企業が暴力団などから不当な影響を受けることなく、健全に事業を営むためには、反社会的勢力を排除するための取引審査(反社チェック)が必要不可欠です。
反社会的勢力は、素性を隠して企業取引に関与しようとするケースが多いため、表面的に反社チェックを行うだけでは不十分です。特に近年では「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」が横行していることを踏まえて、企業は徹底的な反社チェックに取り組むことが求められます。
本記事では、企業が反社会的勢力排除に取り組むべき理由や、匿名・流動型犯罪グループの時代に高まる反社リスク、実効的な反社チェックを行うためのポイントなどを解説します。

ゆら総合法律事務所 代表弁護士(埼玉弁護士会)
阿部 由羅
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目次
1. 企業が反社会的勢力の排除に取り組むべき理由
企業が暴力団などの反社会的勢力との繋がりを持つと、暴力的な方法で不当な利益供与を要求されるなど、企業価値を損なう事態を招く可能性が高いです。
また、コンプライアンスが厳密に求められる近年においては、反社会的勢力と繋がっていることが判明すれば、それだけで企業としての信頼は失墜してしまいます。
金融機関から受けている融資の一括返済を求められたり、取引先に契約を打ち切られたりするなど、企業活動に深刻な影響が生じることは避けられません。上場を検討している場合は、その道がほぼ閉ざされてしまいます。
これらの理由から、企業が健全に事業を営むためには、取引先に対する反社チェックを徹底的に行うなど、反社会的勢力の排除に取り組むことが必要不可欠です。
反社会的勢力の排除は、企業に対する法令上の要請でもあります。
会社法や各都道府県の暴力団排除条例(暴排条例)では、暴力団などに対する不当な利益供与を禁止しています。また金融などの業種においては、業法によって反社会的勢力との繋がりを断ち切ることが厳密に求められています。
2. 匿名・流動型犯罪グループの時代に高まる取引先の反社リスク
近年では、暴力団や暴力団員の隠れ蓑として「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」が利用されるケースがよく見られます。企業が反社チェックを行う際には、取引の直接の相手方だけでなく、その背後にいる実質的な支配者まで遡ることが大切です。
2-1. 匿名・流動型犯罪グループとは
「匿名・流動型犯罪グループ」とは、首謀者を中心とする幹部が素性を隠し、SNSや求人サイトなどで末端の実行犯を募集するなど、メンバーを入れ替えながらさまざまな犯罪を行う集団です。「トクリュウ」と通称されることもあります。
従来型の暴力団のように固定化された組織ではなく、犯罪ごとにメンバーや役割が入れ替わるのが、匿名・流動型犯罪グループの大きな特徴です。
たとえば、最近しばしば報道されている強盗事案の多くは、いわゆる「闇バイト」に応募した人が実行役を担う匿名・流動型犯罪グループによる犯行であることが判明しています。
2-2. 反社会的勢力は、素性を隠して背後から企業取引に関与しようとする
近年では、多くの企業が反社会的勢力排除に取り組んでいます。そのため、暴力団や暴力団員などの反社会的勢力が一般企業との取引に関与しようとする際には、紹介者や別の会社を介在させるなどして、自らの素性を隠す傾向にあります。
反社会的勢力の隠れ蓑の代表例は、一般企業を装いつつ反社会的勢力が実質的な経営を支配する「フロント企業」です。さらに近年では、匿名・流動型犯罪グループも、反社会的勢力が企業取引に関与しようとする際の隠れ蓑として利用され得ると考えられます。
匿名・流動型犯罪グループは、首謀者を中心とする幹部が素性を隠しており、外部者から見ると誰が首謀しているのか分かりにくいのが大きな特徴です。末端の実行犯は暴力団などに所属していないのが通常で、その人だけを調べても背後の反社会的勢力の存在は分かりません。
2-3. 相手方や代表者を調べるだけでは不十分|徹底的な反社チェックが必要
フロント企業や匿名・流動型犯罪グループなどが隠れ蓑として利用されることがある以上、企業が反社チェックを行う際には、取引の直接の相手方である会社やその代表者を調べるだけでは不十分です。
インターネット検索や新聞記事のデータベースなどを利用して、相手方の会社名や代表者名を検索しても、背後にいる反社会的勢力の存在は判明しません。相手方の実質的な支配者まで遡って徹底的に反社チェックを行い、少しでも疑わしい要素があれば取引中止を検討するといった厳密な取り組みが求められます。
3. 反社チェックを実効的に行うための実務対応
企業が反社会的勢力との関係を遮断するためには、契約書に暴排条項を定めるだけでは不十分です。契約締結前に実質的支配者まで遡って相手方の素性をチェックすることや、取引期間中も継続的にモニタリングを行うことが求められます。
相手方が反社会的勢力に該当する疑いが少しでも生じたときは、弁護士に相談するなどして慎重に検討や追加調査を行い、疑いが晴れないときは取引停止の判断をしましょう。
3-1. 契約締結前の審査|実質的支配者まで遡ってチェック
取引に関する契約を締結する際には、次の資料などを確認して、相手方やその役員が反社会的勢力に該当しないかどうかを調べましょう。
- 商業登記(履歴事項全部証明書)
- インターネット検索
- 相手方のウェブサイト
- 新聞記事のデータベース
- 反社会的勢力に関するデータベース
など
もっとも、フロント企業や匿名・流動型犯罪グループが隠れ蓑とされている可能性を踏まえると、これだけで十分とは言えません。特にリスクが高いと考えられる取引については、実質的な支配者が誰であるかをできる限り遡って調べることが求められます。
たとえば次のような事情があるときは、相手方に対して実質的支配者に関する情報の開示を求めるなど、徹底的な反社チェックを行いましょう。
- 株主構成が不透明である
- 短期間のうちに、代表者や役員が頻繁に変更されている
- 事業内容や取引規模に照らして、資本金などの会社情報に不自然な点がある
- 紹介者などが間に入っており、相手方の実態が把握しにくい
- 求められている取引の条件が、通常とは大きく異なる
など
3-2. 取引期間中の継続的なモニタリング
取引開始の時点では相手方が反社会的勢力に該当していなくても、取引期間中に新たに反社会的勢力との繋がりが生じるケースがあります。このような場合には、直ちに取引を停止しなければなりません。企業には、取引中の相手方に対しても継続的なモニタリングを行うことが求められます。
取引期間中は、特に相手方について次のような事情が生じたときは注意を要します。新たに反社会的勢力に該当するようになることのきっかけ、あるいはその表れかもしれないからです。
- 代表者、役員、株主の変更
- 所在地の変更
- 事業内容の大幅な変更
- 報酬などの支払先の変更
- 取引条件や発注内容の大幅な変更
- 不祥事に関する報道、行政処分
など
代表者・役員・株主・所在地などの変更については、契約において直ちに通知することを相手方に義務付けましょう。また、相手方に直接対応する営業担当者などが違和感を覚えたときは、すぐに法務部門やコンプライアンス部門などへ共有できる仕組みを整えることも重要です。
3-3. 反社会的勢力に該当する疑いが生じた場合の対応|弁護士への相談・取引停止の判断
取引先が反社会的勢力に該当することが疑われるときは、その情報を迅速に社内で共有して対応を協議しましょう。所管部門と経営陣・法務部門・コンプライアンス部門などが緊密に連携し、顧問弁護士にも相談しながら追加調査やリスク分析を行うことが求められます。
反社会的勢力に該当する疑いが晴れないときは、契約締結前であれば締結を断念し、取引期間中であれば暴排条項に基づいて契約を解除すべきです。取引停止にはコストがかかるとしても、反社会的勢力との関係を断ち切って企業としての信頼を維持することを優先しましょう。
4. まとめ
反社会的勢力の排除に取り組むことは、企業が社会的な信用を維持し、健全に事業活動を行うために必要不可欠です。
フロント企業や匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)などの存在を念頭に置きつつ、表面的な調査にとどまらない反社チェックを行うことが求められます。















