取引先に何度も支払いを催促しても代金が振り込まれないとき、裁判所の「支払督促」を使えば、最終的に相手の財産を差し押さえて回収できると聞いたことがあるかもしれません。ただ、支払督促を出しただけで相手が無視したり異議を出したりしたら結局どうなるのか、そこから差し押さえ(強制執行)まで自分でたどり着けるのかは、制度の名前を知っていても分かりにくいものです。
本記事では、支払督促の申立てから強制執行までの流れを、相手が異議を出した場合・無視した場合の分岐まで含めて一本の手順として整理します。あわせて、請求額ごとの手数料の実額、回収までにかかる期間の目安、支払督促が使えない・失敗してしまう落とし穴、差し押さえで実際に何を回収できるかを、根拠となる法律の条文とともに解説します。
記事の後半では、自力で手続きを進める場合と、弁護士や督促・回収を代行するサービスに任せる場合を、回収額に応じた費用対効果の観点から比較します。少額の売掛金に手間と費用をかける価値があるかを判断し、次の一手を決めるための材料としてご活用ください。
目次
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支払督促から強制執行までの流れ(異議あり・なしの分岐)
ここからは、支払督促を申し立ててから相手の財産を差し押さえるまでの全体像を、段階を追って確認します。途中で相手が異議を出すか無視するかによって進み方が変わるため、まず自分が今どの段階にいるのかを掴むことが大切です。全体の流れを図にすると次のとおりです。

そもそも支払督促とは(強制執行できる仕組み)
支払督促は、金銭の支払いなどを求める債権者の申立てを受けて、簡易裁判所の裁判所書記官が相手方(債務者)に支払いを命じる制度です。訴訟と違って相手の言い分を聞く審尋を行わず、申立書などの書面審査だけで発せられます。民事訴訟法は、その要件を次のように定めています。
金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求については、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促を発することができる。ただし、日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限る。
出典:民事訴訟法 第382条|e-Gov法令検索
審尋を行わず書面審査で発するという点は、民事訴訟法第386条第1項が「支払督促は、債務者を審尋しないで発する」と定めています。相手が支払督促を受け取っても異議を出さなければ、後述の仮執行宣言を経て、その支払督促は強制執行の根拠となる「債務名義」になります。売掛金や貸金など金銭の支払いを求めるケースで、訴訟より簡易に強制執行までつなげられる点が、支払督促を使う理由です。
申立てから強制執行までの手順
支払督促は、まず債権者が申立書を提出するところから始まります。申立先は、民事訴訟法第383条により、相手方(債務者)の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官です。書面審査を通れば、書記官が支払督促を発し、相手方へ送達します。ここから先は、相手方が支払督促を受け取った日を起点に期間が進みます。
相手方が送達を受けてから2週間以内に督促異議を申し立てなければ、債権者は仮執行宣言を申し立てられます。裁判所書記官が仮執行宣言を発して相手方へ送達すると、その仮執行宣言付支払督促が債務名義となり、強制執行の申立てが可能になります。
民事訴訟のIT化により、条文上は「電子支払督促」と表記されます。これはオンライン申立ての呼び方の違いで、書面で申し立てる場合も手続きの流れは同じです。次の民事訴訟法第391条第1項は、督促異議の2週間の起点を定めた規定です。
債務者が電子支払督促の送達を受けた日から二週間以内に督促異議の申立てをしないときは、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、電子支払督促に手続の費用額を併せて記録して仮執行の宣言をしなければならない。
出典:民事訴訟法 第391条|e-Gov法令検索
ここまでの手続きの全体を、申立てから順に並べると次のとおりです。
- 債権者が、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所へ支払督促を申し立てる
- 裁判所書記官が書面審査を行い、支払督促を発して相手方へ送達する
- 相手方が送達を受けてから2週間、督促異議の有無を待つ
- 異議がなければ、債権者が仮執行宣言を申し立て、書記官が仮執行宣言を発して相手方へ送達する
- 相手方が支払わなければ、仮執行宣言付支払督促を債務名義として強制執行(差し押さえ)を申し立てる
申立書の書式は、裁判所の窓口や裁判所ウェブサイトで入手できます。オンラインで進めたい場合は、申立てから仮執行宣言の申立てまでインターネット上で行える「督促手続オンラインシステム」を利用でき、書面で申し立てるより手数料も少し安く設定されています。
申立書には、主に次の内容を記載します。
- 当事者の表示:債権者・債務者の氏名/名称と住所を記した当事者目録
- 請求の趣旨:支払を求める金額や遅延損害金など、相手方に命じてほしい内容
- 請求の原因:いつ・どのような契約や取引で債権が生じたのかという事実関係
支払督促には訴え(訴状)に関する規定が準用されます(民事訴訟法第384条)。請求の趣旨と請求の原因は、契約書・注文書・請求書・納品書など債権の存在を裏づける資料をもとに、具体的に記載する必要があります。
出典・参考資料(1件)
相手が異議を出したら・無視したらどう分岐するか
手続きが枝分かれするのは、相手方が督促異議を申し立てたかどうかによってです。相手方が支払督促を無視して2週間が過ぎれば、債権者は仮執行宣言へ進めます。仮執行宣言付支払督促を受け取ってからさらに2週間、相手方はもう一度督促異議を申し立てられますが、この期間も過ぎれば異議を出せなくなり、支払督促が確定します。督促異議の窓が仮執行宣言の前後で2回ある点は、民事訴訟法第393条が定めています。
一方、相手方が期間内に督促異議を申し立てると、その請求については通常の訴訟へ移行します。民事訴訟法第395条により、支払督促を発した簡易裁判所またはその所在地を管轄する地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます。
支払督促は相手方の住所地の簡易裁判所へ申し立てるため(第383条)、移行後の訴訟も結果として相手方の住所地の裁判所で争うことになります。督促異議が出た時点で書面審査による簡易な手続きは終わり、証拠に基づく通常訴訟に切り替わる、という分岐です。
出典・参考資料(1件)
仮執行宣言とは|いつ・どこに申し立てるか(支払督促と強制執行の境目)
ここでは、支払督促が「強制執行できる状態」に切り替わる境目である仮執行宣言について、単独で確認します。多くの人がつまずくのがこの一点で、期限を逃すとそれまでの手続きが無駄になります。
仮執行宣言とは、支払督促に「この内容ですぐに強制執行してよい」という効力を付け加える裁判所書記官の処分です。仮執行宣言が付いた支払督促は、強制執行の根拠となる債務名義になります。民事執行法第22条は、強制執行を行うための債務名義を列挙しており、その第4号に「仮執行の宣言を付した支払督促」が挙げられています。確定判決や公正証書(執行証書)と並んで、差し押さえの直接の根拠になるということです。
「仮に執行してよい」という趣旨のため、仮執行宣言が付けば、その後にもう一度ある督促異議の期間(2週間)中であっても強制執行に着手できます。支払督促の確定を待たずに差し押さえへ進められる点が、実務上の利点です。
申立先は、支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所です。申し立てるタイミングには期限があり、相手方が支払督促の送達を受けてから2週間の督促異議期間が過ぎた時点から数えて30日以内に仮執行宣言を申し立てないと、支払督促そのものが効力を失います。この期限は、民事訴訟法第392条が明確に定めています。
債権者が仮執行の宣言の申立てをすることができる時から三十日以内にその申立てをしないときは、支払督促は、その効力を失う。
出典:民事訴訟法 第392条|e-Gov法令検索
支払督促を申し立てて送達まで進んだのに、この30日を過ぎてしまうと、はじめからやり直しになります。相手方が無視して2週間が経過したら、間を置かずに仮執行宣言の申立てへ進むことが、回収を確実にするうえで重要です。
支払督促・強制執行にかかる費用(請求額別の手数料)
ここからは、支払督促と強制執行にかかる費用を、請求額ごとの実額で確認します。手続きの段階ごとに裁判所へ納める手数料は、収入印紙で納めます。
支払督促の申立手数料は、民事訴訟費用等に関する法律の別表第一で定められています。同じ請求額で訴えを起こす場合の手数料を算出し、その2分の1に一定額を加えた金額です。2026年5月21日に施行された改正後は、その加算額が書面申立てで2,700円、オンライン申立て(督促手続オンラインシステム)で2,500円と定められています。
「訴訟の半額(100万円で5,000円)」と説明されることがありますが、これは改正前の金額です。2026年5月21日施行の改正で加算額(書面2,700円・オンライン2,500円)が設けられたため、現在申し立てる場合の実額は次のとおりに変わっています。
| 請求額別の手数料 | 10万円 | 50万円 | 100万円 | 200万円 | 300万円 | 500万円 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 訴え提起の手数料 | 1,000円 | 5,000円 | 10,000円 | 15,000円 | 20,000円 | 30,000円 |
| 支払督促の申立手数料(書面) | 3,200円 | 5,200円 | 7,700円 | 10,200円 | 12,700円 | 17,700円 |
| 支払督促の申立手数料(オンライン) | 3,000円 | 5,000円 | 7,500円 | 10,000円 | 12,500円 | 17,500円 |
※民事訴訟費用等に関する法律 別表第一(2026年5月21日施行の改正後)に基づき算出。このほか予納郵便切手が別途必要で、額は申立先の裁判所により異なります。
表のとおり、請求額が小さいうちは加算額(書面2,700円・オンライン2,500円)が上乗せされるため、支払督促の手数料が訴え提起より高くなる場合があります。支払督促の利点は手数料の安さそのものよりも、相手方の言い分を聞く審尋がなく、書面審査で早く強制執行まで進められる点にあります。
手数料に加えて、相手方への送達などに使う予納郵便切手が別途必要です。切手の額は申立先の裁判所や当事者の数によって異なりますが、数千円程度が目安です。仮執行宣言の申立てには、支払督促の申立時に納めた手数料に含まれるため追加の手数料はかかりません。
強制執行の段階では、あらためて申立手数料がかかります。預金や売掛金などを差し押さえる債権差押命令の申立手数料は、債務名義1個につき4,000円です。これに予納郵便切手を合わせると、債権執行の実費はおおむね1万円程度が目安になります。不動産を差し押さえる不動産執行の場合は、申立手数料に加えて数十万円からの予納金が必要で、金額は裁判所や物件によって異なります。
段階ごとに積み上げると、支払督促の申立手数料(100万円の請求で書面7,700円)に、仮執行宣言(追加の手数料なし)、預金・売掛金を差し押さえる債権執行の実費(約1万円)が加わる並びが基本です。これに各段階の予納郵便切手が上乗せされます。
出典・参考資料(2件)
支払督促から回収までの期間の目安
次に、支払督促を申し立ててから回収に至るまでにかかる期間の目安を確認します。制度上の期限が決まっているため、そこから逆算するとおおよその見通しが立ちます。
申立てから支払督促が発せられて相手方に届くまでの事務処理におおむね1〜2週間、送達後の督促異議の期間が2週間、その後の仮執行宣言の申立てから発付・送達までにさらに事務処理の期間がかかります。相手方が異議を出さずに進めば、申立てから強制執行に着手できる状態まで、早ければ1か月半ほどが目安です。
一方、相手方が督促異議を申し立てて通常訴訟へ移行した場合は、そこから訴訟の期日を重ねることになり、2〜3か月以上かかることも珍しくありません。支払督促は書面審査で進む分、相手方が争わなければ短期間で強制執行までつなげられますが、争われた場合は通常訴訟と同じ時間軸になる、という二面性を持ちます。
あくまで手続き上の期限からの目安であり、裁判所の混雑状況や相手方の対応によって前後します。資金繰りや社内の稟議に見通しを立てる際は、異議が出ないケースでも余裕をみて2か月程度を見込んでおくと、計画に落とし込みやすくなります。
支払督促が使えない・失敗する落とし穴
ここでは、せっかく手続きを進めたのに回収につながらない、あるいはそもそも支払督促を使えないケースを整理します。着手する前に自分のケースが当てはまらないかを確認しておくと、無駄足を避けられます。
- 相手の住所が分からず送達できない:支払督促は、相手方に書類を送達できることが前提です。民事訴訟法第382条のただし書は「公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限る」と定めており、公示送達(相手の所在が不明なときに、裁判所の掲示などで送達したとみなす方法)に頼るしかない住所不明のケースでは使えません。送達できないまま2か月以内に送達先の申出をしなければ、申立ては取り下げたものとみなされます(第388条第3項)。
- 仮執行宣言の30日期限を過ぎる:相手方が無視して2週間が経過した後、30日以内に仮執行宣言を申し立てないと、支払督促は効力を失います(第392条)。期限を過ぎると、はじめから手続きをやり直すことになります。
- 相手が督促異議を出して通常訴訟になる:相手方が争う姿勢を見せれば、書面審査で完結する簡易さは失われ、通常訴訟へ移行します(第395条)。証拠に基づく主張・立証が必要になるため、争いのある請求では支払督促の利点が生きにくくなります。
- 相手に差し押さえる財産がなく空振りになる:債務名義を得ても、相手方に預金や差し押さえられる財産がなければ回収はできません。強制執行は、差し押さえる対象を債権者が特定して申し立てる必要があるため、相手方の財産の把握が回収の成否を左右します。
落とし穴とは逆に、支払督促の申立てには、時効の完成を先延ばしにする効果もあります。民法第147条第1項は、支払督促を時効の完成猶予の事由として挙げており、支払期限から時間が経って時効が心配な債権でも、申立てによっていったん時効の完成が止まります。回収の見込みが立たないうちに時効期間が近づいている場合は、この点も申立てを検討する材料になります。
差し押さえで実際に何を回収できるか
ここからは、仮執行宣言付支払督促を債務名義として強制執行に進んだとき、実際に何をどこまで回収できるのかを、回収する側の視点で確認します。差し押さえの対象には種類があり、また法律上差し押さえられない財産もあります。
何を差し押さえて回収できるか(債権執行・動産執行・不動産執行)
強制執行は、差し押さえる財産の種類によって大きく3つに分かれます。売掛金の回収で中心になるのは、相手方が持つ金銭債権を差し押さえる債権執行です。民事執行法第143条は、金銭の支払いを目的とする債権に対する強制執行が執行裁判所の差押命令によって始まると定めています。差し押さえの対象になる金銭債権の代表例が、相手方の預金債権、相手方が第三者に対して持つ売掛金債権、相手方の給与債権です。
このほか、相手方が持つ商品・機械などの動産を差し押さえる動産執行、相手方名義の土地・建物を差し押さえる不動産執行があります。ただし、動産執行は差し押さえた物を売却して現金化する手間がかかり、不動産執行は予納金の負担が大きいため、企業間の売掛金回収では、まず預金や売掛金を狙う債権執行が実務の主戦場になります。
差し押さえできない財産(差押禁止の限度)
まず押さえておきたいのは、取引先が法人の場合、給与や現金のような差押禁止の枠は関係せず、相手方の預金や売掛金は原則として全額を差し押さえられる点です。以下で説明する差押禁止の制限は、相手方が個人(個人事業主など)の場合に関わってきます。
相手方が個人の場合、給与債権は全額を差し押さえられるわけではありません。民事執行法第152条は、給与のうち原則として4分の3を差押禁止としており、債権者が差し押さえられるのは手取りのおおむね4分の1までです。
次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。/二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権
出典:民事執行法 第152条|e-Gov法令検索
この「政令で定める額」は民事執行法施行令で毎月払いの場合33万円と定められており、手取りが44万円を超える部分については、33万円を残して全額を差し押さえられる関係になります。
また、相手方が持つ現金は、標準的な世帯の2か月分の生計費として66万円までが差押禁止です。これは給与の差押禁止(第152条)ではなく、差押禁止動産を定めた民事執行法第131条第3号と施行令第1条が根拠になります。差し押さえる対象を検討する際は、こうした差押禁止の限度を踏まえておく必要があります。
改正民事執行法を「回収する側」がどう使うか
差し押さえは、相手方のどこに財産があるかを債権者が特定して申し立てる必要があります。相手方の財産が分からないと空振りに終わりかねませんが、2020年4月1日に施行された改正民事執行法は、回収する側が財産を把握するための手続きを使いやすくしました。
1つは財産開示手続です。仮執行宣言付支払督促のように執行力のある債務名義を持つ債権者は、裁判所に申し立てて、相手方本人に財産の状況を裁判所で開示させられます(民事執行法第196条・第197条)。もう1つが第三者からの情報取得手続で、銀行などに照会して相手方の預貯金口座の情報を得られます(第207条)。売掛金の債権者が使いやすいのは、この預貯金情報の取得です。
財産開示手続の実効性を担保するため、相手方が正当な理由なく出頭しなかったり虚偽の陳述をしたりした場合の罰則も強化されました。改正前は30万円以下の過料でしたが、現在は刑事罰に引き上げられています。
次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。/五 執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓を拒んだ開示義務者
出典:民事執行法 第213条|e-Gov法令検索
これらの手続きを組み合わせれば、相手方の財産が分からない場合でも、預貯金の所在を把握してから差し押さえに進める道が開けます。空振りのリスクを下げる手段として、債務名義を得た後の選択肢に入れておくとよいでしょう。
出典・参考資料(1件)
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自力・弁護士・回収代行サービスの選び方(回収額別の費用対効果)
ここまで見てきたように、支払督促から強制執行までは自力でも進められますが、期限の管理や相手方の財産の把握には手間がかかります。ここからは、自力で進める・弁護士に依頼する・督促や回収を代行するサービスを使う、という3つの選択肢を、回収額に応じた費用対効果の観点から整理します。
少額債権で自力の支払督促に手間・費用をかける価値があるか
支払督促の申立手数料自体は、100万円の請求でも1万円弱と高額ではありません。ただし、実際のコストは手数料だけではなく、申立書の作成、期限の管理、相手方の財産調査、強制執行の申立てといった一連の作業にかかる時間も含まれます。相手方が督促異議を出せば通常訴訟へ移行し、対応の負担はさらに増えます。
目安として、支払督促から強制執行まで進めると、手数料と切手、強制執行の実費だけで1万円台の実費がかかり、これに書類作成や財産調査にかける時間が加わります。回収額がおおよそ数万円を下回る債権では、1件ずつ自力で法的手続きを踏むより、督促・回収を仕組みで効率化するほうが割に合うケースが増えます。
回収額が数万円から十数万円程度の少額債権では、こうした手間に見合うかどうかを見極める必要があります。1件だけなら自力でも対応できますが、少額の未回収が毎月いくつも発生している場合は、1件ごとに手続きを回すよりも、督促や回収の仕組みをまとめて外部に任せたほうが、担当者の負担と回収率の両面で見合うことが多くなります。
回収額・件数・自社の対応リソースの3つを照らし合わせて、どの手段を選ぶかを判断するのが現実的です。
弁護士に依頼する場合
相手方が争う姿勢を見せている、回収額が大きい、あるいは支払督促から通常訴訟への移行が見込まれるといった場合は、弁護士への依頼が選択肢になります。弁護士に任せれば、支払督促や訴訟の手続き、相手方との交渉、財産調査、強制執行の申立てまで一貫して対応してもらえます。督促異議が出て通常訴訟に移行した場合の主張・立証も引き継げるため、争いのある請求では負担を大きく減らせます。
一方で、着手金や成功報酬などの弁護士費用がかかるため、回収額と費用のバランスを踏まえて依頼するかを決めることになります。少額の債権が多数ある場合よりも、金額が大きく争いが予想される個別の債権で、弁護士に依頼する意義が大きくなります。
督促・請求業務の自動化や回収代行で、強制執行に至る前に回収する
支払督促や強制執行は、あくまで催促に応じない相手方に対する最終手段です。実務では、その手前の段階で確実に督促を重ね、そもそも未回収を長期化させないことが回収率を高めます。近年は、請求から入金確認、督促までを自動化したり、売掛金の回収そのものを代行したりするサービスが増えており、法的手続きに進む前の回収を効率化する選択肢として使えます。
ただし、督促の自動化はどの業務にも一律に当てはめられるものではなく、業務との相性を見極める必要があります。入金案内や督促のオートコール(自動音声発信)を手がける電話放送局株式会社の前田氏は、自動化する際に押さえるべき点を次のように述べています。

入金案内や督促は、伝える内容が定型化しやすい一方で、案内の仕方によってはトラブルや苦情につながりやすい業務です。一方で、入金コールは人が案内する場合と比べて、トラブルや苦情を軽減できる側面もあります。だからこそ、まずは“自動化しても顧客体験を損ねにくい設計”をすることが大切だと考えています。オートコールは使い方を間違えると社会問題になりかねません。だから当社としては、用途の相性を見極めて、やめた方がいいケースは止める。その線引きも含めて一緒に考えています。
こうしたサービスには、督促のコミュニケーションを複数の手段で自動化するもの、与信審査から請求・回収・督促までをまとめて代行し売掛金を保証するものなど、対応する範囲に違いがあります。ここでは、強制執行に至る前の回収を効率化する観点で、代表的なサービスを紹介します。以下は、その比較表です。
| サービス名 | 請求まるなげロボ | 債権回収ロボ |
|---|---|---|
| 提供会社 | 株式会社ROBOT PAYMENT | 株式会社ROBOT PAYMENT |
| 対応範囲 | 与信審査〜請求・回収・ 入金消込・督促まで一括代行 | 未入金の督促業務に特化 (督促の自動化) |
| 督促手段 | メール・電話 弁護士法人による対応 | メール・SMS オートコール(自動音声) |
| 対応債権 | 企業間(BtoB)の売掛金 | 売掛金・BtoC消費者債権など |
| 売掛金保証 | ●適格・与信通過債権を100%保証 | ×(督促の自動化に特化) |
| 料金 | 月額利用料+手数料1.0%〜 初期費用は要問い合わせ | 要見積 |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | オンライン相談を予約 |
1. 請求まるなげロボ(株式会社ROBOT PAYMENT)

請求まるなげロボは、企業間取引の与信審査から請求書の発行・送付、代金回収、入金消込(入金と請求データの照合)、督促までを一括で代行するサービスです。運営元の株式会社ROBOT PAYMENTが督促まで担い、未入金が続く場合は弁護士法人が対応します。回収の手続きを自社で抱えずに、請求業務ごと外部へ移せる点が特徴です。
審査を通過した適格債権については、取引先からの入金の有無にかかわらず売掛金を100%保証する仕組みを備えます。ただし保証の対象は、同社の審査で適格債権と判断され与信を通過した債権に限られ、与信を通過しなかった取引先分は同じ画面で自社管理する扱いになります。
料金は月額利用料に加えて手数料が1.0%からで、具体的な金額は取扱商材や請求額に応じた個別見積もりです。新規取引先の与信を外部に任せたい企業や、貸し倒れリスクを抑えたい企業に向いています。
2. 債権回収ロボ(株式会社ROBOT PAYMENT)

メール・SMS・オートコール(自動音声発信)といった複数の手段を組み合わせて、未入金の督促を自動化するのが債権回収ロボです。相手方への催促のシナリオを設計して自動で実行し、督促の状況や相手方ごとの受信・返信の履歴を一元管理できます。担当者ごとにばらつきがちで心理的な負担も大きい電話督促を、仕組みとして標準化できる点が特徴です。
相手方の決済手段や過去の支払い履歴に基づいて、催促を送るタイミングを最適化する機能を備え、この技術で特許を出願しています。同社の請求管理ロボと連携させれば請求から督促までを一元管理でき、単独での利用も可能です。強制執行のような法的手続きに進む前に、督促の段階で確実に回収を進めたい企業に向いています。
ここで取り上げたのは、督促・回収を効率化するサービスの一例です。依頼先を回収代行会社・ファクタリング・督促自動化ツールのどのタイプから選ぶか、費用相場はどれくらいかも、あわせて知りたいところです。督促の自動化まで含めて回収代行サービス全体を見比べたい場合は、以下の記事で依頼先タイプ別の選び方を詳しく解説しています。
まとめ
支払督促は、相手方の住所地の簡易裁判所への申立てから始まり、書面審査による発付・送達、送達後2週間の督促異議の期間、仮執行宣言の申立て、強制執行という流れで進みます。境目となるのは仮執行宣言で、督促異議のないまま2週間が過ぎた時点から30日以内に申し立てないと支払督促が失効するため、期限の管理が要になります。相手方が督促異議を出せば通常訴訟へ移行する点も、あらかじめ想定しておく必要があります。
費用は、請求額に応じた申立手数料と予納郵便切手、強制執行の段階での申立手数料が中心で、少額債権では手間との見合いを見極めることが大切です。相手方の財産が分からない場合は、改正民事執行法の財産開示手続や第三者からの情報取得手続で預貯金の所在を把握してから差し押さえに進む道もあります。
回収額や件数、自社で対応できるリソースを踏まえ、自力で進めるか、弁護士に依頼するか、督促・回収を代行するサービスを使うかを選ぶとよいでしょう。
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よくある質問(FAQ)
Q. 支払督促とは何ですか?
A. 支払督促とは、金銭の支払いなどを求める債権者の申立てに基づき、簡易裁判所の裁判所書記官が相手方に支払いを命じる略式の手続きです。訴訟のように相手方の言い分を聞く審尋を行わず、申立書などの書面審査だけで発せられるため、通常訴訟より簡易な手続きで進められます。相手方が異議を出さなければ、仮執行宣言を経て、強制執行の根拠となる債務名義になります。
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Q. 支払督促と少額訴訟・通常訴訟は何が違い、どれを選べばよいですか?
A. 支払督促は書面審査だけで進む点が最大の違いで、相手方が支払いを争わない見込みなら、最も手間と費用を抑えて強制執行までつなげられます。一方、60万円以下の金銭請求で相手方と事実に争いがある場合は、原則1回の期日で判決が出る少額訴訟が、金額が大きく本格的に争いが予想される場合は通常訴訟が向きます。
支払督促は相手方が督促異議を出すと通常訴訟へ移行するため、はじめから争いが確実なケースでは、通常訴訟を選ぶほうが結果的に早いこともあります。
出典・参考資料(1件)
Q. 支払督促では、元本のほかに遅延損害金も請求できますか?
A. 支払督促では、未払いの元本に加えて、支払期日の翌日から発生する遅延損害金もあわせて請求できます。利率は、契約書に遅延損害金の定め(約定利率)があればその利率で、定めがなければ民法の法定利率で計算します。法定利率は3年ごとに見直される変動制のため、申立て時点の利率を確認して申立書に記載します。回収できる総額を増やすためにも、元本と遅延損害金を分けて記載しておくことが大切です。
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Q. 取引先が法人の場合、支払督促はどこの裁判所に申し立てますか?
A. 取引先が法人の場合、支払督促はその法人の本店(主たる事務所・営業所)の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てます。支払督促の申立先は相手方の住所地を基準とし、法人ではこの住所地が本店所在地にあたります。
支店との取引で未払いが生じた場合でも、原則は本店所在地の簡易裁判所が申立先になる点に注意してください。申立先を誤ると手続きが進まないため、申立て前に相手方の登記上の本店所在地を確認しておくと確実です。
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Q. 差し押さえる財産がなく空振りになったら、支払督促は無駄になりますか?
A. 空振りに終わっても、取得した債務名義(仮執行宣言付支払督促)は残るため、後で相手方に財産ができた時点であらためて強制執行を申し立てられます。差し押さえた預金に残高がない、差し押さえる給与がないといった場合、その回の強制執行は空振りとして終了しますが、債権そのものが消えるわけではありません。
確定した仮執行宣言付支払督促で確定した債権の時効期間は10年に延びるため、相手方の資力が回復するのを待って、期間内に再度回収を試みる余地があります。
Q. 相手が差し押さえを逃れようと財産を隠したら、回収できなくなりますか?
A. 相手方が差し押さえを免れる目的で財産を隠したり無償で他人に移したりする行為は、強制執行妨害目的財産損壊等罪として刑事罰の対象になり得るほか、不当な財産処分は詐害行為取消権によって取り消し、取り戻せる場合があります。財産の所在が分からない場合も、本文で触れた財産開示手続や第三者からの情報取得手続を使えば、相手方本人や銀行から預貯金などの情報を得られます。
相手が財産を隠している疑いが強いケースでは、弁護士に相談して詐害行為取消しや刑事告訴を含めた対応を検討するのが現実的です。
Q. 支払督促を申し立てる前に、内容証明郵便を送っておく必要はありますか?
A. 支払督促の申立てに、事前の内容証明郵便は法律上の必須要件ではなく、内容証明を送っていなくても支払督促は申し立てられます。ただし、内容証明郵便による督促(催告)には、送った時点から6か月間は時効の完成を猶予する効果があり、支払督促の準備期間を確保できます。まず内容証明で任意の支払いを促し、それでも応じない場合に支払督促へ進むという順序は、相手方に本気度を伝える意味でも実務でよく取られます。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
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