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給与明細を電子化するには?根拠条文・従業員同意・配布方法から手順まで

給与明細を電子化するには?根拠条文・従業員同意・配布方法から手順までのサムネイル画像

毎月の給与明細を紙で印刷し、封入して手渡しや郵送で配っていると、担当者の工数と紙・郵送コストが地味に積み上がります。「そろそろ電子化できないか」と上司から言われた、あるいは自分でも考え始めた——そんな人事・給与担当者向けの記事です。

結論から示すと、給与明細は電子交付だけで法的に認められています。ただし従業員の承諾を得ること、従業員から請求があれば書面で交付すること(電子化に切り替えた後の撤回・都度請求を含む)、そして法令が定める配布方法(電子メール/Web閲覧/磁気ディスク等の媒体交付)のいずれかを使うことが条件です。

本記事では、この結論の根拠となる条文と国税庁の公式見解を条番号レベルで示したうえで、承諾の取り方・撤回された場合の対応・配布方法の選び方・4〜5ステップの導入手順・反対する従業員への具体的な対応策・ツールやアウトソーシングの選択肢と費用感まで、社内稟議にそのまま転用できる粒度で解説します。

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給与明細を電子化して良いか。法律上の可否と、満たすべき3つの条件

まず結論から示します。給与明細は紙をやめて電子交付だけにできますが、そのためには法令が定める3つの条件を満たす必要があります。

結論:電子交付だけでOK。ただし3つの条件を満たす
  1. 従業員の承諾を事前に得ること(電磁的方法の種類・内容を示して、書面または電磁的方法で承諾を取得)
  2. 従業員から請求があれば書面で交付すること(電子交付に切り替えた後でも、請求があった従業員には書面交付義務が残る)
  3. 法令が定める配布方法(電子メール/Web閲覧/磁気ディスク等の媒体交付)のいずれかを使うこと

この3条件の直接の根拠は所得税法第231条第2項です。第1項が給与明細の書面交付義務を定めており、第2項本文がその例外として電磁的方法による提供(電子交付)を認めています。ただし書で「請求があるときは書面で交付」の義務も明記されています。

前項の給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、同項の規定による給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者の承諾を得て、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。ただし、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者の請求があるときは、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書を当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者に交付しなければならない。

出典:所得税法第231条第2項|e-Gov法令検索

電子交付が認められた経緯(平成18年税制改正)

給与明細の電子交付が制度として認められたのは、平成18年度の税制改正によります。国税庁の「平成18年分 所得税の改正のあらまし」PDFの第5〜6ページに、次のとおり明記されています。

給与等の支払をする者は、給与所得の源泉徴収票又は給与等の支払明細書(以下「給与の源泉徴収票等」といいます。)の交付に代えて、給与等の支払を受ける者の承諾を得て、給与の源泉徴収票等に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができることとされました。ただし、当該給与等の支払を受ける者の請求があるときは、書面により給与の源泉徴収票等を交付しなければならないこととされています(所法226、231)。(中略)《適用時期》この改正は、平成19年1月1日以後に交付する給与の源泉徴収票等について適用されます。

出典:平成18年分 所得税の改正のあらまし(第5〜6ページ)|国税庁

2007年(平成19年)1月1日以後に交付する給与明細から電子交付が可能になり、書面交付義務違反に対する罰則規定も同時に設けられています。以来20年近くにわたり電子交付は認められた制度で、法令上の可否そのものに疑いはありません。焦点はむしろ「承諾の取り方」と「請求があった従業員への書面交付」という運用面です。

根拠条文の一覧表

給与明細の電子化にかかわる法令は、所得税法・同施行令・同施行規則の階層構造と、国税庁の公式Q&Aに分かれて置かれています。稟議書や法務確認に転用できるよう、条番号レベルで一覧化します。

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根拠所得税法 第231条 第1項所得税法 第231条 第2項 本文所得税法 第231条 第2項 ただし書所得税法施行令 第356条 第1項所得税法施行令 第356条 第2項所得税法施行規則 第92条の2 第1項所得税法施行規則 第95条の2 第1項所得税法施行規則 第100条 第4項国税庁「電子交付Q&A」問5労働基準法 第108条
内容給与等の支払をする者は、支払明細書を交付しなければならない(書面交付義務)従業員の承諾を得て、電磁的方法により提供することができる(電子交付の根拠)従業員の請求があるときは書面で交付しなければならない(電子化後も残る書面交付義務)電子交付にあたっては、あらかじめ電磁的方法の種類・内容を示し、書面または電磁的方法で承諾を得ること(事前承諾の根拠)承諾済みの従業員から電子交付を受けない旨の申出があれば、以後、電磁的方法で提供してはならない(撤回運用の根拠)電磁的方法の具体は次の3つに限定:①電子計算機を接続する電気通信回線を通じて受信者ファイルに記録する方法(電子メール・SaaSクライアント直送)/②送信者側サーバの受信者ファイルを閲覧に供する方法(Web閲覧)/③光ディスク・磁気ディスク等の物理媒体で交付する方法承諾を得る際にあらかじめ示すべき事項は、①使用する電磁的方法/②記載情報の受信者ファイルへの記録の方式、の2項目上記の第95条の2の規定を、給与明細(施行令第356条第1項)にも準用する承諾取得時に示す事項の書式は法令上の定めはないが、書類名称・電磁的方法の具体・受信者ファイルへの記録方法・交付予定日・交付開始日を示すのが実務推奨使用者は賃金台帳を調製する義務がある(社内保管書類の整備義務)
位置づけ原則例外例外の例外承諾の要件承諾の撤回配布方法の限定列挙同意時の法定必須提示事項準用の連鎖運用推奨給与明細の交付とは別要件

2026年8月時点における法令・国税庁公表資料に基づく。

出典・参考資料(5件)

労働基準法と所得税法の役割の違い(賃金台帳と給与明細は別要件)

給与関連の書類として、労働基準法第108条が定める「賃金台帳」と、所得税法第231条が定める「給与支払明細書」は混同されがちです。両者は役割が異なるため、電子化の議論でも別建てで整理する必要があります。

賃金台帳は、使用者が事業場ごとに調製して社内で保管する義務のある書類で、従業員に交付する義務は労基法にはありません。一方の給与明細は、所得税法第231条が従業員への交付義務を定めるもので、電子交付の可否も所得税法の枠内で議論されます。「労基法で電子化してよいか」を確認する必要はなく、所得税法・同施行令・同施行規則と国税庁Q&Aで足ります。

なお、健康保険法第167条第3項は「保険料を控除したときは、その控除額を被保険者に通知しなければならない」旨を定めていますが、給与明細に控除額を記載することで実務上はこの通知義務も併せて履行されます。健保法自体には電子化に関する規定はありません。

電子交付の3条件のうち、実務で最も詰まりやすいのが「従業員の承諾」の取り方です。書面か電磁的方法か、一括か個別か、撤回されたらどうするかを、一問一答で整理します。

承諾は書面と電磁的方法(メール・システム上)のどちらでも可

所得税法施行令第356条第1項は、「書面又は電磁的方法による承諾」と明記しています。紙の同意書に署名捺印してもらう方式でも、社内システムやWebフォームで承諾する旨のボタンを押してもらう方式でも、いずれも法令上有効です。

電磁的方法で承諾を取る場合、後の紛争や監査に備えて「誰が・いつ・どの内容に対して」承諾したかのログを残せる形にしておくのが安全です。多くの給与計算システム・電子明細サービスはこのログ機能を標準で備えています。

全社一括で取ってよいか、個別に必要か

承諾は「電磁的方法の種類・内容を示して個別の従業員から取る」のが原則です。全社集会で「反対の人は挙手を」といった消極的同意で済ませることは認められません。ただし、書式や取得方法自体は法令で定められていないため、社内システム上に承諾フォームを配布し、従業員が各自で承諾ボタンを押す方式は「個別に取得」に該当します。

国税庁のQ&A問6は「受給者等から、事前に電子交付について承諾を得ている場合には、電子交付を行う都度、承諾を得る必要はありません」と明確にしています。初回に承諾を取れば、以降の毎月の給与明細ごとに承諾を取り直す必要はなく、撤回の申出があるまで有効です。

同意書に必ず入れるべき事項

同意書に含める内容は、法令が必須とする項目と、国税庁が実務推奨として挙げている項目を区別して整理する必要があります。両者を混同すると「法令で全項目が要求されている」と誤解し、同意書の体裁だけが重くなります。

法令上の必須事項(施行令第356条第1項+施行規則第95条の2 第1項)

所得税法施行規則第95条の2 第1項は、承諾を得る際にあらかじめ示すべき事項を次の2項目に限定して列挙しています(同規則第100条第4項により給与明細にも準用)。

  1. 使用する電磁的方法(電子メール/Web閲覧/媒体交付のうちどれを使うか)
  2. 記載情報の受信者ファイルへの記録の方式(PDF形式・XML形式・暗号化の有無 等)

運用上の推奨事項(国税庁「電子交付Q&A」問5)

国税庁のQ&A問5は冒頭で「承諾を得る場合の記載事項や書式等について、法令上定めはありません」と明記したうえで、実務推奨として次のような項目を挙げています。

電子交付する書類の名称(給与所得の源泉徴収票、給与等の支払明細書の別等)/電磁的方法の種類やその具体的な方法(中略)/受信者ファイルへの記録方法(XML形式、PDF形式、暗号化して受信者ファイルに記録する旨及びその復号化方法等)/交付予定日(毎年○月○日までに交付、給与支給日に交付等)/交付開始日/その他参考となる事項

出典:給与所得の源泉徴収票等の電磁的方法による提供(電子交付)に係るQ&A 問5|国税庁

実務上は、法令必須の2項目に運用推奨事項を加えた同意書を用意しておくのが標準的です。後日の紛争や税務調査で「事前提示が不十分だった」と指摘されるリスクを下げられます。

同意を撤回されたらどうするか(法的原則)

いったん承諾した従業員から「今後は電子交付を希望しない」との申出があった場合、会社はそれ以降、その従業員に対して電磁的方法による提供を継続してはいけません。この規定は所得税法施行令第356条第2項に明記されています。

前項の規定による承諾を得た給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者から書面又は電磁的方法により法第二百三十一条第二項本文の規定による電磁的方法による提供を受けない旨の申出があつたときは、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者に対し、同項に規定する給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書に記載すべき事項の提供を電磁的方法によつてしてはならない。ただし、当該給与等、退職手当等又は公的年金等の支払を受ける者が再び前項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。

出典:所得税法施行令第356条第2項|e-Gov法令検索

撤回時の実務フロー(届出書式・並行運用の切替)は、後半の「電子化に反対する従業員への対応」で詳しく扱います。ここでは、撤回の申出があれば会社側に即座に電子交付停止義務が発生する、という法的原則を押さえておきます。

請求されたら紙で交付する義務の範囲

所得税法第231条第2項ただし書は、「支払を受ける者の請求があるときは、当該支払明細書を交付しなければならない」と定めています。電子交付に切り替えた後でも、従業員が「この月の給与明細は紙でほしい」と請求すれば、会社は書面で交付する義務があります。

実務上、この「請求」は2つの局面に分けて運用します。ひとつは「その月だけ紙で欲しい」都度請求で、住宅ローンの申請書類や第三者提出用に一時的に紙が必要な場面が該当します。会社側は当該月の給与明細を書面で追加交付し、翌月以降は電子交付を継続します。

もうひとつは「今後恒久的に紙に戻したい」撤回申出で、こちらは施行令第356条第2項に基づき以後の電子交付を停止し、紙運用に切り替えます(詳しくは後半の「電子化に反対する従業員への対応」節)。

請求の方法について、国税庁のQ&A問14は「適宜の方法(例えば、電子メール、書面等)で請求をして差し支えありません」と回答しています。会社側で請求方法を過度に厳格化することはできず、口頭・メール・社内フォームなど従業員が使いやすい方法で受け付ける必要があります。

新入社員の扱い(採用時の承諾取得を運用に組み込む)

電子化を導入済みの会社に新しく入社した従業員に対しても、あらためて電子交付の承諾を取る必要があります。入社時の労働条件通知や社会保険関係書類の説明とあわせて、電子交付の同意書を差し入れてもらう運用にしておくと、承諾漏れによる紙運用の重複が防げます。

回答なし=「みなし承諾」は給与明細でも使えるか

令和5年度・令和6年度の税制改正で、「支払者が定める期限までに承諾に係る回答がないときは承諾があったものとみなす」旨の通知をあらかじめ行うことで、みなし承諾を得られる制度が導入されました。

この制度は給与明細(給与等の支払明細書)にも適用されます。国税庁のQ&A問7で、みなし承諾の対象外として除外されているのは「退職所得の源泉徴収票」「退職手当等の支払明細書」「公的年金等の源泉徴収票」「公的年金等の支払明細書」の4種で、給与明細は除外されていません。

実務では、既存従業員から一括で承諾を取り直す場面や、新入社員に入社時に承諾書を配布する場面で、「◯月◯日までに回答がない場合は承諾があったものとみなす」旨を通知に明記し、回答期限を設定することで、承諾漏れによる紙運用の重複を減らせます。回答期限は、従業員が制度内容を理解して意思表示できる合理的な期間(数週間程度)を確保するのが安全です。

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給与明細の配布方法。3方法の法的位置づけと選び方

電子交付の3条件のうち3つ目「法令が定める配布方法のいずれかを使うこと」を掘り下げます。法的位置づけ・セキュリティ・運用負荷を含めて比較すると、自社の従業員規模・IT環境に合う選択肢が見えてきます。

法令が認める配布方法(施行規則第92条の2 第1項の限定列挙)

給与明細の電子交付で使ってよい方法は、所得税法施行規則第92条の2 第1項(施行規則第100条第4項→第95条の2→第92条の2 の準用連鎖)で限定列挙されています。条文の構造は第一号(イ号/ロ号)と第二号の2区分ですが、第一号にイ号・ロ号があるため、実務では3方法として扱われます。

  1. 第一号 イ号(送信型):送信者の電子計算機から電気通信回線を通じて相手側の電子計算機の受信者ファイルへ送信し記録する方法(電子メール送信・SaaSクライアントへの直送 等)。
  2. 第一号 ロ号(閲覧型):送信者側サーバの受信者ファイルに記録した情報を、電気通信回線を通じて相手側に閲覧させる方法(自社サーバ Web閲覧・クラウド Web閲覧)。
  3. 第二号(媒体交付型):光ディスク・磁気ディスク等の物理媒体に記載情報を記録して交付する方法。

国税庁の「電子交付Q&A」問3では、この分類を「電子メールを利用する方法」「社内LAN・WANやインターネット等を利用して閲覧に供する方法」「CD等の媒体に記録して交付する方法」の3方法として、より読みやすい表現で示しています。

あわせて、第92条の2 第2項は「映像面への表示および書面への出力ができるようにする措置」(プリントアウト可能な形式で提供すること)と、「受信者ファイルに記録した旨の通知」(閲覧を確認していない場合の通知義務)を求めています。この2要件はどの配布方法を選んでも共通です。

通知義務は、クラウドWeb閲覧型サービスの多くが「明細が公開された旨のメール自動送信」機能を標準で備えることで実務的に担保されています。

配布方法の比較表

3方法を、法的位置づけ・セキュリティ・運用負荷・向く企業規模で対比します。

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配布方法電子メール送信自社サーバWeb閲覧クラウドWeb閲覧CD等の媒体交付
法的位置づけ施行規則第92条の2 第1項第一号イ施行規則第92条の2 第1項第一号ロ施行規則第92条の2 第1項第一号ロ
(受信者ファイルの管理をベンダーに委託)
施行規則第92条の2 第1項第二号
セキュリティ暗号化PDF+パスワード運用が必須
誤送信リスクあり
社内LAN内で完結し外部漏えいリスクは低い
/ 一方でリモート勤務者はVPN等が必要
ベンダーが多要素認証・暗号化を提供
/ ベンダー選定でセキュリティ水準が決まる
媒体紛失・持ち帰り管理のリスク
/ 暗号化とパスワード運用が必要
運用負荷
(既存メール環境で開始可能)

(自社でサーバ構築・保守)

(サーバ管理不要・保守はベンダー)

(媒体作成・配布・回収の物理作業)
向く企業規模従業員数十名以下
/ 給与計算ソフト連携が薄い会社
IT部門があり内製で運用できる会社
/ 全員が出社する運用の会社
リモート勤務が多い会社
/ 全従業員規模で標準的な選択肢
現行実務ではほぼ採用されない選択肢
/ 過去の紙送付と同等の物理コスト

2026年8月時点における法令・国税庁公表資料に基づく。

方法選定の指針(従業員数・リモート勤務比率・既存システム連携で分岐)

現行実務での標準的な選択肢はクラウドWeb閲覧型です。リモート勤務・出張が多い企業でも従業員が自分の端末から閲覧でき、ベンダー側が多要素認証・通信暗号化・SLAを提供するためセキュリティ水準を担保しやすく、サーバ構築・保守の負担も発生しません。

電子メール送信は、給与計算システム側にメール配信機能があり、従業員数がおおむね数十名以下で導入と運用の負担を最小限に抑えたい場合に検討します。ただし宛先間違いや添付ファイル漏えいのリスクがあり、暗号化PDFやパスワード分離送付を運用ルールとして整える必要があります。

自社サーバWeb閲覧は、IT部門が内製でサーバ運用ができ、全員が出社していて社内LAN内で完結できる会社では選択肢に入ります。CD等の媒体交付は、物理配布の負担が紙運用と変わらないため、現行実務では現実的な選択肢とは言えません。

給与明細を電子化する手順(4〜5ステップ)

ここまでで法的可否と要件は押さえました。ここからは、担当者が明日から動ける順番で、電子化の導入手順を4〜5ステップに分けて示します。各ステップで「やること」「注意点」「必要書類・テンプレの例」を対にしています。

Step 1 電子化する範囲と配布方法を決める

まず、電子化の対象を給与明細のみにするか、賞与明細・源泉徴収票まで含めるかを決めます。同じシステムで扱えるかどうかはサービスによって異なるため、範囲によってシステム選定の条件が変わります。あわせて配布方法(クラウドWeb閲覧・電子メール・自社サーバWeb閲覧・媒体交付)を決めます。

この段階で「拒否者が出た場合の並行運用」(紙で交付し続ける従業員が残ることを許容するか、拒否者ゼロを目指すか)の方針も決めておきます。方針が決まっていないと、Step 3 の従業員説明で回答が揺れます。

Step 2 システム選定・要件定義

既存の給与計算ソフトとの連携(自動でデータ受け渡しできるか)、閲覧デバイス(PC・スマホの両対応か)、セキュリティ要件(多要素認証・通信暗号化・アクセスログ)、承諾管理機能(誰がいつ承諾したかのログ)を要件として整理します。給与計算ソフトが電子明細機能を内蔵している場合は、追加ツールを入れずに済むこともあります。

「拒否者が出た場合の並行運用」の方針が固まっていれば、紙出力の一括印刷機能を持つシステムかどうかも選定基準に加えます。

Step 3 従業員説明・同意取得

電子化の目的、使用する電磁的方法、記載情報の受信者ファイルへの記録方式(PDF形式など)を含む同意書を配布します。全社集会やイントラでの説明会で概要を共有し、質問対応の窓口を明示したうえで、同意書の回収期日(給与日から逆算して2〜3週間の余裕を持たせるのが目安)を設定します。

同意書に盛り込む項目は、次の雛形が参考になります(法令上の必須事項+国税庁Q&A問5の運用推奨)。

  • 電子交付する書類の名称(例:給与等の支払明細書)
  • 使用する電磁的方法(例:会社Webポータルの閲覧)
  • 記載情報の受信者ファイルへの記録方式(例:PDF+パスワード保護)
  • 交付予定日(例:毎月◯日の給与支給日)/交付開始日(例:◯年◯月分から)
  • 承諾する旨の記入欄/承諾日/従業員氏名
  • 回答期限とみなし承諾の通知(例:「◯月◯日までに回答がない場合は承諾があったものとみなす」)

回収時には「同意する/同意しない」の意思表示を明確に記録します。「反対の人だけ挙手を」の消極的な集約では、後日の紛争や監査で承諾の証跡としては弱いため、個別の意思表示を残す形にします。

Step 4 運用開始

初回の給与支給日から電子交付を開始します。最初の1〜2ヶ月は、紙運用と電子運用を並行させ、閲覧できない従業員がいた場合の紙補填ができる態勢を整えておきます。問い合わせ窓口を人事部内に設置し、閲覧できない・パスワードを忘れた・PDFが開けないなどの初期トラブルを吸収します。

Step 5 紙運用の残置(拒否者・請求者向けの並行運用フロー)

Step 3 で同意しなかった従業員、および後から「請求があるとき」に該当した従業員に対しては、書面での交付を続けます。所得税法第231条第2項ただし書と施行令第356条第2項が定める会社側の義務であり、「全員が同意しないと電子化しない」ではなく「同意者から電子交付を開始し、非同意者には紙を維持する」の並行運用が現実解です。

並行運用の期間目安は特に法令の定めはありませんが、実務では「導入初年度は全員に紙も併走させ、2年目以降は拒否者・請求者のみ紙運用を継続する」のが標準的な進め方です。

拒否者向けの管理は簡単な台帳(氏名/申出日/切替月/連絡先/備考)で足り、拒否者数が二桁を超えるなら電子明細サービスの「特定ユーザーだけ紙出力」機能を活用します。紙運用の担当者と工数を電子交付が定着した後も一定量残しておくのが実務上の落とし所です。

電子化に反対する従業員への対応。反対理由と対応策の対応表

従業員の同意(承諾)は電子化の要件です。「反対する従業員がいる」場面で、担当者が最も詰まるのが「丁寧に説明しましょう」の一般論を超える具体的な対応策です。反対理由の類型ごとに、対応策を対で整理します。

反対理由と対応策の対応表

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反対理由個人用PC・スマホを持っていない/閲覧環境が不安定紙で保管しておきたい(銀行手続き・確定申告・住宅ローン申請など)セキュリティが不安(誰かに見られる・情報漏えい)確定申告で紙の源泉徴収票が必要操作が難しい・ITリテラシーに不安退職後に過去の給与明細を確認できなくなる不安家族と紙で確認する習慣がある
対応策社内貸与端末や共用PCでの閲覧環境を用意
/ 個人ログインで閲覧可の運用
/ それでも困難なら紙交付を継続(強制不可)
PDFのダウンロード+自宅印刷を案内
/ 会社での印刷代行を用意する運用も可
/ 金融機関で紙原本を求められた場合は都度対応
通信暗号化・多要素認証・アクセスログの仕組みを説明
/ 個人アカウント/個人パスワードの管理指針を提示
/ 万一の漏えい時の会社側の初動を明示
平成31年4月1日以後に提出する所得税確定申告では源泉徴収票の添付は原則不要になっている旨を説明
/ 金融機関等の第三者提出用途で紙が必要な場合は都度印刷で対応可
閲覧手順の紙マニュアルを配布
/ 説明会・個別レクチャーを設ける
/ 慣れるまでの並行運用期間(例:1〜3ヶ月)を明示
退職前にまとめてPDFダウンロードできる案内を用意
/ サービス契約上、退職者アカウントの参照可否・保存期間を確認しておく
/ 印刷代行の窓口を人事部に残す
従業員側でPDFを自宅印刷して共有できる旨を説明
/ 印刷しにくい従業員には人事部での紙印刷代行を用意

2026年8月時点における法令・国税庁公表資料に基づく。

「PC・プリンター等を保有しているかを事前に確認する必要があるか」については、国税庁のQ&A問13が「電子交付した給与所得の源泉徴収票等データがプリンター等で出力可能かどうかを支払者等が確認していればよく、プリンターを有しているかどうかを確認いただく必要はありません」と回答しています。個々の従業員のIT環境まで会社が確認する義務はありません。

「確定申告に紙の源泉徴収票が必要」という反対理由に対しては、平成31年4月1日以後に提出する確定申告(令和元年分/2019年分以後)で給与所得の源泉徴収票の添付そのものが原則不要となった点を説明できます。

ただし住宅ローン申請など金融機関の第三者提出用途では紙原本を求められる場合があり、その際は電子明細のPDFをダウンロードして印刷するか、人事部での紙印刷代行で対応します。

出典・参考資料(1件)

同意撤回・拒否時の運用フロー

初回同意で拒否した従業員、および一度同意した後で撤回を申し出た従業員に対する対応は、実務上は同じフローに乗せられます。所得税法施行令第356条第2項が定めるとおり、会社は以後、その従業員には電磁的方法による提供を継続してはいけません。

撤回の書式は法令上定められていませんが、国税庁のQ&A問15は届出文例として次の記載を示しています。

電子交付に代えて、○年分以後の給与所得の源泉徴収票(○年○月分以後の給与等の支払明細書)から書面による交付を受けたいので届出します。

出典:給与所得の源泉徴収票等の電磁的方法による提供(電子交付)に係るQ&A 問15|国税庁

実務では、この文例をベースに社内の届出フォームを整えておき、申出があった翌月分の給与明細から書面交付に戻す運用にします。並行運用の期間目安は特に定められていないため、紙運用の枠を残しておき、拒否・撤回が増減しても対応できる態勢にしておくのが安全です。

ここまでの同意運用・反対対応が「自社で回すには重い」と感じる場合は、次章のとおり給与明細の配布ごと給与計算アウトソーシングに委託する選択肢もあります。給与計算アウトソーシングサービスの資料は下記から一括で取り寄せられます。

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給与明細電子化のツール・サービスの選択肢と費用感

電子化を実現する手段は、大きく3つのカテゴリに分かれます。既存の給与計算ソフトを維持したいか、給与計算そのものを見直したいか、担当者リソースが足りず外部委託まで含めたいかで最適解が変わります。

給与計算ソフト内蔵型

クラウド型の給与計算ソフト(freee人事労務・マネーフォワードクラウド給与・弥生給与 Next・奉行クラウド など)の多くは、電子明細の配信機能を標準または追加オプションで備えています。給与計算のデータをそのまま従業員向けWeb画面で閲覧させる方式で、追加ツールを別途契約する必要がありません。

すでにこれらのソフトを使っている会社にとっては、有効化するだけで電子交付を開始できるため、初期負担がもっとも軽い選択肢です。給与計算ソフトを持っていない会社では、給与計算とセットで導入することになります。

電子明細特化型

電子明細の配信に特化したクラウドサービス(PCA Hub 給与明細・オフィスステーション給与明細・Web給金帳Cloud など)は、既存の給与計算ソフトから明細データを受け取って従業員に配信する構成です。既存の給与計算ソフトを変えたくない会社に向きます。

連携できる給与計算ソフトはサービスごとに異なるため、既存ソフトとの互換性を選定条件に含める必要があります。従業員数課金が中心で、規模が大きくなると費用が増えます。

給与計算アウトソーシング(電子明細配布ごと外部委託)

給与計算そのものを外部に委託すると、給与明細の作成・電子配布・従業員問い合わせ対応まで含めてワンストップで任せられます。担当者リソースが足りず、電子化の設計や同意運用に時間を割けない会社にとっては、外部委託で運用ごと引き受けてもらうのが現実解です。

給与計算アウトソーシングのサービスは、給与計算・年末調整・住民税更新・給与明細配布までを月額固定または従業員数課金で提供する形が一般的です。給与明細の電子化だけでなく、給与計算業務の属人化解消・繁忙期の負荷平準化まで一度に解決できます。

従業員数別の費用相場と、紙運用との比較

各カテゴリの費用感を、従業員数別に整理します。実額は各社の公開料金または要問い合わせを基にした目安で、機能セット・連携内容によって前後します。給与計算アウトソーシングは電子明細配布だけでなく給与計算業務全体を委託するため、他2カテゴリとは金額のスケールが異なる点に留意してください。

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カテゴリ給与計算ソフト内蔵型(電子明細配布のみ)電子明細特化型(電子明細配布のみ)給与計算アウトソーシング(給与計算+明細配布+年末調整まで委託)
〜50名月額 2,000〜10,000円
(給与計算ソフト本体の料金内で明細配布まで対応)
月額 1,500〜10,000円
(1名あたり30〜200円が中心。上位プラン込みで200円超になることも)
月額 100,000円前後〜
(従業員5名程度で月額10万円の一例あり)
〜300名月額 20,000〜80,000円
(従業員数・機能プランで変動)
月額 9,000〜60,000円
(1名あたり30〜200円レンジ)
月額 300,000〜1,000,000円
(給与計算+明細配布+年末調整の範囲)
300名〜要問い合わせ
(大企業向けプラン・別途見積り)
要問い合わせ
(大規模契約は個別料金)
要問い合わせ
(BPO契約・複数拠点対応で別途見積り)

2026年8月時点における各社公式サイトおよび公開情報を基にした目安。実際の費用は機能セット・従業員数・オプションで変動する。

電子化ツールの費用だけでなく、稟議では「紙運用と比べていくら/どれくらい工数を減らせるか」もあわせて示す必要があります。従業員100名規模の会社を例に、月次の紙運用コストと電子化後のコストを比較すると、次のような目安になります(自社の実態に合わせて数値を差し替えて試算してください)。

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項目紙運用(従業員100名/月)電子化後(電子明細特化型・従業員100名/月)実質削減効果
内訳印刷用紙・封筒 約100枚 × 30円
郵送費(在宅・遠隔勤務分の一部)15名 × 84円
封入・仕分けの工数 2〜3時間 × 時給2,500円
電子明細サービス 100名 × 100〜200円
並行運用の紙運用(拒否者数名分)約 1,000〜2,000円
問い合わせ対応の工数 1時間 × 時給2,500円
再発行対応の削減/リモート勤務者への郵送不要/担当者の他業務への集中
月額の目安約 12,000〜15,000円
+担当者工数 5,000〜7,500円
約 13,500〜24,500円
(初年度は並行運用の重複があるが、2年目以降は削減効果が顕在化)
金額よりも工数削減が大きい
(担当者の残業・繁忙期負荷が緩和される)

従業員100名規模を想定した目安の一例。単価・工数は自社の実態に合わせて置き換えてください。

この試算は金額としての差はやや小さめに出ますが、稟議で本当に効くのは「印刷・封入・郵送・再発行対応・退職時の紙集約」など担当者の工数削減です。特に月末〜翌月10日前後の給与計算繁忙期の負荷が緩和され、担当者を他業務に振り向けられる効果は、金額換算しにくいものの経営インパクトが大きい観点です。

自社に合うカテゴリの選び方

既存の給与計算ソフトを維持しつつ電子化だけ追加したい会社は、まず現行ソフトの電子明細機能を有効化できないかを確認します。ソフト側で対応していれば、追加費用ゼロで済むこともあります。

給与計算ソフトを持っていない、または変えたい会社は、電子明細機能を含むクラウド給与計算ソフトへの切り替えが選択肢になります。従業員数十名以上でリモート勤務比率が高い会社では、クラウドWeb閲覧型が標準的です。

給与計算の担当者リソースが足りず、給与明細の電子化に加えて計算そのものも見直したい会社は、給与計算アウトソーシングの検討価値があります。ツールを入れる代わりに業務ごと委託することで、担当者の属人化と繁忙期の負荷を同時に解消できます。

給与明細の電子交付を含む給与計算業務を業務ごと外部委託する選択肢として、給与計算アウトソーシングのサービスを2社ご紹介します。「同意運用や配布方式の設計まで担当者リソースが割けない」「給与計算そのものを見直したい」ケースで候補になります。

本記事で紹介する2社は、給与明細の電子化と親和性の高い代表例です。給与計算アウトソーシング全体を、委託できる業務範囲・料金・タイプ別の選び方まで含めて比較したい場合は、以下の比較記事もあわせてご参照ください。

1. Wheat Accounting(株式会社Wheat)

Wheat Accountingは、中小企業やスタートアップ向けに、記帳・仕訳・請求書発行・売掛金管理・経費精算・振込対応・給与計算・月次決算までを一気通貫で代行する経理アウトソーシングです。税務は税理士、社会保険・労務は社労士と連携し、バックオフィス全体をワンストップでサポートする体制を敷いています。

「会計」と「IT」の掛け合わせを強みとし、既存のアナログ業務に後付けでツールを載せる形ではなく、ゼロベースで業務フローを設計し直したうえで、その設計に沿って実運用まで担うのが特徴です。給与計算も対応業務に含まれているため、給与明細の電子配布・電子交付の運用設計から切り出して外部に任せる選択肢として検討価値があります。

「急な退職で経理が止まってしまった」「担当者にしかやり方がわからない」といった属人化の課題が導入のきっかけになるケースが多く、経理人材を新規採用するより固定費を抑えて専門性を確保したい会社に向きます。年商10億円未満の中小企業では経営者や代表者の判断で導入するケースが主流です。

給与計算業務を外部委託した場合にどの程度まで工数を削れるのか、代表の佃氏はカタログの独自インタビューで、従業員100名規模の企業を支援した事例を挙げています。

佃誠吾氏
株式会社Wheat 代表取締役
佃誠吾氏
独自インタビューより

業務効率化の事例としては、従業員100名規模のお客様で、Excelを用いた手作業で、完了までに1週間を要していた給与計算業務の事例です。システムの最適化と人員配置の再設計を徹底した結果、2〜3日での完了を実現。コスト・工数ともに50%以上の削減に繋がりました。これは個人のスキルに頼るのではなく、業務プロセスを正しく組み立て直したことによる成果です。

2. マネーフォワード おまかせ経理(株式会社マネーフォワード)

マネーフォワード おまかせ経理は、マネーフォワードがブランド提供元となり、グループ会社の株式会社キャシュモが実務を提供する経理BPOサービスです。マネーフォワード クラウドの導入支援から、記帳代行・請求書発行・支払管理・入金消込・給与計算・月次試算表作成までをオンラインで一括対応します。

2006年設立の経理BPO専業として運用実績を持つキャシュモが、2025年6月にマネーフォワードグループへ加わり、同月から本サービスの提供体制が整いました。月次試算表を最短5営業日で作成する運用速度と、電子契約(電子署名)での契約締結までクラウド完結できる導入プロセスが特徴で、公式サイトには従業員5名程度で月額10万円という料金の一例が掲載されています(実際の費用は業務範囲・企業規模で変動)。

対象顧客は「従業員5〜50名以下・年商1億円以上」の中小企業に絞られており、給与計算まで委託対象に含めるため、給与明細の電子交付を「業務ごと外部に任せて設計・運用まで丸投げしたい」ケースに向きます。導入実績は200社超と公式に案内されています。

まとめ:明日から動くためのチェックリスト

本記事のポイントを、稟議と現場運用の両方に持ち帰れる形に整理します。

同意書に入れるべき項目チェックリスト

法令上の必須事項(施行令第356条第1項+施行規則第95条の2 第1項の2項目)と、国税庁Q&A問5の運用推奨事項を区別して整理しておくと、同意書の構成に迷いません。

  • 法令必須(2項目):使用する電磁的方法(電子メール/Web閲覧/媒体交付のどれか)/ 記載情報の受信者ファイルへの記録の方式(PDF・XML・暗号化の有無 等)
  • 運用推奨:電子交付する書類の名称(給与明細・源泉徴収票の別)/ 電磁的方法の具体(例:会社Webポータルの閲覧、閲覧方法の案内)/ 受信者ファイルへの記録方法の詳細(例:PDF+パスワード保護)/ 交付予定日(例:毎月給与支給日)/ 交付開始日/ 承諾する旨・承諾日・氏名の入力欄

ステップ別の担当・所要期間の目安表

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ステップStep 1 範囲・配布方法の決定Step 2 システム選定・要件定義Step 3 従業員説明・同意取得Step 4 運用開始Step 5 紙運用の残置フロー整備
主な担当人事・給与担当人事・給与担当+IT部門人事・給与担当人事・給与担当人事・給与担当
所要期間の目安1〜2週間2〜4週間2〜3週間
(給与日から逆算)
初回給与日以降1〜2ヶ月
(並行運用期間)
継続
(拒否者・請求者向け)

従業員規模・組織体制で前後する目安。

給与明細電子化のよくある質問

Q. 給与明細を電子交付する際の「電磁的方法」とは、具体的にどのような方法を指しますか?

A. 給与明細の電子交付で認められる「電磁的方法」は、所得税法施行規則第92条の2 第1項が定める3方法に限定列挙されています。具体的には、①電子メール等で従業員側の受信者ファイルに直接送信する方法、②送信者側サーバの受信者ファイルを従業員がWeb閲覧する方法、③CD等の物理媒体に記録して交付する方法の3つです。

給与明細への適用は、所得税法施行令第356条第1項→施行規則第100条第4項→第95条の2→第92条の2の準用連鎖で及んでいます。この3方法以外(例:チャットツール単独での送信)は法令上の電子交付として認められないため、社内で使う仕組みが3方法のいずれに該当するかを整理し、同意書に明示する必要があります。

出典・参考資料(2件)

Q. 一度電子化に同意した従業員から書面交付を希望された場合、給与明細はどう扱えばよいですか?

A. 申出があった以降は、その従業員に対して電子交付を継続してはならず、書面(紙)で交付する運用に戻す必要があります。会社側の義務は所得税法施行令第356条第2項に明記されており、申出以降の電磁的方法による提供は禁止されます。

撤回の書式は法令上の定めはありませんが、国税庁のQ&A問15が「電子交付に代えて、○年分以後の給与所得の源泉徴収票(○年○月分以後の給与等の支払明細書)から書面による交付を受けたいので届出します」という届出文例を示しています。この文例をベースに社内の届出フォームを整えておき、申出があった翌月分の給与明細から紙運用に戻すのが実務の標準的な流れです。

出典・参考資料(2件)

Q. 従業員がプリンターを持っているかを、給与明細の電子化前に会社が確認する必要はありますか?

A. 従業員のプリンター保有状況を会社が確認する必要はありません。国税庁のQ&A問13が「電子交付した給与所得の源泉徴収票等データがプリンター等で出力可能かどうかを支払者等が確認していればよく、プリンターを有しているかどうかを確認いただく必要はありません」と明確に回答しています。

会社側に求められるのは、交付するデータが「映像面への表示および書面への出力ができる形式」であること(所得税法施行規則第92条の2 第2項第一号)で、個々の従業員のIT環境まで会社が調査する義務はありません。プリンター不所持を理由に電子化そのものを見送る必要はなく、自宅印刷が難しい従業員には共用PCの利用案内や、必要時に人事部で紙印刷を代行する運用でカバーできます。

出典・参考資料(2件)

Q. 電子化された源泉徴収票を従業員が自分で印刷して確定申告に提出してもよいですか?

A. 平成31年4月1日以後に提出する所得税確定申告(令和元年分/2019年分以後)から、給与所得の源泉徴収票の添付そのものが原則不要となっているため、確定申告書に印刷して添付する場面は基本的にありません

過去(平成18年当時の制度導入時)は「電磁的に提供を受けたものをプリントアウトしたものではなく、書面で交付を受けたものを添付する」との運用が示されていましたが、現行の確定申告制度では源泉徴収票の紙添付そのものが不要になっています。

ただし、金融機関の住宅ローン申請や勤務先以外の第三者提出用途では、原本や紙での提示を求められる場合があります。この用途では、電子明細サービスからPDFをダウンロードして自宅印刷したもので受け付けてもらえるか、提出先に事前確認する運用が現実的です。

Q. 従業員数十名規模の中小企業でも、給与明細の電子化にはメリットがありますか?

A. 中小企業でも、印刷・封入・配布の工数削減、リモート・在宅勤務者への配布負担の解消、再発行対応の効率化といった実利は十分に得られます。従業員数が数十名程度の会社では、給与計算ソフト内蔵型(月額数千円〜1万円台)で追加費用を最小限に抑えて電子化を開始でき、投資対効果を出しやすい規模です。

一方で、規模が小さいほど給与計算・給与明細配布の担当者が1〜2名に集中する属人化リスクも高まります。電子化の設計・同意運用にリソースを割けないケースでは、給与計算アウトソーシングで業務ごと外部委託する選択肢も現実的です。自社の担当者リソースと既存の給与計算環境を軸に判断してください。

Q. 電子化した給与明細のデータは、いつまで保存する必要がありますか?

A. 給与明細そのものの保存年限を直接定める規定はありませんが、給与明細と情報が重なる賃金台帳は労働基準法上5年間(当分の間3年間)、税務関係書類は原則7年間の保存が求められます。実務上はこれらの保存年限に合わせて、電子データを保管しておくのが安全です。

電子データで保管する場合も紙と同じ年限が適用されます。給与計算ソフトやクラウド電子明細サービスの多くは過去分のデータをシステム内で保持し続ける仕様のため、契約継続中は自動的に要件を満たせますが、サービス解約時のデータエクスポート・移行の可否は導入前に確認しておくことを推奨します。

Q. パート・アルバイト・派遣スタッフの給与明細も電子化してよいですか?

A. 雇用形態にかかわらず、給与等を支払う従業員本人から個別に承諾を得れば電子化できます。所得税法第231条の給与明細交付義務は、正社員・パート・アルバイトの区別なく、給与等の支払を受ける者すべてに適用されるため、承諾の要件も同じです。パート・アルバイト従業員から個別に電子交付の承諾を得れば、正社員と同様に電子明細に切り替えられます。

派遣スタッフの給与明細を交付する義務は、雇用契約を結んでいる派遣元事業主にあり、派遣先企業には交付義務はありません。派遣スタッフの給与明細の電子化は派遣元の運用によって決まるため、派遣先で電子化を進めても派遣スタッフには影響しません。

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監修者

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト

松嶋真倫

都市銀行にて金融実務を経験後、暗号資産関連スタートアップの創業期に参画し、市場分析・業界調査に従事。2018年にマネックスグループ入社。以降、ビットコインをはじめとするデジタルアセットからマクロ経済環境まで、金融市場を横断した調査・分析および情報発信を担う。FinTech・次世代金融領域のリサーチ統括、各種レポートや書籍の執筆、日本経済新聞など国内主要メディアへのコメント・寄稿、イベント登壇などを行う。2021年3月より現職。
記事内でご紹介している製品・サービスは監修者が選定したものではなく、編集部が独自に選定したものです。
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。
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