業務委託契約書を作成する際、実務担当者が直面する課題の一つが「収入印紙(印紙税)」の取り扱いです。金額はいくらが適切なのか、そもそも貼付が必要な契約内容なのか。こうした判断を誤れば、過怠税というペナルティが課されるリスクがあるため、慎重に検討する必要があります。
本記事では、まず印紙税を「0円」にできる電子契約の仕組みについて解説し、続いて紙で契約する場合の収入印紙の金額一覧、判断に迷いやすい「第2号文書(請負に関する契約書)」と「第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)」の区分基準について実務的なポイントをご紹介します。
なお、建設工事(建築、内装、リフォーム等)に関連する契約書については、印紙税の軽減措置が適用されるなど独自のルールが存在します。建設業の方は、以下の記事で詳細をご確認ください。
目次
収入印紙を「完全不要」にする電子契約の仕組み
業務委託契約書には複雑な印紙税のルールやコストが存在しますが、これらのコストと管理の手間をゼロにする方法があります。それが「電子契約」です。
なぜ電子契約なら印紙税がかからないのか
印紙税法は、「用紙などの文書」を作成したことに対して課税する法律です。電磁的記録として作成され、クラウド上で締結される電子契約は、法律上の「文書」には該当しないという解釈が国税庁や政府見解によって確立されています。そのため、契約金額が数千万円の開発案件であっても、収入印紙は一切不要(0円)となります。
コスト削減効果の試算
電子契約の導入によるコスト削減効果は、企業規模を問わず明確に表れます。
- 大手企業のケース(年間契約数 約1,000件):システム開発や販促費に関連する印紙代だけで年間数百万円規模の削減が想定されます。加えて、郵送費、製本テープ代、書類保管倉庫の費用を含めると、削減効果はさらに拡大します。
- 中小企業・ベンチャーのケース(年間契約数 約50件):印紙代の削減額は数万円〜十数万円程度が想定されますが、それ以上に「担当者の工数削減」という効果が顕著です。印刷、製本、押印、投函といった物理的な作業時間がゼロになり、本来のコア業務に集中できる環境が整います。
業務効率化による副次的効果
コスト削減以上に現場が恩恵を感じるのは「スピード」です。
従来、社内決裁から製本、郵送、相手方の押印返送まで1〜2週間かかっていたリードタイムが、電子契約であれば最短数分で完結します。特に、新規取引先とのNDA(秘密保持契約)や業務委託契約を急ぐ営業部門にとって、即日締結が可能になることは大きな競争力となります。
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一方で、相手方の都合などで紙の契約書を作成せざるを得ない場合は、以下で解説する印紙税額が必要になります。
業務委託契約書の収入印紙金額一覧
業務委託契約書に貼付する収入印紙の金額は、その契約が印紙税法上の課税文書に該当するか、また該当するとしてどの号文書にあてはまるかによって決定されます。特に実務で論点になりやすいのが、「第2号文書(請負に関する契約書)」と「第7号文書(継続的取引の基本契約書)」です。
「請負契約(第2号文書)」の印紙税額表
成果物の完成(仕事の完成)を約束する「請負契約(システム開発、デザイン制作など)」の場合、契約書に記載された金額(報酬額)に応じて印紙税額が変動します。
ここでは、建設工事以外の一般的な請負契約に適用される「本則税率」を掲載します。
| 契約金額(記載金額) | 印紙税額(本則) |
|---|---|
| 1万円未満 | 非課税 |
| 1万円以上 100万円以下 | 200円 |
| 100万円超 200万円以下 | 400円 |
| 200万円超 300万円以下 | 1,000円 |
| 300万円超 500万円以下 | 2,000円 |
| 500万円超 1,000万円以下 | 1万円 |
| 1,000万円超 5,000万円以下 | 2万円 |
| 5,000万円超 1億円以下 | 6万円 |
| 1億円超 5億円以下 | 10万円 |
| 5億円超 10億円以下 | 20万円 |
| 10億円超 50億円以下 | 40万円 |
| 50億円超 | 60万円 |
| 契約金額の記載のないもの | 200円 |
※上記はシステム開発やコンテンツ制作などの一般的な請負契約に適用される税額です。
「継続的取引の基本契約書(第7号文書)」の印紙税額
特定の相手と継続的に取引を行うために締結する基本契約書で、国税庁が示す要件に当たるものは第7号文書に分類されます。
この場合、契約金額の多寡にかかわらず、税額は一律です。
- 印紙税額:一律 4,000円
ただし、契約期間が3ヶ月以内で、かつ更新の定めがないものは第7号文書に含まれません。
印紙が必要かどうかの判断基準(第2号文書と第7号文書の違い)
IT業界やサービス業界の契約実務において最も判断に迷うのが、その契約が「第2号文書」なのか「第7号文書」なのか、あるいは「非課税文書(印紙不要)」のどれに当たるか、という点です。
「請負」と「委任(準委任)」の違いとは?
印紙税法において、業務委託は大きく「請負」と「委任(準委任)」に分類されます。
- 請負(第2号文書): 仕事の完成(成果物の完成)を約束するもので、完成した成果物に対して報酬が支払われるタイプです。
- 例:Webサイト制作、ソフトウェア開発、ロゴデザイン作成、市場調査レポート作成など
- 委任・準委任(原則非課税): 事務処理・業務遂行自体を委託するもので、成果物の完成責任を負わないタイプです。
- 例:Webサイトの運用保守、コンサルティング、コールセンター業務、システムエンジニアリングサービス(SES)など
原則として、委任・準委任契約書には収入印紙は不要です。しかし、これが「継続的取引の基本契約書(第7号文書)」の要件を満たす場合、4,000円の印紙が必要となる点に注意が必要です。
第2号文書(請負)に該当しやすいケース
契約書に「成果物の納入・検収」や「仕事の完成」が明記されている場合、第2号文書に該当しやすくなります。たとえば、以下のような契約では第2号文書に該当する可能性が高いです。
- ソフトウェア開発委託契約書
- 広告制作請負契約書
第7号文書(継続的取引)に該当するケース
以下の要件をすべて満たす場合、第7号文書となります。委任契約であっても、この要件を満たせば課税対象(4,000円)となります。
- 営業者間での契約であること
- 売買、売買の委託、運送、運送取扱い、請負のいずれかに関する契約であること
- 2回以上の継続的な取引を予定していること
- 取引の基本条件(数量、単価、支払方法など)を1つ以上定めていること
- 契約期間が3ヶ月を超える、または更新の定めがあること
よくある第7号文書の例としては、以下のような契約が挙げられます。
- 業務委託基本契約書(個別の発注は注文書/個別契約で行う形式)
- 売買取引基本契約書
- 貨物運送基本契約書
- 下請基本契約書
両方に該当すると考えられる場合の取扱い
実務では、ひとつの業務契約書が「請負(第2号文書)」にも「継続的取引(第7号文書)」にも捉えられる場合があります。
国税庁は、第2号文書に該当する契約書であっても、営業者間で継続する複数取引の基本条件を定めるものは、第7号文書に該当することがあると明示しています。
また、月額単価や期間の定めなどから契約金額(記載金額)が算定できるかが、実務上の分岐点になる場面があることが、質疑応答事例で示されています。
契約内容や運用、作成形態で結論が変わり得るため、最終判断は専門家などにご確認ください。
判断に迷うケースの対処法
実務上、判断に迷いやすい具体的なケースについて解説します。
契約金額の記載がない場合
請負契約(第2号文書)であっても、契約書に具体的な金額が記載されていない場合、その契約書の印紙税額は一律200円となります。
ただし、前述の通り「継続的取引の基本契約書(第7号文書)」の要件も満たしている場合は、第7号文書(4,000円)が優先される可能性があります。IT業界の「基本契約書」などはこのパターンが多く、誤って200円印紙を貼ってしまうミスが散見されるため注意が必要です。
契約金額が変更になった場合
契約金額を変更する「変更契約書」や「覚書」も課税対象になり得ます。国税庁は、変更前契約書が作成されていることが明らかか、および変更金額(差額)が明らかか/変更後金額のみかで、印紙税額の決定にかかる記載金額の考え方が分かれると整理しています。
- 変更前契約書が特定でき、かつ差額(変更金額)が明らか
- 増額する場合: 増加した差額分に応じた印紙税額
- 減額する場合: 一律200円(記載金額のない第2号文書扱い)
- 上記以外(変更前契約が明らかでない等)
- 変更後金額が書かれていれば、その変更後金額が記載金額
- 差額のみが書かれていれば、その差額が記載金額
出典:No.7123 契約金額を変更する契約書の記載金額|国税庁
収入印紙はどちらが負担すべきか
印紙税法では、基本的に課税文書の作成者が納税義務を負うとされています(法第3条)。なお、課税文書を2以上の者が共同して作成した場合は、連帯して印紙税を納める義務があります。この場合、そのうちの1人が納税義務を履行すれば、その他の者全員の納税義務は消滅することが、法令解釈通達にて明示されています。
実務上は「甲乙折半」あるいは「発注者(委託者)負担」など契約ごとの取り決めに従いますが、どちらが負担したとしても、印紙が貼られていなければ双方が過怠税のリスクを負います。
印紙の貼り忘れ(納付漏れ)が発覚した場合、本来納めるべき印紙税額の3倍(本来の税額とその2倍に相当する金額との合計)に相当する「過怠税」が徴収されます。コンプライアンスの観点からも、適切な管理が不可欠です。
業務委託契約におすすめの電子契約システム
電子契約システムを選定する際は、「法的効力」「コスト」「外部連携」の3点が重要です。ここでは代表的な2つのサービスを紹介します。
クラウドサイン(シェアNo.1の安心感と連携力)

弁護士ドットコム株式会社が運営する、日本で最も利用されている電子契約サービスです。
- 特徴: 認知度が高く、取引先がすでにアカウントを持っている可能性が高いため、導入のハードルが低いのが特長です。SalesforceなどのCRMやkintoneとの連携機能が充実しており、商談から契約締結までをシームレスに管理したい企業に適しています。
- 向いている企業: 営業部門での利用頻度が高い企業や、取引先への説明コストを下げたい企業におすすめです。
GMOサイン(優れたコストパフォーマンスと公的実績)

GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社が提供する電子契約サービスです。
- 特徴: 初期費用・月額費用が低価格であることが魅力で、送信料などのランニングコストを抑えられます。「当事者型(実印タイプ)」と「立会人型(認印タイプ)」を使い分けることができ、自治体など公的機関での導入実績も豊富です。
- 向いている企業: 全社的に電子契約へ移行しコスト削減を最大化したい企業や、セキュリティ基準の厳しい企業におすすめです。
【比較表】業務委託契約の電子化におすすめの電子契約システム
また、以下の記事では電子契約システムについて、選び方や機能などを詳細に解説しています。導入を検討される方は、ぜひこちらもご覧ください。
まとめ
業務委託契約書における印紙税の実務は、「第2号文書(請負)」と「第7号文書(継続的取引)」の複雑な判定を伴い、管理部門や現場担当者にとって小さくない負担です。都度の金額確認や貼付作業の手間、そして貼り忘れによる過怠税リスクは、ビジネスのスピードと安全性を損なう要因となりかねません。
これらの課題を根本から解決する手段として、電子契約の導入は非常に有効です。 すでに300万社以上の導入実績を持つGMOサインや、国内シェアNo.1を誇るクラウドサインのように、多くのパートナーを抱えるIT企業から、厳格なセキュリティを求める自治体まで、業種・規模を問わず「脱ハンコ・脱印紙」の動きは標準化しています。
まずは自社の年間契約件数と印紙代総額を可視化し、電子化によってどれだけのコスト削減と業務効率化が見込めるか、試算してみることをお勧めします。
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よくある質問(FAQ)
Q. 過去に作成した紙の契約書を電子化する場合、印紙はどうなりますか?
A.過去の契約書をスキャンしてPDF化するだけでは、原本である紙の契約書に貼付義務が残ります。印紙税が不要になるのは、最初から電磁的記録(電子契約)として作成・締結した場合に限られます。
Q. 電子契約で「タイムスタンプ」は必須ですか?
A.電子帳簿保存法の要件を満たし、法的証拠力を確保するためには、タイムスタンプの付与が推奨されます。今回紹介したクラウドサインやGMOサインなどの主要サービスには、標準でタイムスタンプ機能が実装されています。
Q. 相手方が電子契約を拒否した場合はどうすれば良いですか?
A.相手方の社内規定により紙の契約書しか認められない場合は、紙で締結することになります。この場合は、当該契約書が課税文書に当たるかを確認し、課税文書に当たる場合は通常通り収入印紙が必要です。しかし、電子契約の普及に伴い、拒否されるケースは年々減少しています。
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