コーポレートガバナンス・コードは、上場会社が透明・公正で迅速・果断な意思決定を行うための企業統治の指針としてまとめられた原則集です。2026年7月21日には改訂版が施行され、上場会社の実務では、その内容を正確に押さえておく必要性が高まっています。
一方で、コードの定義や基本原則、運用の仕組み、対象となる企業、そして直近の改訂で何が変わったのかを、一つにまとめて正確につかむのは簡単ではありません。東証や金融庁が公表する原文はPDFで配布され、条文や改訂資料は複数の文書に分かれているためです。
本記事では、コーポレートガバナンス・コードの定義と基本原則、コードの構成、コンプライ・オア・エクスプレインの仕組みを整理します。あわせて、市場区分別の適用範囲、これまでの改訂、そして2026年7月改訂の変更点までを解説します。制度の全体像をつかみ、自社の対応を検討する材料としてご活用ください。
目次
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コーポレートガバナンス・コードとは
コーポレートガバナンス・コードとは、上場会社が実効的な企業統治を実現するための主要な原則をまとめた文書です。東京証券取引所と金融庁が策定し、2015年6月に適用が始まりました。法律のように違反すると罰則が科されるものではなく、上場会社が自主的に取り組むことを促すソフトロー(法的拘束力を持たない自主規制上の規範)として位置づけられています。
コード本文は、コーポレートガバナンスそのものを次のように定義しています。
本コードにおいて、「コーポレートガバナンス」とは、上場会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。
出典:コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)|株式会社東京証券取引所
コード自体は法律ではありませんが、東京証券取引所の有価証券上場規程で参照されることによって、上場会社が守るべきルールとしての実効性が確保される仕組みになっています。この点は後半の「運用の仕組み」で詳しく解説します。
コーポレートガバナンスとの違い
混同しやすいのが、「コーポレートガバナンス」と「コーポレートガバナンス・コード」の違いです。コーポレートガバナンスは、経営を監督し、透明・公正な意思決定を行うための仕組みそのものを指す概念です。企業統治と訳されます。
これに対してコーポレートガバナンス・コードは、そのコーポレートガバナンスを実現するために上場会社が取り組むべき原則を、文書としてまとめたものです。仕組みそのものを指す言葉と、その仕組みの実現指針をまとめた文書の名前、という関係にあります。
なぜ策定されたのか
コーポレートガバナンス・コードは、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を後押しすることを目的に策定されました。適切な統治が働くことで、上場会社の自律的な意思決定が促され、上場会社・投資家、ひいては経済全体の発展につながると考えられています。
コード本文でも、原則が適切に実践されることの意義を次のように説明しています。
本コードは、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれの上場会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、上場会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられる。
出典:コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)|株式会社東京証券取引所
コーポレートガバナンス・コードの基本原則【原文】
コーポレートガバナンス・コードの土台となるのが基本原則です。長らく5つとされてきましたが、2026年7月改訂で4つに再編されました。従来の基本原則5「株主との対話」が、基本原則1「株主の権利・平等性の確保」に統合され、第1章の見出しも株主の権利・平等性の確保、株主との対話となっています。
2026年7月版の4つの基本原則は、次のとおりです。
- 株主の権利・平等性の確保、株主との対話
- 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
- 適切な情報開示と透明性の確保
- 取締役会等の責務
それぞれの原則の文言は、原文で次のように定められています。
【株主の権利・平等性の確保、株主との対話】
上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。特に、少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。【株主以外のステークホルダーとの適切な協働】
上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。【適切な情報開示と透明性の確保】
上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。【取締役会等の責務】
出典:コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)|株式会社東京証券取引所
上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、(1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと(2)経営陣による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと(3)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うことをはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。
「4つに減った」というより、5つ目の「株主との対話」が1つ目に組み込まれた、と捉えると正確です。版によって基本原則の数が異なるため、最新版を確認する際は基本原則の見出しにも注意すると、どの版にもとづいた説明かを見分けられます。
コードの構成(基本原則・原則と解釈指針)
ここからは、コード全体がどのような入れ子構造になっているかを整理します。2026年7月版のコードは、4つの基本原則と、その下に置かれた26の原則という二層で構成されています。加えて、各原則の実質的な対応を支援する「解釈指針」が新たに設けられました。
- 基本原則(4つ):コードの土台となる最も抽象度の高い原則。第1章から第4章までが、それぞれ基本原則1〜4に対応します。
- 原則(26):基本原則をより具体化した原則。【原則1-1】【原則4-14】のように章ごとに番号が振られています。
- 解釈指針:各原則の趣旨や、対応を支援する具体的な内容を記した層。2026年改訂で新設されました。後述のとおり、コンプライ・オア・エクスプレインの対象には含まれません。
出典・参考資料(1件)
改訂前(2021年版まで)のコードは、基本原則・原則・補充原則という三層構成で、原則の下にさらに多くの補充原則が置かれていました。2026年改訂ではこの補充原則の層が廃止され、基本原則・原則の二層に整理されています。この背景にあるスリム化・プリンシプル化の考え方は、後述の2026年改訂の節で詳しく取り上げます。
コンプライ・オア・エクスプレインとプリンシプルベース
コーポレートガバナンス・コードの運用を理解するうえで欠かせないのが、プリンシプルベース・アプローチとコンプライ・オア・エクスプレインという2つの考え方です。いずれもコードの序文で説明されています。
プリンシプルベース・アプローチ(原則主義)とは、やるべきことを細かく規定するのではなく、原則を示して各社の判断に委ねる方式です。コンプライ・オア・エクスプレインは、原則を実施するか、実施しない場合はその理由を説明する、という運用の枠組みを指します。コード本文では次のように定められています。
本コードは、上場会社が取るべき行動について詳細に規定する「ルールベース・アプローチ」(細則主義)ではなく、いわゆる「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)を採用している。
本コードは、いわゆる「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない理由を説明する)の手法を採用している。すなわち、本コードの各原則は法的拘束力を有する規範ではなく、会社の個別事情に照らして実施することが適切でないと考えるものがあれば、当該原則を「実施しない理由」を十分に説明することにより、一部の原則を実施しないことが考えられる。
出典:コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)|株式会社東京証券取引所
ここで重要なのは、各原則が「法的拘束力を有する規範ではない」と明記されている点です。原則をすべて実施する義務があるわけではなく、自社の事情に合わないものは、理由を説明したうえで実施しないという選択が認められています。この柔軟さが、法律による一律の規制とコードとの違いです。
原則を実施しない場合はどうなるのか
原則を実施しないこと自体に、罰金などの直接の罰則が科されるわけではありません。ただし、実施しない場合は、その理由をコーポレート・ガバナンスに関する報告書(コーポレート・ガバナンス報告書)で説明することが、有価証券上場規程で求められています。
説明もなく原則を実施しない状態が続けば、上場規程上の対応を求められることになります。罰則型の強制ではなく、「実施するか、しないなら説明する」という開示を通じて実効性を担保する設計です。実務では、この説明をどう記載するかが、コーポレート・ガバナンス報告書作成の要点になります。
対象となる企業と市場区分別の適用範囲
コーポレートガバナンス・コードは、すべての上場会社に同じ範囲で適用されるわけではありません。上場している市場区分によって、コンプライ・オア・エクスプレインの対象となる範囲が異なります。東京証券取引所は、その範囲を次のように説明しています。
プライム市場・スタンダード市場の上場会社は、コードの全原則について、グロース市場の上場会社は、コードの基本原則について、実施しないものがある場合には、その理由を説明することが求められます。
出典:コーポレート・ガバナンス(コーポレートガバナンス・コード)|株式会社東京証券取引所
整理すると、次のようになります。プライム市場とスタンダード市場は基本原則と原則を含めた全原則が対象で、グロース市場は基本原則が対象です。ここでの「全原則」は基本原則と原則を指し、後述の解釈指針は含みません。上場を目指す企業は、想定する市場区分によって、どこまで対応が求められるかが変わる点を押さえておく必要があります。
| 市場区分 | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 |
|---|---|---|---|
| コンプライ・オア・エクスプレインの対象 | コードの全原則(基本原則+原則) | コードの全原則(基本原則+原則) | コードの基本原則 |
| 特徴 | 最も高い水準のガバナンスが期待される市場 | プライムと同じく全原則が対象 | 成長段階の企業を想定し、対象は基本原則に限定 |
※2026年7月版コードにもとづく。各原則の適用範囲は東京証券取引所の公表内容によります。
これまでの改訂の歴史(2015→2026)
コーポレートガバナンス・コードは、策定以降、社会や市場の変化に合わせて数年ごとに改訂されてきました。どの版の話をしているのかを取り違えないよう、施行・改訂の流れを時系列で整理します。
- 2015年6月1日:施行。全上場会社に適用が始まり、日本の企業統治の共通ルールとして導入されました。
- 2018年6月1日:改訂。政策保有株式や資本コストを意識した経営など、実効性を高める内容が加えられました。
- 2021年6月11日:改訂。取締役会の機能発揮、中核人材の多様性の確保、サステナビリティへの取り組みが柱となりました。市場区分の再編に合わせた見直しも行われています。
- 2026年7月21日:改訂(同日施行)。成長投資の促進を掲げ、コードのスリム化と解釈指針の新設という構造的な見直しが行われました。本記事で解説している最新版です。
各改訂は、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議などの議論を踏まえて行われてきました。次章では、最新の2026年7月改訂で具体的に何が変わったのかを掘り下げます。
出典・参考資料(1件)
2026年7月改訂で何が変わったか(新旧対比)
2026年7月21日に施行された改訂は、「成長投資の促進」を大きな柱としています。あわせて、コードの実質化を図る観点から、プリンシプル化とスリム化という構造面の見直しが行われました。まず、改訂前と改訂後の主な違いを一覧で示します。
| 項目 | 基本原則の数 | コードの構成 | コンプライ・オア・エクスプレインの対象 | 成長投資 | 有価証券報告書の開示時期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 改訂前(〜2021年版) | 5つ | 基本原則・原則・補充原則の三層 | 原則・補充原則を広く対象 | 個別の明記は限定的 | 総会前開示の位置づけは限定的 |
| 2026年7月改訂後 | 4つ(旧・基本原則5「株主との対話」を基本原則1に統合) | 基本原則・原則の二層+新設の解釈指針(補充原則は廃止) | 基本原則と原則に限定(解釈指針は対象外) | 取締役会の役割・責務として成長投資への取り組みを明記(原則4-1・4-2) | 株主総会前の提出を原則に追記(原則1-2) |
※金融庁「コーポレートガバナンス・コード改訂(2026年)の概要」および2026年7月版コード原文にもとづく。
ここからは、表で挙げた見直しのうち、実務対応に関わる主な変更点を掘り下げます。基本原則の数やコンプライ・オア・エクスプレインの対象範囲の変化はここまでに触れたとおりで、以下では実務への影響が大きい5つの論点を取り上げます。
成長投資の促進(原則4-1・4-2)
今回の改訂で最も重視されたのが、成長投資の促進です。取締役会の役割・責務として、成長の実現に向けた具体的な取り組みを説明することが求められるようになりました。原則4-1は次のように定めています。
取締役会は、経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、成長の実現を目指し、自社の資本コストを踏まえて収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて説明を行うべきである。
出典:コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)原則4-1|株式会社東京証券取引所
あわせて原則4-2では、経営資源の配分が経営戦略や経営計画に照らして適切かどうかを、不断に検証することが求められています。成長投資には、設備や研究開発だけでなく、人的資本や知的財産といった無形資産への投資も含まれる点が明記されました。
スリム化・プリンシプルベースの徹底
2026年改訂では、コードそのものの実質化を図る観点から、プリンシプル化とスリム化が行われました。企業が本質的な取り組みに注力できるよう、コンプライ・オア・エクスプレインの対象を概念的・抽象的な原則に絞り込むという方針です。コード序文は、この見直しを次のように説明しています。
2026年改訂においては、プリンシプルベース・アプローチ及びコンプライ・オア・エクスプレインの手法を採用する本コードの趣旨に立ち返り、本コード自体の実質化を図る観点から、「プリンシプル化」・「スリム化」が行われた。具体的には、上場会社が特に注力すべき点が明確になるよう、従前の補充原則を再整理し、ガバナンスの中核となる箇所を原則に格上げする一方、コード内の他の箇所又は法令等との重複がある箇所等を削除する
出典:コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)序文|株式会社東京証券取引所
この見直しの結果、従来の補充原則という層はなくなりました。中核となる内容は原則へ格上げされ、重複や法令と重なる部分は削除されています。前章で触れた「二層+解釈指針」という構成は、このスリム化によって生まれたものです。
「解釈指針」の新設
スリム化と対になる形で新設されたのが、解釈指針です。各原則への対応を支援するため、具体的な内容や趣旨を記した層として位置づけられています。金融庁は改訂の概要で、その役割を次のように説明しています。
「コンプライ・オア・エクスプレイン」の対象となる原則の内容を概念的かつ抽象的なものに限定。各原則への対応を支援するための具体的な内容や趣旨を記載した「解釈指針」を新設。
出典:コーポレートガバナンス・コード改訂(2026年)の概要|金融庁
解釈指針は、コンプライ・オア・エクスプレインの対象には含まれません。原則そのものは抽象度を高く保ちつつ、実際にどう対応すればよいかの手がかりを解釈指針で示す、という役割分担になっています。
有価証券報告書の株主総会前開示(原則1-2)
株主との建設的な対話を後押しする観点から、有価証券報告書を株主総会前に提出することが、原則1-2に例として追記されました。株主が総会で適切に判断できるよう、情報提供の環境を整えるという趣旨です。
提出時期については、原則1-2の解釈指針で、株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましいとされ、総会の開催時期の後ろ倒しも含めて検討することが考えられる旨が補足されています。実務では、決算・監査のスケジュールとの兼ね合いを踏まえた対応が論点になります。
出典・参考資料(1件)
取締役会事務局・コーポレートセクレタリーの機能強化(原則4-14)
取締役会の審議を活性化させるため、取締役会を支える事務局の機能強化が、原則4-14の解釈指針で強調されました。社外取締役を含む取締役への情報提供や支援を担う部署として、いわゆる取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)の役割が位置づけられています。解釈指針では次のように述べられています。
取締役会の審議の活性化を図り、また、社外を含めた取締役・監査役への情報提供を含めた支援を適確に行うためには、取締役会を支える部署であるいわゆる取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化等の取組みを推進することも重要である。
出典:コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)原則4-14 解釈指針|株式会社東京証券取引所
コーポレートセクレタリーは、取締役会の運営を事務的に支えるだけでなく、審議事項の設計や情報提供を能動的に担う役割です。取締役会の実効性を高めるうえで、事務局体制の見直しが実務上の論点になります。
スチュワードシップ・コードとの違い
コーポレートガバナンス・コードとよく対で語られるのが、スチュワードシップ・コードです。正式には「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」といい、両者は向き合う相手が異なります。
コーポレートガバナンス・コードは上場会社に向けた企業統治の指針であるのに対し、スチュワードシップ・コードは機関投資家に向けた行動原則です。コード本文は、両者の関係を次のように表現しています。
その意味において、本コードと「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」とは、いわば「車の両輪」であり、両者が適切に相まって実効的なコーポレートガバナンスが実現されることが期待される。
出典:コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)序文|株式会社東京証券取引所
上場会社側と機関投資家側の双方が、それぞれのコードに沿って行動することで、実効的な企業統治が実現される、という考え方です。自社が上場会社であればコーポレートガバナンス・コード、投資運用を担う立場であればスチュワードシップ・コードが対象になります。
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実務担当者が次にすべきこと
ここまでの内容を踏まえ、実務では何から着手すればよいのでしょうか。上場会社であれば、各原則を実施しているかを点検し、実施しない原則についてはその理由をコーポレート・ガバナンス報告書に記載する、という流れが基本です。
2026年改訂で加わった成長投資の説明(原則4-1・4-2)や、取締役会事務局の機能強化(原則4-14の解釈指針)といった論点も踏まえ、報告書の記載内容と社内のガバナンス体制を見直すことになります。各原則の記載要領は、東京証券取引所が示すコーポレート・ガバナンス報告書の様式・記載要領に沿って確認します。
こうした点検や体制整備の土台となるのが、取締役会運営・内部統制・コンプライアンスの実務です。これらを表計算ソフトや個別のファイルだけで回すと、担当者に負担が集中し、監査対応や引き継ぎの際に抜け漏れが生じやすくなります。一元的に管理・効率化する手段として、GRCツール(ガバナンス・リスク・コンプライアンスを支えるツール)の活用があります。
ここで紹介するのは、上場企業・上場準備企業のガバナンス実務に適した2つのサービスです。取締役会の運営そのものを支えるものと、基幹業務システムと一体で内部統制を効かせるものがあり、自社の課題に応じて使い分けられます。取締役会運営・内部統制・監査対応の効率化を検討する材料としてご覧ください。
| サービス名 | Oracle NetSuite GRC | Diligent |
|---|---|---|
| 提供企業 | 日本オラクル株式会社 | Diligent Japan合同会社 |
| 提供形態 | クラウドERP「NetSuite」に付帯するGRC機能群(単独製品ではない) | 取締役会運営とGRCの統合SaaS「Diligent One Platform」 |
| 対応領域 | 職務分掌・アクセス権限管理、多要素認証、監査証跡、承認ワークフロー(ERPと同一基盤で完結) | 取締役会運営(資料・議事録共有、取締役会評価)、全社リスク管理、監査、コンプライアンス、ESG |
| こんな企業に向く | ERPの刷新とあわせて内部統制を整えたい成長企業・上場準備企業 | 取締役会運営を軸にガバナンスを高度化したい上場企業・グローバル展開企業 |
| 料金 | NetSuiteプラットフォームライセンスに含まれる(GRC単独価格なし・要問い合わせ) | 非公開(利用モジュール・取締役人数に応じたカスタム価格・要問い合わせ) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 詳細を見る |
ここで取り上げた2サービスを含め、GRCツールをより幅広く比較したい場合は、以下の記事が参考になります。26のサービスを対象に、選び方や機能・料金、ESG開示や委託先管理といった最新の実務動向まで詳しく解説しています。自社に合うツールを見極める材料としてご覧ください。
1. Oracle NetSuite GRC(日本オラクル株式会社)

Oracle NetSuite GRCは、クラウドERP「NetSuite」に組み込まれたガバナンス・リスク・コンプライアンス機能群です。単独の製品ではなく、NetSuite ERPを契約すると標準で付帯する内部統制・監査対応の仕組みという位置づけになっています。
職務分掌に基づくアクセス権限の設定、多要素認証、常時有効な監査証跡、ワークフローによる承認プロセスの自動化などを備えます。会計や受発注といった業務データと、それを守る内部統制が同じ基盤の上で動くため、外部ツールとのデータ連携を組まずに統制を効かせられる点が特徴です。プラットフォームとしてSOC 1/SOC 2、ISO/IEC 27001、PCI DSSなどの第三者認証を取得しています。
日本語公式サイトでは、上場準備に必要な内部統制機能を標準で備えると案内されており、ERPの刷新とあわせてガバナンス体制を整えたい成長企業や上場準備企業に向いています。GRC機能だけを単独で購入することはできず、NetSuite ERPの導入が前提となる点は確認しておきたいところです。
業務データと内部統制を同じ基盤で扱うことが実務の負担にどう関わるのか、開発・提供元である日本オラクルはインタビューで次のように述べています。
これは単体のGRC製品と比べたときに、現場で一番効いてくる部分だと思っています。統制のためのツールを別で持っていると、業務システム側のデータをエクスポートして、突き合わせて、チェックして、という作業がどうしても発生します。ここがかなり労働集約的で、ミスも起きやすいんです。
NetSuiteの場合は、取引が発生したその瞬間のデータがそのまま統制の対象になります。ワークフローによる承認や、不正につながりかねない操作の検知も、業務の流れの中で自動的に回っていきます。あとから人手で照合する作業そのものを減らせるので、内部監査や経理の方の負担を大きく軽くできるという声をよくいただきます。
2. Diligent(Diligent Japan合同会社)

Diligentは、取締役会運営とガバナンス・リスク・コンプライアンスを支えるSaaSプラットフォームを提供するグローバルベンダーです。取締役会向けポータルから事業を広げ、現在は統合プラットフォーム「Diligent One Platform」として、取締役会運営・全社リスク管理・監査・コンプライアンス・ESGの各モジュールを提供しています。
取締役会資料や議事録の共有、機密ファイルの安全な受け渡し、取締役会評価といった、取締役会そのものの運営を支える機能に強みがあります。グローバルでの導入実績は25,000社以上・130カ国以上とされ、日本ではDiligent Japan合同会社が直販の窓口を担うほか、コンサルティング会社による導入・活用支援も行われています。
取締役会運営を軸にガバナンスを高度化したい上場企業やグローバル展開企業に適したプラットフォームです。料金は公開されておらず、利用するモジュールや取締役の人数などに応じたカスタム価格となるため、導入時は問い合わせによる見積もりが必要です。
まとめ
コーポレートガバナンス・コードは、上場会社が透明・公正で迅速・果断な意思決定を行うための企業統治の指針です。法律ではなくソフトローとして、コンプライ・オア・エクスプレインの枠組みで運用され、市場区分によって適用範囲が異なります。2026年7月改訂では、基本原則が4つに再編され、補充原則が廃止されて解釈指針が新設されるなど、構造面でも見直しが行われました。
実務では、成長投資の説明や取締役会事務局の機能強化といった新たな論点を踏まえ、コーポレート・ガバナンス報告書での対応状況の説明と、ガバナンス体制の整備を進めることが求められます。対応状況の管理や取締役会運営・内部統制の効率化には、GRCツールの活用も選択肢になります。まずは自社に必要な機能を整理し、各サービスの資料を取り寄せて比較してください。
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よくある質問(FAQ)
Q. コーポレートガバナンス・コードとは何ですか?
A. コーポレートガバナンス・コードとは、上場会社が実効的な企業統治(コーポレートガバナンス)を実現するための主要な原則をまとめた文書です。東京証券取引所と金融庁が策定し、2015年6月に適用が始まりました。法律ではなくソフトローとして、上場会社の自主的な取り組みを促す指針という位置づけで、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みづくりを求めています。
Q. コーポレートガバナンス・コードの基本原則はいくつありますか?
A. コーポレートガバナンス・コードの基本原則は、2026年7月改訂で従来の5つから4つに再編されました。旧・基本原則5「株主との対話」が、基本原則1「株主の権利・平等性の確保」に統合されたためです。
現在は「株主の権利・平等性の確保、株主との対話」「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」の4つです。版によって基本原則の数が異なるため、最新版を確認する際は見出しにも注意が必要です。
Q. コーポレートガバナンス・コードは全ての上場企業が対象ですか?
A. コーポレートガバナンス・コードは、プライム・スタンダード・グロースいずれの市場に上場する会社も対象ですが、適用される範囲は市場区分によって異なります。プライム市場とスタンダード市場はコードの全原則(基本原則+原則)が、グロース市場は基本原則が、コンプライ・オア・エクスプレインの対象です。上場を目指す企業は、想定する市場区分によって求められる対応範囲が変わる点を押さえておく必要があります。
Q. コーポレートガバナンス・コードに違反すると罰則はありますか?
A. コーポレートガバナンス・コードには、原則を実施しないこと自体に罰金などの直接の罰則はありません。ただし、実施しない場合はその理由をコーポレート・ガバナンス報告書で説明することが有価証券上場規程で求められており、説明もないまま実施しない状態が続けば、上場規程上の対応を求められます。罰則型の強制ではなく、「実施するか、しないなら説明する」という開示を通じて実効性を担保する設計です。
Q. コーポレートガバナンス・コードはいつから適用されていますか?2026年改訂版の施行日は?
A. コーポレートガバナンス・コードは2015年6月1日に適用が始まり、最新の2026年改訂版は2026年7月21日に施行されました。この改訂に合わせて、東京証券取引所の有価証券上場規程の一部改正も同日付で施行されています。2021年改訂までの知識で止まっている場合は、2026年7月版で構成や基本原則の数が変わっている点に注意してください。
Q. コーポレートガバナンス・コードは何年ごとに改訂されますか?
A. コーポレートガバナンス・コードに固定の改訂周期はありませんが、2015年の施行後、2018年・2021年・2026年と数年ごとに改訂されてきました。改訂は、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議などの議論を踏まえ、社会や市場の変化に合わせて行われます。
Q. コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードの違いは何ですか?
A. 両者の違いは、コーポレートガバナンス・コードが上場会社に向けた企業統治の指針であるのに対し、スチュワードシップ・コードは機関投資家に向けた行動原則である点です。
コード本文は両者を「車の両輪」と表現しており、上場会社側と投資家側の双方がそれぞれのコードに沿って行動することで、実効的なコーポレートガバナンスが実現されるとされています。自社が上場会社であれば前者、投資運用を担う立場であれば後者が対象になります。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。


















