インボイス制度への対応が一段落したころに、「次は電子インボイスが義務化されるらしい」という話を社内や取引先で耳にした方は少なくないはずです。義務なら期限から逆算して今すぐ準備を始める必要がありますし、任意なら急いで動く必要はありません。まず知りたいのは、その一点の答えではないでしょうか。
結論から言えば、2026年8月時点で、日本において電子インボイス(デジタルインボイス)の発行・交付は義務ではなく任意です。ただし、電子帳簿保存法による「電子取引データの電子保存」は義務であり、この2つは混同されがちです。本記事では、何が義務で何が任意かを整理し、今後の義務化の見込み、デジタルインボイス(Peppol)との違い、海外の動向までをまとめます。
目次
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電子インボイスは義務化されている?日本では発行・交付は「任意」
まず結論です。日本では、電子インボイス(適格請求書を電子データで交付すること)は義務ではなく、事業者が選べる任意の方法です。適格請求書は紙で交付するのが原則で、それに代えて電子データで提供することが「できる」と定められています。
根拠となるのは消費税法の条文です。適格請求書発行事業者は、書面の交付に代えて電磁的記録(電子インボイス)を提供できると規定されています。
適格請求書発行事業者は、適格請求書、適格簡易請求書又は適格返還請求書の交付に代えて、これらの書類に記載すべき事項に係る電磁的記録(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律第二条第三号(定義)に規定する電磁的記録をいう。以下第五十七条の六までにおいて同じ。)を提供することができる。
出典:消費税法 第57条の4第5項|e-Gov法令検索
ポイントは「交付に代えて…提供することができる」という表現です。紙での交付が原則にあり、電子データでの提供は事業者が選べる選択肢として位置づけられています。そのため、電子インボイスを発行しなくても法令違反にはなりません。
混同しやすいのは、適格請求書(インボイス)そのものの交付や写しの保存には義務があるという点です。これは紙か電子かを問わない義務であり、「電子で発行すること」が義務なのではありません。国税庁も、売手は買手から求められたときはインボイスを交付しなければならず、交付したインボイスの写しは保存しておく必要があると説明しています。
出典・参考資料(1件)
【一覧表】混同しやすい3制度の義務/任意
ここからは、頭の中で混ざりやすい3つの制度を、対象・義務か任意か・根拠で整理します。「電子インボイスが義務化される」という話は、義務である電子帳簿保存法の電子保存と混同されて広まっている面もあります。任意と聞いた直後に浮かぶ「でも電子帳簿保存法は義務では?」という疑問は、次の表で切り分けられます。
| 制度 | インボイス制度(適格請求書等保存方式) | 電子帳簿保存法(電子取引データの電子保存) | 電子インボイス(デジタルインボイスの発行) |
|---|---|---|---|
| 何が義務/任意か | 適格請求書の交付・写しの保存は義務。ただし紙・電子どちらで交付するかは任意 | 電子で受け取った取引データの電子保存は義務 | 発行・交付は任意(紙に代えて電子で提供「できる」) |
| 対象 | 適格請求書発行事業者(登録した課税事業者) | 原則すべての事業者(所得税・法人税の保存義務者) | 適格請求書発行事業者 |
| 根拠・時期 | 消費税法/2023年10月1日開始 | 電子帳簿保存法 第7条/2022年1月1日以後の電子取引 | 消費税法 第57条の4第5項 |
義務にあたるのは、真ん中の行の「電子取引データの電子保存」です。メールやWeb上でやり取りした請求書などの取引データは、電子のまま保存することが義務づけられています。電子帳簿保存法の条文では次のように定められています。
所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。
出典:電子帳簿保存法 第7条|e-Gov法令検索
条文の主語は「所得税及び法人税に係る保存義務者」です。消費税の課税・免税の別ではなく、所得税・法人税の申告を行う事業者が対象になるため、原則としてほとんどの事業者が該当します。一方で、電子インボイスを「発行した」場合は、その電磁的記録を保存する義務が生じます。発行そのものは任意でも、電子で発行したデータの保存は必要になる、という関係です。
この電子取引データの電子保存は、システムで対応することで経理業務の負担も抑えられます。電子帳簿保存法にどう向き合い、どのような手順で対応を進めればよいかは、以下の記事で詳しく解説しています。
電子インボイスは今後義務化される?見込みと時期
「今は任意」と分かったところで、次に気になるのは「この先はどうなるのか」でしょう。2026年8月時点で、日本政府から電子インボイスの発行を義務化する確定したスケジュールは公表されていません。
一方で、電子インボイスの標準化と普及に向けた動きは進んでいます。デジタル庁は、日本のPeppol Authority(Japan Peppol Authority)として、国際規格Peppol(ペポル)をベースにした日本の標準仕様「JP PINT」を管理しています。
デジタル庁は、日本のPeppol Authority(Japan Peppol Authority)として、electronic invoiceの国際標準仕様である「Peppol(ペポル)」をベースとした日本におけるデジタルインボイスの標準仕様(JP PINT)の管理等を行っています。
出典:デジタルインボイス(JP PINT)|デジタル庁
これらの取り組みは、あくまで電子インボイスの「標準化・普及・利活用の推進」という位置づけであり、発行を義務化する期日を示すものではありません。したがって、現時点で確定した義務化の時期はないというのが正確な理解です。ただし、標準化の基盤が整えられている以上、将来的に方針が変わる可能性まで否定はできません。
電子インボイスとデジタルインボイス(Peppol・JP PINT)の違い
「電子インボイス」と「デジタルインボイス」は似た言葉ですが、指しているものが異なります。ここでは両者の違いと、その中核にあるPeppolの仕組みを整理します。
電子インボイスとは
電子インボイスとは、適格請求書(インボイス)の記載事項を電子データでやり取りするものの総称です。PDFの請求書をメールで送る形も、広い意味では電子インボイスに含まれます。ただし、PDFは人が目で読む前提のデータで、受け取った側がシステムに手入力し直す手間が残ります。
これに対してデジタルインボイスは、売り手と買い手のシステムがそのまま処理できる、構造化された標準形式のデータを指します。日本ではその標準仕様としてPeppolをベースにしたJP PINTが定められており、狭い意味での「デジタルインボイス」はこのJP PINTに沿ったデータを指すことが一般的です。
Peppol/JP PINTの仕組み
Peppolは、請求書などの電子文書をネットワーク上でやり取りするための国際的な標準仕様です。「文書仕様」「運用ルール」「ネットワーク」の3つをまとめて定めており、ベルギーの国際的非営利組織Open Peppolが管理しています。データのやり取りは「4コーナーモデル」と呼ばれる仕組みで行われます。
Peppolは、「4コーナーモデル」と呼ばれるアーキテクチャを採用しています。ユーザー(売り手(C1))は、自らのアクセスポイント(C2)を通じ、Peppolネットワークに接続し、買い手のアクセスポイント(C3)にインボイスデータを送信し、それが買い手(C4)に届くという仕組みです。
出典:デジタルインボイスとは|デジタルインボイス推進協議会(EIPA)
JP PINTは、この4コーナーモデルのうち、売り手のアクセスポイント(C2)と買い手のアクセスポイント(C3)の間でやり取りされるデジタルインボイスの標準仕様として位置づけられています。国ごとに異なる形式を統一することで、システム間で請求書データを自動でやり取りできるようにする狙いがあります。こうしたPeppolやJP PINTに対応することも、義務ではなく事業者の選択です。
ここまでの流れと、JP PINTがどの区間の標準仕様なのかを図で整理すると、次のようになります。

海外の電子インボイス義務化動向(フランス・EU)
「海外では義務化が進んでいる」という話も、日本の状況を考えるうえで気になるところでしょう。ただし、これらはあくまで各国・地域の制度であり、ここで挙げる時期はいずれも海外のスケジュールにすぎません。日本の期限とは無関係である点に注意が必要です。
フランスでは、企業間(B2B)取引を対象に電子インボイスの義務化が段階的に導入される予定です。JETRO(日本貿易振興機構)は、そのスケジュールを次のように伝えています。
送信義務の開始は、大企業(注1)および中堅企業(注2)が2026年9月1日から、中小企業(注3)および小規模企業(注4)は2027年9月1日からとなる。一方、受信義務は、企業規模にかかわらず2026年9月1日から一律で適用される。
出典:電子インボイス、9月1日から導入予定も一部の企業は準備不足の調査結果(フランス)|JETRO
EU(欧州連合)では、公共調達の分野で電子インボイスの受領・処理が義務づけられています(指令2014/55/EU)。ただし、これは公共調達が中心で、B2B取引の全面的な義務化は、フランスのように加盟各国の国内法に委ねられています。「EUで一律に義務化されている」わけではない点は押さえておきましょう。
このように、海外では電子インボイスの義務化が広がりつつありますが、これらは日本の制度・スケジュールとは別の流れです。
出典・参考資料(1件)
電子インボイスが任意の今、日本企業ができる備え
ここまで見てきたとおり、日本では電子インボイスの発行は現在任意で、確定した義務化のスケジュールもありません。そのため、今すぐ電子インボイスの発行に対応しなければならないわけではなく、現状の運用を急いで変える必要はありません。
一方で、電子で受け取った取引データの電子保存は電子帳簿保存法ですでに義務化されており、この対応はどの事業者にも関わります。そのうえで、標準化と普及が進んでいることを踏まえると、業務効率化の観点から電子化を前向きに進める余地は十分にあります。
義務化を待たず対応するメリット
デジタルインボイスに対応すると、請求書の発行から受領・会計処理までをデータのまま連携でき、紙やPDFで発生していた手入力や転記の手間を減らせます。人が介在する工程が減るぶん、入力ミスや確認漏れも起きにくくなります。
また、受け取った取引データの電子保存は電子帳簿保存法ですでに義務化されています。請求書の発行・受領・保存を一つの仕組みでまとめて電子化しておけば、この保存義務にも自然に対応でき、制度改正のたびに個別対応に追われる負担も抑えられます。Peppol/JP PINTに対応したクラウド請求書発行システムを使えば、標準形式でのやり取りにもそのまま備えられます。
請求書の発行から受領・保存までをまとめて電子化するなら、まずは各サービスの機能や料金、Peppol/電帳法への対応状況を横並びで見比べるのが近道です。以下の記事では、請求書発行システムをタイプ別の選び方とあわせて比較しています。
まとめ
電子インボイスは、2026年8月時点で日本では発行・交付が義務ではなく任意です。義務にあたるのは電子帳簿保存法による「電子で受け取った取引データの電子保存」であり、この2つは切り分けて理解する必要があります。今後の義務化について、政府から確定したスケジュールは示されていませんが、Peppol/JP PINTを軸にした標準化は進んでいます。
義務化の有無にかかわらず、請求書業務の電子化は保存義務への対応と業務効率化の両面で意味があります。自社の請求書の発行・受領の状況を踏まえ、クラウド請求書発行システムの導入を検討してください。
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よくある質問(FAQ)
Q. 電子インボイスとは何ですか?
A. 電子インボイスとは、適格請求書(インボイス)の記載事項を電子データでやり取りするものの総称です。PDFの請求書をメールで送る形も、広い意味ではこれに含まれます。日本では適格請求書を紙で交付するのが原則で、それに代えて電子データで提供することが認められています。
Q. 電子インボイスの義務化はいつからですか?
A. 2026年8月時点で、日本には電子インボイスの発行を義務化する確定したスケジュールはありません。デジタル庁を中心に、Peppol(JP PINT)を軸にした標準化・普及の取り組みは進んでいますが、これは発行を義務づける期日を示すものではなく、現時点で発行・交付は任意です。将来的に方針が変わる可能性まで否定はできないため、効率化の観点から先回りして電子化を進める判断もあり得ます。
出典・参考資料(1件)
Q. 電子インボイスとインボイス制度は違うのですか?
A. 電子インボイスとインボイス制度は別物です。インボイス制度(適格請求書等保存方式)は、適格請求書の交付や写しの保存を求める制度で、交付そのものは紙・電子を問わず義務です。一方の電子インボイスは、そのインボイスを電子データで提供する「手段」を指し、電子で発行するかどうかは事業者が選べる任意です。「制度」への対応義務と「電子で発行するか」の選択は、分けて考える必要があります。
Q. 電子帳簿保存法による電子保存は義務ですか?
A. 電子で受け取った取引データの電子保存は、電子帳簿保存法により義務です。メールやWeb上でやり取りした請求書などの取引データは、電子のまま保存しなければなりません。対象は所得税・法人税に係る保存義務者で、原則としてほとんどの事業者が該当します。電子インボイスを「発行する」こと自体が任意なのとは別の義務であり、混同しやすい点なので注意が必要です。
出典・参考資料(2件)
Q. Peppol(JP PINT)への対応は義務ですか?
A. Peppol(JP PINT)への対応は義務ではなく、事業者の任意です。JP PINTはデジタル庁が管理する日本のデジタルインボイスの標準仕様ですが、これに対応した発行を求める法令上の義務はありません。効率化を目的に、標準形式でのデータ連携に備えて任意で対応する選択肢という位置づけです。
出典・参考資料(1件)
Q. PDFで送った請求書は電子インボイスに含まれますか?
A. PDFの請求書も、広い意味では電子インボイスに含まれます。ただしPDFは人が目で読む前提のデータで、受け取った側がシステムへ手入力し直す手間が残ります。売り手と買い手のシステムがそのまま処理できる構造化された標準形式のデータ(狭い意味でのデジタルインボイス=JP PINT)とは区別されます。
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松嶋真倫
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