取引先からの入金が遅れ、「このまま回収できないのでは」と不安を感じていませんか?売掛金の滞りは資金繰りを圧迫し、経営にも影響します。
ですが、正しい対応を知っていれば損失は最小限に抑えられます。
本記事では、支払い遅延時の初動対応から法的手段による回収、回収不能時の経理処理までを解説します。
さらに、未回収を防ぐための事前対策やサービス活用法も紹介。専門家の知見をもとに、いざという時に会社を守る実践的なノウハウをお届けします。

売掛金回収代行サービスおすすめ比較!未回収リスクを防ぐ5つの選び方も解説
売掛金の未回収に頭を抱えていませんか?「商品を納品したのに代金が振り込まれない」「督促しても先延ばしにされる」といった状況が続くと、資金繰りが不安になり、経営にも支障をきたしかねません。 実は2020年の倒産企業の約半数は黒字決算だったとの…
目次
売掛金が回収できない場合にまずやるべきこと
取引先からの支払いが滞ったら、最初の対応が肝心です。放置すれば未回収額が増え、あなたの会社の資金繰り悪化につながります。ここでは、売掛金の入金遅延が発覚した際に真っ先に実施すべき基本対応を説明します。
取引先へ早急に連絡し、追加の出荷やサービス提供を一旦停止する
取引先に電話やメールで連絡し、支払い状況を確認しましょう。入金日の勘違いなどの単純ミスなら、催促で解決できる場合もあります。
資金繰りの悪化などで支払いの見通しが立たない場合は、追加納品やサービス提供を一時停止します。未払いのまま取引を続ければリスクが増すため、「入金確認までは取引を控えたい」と冷静に伝えましょう。社内で方針を統一し、誠実に対応することが大切です。
未回収の原因をヒアリングして状況を把握する
取引先と連絡が取れたら、なぜ支払いがされていないのか原因を確認します。主な理由は「単なる失念」「資金繰りの悪化」「請求内容への異議」などです。
経理担当の交代などで支払いミスが起こることもあれば、資金不足で支払いを後回しにしている場合もあります。また、「請求内容に納得していない」「金額に誤りがある」と考え、支払いを保留しているケースもあります。
ヒアリングでは感情的にならず事実関係を確認し、自社に非があれば早急に是正策を提示しましょう。取引先側に問題がある場合は、状況を見極めたうえで法的対応も検討します。
買掛金と相殺できないか検討する
自社と相手企業がお互いに債権・債務を持っている場合、相殺によって実質的に支払いを終わらせる方法があります。例えば、買掛金と売掛金を相殺すれば、未回収リスクを減らせます。
ただし、相手の同意なく一方的に相殺することはできません。契約書に相殺条項があるか確認し、必ず文書で合意を残しましょう。倒産手続き開始後は相殺が制限される場合もあるため注意が必要です。
相殺が成立すれば現金のやり取りを省けますが、資金繰りが厳しい時は現金が入らないデメリットもあります。提案のタイミングと条件を慎重に判断しましょう。
分割払いを提案し、現実的な支払いプランを立てる
相手企業が「一括では支払えないが、少しずつなら払える」という状況なら、分割払い(分割弁済)の提案が効果的です。時間はかかっても全額回収できる可能性が高く、関係を悪化させずに済む利点もあります。
提案する際は、具体的な金額とスケジュールを決めておきましょう。可能であれば「債務承認弁済契約公正証書」を作成し、支払いが滞った際に強制執行できるよう備えると安心です。
そこまで行わない場合でも、分割払い合意書を交わして内容を明文化し、支払い状況を継続的に管理することが重要です。遅れがあれば即対応する姿勢で臨みましょう。
時効の成立を防ぐための措置も忘れずに
売掛金には、法律上の消滅時効が定められています。2020年に施行された改正民法では、債権の消滅時効は、原則として「(債権者が)権利を行使できることを知った時から5年間」(または「権利を行使できる時から10年間」)と整理されました。
商取引における売掛金は、通常、債権者が「いつから請求できるか」を知っているケースが多いため、この「5年」のルールが適用され、実務上「原則5年で時効が成立する」と解説されています。
もし権利を行使しないままこの期間が経過し、相手方(債務者)が「時効である」と主張(法律用語で「援用」といいます)した場合、その請求権は法的に消滅することになります。(参考元:民法第百六十六条の条文)
時効を防ぐには、裁判上の請求や内容証明郵便の送付などで時効をリセット(更新)する必要があります。訴訟で判決を得れば10年間有効となり、内容証明郵便でも6か月間の延長効果があります。
相手に債務を承認させることも有効です。一部入金や支払い意思を文書で確認するなど、早めの対応を心がけましょう。売掛金回収は“時間との戦い”であることを忘れないでください。
【状況別】売掛金が回収できない場合の具体的な対処法
上記の初期対応を行っても支払いがなされない場合、次の段階として状況に応じた具体策を講じます。ポイントは、「相手が支払う意思を見せているか否か」でアプローチを変えることです。取引先が協力的であれば話し合いによる解決策を進め、不誠実な態度であれば法的な強制力も視野に入れます。それぞれのケースで取るべき対処法を解説します。
相手が支払いに前向きな場合:話し合いと合意の取り付け
取引先が連絡に応じ、支払う意思を示している場合は、穏便に解決する方向で交渉しましょう。裁判沙汰になると双方コスト増になりますし、取引関係も完全に断絶してしまいます。今後の関係維持も視野に、以下の方法で合意形成を図ります。
新たな支払い期限を双方で決め直す
相手に一時的な資金難がある場合は、支払期限を少し延ばすことで解決することもあります。「今月は難しいが来月15日なら支払える」といった提案があれば、双方納得の上で現実的な期日を再設定しましょう。
合意内容は必ずメールや書面で残すことが重要です。口約束では後にトラブルになる恐れがあります。可能であれば代表者の署名・社判をもらいましょう。期日には入金確認を行い、守られなければ次の対応に移る判断も必要です。
未払金残高の確認書類を作成してもらう
相手との間で売掛金の残高や支払条件に認識のズレがないか確認することも重要です。「分割のつもりだった」「一括の認識だった」といった行き違いを防ぐために、「未払金残高確認書(債務承認書)」を作成しましょう。
取引先に未払い金額や支払期日を記入・署名してもらうことで、債務を正式に認めさせる効果があります。
債務承認があれば時効がリセットされ、後から金額を否定されるリスクも防げます。また、書類への対応姿勢から相手の誠意も見極められます。確認書には金額・期日・支払方法を明記し、社判入りで保管しておきましょう。
取引先の財務状況に応じて適切な支払い条件を検討する
取引先が協力的であれば、決算書の提出を求めて経営状況を確認しましょう。貸借対照表や損益計算書を見れば、資産や負債、資金繰りの健全性を把握できます。
当座比率が低い・債務超過寸前などの場合は、早期の強硬策も検討が必要です。一方で一時的な資金不足なら、分割払いや猶予で回収の見通しが立つこともあります。
相手の支払い能力を客観的に見極めることが重要です。決算書や資金繰り表を入手し、社内財務担当と分析したうえで現実的な回収計画を立てましょう。
相手が支払いに消極的・拒否する場合:強制力のある手段
連絡を無視されたり、話し合いに応じない・不誠実な対応をされる場合は、残念ながら法的手段も視野に入れた強い対応が必要です。特に相手から「もう支払えない」「待ってくれ」の一点張りで誠意が感じられない場合や、そもそも連絡が途絶えてしまった場合、こちらも次のようなステップに進みましょう。
内容証明郵便で正式な督促状を送付する
電話やメールだけの催促では「請求を受けていない」と言い逃れされる恐れがあります。そのため、内容証明郵便で法的に有効な請求書(催告書)を送ることが重要です。
内容証明郵便は「誰に・どんな内容を送ったか」を郵便局が証明してくれる制度で、「○月○日までに○円を支払ってください。支払がない場合は法的手続きを取ります」と明記することで請求の証拠を残せます。
送付時は契約内容・金額・期限・振込先・法的措置の可能性を明記しましょう。行政書士や弁護士に依頼するのが確実ですが、自社作成でも問題ありません。内容証明が届くだけで、多くの相手は支払いに応じる傾向があります。
売掛債権の契約書を再確認し、法的措置の準備をする
契約書や発注書で支払い条件を再確認しましょう。支払期限や遅延損害金、違約金条項があれば請求や訴訟で有利になります。公正証書作成義務や担保提供義務があれば履行を求めることも検討しましょう。
契約書や取引履歴を整理し、支払拒否の経緯を記録しておくことが重要です。メール・請求書・納品書などを時系列でまとめると、法的手続き時の有力な証拠になります。
相手に倒産の兆しがある場合は、仮差押えの準備も視野に入れましょう。銀行口座や不動産などを事前に押さえるためです。訴訟に備え、契約書や内容証明、登記情報などの資料を早めにそろえておくことが大切です。
商品の引き揚げや担保の要求、連帯保証人への請求
納品済みの商品を引き揚げることで被害を抑えられる場合もあります。相手の倉庫に商品が残っていれば、契約解除のうえで返送してもらい、再販を検討しましょう。ただし契約内容や相手の同意が必要で、実行には慎重さが求められます。
担保の提供を交渉するのも有効です。不動産や在庫などを担保に設定できれば、回収不能時の弁済に充てられる可能性があります。
連帯保証人がいる場合は、保証人にも請求しましょう。社長個人や関連会社が保証人なら、支払い能力に応じて回収が見込めます。
これらの手段はいずれも相手の協力が前提です。「法的措置も検討している」という姿勢を示しつつ、担保や部分支払いなど譲歩を引き出す最後の交渉段階です。
法的手段・専門家に頼る場合の対応策
任意の交渉や督促を尽くしても支払いが得られない場合、いよいよ法的措置を検討します。また、早い段階であっても相手の態度が悪質な場合や金額が大きい場合は、弁護士など専門家への相談を視野に入れてください。ここでは、裁判所を通じた回収方法や弁護士に依頼する際のポイントを解説します。
支払督促・少額訴訟・調停など裁判所を通じた回収方法
法的手段といっても、必ずしも大規模な裁判ばかりではありません。支払督促は、裁判所書記官が発する督促状で、相手が異議を出さなければ強制執行が可能です。訴訟より費用が安く迅速なため、相手が争う姿勢を見せない場合に有効です。
少額訴訟も有力な手段です。60万円以下の金銭トラブルなら、簡易裁判所で即日判決が出ることもあります。また、民事調停を利用すれば、調停委員を交えて話し合いで解決を目指せます。
いずれも費用が抑えられ、自力で申し立ても可能ですが、書類作成に不安がある場合は弁護士への依頼が安心です。
訴訟(裁判)を起こす場合の流れと判決取得後の強制執行
交渉が決裂し、相手に支払う意思がない場合は最終手段として訴訟を検討します。地方裁判所または簡易裁判所に訴状を提出し、証拠をもとに主張を交わして判決を得ます。契約書や請求書などで債権を証明できれば、数か月で判決が出ることもあります。
ただし、争点が多いと長期化し、弁護士費用などコストも発生します。費用対効果を踏まえた判断が必要です。
勝訴すれば強制執行に進み、相手の財産を差し押さえて回収できます。ただし、財産がなければ実効性は低いため、事前に資産状況を確認しておきましょう。訴訟は時間と費用がかかるため、専門家と相談し戦略を立てて進めることが重要です。
弁護士に相談すべきケースと依頼するメリット
「ここまで色々手段は分かったが、自社だけで進めるのは不安だ」と感じたら、早めに弁護士に相談するのが得策です。特に以下のようなケースでは弁護士依頼を検討してください。
回収額が大きい(会社経営を揺るがす金額)場合
数百万円以上の売掛金が未回収で、自社の死活問題となるような場合は迷わず専門家の力を借りましょう。弁護士に依頼すれば裁判手続きまで一貫して任せられますし、債権額が大きければ費用をかけてでも回収する価値があります。
自社でできる方法を試しても支払いに応じてもらえない場合
内容証明を送ったり分割提案したり自力で動いたが全く成果がないなら、第三者の介入が必要です。弁護士の名前で催促状が届くだけでも相手の態度が変わることがあります。専門家による正式な通知は相手に与える心理的圧力が違います。
相手と連絡が取れない・行方不明な場合
弁護士は職権で住民票や登記簿を調査でき、相手所在を突き止められる可能性があります。また、相手が会社の場合で代表者と連絡が付かないときも、法的手段のプロが間に入ることで解決策を探せます。
交渉ごとに時間を割けない、精神的負担が限界な場合
中小企業では経営者自ら債権回収にあたることも多いですが、本業に支障が出たり心労が重なったりします。弁護士に依頼すれば煩雑なやり取りを代理してくれるため、業務負担とストレスが軽減します。
「売掛金の回収」に詳しい弁護士であればなお安心です。各都道府県の弁護士会やインターネットの法律相談サイトで、債権回収を得意とする弁護士を探してみましょう。相談だけなら初回無料の法律事務所も多いので、悩んだら一度プロの意見を聞く価値は十分にあります。
弁護士費用や期間の目安は?回収額とのバランスを考える
弁護士に依頼する際に最も気になるのが費用です。費用倒れを防ぐためにも、費用構成と見積もりを理解しておくことが大切です。弁護士費用は一般的に「着手金+成功報酬」で構成され、着手金は依頼時に支払い、成功報酬は回収額に応じて支払います。
費用の目安は、着手金が回収額の数%または定額、報酬金が回収額の10〜20%程度です。例えば100万円の回収なら、着手金10万円・報酬10万円ほどが目安。加えて印紙代などの実費も発生します。
回収額が小さい場合は費用対効果を考慮し、法的手段以外の選択肢も検討しましょう。弁護士が介入することで早期和解につながる場合もあります。
また、法テラスでは中小企業向けの無料相談や費用立替制度も利用可能です。費用面が不安な場合は、公的支援を活用しましょう。
法的手段を取る際の注意点(相手の倒産リスク・費用倒れリスク)
法的措置に踏み切る前に確認すべき重要なポイントがあります。まず、相手企業が倒産寸前の場合、裁判で勝っても配当はごくわずかです。日本では無担保債権者への配当率は平均数%とされ、1000万円の債権でも数十万円しか戻らないことがあります。相手の信用情報や業界の評判を確認し、貸倒処理を選ぶ判断も必要です。
次に、費用倒れのリスクです。弁護士費用が回収額を上回る場合もあるため、支払督促や少額訴訟など低コストの手段を検討しましょう。
また、社内コンプライアンスと風評にも注意が必要です。訴訟で関係が悪化する可能性があるため、経営陣や法務担当と連携し、正当な権利行使として慎重に進めましょう。
売掛金が回収不能となった場合の社内処理(経理・税務)
回収できない売掛金は会計上「損失」として処理し、税務申告にも反映させなければなりません。ただし、すぐに損失計上できるケースとそうでないケースがあり、税法上の条件も定められています。ここでは、回収不能時の会計処理(貸倒損失計上)と、まだ可能性が残る場合の引当金設定について解説します。
貸倒損失として処理できる条件とは?【法律上・事実上・形式上の貸倒れ】
売掛金が本当に回収不能になった場合、「貸倒損失」として損金処理を行います。貸倒損失とは、その名の通り貸し倒れによる損失を処理する勘定科目です。税法上、この貸倒損失として計上が認められるのは大きく3つのパターンがあります。
1.法律上の貸倒れ
法律的に金銭債権が消滅した場合、貸倒損失として処理できます。具体的には、会社更生法・民事再生法の手続きで裁判所が債権減額を決定した場合や、特別清算で債権放棄が確定したケースなどです。
また、債務超過が長期間続き、書面で債務免除を通知した場合も該当します。公的手続きや正式な免除により債権が消滅したと認められた金額を、貸倒損失として計上可能です。
2.事実上の貸倒れ
債務者の資産や支払能力から見て、債権の全額回収が不可能と判断できる場合は、貸倒損失として処理できます。たとえば倒産していなくても、事業停止や資産喪失など実質的に破産同様の状態なら該当します。
ただし、一部でも回収の見込みがある場合や担保がある場合は対象外です。担保は処分後でないと損失計上できません。夜逃げや行方不明で資産もないケースが典型的な事例です。
3.形式上の貸倒れ
売掛金の取引停止から1年以上経過しても弁済がない場合や、回収費用が債権額を上回る場合は、形式的に回収不能とみなされます。たとえば1年以上督促しても入金がない場合、帳簿上1円を残し残額を貸倒損失として処理できます。
貸付金は対象外ですが、通常の売掛債権なら上記条件で適用可能です。決算時に該当ケースを判断し、必要に応じて税理士へ確認しましょう。
貸倒損失の仕訳例(回収不能が確定した場合)
上記の条件に該当し、回収不能が確定したら実際に帳簿から売掛金を消し込みます。シナリオ別に仕訳例をいくつか紹介します。
ケース1: 相手が会社更生法の適用を受け、債権100万円が回収不能になった場合
(借方)貸倒損失 1,000,000円 /(貸方)売掛金 1,000,000円
借方「貸倒損失」100万円/貸方「売掛金」100万円。更生計画の認可決定により法的に債権が消滅したケースです。
ケース2: 相手が倒産し、債権者集会で債権100万円のうち90%カット(10%弁済)と決議された場合
(借方)貸倒損失 900,000円 /(貸方)売掛金 900,000円
※10万円分は引き続き売掛金として管理
カットされた90万円を貸倒損失計上。借方「貸倒損失」90万円/貸方「売掛金」90万円。残り10万円は弁済予定なので売掛金として残ります(実際入金されたら貸方売掛金10万円/借方預金10万円で処理)。
ケース3: 取引先が事実上倒産状態のため、書面で債務免除(100万円)を通知した場合
(借方)貸倒損失 1,000,000円 /(貸方)売掛金 1,000,000円
※書面通知(公正証書等)により債権放棄が確定/
借方「貸倒損失」100万円/貸方「売掛金」100万円。債務超過の取引先に公正証書などで債権放棄したケースです。
ケース4: 取引停止後1年以上経過し督促しても弁済がないため、10万円の売掛金について備忘価額1円を残して貸倒処理した場合
(借方)貸倒損失 99,999円 /(貸方)売掛金 99,999円
※備忘価額として1円を売掛金に残す
借方「貸倒損失」9万9,999円、借方「現金等」1円/貸方「売掛金」10万円。ここで現金等1円は文字通り備忘で残した1円です(実務上は「その他預金」などで処理することもあります)。
以上のように、ケースに応じて仕訳を行います。貸倒損失を計上するとその分利益が減り法人税も減少しますので、忘れずに処理しましょう。重要なのは、貸倒損失に計上できるのは「確実に回収不能」となった額のみだという点です。
貸倒引当金の計上(回収不能の可能性が高い場合の見積計上)
「まだ法的に貸し倒れと認められる段階ではないが、正直回収は厳しそうだ…」という売掛金がある場合、決算において貸倒引当金を計上しておくことができます。貸倒引当金とは、将来の貸倒れに備えてあらかじめ損失見積もりを積んでおく勘定です。個別評価と一括評価の2種類があり、それぞれ以下のように使い分けます。
個別評価貸倒引当金
貸倒れの可能性が高い特定の債権について、個別に見積もって計上します。例えば取引先A社の売掛金50万円はかなり危ないと判断したら、その50万円の全額または一部を引当金に積む、という具合です。具体的な計上額は、債務者の財務状況などから回収不能見込額を算定して設定します。
一括評価貸倒引当金
多数の債権に対して、過去の貸倒実績率などを基に一括で一定率を引き当てる方法です。主に大企業向けですが、中小企業でも税務上の範囲で計上できます。たとえば期末売掛金に対し、信用度に応じて数%を引き当てます。
これは「将来貸倒れそうな債権」に備えるための処理です。実際に貸倒れが発生したら、引当金を取り崩して貸倒損失に振り替えます。仕訳は「貸倒引当金繰入/貸倒引当金」で計上します。
例えば「取引先B社からの売掛金20万円が回収不能になりそう」と判断して20万円の引当金を設定した場合:
(借方)貸倒引当金繰入 200,000円 /(貸方)貸倒引当金 200,000円 (B社分 貸倒見積計上)
翌期になっても未回収で、やはり回収不能と確定したら:
(借方)貸倒引当金 200,000円 /(貸方)売掛金 200,000円 (B社分 貸倒発生に伴う清算)
という流れです。もし前期に見積もったより状況が悪化し引当額不足なら、追加で引き当てます。逆に多少支払いがあって貸倒れが減少したら、引当金が戻り利益計上されます。
貸倒引当金は税務上の繰入限度があり、全部が経費になるわけではありませんが、経営的には早めに損失を織り込んでおくことで健全な会計を維持する意義があります。特に取引先の経営に不安がある場合は、引当処理を検討しましょう。
回収不能額を損金算入する手続き(債権放棄の方法と注意点)
取引先に支払い能力がないと判断し、債権を放棄する場合の手続きです。これは法律上の貸倒れに該当し、債務免除を通知して相手が承諾すれば債権が消滅します。この場合、放棄した売掛金は損金算入できます。
ただし、回収見込みがない場合に限られます。資産のある相手に放棄すれば寄附金扱いとなり損金不算入となるため、慎重な判断が必要です。
手順は、催促記録や財務状況を確認し、合理的に支払不能と判断したうえで債権放棄通知書を作成・送付します。通知により債務免除が成立し、貸倒損失として計上可能です。一部放棄もできますが、放棄後の再請求はできないため最終手段として行いましょう。
回収不能による財務への影響と経営リスク(資金繰り悪化への対処)
売掛金が回収できないと、会社の財務に大きな影響を及ぼします。まず貸倒損失で当期利益が減少し、場合によっては赤字転落の可能性もあります。貸借対照表では資産と純資産が減り、自己資本比率が低下。金融機関からの信用評価にも悪影響を与えます。
最も深刻なのは資金繰りへの影響です。売上が入らず支払いだけ発生すれば、預金残高は急減します。複数の取引先で未回収が続けば資金ショートの危険も。銀行融資の相談や支払猶予の依頼など、早急な対策が必要です。
また、与信管理の甘さなど社内体制の課題も浮き彫りになります。今回の損失を教訓に、今後のリスク管理体制を見直すことが重要です。
売掛金未回収のリスクを減らす予防策
債権回収においては、発生後の対応以上に発生自体を防ぐ事前策が重要です。以下に、取引開始前から代金回収まで各段階で実行できる予防策をまとめました。
取引前の信用調査を徹底する
新規取引先との契約時は、必ず与信審査を行いましょう。帝国データバンクや東京商工リサーチの信用調査を確認し、決算書や納税証明の提出を求めて財務状況を把握します。業界での評判も重要な判断材料です。
支払い能力に不安がある場合は、少額取引から始めるなどリスクを抑える工夫をします。さらに、社内で与信限度額を設定し、「この取引先には○○万円まで」とルール化することで未回収リスクを軽減できます。
取引開始から間もない取引先には条件を設ける
新規取引やまだ信用が充分でない取引先の場合、販売条件に工夫を加えてリスクを減らします。例として、当初数回の取引は代引きや前払いにする、掛け取引でも通常より短い支払いサイト(例えば月末締め翌10日払い等)にする、掛売の上限金額を設定するなどです。
一定期間取引を続け信頼関係が築けたら徐々に通常条件に移行すると良いでしょう。また、取引基本契約書に「商品引渡し後○日以内に支払いがない場合、将来の納品を停止できる」旨を入れておくのも抑止力になります。
契約書に支払遅延時の措置を明記する
契約書には支払期限だけでなく、遅延時の対応も明記しておきましょう。例えば「支払が○日遅れた場合は残額を一括請求できる」「遅延時は年○%の損害金を支払う」といった条項です。特に期限の利益喪失条項を入れることで、遅延防止効果が高まります。
連帯保証人の設定や、公正証書での契約も有効です。公正証書に「支払いが滞った場合は強制執行を受けても異議なし」と記載すれば、裁判なしで差押え可能になります。契約時は専門家の確認を受け、抜けのない内容にしておきましょう。
こまめなコミュニケーションと早期フォロー
契約書には支払期限だけでなく、遅延時の取り決めも必ず記載しましょう。「支払が○日遅れた場合は残額を一括請求できる」「遅延時は年○%の損害金を支払う」などの条項を設けると安心です。特に期限の利益喪失条項は、支払い遅延を防ぐ効果があります。
連帯保証人の設定や公正証書での契約も有効です。公正証書に「支払いが滞った場合は強制執行を受けても異議なし」と記せば、裁判なしで差押えが可能です。契約時は専門家に内容を確認してもらいましょう。
保証人の確保や担保の取得
取引額が大きい場合や相手の信用に不安がある場合は、連帯保証人を立ててもらうのが有効です。社長個人や親会社を保証人にすれば、万一の際の請求先を確保できます。ただし、近年は保証人を避ける企業も多く、交渉時の工夫が必要です。
約束手形での決済も一案です。不渡りを出せば銀行取引停止となるため、支払いの抑止効果があります。ただし、資金化まで時間がかかるなどのデメリットもあります。
動産や不動産を担保として提供してもらう方法もあります。継続取引では在庫を担保に取るABL契約も検討でき、万一の際の回収手段を確保できます。
定期的な与信管理・見直し
取引開始後も、相手企業の信用状況を定期的にチェックする習慣を付けましょう。例えば年に一度は先方の決算書をもらって財務分析する、主要取引先であれば四半期に一度は経営状況ヒアリングをする、といった具合です。
景気や業界動向によっては優良企業でも急に業績悪化することがあります。融資の返済状況や在庫過多など兆候を察知したら、早めに取引条件を見直すなど対策できます。
現在では、FinTech企業が提供する継続的な信用監視サービスもあります。たとえば当社の提供するサービスで言えば、与信管理システムなどがそれに該当します。
定期的に取引先の財務データや信用スコアをチェックし、リスクシグナルが出たら通知してくれるようなサービスを使うと、人的リソースを割かずとも与信管理が強化できます。
継続的な与信管理体制を構築することで、未回収リスクを事前に察知し回避することが可能になります。
経営セーフティ共済や信用保険に加入する
取引先の倒産リスクに備えるために、公的制度や保険の活用も検討しましょう。経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先倒産時に無利子融資を受けられる制度で、被害額の10倍(上限8,000万円)まで貸付可能です。掛金は全額損金算入できる点も魅力です。
また、信用保険(取引信用保険)に加入すれば、取引先の倒産や支払不能時に保険金で補償を受けられます。保険料はかかりますが、大口取引のリスクヘッジに有効です。
そして、複数の対策を組み合わせ、常に最悪を想定して備えることが重要です。営業・経理・経営が連携し、売掛金管理とリスク意識を徹底することで、健全な資金繰りを守れます。
貸倒れの予防策については『貸倒れとは?黒字倒産と税金の二重苦を防ぐ「貸倒損失」3つの要件と防止策』でも詳しく解説しています。
売掛金トラブルに備える便利なサービス活用
最後に、売掛金回収やリスク回避に役立つ主なサービス・制度をご紹介します。自社の状況に応じて、これらを取り入れることで安心感が格段に違ってきます。
売掛金・債権保証サービスの活用
近年、「売掛保証」や「取引信用保証」と呼ばれるサービスが登場しています。これは取引先が支払い遅延・倒産などで代金を回収できなくなった場合に、保証会社が代わりに立替払いしてくれる仕組みです。
売掛金の保険のようなサービスで、取引先ごとに保証枠を設定し、万一回収不能時には一定範囲まで保証金が支払われます。保証会社によりますが、中小企業でも利用できる商品が増えています。
売掛保証を利用すれば、取引先が倒産しても売掛金の○%(80~100%)はカバーされます。手数料や保証料はかかりますが、複数の重要取引先がある場合は検討してみてください。保証を付けることで心配なく営業拡大できるメリットもあります。

売掛金回収代行サービスおすすめ比較!未回収リスクを防ぐ5つの選び方も解説
売掛金の未回収に頭を抱えていませんか?「商品を納品したのに代金が振り込まれない」「督促しても先延ばしにされる」といった状況が続くと、資金繰りが不安になり、経営にも支障をきたしかねません。 実は2020年の倒産企業の約半数は黒字決算だったとの…
ファクタリングで売掛金を早期資金化
ファクタリングとは、保有する売掛金をファクタリング会社に売却し、支払期日前に現金化するサービスです。たとえば60日後の入金を手数料数%で即日資金化でき、取引先が倒産しても返済義務はありません。未回収リスクをファクタリング会社に移せる点が大きなメリットです。
近年はオンライン完結型も増えており、最短即日で資金調達が可能です。ただし手数料が数%〜十数%かかるため、「ノンリコース型(一括買取)」を選び、コストとリスクのバランスを見て活用しましょう。

【法人向け】ファクタリングサービス比較10選|即日入金と低手数料、信頼できるサービスの選び方
「売掛金の入金まで2ヶ月も待てない」 「ファクタリングって本当に安全?」 「手数料、スピード、信頼性…どう選べばいい?」 BtoB取引では「月末締め・翌々月末払い」が一般的で、大型案件ほど支払いだけが先行しがちです。 さらに、銀行融資は審査…
MCB FinTechカタログでは、多数のファクタリング会社を紹介していますので、手数料やサービス内容を比較してみてください。
請求代行・債権回収代行サービスの利用
自社での督促や回収が難しい場合は、請求代行サービスの活用がおすすめです。請求書発行から入金管理・督促までを代行してくれるため、業務負担を減らしつつ回収率を高められます。プロのノウハウで対応するため、取引先との関係も悪化しにくい点が利点です。
さらに、法務大臣の許可を受けたサービサー(債権回収会社)に債権を譲渡する方法もあります。訴訟や差押え手続きも代行できるため、時間や精神的負担を減らしたい場合に有効です。
請求・回収代行サービスはMCB FinTechカタログにも多数掲載しています。機能や料金プランを比較して、自社規模や件数に合ったサービスを選ぶと良いでしょう。
公的融資制度・緊急貸付の活用
売掛金が回収できず資金が不足する場合は、公的融資制度の活用を検討しましょう。代表的なのが日本政策金融公庫の「セーフティネット貸付」で、売上減少や取引先倒産の影響を受けた中小企業に低利融資を行う制度です。融資上限は2億2,000万円、利率は約2%と民間より低く、最長3年の返済猶予も設定できます。
取引先倒産時に利用できる「倒産対応資金」や、信用保証協会のセーフティネット保証も有効です。無担保8,000万円まで保証される場合もあり、資金ショート防止に役立ちます。詳細は取引銀行や商工会議所に早めに相談しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: 売掛金の回収を弁護士に依頼すると費用はどれくらいかかりますか?
弁護士費用は依頼内容や回収額によって異なりますが、一般的に「着手金」と「成功報酬」が発生します。着手金は請求額の数%、成功報酬は回収額の10~20%程度が相場です。たとえば100万円の請求なら、着手金10万円・成功報酬10万円前後になることがあります。
ただし、内容証明の送付や交渉のみの軽度な対応であれば、費用を抑えられる場合もあります。費用面が不安な場合は法テラスの立替制度の利用も検討しましょう。
Q2: 売掛金には時効がありますか?
はい、あります。商取引による売掛金は、原則として支払期限の翌日から5年で消滅時効にかかります(2020年の民法改正後)。たとえば2025年4月1日が支払期限なら、2030年3月31日で時効が完成します。
ただし、内容証明の送付や一部入金、債務承認によって時効は猶予・更新されます。時効対策として、早めに法的措置や催告を検討することが重要です。
Q3: 取引先が倒産した場合、売掛金は諦めるしかないのでしょうか?
法的倒産手続きに入った場合、売掛金の全額回収は非常に難しいのが現実です。債権者間で配当が行われますが、無担保債権は数%しか戻らないケースも珍しくありません。
ただし、再生計画によって一部弁済される可能性はあります。損失補填策として、取引信用保険や経営セーフティ共済の利用、税務上の貸倒損失計上なども忘れずに行いましょう。
Q4: 売掛金の未回収に備える保険やサービスはありますか?
はい、代表的なものに「取引信用保険」や「売掛保証サービス」があります。これらは取引先の倒産などによる未回収リスクを補償してくれる制度で、事前審査や保証限度額の設定があります。
その他にも、経営セーフティ共済による無利子融資、ファクタリングによる早期資金化、債権回収代行(サービサー)など、多様な手段があります。リスクに応じて適切な対策を組み合わせることが大切です。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修者は記事の内容について監修しています。





