採用の場面で候補者の反社チェックを求められたものの、そもそも応募者を本人に断りなく調べてよいのか、個人情報保護法に触れないか、と手が止まってしまう採用担当者は少なくありません。取引先の反社チェックは聞いたことがあっても、採用でどこまで・どうやればよいのかは、はっきりしないままになりがちです。
本記事では、まず「採用の反社チェックを適法に行えるのか」という可否の結論を、対象者別に示します。そのうえで、個人情報保護法との関係、募集要項や誓約書に入れる同意文言の例、自社で行う方法と反社チェックサービス・調査会社の違い、実施のタイミング、反社と判明したときの対応までを整理します。
自社の採用フローに反社チェックをどう組み込めばよいか、その判断材料としてご活用ください。専門的な判断を要する部分は、最終的に顧問弁護士に確認することが前提です。その手前で自社の当たりを付ける材料としてお使いください。
目次
採用で反社チェックをやってよいか(応募者・内定者・既存従業員別の結論)
結論から示します。採用の反社チェックは、利用目的をはっきりさせ、新聞記事や官報などの公開されている情報を中心に、必要な範囲にとどめて行うのであれば、行うこと自体は可能です。応募者を本人に無断で調べること自体が、ただちに違法になるわけではありません。ただし、犯罪歴のような機微な情報の扱いや、採用選考で配慮すべき事項には注意が必要です。
対象者ごとに整理すると、次のようになります。
- 応募者(選考段階):公開情報の範囲での確認は可能です。ただし、後述する「公正な採用選考」の観点から、応募・選考段階での踏み込んだ身元調査は慎重に判断し、本人の適性・能力に関係のない情報を集めないようにします。
- 内定者:内定通知や入社誓約書で利用目的を示して同意を得やすく、反社チェックを組み込みやすい段階です。内定前後で実施する企業が一般的とされています。
- 既存従業員:就業規則に反社会的勢力の排除に関する定めを置き、利用目的を明示したうえで、定期的に確認する形が基本となります。

本人同意の要否は、何を調べるかによって変わります。新聞・官報などで公開されている情報を確認するだけであれば、利用目的を特定して公表しておけば、同意なしで進められる場面が多いといえます。
一方、犯罪歴などの「要配慮個人情報」を取得する場合は、原則として本人の同意が必要で、例外に当たるかどうかを個別に判断する必要があります。個人情報保護法は、個人情報を扱うときの出発点として、次のように利用目的の特定を求めています。
個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない。
出典:個人情報の保護に関する法律 第17条第1項|e-Gov法令検索
まずは「採用選考および雇用管理のために反社会的勢力への該当性を確認する」という利用目的を定めて公表しておくことが、適法に反社チェックを行うための土台になります。次章から、この可否の結論を支える個人情報保護法・職業安定法との関係を具体的に見ていきます。
反社会的勢力の定義と、採用で対象になる人
そもそも反社会的勢力とは何を指すのでしょうか。政府がまとめた指針では、暴力団などの「属性」と、不当な要求などの「行為」の両面からとらえるべきものとされています。
暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。
出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(平成19年6月19日)|法務省
採用の反社チェックで対象になるのは、応募者・内定者・既存従業員です。雇用形態は問わず、正社員だけでなく契約社員・パート・アルバイトも確認の対象になり得ます。誰を・どの段階で確認するかは、後述するタイミングの考え方とあわせて設計します。
反社チェックの対象は採用に限らず、取引先や自社の役員・株主にも広がります。採用以外も含めて誰をどこまで確認すべきか、リスクの優先度から整理したい場合は、以下の記事が参考になります。
個人情報保護法との関係(同意・利用目的の公表・要配慮個人情報・収集してはいけない情報)
ここからは、採用の反社チェックで最も不安を感じやすい「無断で調べて違法にならないか」という点を、条文にそって整理します。利用目的の扱い、要配慮個人情報の取得、第三者提供、採用選考で収集してはいけない情報、本人への開示という観点から順に見ていきます。
利用目的を特定し、公表しておく
個人情報保護法は、特定した利用目的の範囲を超えて個人情報を扱うことを、本人の同意なしには認めていません(同法第18条)。また、個人情報を取得したときは、あらかじめ利用目的を公表している場合を除き、速やかに本人へ通知するか公表することを求めています(同法第21条第1項)。
募集要項やプライバシーポリシーに「採用選考および雇用管理のために反社会的勢力該当性を確認する」旨の利用目的を記載して公表しておけば、この要件を満たしやすくなります。
犯罪歴などの要配慮個人情報は原則として同意が必要
まず整理すると、反社チェックで扱う情報のすべてが「要配慮個人情報」に当たるわけではありません。「暴力団員である」「暴力団の関係企業である」といった属性そのものは、要配慮個人情報には含まれません。要配慮個人情報に当たるのは、前科(有罪が確定した犯罪の経歴)や逮捕など、刑事手続に関する情報です。
したがって、本人の同意が主に問題になるのは、反社チェックのうち犯罪歴などに触れる部分です。これらの要配慮個人情報は、取得に原則として本人の同意が必要ですが、法律はいくつかの例外を定めています。
個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない。
出典:個人情報の保護に関する法律 第20条第2項|e-Gov法令検索
- 一 法令に基づく場合
- 二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
- (第三号から第六号、第八号は省略)
- 七 当該要配慮個人情報が、本人、国の機関、地方公共団体、学術研究機関等、第五十七条第一項各号に掲げる者その他個人情報保護委員会規則で定める者により公開されている場合
反社会的勢力に関する犯罪歴などについては、個人情報保護委員会のガイドラインが、この第二号(生命・身体・財産の保護のために必要で、本人の同意を得ることが困難な場合)に当たる例を示しています。
事業者間において、不正対策等のために、暴力団等の反社会的勢力情報、意図的に業務妨害を行う者の情報のうち、過去に業務妨害罪で逮捕された事実等の情報について共有する場合
出典:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)3-3-2(法第20条第2項第2号関係)|個人情報保護委員会
ただし、この例は事業者どうしで情報を共有する場面を念頭に置いており、「本人の同意を得ることが困難」という要件もあります。採用選考で自社が単独で確認する場面にそのまま当てはまるかは、個別の判断が必要です。
新聞(報道機関)や官報(国)など、法律が定める公開者が公開した情報を自社で確認する範囲では、第七号(公開されている情報)も根拠になります。ただし第七号で同意なく取得できるのは、本人・国・地方公共団体・報道機関など、限定された公開者が公開した情報に限られます。
限定列挙の公開者に当たらない者がインターネット上で公開した情報から犯罪歴などを取得し、自社のデータベースに登録することは、同委員会が違反事例として挙げています。反社チェックツールが持つ独自のデータベースなども、公開者がこの限定列挙に当たらない場合は、同じく範囲を超えるおそれがあります。
このように、同意なしで取得できる範囲は情報の種類や公開元によって変わり、個別の判断を伴います。実務では、募集要項や誓約書で利用目的を示して同意を取得しておくのが安全です。判断に迷う部分は、顧問弁護士に確認することをおすすめします。
調査会社などへ情報を渡すときの第三者提供
反社チェックを調査会社に依頼したり、確認結果を社内外で共有したりする場合は、個人データの「第三者提供」に当たることがあります。第三者提供には原則として本人の同意が必要です(同法第27条第1項)。委託先の管理や社内での情報共有の範囲も、あらかじめ想定して利用目的や社内規程に落とし込んでおくと安全です。
採用選考で収集してはいけない情報
職業安定法は、求職者の個人情報を「業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして収集・使用する」ことを求めています(同法第5条の5第1項)。これを受けた厚生労働省の指針は、原則として収集してはならない情報を具体的に挙げています。
職業紹介事業者等は、その業務の目的の範囲内で求職者等の個人情報(以下単に「個人情報」という。)を収集することとし、次に掲げる個人情報を収集してはならないこと。
出典:職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者等が適切に対処するための指針(平成11年労働省告示第141号)|厚生労働省
- イ 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
- ロ 思想及び信条
- ハ 労働組合への加入状況
反社チェックはあくまで反社会的勢力への該当性を確認するものであり、本籍・出生地や思想・信条といった、応募者の適性・能力に関係のない事項の収集に踏み込まないよう、確認する項目を絞ることが大切です。
確認結果は本人に開示しなくてよい場合がある
反社に該当すると判定した情報について、応募者本人から開示を求められた場合でも、開示しないことができる場合があります。個人情報保護法は、開示することで本人や第三者の生命・身体・財産などの権利利益を害するおそれがある場合には、その全部または一部を開示しないことができると定めています(同法第33条第2項)。
さらに、こうした情報は「保有個人データ」から除かれ、そもそも開示対象にならない場合もあります(同法施行令第5条)。運用にあたっては、これらの根拠を踏まえて社内で取り扱いを決めておくとよいでしょう。
同意文言・誓約書・募集要項の書き方と例文
ここでは、実際に使える文面の例を示します。以下は一般的なひな形であり、自社の状況や採用フローに合わせて調整してください。実際に運用する際の法的な有効性については、顧問弁護士に確認することをおすすめします。
募集要項・プライバシーポリシーへの利用目的の記載例
(記載例)当社は、採用選考および採用後の雇用管理を目的として、応募者・内定者の個人情報を取得・利用します。この目的の範囲内で、反社会的勢力への該当性の有無を、公開されている情報にもとづき確認する場合があります。
応募者・内定者向けの同意文言の例
(記載例)私は、貴社が採用選考および雇用管理にあたり、公開されている情報にもとづいて、私が反社会的勢力に該当しないことの確認を行うことに同意します。
入社誓約書の反社会的勢力排除条項の例
(記載例)私は、暴力団、暴力団員、暴力団関係企業・団体その他の反社会的勢力のいずれにも該当せず、これらと社会的に非難されるべき関係を持っていないことを表明し、将来にわたっても関係を持たないことを誓約します。これに反することが判明した場合は、内定の取消しまたは解雇その他の必要な措置を受けても異議を申し立てません。
こうした誓約書や就業規則の条項は、後から反社会的勢力との関係が判明したときに、関係を解消するための根拠になります。政府の指針も、取引契約について次のような条項を盛り込んでおくことが有効だとしています。採用(労働契約)は指針が直接の対象とする取引契約とは性質が異なりますが、反社排除条項を整える際の考え方の下敷きになります。
……契約書や契約約款の中に、①暴力団を始めとする反社会的勢力が、当該取引の相手方となることを拒絶する旨や、②当該取引が開始された後に、相手方が暴力団を始めとする反社会的勢力であると判明した場合や相手方が不当要求を行った場合に、契約を解除してその相手方を取引から排除できる旨を盛り込んでおくことが有効である。
出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(平成19年6月19日)|法務省
採用の反社チェックのやり方(自社で行う方法とサービス・調査会社の比較)
適法性の整理ができたら、次は「実際にどうやって調べるか」です。方法は大きく、自社で行う、反社チェックサービス(ツール)を使う、専門の調査会社に依頼する、の3つに分かれます。
自社で行う場合は、候補者の氏名でのインターネット・SNS検索、新聞記事データベース、官報、行政機関が公表している情報などを確認します。無料または低コストで着手できる一方、同姓同名の切り分けが難しく、担当者ごとに判断がぶれたり、確認に時間がかかったりする弱点があります。
自社で行う場合の具体的な進め方としては、まず候補者の氏名を、暴力団・逮捕・詐欺・行政処分といったキーワードと組み合わせて、検索エンジンやニュースサイトで調べます。次に、新聞記事データベース(過去の新聞・雑誌記事をまとめて検索できる有料サービス)で、報道された事件や不祥事がないかを確認します。
あわせて、インターネット版官報(国が発行する公告紙で、破産手続や失踪などの公告が掲載されます)も確認します。確認した日付・検索したキーワード・結果の画面を記録として残しておくと、後から確認の経緯を説明でき、証跡にもなります。
反社チェックサービスは、新聞・WEB記事や独自のデータベース、制裁リストなどを横断的に検索でき、一括検索や定期チェックの自動化で効率を上げられます。専門調査会社は、公開情報に加えて独自の調査まで踏み込めますが、1件ごとの依頼となり費用と日数がかかります。
それぞれの違いを、調べられる範囲・コスト・手間・精度・証跡の残しやすさの観点で整理すると、次のようになります。
| 調べ方 | 自社で行う(公開情報の検索) | 反社チェックサービス(ツール) | 専門調査会社 |
|---|---|---|---|
| 調べられる範囲 | 氏名のネット・SNS検索、新聞記事データベース、官報、公的機関の公表情報など | 新聞・WEB記事、独自の反社データベース、制裁リストなどを人名・法人名で横断検索 | 公開情報に加え、独自調査など個別の依頼内容に応じた深い調査 |
| コスト | 検索サービス利用料以外は無料〜低額。担当者の作業時間(人件費)はかかる | 初期費用無料〜、月額1.5万円〜数万円が目安(サービス・検索件数による) | 1件ごとの個別見積もり。ツールより高額になりやすい |
| 手間 | 1件ずつ手作業。件数が増えると負担が大きい | 一括検索やAPI連携で効率化でき、定期チェックの自動化も可能 | 依頼すれば任せられるが、結果が出るまで日数がかかる |
| 精度 | 同姓同名の切り分けや見落としが起きやすく、判断が担当者に依存する | ノイズ除去や懸念度の分類で、見落とし・過検出を抑えやすい | 深度の高い調査が可能。費用と時間はかかる |
| 証跡の残しやすさ | 検索日・結果を自分で記録・保管する必要がある | 検索履歴・結果がクラウドに自動保存されるサービスが多い | 調査報告書が成果物として残る |
※上記は各方法の一般的な傾向です。実際の対応範囲・料金は各サービスや調査会社によって異なるため、個別にご確認ください。
採用件数が少ないうちは、公開情報を使った自社チェックと誓約書の組み合わせで足りることが多いといえます。一方、確認する件数が増える、上場準備で証跡の整った運用が求められる、といった場合は、抜け漏れや作業負担を抑えられる反社チェックサービスの利用が現実的な選択肢になります。
反社チェックサービスの料金は、月額の考え方や1件あたりの単価がサービスごとに大きく異なります。費用の内訳や相場を詳しく比較してから選びたい場合は、以下の記事で主要サービスの料金体系を整理しています。
いつ実施するか(面接前・内定前・内定後のフローと、見解が分かれる論点)
反社チェックをどの段階で行うかは、採用フロー全体の設計に関わります。ここでは一般的な実施フローと、実務で見解が分かれる論点を整理します。

面接前・内定前・内定後の使い分け
実務では、候補者がある程度絞り込まれた内定前後の段階でチェックを行う企業が多く見られます。応募者全員を早い段階で調べるとコストや手間がかさむため、まず選考を進め、内定を出す前後で確認する流れです。
内定後や入社後に確認する場合は、すでに内定通知を出していたり、社内情報を共有していたりするため、後述するとおり関係の解消がトラブルになりやすい点に注意が必要です。誓約書の取得や就業規則への反映は、内定通知や入社手続きのタイミングで組み込みます。
見解が分かれる論点:内定前に実施するか、選考段階は避けて内定後の誓約書で確認するか
実施タイミングについては、専門家の間でも見解が分かれています。一方には、内定を出す前に確認しておくとする考え方があります。後述のとおり内定後の取消しには厳しい法的要件があり、上場審査でも事前のスクリーニング体制が問われるため、内定前に確認しておく合理性があるという立場です。
他方で、応募・選考段階での身元調査は公正な採用選考の観点から避け、内定後に誓約書で確認するのが望ましいとする考え方もあります。
厚生労働省は、公正な採用選考のために配慮すべき事項として、次のように「身元調査などの実施」を挙げています。
(c)採用選考の方法
出典:公正な採用選考をめざして「採用選考時に配慮すべき事項」|厚生労働省
・身元調査などの実施
・本人の適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用
・合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
どちらの立場にも根拠があります。自社の業種や採用規模、上場審査への対応の必要性を踏まえ、確認する情報を反社会的勢力への該当性に絞りつつ、どの段階で・どこまで確認するかを決めるとよいでしょう。判断に迷う場合は、社内規程の整備とあわせて専門家に相談することをおすすめします。
反社と判明した・疑いが出たときの対応(内定取消・不採用・解雇の可否)
チェックの結果、反社会的勢力との関係が疑われる、あるいは判明した場合の対応を整理します。確定的に判明した場合と、確証が持てないグレーな場合とで、考え方が異なります。
内定後に反社と判明したら内定を取り消せるか
採用内定は、法的には「始期付解約権留保付労働契約」と理解されています。入社日を就労の始期とし、一定の事由があれば内定を取り消せる解約権を会社が留保した労働契約が、内定の時点で成立しているという考え方です。
最高裁は、この解約権を行使して内定を取り消せるのは、内定当時に会社が知ることができず、また知ることが期待できなかった事実を理由とし、その取消しが客観的に合理的で社会通念上相当と認められる場合に限られる、としています。
このように、内定後に反社会的勢力との関係が判明した場合でも、無条件に取り消せるわけではなく、就業規則や入社誓約書に反社排除の根拠を置いたうえで、取消しの相当性が問われます。既存従業員の解雇についても、労働契約法は次のように定めています。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
出典:労働契約法 第16条|e-Gov法令検索
内定取消や解雇は法的なリスクを伴うため、根拠となる社内規程を整えたうえで、実行前に顧問弁護士に相談することが欠かせません。
- 参考判例:大日本印刷(採用内定取消)事件 最高裁第二小法廷 昭和54年7月20日判決(厚生労働省「確かめよう労働条件」判例解説)
確証が持てない・グレーなときの対応
同姓同名の情報がヒットしただけで、本人かどうか確証が持てない場合もあります。こうしたグレーな段階で早計に不採用や内定取消に踏み切ると、かえって法的な争いを招きかねません。判定の根拠が弱いうちは、追加で情報を確認したうえで、判断を急がないことが基本です。
政府の指針も、対応の基本原則として外部の専門機関との連携を挙げています。反社会的勢力への対応に詳しい弁護士への相談が基本ですが、顧問弁護士がいない場合でも、各地の弁護士会が設けている法律相談、商工会議所の相談窓口、都道府県の暴力追放運動推進センターを利用できます。
また、不採用や内定取消を伝える際に、反社の疑いという理由の詳細をそのまま本人へ伝えると、名誉毀損などの新たなリスクが生じることもあります。伝え方についても、専門家に相談しながら慎重に進めることが求められます。
なぜ採用時に反社チェックが必要か(法令・条例・上場審査の根拠)
最後に、採用で反社チェックを行う背景にある根拠を確認します。反社会的勢力を組織に入れてしまうと、取引先からの信用の失墜や、資金提供につながる関係の発生など、事業全体に影響が及びます。政府の指針は、反社会的勢力による被害を防止するための基本原則として、組織としての対応、外部専門機関との連携、取引を含めた一切の関係遮断、有事における民事と刑事の法的対応、裏取引や資金提供の禁止を挙げています。
また、各都道府県の暴力団排除条例は、事業者に対して契約時の暴力団排除の取り組みを求めています。たとえば東京都の条例は、次のように定めています。
事業者は、その行う事業に係る契約が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合には、当該事業に係る契約の相手方、代理又は媒介をする者その他の関係者が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする。
出典:東京都暴力団排除条例 第18条第1項|東京都例規集
この条文は「事業に係る契約」、つまり取引契約を主に想定したもので、採用(労働契約)を直接名指ししているわけではありません。もっとも、反社会的勢力を組織から排除するという趣旨は採用にも通じ、多くの企業が採用の反社チェックに取り組む背景になっています。
加えて、上場審査では反社会的勢力との関係遮断の体制が確認されるため、上場やIPO準備を進める企業では、採用を含めた反社チェックの仕組みづくりが求められます。
自社の採用規模でどこまでやれば十分か
どこまで行えば十分かは、採用の件数と自社のリスクの大きさによって決まります。判断の軸になるのは、年間の採用件数、業種のリスク(金融・不動産・運送・人材など反社との接点が生じやすい業種か)、そして上場やIPO準備の有無の3点です。
採用が年に数名程度で、反社リスクの高い業種でもなければ、公開情報を使った自社チェックと入社誓約書・就業規則の反社排除条項で最低限の備えになります。
採用件数が多い、上場準備を進めている、リスクの高い業種である、のいずれかに当てはまる場合は、確認の抜け漏れと証跡管理が重要になるため、反社チェックサービスや専門調査会社を組み合わせ、確認の範囲と頻度を規程として定めておくと運用が安定します。
サービスで反社チェックを効率化する
自社での確認では件数や精度が追いつかないと感じたら、反社チェックサービスの活用が有力な選択肢になります。ここでは、採用候補者や従業員を人名で調べられる反社チェックサービスを紹介します。まずは料金・主要機能・対応範囲を横並びで確認してください。
| サービス名 | RiskAnalyze(リスクアナライズ) | RISK EYES(リスクアイズ) |
|---|---|---|
| 初期費用 | 無料 | 無料 |
| 月額費用 | 27,500円〜(ライトプラン) スタンダード50,000円 プロは別途見積もり | 15,000円〜(最低月額・税別) |
| 検索料金 | 月額に年間検索数を含む (ライト600件/スタンダード1,200件) プロは約116〜175円/検索 | 300円/検索(1媒体ごと) |
| データソース(検索対象) | 国内約1,000媒体 海外240以上の国・地域 (PEPs〔外国の重要公人〕・制裁リスト対応) | WEBニュース記事(多数のメディア) 新聞・ブログ・掲示板 制裁リスト・独自反社DB |
| 無料トライアル | あり | あり |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る |
※ 料金は各社公式サイトの公表値(2026年6月時点)に基づきます。RiskAnalyzeの税区分は公式に明記がなく、RISK EYESの月額・検索単価は税別です。検索料金はプランやデータソース、検索件数によって変動するため、詳細は各社の公式資料でご確認ください。
RiskAnalyze(リスクアナライズ)

KYCコンサルティング株式会社が提供する、AIを活用したWEBサービス型の反社チェックツールです。個人名や企業名を入力すると、反社会的勢力とのつながり・逮捕歴・行政処分・訴訟歴・風評などを調べ、判定済みの調査レポートを1件あたり最短0.4秒で表示します。採用候補者を人名で調べられるため、選考や内定時の確認に使えます。
CSVによる一括検索は1,000件を約1分で処理でき、大量の候補者や従業員を定期的に確認する運用にも向いています。調査の証跡はクラウド上に7年間自動保存されるため、採用記録として証跡を残しやすい点も特徴です。
API連携により、既存の基幹システムやCRMへ組み込むこともできます。情報セキュリティマネジメントの国際規格であるISO/IEC 27001:2022を2025年7月に取得しており、累計導入企業数は2025年6月時点で1,300社に達しています。
RISK EYES(リスクアイズ)

東証グロース市場に上場するソーシャルワイヤー株式会社が運営する、公開情報を用いた反社チェック専用ツールです。「法人名」「人名」と「逮捕」などのネガティブワードを組み合わせて検索し、反社会的勢力との関係の疑い・犯罪への関与・不祥事の有無を確認します。取引先だけでなく従業員や採用候補者のスクリーニングにも使えます。
検索対象はWEBニュース記事・新聞記事・ブログや掲示板の投稿・制裁リスト、そして2015年以降の反社関連報道を独自に収集したデータベースに及びます。前回の検索でヒットしなかった新しい記事だけを調べる差分検索や、登録した対象にリスク報道があると自動で通知するモニタリング機能を備え、定期的な確認を効率化できます。
提供元自身が上場企業であり、サービス提供後に株式を公開した企業は59社(2026年4月時点、公式サイト)に上るとされ、上場準備を意識した運用にも対応しやすいツールです。
ここで取り上げた2つのサービス以外にも、反社チェックツールにはさまざまな選択肢があります。以下の記事では、主要な反社チェックツールを料金・データソース・精度などの観点から比較し、失敗しない選び方を詳しく解説しています。導入を検討される方は、あわせてご覧ください。
反社チェックツールおすすめ16選を比較|料金・データソース・精度で失敗しない選び方
取引先や株主、採用候補の反社チェックを、担当者が新聞記事やインターネットを手作業で検索して進めていませんか。1件ずつ調べる方法は時間がかかるうえ、調べ漏れ(見落とし)と、同姓同名による誤判定(過検知)の両方が起きやすく、調査の質が担当者の経…
まとめ
採用の反社チェックは、利用目的を特定・公表し、公開情報を中心に、必要な範囲で行えば適法に実施できます。犯罪歴などの要配慮個人情報の扱いや、本籍・思想信条など採用選考で収集してはいけない情報には注意し、確認する項目を反社会的勢力への該当性に絞ることが大切です。募集要項や誓約書には利用目的や同意、反社排除条項を整え、内定取消や解雇が必要になった場合に備えておきましょう。
採用件数が少ないうちは自社での公開情報チェックと誓約書で足りることが多い一方、件数の増加や上場準備の場面では、抜け漏れや証跡管理の面で反社チェックサービスの活用が現実的です。自社の採用規模とリスクに合わせて、無理のない範囲で仕組みを整えてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 採用の反社チェックとは何ですか?
A. 採用の反社チェックとは、応募者・内定者・従業員が暴力団などの反社会的勢力に該当しないかを、新聞・官報などの公開情報を中心に確認する取り組みです。反社会的勢力は、法務省の指針で、暴力団・総会屋などの「属性」と、不当な要求などの「行為」の両面からとらえるべきものとされています。
組織に反社会的勢力が入り込むと、取引先からの信用失墜や資金提供につながる関係の発生など、事業全体に影響が及ぶため、採用の段階で確認します。
Q. 採用の反社チェックは本人の同意なしで行っても違法になりますか?
A. 採用の反社チェックは、利用目的を特定・公表し、公開情報を必要な範囲で確認する限り、本人の同意なしでも直ちに違法にはなりません。
個人情報保護法は、個人情報を扱う際に利用目的をできる限り特定すること(第17条)と、取得時に利用目的をあらかじめ公表するか本人へ通知すること(第21条)を求めているため、募集要項やプライバシーポリシーに「反社会的勢力該当性の確認」を利用目的として記載しておくことが土台になります。
ただし、犯罪歴などの要配慮個人情報を取得する場合や、調査会社へ情報を渡す第三者提供(第27条)にあたる場合は、原則として本人の同意が必要です。判断に迷う場面では、同意文言を整えて同意を取得しておくほうが安全です。
Q. パート・アルバイトの採用でも反社チェックの対象になりますか?
A. パート・アルバイトも採用の反社チェックの対象になり得ます。反社会的勢力の排除は雇用形態を問わない問題であり、正社員・契約社員だけでなくパート・アルバイトも確認の対象に含めて設計するのが基本です。ただし、全員を一律に同じ深さで調べる必要はなく、業種や職務のリスク、採用件数に応じて、確認する範囲と頻度を決めるのが現実的です。
Q. 犯罪歴などの要配慮個人情報は、採用の反社チェックでどう扱えばよいですか?
A. 犯罪歴や逮捕歴などの要配慮個人情報は、取得に原則として本人の同意が必要で、同意なく取得できるのは、法令に基づく場合や、すでに公開されている情報である場合などの例外に限られます(個人情報保護法第20条第2項)。
新聞・官報などで公開された情報から確認する場面は同項第七号(公開情報)が関わりますが、どこまでが同意なしで取得できる公開情報にあたるかは個別判断を伴うため、実務では同意を取得しておくほうが安全です。
あわせて、本籍・出生地や思想・信条など採用選考で収集してはならない情報に踏み込まないよう、確認する項目を反社会的勢力への該当性に絞ることが大切です。
Q. 採用の反社チェックは応募段階と内定後のどちらで行うべきですか?
A. 採用の反社チェックの実施時期は専門家の間でも見解が分かれており、候補者が絞られる内定前に行う考え方と、選考段階の身元調査は避けて内定後に誓約書で確認する考え方があります。
前者は内定後の取消しトラブルを避けられる利点があり、後者は厚生労働省が「公正な採用選考」で身元調査などの実施を配慮すべき事項に挙げていることを踏まえた立場です。
実務では内定前後で確認する企業が多く見られますが、自社の業種・採用規模・上場審査対応の必要性を踏まえ、確認項目を反社会的勢力への該当性に絞ったうえで、どの段階で行うかを決めるとよいでしょう。
Q. 内定を出した後に反社会的勢力と分かった場合、内定を取り消せますか?
A. 内定後に反社会的勢力との関係が判明しても、無条件に取り消せるわけではなく、就業規則や入社誓約書に反社排除の根拠を置いたうえで、取消しの客観的な合理性と社会通念上の相当性が必要です。
採用内定は「始期付解約権留保付労働契約」と理解され、内定を取り消せるのは、内定当時に会社が知ることができなかった事実を理由とし、その取消しが合理的・相当と認められる場合に限られるとされています。
既存従業員の解雇も労働契約法第16条により合理性・相当性を欠けば無効となるため、実行前に顧問弁護士へ相談することが欠かせません。
Q. 自社の無料チェックだけで採用の反社チェックは十分ですか?
A. 採用件数が少なくリスクの高い業種でもない場合は、公開情報を使った自社チェックと入社誓約書・就業規則の反社排除条項で最低限の備えになりますが、件数の増加や上場準備の場面では反社チェックサービスの活用が現実的です。
自社での公開情報検索は無料〜低コストで着手できる一方、同姓同名の切り分けや見落とし、担当者による判断のばらつき、証跡管理の負担といった弱点があります。
確認件数が多い、上場・IPO準備を進めている、金融・不動産・運送・人材など反社リスクに敏感な業種である、といった場合は、抜け漏れや証跡の残し方を考えると、反社チェックサービスや専門調査会社の併用が運用を安定させます。
反社チェックツールの料金・機能を一括チェック
MCB FinTechカタログでは、反社チェックツールの最新の資料をまとめてダウンロードできます。料金や機能を横並びで比較し、自社の採用フローに合うサービスを効率的に見つけるためにご活用ください。
MCB FinTechカタログに掲載しませんか?
MCB FinTechカタログでは、掲載企業様を募集しています。マネックスグループの金融実務ノウハウを活かした独自の評価軸と検索設計により、導入検討者が最適なサービスを効率的に発見できる法人向け比較プラットフォームです。掲載後は管理画面から料金表や導入事例を随時更新でき、常に最新の情報を訴求可能。まずは下記フォームより、お気軽にお問い合わせください。















