本業が順調に利益を生み、運転資金を差し引いても数千万円から億単位の現預金が普通預金に積み上がっていませんか。金利がほぼ付かないまま置いておくのはもったいないけれど、会社のお金を法人名義でどう運用できるのかは意外と情報がまとまっていない、と感じている経営者や財務担当の方は少なくありません。
そこで本記事では、法人が余剰資金で選べる運用手段を一覧で比較できるよう、それぞれの利回りの目安・リスク・流動性・向いている会社を整理しました。そのうえで、個人の運用との違い、運用益にかかる税務・会計、リスクと「余剰資金の線引き」、暗号資産という新しい選択肢、そして実際の始め方までを順に解説します。
まず選択肢の全体像を掴み、自社の目的(安全重視か、利回りを取りにいくか、近く使う予定があるか)に合う手段を2〜3個に絞り込めるよう構成しました。そこから具体的なサービスや金融機関の比較へ進むための土台になる記事です。
目次
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法人が選べる運用手段の一覧
まずは、法人が余剰資金の運用先として検討できる主な手段を一覧で整理します。利回りの目安・主なリスク・流動性(換金のしやすさ)・向いている会社を並べているので、自社の状況に近い行から読み進めてください。
| 運用手段 | 定期預金・現預金 | 国内債券(国債・社債) | 外国債券(米国債など) | 投資信託 | 国内株式 | 外貨・外貨建MMF | 不動産(収益不動産) | 法人向け生命保険(貯蓄性) | REIT | 金・コモディティ | ヘッジファンド・私募商品 | 暗号資産運用・ステーキング |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 利回りの目安(2026年時点・変動) | 年0.数%程度のごく低い水準(日本銀行統計) | 利付国債10年物で年2.9%前後(財務省)。社債は発行体により上乗せ | 米国債10年で年4%台後半など国内債より高め | 商品による(インデックス型の期待リターンは年数%程度が目安) | 東証プライムの予想平均配当利回りは約2%(東証)。ほかに値上がり益 | 米ドル建で年3%台程度など外貨金利に連動 | 賃料利回りは物件により数%程度 | 解約返戻率による(商品ごと) | 東証REIT指数の分配金利回りは約5%前後 | 利息・配当はなく値動き益のみ | 商品により様々(非公開が多い) | 変動が大きく要問い合わせ |
| 主なリスク | インフレによる実質目減り | 発行体の信用・途中売却時の価格変動 | 為替変動・発行体の信用 | 価格変動・信託報酬の負担 | 価格変動が大きい | 為替変動 | 空室・価格変動・売却しにくさ | 途中解約での元本割れ | 価格変動・金利の影響 | 価格変動 | 流動性の制約・情報の少なさ | 価格変動が非常に大きい・保管や会計税務の特殊性 |
| 流動性 | 高い | 満期保有前提ならやや低い | 中程度 | 高い(原則いつでも解約) | 高い | 比較的高い | 低い | 低い | 高い(上場) | 中〜高 | 低い | 仕組みによる |
| 向いている会社 | 元本を守りたい・近く使う予定の資金 | 安定重視で数年寝かせられる資金 | 為替リスクを取れる会社 | 分散して中長期で育てたい会社 | 値動きを許容できる会社 | 外貨を保有・活用したい会社 | 長期で腰を据えられる会社 | 保障と資金準備を兼ねたい会社 | 少額から不動産に分散したい会社 | インフレ・有事の分散をしたい会社 | 資金余力とリスク許容度がある会社 | 新しい選択肢として一部を試したい会社 |
利回りは市場環境によって日々動くため、上記はいずれも2026年時点の目安で、実際の値は時点によって変わります。数値の根拠となる代表的な公表資料として、国債は財務省が日次で金利を、定期預金の平均金利は日本銀行が、株式の平均配当利回りは東京証券取引所(日本取引所グループ)が、J-REITの分配金利回りは不動産証券化協会(ARES)などが公表しています。検討時は最新の値を確認してください。
出典・参考資料(4件)
- 出典:国債金利情報|財務省(https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/index.htm)
- 出典:預金種類別店頭表示金利の平均年利率等|日本銀行(https://www.boj.or.jp/statistics/dl/depo/tento/index.htm)
- 出典:株価平均・株式平均利回り|日本取引所グループ(https://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/misc/03.html)
- 出典:J-REIT分配金利回り|ARES J-REIT.jp(https://j-reit.jp/market/03.html)
主な運用手段の各論と注意したい商品
ここからは、一覧表に挙げた手段のうち法人が検討する機会の多いものを個別に掘り下げ、あわせて表には載せていない「特に注意したい商品」として仕組債にも触れます。利回りの源泉・リスクの正体・法人ならではの留意点を押さえると、自社に合うかどうかを判断しやすくなります。
現預金・定期預金
最も流動性が高く、元本割れの心配がほぼない運用先です。いつでも引き出せるため、近く使う予定のある資金の置き場所としては合理的といえます。
一方で、金利がごく低い水準にとどまるなか、物価が上がる局面では実質的な価値が目減りします。総務省統計局の消費者物価指数では、2025年平均の総合指数が前年比プラス3.2%となっており、近年は前年比2〜3%台での推移が続いています。現預金だけで数千万円を長く寝かせておくと、名目の残高は変わらなくても実質的な購買力は少しずつ下がっていく点は意識しておきたいところです。
出典・参考資料(1件)
- 出典:2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年平均|総務省統計局(https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/nen/index.html)
国内債券・外国債券
債券は、発行体にお金を貸して利息を受け取る仕組みです。国が発行する国債は信用度が高く、財務省の公表では利付国債の10年物の利回りが年2.9%前後(2026年8月時点)で推移しています。企業が発行する社債は、発行体の信用力に応じて国債より高い利回りが上乗せされます。
満期まで保有すれば額面が戻る前提の商品ですが、途中で売却する場合は金利動向によって価格が変動します。米国債などの外国債券は国内債より高い利回りが期待できる半面、為替の変動が損益を左右する点に注意が必要です。安定した利息収入を数年単位で得たい会社に向いています。
投資信託・REIT
投資信託は、多数の投資家から集めた資金を運用会社が株式や債券などに分散投資する商品です。1つの銘柄に集中せず分散が効くこと、少額から始められ流動性も高いことが利点で、中長期で資産を育てたい会社に向いています。運用を任せる分、信託報酬という手数料が継続してかかる点は確認しておきましょう。
REIT(不動産投資信託)は、投資家から集めた資金でオフィスや商業施設などに投資し、賃料収入を分配する上場商品です。東証REIT指数の分配金利回りは足元で約5%前後(2026年時点)と比較的高めで、現物不動産と違って少額から購入でき、市場でいつでも売買できます。ただし価格は市場で変動し、金利の動きにも影響を受けます。
国内株式・外貨建て商品
株式は、配当と値上がり益の両方を狙える一方、価格変動が大きい運用先です。東証プライム市場の予想平均配当利回りは約2%(2026年時点)で、高配当銘柄を選べばこれを上回る配当収入も期待できますが、株価そのものが下落すれば含み損を抱えます。値動きを許容できる会社が、余剰資金の一部で取り組むのが基本です。
外貨預金や外貨建MMF(外貨で運用する公社債投資信託)は、円より高い外貨金利を取りにいく手段です。外貨建MMFは比較的換金しやすく、外貨を保有・活用したい会社が検討します。いずれも為替が円高に振れると、外貨ベースで増えていても円換算では目減りする可能性があります。
不動産・金・コモディティ
収益不動産は、賃料というインカム収入と保有資産としての安定感が魅力です。減価償却を通じて損金を計上できる点も法人ならではの利点ですが、空室リスクや売却のしにくさ(流動性の低さ)を伴い、まとまった資金と長期の目線が必要になります。
金やコモディティは利息や配当を生まず、値動きによる差益のみが期待できる資産です。株式や債券と値動きの傾向が異なることが多く、インフレや有事に備えた分散の一角として一部を組み入れる使い方が中心になります。
法人向け生命保険(貯蓄性)
解約時に返戻金が受け取れる貯蓄性の生命保険は、保障と資金準備を兼ねる手段として法人に活用されてきました。ただし、支払保険料を全額損金にできることを前面に打ち出した、いわゆる節税保険については、2019年(令和元年)の国税庁の通達改正で扱いが見直されています。
改正後は、保険期間が3年以上で最高解約返戻率が50%を超える定期保険などについて、保険料の前払部分を資産として計上し、期間の経過に応じて取り崩す扱いになりました。返戻率が高いほど資産計上の割合も大きくなり、かつては全額損金にできた商品の多くが対象外になっています。保険を検討する場合は、返戻率と損金算入の扱いをセットで確認することが欠かせません。
出典・参考資料(1件)
- 出典:法人税基本通達 9-3-5の2(定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い)|国税庁(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm)
仕組債には特に注意する
高い利回りをうたう仕組債(EB債など)は、名目の利率だけを見て手を出すと大きな損失につながりかねない商品です。金融庁は「資産運用業高度化プログレスレポート2022」で、EB債のリスクとリターンを分析し、次のように指摘しています。
実際に、今回調査したサンプルの中には、僅か3か月で元本の8割を毀損した例もあり、リターンの分布を見ると、(中略)頻度は少ないものの損失率の裾野が広いことがわかる。(中略)EB債のリターンはリスクに見合うほど高いとは言えない。(中略)株式に代えてEB債を購入する意義はほとんどないと考えられる。
出典:資産運用業高度化プログレスレポート2022|金融庁
実際、自治体が仕組債で多額の評価損を出し、販売した金融機関を提訴した事例も報道されています。表面的な利率の高さの裏にどのようなリスクが潜んでいるのかを理解できない商品には、余剰資金を投じない判断も重要です。
出典・参考資料(1件)
- 出典:資産運用業高度化プログレスレポート2022|金融庁(https://www.fsa.go.jp/news/r3/sonota/20220527/20220527.html)
法人が余剰資金を運用する意味
ここまで手段を見てきましたが、そもそもなぜ法人が余剰資金を運用するのか、という点も簡単に整理しておきます。
大きな理由は2つあります。1つは、前述のとおり現預金のまま置いておくとインフレで実質的な価値が目減りしうること。もう1つは、積み上がった内部留保を眠らせず、本業とは別の収益の柱に育てて経営の安定につなげられることです。
ただし運用はあくまで本業を支えるための余剰資金の活用であり、リターンを追いかけて資金繰りを圧迫しては本末転倒です。次の章以降の税務やリスクの考え方も踏まえたうえで取り組むことが前提になります。
個人の運用と法人の運用は何が違うのか
個人でNISAなどの経験があっても、法人名義の運用は勝手が違います。ここでは、個人と比べたときの法人ならではの違いを整理します。

まず、法人はNISAやiDeCoといった個人向けの非課税制度を利用できません。証券口座も一般口座での取引が基本になります。一方で、法人ならではの有利な面もあります。代表的なのが、損失を将来の利益と相殺できる期間の長さです。
青色申告をしている法人は、ある事業年度に生じた欠損金(赤字)を、最長10年にわたって繰り越し、将来の黒字と相殺できます。個人の場合、純損失の繰越はおおむね3年です。運用で一時的に損失が出ても、法人のほうが長い期間をかけて他の利益と通算しやすい構造になっています。
内国法人の各事業年度開始の日前十年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額(中略)がある場合には、当該欠損金額に相当する金額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
出典:法人税法 第57条第1項|e-Gov法令検索
税率の考え方も異なります。個人の所得税は所得が大きいほど税率が上がる累進課税で、課税所得4,000万円超の部分には最高45%の税率がかかります(このほか復興特別所得税が加算されます)。一方、法人税の基本的な税率は、資本金1億円以下の中小法人などの年800万円以下の部分が15%、それ以外の普通法人が23.2%です。
実際の税負担は法人住民税や事業税なども含めた実効税率で見ることになり、計算の前提によって変わりますが、地方税を含めるとおおむね20%台半ばが目安です。利益の規模が大きい場合、個人よりも法人で運用したほうが税負担を抑えられるケースがあります。
出典・参考資料(3件)
- 出典:No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除|国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5762.htm)
- 出典:No.2260 所得税の税率|国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)
- 出典:No.5759 法人税の税率|国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm)
資産運用のために資産管理会社(いわゆるマイクロ法人)を新たに設立するかどうかは、余剰資金の運用とは別の判断になります。設立コストや維持の手間を伴うため、まずは既存の法人でどう運用するかを整理してから検討するのが順序といえます。
また、余剰資金の運用とは目的が異なりますが、退職金の準備や福利厚生として会社のお金を活用する制度に、企業型確定拠出年金(企業型DC)があります。掛金を損金に算入でき運用益も非課税になる仕組みで、個人向けのNISA・iDeCoを使えない法人でも活用できます。制度の仕組みや中小企業での選び方は、以下の記事で解説しています。
法人の運用益にかかる税務・会計の基本
運用を始める前に、利益が出たとき・損失が出たときに税務・会計上どう扱われるのかを押さえておきましょう。「税理士に任せればよい」で済ませず、基本の構造を知っておくと、手段選びの判断が変わってきます。
運用益は法人の所得に合算される
個人の株式や配当の利益は、多くが分離課税で完結します。これに対して法人の場合、運用で得た利益は事業の利益と合算され、法人税の課税所得の一部として扱われます。上場株式の配当や預金の利子などを受け取る際には、法人は15.315%が源泉徴収されます(個人は住民税5%を含む20.315%で、法人とは税率が異なります)。源泉された税額は、最終的に法人税額から差し引いて精算します。
保有目的で期末の評価が変わる
法人が有価証券を持つ場合、その保有目的によって期末の評価方法が変わります。法人税法は、短期の値動きで利益を得る目的の「売買目的有価証券」は時価法で評価し、その評価損益を益金または損金に算入すると定めています。一方、満期保有目的の債券などの「売買目的外有価証券」は原価法で評価します。
売買目的有価証券(短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的で取得した有価証券として政令で定めるものをいう。)(中略)時価法により評価した金額(中略)売買目的外有価証券(売買目的有価証券以外の有価証券をいう。)(中略)原価法(中略)により評価した金額
出典:法人税法 第61条の3第1項|e-Gov法令検索
短期売買を目的に持つ有価証券は、決算時にまだ売っていなくても含み損益が課税所得に反映されます。満期まで持つ前提の債券であれば、期中の値動きがそのまま課税につながることはありません。同じ債券でも保有目的で扱いが変わる点は、法人ならではの注意点です。
受取配当の益金不算入は範囲が限られる
法人が受け取る配当の一部は、二重課税を避けるために「受取配当等の益金不算入」として課税対象から除かれます。ただし不算入になる割合は株式の保有区分ごとに定められており、上場株式を少数(保有割合5%以下)持つ一般的なケースでは、益金不算入の割合は20%にとどまります。配当がまるごと非課税になるわけではありません。
また、投資信託の分配金は原則としてこの制度の対象外です。ETFなど一部の特定株式投資信託を除き、公社債投信やバランス型投信の分配金には益金不算入は適用されない点も、あわせて押さえておきましょう。
出典・参考資料(1件)
- 出典:法人税法(第23条・第57条・第61条の3)|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034)
運用のリスクと「余剰資金の線引き」
運用にはリターンだけでなくリスクが伴います。ここでは、元本割れの可能性を前提にしたうえで、本業を守るための考え方を整理します。
預金以外の運用手段の多くは、程度の差はあれ元本割れの可能性があります。だからこそ、あらかじめ「どの資金を、どこまで運用に回してよいか」というルールを社内で決めておくことが欠かせません。運用方針を規程として明文化しておくと、担当者が代わっても方針がぶれず、判断の拠り所になります。
本業の資金繰りを崩さない「余剰資金」の線引き
運用に回してよいのは、当面の運転資金や近い将来に使う予定のある資金を差し引いた、本当の意味での余剰資金です。一般的には、数か月分の運転資金や、設備投資・納税など使い道が決まっている資金は手元に確保したうえで、その先の余りを運用に充てる、という順序で考えます。

たとえば手元に1億円の現預金があっても、半年分の運転資金と近く予定する設備投資で6,000万円を確保する必要があるなら、運用に回せるのは残りの4,000万円という具合です。その4,000万円をさらに、数年使わない部分と当面動かさない部分に分けて手段を割り当てると、資金繰りへの影響を抑えられます。
加えて、その資金を何年使わずにいられるか(想定保有期間)も線引きの基準になります。数か月後に使う可能性がある資金を値動きの大きい商品に回すと、いざ使うときに含み損を抱えて取り崩す事態になりかねません。使う予定の時期と運用手段の流動性を合わせておくことが、資金繰りを崩さないための要点です。
よくある失敗パターン
法人の資産運用でつまずきやすいのは、次のようなケースです。
- 出口戦略を決めずに始める:どうなったら利益を確定し、どうなったら損切りするかを決めないまま保有し、判断が遅れる
- 節税目的だけで複雑な商品に手を出す:損金算入や利率の高さだけに注目し、商品自体のリスクを理解しないまま契約する
- モニタリング体制が不足している:購入後の値動きや損益を定期的に確認する担当・仕組みがなく、対応が後手に回る
いずれも、運用の方針と管理の体制をあらかじめ整えておけば避けられるものです。手段を選ぶ前に、社内の運用ルールを固めておきましょう。
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暗号資産という新しい選択肢
従来の運用手段に加えて、近年は暗号資産(仮想通貨)を法人の運用の一つとして検討する動きも出てきています。ここでは、その特殊性を踏まえたうえで、法人向けのサービスを紹介します。
暗号資産は価格変動が非常に大きく、保管(カストディ)や会計・税務の扱いも従来の資産とは異なります。特に注意したいのが期末の時価評価です。国税庁は、法人が事業年度末に保有する暗号資産のうち活発な市場が存在するものについて、次のように扱うとしています。
法人が事業年度終了の時において有する暗号資産(活発な市場が存在する暗号資産(中略)に限ります。)については、時価法により評価した金額(中略)をもってその時における評価額とする必要があります。(中略)その評価額と帳簿価額との差額(中略)は、その事業年度の益金の額又は損金の額に算入する必要があります。
出典:法人が保有する暗号資産に係る期末時価評価の取扱いについて(情報)|国税庁
市場のある暗号資産は、持っているだけで、売却して現金化していなくても期末の含み益に課税されうるということです。自己発行で継続保有するものや、一定の要件を満たす譲渡制限付きの暗号資産などは例外として扱われますが、通常の売買可能な保有には及びません。こうした会計・税務の特殊性を理解し、専門的な支援を受けながら取り組むことが、法人の暗号資産運用では特に重要になります。
出典・参考資料(1件)
- 出典:法人が保有する暗号資産に係る期末時価評価の取扱いについて(情報)|国税庁(https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/230120/pdf/01.pdf)
こうした特殊性を踏まえ、法人の暗号資産運用を支援するサービスを2つ紹介します。いずれも上場企業や暗号資産を扱う金融機関など、本格的に運用する企業を主な対象としたサービスです。今すぐ自社で導入する段階になくても、暗号資産を選択肢として検討する際にどんな支援があるのかを知っておくと役立ちます。役割が異なる2社なので、まずは概要を確認してみましょう。
| サービス名 | CRYPTO Maxi | ステーキングサービス |
|---|---|---|
| 提供会社 | 株式会社ICHIZEN HOLDINGS | 株式会社Next Finance Tech |
| 対象 | 上場企業・暗号資産保有企業 | 暗号資産交換所・金融機関・事業会社 |
| 提供内容 | 暗号資産トレジャリー(DAT)事業の戦略設計〜運用〜IR〜監査法人対応を一気通貫で支援するコンサルティング | ETH・SOL・BTCの法人向けステーキングインフラ(ノンカストディアル方式) |
| 料金体系 | 月額制のパッケージ型(要問い合わせ) | 要問い合わせ |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る |
CRYPTO Maxi(株式会社ICHIZEN HOLDINGS)

CRYPTO Maxiは、上場企業やその傘下で暗号資産を保有・運用する企業を主な対象に、暗号資産トレジャリー(DAT)事業を戦略設計から運用実行、IR発信、監査法人対応まで一気通貫で支援するコンサルティングサービスです。
前述のような期末時価評価をはじめ、法人が暗号資産を保有する際に生じる会計処理・監査対応・内部統制の構築といった実務上の負担に、自社開発の内部統制ツールも組み合わせて対応する点が特徴です。
支援メニューは戦略設計・運用支援・IR/実務支援の3カテゴリーで構成され、料金は必要なソリューションを組み合わせるパッケージ型です。運用戦略の立案から運用開始後の会計・内部統制まで、暗号資産の保有・運用を一括して任せたい財務・経営企画部門に向いています。
暗号資産の会計・内部統制が実務上どれほど煩雑になりうるのか、同社の水野倫太郎氏はカタログ掲載インタビューで具体例を挙げて説明しています。

当社では自社開発の内部統制ツール「CRYPTO Governance」を使うことで、監査法人対応の証憑集めから経理部様が必要とするアウトプットの抽出まで、かなり効率化できる仕組みを整えています。たとえばミームコインに投資されるクライアント様の場合、Solscan(Solanaブロックチェーン上の全取引履歴、ウォレット、トークン、NFT情報などを検索・分析できるツール)を見ても価格が取得できないケースもあって、価格集計だけで大変です。
ステーキングサービス(株式会社Next Finance Tech)

Next Finance Techが提供するステーキングサービスは、暗号資産交換所や金融機関、事業会社といった法人向けのステーキングインフラです。ステーキングとは、Proof of Stake方式のブロックチェーンにネットワークの検証者として暗号資産を預け入れ、その対価として報酬を得る仕組みを指します。
対象はイーサリアム(ETH)・ソラナ(SOL)・ビットコイン(BTC)で、顧客が資産の管理主体を保ったまま参加できるノンカストディアル方式を採用しています。
同社は2025年4月にコインチェックグループ(マネックスグループ傘下)の完全子会社となり、グループとしてステーキング事業の拡大を進めています。ステーキングの報酬率はブロックチェーンの状況によって変動するため、想定利回りは個別の問い合わせで確認する必要があります。また、ステーキングのために預け入れた暗号資産も、活発な市場があるものは期末時価評価の対象になる点は前述のとおりです。
目的別に候補を絞り込む
ここまで見てきた手段を、自社の目的に照らして2〜3個に絞り込みましょう。何を優先するかで、選ぶべき手段はおおよそ次のように整理できます。
- 安全重視・近く使う予定がある:定期預金・現預金、国内債券(満期保有)など、元本の変動が小さく流動性の高い手段
- 利回りを取りにいく・長期で育てたい:投資信託、国内外の株式、REITなど、値動きを許容しつつ中長期でリターンを狙う手段
- 余剰資金を眠らせず少し働かせたい:外貨建MMF、投資信託、あるいは新しい選択肢としての暗号資産運用など、一部を試しながら分散する手段
1つに集中せず、目的別に組み合わせる
実際には、どれか1つに絞り切る必要はありません。近く使う資金は預金や短期債券で確保しつつ、長く寝かせられる資金は投資信託や株式に回す、といったように、目的と時間軸の異なる資金を複数の手段に分けて配分するのが基本です。1つの手段に集中させないことで、ある資産が値下がりしても全体への影響を抑えられます。
法人が資産運用を始める手順
候補を絞れたら、実際に運用を始める流れを確認しましょう。おおまかには次の4ステップで進みます。
- 余剰資金を把握する:運転資金や使い道の決まった資金を差し引き、運用に回せる金額を確定する
- 目的と運用期間を決める:安全重視か利回り重視か、いつまで使わずにいられるかを整理する
- 口座を開設する:金融機関で法人口座・証券口座を開設する
- 商品を選定する:前章で絞り込んだ目的に沿って、具体的な商品・サービスを選ぶ
どこで相談・口座開設するか(銀行・証券・IFA)
口座開設や相談先は、扱う商品や求めるサポートによって選びます。銀行は預金や自社で扱う投資商品、証券会社は株式・債券・投資信託など幅広い商品、独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)は特定の金融機関に属さない立場での助言を特徴とします。中立的な視点で相談したい場合はIFA、幅広い商品から選びたい場合は証券会社、というように使い分けるとよいでしょう。
相談先をもう一歩踏み込んで比較したい場合は、金融コンサルティング会社を専門領域別に整理した以下の記事も参考になります。資産運用のアドバイザリーを含め、依頼できる相手の違いや費用相場、選び方を解説しています。
法人口座の開設には、一般に登記事項証明書(履歴事項全部証明書)や法人の印鑑証明書、取引担当者の本人確認書類、実質的支配者の確認書類、事業内容の分かる資料などが必要です。近年はオンライン申込とウェブ面談を組み合わせた手続きを用意する金融機関も増えています。必要書類や審査の流れは金融機関によって細部が異なるため、各社の公式案内で事前に確認しておくと安心です。
出典・参考資料(1件)
- 参考資料:法人口座開設のお手続き|みずほ銀行(https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/account/procedure/index.html)
まとめ
法人の資産運用は、まず選べる手段の全体像を掴み、利回り・リスク・流動性を踏まえて自社の目的に合う候補を絞り込むことから始まります。運用益は法人の所得に合算され、有価証券の保有目的で期末評価が変わるなど、個人とは異なる税務・会計の扱いがある点も押さえておきましょう。
本業の資金繰りを崩さない「余剰資金の線引き」を守りながら、目的の異なる資金を複数の手段に分けて配分する。暗号資産のような新しい選択肢も含め、自社に合う運用先を見極めるために、気になったサービスの資料を取り寄せて具体的に比較していきましょう。
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よくある質問(FAQ)
Q. 法人の資産運用とは何ですか?
A. 法人の資産運用とは、会社が本業の運転資金を確保したうえで、余った現預金(余剰資金)を預金・債券・投資信託・株式・不動産・暗号資産などに振り向け、インフレによる目減りを防ぎつつ第二の収益の柱をつくる取り組みです。個人のNISAやiDeCoのような非課税制度は使えず、運用益は法人税の課税所得に合算されるなど、個人の運用とは税務・会計の扱いが異なる点が特徴です。
Q. 法人の資産運用は何から始めればよいですか?
A. 法人の資産運用は、まず「運用に回してよい余剰資金」を把握することから始めます。運転資金や、納税・設備投資など使い道の決まった資金を差し引き、当面使う予定のない資金だけを運用に充てるのが原則です。
そのうえで、安全重視か利回り重視か、いつまで使わずにいられるかという目的と運用期間を決め、金融機関で法人口座(証券口座)を開設し、目的に合う商品を選ぶ、という順序で進めます。金額の大きさより先に、資金繰りを崩さない線引きを固めることが出発点になります。
Q. 資産運用は個人と法人のどちらで行うべきですか?
A. 個人と法人のどちらが有利かは利益の規模や目的によって変わり、一概には決められません。法人は個人向けのNISA・iDeCoを利用できず一般口座での取引になりますが、青色申告をしていれば損失(欠損金)を最長10年にわたって繰り越せる(個人の純損失の繰越は概ね3年)という利点があります。
また、個人の所得税は課税所得4,000万円超で最高45%の累進課税になる一方、法人税の基本税率は中小法人の年800万円以下の部分が15%・それ以外が23.2%で、地方税を含めた実効税率でもおおむね20%台半ばが目安です。利益の規模が大きいほど、法人で運用したほうが税負担を抑えられるケースがあります。
出典・参考資料(3件)
- 出典:No.2260 所得税の税率|国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)
- 出典:No.5759 法人税の税率|国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm)
- 出典:No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除|国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5762.htm)
Q. 法人はいくらから資産運用を始められますか?
A. 法人の資産運用に一律の最低金額はなく、投資信託やREITのように数万円程度から始められる手段もあれば、収益不動産のようにまとまった資金が必要な手段もあります。金額の下限そのものより重要なのは、運転資金や近く使う予定の資金を除いた「本当の余剰資金」の範囲に収めることです。
まず運用に回せる金額を確定し、その中でどの手段にどれだけ配分するかを決める、という順序で考えると資金繰りを崩しにくくなります。
Q. 法人の運用益にはどのような税金がかかりますか?
A. 法人の運用益は、個人のような分離課税ではなく、本業の利益と合算されて法人税の課税所得の一部として扱われます。上場株式の配当や預金の利子を受け取る際には15.315%が源泉徴収され(個人の20.315%とは税率が異なります)、最終的に法人税額から差し引いて精算します。
さらに、短期売買を目的に持つ有価証券は決算時にまだ売っていなくても含み損益が課税所得に反映される点、受取配当の益金不算入が上場株式の少数保有(保有割合5%以下)では原則20%にとどまる点など、個人とは異なる注意点があります。
出典・参考資料(1件)
- 出典:法人税法(第23条・第61条の3)|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034)
Q. 法人でも暗号資産を保有・運用できますか?
A. 法人でも暗号資産の保有・運用は可能ですが、活発な市場が存在する暗号資産は、売却して現金化していなくても事業年度末の時価で評価され、含み益が益金として課税対象になる点に特に注意が必要です。
自己が発行して継続保有するものなど一定の要件を満たすものは例外として扱われますが、通常の売買可能な保有には及びません。価格変動が非常に大きく、保管(カストディ)や会計処理も従来の資産と異なるため、専門的な支援を受けながら取り組むのが安全です。
出典・参考資料(1件)
- 出典:法人が保有する暗号資産に係る期末時価評価の取扱いについて(情報)|国税庁(https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/230120/pdf/01.pdf)
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。














