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法人の資産運用とは?余剰資金で選べる運用手段一覧と利回り・リスク・税務を解説

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事業で利益が積み上がり、運転資金を差し引いても普通預金に数千万円から億単位の余剰資金が眠っている。金利がほぼゼロのまま置きっぱなしにするのはもったいないと感じつつ、会社のお金をどう運用すればよいのか、勝手が分からないという声は少なくありません。

個人であればNISAや証券口座での運用に馴染みがあっても、法人となると「そもそも何で運用できるのか」「個人と何が違うのか」「運用益にどう課税されるのか」といった基本から整理し直す必要があります。まず必要なのは、法人が選べる運用手段の全体像です。

本記事では、法人が余剰資金で選べる主な運用手段を、利回りの目安・リスク・流動性の観点から一覧で整理します。そのうえで、個人と法人の運用の違い、運用益にかかる税務・会計の扱い、リスクと「余剰資金の線引き」、暗号資産という新しい選択肢、そして始め方の手順まで解説します。自社に合う運用先を絞り込むための判断材料としてご活用ください。

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なぜ法人が余剰資金を運用するのか

はじめに、余剰資金を運用に回す意味を短く確認します。理由は大きく2つです。

1つは、インフレによる実質的な目減りを防ぐことです。物価が上がる局面では、金利がほぼつかない預金に資金を置いたままにすると、額面は変わらなくても購買力(同じ金額で買えるモノの量)は少しずつ下がります。もう1つは、本業とは別の収益源をつくることです。景気や取引先の状況に業績が左右されやすい企業ほど、余剰資金からの運用益が経営の安定に寄与する場面があります。

ただし、運用は本業の資金繰りを守ることが大前提です。「いくらまで・どの期間で回してよいか」という線引きは後半で詳しく扱います。まずは、法人が実際に選べる運用手段の全体像から見ていきましょう。

法人が選べる運用手段の一覧

ここからは、法人が余剰資金で選べる主な運用手段を一覧で整理します。利回りの目安・主なリスク・流動性(換金のしやすさ)・向いている会社の4つの観点で並べました。身近で低リスクなものから専門性やリスクの高いものへとおおまかに並べていますが、厳密なリスクの順番ではありません(たとえば4番目の仕組債は、続く投資信託や株式より高リスクな商品です)。

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運用手段利回りの目安主なリスク流動性向いている会社
定期預金・現預金年0.0数〜0.数%程度インフレで実質価値が目減り高い(すぐ引き出せる)元本を減らせない・近く使う予定がある会社
国内債券(国債・社債)国債は年1〜2%程度(長期は2%台)・社債はやや高め発行体の信用リスク・金利変動中〜低(満期保有が基本)安定した利息収入を得たい会社
外国債券(米国債など)年3〜5%程度(米ドル建て)為替変動+発行体の信用リスク為替リスクを取れる会社
仕組債表面利率は年数%〜と高めだが条件次第複雑で大きな元本割れの可能性低い仕組みを十分理解できる会社(要注意)
投資信託商品により幅広い(年数%程度が目安)価格変動(分散で軽減)高い(原則いつでも売買可)少額から分散投資したい会社
国内株式(高配当株など)配当利回り年3〜4%程度+値上がり益価格変動が大きい高い値動きを許容し配当も狙う会社
外貨・外貨建MMF米ドル建てで年3〜4%程度為替変動高い(MMFは短期で換金可)外貨建ての取引・支払いがある会社
不動産・REITJ-REITの分配利回りは年4〜5%程度空室・価格変動(REITは価格変動)実物は低い/REITは高い長期の安定収入を求める会社
金・コモディティ利息・配当はなく値上がり益が源泉価格変動(収益は値上がり益のみ)中〜高分散・インフレ対策の一部に組み入れたい会社
法人向け生命保険解約返戻金による(保障が主目的)早期解約で元本割れ・税制改正の影響低い保障を確保しつつ資金を積み立てたい会社
ヘッジファンド・私募運用戦略により幅広い高リスク・情報開示が限定的低い(解約制限あり)一定額を長期で預けられる会社
暗号資産(運用)ステーキング報酬 年数%程度(変動)価格変動が非常に大きい・会計/税務が特殊中(銘柄・方式による)新しい選択肢として一部で検討する会社(詳細は後述)

※利回りは2026年7月時点の一般的な水準の目安で、確実な利回りを保証するものではありません。市場環境・商品・発行体により変動します(国内債券の水準は財務省「国債金利情報」などで確認できます)。実際の条件は各金融機関・商品の最新情報をご確認ください。

それぞれの運用手段について、次の章から利回り・リスク・流動性と、法人ならではの注意点をもう少し詳しく見ていきます。一番下の「暗号資産(運用)」は、従来の手段とは性質が異なる新しい選択肢のため、専用の章(暗号資産による運用)でまとめて解説します。

主要な運用手段それぞれの特徴

ここからは、一覧表で挙げた運用手段を1つずつ掘り下げます。自社の目的(安全重視か、利回り重視か、いつ使う資金か)と照らし合わせながら読み進めてください。

定期預金・現預金

最も身近で、元本割れの心配がほぼない運用先です。すぐに引き出せる流動性の高さが強みで、近く使う予定のある資金の置き場所として適しています。一方で金利はごくわずかにとどまるため、物価上昇局面では実質的な価値が目減りする点に注意が必要です。「守り」の中心に据えつつ、余裕資金の一部を他の手段に振り向ける、という組み立てが基本になります。

国内債券(国債・社債)

国や企業にお金を貸し、満期まで保有して利息を受け取る運用手段です。預金より高い利回りを狙いつつ、株式ほど価格が大きく動かないため、安定した利息収入を求める会社に向いています。社債は発行体(企業)が破綻すると元本や利息が支払われない信用リスクがあり、一般に国債より社債のほうがリスクは高くなります。満期前に売却すると価格変動の影響を受けるため、満期まで持てる資金で取り組むのが基本です。

外国債券(米国債など)

海外の国や企業が発行する債券で、国内債券より高い利回りが期待できる傾向があります。その代わり、為替が円高に振れると円換算の受取額が目減りする為替変動リスクが加わります。発行体の信用リスクと為替リスクの両方を許容できる会社に向く選択肢です。受け取る利息や為替差益は法人税の課税対象になります。

仕組債

債券にオプション取引などを組み合わせ、表面上の利回りを高く見せる金融商品です。特定の株価や為替が一定条件を満たすと高い利息が得られる一方、条件を外れると大きな元本割れが生じる設計のものが多く、仕組みは複雑です。利回りの数字だけで判断せず、どのような条件でどれだけ損失が出るのかを十分に理解できない限り、余剰資金の運用先として安易に選ぶべきではありません。

投資信託

運用会社が多数の投資家から集めた資金をまとめ、株式や債券などに分散投資する商品です。1本購入するだけで自動的に分散が効くため、少額から始めやすく、原則としていつでも売買できる流動性の高さも魅力です。バランス型や債券重視型など、リスクの取り方に応じて商品を選べます。ファンドラップのように運用を一任するサービスもありますが、その分手数料が高くなる傾向がある点は確認しておきましょう。

国内株式(高配当株など)

株式は、値上がり益(キャピタルゲイン)と配当(インカムゲイン)の両方を狙える一方、価格変動が大きい運用手段です。高配当株を長期保有して配当収入を得る戦略もありますが、株価の下落で含み損を抱える可能性は常にあります。値動きを許容できる範囲で保有することが前提です。法人が受け取る配当には、後述の受取配当等の益金不算入という仕組みが関係します。

外貨・外貨建MMF

米ドルなどの外貨で資金を保有し、外貨の金利を得る運用手段です。外貨建MMF(マネー・マーケット・ファンド)は主に短期の債券などで運用され、比較的短期間で換金しやすいのが特徴です。金利水準は外貨に連動しますが、為替が円高に動くと円換算の価値が下がる為替変動リスクがあります。外貨建ての取引や支払いがある会社にとっては、為替変動への備えを兼ねた選択肢にもなります。

不動産・REIT

収益不動産を保有して家賃収入を得る方法は、長期の安定収入が見込める一方、空室リスクや価格変動があり、換金に時間がかかる(流動性が低い)点が特徴です。実物不動産は金額も大きくなります。より手軽に不動産に投資したい場合は、証券取引所に上場するREIT(不動産投資信託)という選択肢があり、少額から購入でき流動性も高い代わりに、価格が日々変動します。安定収入を求めるか、換金性を優先するかで使い分けます。

金・コモディティ

金(ゴールド)などのコモディティ(商品)は、利息や配当を生まず、値上がり益が収益の源泉となります。株式や債券とは異なる値動きをしやすいため、資産全体の分散やインフレ対策の一部として組み入れられることがあります。単体で大きなリターンを狙う対象というより、ポートフォリオ(資産の組み合わせ)を安定させる補助的な位置づけで検討するのが一般的です。

法人向け生命保険

経営者の万一に備える保障を確保しながら、解約返戻金として資金を積み立てられる商品です。かつては「支払保険料を全額損金にできる節税策」として使われた時期もありましたが、2019年(令和元年)の通達改正で損金算入のルールが大きく見直されました(詳細は税務・会計の章で解説します)。

早期に解約すると元本割れする可能性があり、あくまで保障を主目的に、資金の積み立てを兼ねる手段として捉えるのが実態に合っています。

ヘッジファンド・私募商品

相場の上下にかかわらず利益を追求するとされる運用戦略の商品で、まとまった資金を長期で預けられる会社が対象になります。一般的な投資信託に比べて情報開示が限定的で、解約できるタイミングが制限される(流動性が低い)ものが多く、リスクも高めです。仕組みや手数料、解約条件を十分に確認したうえで、資産全体の一部にとどめて検討する対象といえます。

個人の運用と法人の運用の違い

同じ「資産運用」でも、個人と法人では扱いが大きく異なります。ここでは、その違いの要点を対比で押さえます。各制度の詳しい課税の仕組みは、次の税務・会計の章で条文とともに解説します。

個人と法人の運用益の課税の違いを対比した図。個人は上場株式などの運用益を申告分離課税で完結でき、税率は20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)で、NISA等の非課税制度が使える。法人は運用益だけを切り出す仕組みがなく本業の損益と合算して法人税等の対象になる一方、運用損を本業と相殺でき、受取配当等の益金不算入があり、NISAは使えない。

まず、法人名義での運用は可能です。証券会社などで法人口座を開設すれば、株式・債券・投資信託といった商品を会社として保有・運用できます。口座開設には登記事項証明書や実質的支配者の確認書類などが必要になり、個人口座より手続きは煩雑になります。

税金の扱いも根本的に異なります。個人が上場株式などを売って得た利益は、他の所得と切り離して一定税率で課税する「申告分離課税」で完結します。国税庁の説明でも、上場株式等の譲渡益は次のように定められています。

譲渡益に相当する金額に15.315パーセント(他に住民税5パーセント)の税率を乗じて計算した金額の所得税および復興特別所得税

出典:国税庁 タックスアンサー No.1476「特定口座制度」(nta.go.jp

つまり個人は、所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%を合わせた20.315%の一定税率で完結します。一方、法人には運用益だけを切り出して課税する仕組みはなく、運用益は他の事業の損益と合算されて法人税等の対象になります(次章で条文を確認します)。この「合算される」という点が、個人との最も大きな違いです。

その一方で、法人ならではの有利な面もあります。運用で損失が出た場合に本業の利益と相殺できること、受け取った配当の一定割合を益金に算入しなくてよい仕組みがあること、そして個人向けのNISAのような非課税制度は法人では使えないこと。これらの具体的な扱いを、次の章で整理します。

運用益の税務・会計上の扱い

ここからは、法人が運用で得た利益や損失が、税務・会計上どう扱われるのかを整理します。「税理士に任せればよい」で終わらせず、基本の課税構造を押さえておくと、運用手段を選ぶ際の判断が変わります。

運用益は法人税の課税所得に合算される

法人の所得は、益金から損金を差し引いて計算されます。運用益もこの「益金」に含まれ、本業の損益と合算されたうえで法人税等の対象になります。法人税法は所得の計算方法を次のように定めています。

内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。

出典:法人税法 第22条第1項(e-Gov法令検索

個人の申告分離課税のように運用益だけを一定税率で完結させることはできず、運用益も会社全体の所得の一部として法人税等の対象になる、というのが法人の基本構造です。

期末の時価評価(含み益への課税に注意)

法人が保有する有価証券は、保有の目的によって決算期末の評価方法が変わります。法人税法では、次のように区分されています。

一 売買目的有価証券(短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的で取得した有価証券として政令で定めるものをいう。…) 当該売買目的有価証券を時価法(…)により評価した金額
二 売買目的外有価証券(売買目的有価証券以外の有価証券をいう。) 当該売買目的外有価証券を原価法(…)により評価した金額

出典:法人税法 第61条の3第1項(e-Gov法令検索

短期的な値上がり益を狙う「売買目的有価証券」は、期末に時価で評価し直し、含み益・含み損が生じていれば、その評価損益がその期の益金・損金に算入されます。実際に売っていなくても、決算時点の含み益に課税される場合があるという点に注意が必要です。

一方、満期保有目的など「売買目的外」の有価証券は取得原価で評価され、期末の時価変動は損益に反映されません。個人には基本的にない考え方なので、保有目的の区分は意識しておく必要があります。

暗号資産についても同様に、法人税法で期末評価の扱いが定められています。活発な市場がある「市場暗号資産」は原則として期末に時価評価し、評価損益を益金・損金に算入します。

ただし、自社で発行した暗号資産や、譲渡制限などの一定の要件を満たす暗号資産については、近年の税制改正(令和5年度・令和6年度)で期末の時価評価の対象外とできる余地が設けられています。多くの企業が運用目的で保有する一般的な暗号資産は、原則どおり期末に時価評価される点を押さえておきましょう。詳細な要件は専門家に確認するのが確実です。

暗号資産を保有・運用する法人にとって、この含み益への課税は特有の負担になり得るため、後述の暗号資産の章でも触れます。

出典・参考資料(2件)

損失の繰越(10年)と受取配当等の益金不算入

法人ならではの有利な面もあります。1つは、青色申告書を提出する法人であれば、運用を含む事業で生じた欠損金(損失)を翌期以降に繰り越し、将来の利益と相殺できることです。国税庁は繰越期間を次のように示しています。

確定申告書を提出する法人の各事業年度開始の日前10年(注)以内に開始した事業年度で青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金額は、各事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入されます。
(注) 平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額の繰越期間は9年です。

出典:国税庁 タックスアンサー No.5762「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」(nta.go.jp

もう1つは、受取配当等の益金不算入です。法人が株式の配当を受け取ると、その一定割合を益金に算入しなくてよい(=課税対象から外せる)仕組みがあります。法人税法では、株式の区分に応じて次のように割合が定められています。

完全子法人株式等、関連法人株式等及び非支配目的株式等のいずれにも該当しない株式等(…)に係る配当等の額にあつては当該配当等の額の百分の五十に相当する金額とし、非支配目的株式等に係る配当等の額にあつては当該配当等の額の百分の二十に相当する金額とする。

出典:法人税法 第23条第1項(受取配当等の益金不算入)(e-Gov法令検索

余剰資金で上場株式を少額(保有割合5%以下)持つケースは「非支配目的株式等」に当たることが多く、この場合は配当の20%を益金に算入しなくてよい扱いになります。二重課税を調整するための仕組みで、個人にはない法人特有のメリットです。

いわゆる「節税保険」の位置づけ(2019年通達)

法人向け生命保険を「支払保険料を全額損金にできる節税策」として使う手法は、2019年(令和元年)の通達改正で大きく制限されました。現在は、解約したときに戻ってくる金額の割合(最高解約返戻率)に応じて、支払保険料の一定割合を資産に計上し、損金算入を繰り延べる扱いになっています。国税庁は区分を次のように示しています。

最高解約返戻率50%超70%以下 … 当期分支払保険料の額に100分の40を乗じて計算した金額
最高解約返戻率70%超85%以下 … 当期分支払保険料の額に100分の60を乗じて計算した金額

出典:国税庁 タックスアンサー No.5364-2(法人税基本通達9-3-5の2に基づく資産計上額)(nta.go.jp

たとえば最高解約返戻率が50%超70%以下の保険では、支払保険料の40%を資産計上し、残りを損金にする扱いです。「保険料を払えばその期に全額損金で節税できる」という古い前提は、現在の通達では成り立ちません。生命保険は節税目的で選ぶのではなく、保障の必要性で判断するのが実態に合っています。

ここで見た生命保険が経営者自身の保障を主目的とするのに対し、従業員の退職金づくりを税制優遇を受けながら進める制度としては、企業型DC(確定拠出年金)があります。余剰資金の運用とは目的が異なりますが、会社のお金の使い道として福利厚生の側面も整えたい場合は、仕組みや税制優遇、中小企業での選び方を以下の記事で確認できます。

運用のリスクと「余剰資金の線引き」

運用手段と税務を押さえたら、次に大切なのはリスクとの向き合い方です。本業を守りながら運用するための考え方を整理します。

「ローリスク・ハイリターン」は存在しない

運用における「リスク」とは、危険という意味ではなく、リターンが不確実である(予測できない)ことを指します。中立的な金融教育でも、次のように説明されています。

リスクとは、一般的な「危険なこと」「避けるべきこと」という意味ではなく、「リターンが不確実である(予測できない)こと」を表します。「ローリスク・ハイリターン」の金融商品は存在しません。

出典:日本証券業協会「投資の時間」LESSON3 リスクとリターン(金融経済教育推進機構 J-FLEC

高い利回りをうたう商品には、必ずそれに見合った大きなリスクがあります。表面上の利回りだけで判断せず、どのような場合にどれだけ損失が出るのかまで確認することが、法人の運用では特に重要です。

本業の資金繰りを崩さない「余剰資金」の線引き

運用に回してよいのは、あくまで当面の事業運営に支障が出ない「余剰資金」です。目安としては、月々の運転資金や近く予定している大きな支払い、不測の事態に備える手元資金を確保したうえで、当面使う予定のない資金にとどめます。すぐに使う可能性がある資金を、換金しにくい商品や値動きの大きい商品に振り向けると、いざというときに資金繰りを圧迫します。

「いくらまで・どの期間で回すか」を経営判断として明確にし、必要に応じて運用の方針やルールを社内で文書化しておくと、担当者が変わっても一貫した運用を続けやすくなります。想定する保有期間に応じて、短期で使う資金は流動性の高い手段、長期で置ける資金はリターンを狙える手段、と振り分けるのが基本の考え方です。

よくある失敗パターン

出口戦略(いつ・どうなったら売るか)を決めずに始めてしまう、節税だけを目的に仕組みの複雑な商品に手を出す、購入後に運用状況を誰も確認しない、といった進め方は失敗につながりやすいパターンです。運用は「始めて終わり」ではなく、定期的に状況を確認し、方針とずれていないかを見直す体制を用意しておくことが、本業を守りながら続けるための条件になります。

【新しい選択肢】暗号資産による運用

ここからは、従来の運用手段にはない新しい選択肢として、暗号資産による運用を取り上げます。まだ一般的とはいえませんが、余剰資金の運用先の一つとして検討する企業が現れています。暗号資産による運用の考え方と注意点を整理します。

暗号資産運用の考え方と、従来の手段との違い

法人の暗号資産運用には、大きく2つのアプローチがあります。1つは、ビットコインなどを財務資産(トレジャリー)として保有し、中長期的な価値の上昇を見込む考え方です。もう1つは、保有する暗号資産をブロックチェーンのネットワーク維持に預け入れ、その報酬を得る「ステーキング」という、利回りを生む仕組みです。ステーキングは、資産を眠らせずに報酬を得られる点で、預金の利息に近い性格を持ちます。

ただし、従来の手段と比べて注意すべき点があります。1つは価格変動の大きさで、株式以上に値動きが激しくなることがあります。2つ目は会計・税務の特殊性で、前述のとおり市場暗号資産は原則として期末に時価評価され、含み益に課税される場合があります。

3つ目は保管(カストディ)の問題で、秘密鍵の管理や不正アクセスへの備えなど、専門的な管理体制が求められます。これらの特有の負担に対応できる体制があるかどうかが、検討の分かれ目になります。

MCB FinTechカタログには、こうした暗号資産による運用を支援するサービスが掲載されています。ここでは代表的な2つを紹介します。本格的なトレジャリー運用の支援は上場企業や一定規模の企業が主な対象ですが、ステーキングのように比較的取り組みやすい仕組みもあります。自社の規模と体制に応じて検討するとよいでしょう。

CRYPTO Maxi(株式会社ICHIZEN HOLDINGS)

CRYPTO Maxi(株式会社ICHIZEN HOLDINGS)のウェブサイト

暗号資産を財務資産として本格的に保有・運用したい企業向けのコンサルティングサービスが、株式会社ICHIZEN HOLDINGSの「CRYPTO Maxi」です。暗号資産トレジャリー・DAT(Digital Asset Treasury)事業について、戦略設計から運用の実行、IR発信、監査法人対応までを一貫して支援します。主な対象は上場企業や、その傘下で暗号資産を保有する事業会社です。

特徴は、運用の実行と、会計・内部統制の整備を一つの契約でまとめて任せられる点にあります。戦略設計・運用支援・IR(投資家向け広報)/実務支援の3カテゴリー・15のソリューションで構成されています。自社開発の内部統制ツール「CRYPTO Governance」を活用し、取引枠の管理・承認フロー・取得原価や実現損益の算出・仕訳処理までをカバーします。

法人が暗号資産を保有する際につまずきやすい、期末の時価評価や監査法人対応といった実務負担に応える体制が整っています。料金は月額70万円(税別)からで、必要なソリューションの組み合わせに応じたパッケージ型です(2026年7月時点、カタログ掲載情報)。

法人が暗号資産を保有・運用するという選択肢が実務としてどの程度広がっているのかについて、同サービスを提供する株式会社ICHIZEN HOLDINGSの水野倫太郎氏は、MCB FinTechカタログの取材に対して次のように話しています。

水野倫太郎氏
株式会社ICHIZEN HOLDINGS 代表取締役
水野倫太郎氏
独自インタビューより

正直なところ、「ダット」という呼称自体はまだまだ浸透していないと感じます。一方で「トレジャリー企業」という言葉でいえば、メタプラネット様のような目立つ事例が出てきたこともあって、少しずつ広がってきている段階かなと思います。今後、暗号資産に関連する規制やルール整備が進むことで、企業が暗号資産を保有・運用するというあり方自体がさらに現実的なものになっていく余地は十分にあると考えています。

ステーキングサービス(株式会社Next Finance Tech)

Next Finance Techのステーキングサービス紹介ページ。ノンカストディアルな運用の構成図として、エンドユーザー・暗号資産交換所・Next Finance Tech・ブロックチェーンの関係を示している。

保有する暗号資産から利回りを得る「ステーキング」を、法人向けに提供しているのが株式会社Next Finance Techのステーキングサービスです。暗号資産交換所や金融機関、事業会社などの法人を対象に、日本を拠点とするノードオペレーターとしてバリデーター(ネットワークの検証者)の運用を担います。同社は2025年4月にコインチェックグループ(マネックスグループ傘下)の完全子会社となっています。

対象通貨はETH(イーサリアム)・SOL(ソラナ)・BTC(ビットコイン)の3種類です。ETH・SOLは、ネットワークに暗号資産を預けて検証作業に参加し報酬を得る一般的なステーキングに対応します。BTCについては、ビットコイン向けステーキングプロトコル「Babylon」を通じて報酬を得る仕組みに参加できる体制を備えています。

顧客が資産の管理主体を保ったまま参加できるノンカストディアル方式を採用し、日本語のダッシュボードやAPI連携にも対応します。想定利回りはネットワークの状況により変動するため、具体的な料率は問い合わせが必要です。

目的別・状況別の選び方

ここまで見てきた運用手段を、自社の目的に当てはめて絞り込みます。結論から示すと、重視するものによって選ぶべき手段の方向性が変わります。

安全性を最優先するなら

元本をできるだけ減らしたくない、近く使う予定がある資金であれば、定期預金・現預金を中心に、国内債券や外貨建MMFなど流動性が高く価格変動の小さい手段を組み合わせるのが基本です。利回りは大きくありませんが、いざというときに資金を取り出せる安心感を優先します。

利回りを狙うなら

当面使う予定がなく、値動きを許容できる資金であれば、投資信託や国内株式、外国債券、不動産・REITなどでリターンを狙う選択肢が広がります。1つの手段に集中させず、値動きの異なる複数の手段に分けることで、リスクを抑えながらリターンを追求できます。

余剰資金を眠らせず、少し働かせたいなら

「大きく増やす必要はないが、金利ゼロで置いておくのはもったいない」という場合は、安定した利息収入が見込める国内債券や、分散の効いた投資信託が候補になります。新しい選択肢に関心があれば、暗号資産のステーキングのように資産を預けて報酬を得る仕組みも、リスクを十分に理解したうえで一部を検討する余地があります。

資産配分(分散)の考え方

いずれの目的でも、資産を1つの手段に集中させないことが重要です。値動きの傾向が異なる手段を組み合わせておくと、ある資産が値下がりしても別の資産で補えることがあり、全体の変動を抑えられます。たとえば「安定重視の債券を厚めに、値上がりを狙う株式や投資信託を一部、分散のための金なども少し」といったように、自社の許容できるリスクに応じて配分を決めていきます。

法人の資産運用の始め方

最後に、実際に運用を始めるまでの流れを手順で整理します。候補を絞り込んだら、次の順番で進めるとスムーズです。

法人の資産運用の始め方を4ステップで示した図。STEP1 余剰資金を把握する(運転資金・予定の支払い・手元に残す資金を差し引き当面使わない資金を確認)、STEP2 目的と期間を決める(安全重視か利回り重視か、いつまで置ける資金かを決める)、STEP3 法人口座を開設する(証券会社などで開設し登記事項証明書や実質的支配者の確認書類を準備)、STEP4 手段を選び始める(目的と期間に合う手段を少額から始め運用状況を定期的に確認)。
  1. 余剰資金を把握する:運転資金・予定している支払い・手元に残すべき資金を差し引き、当面使う予定のない資金がいくらあるかを確認します。
  2. 目的と期間を決める:安全重視か利回り重視か、いつまで置ける資金かを決めます。ここが運用手段の選択を左右します。
  3. 法人口座を開設する:証券会社などで法人口座を開設します。登記事項証明書や実質的支配者の確認書類など、必要書類を事前に準備しておくと手続きが早く進みます。
  4. 運用手段を選び、始める:目的と期間に合った手段を選び、少額から始めて運用状況を定期的に確認します。

判断に迷う場合は、特定の金融機関に偏らず中立の立場で助言するIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)や、税務・会計の観点から顧問税理士に相談する方法があります。暗号資産のように専門的な管理が必要な運用では、対応できる専門サービスに運用や実務を委託する選択肢もあります。自社だけで抱え込まず、目的に合った相談先を活用しながら進めていきましょう。

相談先を選ぶ際は、金融コンサルティング会社によって得意な領域(資金調達・財務戦略、事業再生・M&A、会計・税務など)が分かれる点を押さえておくと、自社の課題に合った依頼先を見つけやすくなります。専門領域別の比較や費用相場の目安は、以下の記事で確認できます。

まとめ

法人の資産運用は、まず「何で運用できるか」の全体像をつかむことから始まります。定期預金から債券・投資信託・株式・不動産、そして暗号資産という新しい選択肢まで、それぞれの利回り・リスク・流動性を理解し、法人特有の税務・会計の扱いを踏まえたうえで、本業の資金繰りを崩さない範囲で自社に合う手段を選ぶことが大切です。

気になる運用手段が見つかったら、具体的なサービスの資料を取り寄せ、利回りや手数料、最低金額、法人口座の条件などを比べてみてください。

よくある質問(FAQ)

Q. 法人の資産運用とは何ですか?

A. 法人の資産運用とは、会社が事業で得た余剰資金を預金・債券・投資信託・株式・不動産などで運用し、インフレによる目減りを防いだり、本業とは別の収益源をつくったりする取り組みです。運転資金や近く使う予定のある資金を確保したうえで、当面使う予定のない資金を対象に行うのが基本です。個人の運用と違い、法人名義で口座を開いて会社として保有・運用し、運用益は法人税の課税対象になります。

Q. 法人でも資産運用はできますか?

A. 法人でも、証券会社などで法人口座を開設すれば、株式・債券・投資信託といった商品を会社名義で保有・運用できます。ただし口座開設には登記事項証明書や実質的支配者の確認書類などが必要で、個人口座より手続きは煩雑になります。まずは自社の余剰資金の額と運用の目的・期間を決めたうえで、法人口座を開設するのが実務的な進め方です。

Q. 法人の資産運用はいくらから始められますか?

A. 法人の資産運用に一律の下限額はなく、投資信託や株式などは少額からでも始められます。大切なのは金額の大小よりも、運転資金・予定している支払い・手元に残すべき資金を差し引いた「余剰資金」の範囲で行うことです。まずは少額から始めて運用状況を確認しながら、無理のない範囲で対象を広げていくのが安全な進め方です。

Q. 法人の運用益にはどのように課税されますか?

A. 法人の運用益は、個人のように運用益だけを切り出して課税されるのではなく、本業の損益と合算されて法人税等の課税所得の一部になります。個人が上場株式の譲渡益などを20.315%の申告分離課税で完結できるのとは、根本的に仕組みが異なります。

一方で法人には、運用損を本業の利益と相殺できること、青色申告法人なら損失を最長10年繰り越せること、受け取った配当の一定割合を益金に算入しなくてよい「受取配当等の益金不算入」があることなど、有利な扱いもあります。詳しくは本文の「運用益の税務・会計上の扱い」をご確認ください。

Q. 法人はNISAのような非課税制度を使えますか?

A. 法人は、NISAのような個人向けの非課税制度は利用できません。これらは個人の資産形成を支援するための制度で、法人口座での運用は対象外です。その代わり法人では、運用損と本業利益の相殺、損失の最長10年の繰越、受取配当等の益金不算入といった、法人ならではの税務上の扱いを活用することになります。

Q. 資産運用は個人と法人のどちらで行うのが有利ですか?

A. 個人と法人のどちらが有利かは一概にはいえず、運用する資金の性質と目的によって変わります。会社の余剰資金を運用するのであれば法人で行うのが自然で、運用損を本業と相殺できる・損失を10年繰り越せる・受取配当の一部を益金不算入にできるといった利点があります。

一方、個人の資金であれば、NISAなどの非課税制度や20.315%の申告分離課税を使える場面があります。運用するお金が会社のものか個人のものか、非課税制度を使いたいかなどを基準に判断するとよいでしょう。

Q. 余剰資金はいくらまで運用に回してよいですか?

A. 運転資金・近く予定している支払い・不測の事態に備える手元資金を確保したうえで、当面使う予定のない「余剰資金」に限るのが基本です。すぐ使う可能性のある資金を値動きの大きい商品に回すと、資金繰りを圧迫します。金額と期間の線引きの具体的な考え方は、本文の「運用のリスクと『余剰資金の線引き』」をご確認ください。

Q. 法人でも暗号資産で資産運用はできますか?

A. 法人でも暗号資産による運用は可能で、ビットコインなどを財務資産として保有する方法や、ネットワークに預け入れて報酬を得るステーキングなどの選択肢があります。ただし、価格変動が株式以上に大きいこと、市場暗号資産は原則として期末に時価評価され含み益に課税される場合があること、秘密鍵の管理など専門的な保管(カストディ)体制が求められることに注意が必要です。

こうした特有の実務に対応するため、暗号資産の保管・会計や運用に対応した専門サービスを活用する方法もあります。具体的な選択肢は本文の「暗号資産による運用」をご確認ください。

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監修者

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト

松嶋真倫

都市銀行にて金融実務を経験後、暗号資産関連スタートアップの創業期に参画し、市場分析・業界調査に従事。2018年にマネックスグループ入社。以降、ビットコインをはじめとするデジタルアセットからマクロ経済環境まで、金融市場を横断した調査・分析および情報発信を担う。FinTech・次世代金融領域のリサーチ統括、各種レポートや書籍の執筆、日本経済新聞など国内主要メディアへのコメント・寄稿、イベント登壇などを行う。2021年3月より現職。
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