2026年6月2日、暗号資産金融大手のGalaxy Digitalが、機関投資家向けにOTC(店頭・相対)での予測市場取引を開始したことを発表しました。同社の機関向けトレーディング部門Galaxy Global Marketsが手がけるもので、初回取引として暗号資産特化のヘッジファンドArcaを相手に1,000万ドル規模の取引を約定しています。
今回は、Galaxy Digitalが整備した機関投資家向けOTC予測市場の仕組みと、予測市場が個人中心の市場からプロの資本を受け入れる「機関化」へと向かう動きについて解説します。
※本記事の内容は、マネックスクリプトバンクが週次で配信しているニュースレター「MCB FinTechカタログ通信」の抜粋です。毎週月曜17時に配信しており、無料でご購読いただくと、FinTech・Web3の注目トピックスを解説するニュースレターに加え、注目の特集記事、ビットコイン最新動向や相場予想などもお読みいただけます。
目次
予測市場の急拡大と、機関投資家が直面した壁
予測市場(prediction market)とは、将来の出来事の結果に対して「はい」「いいえ」の建玉を売買する市場です。結果が確定すると、的中した契約に一定額が支払われる仕組みで、その価格はそのまま出来事の発生確率と読み替えられます。
代表的な場として、米CFTC(商品先物取引委員会)の監督下でイベント契約を扱うKalshiと、Polygon上で動く分散型のPolymarketがあります。経済指標や選挙、地政学イベントなど、従来は取引所の対象ではなかった事象に値段が付く点が特徴です。
こうした規制下での扱いは、機関投資家が参加する上での前提になっています。また、資金の出し入れには両者ともUSDCなどのステーブルコインが使え、国ごとの規制の範囲で米国外の利用者にも開かれています。
取引高はこの1年で急拡大しました。Pew Research Centerの集計によれば、予測市場全体の月間取引高は2025年9月の50億ドル未満から2026年4月には約240億ドルへと膨らみ、同月にはPolymarketの国際版だけで約90億ドルの取引高がありました。
ただし、取引の中心はスポーツイベントの契約で(Kalshiでは取引高の約8割を占めます)、政治・経済イベントの流動性は相対的に低いのが実情です。
こうした拡大の一方で、機関投資家にとっては使いにくさが残っていました。リテール向けの画面は小口の取引を前提としており、大口の建玉を一度に置くと、流動性の乏しさから価格が動いてしまいます。建玉の上限や資金移動の制約もあり、ファンドの規模に見合う取引が難しいという課題がありました。
実際、初回取引の相手となったArcaの最高投資責任者Jeff Dorman氏は、既存のプラットフォームでは流動性が不足しており、ファンドの規模に合った取引ができなかったと説明しています。ここに、取引所の公開市場を介さず当事者間で条件を決めて約定するOTC(相対取引)の余地が生まれます。
Galaxy Digitalによる予測市場OTC取引の仕組み
今回の取引を担うのは、Galaxy Digitalのトレーディング部門であるGalaxy Global Marketsです。同社はナスダックに上場する暗号資産の金融企業で、機関投資家向けに現物・デリバティブの取引やレンディングなどを提供してきました。
新しい取引サービスの特徴は、Galaxy Digitalが自己勘定の取引相手(プリンシパル)として取引に入る点です。クライアントの注文を取引所に取り次ぐのではなく、同社自身が相手方となり、引き受けたリスクを自社の勘定で抱えます。
同社デジタル資産部門の共同統括であるJason Urban氏は、イベント連動の市場にも機関投資家向けの取引基盤が必要であり、クライアントはリスクを引き受ける相手方を得られると述べています。
対象となるのは、KalshiとPolymarketに上場する経済・政治・地政学イベントの契約です。当初はスポーツ以外の契約に絞られており、Galaxy Digitalは複数の取引所をまたいで取引を仲介します。
クライアントから見ると、複数の予測市場プラットフォームごとに口座を開き、それぞれの取引所で個別に建玉を積む手間が省けます。同社という単一の相手方を通じて、まとまった金額の取引を一度に、かつ取引内容を市場に晒さずに執行できる点が、相対取引の利点です。
さらにGalaxy Digitalは、予測市場の建玉を株式や商品(コモディティ)など他の資産でのヘッジと組み合わせる取引にも対応するとしています。単一の出来事を軸に、複数の資産をまたいだリスク管理を組み立てられる点が、リテールの画面にはない特徴です。
初回の取引では、Arcaを相手にKalshi上で1,000万ドル規模が約定しました。対象となったのは、米国で暗号資産の規制区分を定める市場構造法案「CLARITY法」が成立するかどうかという結果です。法案の行方という政治・規制イベントが、機関投資家の大口取引の対象になった事例といえます。
暗号資産関連の規制法案の成否は、暗号資産を扱う企業やファンドの事業環境を直接左右します。その結果に建玉を持つことは、規制動向そのものをヘッジの対象として扱う試みともいえます。
予測市場の「機関化」という潮流
今回の動きは単発ではなく、予測市場が急速に裾野を広げるなかで起きています。2025年末にはRobinhoodやCoinbaseが予測市場へ参入し、2026年にはPolymarketが手数料の導入を進めるなど、これまでは個人向けの普及と収益化が先行してきました。Galaxy Digitalの取引サービスは、ここに機関投資家向けの層を加える動きにあたります。
規制の動きも市場の姿を左右しています。米CFTCは2026年3月、予測市場の扱いを巡る規則制定に向けた意見募集を始め、デリバティブ規制の枠組みの中でどう監督するかを検討しています。
一方で、同じ3月にはアリゾナ州がKalshiを無許可の賭博運営などの容疑で刑事訴追しており、州レベルでは摩擦も生じています。法的な位置づけは、後押しと逆風が併存する流動的な状態が続いています。
Galaxy Digitalは、機関の資本が流入することで取引高と流動性が増し、価格がより専門的な分析を反映するようになると説明しています。価格が出来事の発生確率を映す予測市場では、参加者の層が厚くなるほど、その価格が持つ情報としての精度が問われることになります。
こうした価格を、投資家だけでなく政策担当者や企業が参考にする場面も想定されます。ただし、誰がどこで価格を作っているのかという点は、その数字を判断材料として読む際の前提に関わってきます。
考察:予測市場の「機関化」は何を変えるのか
予測市場はもともと、多くの参加者の予想を価格という一つの数字に集約する仕組みです。しかし現状では出来高の中心がスポーツに偏り、政治・経済イベントの流動性は低いものが多く見られます。
プロの資本がこうした契約に入ることで、政治・経済イベントの流動性と価格の情報量が高まる可能性があります。
価格の情報としての価値は、その価格を生む取引の厚みに支えられます。少数の参加者が乏しい流動性の中で値を付ける状態では、価格は偏りやすくなります。
機関投資家の参入は流動性を高める方向に働きます。一方で相対取引の比率が高まれば、公開市場で見える価格と、大口が実際に約定する価格との間に差が生じる場面も想定されます。
今回のOTC取引は、取引所の公開市場の外側で約定する点にも留意が必要です。Galaxy Digitalが相手方としてリスクを抱えるモデルは、デリバティブのディーラー市場に近い構造といえます。予測市場が「結果に賭ける場」から「イベントのリスクを扱う場」へと、用途を広げつつある動きとして捉えられます。
複数の資産をまたぐヘッジに対応する点も、この方向性を補強します。予測市場の建玉が株式や商品のリスク管理と接続されると、イベント連動の取引は独立した投機ではなく、ポートフォリオの一部として位置づけられます。これは、予測市場がオプション市場に近い役割を担い始める兆しと考えられます。
もっとも、出来高の中心は依然としてスポーツであり、規制の枠組みも法域ごとに定まっていません。機関化が定着し、予測市場がリスク管理の手段として根づくかどうかは、規制の明確化と非スポーツ契約の流動性の広がり次第になるものと考えられます。
解説コメントを毎週お届けする「MCB FinTechカタログ通信」
毎週月曜17時に配信。無料でご購読いただくと、FinTech・Web3の注目トピックスを解説するニュースレターに加え、注目の特集記事、ビットコイン最新動向や相場予想などもお読みいただけます。






