取引先から「今後はでんさいで支払いたい」と伝えられたり、社内で手形取引の見直しを検討したりする場面が増えてきました。
金融庁と銀行業界は2026年度末までに紙の手形・小切手の交換枚数をゼロにする目標を掲げており、その移行先の一つとして「電子記録債権(でんさい)」が注目されています。しかし「実際に何なのか」「手形とどう違うのか」「自社で使うべきか」までは分かりにくいのが実情です。
本記事では、電子記録債権の定義から、手形との項目別対比、費用の実額、そして手形廃止対応の判断まで、経理・経営者が社内で説明・意思決定するために必要な情報を、電子記録債権法・金融庁・でんさいネット公式資料を出典に整理します。
目次
電子記録債権とは?法律上の定義と手形・売掛債権との位置づけ
電子記録債権とは、電子債権記録機関の記録原簿に電子記録することによって発生・譲渡が行われる金銭債権のことです。手形や売掛債権と同じく「お金を受け取る権利」ですが、紙の手形や当事者間の合意ではなく、指定機関の電子データによって権利の発生と移転が成立する点が異なります。
電子記録債権とは,磁気ディスク等をもって電子債権記録機関が作成する記録原簿に電子記録をすることによってはじめてその発生,譲渡等が行われることとなる金銭債権です。
出典:法務省「電子記録債権法の概要」
制度の根拠は電子記録債権法(平成19年法律第102号、平成20年12月1日施行)で、事業者の資金調達の円滑化を図るために創設されました。同法第2条第1項は「電子記録債権」を「その発生又は譲渡についてこの法律の規定による電子記録を要件とする金銭債権」と定義しています。
手形の弱点(作成・郵送コスト、紛失・盗難リスク、分割不可)と、売掛債権の弱点(存在の不確実さ、二重譲渡リスク、譲渡通知の必要)の両方を克服するために設計された、比較的新しい金銭債権の類型です。
出典・参考資料(2件)
- 出典:電子記録債権法(平成19年法律第102号)|総務省 e-Gov 法令検索
- 出典:「電子記録債権」事業資金を調達するためのあたらしい金融手段|金融庁・法務省
電子記録債権と約束手形の違い【項目別対比表】
手形との違いを、実務で効いてくる9項目で対比します。
| 権利の発生方法 | 譲渡の方法 | 分割の可否 | 印紙税 | 紛失・盗難リスク | 期日決済(支払) | 必要な準備 | 取引先の対応 | 期日前の資金化 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 電子記録債権 | 電子債権記録機関の記録原簿に「発生記録」することで発生(電子記録債権法第15条) | 記録原簿に「譲渡記録」することで効力が生じる(電子記録債権法第17条) | 分割可能(電子記録債権法第43条)。必要な金額だけ分割して譲渡できる | 不課税(電磁的記録は印紙税法第2条の課税文書に該当しない) | 電子データで管理されるため、紛失・盗難リスクなし | 口座間送金決済により、支払期日に自動で当事者の口座間で決済 | 窓口金融機関で利用申込→審査→契約→利用者番号取得(9桁) | 取引先(債務者・債権者の双方)が電子記録債権を利用している必要がある | 電子記録債権割引・でんさいファクタリングにより早期資金化可能。1円単位で分割譲渡できる |
| 約束手形 | 紙の約束手形を作成し、受取人に交付することで発生 | 裏書のうえ受取人に交付する(裏書譲渡) | 分割不可(額面全額を一括で扱う) | 課税文書。手形金額に応じて200円〜20万円(10万円未満は非課税) | 紙媒体のため、紛失・盗難・偽造リスクあり | 支払期日に受取人が金融機関へ持ち込んで取立てを行う | 特別な準備は不要(手形用紙の購入と作成のみ) | 受取人は特別な契約なしで受け取れる | 手形割引で早期資金化可能。ただし額面全額を一括で扱う(分割不可) |
特に実務でインパクトが大きいのは印紙税・分割譲渡・取引先の対応要否の3点です。印紙税は電子記録債権では不要となり、300万円超500万円以下の手形なら1枚あたり1,000円、5,000万円超1億円以下なら6万円が不要になります。
一方で、電子記録債権を発生・譲渡するには取引先も電子記録債権を利用している必要があります。取引先が対応していない場合はそもそも電子記録債権を使えず、この点は導入判断の最大の制約となります。
出典・参考資料(3件)
- 出典:電子記録債権法 第15条・第17条・第43条|総務省 e-Gov 法令検索
- 出典:取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い(質疑応答事例)|国税庁
- 出典:タックスアンサー No.7140「印紙税額(第3号文書 約束手形又は為替手形)」|国税庁
「でんさい」と「電子記録債権」の関係を整理する
「でんさい」と「電子記録債権」は混同されることが多い言葉ですが、両者は同じではありません。「電子記録債権」は電子記録債権法に定められた法律上の概念、「でんさい」はでんさいネット(株式会社全銀電子債権ネットワーク)が取り扱う電子記録債権のサービス名称です。
でんさいとは(=でんさいネットが取り扱う電子記録債権)
「でんさい」は、全国銀行協会が中心となって2013年に稼働開始した「でんさいネット(株式会社全銀電子債権ネットワーク)」が取り扱う電子記録債権です。「でんさいⓇ」はでんさいネットの登録商標であり、他社の電子債権記録機関が取り扱う電子記録債権はでんさいには含まれません。
でんさいネットが取り扱う電子記録債権を「でんさい」といいます。「でんさいⓇ」は、株式会社全銀電子債権ネットワークの登録商標です。
出典:でんさいネット「でんさいアカデミー」
でんさいネットには全国の都市銀行・地方銀行・信用金庫・信用組合など約1,300の金融機関が参加しており、取引金融機関の窓口を通じて利用申込を行います。約束手形の代替として最も広く利用されている電子記録債権サービスです。
でんさい以外の電子債権記録機関(SMBC電債・みずほ電債・日本電子債権機構・Tranzax)
電子記録債権法に基づく電子債権記録機関は、主務大臣(金融庁長官および法務大臣)の指定を受けた株式会社です。2026年時点で金融庁の指定を受けた電子債権記録機関は、でんさいネットを含め5社あります。
| 日本電子債権機構株式会社 | SMBC電子債権記録株式会社 | みずほ電子債権記録株式会社 | 株式会社全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット) | Tranzax電子債権株式会社 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 指定日 | 2009年6月24日 | 2010年6月30日 | 2010年9月30日 | 2013年1月25日 | 2016年7月7日 |
| 運営主体・特徴 | みずほ銀行が中心となって設立。手形代替の伝統的な電子債権サービス | 三井住友銀行系。SMBCグループの取引先を中心に利用 | みずほ銀行系。みずほグループの取引先を中心に利用 | 全国銀行協会が中心となって設立。銀行間ネットワーク型で参加金融機関が最多 | 独立系。ファクタリング・サプライチェーンファイナンス向けにも活用される |
実務上は、取引金融機関がどの電子債権記録機関に参加しているかで、どのサービスを利用するかが実質的に決まります。都市銀行の場合、みずほ銀行はでんさいネットとみずほ電債の両方、三井住友銀行はでんさいネットとSMBC電債の両方に対応するケースが多く、地方銀行・信用金庫はでんさいネット中心の対応です。
出典・参考資料(2件)
電子記録債権の仕組み(発生記録・譲渡記録・期日決済)
電子記録債権の取引は、大きく「発生記録請求」「譲渡記録請求」「口座間送金決済」の3つの動きで構成されます。手形取引に置き換えると、それぞれ手形振出・手形裏書・手形取立に相当します。
でんさいの取引は、手形振出に相当する「発生記録請求」、手形裏書に相当する「譲渡記録請求」、手形取立に相当する「口座間送金決済」があります。
出典:でんさいネット「『でんさい』活用ガイドブック 概要版」
発生記録(債権の発生)
債務者(支払企業)または債権者(受取企業)が、自社の窓口金融機関を通じて電子債権記録機関に「発生記録請求」を行います。相手方が承諾すると、記録原簿に発生記録がなされ、電子記録債権が発生します。電子記録債権法第15条は「発生記録をすることによって生ずる」と定めており、記録がなされた時点で法的に債権が発生します。
でんさいの場合、債務者請求方式であれば支払期日の3銀行営業日前まで発生請求が可能です。また、でんさいは1円から発生させることができるため、少額の取引でも利用できます。
譲渡記録(債権の第三者への移転)
電子記録債権を受け取った企業が、支払期日を待たずにその債権を他社への支払いに充てたい場合や、期日前に資金化したい場合は「譲渡記録」を行います。譲渡記録がなされることで、譲渡の効力が生じます(電子記録債権法第17条)。
手形の裏書譲渡と異なり、電子記録債権は必要な金額だけ分割して譲渡することもできます(電子記録債権法第43条)。たとえば500万円の電子記録債権のうち200万円分だけを別の取引先への支払いに充て、残りの300万円は自社で保有し続ける、といった使い方が可能です。
期日決済(口座間送金決済)
支払期日になると、電子債権記録機関からの通知に基づいて、債務者の口座から債権者の口座へ自動的に送金決済が行われます。手形のように受取人が金融機関の窓口へ持ち込んで取立てを行う必要はありません。
支払期日に債務者の口座に資金が不足していた場合は「支払不能処分」というペナルティが課されます(詳細は後述のデメリット節)。
出典・参考資料(2件)
- 出典:電子記録債権法 第15条・第17条・第43条|総務省 e-Gov 法令検索
- 出典:『でんさい』活用ガイドブック 概要版|でんさいネット
電子記録債権を利用するメリット
電子記録債権は、手形と売掛債権の弱点を克服するために設計されたため、実務メリットは支払企業・受取企業の双方に及びます。ここでは、経理・財務の観点で効いてくる代表的なメリットを整理します。
印紙税と作成・郵送コストを削減できる
電子記録債権は電子データで発生・譲渡されるため、印紙税法上の課税文書に該当せず印紙税は不課税です。手形用紙代・郵送料・保管コストも不要になります。国税庁の質疑応答事例(印紙税)でも、電磁的記録は印紙税法第2条の課税文書に含まれないと明示されています。
印紙税の課税対象となるのは、課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書に含まれません。したがって、おたずねの電磁的記録に印紙税は課税されません。
出典:国税庁「取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い(質疑応答事例)」
紛失・盗難のリスクがなくなる
紙の手形は現物を保管する必要があり、金庫内での管理・郵送時の紛失・盗難といったリスクが常に伴います。電子記録債権は電子データで管理されるため、これらの物理的リスクから解放されます。手形の紛失時の除権決定手続きのような煩雑な事後対応も不要です。
必要な金額だけ分割して譲渡・資金化できる
手形は額面全額を一括で扱う必要がありますが、電子記録債権は1円単位で分割譲渡が可能です。仕組み節で触れたように、必要な金額分だけを支払いに充てたり期日前資金化したりでき、資金繰りの調整手段としての柔軟性が手形より大きく高まります。
事務負担を大幅に軽減できる
受取企業側では、手形の受取・保管・取立てのための銀行窓口への持ち込みが不要になります。支払期日には口座間送金決済で自動的に入金されるため、取立て手続きの手間と取立手数料の負担がなくなります。支払企業側でも、手形の作成・押印・郵送の一連の作業が不要になり、経理事務の負担が軽減されます。
売掛債権の存在・二重譲渡リスクが解消される
通常の売掛債権を第三者へ譲渡する場合、その債権が本当に存在するか、既に別の相手に譲渡されていないかというリスクが残ります。電子記録債権は記録原簿によって発生と譲渡が一元管理されるため、債権の存在が電子的に証明され、二重譲渡も構造的に発生しません。
電子記録債権のデメリット・注意点
メリットの一方で、電子記録債権には導入前に理解しておくべき制約もあります。社内で意思決定するうえで、実務上のハードルを正確に把握しておくことが重要です。
取引先も電子記録債権を利用している必要がある
電子記録債権は、債務者と債権者の双方が電子記録債権のサービスを利用していることが前提です。取引先がでんさいネットに参加していない場合、自社が導入していても電子記録債権を発生させることはできません。
取引先の対応状況を確認する実務的な方法は、(1) 取引先の経理担当に直接ヒアリングする、(2) 自社の取引金融機関の担当者経由で取引先の窓口銀行へ照会を依頼する、(3) 取引先の請求書・支払案内に「利用者番号」の記載があるかを確認する、の3つが基本です。主要取引先の対応状況を先に把握してから、自社の導入判断を進めます。
法人であることが前提で、個人・個人事業主は利用できない
電子記録債権を利用するには、あらかじめ取引金融機関に利用申込を行い、審査を経て利用契約を締結する必要があります。審査では法人であること、事業実態があること、代表者が確認できることといった基本的な条件が確認されます。
個人事業主・個人は利用できません。個人事業で手形からの移行を検討する場合は銀行振込・インターネットバンキングでの決済、または売掛債権を対象としたファクタリングが実務的な選択肢になります。
支払期日に資金不足だと「支払不能処分」を受ける
支払期日に債務者の口座に資金が不足すると、電子記録債権では「支払不能処分」というペナルティが課されます。6か月以内に2回支払不能が発生すると、債務者としてのでんさいの利用と、参加金融機関における貸出取引が2年間停止されます。手形の不渡り処分と同等の重い処分です。
実務での予防策としては、支払期日の管理を経理システムのカレンダーに一元化し、期日3〜5営業日前に決済用口座の残高チェックとアラートを回すことが基本です。支払用のメイン口座に必要資金を集約し、複数口座に分散させないようにすると資金不足の見落としを避けやすくなります。
取引件数が少ないとコスト削減効果が薄い
電子記録債権の主なコスト削減は印紙税・郵送料・取立手数料に集中しており、これらは取引件数に比例します。月あたりの手形取引が数件程度の企業では、金融機関に支払う発生記録手数料・譲渡記録手数料が印紙税削減額を上回るケースもあり得ます。取引件数と金額の実績をもとに、費用対効果を試算してから導入することが実務的です。
試算のイメージとして、月10件・平均額500万円の手形取引がある企業の場合、電子記録債権への切替で年間 120枚 × 1,000円 = 12万円 の印紙税と、郵送料・保管費用(年間数万円規模)が削減されます。
一方で、当行宛の発生記録手数料440円が同数発生するため 年間 120件 × 440円 = 5.3万円 の記録手数料負担が生じます。差引 年間7万円前後の削減効果 になる計算で、取引件数がこの半分以下だと削減効果が薄れ、逆に月30件以上あれば効果は数倍に膨らみます。
出典・参考資料(2件)
- 出典:『でんさい』活用ガイドブック 概要版|でんさいネット
- 出典:「電子記録債権」は手続きが簡単で便利!|全国銀行協会
電子記録債権の導入手順(申込先・審査・契約)
電子記録債権を利用するには、取引窓口金融機関を通じて電子債権記録機関への利用申込を行います。ここでは、申込から利用開始までの流れと、代表的な金融機関の費用を実額で確認します。
申込から利用開始までの4ステップ
電子記録債権(でんさい)の利用開始は、主に次の4ステップで進みます。
- 窓口金融機関で利用申込:メインバンクなどの取引金融機関の窓口で、でんさい(電子記録債権)の利用申込書を提出します。オンラインで申込を受け付けている金融機関もあります
- 審査:金融機関が事業実態・代表者情報・過去の取引履歴などを確認します。通常は数営業日〜2週間程度
- 利用契約の締結・利用者番号の付与:審査通過後、金融機関と利用契約を締結。1利用者につき1つの利用者番号(9桁の英数字。英字の「I」「O」「Z」を除く)が付与されます
- 利用開始:金融機関の専用サイトまたは店頭で発生記録請求・譲渡記録請求などの操作が可能に
取引先も同様の手続きを完了していれば、双方の利用者番号を用いて電子記録債権の発生記録請求が行えます。
代表金融機関の費用比較(月額・発生記録・譲渡記録手数料の実額)
電子記録債権の費用は「金融機関により異なる」と説明されがちですが、実際には契約料金・基本料金の有無や1件あたりの手数料水準は各行が公式に開示しています。ここでは三菱UFJ銀行・三井住友銀行・十六銀行(地銀代表)の公式料金表に基づき、代表的な項目を整理します。
| 発生記録手数料(債務者請求方式・当行宛) | 発生記録手数料(他行宛) | 譲渡記録手数料(当行宛) | 譲渡記録手数料(他行宛) | 分割譲渡(一部譲渡)記録手数料 | 契約料金・基本料金 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 三菱UFJ銀行(でんさいSTATION) | 440円 | 880円 | 220円 | 660円 | 支払等記録扱い 1,100円 | 0円 |
| 三井住友銀行(SMBCでんさいネット) | 440円 | 770円 | 330円 | 550円 | 330円〜550円 | 無料(月額基本料金の設定なし) |
| 十六銀行(地銀代表) | 324円 | 648円 | 324円 | 648円 | 本支店 324円/他行 648円 | 無料(月額基本料金の設定なし) |
2026年7月時点、税込。実際の料金は改定される可能性があるため契約前に各行の最新情報を確認してください
出典・参考資料(3件)
- 参考資料:でんさいSTATION ご利用料金|三菱UFJ銀行
- 参考資料:SMBCでんさいネット ご利用料金|三井住友銀行
- 参考資料:でんさい手数料一覧表|十六銀行
全体的な特徴として、契約料金と基本料金は0円〜低額で、実際のコストは発生記録・譲渡記録などの1件あたり従量課金という構造が共通しています。手形の印紙税(300万円超500万円以下で1,000円、5,000万円超1億円以下で6万円)と比較すると、1件あたりの発生記録手数料は数百円〜1,000円程度に収まります。
2026年度末の約束手形廃止と電子記録債権の位置づけ
電子記録債権の検討が急がれている背景には、2026年度末までに紙の約束手形・小切手を電子的決済手段へ移行するという政府・銀行業界の方針があります。ここでは、方針の原文・対象範囲・自社が使うべきかの判断軸を整理します。
政府方針と金融庁が示す「2026年度末までに交換枚数ゼロ」目標
政府は2021年6月の成長戦略実行計画で「約束手形の利用の廃止」等の方針を打ち出し、これを受けて銀行業界が自主行動計画を策定しました。金融庁は「2026年度末までに電子交換所における手形・小切手の交換枚数をゼロにする」という目標を明示しています。
政府の2026年までの約束手形の利用廃止等の方針を踏まえ、金融界は産業界と連携・協力を得ながら、2026年度末までに紙の手形等から電子的決済サービス(でんさい等の電子記録債権またはインターネットバンキングによる振込)への移行を推進しています。
出典:でんさいネット「『でんさい』活用ガイドブック 概要版」
厳密には手形制度そのものが法律で廃止されるわけではなく、銀行業界の自主行動計画に基づいて電子交換所での手形・小切手の交換枚数をゼロに近づけるという目標です。とはいえ、金融機関が手形の受け付け・取立てを段階的に絞る方向で動いているため、実務上は「紙の手形は使いにくくなる」ことに変わりはありません。
手形廃止で困る取引を電子記録債権で代替できるケース/できないケース
電子記録債権は手形の代替として設計されていますが、すべての手形取引をそのまま置き換えられるわけではありません。代替の可否は、取引の性質と取引先の対応状況で決まります。
- 代替できるケース:取引先も電子記録債権に対応しており、支払サイトを維持したまま紙の手形から電子的な決済に切り替えたい場合。分割譲渡が必要な取引や、印紙税・郵送コストを削減したい場合にも適合
- 代替が難しいケース:取引先が電子記録債権に未対応で、当面対応する予定もない場合。取引件数が少なく、電子記録債権の月額・従量手数料が印紙税削減額を上回る場合
取引先が対応していない場合は、電子記録債権に加えて、期日前現金化ができるファクタリングや、シンプルな銀行振込への切り替えも選択肢に入ります。
3つの選択肢の対比(電子記録債権・ファクタリング・振込)
手形廃止に向けた代替手段は、電子記録債権だけではありません。電子記録債権・ファクタリング・銀行振込の3つは、それぞれ性格が大きく異なります。自社の資金繰り・取引先の状況・コスト構造に合わせて選ぶための対比を整理します。
| 取引の性質 | 負債の増減 | 取引先の対応要否 | 手数料の水準 | 資金化の速さ | 分割・柔軟性 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 電子記録債権 | 支払いの延期(手形と同じく、支払期日は先) | 支払期日まで買掛金・支払手形類似の債務が残る(貸借対照表に反映) | 取引先も電子記録債権の利用契約が必要 | 1件あたり数百円〜1,000円程度+印紙税不要 | 期日決済まで待つ(割引や譲渡で早期化は可能) | 1円単位で分割譲渡可能 |
| ファクタリング | 売掛債権の期日前現金化(債権譲渡) | 借入ではないため負債は増えない | 2社間契約なら取引先の合意は原則不要 | 買取額の1〜20%程度(審査・契約方式による) | 最短即日〜数日(緊急資金調達に強い) | 契約単位。分割は制限あり |
| 銀行振込 | その場での支払完了 | 振込時点で債務が消滅(負債は残らない) | 取引先はネット銀行またはATMがあれば対応可能 | 1件あたり数百円〜1,000円程度(振込金額による) | 支払時点で即時決済 | 分割は自由だが振込回数分の手数料 |
自社に合う選択肢の判断軸
3つの選択肢は排他ではなく、取引ごとに使い分けるのが実務的です。判断軸を単純化すると次のようになります。
- 取引先もでんさいに対応している大口・継続取引:電子記録債権が最も自然な移行先。手形の代替として支払サイトを維持しつつ、印紙税・郵送コスト・紛失リスクを解消できる
- 期日前に現金化したい・取引先の対応を待てない・緊急資金が必要:ファクタリングが選択肢。特に電子記録債権割引・でんさいファクタリングは、電子記録債権を担保にした期日前資金化に対応
- 取引件数が少ない・取引先が電子記録債権に未対応・単発の取引:シンプルな銀行振込への切り替えが現実解。とくにインターネットバンキングであれば振込作業の自動化も可能
なお、給与ファクタリングは金融庁が「貸金業に該当し、貸金業登録のない者が業として行うと違法」と見解を示しており、本記事で紹介するファクタリング(買取型・法人向け)とは別物です。混同しないよう注意が必要です。
出典・参考資料(2件)
- 出典:手形・小切手機能の全面的な電子化について|金融庁
- 出典:『でんさい』活用ガイドブック 概要版|でんさいネット
電子記録債権の資金化と関連サービス
電子記録債権を保有する企業が支払期日を待たずに資金化したい場合は、金融機関の電子記録債権割引や、ファクタリング会社のでんさいファクタリングを活用できます。ここでは、手形廃止対応の資金化・代替として実務適合するサービスを紹介します。
| サービス名 | トップ・マネジメント | ビートレーディング |
|---|---|---|
| 電子記録債権対応 | ◎(電ふぁく/Tranzax連携) | △(専門商品はなし。通常のファクタリングで対応) |
| 契約方式 | 2社間・3社間・2.5社間 | 2社間・3社間(+注文書) |
| 手数料下限 | 電ふぁく1.8%〜 2社間3.5%〜 3社間0.5%〜 | 2社間4%〜 3社間2%〜 |
| 入金スピード | 最短即日(2社間) | 最短2時間(審査) |
| 対応対象 | 法人・個人事業主・ フリーランス・新設法人 | 法人中心 (個人事業主の事例あり) |
| 累計取引実績 | 約4.5万社 | 9.1万社以上 累計買取額1,824億円 |
| 詳細情報 | 公式サイト | 公式資料を見る |
トップ・マネジメント(株式会社トップ・マネジメント)

トップ・マネジメントは2009年創業のファクタリング専業会社です。2社間・3社間ファクタリングに加えて、電子記録債権を活用した「電ふぁく」(2.5社間ファクタリング)を提供しており、累計取引実績は公式サイトで約45,000社と開示されています。
電ふぁくは、Tranzax株式会社との連携により電子記録債権を活用した「2.5社間ファクタリング」(2社間の速さと3社間の低手数料を両立させる仕組み)で、手数料下限は1.8%からとされています。
2社間ファクタリング(下限3.5%)や3社間ファクタリング(下限0.5%)と比べて、契約方式に対する債務者側の関与度が中間になるため、手数料水準も両者の中間に位置づけられます。電子記録債権と伝統的なファクタリングを組み合わせた運用を検討する企業の候補となります。
ビートレーディング(株式会社ビートレーディング)

ビートレーディングは累計取引実績9.1万社以上・累計買取額1,824億円(2026年3月時点、公式サイト)を開示しているファクタリング会社です。2社間・3社間ファクタリングに加えて、注文書ファクタリング・診療報酬債権ファクタリングなど幅広い商品を扱っており、手形廃止対応の期日前資金化ニーズにも対応します。
最短2時間の審査完了と最短即日入金の対応が特徴で、オンラインでの契約完結にも対応しています。ビートレーディング自体は電子記録債権を担保にした専門商品を提供していないため、電子記録債権対応が必須の場合は電ふぁく等のでんさい対応商品との併用が選択肢となります。
上記2社に加えてファクタリング全般を比較検討したい場合は、以下の記事で主要26サービスの手数料・入金スピード・買取可能額をタイプ別に整理しています。電子記録債権に対応しないサービスや、2社間・3社間・オンライン完結型など契約方式ごとの違いも把握できるため、手形代替の選択肢を広く検討する方はぜひご参照ください。
ファクタリングおすすめ26選を比較|手数料・入金スピード・買取可能額で選ぶ
「取引先への請求は済んでいるのに、入金は翌々月末。仕入れや外注費、人件費の支払いだけが先に来て、手元資金が薄くなる」——売掛取引が中心の事業では、珍しくない場面です。銀行融資は審査に時間がかかり、急な資金需要には間に合わないこともあります。…
まとめ
電子記録債権は、電子債権記録機関の記録原簿への電子記録によって発生・譲渡する金銭債権で、印紙税不要・分割譲渡可能・紛失リスクなしといった実務メリットがあります。一方で、取引先も電子記録債権を利用している必要があること、支払期日の資金不足には手形と同等のペナルティがあることなど、導入前に押さえておくべき制約もあります。
2026年度末に向けた手形廃止の方針を受けて、電子記録債権への移行を検討する企業は今後さらに増える見込みです。取引先の対応状況・取引件数・費用対効果を踏まえて、電子記録債権・ファクタリング・振込のどれが自社に合うかを判断し、必要な準備を進めてください。
電子記録債権に関するよくある質問(FAQ)
Q. 電子記録債権とは何ですか?
A. 電子記録債権とは、電子債権記録機関の記録原簿に電子記録することで発生・譲渡が行われる金銭債権のことです。
電子記録債権法(平成19年法律第102号)にもとづき、事業者の資金調達の円滑化を目的として創設された比較的新しい金銭債権の類型です。紙の手形や当事者間の合意ではなく、指定機関の電子データによって権利の発生と移転が成立する点で、手形や売掛債権とは異なります。全国銀行協会が中心となって設立した「でんさいネット」が取り扱う電子記録債権を通称「でんさい」と呼び、実務ではこの意味で使われることが多いです。
Q. 電子記録債権と約束手形の主な違いは何ですか?
A. 電子記録債権と約束手形の違いは、権利の発生・譲渡が電子記録で行われる点、印紙税がかからない点、必要な金額だけ分割して譲渡できる点、紛失・盗難リスクがない点にあります。
手形が紙の作成・交付・裏書・銀行窓口への持ち込みといった物理的な手続きを前提とするのに対し、電子記録債権は電子債権記録機関の記録原簿への電子記録によって発生・譲渡・決済がすべて完結します。
特に実務でインパクトが大きいのは印紙税の削減と分割譲渡の柔軟性で、300万円超500万円以下の手形なら1枚あたり1,000円、5,000万円超1億円以下なら6万円の印紙税が不要になります。一方で、電子記録債権を利用するには取引先も電子記録債権のサービスに加入している必要があり、この点は手形にはない制約です。
Q. 電子記録債権の主なメリットは何ですか?
A. 電子記録債権の主なメリットは、印紙税・郵送料・保管コストの削減、紛失・盗難リスクの解消、1円単位での分割譲渡、期日決済の自動化による事務負担の軽減です。
電子データで管理されるため紙の手形にあった作成・押印・郵送・保管の一連の作業が不要になり、受取側でも銀行窓口への持ち込みや取立手数料の負担がなくなります。売掛債権と比較すると、記録原簿によって債権の存在が電子的に証明され、二重譲渡が構造的に発生しません。
ただし取引件数が月あたり数件程度の企業では、金融機関に支払う発生記録・譲渡記録手数料が印紙税削減額を上回るケースもあるため、費用対効果の試算は導入前に行うことをおすすめします。
Q. 電子記録債権の導入にはどのくらいの期間と審査が必要ですか?
A. 電子記録債権の導入は、取引金融機関の窓口で利用申込から審査を経て利用契約を締結するまで、通常は数営業日から2週間程度が目安です。
審査では法人であること、事業実態があること、代表者が確認できることといった基本的な条件と、取引履歴・財務状況などが確認されます。審査を通過すると1利用者につき1つの利用者番号(9桁の英数字。英字の「I」「O」「Z」は使用されない)が付与され、金融機関の専用サイトまたは店頭で発生記録請求・譲渡記録請求などの操作が可能になります。
取引先も同様の手続きを完了している必要があるため、自社の申込と並行して主要取引先の対応状況も確認しておくと、実際の利用開始までがスムーズです。
Q. 個人事業主でも電子記録債権は利用できますか?
A. 電子記録債権(でんさい)は法人向けのサービスで、原則として個人事業主・個人による利用はできません。
でんさいネットの利用申込では法人格が前提となっており、事業実態と代表者情報の確認が必須です。個人事業主が手形からの移行を検討する場合は、電子記録債権ではなく銀行振込・インターネットバンキングでの決済、あるいは売掛債権を対象とした個人事業主対応のファクタリングを選択肢に入れることになります。
取引先が法人で電子記録債権を利用している場合でも、自社が個人事業主である限り電子記録債権での受取はできない点に注意が必要です。
Q. 取引先が電子記録債権に対応していない場合はどうすればよいですか?
A. 取引先が電子記録債権に対応していない場合、電子記録債権を発生させることはできないため、銀行振込・インターネットバンキング・ファクタリングなど別の決済手段を選ぶ必要があります。
電子記録債権は債務者と債権者の双方が電子記録債権のサービス(多くの場合はでんさいネット)に利用登録していることが前提です。取引先に対応予定があるかを確認し、対応する予定がない・当面の見込みがない場合は、シンプルな銀行振込への切り替えや、期日前の資金化が必要ならファクタリングの活用が現実的な選択肢になります。
取引金額が大きく継続的な取引の場合は、取引先に対して電子記録債権の利用を提案し、双方でメリットを共有したうえで導入を進めるアプローチも実務では取られています。
Q. 電子記録債権を支払期日より前に資金化する方法はありますか?
A. 電子記録債権を支払期日より前に資金化する方法として、金融機関による「電子記録債権割引」と、ファクタリング会社による「でんさいファクタリング」があります。
電子記録債権割引は、保有している電子記録債権を金融機関に譲渡し、支払期日までの割引料を差し引いた金額を受け取る仕組みで、手形割引の電子記録債権版に相当します。でんさいファクタリングは、ファクタリング会社が電子記録債権を買い取って早期資金化する仕組みで、金融機関の審査が通りにくい場合の選択肢として活用されます。
電子記録債権は1円単位で分割譲渡が可能なため、保有する債権全額ではなく必要な金額分だけを資金化することもでき、資金繰りの調整手段としての柔軟性は手形より高いといえます。
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