給与計算を引き継いだばかりで、締め日と支払日は決まっているのに「その間に自分が何を、どの順番でやればいいのか」が頭に入っていない。前任者にはもう詳しく聞けない。そんな状態で最初に欲しいのは、個々の計算式より先に、勤怠を締めてから振込・明細を渡すまでを一枚で追える工程の地図です。
給与計算は、勤怠の集計から総支給額・控除額の計算、差引支給額の確定、賃金台帳と給与明細の作成、振込、そして預かった税金・社会保険料の納付までが、毎月決まった順序でつながっています。
この記事では、その毎月の業務フローを7ステップの手順で示したうえで、各ステップで何を確定するか、実額を通した計算例、締め日・支払日から逆算する月内スケジュール、毎月フローに埋もれがちな年次業務、つまずきやすいミスとその根拠までを一続きで解説します。
読み終えたら、自社の締め日・支払日に合わせて手順をチェックリスト化できる状態を目指します。あわせて、毎月の手作業をどこまで給与計算ソフトやアウトソーシングで軽くできるかも、最後に整理します。
目次
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給与計算の毎月の業務フロー(全体像を7ステップで)
まず、毎月の給与計算がどんな順序で進むのかを一枚で押さえます。勤怠の締めから納付まで、大きく7つのステップに分けられます。各ステップには「ここで何を確定させるか」という完了の目安を添えました。この順序どおりに1つずつ確定させれば、抜け漏れなく回せます。

- 勤怠を集計・締める:打刻漏れや残業・休日出勤の申請を承認まで取り、その月の労働時間(所定・時間外・休日・深夜)を確定させます。
- 総支給額を計算する:基本給・各種手当に、確定した労働時間から求めた割増賃金を加え、欠勤・遅刻分の控除を反映して総支給額を確定します。
- 控除額を計算する:社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金)、雇用保険料、所得税、住民税を計算し、給与から差し引く控除額を確定します。
- 差引支給額(手取り)を確定する:総支給額から控除額の合計を引き、従業員へ実際に支払う金額を確定します。
- 賃金台帳を記入し、給与明細を作成する:計算の基礎と結果を賃金台帳に記録し、従業員へ渡す給与明細を作成します。
- 給与を振り込む:振込データを作成し、給与支払日に着金するよう銀行の締切に間に合わせて振込を手配します。
- 預かった税金・社会保険料を納付する:給与から差し引いた源泉所得税・住民税を翌月10日までに、社会保険料を翌月末日までに、それぞれ納付します。
ステップ1〜4が「いくら支払うか」を決める計算の工程、ステップ5〜7が「支払い、記録し、納める」手続きの工程です。ここからは、各ステップで具体的に何を見て何を確定するのかを、実額の計算例とあわせて詳しく見ていきます。
各ステップの進め方と計算例
ここからは、7ステップのうち計算の中心になる工程を1つずつ掘り下げます。番号は前掲の全体像に対応しています。最後に、総支給額から手取りまでを1件の数字で通したモデルケースを置きました。
①勤怠を集計・締める
最初の工程は、その月の労働時間を確定させることです。タイムカードや勤怠システムのデータを締め日で締め、打刻漏れ・修正申請・残業や休日出勤の申請を、承認まで済ませます。ここが未確定のまま次に進むと、総支給額の計算をやり直すことになります。
確定させるのは、所定労働時間のほか、法定労働時間を超えた時間外労働、法定休日の労働、深夜(22時〜翌5時)の労働の各時間数です。これらは次のステップで割増賃金の計算に使うため、区分ごとに集計しておきます。この工程のゴールは、給与計算の対象月について「誰が・何時間・どの区分で働いたか」がすべて確定している状態です。
②総支給額を計算する
総支給額は、基本給に各種手当(役職手当・通勤手当など)と割増賃金を加え、欠勤・遅刻・早退があればその分を差し引いて求めます。手当のうち通勤手当などは一定額まで所得税が非課税になるため、課税・非課税を分けて扱う点にも注意します。
割増賃金には、労働基準法で定められた最低限度の割増率があります。時間外労働(法定労働時間を超える分)は25%以上、法定休日の労働は35%以上、深夜労働は25%以上、1か月60時間を超える時間外労働はその超えた分について50%以上です。これらは1時間あたりの賃金額に上乗せして計算します。
たとえば1時間あたりの賃金が2,000円の従業員が時間外労働を10時間行った場合、時間外分の割増賃金は2,000円×1.25×10時間=25,000円となります。1時間あたりの賃金額は、月給を月平均所定労働時間で割って求めます。
出典・参考資料(2件)
③控除額を計算する
総支給額が決まったら、そこから差し引く控除額を計算します。控除は大きく、社会保険料・雇用保険料・所得税・住民税に分かれます。それぞれ計算の基礎と料率が異なるため、順に確認します。
社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金保険)は、月々の給与を区切りのよい幅で区分した「標準報酬月額」に料率をかけて計算します。標準報酬月額は、毎年の算定基礎届などで等級ごとに決まる金額です。保険料は会社と従業員が半分ずつ負担します(労使折半)。健康保険料率は都道府県ごとに異なり、厚生年金保険料率は18.3%で全国一律に固定されています。介護保険料は40歳以上65歳未満の従業員から徴収します。
雇用保険料は、標準報酬月額ではなく総支給額(賃金総額)に料率をかけて計算します。令和8年度(2026年度)の一般の事業では、労働者負担は1,000分の5です。所得税は、社会保険料と雇用保険料を差し引いた後の金額を、国税庁の「源泉徴収税額表(月額表)」にあてはめて求めます。
扶養控除等申告書を提出している従業員は「甲欄」(主たる勤務先にこの申告書を提出している人向けの欄で、多くの従業員が該当します)を、社会保険料控除後の金額と扶養親族等の数で引きます。住民税は会社が計算するものではなく、前年の所得をもとに市区町村が計算し、通知された月割額をそのまま差し引きます(会社が計算する所得税との違いは、後述の計算例で改めて触れます)。
出典・参考資料(4件)
④〜⑦ 差引支給額の確定から納付まで
総支給額から控除額の合計を引くと、従業員へ実際に支払う差引支給額(手取り)が確定します(ステップ4)。金額が固まったら、賃金計算の基礎と結果を賃金台帳に記入します。賃金台帳は、労働基準法で事業主に作成・記入が義務づけられている帳簿です。
あわせて、従業員へ渡す給与明細を作成します(ステップ5)。給与明細の交付義務は所得税法が根拠で、賃金台帳とは別物です。
その後、振込データを作成して給与支払日に着金するよう手配し(ステップ6)、最後に、給与から預かった税金・社会保険料を納めます(ステップ7)。源泉所得税と住民税は翌月10日まで、社会保険料は翌月末日までが原則の納付期限です。給与を振り込んで終わりではなく、預かったお金を期日までに納めるところまでが毎月の一連の工程です。
出典・参考資料(2件)
モデルケースで見る計算例
ここまでの流れを、実際の数字で1件通してみます。東京都の事業所に勤める40歳未満(介護保険の対象外)・扶養親族なしの従業員で、その月の総支給額を30万円、標準報酬月額を30万円と仮定します。社会保険料は全国健康保険協会(協会けんぽ)東京支部の令和8年度保険料額表にある、従業員負担分(折半額)を用います。
| 項目 | 総支給額 | 健康保険料(従業員負担) | 厚生年金保険料(従業員負担) | 雇用保険料 | 社会保険料・雇用保険料 合計 | 課税対象額 | 所得税(源泉徴収) | 住民税 | 差引支給額(手取り) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 金額 | 300,000円 | 14,775円 | 27,450円 | 1,500円 | 43,725円 | 256,275円 | 6,320円 | 12,000円 | 237,955円 |
| 計算の根拠 | 基本給・手当・割増賃金の合計(モデルの前提) | 協会けんぽ東京支部・標準報酬月額30万円の折半額(40歳未満・介護なし) | 料率18.3%・標準報酬月額30万円の折半額 | 総支給額300,000円×5/1000(令和8年度・一般の事業の労働者負担) | 上記3項目の合計 | 総支給額−社会保険料等(300,000−43,725) | 令和8年分 源泉徴収税額表 月額表 甲欄・扶養0人。課税対象額256,275円は表の「254,000円以上257,000円未満」の行に該当 | 特別徴収税額決定通知書の月割額(前年所得ベース。ここでは仮の金額) | 総支給額−社会保険料等−所得税−住民税 |
※料率・税額は2026年8月27日時点の令和8年度の値。健康保険料率は都道府県・支部で異なります。住民税は前年所得により一人ずつ異なるため、表の金額は計算の流れを示すための仮の値です。
この表の手取り237,955円は、仮に置いた住民税12,000円を含んだ目安です。住民税は前年の所得によって一人ずつ変わるため、実際の金額は各従業員の通知額で置き換えて確認します。
住民税だけは会社が計算しない点に注意が必要です。所得税は毎月の給与から会社が税額表を引いて計算しますが、住民税は市区町村が前年所得をもとに計算し、通知された月割額を差し引くだけです。この違いを押さえておくと、控除の計算でどこを自分で計算し、どこを通知どおりに転記するのかが整理できます。
出典・参考資料(3件)
給与計算で守るべき賃金支払いの5原則
手順と並んで押さえておきたいのが、賃金の支払い方そのものを定めたルールです。労働基準法第24条は、賃金の支払いについて「通貨払い・直接払い・全額払い・毎月1回以上・一定期日払い」の5つの原則を定めています。条文の該当部分(第1項・第2項の一部)を抜粋します。
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。
出典:労働基準法 第24条(賃金の支払)|e-Gov法令検索
ここで手順とつながるのが「全額払い」です。給与から社会保険料や税金を差し引ける(③控除の工程)のは、第24条が全額払いの例外として「法令に別段の定めがある場合」と「労使協定がある場合」を認めているからです。
所得税・住民税・社会保険料の控除は前者の法定控除にあたり、社宅費や積立金など会社独自の控除は、労使協定を結んで初めて認められる協定控除にあたります。協定なしに給与から任意の項目を差し引くと、全額払いの原則に反します。
「一定期日払い」は、支払日を「毎月25日」のように特定の期日で定める必要があるという原則です。「毎月第4金曜日」のように月によって日が動く定め方は認められません。給与計算のスケジュールが、この支払日を起点に逆算で組まれるのは、この原則があるためです。
いつまでに何をやるか(締め日・支払日から逆算するスケジュール)
給与計算は「いつやるか」も重要です。毎月の段取りと、年に数回だけ発生する業務は、性質が違うため分けて把握します。まず毎月のスケジュールを締め日・支払日から逆算で組み、そのうえで年次業務を別に管理すると、「今月やること」を取り違えずに済みます。
締め日・支払日から逆算する月内スケジュール
月内の段取りは、給与支払日を終点に置いて逆算で組みます。振込は支払日当日ではなく、銀行の振込データ提出の締切(一般に支払日の1〜2営業日前)に間に合わせる必要があるため、その前に計算とチェックを終えておきます。締め日・支払日を自社の日付に置き換えて、次の流れをカレンダーに落とし込むと使えます。
| タイミング | 締め日 | 締め日の翌日〜数日 | 計算後 | 振込データ提出の締切(支払日の1〜2営業日前) | 給与支払日 | 翌月10日まで | 翌月末日まで |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| やること | 勤怠を締め、打刻漏れ・残業/休日出勤の申請を承認まで確定 | 総支給額・控除額を計算し、差引支給額を確定 | 賃金台帳への記入と給与明細の作成、金額のダブルチェック | 振込データを作成し銀行へ提出 | 給与の振込、給与明細の交付 | 源泉所得税・住民税(特別徴収分)を納付 | 社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金)を納付 |
| ねらい | 計算対象の労働時間を固定する | 支給額を固める | 誤りを支払い前に発見する | 支払日に着金させる | 一定期日払いの原則を守る | 預かった税金を期日までに納める | 預かった保険料を期日までに納める |
源泉所得税と住民税の納付期限は翌月10日、社会保険料の納付期限は翌月末日が原則です。なお住民税は、会社が給与から天引きして市区町村へ納める「特別徴収」の方式で扱います。給与を支払った月の締めだけでなく、翌月の納付日までを1つのサイクルとして押さえておくと、納め忘れを防げます。
具体的に、月末締め・翌月25日払いの会社を例にすると、月末に勤怠を締め、翌月の初旬までに計算とチェックを終えます。25日払いに間に合わせるため、その1〜2営業日前(23日ごろ)までに振込データを銀行へ提出し、25日に給与を支払います。
差し引いた源泉所得税・住民税は支払った月の翌月10日までに、社会保険料はその翌月末日までに納めます。自社の締め日・支払日をこの流れに当てはめれば、月内の段取りをそのままカレンダーに落とし込めます。
出典・参考資料(3件)
年に数回だけ発生する年次業務カレンダー
毎月のフローとは別に、特定の月だけ発生する業務があります。これらは毎月の作業に埋もれると見落としやすいため、月別に切り分けて把握しておきます。主なものは次のとおりです。
| 時期 | 3〜4月 | 6月 | 6〜7月 | 7月10日まで | 賞与の支給月 | 11月〜翌1月 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 主な業務 | 健康保険・介護保険料率の改定を給与計算へ反映 | 住民税(特別徴収)の新年度税額へ切り替え | 労働保険の年度更新 | 算定基礎届の提出(定時決定) | 賞与計算・賞与支払届の提出、賞与からの社会保険料・所得税の徴収 | 年末調整 |
| 備考 | 協会けんぽの料率は例年3月分(4月納付分)から改定される | 5月末までに市区町村から特別徴収税額決定通知書が届き、6月給与から新税額を徴収 | 前年度の確定保険料と新年度の概算保険料を申告・納付 | 4〜6月の報酬をもとに標準報酬月額を見直し、その年の9月分から翌年8月分に適用 | 賞与にも社会保険料・源泉所得税がかかる | 1年間の給与・賞与から所得税を精算。源泉徴収票・法定調書・給与支払報告書を作成 |
特に、算定基礎届で決まった標準報酬月額は、その年の9月分から翌年8月分の社会保険料に反映されます。住民税は6月に新年度の税額へ切り替わります。これらの「更新の月」を年次カレンダーで押さえておくと、月内スケジュールの計算に古い料率や税額を使ってしまう事故を防げます。
出典・参考資料(5件)
つまずきやすいミスと対策(根拠付き)
給与計算は、金額の誤りがそのまま従業員の生活と法令違反に直結します。引き継ぎ直後に間違えやすい代表的なポイントを、なぜ守らなければならないのかの根拠とあわせて確認します。
端数処理を自己流でやらない。賃金は原則として1円単位で計算し、勝手に切り捨ててはいけません。例外として認められている端数処理は、行政通達(昭和63年基発第150号)で範囲が決められています。
① 労働時間の端数処理 1か月における時間外労働、休日労働及び深夜労働の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること
② 割増賃金の端数処理 1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げること
出典:割増賃金の計算方法(昭和63年3月14日基発第150号)|厚生労働省 山口労働局
この通達で認められているのは1か月単位での端数処理で、日ごとに端数を切り捨てることはできません。これ以外の切り捨ては賃金の一部不払いとみなされるおそれがあるため、「端数はとりあえず切り捨て」という運用は避けます。
割増賃金の単価を取り違えない。時間外・休日・深夜で割増率が異なり(前掲の25%・35%・25%、月60時間超の時間外は50%)、これらが重なる場合は加算します。1時間あたりの賃金額を求める際の分母(月平均所定労働時間)や、算入する手当の範囲を誤ると、単価そのものがずれます。
欠勤控除は就業規則の定めに沿って計算する。欠勤・遅刻・早退で働かなかった時間分を給与から差し引くこと自体は、労働がなかった分の賃金は発生しないという「ノーワーク・ノーペイの原則」から認められます。ただし控除額の計算方法(月給を何で割るか)を定めた明文の条文はなく、就業規則の規定によります。規定と違う割り方をすると、控除しすぎ・控除不足のもとになります。
最低賃金を下回らせない。時給換算した賃金が、その事業所の所在地の最低賃金額を下回ってはいけません。最低賃金法は、最低賃金額に満たない賃金を定めた労働契約はその部分が無効になり、最低賃金額まで引き上げられるものとみなすと定めています。地域別最低賃金は毎年10月ごろに改定されるため、改定後は時給・日給者の金額を確認する必要があります。
料率・税額の改定を反映し忘れない。社会保険料率は年度替わりに、住民税は6月に、それぞれ更新されます。前月の設定のまま計算すると、控除額が古い値のままになります。前掲の年次カレンダーで「更新の月」を押さえ、改定月には設定の見直しが必要です。
出典・参考資料(2件)
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手作業の負担を減らす選択肢(給与計算ソフト・アウトソーシング)
ここまでの手順・スケジュール・ミス対策を毎月すべて手作業で回すのは、担当者にとって大きな負担で、計算ミスや納付漏れのリスクも伴います。この負担を軽くする方向は、大きく2つあります。給与計算ソフトで自分たちの作業を自動化する道と、アウトソーシング(給与計算代行)で作業そのものを外部に委託する道です。何がどこまで楽になるかは方向によって異なるため、両方を並べて整理します。
給与計算ソフト(自動化)で楽になること・向くケース
給与計算ソフトは、勤怠データの取り込みから総支給額・控除額の計算、給与明細の発行までを自動化します。社会保険料率や税額表の改定にも自動で対応する製品が多く、料率・税額の反映漏れ(前節のミス)を仕組みで防げます。計算そのものは自社で行いたいが、手計算やExcelの限界を感じている、という担当者に向きます。自社で運用する分、月額費用は委託より抑えやすい傾向があります。
自社で計算する体制のまま、どのソフトが自社に合うかを広く比べたい場合は、主要な給与計算ソフトの機能や料金、選び方を次の記事で整理しています。
アウトソーシング(委託)で任せられる範囲・向くケース
アウトソーシング(給与計算代行・経理BPO)は、計算だけでなく、給与明細の作成・配布、社会保険の手続き、年末調整といった周辺業務まで含めて外部に委託できます。担当者が1人しかおらず属人化している、繁忙期に手が回らない、専門知識を社内に抱えるのが難しい、といった場合に向きます。任せる範囲が広い分、自動化より費用はかかりますが、担当者の工数を大きく減らせます。
委託先をもっと広く見比べたい場合は、給与計算アウトソーシングの委託できる業務範囲や料金体系、自社の規模に合った選び方を次の記事で詳しく解説しています。
給与計算アウトソーシングおすすめ34選を比較|業務範囲・料金体系・規模別の選び方
毎月の給与計算や賞与計算、年末調整、社会保険の手続きに、特定の担当者が追われていないでしょうか。社会保険料率や税制は毎年のように改正され、その都度の確認作業まで含めると、経理や人事、総務の少人数体制では業務が属人化しやすくなります。担当者が…
以下は、給与計算の自動化・委託につながる主なサービスの比較です。提供形態(ソフトか、経理・給与の代行か)によって、自社で計算するのか丸ごと任せるのかが変わります。給与計算ソフト同士の幅広い比較は、後述のリンク先で確認できます。
| サービス | 弥生給与 Next | Wheat Accounting | Tenbook(テンブック) | マネーフォワード おまかせ経理 |
|---|---|---|---|---|
| 提供形態 | 給与計算ソフト(クラウド型・自動化) | 経理アウトソーシング(委託) | 会計・経理アウトソーシング(委託) | 経理アウトソーシング(BPO・委託) |
| 給与計算の位置づけ | 給与・賞与計算を自社で自動化(年末調整・Web明細まで) | 経理業務全般の一部として給与計算を委託 | 会計・税務とあわせて給与・賞与計算を委託 | 経理BPOの一部として給与・賞与計算を委託 |
| 対象規模 | 300名未満の中小企業 | 年商数千万〜100億円規模 | 経理専任者のいない中小企業・スタートアップ | 中小企業(従業員5〜50名規模) |
| 料金の目安 | 月額1,700円〜7,000円(税抜・年契約の月あたり換算) | 月額30,000円〜(プラン・業務量による) | 要問い合わせ(業務内容に応じた見積り) | 要問い合わせ(従業員5名で月額10万円の例) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 公式資料を見る | オンライン相談を予約 |
ここからは、上の表で取り上げたサービスを個別に紹介します。
1. 弥生給与 Next(弥生株式会社)

会計ソフトを提供する弥生株式会社が手がけるクラウド型の給与計算ソフトが、弥生給与 Nextです。給与・賞与計算、Web給与明細の配信、年末調整、法定調書の作成までを1つのサービスで扱えます。公式には「300名未満の中小企業」向けと位置づけられています。
勤怠管理(弥生勤怠 Next)や労務管理(弥生労務 Next)とプラン内で連携でき、勤怠データを給与計算へ自動で反映できます。料金は年契約の月あたり換算で1,700円から7,000円程度(税抜)まで、業務をどこまで自社で行うかに応じた段階的なプラン設計です。
初回申込時には最大2か月間、上位プラン相当の機能を試せる無料体験も用意されています。手計算やExcelから、まず自社での計算を効率化したい企業に向いた選択肢です。
2. Wheat Accounting(株式会社Wheat)

Wheat Accountingは、スタートアップ・スモールビジネス向けの経理アウトソーシングサービスです。記帳や請求書作成、支払対応、経費精算、月次決算といった経理業務全般に加え、給与計算も委託できます。単なる記帳代行にとどまらず、クラウド会計の導入と業務プロセスの設計まで含めて引き受ける点を特徴としています。
担当者個人ではなくチームでマニュアルを整えて運用するため、担当者が交代しても業務が止まりにくい体制を訴求しています。年商数千万円から100億円規模の企業を主な対象とし、税務申告は連携する税理士、社会保険・労働保険の手続きは連携する社労士が担います。給与計算を含む経理業務を丸ごと外部に預け、社内の運用体制ごと整えたい企業に向きます。
料金は対象規模に応じた月額制で、スモールプランは月額30,000円台から(公式サイトでは初年度キャンペーン価格として案内)。導入前に無料相談やテスト運用の期間も設けられています。
同社は、給与計算業務を委託したときに工数がどう変わるかについて、次のような事例を挙げています。

業務効率化の事例としては、従業員100名規模のお客様で、Excelを用いた手作業で、完了までに1週間を要していた給与計算業務の事例です。システムの最適化と人員配置の再設計を徹底した結果、2〜3日での完了を実現。コスト・工数ともに50%以上の削減に繋がりました。これは個人のスキルに頼るのではなく、業務プロセスを正しく組み立て直したことによる成果です。
3. Tenbook(シンアカウンティングサービス株式会社)

公認会計士・税理士が代表を務めるシンアカウンティングサービス株式会社が運営するのが、会計・経理アウトソーシングサービスのTenbook(テンブック)です。自社開発のクラウド会計ソフト「10book」を活用し、記帳から月次処理、決算書作成、法人税申告までをオンラインで完結できます。給与・賞与計算も対応業務に含まれます。
経理の専任者を置かない中小企業・スタートアップ向けに、原則3名のチーム体制で対応します。契約者にはクラウド会計ソフト「10book」が無料提供され、資料共有や相談もオンラインで完結するため全国から利用できます。会計・税務まで含めて専門家に任せたい企業に向いた選択肢です。料金は業務内容に応じた見積りとなるため、詳細は資料で確認するとよいでしょう。
4. マネーフォワード おまかせ経理(株式会社マネーフォワード)

マネーフォワード おまかせ経理は、中小企業向けの経理業務アウトソーシング(BPO)サービスです。「マネーフォワード クラウド」の導入支援から、記帳代行、請求書発行、支払・振込代行、入金消込、給与・賞与計算、月次試算表の作成までをオンラインで一括して任せられます。
経理BPOを手がけてきた株式会社キャシュモが2025年にマネーフォワードグループへ加わり、クラウドサービスとBPOの実務ノウハウを組み合わせて提供しています。料金は業務内容・業務量に応じた個別見積りで、公式サイトには従業員5名程度で月額10万円という一例が示されています。給与計算を含む経理業務を、使い慣れたマネーフォワード クラウドの延長線上で委託したい企業に向きます。
まとめ
給与計算の毎月の業務フローを、次の点で押さえておくと、自社の締め日・支払日に合わせたチェックリストに落とし込めます。
- 全体の流れ:勤怠集計→総支給額→控除→差引支給額→賃金台帳・給与明細→振込→納付、の7ステップを順に確定させる
- 控除の中身:社会保険料は標準報酬月額×料率の労使折半、雇用保険料は総支給額×料率、所得税は税額表の甲欄、住民税は通知の月割額を転記
- スケジュール:月内は支払日から逆算し、源泉所得税・住民税は翌月10日、社会保険料は翌月末日までに納付する
- 年次業務:住民税の6月更新、算定基礎届(7月)、年末調整(11〜1月)など、毎月フローと分けて把握する
- ミス対策:端数処理・割増単価・最低賃金・料率改定の反映は、通達や法令の根拠に沿って確認する
毎月これを手作業で回すのが負担だと感じたら、給与計算ソフトによる自動化か、アウトソーシングによる委託で、どこまで軽くできるかを検討する段階です。自社の状況に合う選択肢を探すときは、各サービスの資料をまとめて取り寄せて比べるところから始められます。
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よくある質問(FAQ)
Q. 給与計算の業務フローとは何ですか?
A. 給与計算の業務フローとは、勤怠の集計から総支給額と控除額の計算、差引支給額(手取り)の確定、賃金台帳・給与明細の作成、給与の振込、預かった税金・社会保険料の納付までを、毎月決まった順序で処理する一連の流れのことです。
前半の勤怠集計から差引支給額の確定までが「いくら支払うか」を決める計算の工程、後半の台帳作成から納付までが「支払い、記録し、納める」手続きの工程にあたります。この順序どおりに1つずつ確定させることで、抜け漏れなく毎月の給与計算を回せます。
Q. 給与計算はいつまでに終わらせるべきですか?
A. 給与計算は、給与支払日の前営業日などに設定された銀行の振込データ提出締切に間に合うよう、支払日の数営業日前までに計算とチェックを終えておく必要があります。
振込は支払日当日ではなく、その1〜2営業日前の締切までにデータを提出しないと当日に着金しないためです。締め日を起点に、勤怠の確定→総支給額・控除額の計算→ダブルチェック→振込データ作成、という順で支払日から逆算してスケジュールを組むと、余裕をもって間に合わせられます。
Q. 給与計算を間違えたときはどう対応すればよいですか?
A. 給与計算を間違えたときは、まず該当の従業員へ速やかに事情を説明し、不足していた分は早急に追加で支給し、過払い分は本人の同意を得たうえで翌月以降の給与で精算するのが一般的な対応です。
ただし、賃金は全額払いが原則(労働基準法第24条)のため、過払い分を従業員に断りなく差し引くことはできません。金額や精算の時期を本人へ説明し、生活に大きな影響が出ない範囲で調整します。再発を防ぐには、支払い前のダブルチェックの徹底や、料率・税額の改定に自動で対応する給与計算ソフトの活用が有効です。
Q. 給与計算では控除をどの順番で計算しますか?
A. 控除は、社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金)→雇用保険料→所得税→住民税の順で計算するのが基本です。順番が重要なのは、所得税を「総支給額から社会保険料と雇用保険料を差し引いた後の金額」にあてはめて求めるためで、先に社会保険料などを確定しないと所得税の額が決まりません。住民税は前年所得に基づき市区町村が決めた月割額を、最後に差し引きます。
Q. 給与計算で住民税は会社が計算するのですか?
A. 住民税は会社が計算するのではなく、前年の所得をもとに市区町村が税額を計算し、会社は通知された月割額をそのまま給与から差し引いて納める(特別徴収)だけです。毎年5月ごろに届く「特別徴収税額決定通知書」の金額を、6月給与から翌年5月給与まで転記します。会社が税額表を使って毎月計算する所得税とは扱いが異なるため、住民税は「計算」ではなく「通知どおりの転記」と覚えておくと混同を防げます。
Q. 給与計算の端数はどう処理すればよいですか?
A. 給与計算の端数は自己流で切り捨てず、行政通達(昭和63年基発第150号)で認められた範囲でのみ処理するのが原則です。賃金は1円単位で計算するのが基本で、認められているのは、1か月分の時間外・休日・深夜労働の合計時間に生じた30分未満の端数や、割増賃金額に生じた円未満の端数などに限られます。日ごとに端数を切り捨てるような処理は賃金の一部不払いとみなされるおそれがあるため避けます。
Q. 賃金支払いの5原則で禁止されているのはどんなことですか?
A. 賃金支払いの5原則(労働基準法第24条)では、現物での支給、本人以外への支払い、法定控除と労使協定によらない天引き、毎月1回以上支払わないこと、支払日が月によって動く定め方が禁止されています。これは、通貨払い・直接払い・全額払い・毎月1回以上払い・一定期日払いという5つの原則の裏返しです。特に、社宅費や積立金などを給与から差し引くには、あらかじめ労使協定を結ぶ必要がある点に注意が必要です。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
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