20年以下: 40万円 × 勤続年数 (※80万円に満たない場合は80万円)
- 勤続20年超: 800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)
例えば、勤続30年の場合、退職所得控除額は「800万円 + 70万円 × (30年 – 20年) = 1,500万円」となります。
仮に退職金が5,000万円だとしても、課税対象となるのは「(5,000万円 – 1,500万円) × 1/2 = 1,750万円」となり、税負担が大幅に軽減されます。この税制優遇は、経営者退職金準備における最大のポイントの一つです。
退職金準備に活用される代表的な経営者保険の種類と特徴
退職金準備に活用される経営者保険には、いくつかの種類があります。それぞれの特徴を理解し、自社の目的や状況に合ったものを選ぶことが重要です。
逓増定期保険
保障額が契約当初から一定期間、段階的に増加していく定期保険です。保険期間の前半に解約返戻率のピークが来ることが多く、比較的短期(5年~10年程度)での退職金準備に向いています。
保険料は全額損金算入できるタイプもありましたが、税制改正により現在は損金算入割合が制限されています。
長期平準定期保険
保険期間が90歳を超えるなど非常に長期にわたる定期保険です。解約返戻率が長期間かけて緩やかに上昇していくのが特徴で、長期的な視点での退職金準備に適しています。
経営者の勇退時期がまだ先の場合や、事業保障を長期間確保したい場合に選択されます。
養老保険(ハーフタックスプラン)
死亡保障と貯蓄性を兼ね備えた保険で、満期時には死亡保険金と同額の満期保険金が受け取れます。
役員・従業員を被保険者として普遍的に加入するなどの要件を満たせば、保険料の半分を損金(福利厚生費)に、残り半分を資産に計上できます(ハーフタックスプラン)。退職金準備と従業員の福利厚生を両立したい場合に有効です。
個人年金保険
会社が契約者、経営者個人を被保険者・年金受取人とする契約です。保険料は全額損金として扱われますが、被保険者である経営者個人に対する給与として課税されるため、節税効果は限定的です。
外貨建保険
米ドルや豪ドルなどの外貨で保険料を支払い、保険金や解約返戻金も外貨で受け取る保険です。為替変動リスクがありますが、国内の保険よりも高い利回りが期待できる場合があります。為替や海外金利に関する知識が必要となります。
【要注意】2019年ルール改正後の経営者保険・損金算入のポイント
2019年7月、国税庁は法人保険の損金算入に関するルールを大幅に改正しました。背景には、一部の保険商品が、保障という本来の目的から逸脱し、過度な節税商品として利用されていた実態がありました。
この改正により、以前のように高い節税効果を謳う商品は姿を消しましたが、ルールを正しく理解すれば、経営者保険が退職金準備に有効であることに変わりはありません。
参照元:定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれない場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
最高解約返戻率に応じた損金算入ルールの変更点
新しいルールでは、保険の「最高解約返戻率」に応じて、損金に算入できる保険料の割合が細かく定められました。
- ケース1:最高解約返戻率 50%以下
→ 支払保険料の全額を損金に算入できます。 - ケース2:最高解約返戻率 50%超 70%以下
→ 支払保険料の60%を損金に、残りの40%を資産に計上します。 - ケース3:最高解約返戻率 70%超 85%以下
→ 支払保険料の40%を損金に、残りの60%を資産に計上します。 - ケース4:最高解約返戻率 85%超
→ 支払保険料の10%~30%程度(期間に応じて変動)を損金に、残りを資産に計上します。
また、資産計上した保険料は、解約返戻率がピークを過ぎた後から取り崩して損金に算入していくことになります。
ルール改正後も保険活用の有効性は変わらない理由
一見すると、損金算入できる割合が減り、メリットが薄れたように感じるかもしれません。しかし、本質は変わりません。重要なのは、「法人税の課税を将来に繰り延べる」という効果です。
支払時には一部が資産計上(課税対象)となりますが、最終的に経営者が退職し、保険を解約して退職金を支払う事業年度に、解約返戻金との差額(雑損失)や退職金(損金)を計上することで、大きな利益(解約返戻金)と相殺できます。
結果として、利益が平準化され、トータルでの税負担を軽減する効果は依然として有効です。むしろ、ルールが明確化されたことで、経営者は安心して計画的な退職金準備に取り組めるようになったと言えるでしょう。
経営者保険で退職金準備を進めるための具体的な5ステップ
実際に経営者保険を活用して退職金を準備する際の、基本的な流れを5つのステップで解説します。
ステップ1:役員退職慰労金規程の作成・整備
全ての基本となる最も重要なステップです。退職金の支給基準、計算方法などを定めた規程を株主総会の承認を得て作成します。これがなければ、退職金の損金算入が認められない可能性があります。
まだ整備していない場合は、顧問税理士や司法書士に相談し、早急に作成しましょう。
ステップ2:退職金額のシミュレーション
規程に基づき、ご自身の退職予定時期や想定される最終役員報酬から、退職金の概算額をシミュレーションします。会社の財務状況も考慮し、無理のない目標金額を設定します。
ステップ3:保険商品の選定と加入
シミュレーションした目標額や勇退予定時期、会社の利益状況などを踏まえ、最適な保険商品を選定します。複数の保険会社の商品を比較検討し、保障内容や解約返戻率の推移などを十分に理解した上で加入を決定します。
信頼できる保険代理店やファイナンシャルプランナーに相談するのも良いでしょう。
ステップ4:退職時期の決定と退任手続き
事業承継のタイミングや保険の解約返戻率がピークを迎える時期などを総合的に勘案し、正式な退職日を決定します。株主総会で退職金の支給を決議し、取締役会で具体的な金額や支払い方法を決定するなど、正規の手続きを踏みます。
ステップ5:保険金(解約返戻金)の受け取りと退職金の支払い
退職のタイミングで保険契約を解約し、会社が解約返戻金を受け取ります。そして、株主総会の決議に基づき、会社から経営者個人へ退職金を支払います。
個人は受け取った退職金について、確定申告(多くの場合、会社が源泉徴収するため不要)を行います。
よくある質問(FAQ)
Q1. 中小企業の経営者でも退職金は必要ですか?
A1. はい、必要です。むしろ、公的な年金制度だけでは老後資金が不十分になりがちな中小企業の経営者こそ、自助努力による計画的な資産形成が不可欠です。退職金は、そのための最も有効な手段の一つと言えます。
Q2. 保険料の支払いが途中で困難になった場合はどうなりますか?
A2. 多くの保険商品には、保険料の支払いを一時的に停止する「払済保険」への変更や、解約返戻金の範囲内で保険料を自動的に立て替える「自動振替貸付」といった制度が用意されています。
これにより、契約をすぐに解約することなく継続できる場合があります。ただし、保障額が減ったり、貸付には利息が発生したりするため、事前の確認が必要です。
Q3. 会社の業績が悪化した場合、解約返戻金は差し押さえの対象になりますか?
A3. はい、法人契約の生命保険の解約返戻金請求権は会社の資産と見なされるため、会社が倒産した際などには、債権者による差し押さえの対象となります。これはリスクの一つとして認識しておく必要があります。
Q4. 顧問税理士に相談すれば十分ではないですか?
A4. 税務の専門家である顧問税理士への相談は必須です。ただし、税理士は必ずしも保険商品や資産運用の専門家ではありません。税務・法務の観点からのアドバイスと、保険商品や金融市場のトレンドを踏まえたプランニングは、それぞれ別の専門領域です。
両方の専門家の意見を聞きながら、総合的に判断することが、最善の策と言えるでしょう。
まとめ:計画的な準備で、会社と経営者双方の未来を豊かに
本記事では、経営者の退職金準備について、その重要性から具体的な準備方法、特に生命保険(経営者保険)を活用するメリットや注意点を詳しく解説してきました。
- 経営者の退職金は、老後の生活、円滑な事業承継、相続対策の3つの観点で重要。
- 適正額は「功績倍率法」で算出し、「役員退職慰労金規程」の整備が不可欠。
- 準備方法の中でも経営者保険は、「保障」と「損金性を活かした資産形成」を両立できる有効な手段。
- 2019年の税制改正後も、ルールを正しく理解すれば保険活用のメリットは健在。
- 重要なのは、専門家と相談しながら、自社の状況に合わせて計画的に準備を進めること。
勇退後の人生を見据えた準備は、会社の未来を考えることと表裏一体です。ご自身の功労に報い、後継者が安心して経営に専念できる環境を整えるために、ぜひ今日から具体的な一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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松嶋真倫
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