不正アクセスの被害が報じられるたびに、「自社は大丈夫なのか」と不安を感じる担当者は少なくありません。経営層から確認を求められることもあります。そんなとき、まず整理したくなるのが「具体的に何をすればよいのか」という対策の全体像です。
対策は、従業員一人ひとりが日々気をつけることと、管理者・会社として仕組みで備えることの2つに分かれます。担当範囲がはっきりすると、自社の未実施項目をそのまま数えられるようになります。
本記事では、従業員側・管理者側それぞれのやることチェックリストを最初に示し、各対策を「何をどうするか」まで掘り下げます。続けて、どんな手口で侵入されるのか、被害を受けたときの応急処置と相談先、そして自前では守りきれない領域を補うツール・サービスまでを一通り整理しました。着手の判断材料としてご活用ください。
目次
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【まず確認】不正アクセス対策のやることチェックリスト(従業員側/管理者側)
不正アクセス対策は、利用者一人ひとりが行うことと、システムを管理する側が仕組みで備えることの2つに分けると整理しやすくなります。警察庁も、防御上の留意事項を「利用権者の講ずべき措置」と「アクセス管理者の講ずべき措置」に分けて示しています。
この公的な切り分けに沿って、担当範囲別のやることを一覧にまとめました。ここでは対策名と「なぜ効くか」を一言で示すにとどめ、実装の踏み込みは次の章で扱います。まずは自社の未実施項目を数えるチェックリストとしてご利用ください。
【従業員側】やるべき対策
日々の操作の中で、一人ひとりが実行できる基本の対策です。総務省も「ソフトウェアを最新に保つ」「強固なパスワードの設定と多要素認証」「不用意に開かない・インストールしない」の3点を最低限意識すべき原則として挙げています。
- 複雑で推測されにくいパスワードを設定する:単純な文字列を避け、総当たりや推測で破られにくくする
- 同じパスワードを複数サービスで使い回さない:1か所の漏えいが他サービスへ連鎖する経路を断つ
- 多要素認証を有効にする:パスワードが漏れても、もう1つの要素がなければログインさせない
- OS・アプリを最新の状態に更新する:既知の弱点(脆弱性)を突く侵入をふさぐ
- 不審なメール・URL・添付ファイルを開かない:フィッシングやマルウェア感染の入口を断つ
- 公衆の無料Wi-Fiで重要な操作をしない:通信の盗み見やなりすまし接続を避ける
出典・参考資料(1件)
【管理者・会社側】やるべき対策
会社としての体制やシステムで備える対策です。個人の注意だけでは防ぎきれない領域を、権限設計・監視・体制づくりで面的に押さえます。
- アクセス権限を必要最小限に絞る:万一侵入されても、被害が広がる範囲を抑える
- 認証を強化する(多要素認証・ワンタイムパスワード等):なりすましログインの成立を難しくする
- セキュリティツールを導入する(EDR・WAF・NDR〈ネットワーク型の脅威検知〉など):自前の目視では気づきにくい侵入を検知する
- 脆弱性診断を定期的に実施する:攻撃者に先んじて弱点を見つけ、ふさぐ
- 従業員へセキュリティ教育を行う:人を狙う手口(フィッシング等)への耐性を高める
- 不要なサービス・アカウントを停止する:使っていない機能や退職者のアカウントを残さず、攻撃の入り口を減らす
- インシデント対応計画を整える:被害発生時に、初動で迷わず動ける状態をつくる
インシデント発生時の緊急対応体制や、被害に備えた事業継続・復旧体制の整備は、経済産業省とIPAの「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」でも重要項目として位置づけられています。
出典・参考資料(1件)
ここまでの従業員側・管理者側のチェックリストは、警察庁が防御上の留意事項として示す次の区分に沿っています。自社の対策を照らし合わせる際の裏づけとしてご覧ください。
出典:不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況(令和7年3月公表)|国家公安委員会・総務省・経済産業省
- 1 利用権者の講ずべき措置 (1) パスワードの適切な設定・管理/(2) フィッシングへの対策/(3) 不正プログラムへの対策
- 2 アクセス管理者の講ずべき措置 (1) 運用体制の構築等/(2) パスワードの適切な設定/(3) ID・パスワードの適切な管理/(4) セキュリティ・ホール攻撃への対策/(5) フィッシング等への対策
各対策の具体的な中身(何をどうするか)
ここからは、上のチェックリストのうち、実装の判断に迷いやすい対策を掘り下げます。「セキュリティを強化しましょう」で終わらせず、何を選び、どう運用すれば効果が出るのかまで踏み込みます。
多要素認証(MFA)の導入
多要素認証とは、本人だけが知っていること(パスワード)・本人だけが持っているもの(スマートフォン等)・本人自身の特徴(生体情報)という3つの要素から、2つ以上を組み合わせて本人を確かめる方式です。パスワードが1つ漏れても、それだけでは突破されない状態をつくります。
導入では、認証アプリのワンタイムパスワードやパスキー(次世代認証技術)を優先します。SMSは手軽ですが、番号の乗っ取りなどの弱点があるため、認証アプリやパスキーの方が堅牢です。適用先は、管理画面・VPN・クラウドサービスの管理者アカウントなど、乗っ取られた際の影響が大きい入口から広げていくと無理がありません。
認証方式ごとの違いや、自社に合う製品の選び方まで具体的に比較したいときは、多要素認証(MFA)システムおすすめ17選を徹底比較で認証方式・料金・タイプ別に整理しています。
出典・参考資料(1件)
パスワード管理・使い回しの防止
パスワードは、長く複雑にするだけでなく、サービスごとに別のものを使うことが要点です。人の記憶だけで管理しようとすると使い回しに戻りやすいため、パスワード管理ツールで一元管理し、生成と保管を仕組みに任せる運用が現実的です。
加えて、複数人で共有するアカウントを減らし、誰がいつ使ったかを追える状態にします。漏えいの兆しがあれば、定期的な一律変更を待つのではなく、その場で変更したうえで多要素認証を併用する方が、実務では効果的です。共有・監査ログ・SSO連携といった法人ならではの観点で管理ツールを見比べたい場合は、法人向けパスワード管理ツールおすすめ11選を徹底比較が選定の参考になります。
アクセス権限の最小化(最小権限の原則)
最小権限の原則とは、各利用者に業務で必要な範囲の権限だけを与える考え方です。権限を絞っておくと、万一そのアカウントが侵入されても、攻撃者が動ける範囲が限られ、被害の広がりを抑えられます。
運用では、退職・異動が発生したら速やかに権限を剥奪し、強い権限を持つ管理者アカウントは人数と用途を限定します。付与済みの権限が実態に合っているかを定期的に棚卸しすることで、使われないまま残る「余分な鍵」を減らせます。
OS・ソフトウェアの更新(パッチ適用)
更新プログラム(パッチ)の適用は、既知の脆弱性という「開いた入口」を閉じる作業です。まず自社が使っているOS・アプリ・機器を棚卸しし、どれが更新対象かを把握したうえで、計画的に当てていくのが基本です。
特に、外部に公開しているサーバやVPN機器の脆弱性は侵入経路になりやすい箇所です。警察庁も、サーバやアプリケーションのプログラムを定期的に点検し、セキュリティパッチの適用やバージョンアップで脆弱性を解消するよう促しています。公開資産の更新は後回しにしないことが肝心です。
脆弱性診断の実施
脆弱性診断は、攻撃者に見つけられる前に、自社システムの弱点を洗い出す取り組みです。ツールによる自動診断と、専門家による手動診断があり、外部公開しているWebサイト・サーバを主な対象にします。
大切なのは、診断して終わりにせず、見つかった弱点を修正するところまでを一連の流れとして運用に組み込むことです。システムの変更が多い環境では、年1回といった頻度だけでなく、大きな変更のたびに確認する運用も検討します。診断方法の種類や費用相場、自社に合う依頼先の選び方は、脆弱性診断サービスおすすめ比較で詳しく解説しています。
従業員へのセキュリティ教育
手口の多くは、最終的に人の操作をきっかけに成立します。そのため、標的型メール訓練や、不審なメールを受け取ったときの報告ルートの整備が効果を発揮します。訓練は「引っかけて終わり」ではなく、気づき方と報告の流れを身につける機会として設計することが望まれます。
あわせて、パスワードや権限の扱い、私物端末・外部サービスの利用ルールを周知し、全員が同じ前提で動ける状態をつくります。
不要なサービス・アカウントの停止(攻撃面の縮小)
使われていないアカウント、開いたままのポート、稼働し続ける不要なサービスは、いずれも攻撃者に狙われる余地になります。定期的に棚卸しして止めていくことで、守るべき対象そのものを小さくできます。退職者のアカウントや、試験用に作ったまま放置された環境は、見落とされやすいので優先的に確認したいところです。
不正アクセスの主な手口と、起こりうる被害
対策の必要性は、実際に使われている手口とその結果を知ると、対策の必要性が腹に落ちます。ここでは主な手口と被害を整理し、最後に「どの手口をどの対策でふさぐか」を対応表にまとめます。
主な手口
侵入の入り口は、大きく分けると他人のIDとパスワードを使う「なりすまし型」と、システムの弱点を突く「セキュリティ・ホール攻撃型」の2つに整理できます。実際に確認されている代表的な手口は次のとおりです。
- パスワードリスト攻撃:どこかで漏れたIDとパスワードの組み合わせを使い回し、別のサービスへのログインを試みる
- フィッシング:本物そっくりのメールやサイトに誘導し、IDやパスワードを入力させて盗む
- 脆弱性攻撃:サーバやアプリ、VPN機器の弱点を突いて侵入する
- なりすまし:盗み取った正規のIDでログインし、正規利用者を装って操作する
- マルウェア感染:不正なプログラムに感染させ、情報を盗んだり遠隔操作したりする
手口の傾向は、IPA(情報処理推進機構)に届け出のあった不正アクセス166件の手口別分類(後述の認知件数とは別の集計)からも読み取れます。主な内訳は「脆弱性を悪用した攻撃」51件、「正規ユーザへのなりすまし」37件、「システムの設定不備を悪用した攻撃」34件です。続いて「不審メール(フィッシング等)」23件、「パスワード推測(パスワードリスト攻撃等)」18件と、上記の手口が実際に確認されています。
被害の原因としても、古いバージョンの利用や修正プログラムの未導入、設定の不備、ID・パスワード管理の不備が上位に並びます。
出典・参考資料(1件)
不正アクセスで起こりうる被害・実際の事例
侵入を許すと、顧客情報や機密情報の漏えい、Webサイトの改ざん、アカウントの乗っ取り、他社を攻撃するための踏み台化、ランサムウェアによる業務停止など、被害は多岐にわたります。金銭を直接狙う不正送金や不正購入も継続して発生しています。
実際の件数を、最新の公式統計で見てみます。
令和6年における不正アクセス行為の認知件数は5,358件であり、前年(令和5年)と比べ、954件(約15.1%)減少した。
不正アクセス後に行われた行為別に内訳を見ると「インターネットバンキングでの不正送金等」が最も多く(4,342件)、次いで「メールの盗み見等の情報の不正入手」(193件)、「インターネットショッピングでの不正購入」(180件)の順となっている。
出典:不正アクセス行為の発生状況(令和7年3月公表)|国家公安委員会・総務省・経済産業省
統計上は金銭に直結する不正送金が突出しますが、これはインターネットバンキングを狙うケースを多く含みます。法人にとっては、これらに加えて顧客情報の漏えい、業務システムの停止、自社サーバーを踏み台にした二次被害といった影響も軽視できません。件数そのものは前年より減ったものの、その推移は後ほど詳しく見ます。
手口 × 対応する対策の対応表
チェックリストの各対策が、どの手口をふさぐために効くのかを対応づけると、優先順位を判断しやすくなります。
| 手口 | パスワードリスト攻撃 | フィッシング | 脆弱性攻撃 | なりすまし | マルウェア感染 |
|---|---|---|---|---|---|
| 主な内容 | 漏えいしたID・パスワードを使い回してログインを試みる | 偽のメール・サイトでID・パスワードを入力させ盗む | サーバ・アプリ・VPN機器の弱点を突いて侵入する | 盗んだ正規IDでログインし、利用者を装って操作する | 不正プログラムで情報窃取・遠隔操作を行う |
| 対応する主な対策 | パスワードの使い回し防止/多要素認証/不審なログインの検知 | 不審なメール・URLを開かない/従業員教育・訓練/多要素認証 | OS・ソフトの更新(パッチ適用)/脆弱性診断/不要サービスの停止 | 多要素認証/アクセス権限の最小化/不正なアカウント操作の検知 | 不審な添付・URLを開かない/端末やネットワークの脅威検知(EDR・NDR等) |
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不正アクセスに気づく兆候と、被害を受けたときの応急処置・相談先
不正アクセスは、管理者が普段どおり操作していても気づけないことがあります。だからこそ、侵入をうかがわせる兆候と、被害が疑われたときの初動を、あらかじめ手順にしておくことが大切です。
不正アクセスに気づくための兆候(チェック方法)
次のような変化は、侵入や乗っ取りのサインとして注意したいポイントです。
- 身に覚えのないログイン通知や、見慣れない場所・端末からのログイン履歴がある
- 覚えのない購入・送金・設定変更が記録されている
- パソコンやスマートフォンの動作が急に重い、発熱する
- データ通信量が急に増えている、見慣れないプログラムが動いている
- アカウントのパスワードが勝手に変更され、ログインできなくなった
一つひとつは他の原因でも起こり得ますが、複数が重なるときは不正アクセスを疑い、次の応急処置に移ります。
被害時の応急処置フロー
被害が疑われたら、まず被害を広げないことを最優先にします。手順の骨子は、ネットワークからの切り離し、安全な別の端末からのパスワード変更、証拠の保全、そして相談です。
- 対象の端末・サーバをネットワークから切り離し、被害の拡大を止める
- 感染していない安全な別の端末から、影響を受けたアカウントのパスワードを変更する
- 原因調査や被害の証明に備えて、ログイン履歴などの記録を保全する
- 警察のサイバー犯罪相談窓口やIPAの相談窓口に連絡する
証拠の保全について、警察庁は次のように促しています。
ログイン履歴が確認できる場合は、ログイン画面を保存・印字等を行い、証拠を保全してください。
出典:不正アクセス対策|警察庁サイバー警察局
保全したログイン履歴などは、原因の特定や被害の証明に役立ちます。復旧を急ぐあまり記録を上書きしてしまわないよう、証拠の保存を先に済ませておきます。
公的な相談先(警察庁・IPA)
被害に遭った、あるいは疑わしいときは、公的な窓口に相談できます。警察庁は、保存したログイン履歴などを持参して最寄りの警察署またはサイバー犯罪相談窓口に通報・相談するよう案内しています。技術的な相談は、IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ安心相談窓口」も利用できます。いずれも、状況の整理と次の一手を決める助けになります。
出典・参考資料(2件)
そもそも不正アクセスとは?件数の推移と背景
ここまでで対策の全体像を押さえたところで、定義・法制度・件数の推移を最小限に補います。経営層への説明材料としても使える範囲で整理します。
不正アクセスとは
不正アクセスとは、アクセスする権限のない者が、他人のIDやパスワードを使ったり、システムの弱点を突いたりして、本来利用できないコンピュータを利用できる状態にする行為を指します。
「不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)」は、不正アクセス行為を大きく2つの類型で定義しています(第2条第4項)。他人の識別符号(ID・パスワード等)を無断で入力してアクセス制御を破る「識別符号窃用型」と、識別符号以外の情報や指令を入力して弱点を突く「セキュリティ・ホール攻撃型」です。本記事で扱う「なりすまし」と「脆弱性攻撃」は、この2つの類型に対応します。
不正アクセス禁止法と罰則(背景)
不正アクセス禁止法は、第3条で「何人も、不正アクセス行為をしてはならない」と定めています。違反した場合の罰則は、次のとおりです。
第十一条 第三条の規定に違反した者は、三年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
第十二条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
出典:不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成11年法律第128号)|e-Gov法令検索
不正アクセス行為そのものは「三年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金」、他人のID・パスワードを不正に取得・保管・提供する行為などは「一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金」の対象です。2025年6月に施行された改正刑法で懲役・禁錮が「拘禁刑」に一本化されたため、現行の条文表記は「拘禁刑」です。
認知件数はどう推移しているか(統計・背景)
不正アクセスの認知件数は、令和2年が2,806件、令和3年が1,516件、令和4年が2,200件と推移した後、令和5年に6,312件へと増えました。直近の令和6年は5,358件で、前年比では約15.1%の減少です。
単純な右肩上がりではなく、令和5年に過去最多水準まで増えたあと令和6年は減少に転じたものの、令和2〜4年(1,500〜2,800件台)と比べると高い水準が続いている、という見方が実態に近いといえます。
背景には、攻撃ツールの流通で攻撃のハードルが下がったこと、テレワークなど働き方の多様化で社外からの接続が増えたこと、スマートフォンの普及で入口が広がったことなどがあります。件数の増減にかかわらず、金銭を狙う不正送金が被害の中心である以上、対策の手を緩められる状況ではありません。
出典・参考資料(1件)
自社だけで守りきれない領域はツール・サービスで補う
ここまでの対策には、自前で着実に潰せるものと、専用のツール・サービスに任せた方がよいものが混在しています。どこまで自前で、どこから外部かを整理すると、投資の判断がしやすくなります。
自前でできること/外部に任せるべきことの線引き
パスワードポリシーの徹底、多要素認証の有効化、OSやソフトの更新、アクセス権限の見直し、従業員教育は、追加のツールがなくても自社で進められる領域です。まずはここを着実に固めることが、費用対効果の面でも合理的です。
一方で、ネットワークやエンドポイントを常時監視して侵入を検知する、アカウントの乗っ取りや不正な取引をリアルタイムに見分ける、社内LANにつながった不正な端末を捕まえる、といった継続的な監視・検知は、人手だけで回すのが難しい領域です。脆弱性診断のように専門性が要る作業も、外部の力を借りる方が確実です。
前提として、どれだけ対策を重ねても侵入の可能性をゼロにはできません。だからこそ、防ぐための対策と、入られたことをいち早く見つけて被害を抑えるための検知・対応を、両輪でそろえておく考え方が現実的です。
EDR・WAF・IDS/IPS・UTM・多要素認証の違いと使いどころ
セキュリティ製品は横文字が多く、名前だけでは違いが掴みにくいものです。整理の軸は「何を守るのか(守る対象のレイヤー)」です。それぞれの守備範囲は次のように分かれます。

多要素認証は、ログインという「アカウント」の入口を守ります。WAFは、公開しているWebアプリケーションを狙う攻撃から「アプリケーション層」を守る仕組みで、IPAはWAFを「ウェブアプリケーションの脆弱性を悪用した攻撃からウェブアプリケーションを保護するセキュリティ対策の一つ」と説明しています。
EDRは、従業員のパソコンや業務サーバといった「端末(エンドポイント)」の不審な動きを検知し、調査や初動対応を支援します。UTMは、ファイアウォールやウイルス対策など複数の機能を1台にまとめ、ネットワークの出入口をまとめて守る製品です。
ネットワークを流れる通信を見張るのがIDS/IPSです。両者の違いは、総務省の用語集が中立に説明しています。
出典:用語辞典(侵入検知システム/侵入防止システム)|総務省 国民のためのサイバーセキュリティサイト
- 侵入検知システム(IDS):インターネットから送られてくるパケットを識別することで、不正侵入やアタック、事前調査を検知するシステム。…不正なアクセスが発見された場合には、電子メールやアラームなど、事前に設定した方法で、管理者に連絡する機能を持ちます。
- 侵入防止システム(IPS):…侵入検知システムの機能に加えて、不正なパケットを自動的に遮断する機能を持ちます。
IDSは検知して知らせるところまで、IPSは検知に加えて自動で遮断するところまでを担います。守る対象が「アカウント」「アプリケーション」「端末」「ネットワーク」のどこかを意識すると、自社に足りない部分が見えてきます。次の表で、種別ごとの守備範囲と使いどころを俯瞰します。
出典・参考資料(2件)
| ツールの種別 | EDR(Endpoint Detection and Response) | WAF(Web Application Firewall) | IDS/IPS(不正侵入検知・防御システム) | UTM(統合脅威管理) | 多要素認証(MFA) |
|---|---|---|---|---|---|
| 主に守る対象レイヤー | 端末(PC・サーバー) | Webアプリケーション | ネットワーク | ネットワークの出入口 | アカウント(本人認証) |
| 主に防げる手口・脅威 | マルウェア感染、侵入後の不審なプロセス実行・内部活動 | SQLインジェクション、クロスサイトスクリプティングなどWebのぜい弱性を突く攻撃 | 既知の攻撃パターンに合致する不審な通信・侵入の試み | 外部からの侵入、マルウェア、不正サイトへの通信などを複合的に | パスワードリスト攻撃やフィッシングによるなりすましログイン |
| 自前運用・外部委託の目安 | 検知後の初動対応に専門知識が要るため、MDRなどの外部委託と相性が良い | クラウド型なら自社導入も進めやすく、細かな調整は委託も選択肢 | シグネチャ更新やアラート対応の体制が必要で、SOCへの委託も一般的 | 1台で複数機能を担えるため、専任担当を置きにくい中小企業でも導入しやすい | 多くのサービスに標準搭載され、自社の設定で導入できる |
| 代表的な使いどころ | 端末での侵入をいち早く捉え、被害が広がる前に隔離したい | 公開しているWebサイト・Webサービスを不正な通信から守りたい | ネットワークを流れる通信を監視し、侵入の兆候を検知・遮断したい | 複数のセキュリティ機能をまとめて入口で対策したい | ID・パスワードが漏れても、不正ログインそのものを防ぎたい |
不正アクセス対策に役立つサービス
ここからは、自前では潰しきれない領域を補うサービスを紹介します。先ほどの表で整理したEDR・WAF・IDS/IPS・UTM・多要素認証は、いわば「入口」や「端末」「アプリ」を守る対策でした。
ここで取り上げる3製品は、その表が主にカバーしない領域——ネットワークに侵入されたあとの内部活動の検知(NDR)、なりすましログインや不正取引といったアカウント・取引の見分け、社内LANへの不正な端末接続の遮断(NAC)——をそれぞれ担う製品です。
ここで取り上げるのは代表的な3製品です。守る対象のレイヤーや検知方式、料金まで含めて不正アクセス検知システムを幅広く比較検討したい場合は、4タイプ別に18製品を整理した以下の記事もあわせてご覧ください。
不正アクセス検知システムおすすめ18選|4タイプ別の選び方を徹底比較
ファイアウォールやWAF(Web Application Firewall:Webアプリケーション用の防御壁)で入口は固めたものの、漏えいしたIDとパスワードを使った大量ログインや、すり抜けたマルウェア(ウイルス)が社内で広がる動きまでは捉…
| サービス名 | Network Blackbox | Sardine | L2Blocker |
|---|---|---|---|
| 検知レイヤー(守備範囲) | 社内ネットワーク(NDR) 内部に侵入した脅威を検知 | アカウント・取引層 なりすまし・不正取引を検知 | ネットワーク接続制御(NAC) 不正な端末の接続を検知・遮断 |
| 主な検知対象 | 内部に侵入した既知・未知のサイバー脅威、標的型攻撃 | アカウント乗っ取り(ATO)・なりすまし登録・決済不正 | 許可されていない端末(PC・IoT・モバイル等)のLAN接続 |
| 検知方式 | 100%フルパケットキャプチャ+シグネチャ/振る舞い異常検知 | 行動バイオメトリクス+デバイスインテリジェンス+AI | ARPパケット監視+ホワイトリスト照合 |
| 導入形態 | アプライアンス(ミラーリング導入) エージェント不要 | SaaS型プラットフォーム 各タッチポイントに組み込み | アプライアンス(センサー設置) エージェント不要/クラウド・オンプレ対応 |
| 料金(目安) | 要問い合わせ | 要問い合わせ | 要問い合わせ |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 詳細を見る |
※2026年9月時点の各社公式情報等に基づきます。料金を公開していないサービスは「要問い合わせ」と記載しています。最新の料金・仕様は各社の公式情報をご確認ください。
1. Network Blackbox(クワッドマイナージャパン)

株式会社クワッドマイナージャパンが提供するNetwork Blackboxは、ネットワークを流れる全パケットを収集して脅威を検知・分析するNDR(Network Detection and Response)製品です。パソコンなどの端末ではなく、ネットワークそのものを見張る位置づけで、内部に入り込んだ脅威の可視化を担います。
「100%フルパケットキャプチャ」を基盤に、収集・検知・ハンティング・フォレンジック・対応の5つの機能を備えます。全パケットを保存するため、検知した後に過去の通信まで遡って原因を追跡できる点が特徴です。導入はミラーリング方式でネットワークへの影響を抑えられ、既存のEDRやSIEMともSyslog・REST API経由で連携します。
攻撃の想定シナリオに沿って脅威を探すハンティングは、MITRE ATT&CKのフレームワークに基づいています。料金は要件に応じた個別見積もりです。
2. Sardine(DGビジネステクノロジー)

端末の情報と操作のわずかな癖からリスクを見分けるのがSardineです。米国のSardine AIが開発し、国内では株式会社DGビジネステクノロジーが正規代理店として販売・導入・サポートを担っています。守る対象は、パスワードを破る侵入よりも、正規の利用者になりすますアカウント不正や取引時の不正です。
検知の中心となるのは、タイピングやマウス操作などの挙動を読む行動バイオメトリクスと、OS・ブラウザ・端末情報を収集するデバイスインテリジェンスです。これらをAIと、多数のリスク特性を持つルールエンジンで組み合わせ、会員登録・ログイン・情報変更・注文・決済・出金といった各タッチポイントに適用できます。
アカウントの乗っ取りやなりすまし登録に加え、決済不正や取引モニタリング、KYC・AML(マネーロンダリング対策)までを1つのプラットフォームでカバーする統合型です。会員サイトやECサイト、金融・決済サービスを自社で運営し、利用者のアカウントや取引を不正から守りたい事業者に向いています。料金は問い合わせベースとなります。
3. L2Blocker(エクスジェン・ネットワークス)

L2Blockerは、社内LANにつながった許可されていない機器を検知し、その通信を遮断する、エクスジェン・ネットワークス株式会社のネットワークアクセス制御システムです。持ち込み端末やなりすまし接続といった、内側からの不正な接続に的を絞って守ります。
仕組みは、セグメントごとに設置したセンサーがARPパケットを読み取り、承認済み機器のリストにない端末を見つけて止める仕組みです。端末側に専用ソフト(エージェント)を入れる必要がないため、スマートフォンやIP電話、各種OSの機器など、エージェントを導入しにくい対象までカバーできます。導入時に既存のLAN構成を変える必要はなく、収集だけのモードから始めて段階的に自動遮断へ移行できる運用にも対応します。
管理サーバーはクラウド版とオンプレミス版から選べ、評価機の貸し出しも用意されています。
まとめ
不正アクセス対策は、従業員側と管理者側でやることを分けて棚卸しすると、自社の抜け漏れが見えてきます。パスワードの使い回し防止・多要素認証・OS更新・権限の見直し・従業員教育といった自前で着実に潰せる対策から着手し、各対策は「何をどうするか」まで踏み込んで実装するのが近道です。
そのうえで、ネットワークやアカウント、端末の常時監視、脆弱性診断など自社だけでは回しきれない領域は、専用のツール・サービスに任せる判断が現実的です。防ぐ対策と、入られたことをいち早く見つける検知・対応をそろえ、万一のときの応急処置と相談先まで用意しておけば、被害を最小限に抑えられます。
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よくある質問(FAQ)
Q. 不正アクセス対策とは何ですか?
A. 不正アクセス対策とは、権限のない第三者による不正なログインやシステムへの侵入を防ぎ、万一侵入されても早期に検知して被害を抑えるための取り組み全般です。大きくは、従業員一人ひとりが行うパスワード管理や多要素認証といった対策と、会社・管理者側が仕組みで備える権限設計・監視・体制づくりの2つに分かれます。担当範囲を分けて棚卸しすると、自社の未実施項目が見えてきます。
Q. 不正アクセス対策のEDRとWAFは何が違いますか?
A. 不正アクセス対策におけるEDRとWAFは、守る対象が異なり、EDRは従業員のパソコンや業務サーバーといった「端末」を、WAFは公開しているWebアプリケーションを守ります。EDRは端末上の不審な動きを検知して調査・初動対応を支援し、WAFはWebサイトを狙うSQLインジェクションなどの攻撃を通信の段階でふせぎます。
守る対象のレイヤーが違うため両者は競合せず、自社が守りたい対象に応じて使い分けます。
Q. 中小企業は不正アクセス対策を何から始めればよいですか?
A. 中小企業は、追加のツールがなくても自社で進められる対策から始めるのが現実的です。具体的には、複雑なパスワードの設定と使い回しの防止、多要素認証の有効化、OS・ソフトの更新、アクセス権限の見直し、従業員教育です。これらは費用対効果が高く、専任担当を置きにくい規模でも着手できます。
そのうえで、常時監視や脆弱性診断など人手だけでは回しにくい領域を、UTMのように1台で複数機能をまとめられる製品や外部サービスで補うと、無理なく守りを広げられます。
Q. 不正アクセス対策で費用をかけずにできることはありますか?
A. あります。パスワードの適切な管理、多要素認証の有効化、OS・ソフトの更新、アクセス権限の最小化、不要なアカウント・サービスの停止は、多くが追加費用なしで実施できます。多要素認証は主要なクラウドサービスに標準搭載されていることが多く、自社の設定で有効にできます。これらの基本対策だけでも、パスワードリスト攻撃やなりすましといった代表的な手口の多くをふさげます。
Q. 不正アクセスされたかどうかは、どうすれば気づけますか?
A. 不正アクセスは、身に覚えのないログイン通知や見慣れない場所からのログイン履歴、覚えのない送金・設定変更、端末の急な重さ・発熱、通信量の急増といった変化から気づけます。一つひとつは他の原因でも起こり得ますが、複数が重なるときは不正アクセスを疑います。管理者が普段どおり操作していても気づけないことがあるため、EDRやNDRなどで継続的に監視する仕組みを併せて持っておくと、発見が早まります。
Q. 不正アクセスの被害に遭ったら、どこに相談すればよいですか?
A. 不正アクセスの被害は、最寄りの警察署またはサイバー犯罪相談窓口に通報・相談できます。技術的な相談は、IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ安心相談窓口」も利用できます。相談の前に、対象の端末をネットワークから切り離し、安全な別の端末からパスワードを変更したうえで、ログイン履歴などの証拠を保全しておくと、原因調査や被害の証明に役立ちます。
出典・参考資料(2件)
Q. 多要素認証を導入すれば、不正アクセスは防げますか?
A. 多要素認証はなりすましログインを大きく減らせますが、それだけで不正アクセスをゼロにはできません。多要素認証はパスワードが漏れても突破されにくくする有効な対策ですが、脆弱性を突く攻撃やマルウェア感染など、認証を経由しない手口には別の対策が必要です。防ぐための対策と、入られたことをいち早く見つける検知・対応を両輪でそろえる考え方が現実的です。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。















