建設工事における請負契約書の作成実務では、契約金額に応じた収入印紙の貼付が法律で義務付けられています。特に建設業は契約金額が大きくなりやすく、印紙税の負担は経営上の無視できないコストとなっているのが実情です。また、2014年から続いている「軽減措置」の適用期間や条件についても、正確な把握が求められます。
本記事では、国税庁の最新情報をもとに2026年時点での契約金額ごとの印紙税額を一覧表で整理し、建設業界で頻出する「注文請書」や「変更契約書」における取り扱いについて解説します。
さらに、建設関連企業の導入事例を交え、法的な観点から印紙税そのものを適法に削減する手段として、近年導入が進む電子契約システムの有効性についてもご紹介します。
目次
【2026年対応】工事請負契約書の印紙税額一覧表
建設工事請負契約書は、印紙税法上の「第2号文書(請負に関する契約書)」に該当します。契約書に記載された金額に応じて納税額が決定されますが、建設工事に関しては租税特別措置法により軽減措置が設けられています。
2026年中も軽減税率は継続適用されます
2024年度の税制改正により、建設工事請負契約書に関する印紙税の軽減措置は2027年(令和9年)3月31日まで延長されました。したがって、2026年中に作成される契約書についても、これまで通り軽減税率が適用されます。
契約金額ごとの本則税率と軽減税率一覧
以下は、契約金額ごとの印紙税額をまとめた一覧表です。軽減税率の対象となるのは、契約金額が100万円を超えるものに限られます。
| 契約金額(記載金額) | 本則税率(原則) | 軽減税率(適用後) |
|---|---|---|
| 1万円未満 | 非課税 | 非課税 |
| 1万円以上 100万円以下 | 200円 | 200円 |
| 100万円超 200万円以下 | 400円 | 200円 |
| 200万円超 300万円以下 | 1,000円 | 500円 |
| 300万円超 500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
| 500万円超 1,000万円以下 | 1万円 | 5,000円 |
| 1,000万円超 5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
| 5,000万円超 1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
| 1億円超 5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
| 5億円超 10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
| 10億円超 50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
| 50億円超 | 60万円 | 48万円 |
| 契約金額の記載のないもの | 200円 | 200円 |
軽減措置の適用要件と期間の注意点
この軽減措置は恒久的なものではなく、期間が定められています。現時点では、2014年(平成26年)4月1日から2027年(令和9年)3月31日までの間に作成された契約書が対象となります。
適用される要件は以下の通りです。
- 契約書の種類: 「建設工事の請負」に関する契約書であること
- 記載金額: 契約金額(記載金額)が100万円を超えていること
- 作成時期: 適用期間内に作成されていること
2026年中は軽減措置が適用されますが、期間が終了する2027年春以降の動向には注意が必要です。なお、設計委託契約や工事監理契約は「第2号文書」であっても建設工事請負契約には該当しないケースが多く、その場合は軽減措置の対象外となる点にご留意ください。
建設業における印紙税の重要ポイント
建設業における印紙税について、実務上判断に迷いやすいケースについて解説します。
「工事請負契約書」と「注文請書」の違い
建設業法では、契約の締結において書面の交付が義務付けられています。実務では、基本契約を結んだ上で、個別の発注については「注文書」と「請書」のやり取りで済ませるケースが多く見られます。
この場合、発注者が発行する「注文書」には印紙は不要ですが、受注者が発行する「注文請書(請書)」は契約の成立を証する文書とみなされるため、工事請負契約書と同様に印紙税の課税対象となります。したがって、請書の金額に応じた印紙の貼付が必要です。
変更契約書(増額・減額)における印紙の扱い
工期延長や追加工事により、当初の契約内容を変更する「変更契約書」を作成する場合も、原則として印紙が必要です。
- 増額する場合: 増額分の金額に応じた印紙税額となります。ただし、当初の契約書を作成済みであることが要件です。
- 減額する場合: 契約金額の記載がないものとみなされ、一律200円の印紙が必要です。
印紙を貼り忘れた場合の「過怠税」リスク
税務調査などで印紙の貼り忘れ(納付漏れ)が発覚した場合、本来納めるべき印紙税額の3倍(本来の税額とその2倍に相当する金額との合計)に相当する「過怠税」が徴収されます。また、印紙を貼っていても消印(割印)がない場合は、同額の過怠税が課される可能性があります。コンプライアンスの観点からも、適切な管理が不可欠です。
収入印紙代を「ゼロ」にする法的根拠と仕組み
2024年に適用された時間外労働の上限規制(働き方改革関連法)を経て、2026年は建設業界にとって「業務効率化」が事業継続の要となっています。その有力な解決策として、多くの建設会社が導入を進めているのが「電子契約」です。電子契約には業務効率化だけでなく、印紙税削減という直接的な財務メリットがあります。
印紙税法における「課税文書」の定義
印紙税法において課税対象となるのは、「用紙等に課税事項が記載され、交付された文書」とされています。国税庁の見解や国会答弁においても、「電磁的記録」により作成された契約データは、この「文書」に該当しないと解釈されています。
電子契約が非課税となる理由
電子契約では、PDFなどのデータファイルに電子署名を施し、サーバー上で締結を行います。物理的な「紙」が交付されないため、印紙税法上の課税文書には当たらず、契約金額がいくら高額であっても印紙税は一切かかりません。
電子契約移行によるコスト削減効果の試算イメージ
では、電子契約へ移行することによって、どれほどのコスト削減効果があるのでしょうか。企業規模別に試算します。
- 中小規模の工務店(年間契約件数 100件)
- 平均契約額 500万円(印紙代 1,000円)の場合
- 削減額:1,000円 × 100件 = 年間 10万円
- 中堅・大手ゼネコン(年間契約件数 1,000件)
- 平均契約額 5,000万円(印紙代 1万円)の場合
- 削減額:1万円 × 1,000件 = 年間 1,000万円
ここに郵送費(レターパック等)や、製本・押印にかかる人件費も加わるため、実際の削減効果は上記の試算よりもさらに大きくなると見込まれます。
建設業界における電子契約導入の課題と解決策
コストメリットは明確なものですが、建設業界特有の事情により導入をためらう企業も少なくありません。主な課題は「実印文化」と「建設業法対応」です。
実印文化と本人確認の法的強度
建設業界では、重要な契約において「会社実印(代表者印)」の押印が重視されます。一般的な電子契約(メール認証による立会人型)では、担当者が勝手に承認してしまうリスク(なりすましリスク)への懸念が払拭できないという声があります。
この課題に対しては、電子証明書を用いて本人性を厳格に担保する「当事者型」の電子署名に対応したサービスの選定が有効です。当事者型の署名は、電子署名法第3条に基づき、本人の意思による署名と推定される法的効力を持ちます。
建設業法ガイドラインへの対応(見読性・原本性)
建設業法では、電子契約の導入にあたり「見読性(直ちに表示できること)」「原本性(改ざんされていないことの証明)」などの技術的基準を満たすことが求められています。これらは国土交通省のガイドラインによって詳細が定められています。
導入を検討する際は、これらの基準を満たし、建設業法への適法性が確認されているサービスを選ぶことが、コンプライアンス上のリスク回避につながります。
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建設業界の電子契約導入事例5選
「紙と実印」の文化が根強い建設業界ですが、すでに多くの企業が電子契約によってコスト削減と業務効率化を実現しています。ここでは、代表的な電子契約サービスである「クラウドサイン」と「GMOサイン」を導入した企業の事例を紹介します。
1. タマホーム株式会社:年間1億円超の印紙代を削減(クラウドサイン)
住宅業界大手のタマホーム株式会社では、注文住宅の工事請負契約などを電子化したことで、年間1億円を超える印紙代の削減を実現しています。印紙コストだけでなく、契約書の製本や郵送にかかる事務工数も大幅に圧縮され、顧客にとっても「契約手続きがスマホで完結する」という利便性向上につながっています。
2. 株式会社後藤組:kintone連携で「工事指示書」も一括送信(クラウドサイン)
創業100年近い山形県の総合建設会社、株式会社後藤組では、工事請負契約書や注文請書など、工事関連契約書の約40%を電子化しています。特筆すべきは、業務アプリ「kintone」と連携させることで、契約書だけでなく「工事指示書」の一括送信まで実現している点です。重複入力の手間をなくし、協力会社とのやり取りを「見える化」することに成功しています。
3. BXゆとりフォーム株式会社:営業担当者の移動時間を削減(クラウドサイン)
首都圏を中心にリフォーム事業を展開するBXゆとりフォーム株式会社では、リフォーム工事請負契約書を電子化しています。以前は顧客宅へ訪問して契約を結んでいましたが、電子化により訪問回数を削減することができ、営業担当者の移動時間を大幅に短縮することに成功しています。
4. 東邦電気産業株式会社:年間1,300件の注文書を電子化(GMOサイン)
電気設備工事を手掛ける東邦電気産業株式会社では、年間約1,300件発生していた紙の注文書・注文請書を電子化しています。これにより、年間約50万円以上のコスト削減を見込んでいます。また、GMOサインの導入後も営業担当者による手厚いフォローがあったことが、スムーズな運用の決め手となったとしています。
5. 株式会社創建:契約リードタイムを「1ヶ月」から「最短1日」へ(GMOサイン)
リフォーム事業を展開する株式会社創建では、以前は見積もりから契約、発注までに1ヶ月以上かかるケースもありました。そこで、自社の基幹システムとGMOサインをAPI連携させることで、最短1日で契約・発注が完了する仕組みを構築。スピード感が求められるリフォーム案件において、劇的な業務短縮を実現しています。
建設業におすすめの電子契約サービス比較
法的リスクを抑えつつ、建設業の実務に適した電子契約サービスを2つ紹介します。
業界標準のシェアと安心感「クラウドサイン」

クラウドサインは、日本国内の電子契約システムでトップクラスのシェアを持つサービスです。
- 特徴: 弁護士ドットコムが運営しており、法律相談や監修体制が充実しています。メール認証による「立会人型」が基本ですが、マイナンバーカードを用いた「当事者型」署名にも対応しており、本人確認強度を厳格にしたい重要契約でも安心して利用できます。
- 適合性: タマホームや後藤組のように、大手から地域ゼネコンまで幅広い導入実績があり、取引先(発注者・協力会社)も既にアカウントを持っている可能性が高いため、スムーズに電子化を依頼できる利点があります。
厳格な本人確認とハイブリッド署名「GMOサイン」

GMOサインは、メール認証で手軽に行える「立会人型」と、電子証明書を使用する厳格な「当事者型」を、契約の重要度に応じて使い分けられる点が特徴です。
- 特徴: 注文請書などの日常的な発注には手軽な「立会人型」、高額な工事請負契約には実印相当の電子証明書を用いた「当事者型」と、1つのプラットフォームでハイブリッドな運用が可能です。創建の事例のように、自社システムとのAPI連携にも強みを持ちます。
- 適合性: 自社グループで認証局(GlobalSign)を保有している強みがあり、コストパフォーマンスと技術的な信頼性のバランスに優れています。
【比較表】建設業におすすめの電子契約システム
以下はご紹介した電子契約システムの比較表です。いずれも建設業界で導入実績があり、建設業法にも対応しています。
また、以下の記事では電子契約システムについて、選び方や機能などを詳細に解説しています。導入を検討される方は、ぜひこちらもご覧ください。
まとめ
工事請負契約書にかかる印紙税は、軽減措置が適用されるとはいえ、積み重なれば大きな経営コストとなります。また、金額区分の確認や貼付作業の手間、過怠税のリスクも無視できません。
これらの課題を解決する手段として、電子契約の導入は非常に有効です。タマホームのような大手企業だけでなく、後藤組や東邦電気産業のような地域に根ざした建設会社でも、コスト削減と業務効率化の実績が次々と生まれています。まずは自社の契約件数や金額規模から、どれだけの削減効果があるか試算してみることをお勧めします。
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よくある質問(FAQ)
Q. 電子契約にした場合、過去の紙の契約書はどうすればいいですか?
過去の契約書は紙のまま保管し、新規契約分から電子化を進めるのが一般的です。一元管理したい場合は、紙の契約書をスキャンして電子契約システム上の保管庫にアップロードする機能(書類管理機能)を活用すると便利です。
Q. 下請法上の保存義務にも対応していますか?
はい、主要な電子契約サービスは、電子帳簿保存法および下請法などで定められた保存要件(検索機能の確保など)に対応しています。
Q. 取引先が電子契約を拒否した場合はどうなりますか?
取引先の合意が得られない場合は、従来通り紙の契約書を作成し、印紙を貼付する必要があります。クラウドサインやGMOサインなどのサービスでは、相手方がアカウントを持っていなくても署名できる仕組みがあり、導入のハードルを下げる工夫がされています。
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松嶋真倫
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