取引先や銀行から「もう手形は使えなくなるらしい」と聞き、今も工事代金を手形でやり取りしている自社はどうなるのか、不安に感じていませんか。建設業では支払サイトの長い約束手形が長く使われてきただけに、その手形が「いつ・どのように」なくなるのかを、確かな根拠で確かめておきたいところです。
結論から述べると、約束手形は2026年度末(2027年3月末)をめどに利用をなくす方針が政府・金融界で進んでおり、建設業もその流れの中にあります。すでに2026年1月には下請取引を規律する法改正(取適法)が施行されました。ただし「手形の発行を一律に禁止する法律」ができるわけではなく、廃止の性格は自主目標と法令の規律に分かれ、建設工事の請負代金そのものは取適法ではなく建設業法が規律します。
本記事では、建設業の手形廃止について整理します。時期と法的性格、取適法・建設業法といった建設業に関わる制度、元請・下請それぞれに起きる変化、ルールを守らなかった場合の扱い、そして手形の代わりになる決済・資金化手段(銀行振込・電子記録債権・ファクタリング)まで取り上げます。制度の全体像をつかみ、今から何をすべきかを判断する材料としてご活用ください。
目次
建設業の手形廃止はいつから?結論とスケジュール
まず、いつ・何が起きるのかを時系列で示します。建設業の手形廃止は、ある1日を境に一斉に手形が使えなくなるのではなく、支払いサイトの短縮、下請取引での手形払い禁止、業界全体での利用ゼロ目標という3つの節目が段階的に進む形で設計されています。

| 時期 | 2024年11月 (令和6年11月1日〜) | 2026年1月1日 (令和8年1月1日) | 2026年度末めど (2027年3月末ごろ) |
|---|---|---|---|
| 何が起きるか | 下請代金の支払いに使う手形などのサイト(支払期日までの期間)が60日以内を原則に。60日を超える手形は「割引困難な手形」(銀行で期日前に現金化しづらい長期の手形)として指導の対象 | 下請法の改正法が施行され、法律名が「取適法」に変更。建設工事以外の委託(資材製造・設計・運送など)の下請取引で手形払いそのものが禁止に | 全国の手形交換所における手形・小切手の交換枚数をゼロにすることを目標に、産業界・金融界が利用廃止を進める |
| 根拠・出所 | 公正取引委員会・中小企業庁 (令和6年10月1日公表) | 取適法リーフレット (公正取引委員会) | 全国銀行協会 「約束手形等の利用の廃止等に向けた自主行動計画」 |
※2026年7月時点で公表されている各機関の方針・法令にもとづきます。
このうち、業界全体の「利用ゼロ」の目標時期が2026年度末です。これは全国銀行協会が公表している自主行動計画に、次のように明記されています。
2026年度末までに全国手形交換所における手形(約束手形・為替手形)・小切手の交換枚数をゼロとする
出典:手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画〜約束手形等の利用の廃止等に向けた自主行動計画〜の改定について|一般社団法人 全国銀行協会
この「2026年度末」は2027年3月末にあたります。これは手形交換の枚数をゼロに近づけるという業界の目標時期で、手形交換の仕組み自体の廃止はその先です。全国銀行協会は2025年3月に、2027年度初から電子交換所での手形・小切手の交換を廃止する予定を公表しています。手形の利用は、2026年度末に向けて減らし、2027年度初に交換の仕組みが終わる、という二段階で進みます。
次章では、この廃止が「法律による禁止」なのか「お願いベースの要請」なのか、あるいは「業界の自主目標」なのかを切り分けて整理します。
手形廃止の「性格」— 法的禁止か・行政要請か・自主目標か
「手形廃止」と一言でいっても、その中身は一つではありません。自社が守らなければ罰を受けるのか、それとも努力目標なのかを判断するために、廃止の性格を3つに切り分けて確認します。
| 性格 | 全面的な法的禁止 | 法令による規律(実質的な制限) | 業界の自主目標(政府方針にもとづく) |
|---|---|---|---|
| 強制力 | 該当なし | 違反は指導・勧告・公表などの対象 | 罰則はなく、達成に向けた取り組み |
| 内容 | 手形の発行や利用そのものを、企業一般に対して一律に禁じる法律は現時点で存在しない | 建設工事の下請代金は建設業法(割引困難な手形の交付禁止)、建設工事以外の委託は取適法(手形払いの禁止)で、下請代金の支払方法が制限される(詳細は後述) | 手形・小切手の交換枚数を2026年度末までにゼロにすることを、政府方針をもとに産業界・金融界が自主行動計画として進める |
「手形を持っているだけで違法」「手形を切ったら即罰則」という性格のものではありません。廃止の推進力は、業界の自主目標と政府方針が土台にあります。全国銀行協会は、この取り組みが政府方針にもとづくものであることを次のように説明しています。
政府方針(※)をもとに、産業界・金融界が連携して手形・小切手の利用廃止に向けた取組みを行っています。
出典:紙の手形・小切手利用廃止について|一般社団法人 全国銀行協会
一方で、下請取引の代金支払いに関しては、次章で見るように法令が具体的な制限をかけます。この「法令による規律」の部分が、建設業の実務に直接効いてくる部分です。
建設業に名指しで関わる制度(建設業法24条の6と取適法)
建設業の手形の扱いは、取引の中身によって規律する法律が変わります。工事の発注・受注そのもの(建設工事の請負)は建設業法が、資材の製造委託・設計の委託・資材運送などの建設工事以外の委託は取適法(旧・下請法)が規律します。まずは工事代金に直接効く建設業法から確認します。

建設工事の下請代金は建設業法(24条の6)で規律される
建設工事の請負契約は下請法(取適法)の適用対象ではなく、下請代金の支払いは建設業法が規律します。建設業法第24条の6は、特定建設業者が下請に代金を支払う場合の支払期日と、割引困難な手形の交付禁止を定めています。
第二十四条の六 特定建設業者が注文者となつた下請契約〔中略〕における下請代金の支払期日は、第二十四条の四第二項の申出の日〔中略〕から起算して五十日を経過する日以前において、かつ、できる限り短い期間内において定められなければならない。
3 特定建設業者は、当該特定建設業者が注文者となつた下請契約に係る下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関〔中略〕による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付してはならない。
出典:建設業法(昭和二十四年法律第百号)第二十四条の六|e-Gov 法令検索
ポイントは2つあります。1つは支払期日で、特定建設業者は下請の申出日から起算して50日以内のできる限り短い期間内に支払わなければなりません。もう1つは支払方法で、支払期日までに一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形(サイトの長い手形)を交付してはなりません。
国土交通省は建設業法の運用として、下請代金はできる限り現金で、少なくとも支払期日までに現金化できる手段で支払うよう求めています。工事代金の手形払いそのものを一律に禁じる条文があるわけではありませんが、サイトの長い手形は割引困難な手形として扱われるため、建設工事の下請取引でも手形を使わない支払いへの見直しが進んでいます。
建設工事以外の委託は取適法(旧・下請法)で規律される
一方、建設会社が発注する取引でも、資材(鉄骨・コンクリート部材・プレカット材など)の製造委託、設計事務所への設計委託、資材の運送などは、建設工事の請負ではないため取適法(旧・下請法)の対象になります。取適法は2026年1月1日に施行され、これらの委託取引での手形払いそのものが禁止されました。公正取引委員会のリーフレットは、次のように説明しています。
下請法の改正法が2026年1月1日に施行され、規制内容の追加や規制対象の拡大がなされるとともに、法律名も変更されます(新通称:「取適法(とりてきほう)」)
「手形払」等を禁止/手形払が禁止されるとともに、その他の支払手段(電子記録債権等)についても、支払期日までに代金相当額満額を得ることが困難なものが禁止されます
出典:取適法リーフレット No.01(令和7年8月)|公正取引委員会
正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」で、取適法(中小受託取引適正化法)はその通称です。禁止されるのは「手形で払うこと」で、電子記録債権に切り替えても、支払期日までに満額を現金化できないものは同じく禁じられます。取適法での支払期日は、受領した日から起算して60日以内とされています。
この取適法の手形払い禁止に先立ち、2024年11月からは手形などのサイト(支払期日までの期間)を60日以内とする運用が始まっていました。公正取引委員会と中小企業庁は、60日を超える手形の扱いについて次のように示しています。
令和6年11月1日以降、親事業者が下請代金の支払手段として、サイト(手形期間又は決済期間をいいます。以下同じです。)が60日を超える長期の手形等を交付した場合〔中略〕下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)の割引困難な手形の交付等に該当するおそれがあるとして、その親事業者に対し、指導する方針
出典:手形等のサイトの短縮について(令和6年10月1日)|公正取引委員会・中小企業庁
この60日基準は令和6年10月1日に公表され、令和6年11月1日から適用されました(「2024年11月から」は適用開始日、「令和6年10月1日」は公表日で、いずれも同じ取り組みです)。取適法が施行された今は、これらの委託取引で手形払い自体が禁止されているため、手形を使わない前提での支払いへと移っています。
整理すると、支払期日の基準は、建設工事の下請代金なら建設業法の50日以内、建設工事以外の委託なら取適法の60日以内です。「建設業の下請は60日」と一括りにせず、工事代金は建設業法(50日・現金化できる支払い)、資材製造や設計・運送などの委託は取適法(60日・手形払い禁止)と、取引の中身で分けて押さえておくと、支払条件を見直す際に混乱しません。
手形廃止で建設業の元請・下請に起きる変化
前章の制度によって、建設業の実務は元請・下請それぞれで変わります。立場によって課題と恩恵が逆になるため、分けて見ていきます。
元請が直面する課題(支払サイト短縮・運転資金の確保)
手形を使わない支払いへの移行と支払サイトの短縮は、代金を支払う側の元請にとって、資金繰りの前提が変わることを意味します。これまで手形で60日、90日と支払いを先送りできていたものが、現金(振込)や、期日までに満額を現金化できる決済手段での早期支払いへと切り替わります。手元資金が出ていくタイミングが早まるため、運転資金を厚く確保しておく必要が生じます。
また、下請との契約書に記載している支払条件(支払期日・支払方法)を、工事代金なら建設業法の50日基準、資材の製造委託や設計・運送などの委託なら取適法の60日基準に合わせて見直す作業も発生します。長年の商習慣で決めていた支払サイトを、法令に沿った期間へ改める必要があります。
下請が得るメリット(売上の早期資金回収・不渡りリスクの解消)
受け取る側の下請にとっては、資金繰りの改善につながる変化です。工事代金を手形で受け取ると、これまでは支払期日まで数か月現金化できず、割り引けば手数料も差し引かれていました。手形払いが禁止され支払サイトが短くなれば、売上をより早く現金として回収でき、資金繰りの見通しが立てやすくなります。
さらに、受け取った手形が支払期日に決済されない「不渡り」のリスクからも解放されます。取引先の資金繰り悪化による連鎖倒産の懸念が減る点は、規模の小さい専門工事の下請ほど恩恵が大きいといえます。一方で、手形特有の長い支払サイトを前提に資金を回してきた事業者は、代替となる資金化の手段を用意しておく必要があります(後述)。
手形払いのルールを守らないとどうなるか
「努力目標だから守らなくてよい」のか「守らないとまずい」のかは、支払う側の元請にとって判断の分かれ目です。ここは、業界全体の「利用ゼロ」目標と、下請取引を規律する法令とで扱いが異なります。
手形の代替となる決済手段への移行という全体の流れは、罰則を伴う義務ではなく、政府方針にもとづく自主目標です。一方、下請代金の支払方法を規律する法令に違反した場合の扱いは、取引の中身で分かれます。
建設工事の下請代金については、特定建設業者による割引困難な手形の交付禁止(建設業法第24条の6第3項)に反した場合、国土交通省や都道府県の許可行政庁による行政指導・監督を通じて是正が求められます。
この第24条の6第3項は、建設業法第28条が定める指示処分の直接の対象からは除外されているため、「建設業法違反ですぐに営業停止」という性格のものではありません。とはいえ、許可行政庁の監督のもとで是正指導の対象になる点は変わらないため、放置してよいものではありません。
建設工事以外の委託(資材の製造委託・設計委託・運送など)については、取適法(旧・下請法)に違反すると、公正取引委員会による勧告の対象となり得ます。勧告が行われると、その内容は原則として公正取引委員会のウェブサイトで公表されます。取引先や金融機関の目に触れる形で公表されるため、信用面での不利益は小さくありません。「手形を切ったら即罰金」という性格のものではありませんが、放置すべきものではありません。
- 参考資料:取適法(下請法)勧告一覧|公正取引委員会
手形の代替手段の比較(振込・でんさい・ファクタリング)
手形が使えなくなると、支払い・受け取りを別の手段に切り替える必要があります。ここでは代表的な3つの手段を、資金化のタイミング・コスト・下請(受け取る側)への影響という観点で横並びに整理します。
| 手段 | 銀行振込 | 電子記録債権(でんさい) | ファクタリング |
|---|---|---|---|
| 資金化のタイミング | 支払期日に即時入金 | 支払期日に入金/期日前は譲渡・割引で資金化 | 売掛債権を売却して早期に現金化(最短即日の例も) |
| コスト(受取側) | 振込手数料は支払側負担が一般的 | 期日前に資金化する場合は割引料が発生 | 手数料が差し引かれる(会社・契約方式により差) |
| 支払サイト | 取適法・建設業法の期日基準に沿って短縮 | 満額を期日までに現金化できないものは取適法で禁止 | 支払期日を待たずに資金化できる |
| 下請(受取側)への影響 | 最も確実で早い。手形の割引や取立の手間・手数料が不要に | 必要な分だけ分割して資金化できる。手形の紛失・印紙税の負担がない | 借入ではなく債権の売却。受け取り側が主体的に資金繰りを整えられる |
※上記は各手段の一般的な傾向です。実際の手数料・対応可否は金融機関・各社の条件をご確認ください。
銀行振込
最もシンプルな代替が銀行振込です。支払期日に代金が現金で口座に入るため、受け取る側は手形の割引や取立といった手間から解放されます。取適法・建設業法が求める支払期日の短縮に最も素直に対応できる手段で、多くの取引でまず選択肢に上がります。支払う側にとっては手元資金が出ていくタイミングが早まるため、運転資金の確保が前提になります。
電子記録債権(でんさい)
電子記録債権(でんさい)は、売掛債権を電子的に記録し、金融機関のネットワークで管理する仕組みです。紙の手形に近い使い勝手を持ちながら、紛失や印紙税の負担がなく、支払期日前の資金化にも対応します。でんさいネット(株式会社全銀電子債権ネットワーク)の説明資料は、その機能を次のように示しています。
手形と同様に支払期日前に譲渡・割引ができ、担保として活用することも可能。
受取企業は必要な資金の分だけ分割して資金化することが可能(支払企業は手形の分割振出が不要)。
出典:でんさいネット説明資料(でんさい基礎編)|株式会社全銀電子債権ネットワーク
受け取る側は、支払期日を待たずに、必要な金額だけを割引や譲渡で早期資金化できます。ただし、期日前に満額を現金化できるかは取り扱う金融機関の審査次第である点には注意が必要です。この点は後述の「誤解しやすい落とし穴」でも触れます。
ファクタリング(受け取り側の早期資金化)
ファクタリングは、保有する売掛債権(工事代金の請求書や、案件によっては注文書・発注書)をファクタリング会社に売却し、支払期日を待たずに現金化する資金調達手段です。銀行融資のような借入ではなく債権の売却であるため、負債を増やさずに資金を確保できます。
手形のサイトが消えて入金までの期間が変わる局面で、受け取る側が主体的に資金繰りを整える手段として活用できます。手数料が差し引かれる分、実際の受取額は目減りしますが、最短即日での資金化に対応する会社もあります。次章では、建設業の受け取り側に適した資金化サービスを具体的に紹介します。
手形廃止で誤解しやすい実務の落とし穴
制度への対応では、「これで大丈夫」という思い込みが後でつまずきにつながることがあります。建設業の実務で特に誤解されやすい3点を先回りで確認します。
- 「でんさいに切り替えたから大丈夫」とは限らない:手形の代わりに電子記録債権(でんさい)を使う場合でも、支払期日までに代金相当額の満額を現金化することが困難なものは認められません(建設工事以外の委託は取適法が明文で禁止し、建設工事の下請代金も建設業法が現金化できる支払いを求めます)。でんさいにすること自体が目的化し、受け取る側が期日前に満額を資金化できない設計だと、規律の趣旨に反するおそれがあります。
- 「割引して現金化すればよい」で下請に負担を寄せない:受け取った側が割引で現金化する際の割引料は、本来より短い支払サイトなら発生しなかったコストです。支払う側が長いサイトの決済手段を交付し、受け取る側に割引の負担を実質的に転嫁する形は、割引困難な手形の交付禁止の趣旨に照らして問題になり得ます。
- 「下請が了承しているから問題ない」は通用しない:下請代金の支払方法や支払期日の規律は、当事者の合意があれば免れられるものではありません。下請の同意を根拠に長いサイトの手形払いを続けることはできない、と考えておくのが安全です。
今から建設業がやるべきこと(準備手順)
取適法はすでに施行されており、手形の利用廃止も2026年度末に向けて進んでいます。まだ手形での支払い・受け取りが残っている場合は、支払う側・受け取る側のどちらの立場でも、早めに次の手順で準備を進めておくと移行がスムーズです。
- 現状の把握:自社が手形で支払っている取引・受け取っている取引を洗い出し、それぞれの支払サイト(期日までの期間)と金額を整理します。
- 支払方法・支払条件の見直し:支払う側は、手形払いを振込やでんさいなどへ切り替え、支払期日を工事代金なら建設業法(特定建設業者は50日)、資材製造・設計・運送などの委託なら取適法(60日)の基準に沿って設定し直します。
- 取引先との協議・契約書の改定:新しい支払条件を取引先と合意し、下請契約書の支払期日・支払方法の記載を更新します。
- 資金繰り計画の見直し:支払う側は手元資金が出ていくタイミングの前倒しに備え、受け取る側は手形の長いサイトが消える分の資金繰りを、振込・でんさい・ファクタリングなどでどう埋めるかを設計します。
とくに受け取る側の下請にとっては、手形の支払サイトを前提に回してきた資金繰りに穴が空かないよう、早期に資金化できる手段を確保しておくことが移行期の鍵になります。次章では、その具体的な選択肢を紹介します。
手形消滅・支払サイト短縮に備える資金化サービスの活用
手形の長いサイトが消えると、受け取る側が主体的に資金化する手段としてファクタリングが選択肢になります。ここでは、建設業の工事代金や注文書・発注書、電子記録債権(でんさい)に対応する資金化サービスを紹介します。まずは各サービスの特徴を比較表で整理し、続けて個別に解説します。
| サービス名 | ビートレーディング | Mentor Capital | 入金前払いシステム(JTC) | PAYTODAY | トップ・マネジメント |
|---|---|---|---|---|---|
| 手数料 | 2社間4%〜/3社間2%〜 | 2%〜 (2社間・3社間の内訳は要問い合わせ) | 1.2%〜10% (非通知契約の場合) | 1%〜9.5% | 2社間3.5%〜/3社間0.5%〜 電ふぁく1.8〜8% (他商品の上限は非公開) |
| 買取金額 | 1万円〜7億円 (買取実績。上限は「無制限」とも表記) | 数十万円〜1億円 (超過は要相談) | 100万円〜上限なし (保有する売掛金の範囲内) | 10万円〜上限なし | 要問い合わせ (公式は非公開) |
| 最短入金 | 最短即日 (審査は最短2時間) | 最短即日 (審査は最短60秒) | 最短即日 | 最短30分 | 最短即日(2社間) |
| 対応する債権 | 請求書 注文書(発注書) | 請求書・契約書 (売掛金) | 請求書 (売掛金) | 請求書 (売掛金) | 請求書 注文書(見積書・受注書) 電子記録債権(電ふぁく) |
| 建設業での強み | 建設・運送・製造など 幅広い業種で実績。 注文書の早期資金化に対応 | 相談業種で建設業が最多。 材料費・外注費の 先行負担に対応 | 建設・運送・製造で 利用が多い。 高額の工事代金の資金化に強み | 一人親方・個人事業主の 少額の工事代金請求書に対応 | 電子記録債権(電ふぁく)で 手形→電子記録債権の移行と噛み合う |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 公式サイト |
※各社の公式情報にもとづきます(2026年7月時点)。手数料は変動制の場合、売掛先の信用力や契約方式で変わります。最新の条件は各社にご確認ください。
ビートレーディング(株式会社ビートレーディング)

請求書だけでなく、注文書(発注書)を対象とした注文書ファクタリングにも対応する2012年創業の専業会社です。工事の受注段階で発生する注文書を資金化できるため、材料費や外注費を工事着手前に確保したい建設業のニーズと噛み合います。東京本社のほか仙台・名古屋・大阪・福岡の全国5拠点を持ち、建設・運送・製造など幅広い業種の利用実績があります。
手数料は2社間で4%〜、3社間で2%〜と公式サイトで下限が明示されています。必要書類は入出金明細(直近2か月分)と売掛金に関する書類(契約書・発注書・請求書等)の2点のみで、審査は最短2時間を訴求しています。累計買取額は1,824億円(2026年3月時点)に達しています。
Mentor Capital(株式会社Mentor Capital)

法人・個人事業主向けの2社間・3社間ファクタリングを提供する会社です。相談の多い業種として建設業が最も多いことを公式インタビューで明らかにしており、材料費や下請への外注費が工程の進行とともに先行して発生する建設業の資金繰り課題に、実績を積んでいます。多重下請構造で数百万円から数千万円規模の資金調達を行い、工事や配送を滞りなく進められた事例が紹介されています。
最短即日の資金化に対応し、借入ではなく債権の売却のため、借入残高を増やさずに資金を確保できます。手数料は2%〜で、2社間・3社間の内訳は問い合わせで確認します。買取率は最大98%を公式に掲げ、審査結果は最短60秒で提示するとしています。
建設業から相談が多い背景にある資金繰りの構造について、同社は独自インタビューで次のように説明しています。

弊社で最も多いのは建設関係の企業様です。次に多いのが運送業のお客様で、この2つは突出して多いです。実はこの2つの業種は、どうしても自分の売上以上にかかる支払いが増えてしまう事情があるからです。運送業であれば燃料費が上がるだけでも追加で負担がかかりますし、建設業であれば下請け業者を雇うことや、材料費や工具類を先に確保しなくてはいけないため、工程が進む段階で一時的に入金額よりも支払いが増えてしまうことがあります。
入金前払いシステム(株式会社JTC)

株式会社JTCが2社間方式を独自に「入金前払いシステム」と呼び、取引先に知られずに売掛金を早期資金化できる点を訴求するサービスです。利用が多い業種として建設・運送・製造を挙げており、工事代金の資金化に馴染みます。買取金額は下限100万円から上限を設けず、数千万円から数億円規模の高額取引の相談が多いことを公式に説明しています。
手数料は非通知の契約で1.2%〜10%と公式に明示され、金額が大きいほど手数料を抑えやすい傾向があるとしています。必要書類が揃っていれば最短即日での入金に対応します。中堅の元請から専門工事の下請まで、比較的高額な工事代金をまとめて資金化したい場合に有力な選択肢となります。なお、個人事業主・フリーランスは対象外で、300万円以上の相談が中心です。
高額な工事代金の資金化について、同社は独自インタビューで次のように述べています。
PAYTODAY(Dual Life Partners株式会社)

オンライン完結型のAIファクタリングサービスで、面談不要・オンラインのみで手続きが進みます。買取金額は下限10万円からと少額に対応し、一人親方や個人事業主の職人が、少額の工事代金の請求書を早期に資金化する用途に向いています。手数料は1%〜9.5%と公式FAQで上限まで明示され、初期費用・月額費用はかかりません。
独自のAI審査により最短30分での資金化を訴求し、来店・郵送は不要です。償還請求権のないノンリコース契約で、債権譲渡登記も行わないことを公式に明示しています。手形の受け取りがなくなり、小口の資金繰りをこまめに整えたい小規模事業者にとって、手軽に使える選択肢です。
一人親方や個人事業主として少額の工事代金を資金化する場合は、対象を個人事業主・フリーランスに絞ったファクタリングの比較も判断材料になります。手数料・入金スピードや、信頼できる業者の見分け方を次の記事でまとめています。
個人事業主・フリーランス向けファクタリングおすすめ13選を比較|手数料・入金スピード・信頼できる業者の選び方を解説
個人事業主やフリーランスとして請求書を発行したあと、入金期日まで運転資金が回らずに困る場面は、独立直後の事業者ほど起きやすい資金繰り課題です。取引先の支払サイトが60〜90日と長く、外注費や税金の納付期限が先に迫るケースは珍しくありません。…
トップ・マネジメント(株式会社トップ・マネジメント)

2009年創業のファクタリング専業会社で、商品ラインナップの幅広さが特徴です。なかでも、Tranzax株式会社との連携により電子記録債権を活用した2.5社間ファクタリング「電ふぁく」を提供している点が、手形から電子記録債権への移行を進める建設業と噛み合います。受け取った電子記録債権を資金化したい場面での選択肢になります。
電ふぁくの手数料は1.8〜8%とプレスリリースで上限まで明示されています。加えて、見積書・受注書・発注書を対象とした将来債権ファクタリング(手数料3.5%〜)も扱い、工事の受注段階での資金化にも対応します。申込から契約はオンライン完結で、2社間は最短即日での資金化が可能です。買取可能額など公式サイトで明示されていない条件は、申込時に確認してください。
ここで取り上げたのは、建設業の工事代金や注文書・でんさいに対応するサービスに絞った紹介です。手数料・入金スピードや買取可能額を軸に、ファクタリング会社をより広く比較して選びたい場合は、主要26社を比較した次の記事もあわせてご覧ください。
ファクタリングおすすめ26選を比較|手数料・入金スピード・買取可能額で選ぶ
「取引先への請求は済んでいるのに、入金は翌々月末。仕入れや外注費、人件費の支払いだけが先に来て、手元資金が薄くなる」——売掛取引が中心の事業では、珍しくない場面です。銀行融資は審査に時間がかかり、急な資金需要には間に合わないこともあります。…
まとめ
建設業の手形廃止は、2026年度末をめどに業界全体で手形の利用をなくす政府・金融界の方針として進んでいます。すでに2026年1月には取適法が施行され、建設工事以外の委託(資材製造・設計・運送など)の下請取引では手形払いそのものが禁止されました。
手形の発行そのものを一律に禁じる法律があるわけではありませんが、下請代金の支払方法は取引の中身ごとに規律されます。建設工事の請負代金は建設業法(特定建設業者は50日以内・割引困難な手形の交付禁止)、建設工事以外の委託は取適法(60日以内・手形払い禁止)が規律し、支払サイトも短くなります。違反すれば、工事代金は許可行政庁の行政指導、委託取引は公正取引委員会の勧告・公表の対象になり得ます。
支払う側は手形払いから振込・でんさいへの切り替えと支払条件の見直しを、受け取る側は手形の長いサイトが消えた分の資金繰りを、でんさいの割引やファクタリングでどう埋めるかを、早めに準備しておくことが移行を滑らかにします。とくに工事代金や注文書・でんさいの早期資金化を検討する場合は、建設業への対応実績や対応する債権の種類を確認し、自社の状況に合うサービスを選んでください。
よくある質問(FAQ)
Q. 建設業の手形廃止とは何ですか?
A. 建設業の手形廃止とは、約束手形の利用を2026年度末(2027年3月末)をめどになくし、下請代金の支払いを手形によらない形へ切り替えていく一連の取り組みです。
手形の発行を一律に禁じる単一の法律があるわけではなく、政府方針にもとづく業界の自主目標(手形交換枚数のゼロ化)と、法令による規律が組み合わさって進みます。法令の規律は取引の中身で分かれ、建設工事の下請代金は建設業法、建設工事以外の委託(資材製造・設計・運送など)は取適法(旧・下請法)が担います。「手形を持っているだけで違法」という性格のものではありません。
Q. 建設業で手形はいつから使えなくなりますか?
A. 建設工事以外の委託の手形払いは2026年1月1日の取適法施行で禁止され、業界全体では2026年度末(2027年3月末)をめどに手形の利用ゼロが目標とされています。建設工事の下請代金も、建設業法が現金または現金化できる支払いを求めるため、手形を使わない方向へ移っています。
ある1日を境に一斉に使えなくなるのではなく、2024年11月のサイト60日以内の運用開始、2026年1月の(委託取引の)手形払い禁止、2026年度末の利用ゼロ目標という順に段階的に進みます。
Q. 建設業だけ手形廃止が猶予される特例はありますか?
A. 建設業だけ手形廃止が猶予される特例はありません。建設工事の下請代金は建設業法、建設工事以外の委託(資材製造・設計・運送など)は取適法(旧・下請法)と、取引の中身ごとにルールがかかります。「建設業は特別だから今までどおり長いサイトの手形でよい」という例外はなく、手形払いや長い支払サイトを前提にしてきた商習慣が残る事業者ほど、早めの見直しが必要になります。
Q. 建設業の下請代金の支払サイトも60日が基準ですか?
A. 取引の中身で基準が分かれ、建設工事の下請代金は建設業法の50日以内、建設工事以外の委託は取適法の60日以内です。「建設業の下請は一律60日」と考えると誤りです。特定建設業者が注文者となる建設工事の下請契約では、下請の申出の日から起算して50日以内の、できる限り短い期間内で支払期日を定める必要があります。資材の製造委託や設計・運送などの委託は、取適法の60日以内が基準です。
Q. 建設業で手形払いを続けると罰則はありますか?
A. 建設工事の下請代金なら建設業法にもとづく許可行政庁(国土交通省・都道府県)の行政指導、建設工事以外の委託なら取適法にもとづく公正取引委員会の勧告と公表が主なリスクです。「手形を切ったら即罰金」という性格のものではありませんが、取適法違反の勧告は原則として公正取引委員会のウェブサイトで公表され、取引先や金融機関の目に触れるため、信用面での不利益は小さくありません。
建設業法24条の6(割引困難な手形の交付禁止)に反した場合は、許可行政庁による行政指導の対象になります。ただしこの第24条の6第3項は建設業法第28条の指示処分の直接の対象からは除外されており、「建設業法違反ですぐに営業停止」という性格ではありません。
Q. でんさいに切り替えれば、建設業の手形廃止への対応は問題ありませんか?
A. でんさい(電子記録債権)に切り替えても、支払期日までに代金相当額の満額を現金化することが困難な設計だと、認められない場合があります。建設工事以外の委託では取適法が明文で禁止し、建設工事の下請代金も建設業法が現金化できる支払いを求めます。でんさいにすること自体が目的ではなく、受け取る側が支払期日までに満額を資金化できるかどうかが判断基準です。
期日前に満額を現金化できるかは取り扱う金融機関の審査によって異なるため、「でんさいだから安心」と決めつけず、受取側が不利にならない支払条件かを確認してください。
Q. 手形廃止で建設業の下請が受け取る代金の資金繰りはどう整えればよいですか?
A. 手形の長い支払サイトが消える分、下請は銀行振込による早期入金に加えて、でんさいの割引・譲渡やファクタリングで資金化のタイミングを主体的に整えられます。
これまで手形の割引を前提に資金を回してきた場合は、振込での早期入金だけで足りるのか、工事代金の請求書や注文書を支払期日前に資金化する手段が要るのかを、移行前に洗い出しておくと安全です。建設業の工事代金・注文書・でんさいに対応する資金化サービスを選ぶ際は、対応する債権の種類と入金スピードを確認してください。
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