法人口座の開設や取引開始時の取引時確認では、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)にもとづき、その法人の「実質的支配者」を確認・申告する場面があります。株主や親会社をたどっていくと上場企業に行き着くとき、多くの担当者が「上場企業まで来たら、そこで止めていいのか」と迷います。
本記事では、株主・親会社・オーナーの連鎖に上場企業が含まれる場合に、誰を実質的支配者とすればよいのかを、根拠となる犯収法の条文と、持株比率を当てはめた具体例で整理します。上場会社等が「自然人とみなされる」ことの正確な意味、25パーセント超・50パーセント超の判定順、間接保有の合算ルールまで、そのまま申告・確認の判断材料に使える形でまとめました。
目次
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結論:上場会社等とその子会社は「自然人」とみなして確定する(顧客が上場会社等なら申告不要)
先に結論をお伝えします。株主や親会社をたどって上場企業(正確には後述する「上場会社等」)に行き着いたら、その上場企業でさかのぼりを止めて構いません。犯収法の実質的支配者の判定では、上場会社等およびその子会社は「自然人とみなす」と定められており、さらに個人までさかのぼって特定する必要がないためです。
その直接の根拠は、犯収法施行規則第11条第4項です。上場会社等を含む「国等」およびその子会社を、実質的支配者の判定において自然人とみなすと定めています。
4 国等(令第十四条第四号に掲げるもの及び第十八条第六号から第十号までに掲げるものを除く。)及びその子会社(会社法第二条第三号に規定する子会社をいう。)は、第二項の規定の適用については、自然人とみなす。
出典:犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則 第11条第4項|e-Gov法令検索
ここでいう「国等」には、国・地方公共団体などに加えて、上場株式等を発行している会社(上場会社等)が含まれます。第11条第4項は、判定基準を定める同規則第11条第2項が自然人(個人)を対象とするなかで、上場会社等を第2項の判定上「自然人と同じ扱い」に置く規定です。結果として、判定の連鎖が上場会社等に到達した時点で、その上場会社等が実質的支配者として確定します。
これを口座開設や取引開始の手続きの側から見ると、確認や申告を求められている法人(顧客等)自身が上場会社等またはその子会社であれば、実質的支配者の申告そのものが不要になります。上場会社等がそのまま自然人とみなされ、判定がそこで完結するためです。銀行・証券各社の口座開設案内が「上場企業は申告不要」と示しているのは、この手続き当事者の視点にもとづく説明です。
「除外される」の誤解を正す──消えるのではなく、そこで遡りが止まる
ここでつまずきやすいのが、「上場会社等は除外される」という言い回しです。除外という言葉から、上場企業を無視して個人までさらにさかのぼる、と受け取ってしまうと判断を誤ります。
正確には、上場会社等は判定の対象から消えるのではなく、「自然人とみなされて」その位置で実質的支配者として確定します。個人と同じ扱いになるからこそ、そこでさかのぼりが止まるという理解が正しいものです。法務省は、商業登記の実質的支配者リスト制度に関するQ&Aのなかで、この点を次のように説明しています。
(質問)上場会社又はその子会社の100パーセント子会社の場合、実質的支配者は、誰になりますか。
出典:実質的支配者リスト制度Q&A(Q1-5)|法務省
(回答)上場会社又はその子会社は、自然人とみなされます(犯収法施行令第14条第5号参照)。そのため、上場会社又はその子会社が、100パーセント子会社の実質的支配者に該当することとなります。
この説明は商業登記の実質的支配者リスト制度に関するものですが、実質的支配者の定義は犯収法施行規則第11条を共有しているため、「上場会社等は自然人とみなして確定する」という考え方は取引時確認でも同じです。「上場会社等が実質的支配者に該当する」と当局が明言している点に注目してください。除外して空欄にするのではなく、上場会社等をそこで確定させるのが、条文どおりの扱いです。
法務省Q&Aが引く「犯収法施行令第14条第5号」は、この「上場会社等」が誰を指すのかを定める規定です。上場会社等の具体的な範囲は「上場会社等」に含まれる範囲で条文とともに整理します。
実質的支配者の判定順(25パーセント超→50パーセント超→支配的影響力→代表者)と間接保有の合算
上場企業が絡むケースを当てはめる前に、実質的支配者の判定順を押さえます。実質的支配者とは、法人の事業経営を実質的に支配できる関係にある個人を指し、その本人特定事項の確認が犯収法第4条第1項第4号で求められています。株式会社などの「資本多数決法人」では、次の順で判定します。
- 議決権の総数の25パーセント(4分の1)を超える議決権を、直接または間接に持つ個人がいるか。いれば、その個人が実質的支配者です。
- ただし、議決権の50パーセント(2分の1)を超える議決権を持つ個人がいる場合は、その個人のみが実質的支配者となります(25パーセント超の他の個人がいても、そちらは対象にしません)。
- 議決権で該当する個人がいないときは、出資・融資・取引その他の関係を通じて、その法人の事業活動に支配的な影響力を持つと認められる個人が実質的支配者です。
- これらに該当する個人がいずれもいないときは、その法人を代表し、業務を執行する個人(代表者)を実質的支配者とします。

この判定基準は、犯収法施行規則第11条第2項が定めています。原文は割合を分数で表記しており、「4分の1を超える」が25パーセント超、「2分の1を超える」が50パーセント超にあたります。
2 法第四条第一項第四号及び令第十二条第三項第三号に規定する主務省令で定める者(以下「実質的支配者」という。)は、次の各号に掲げる法人の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者とする。
出典:犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則 第11条第2項|e-Gov法令検索
一 ……法人(……「資本多数決法人」という。)のうち、その議決権の総数の四分の一を超える議決権を直接又は間接に有していると認められる自然人(当該資本多数決法人の事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合又は他の自然人が当該資本多数決法人の議決権の総数の二分の一を超える議決権を直接若しくは間接に有している場合を除く。)があるもの/当該自然人
間接保有の議決権は合算する(50パーセント超を持つ法人を通じた保有の考え方)
25パーセント超・50パーセント超を判定するときは、個人が直接持つ議決権だけでなく、間接的に持つ議決権も合算します。ここで合算の対象になる「間接保有」には条文上の定義があり、単純にすべての出資関係を足し上げるわけではありません。
合算されるのは、その個人が「支配法人」を通じて持つ議決権です。支配法人とは、その個人が議決権の50パーセント超を持つ法人を指します。さらに、支配法人が50パーセント超の議決権を持つ別の法人も支配法人とみなされるため、多段の連鎖でも数珠つなぎに合算されます。根拠は施行規則第11条第3項です。
3 前項第一号の場合において、当該自然人が当該資本多数決法人の議決権の総数の四分の一又は二分の一を超える議決権を直接又は間接に有するかどうかの判定は、次の各号に掲げる割合を合計した割合により行うものとする。
出典:犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則 第11条第3項|e-Gov法令検索
一 当該自然人が有する当該資本多数決法人の議決権が当該資本多数決法人の議決権の総数に占める割合
二 当該自然人の支配法人(当該自然人がその議決権の総数の二分の一を超える議決権を有する法人をいう。……)が有する当該資本多数決法人の議決権が当該資本多数決法人の議決権の総数に占める割合
この「50パーセント超の法人を通じた保有を合算する」というルールは、上場企業が連鎖の途中に入るケースを当てはめる際の鍵になります。
逆に、その個人が50パーセント以下しか議決権を持たない会社を通じた保有は合算しません。たとえば、ある個人が30パーセントだけ出資する中間会社が顧客法人の議決権を持っていても、その分はその個人の議決権には足し合わせない、という点が実務では間違えやすいところです。
資本多数決法人以外の法人(合同会社など)の場合
ここまでは株式会社などの資本多数決法人を前提にしました。合同会社・合名会社・合資会社や、一般社団・財団法人などの資本多数決法人以外の法人では、判定の入口が変わります。
議決権割合ではなく、事業から生じる収益や財産の分配を受ける権利が25パーセント超か、または事業活動に支配的な影響力を持つかで、実質的支配者を判定します(施行規則第11条第2項第3号)。該当する個人がいなければ、代表者を実質的支配者とする点は同じです。上場企業が絡む論点は資本多数決法人で生じることがほとんどですが、法人形態によって判定の入口が異なる点は押さえておきましょう。
上場企業がオーナー連鎖の途中に入るケース──持株比率で当てはめる
ここからは、確認・申告の対象となる法人(顧客A社とします)自身は非上場だが、その株主をたどると上場企業が出てくる、という実務で迷いやすいケースを、持株比率を当てはめて整理します。以下の例は特定の会社の事例ではなく、これまで見てきた条文(施行規則第11条第2項の判定基準・第3項の合算・第4項のみなし)を当てはめた考え方です。

ケースA:顧客A社の議決権を上場B社が100パーセント保有
非上場の顧客A社の議決権を、上場企業のB社が100パーセント持っているとします。B社はA社の議決権の50パーセント超を持つため、判定順ではB社が実質的支配者の候補になります。
そしてB社は上場会社等なので、施行規則第11条第4項により自然人とみなされ、その位置で確定します。個人までさらにさかのぼる必要はありません。これは、法務省Q&Aの「上場会社の100パーセント子会社の実質的支配者は上場会社」という説明とそのまま一致します。
したがって、A社の実質的支配者は上場B社です。A社が取引時確認を受ける立場なら、実質的支配者としてB社(上場会社等)を示すことになります。
ケースB:顧客A社の議決権を上場B社が60パーセント保有
次に、上場B社が顧客A社の議決権を60パーセント持ち、残り40パーセントを創業家の個人Cが持つとします。B社は50パーセント超を持つため、判定順の2段目でB社のみが実質的支配者となり、25パーセント超を持つ個人Cは対象になりません。そしてB社は上場会社等なので自然人とみなされ、そこで確定します。
この結果、A社の実質的支配者は上場B社です。40パーセントを持つ個人Cは、単独では50パーセント超に届かず、B社の存在によって判定対象から外れます。「大株主に上場企業がいると、そこで判定が固まりやすい」という感覚は、この50パーセント超のルールから来ています。
ケースC:多段の連鎖(顧客A社→中間持株会社→上場企業)
連鎖が多段になる場合を考えます。顧客A社の議決権を中間持株会社D社が80パーセント持ち、そのD社の議決権を上場E社が70パーセント持つ、という構成です。ここで効くのが間接保有の合算ルール(施行規則第11条第3項)です。
上場E社はD社の議決権の50パーセント超(70パーセント)を持つため、D社はE社の支配法人にあたります。支配法人を通じた保有は合算されるので、E社はD社経由でA社の議決権80パーセントを間接保有していると扱われます。
これは50パーセント超なので、判定ではE社のみが実質的支配者の候補となり、上場会社等であるE社が自然人とみなされて確定します。中間にD社が挟まっても、上場企業まで連鎖が届けばそこで止まる、というのがケースAやBと共通する結論です。
一方、もしE社のD社に対する持株比率が50パーセント以下だと、D社はE社の支配法人にあたらず、E社の議決権は合算されません。この場合はA社の議決権を直接・間接に25パーセント超持つ個人がいるかを、あらためて連鎖全体で確認することになります。持株比率が50パーセント超かどうかが、合算して連鎖を延ばせるかどうかの分岐点です。
連鎖をたどって上場会社等に到達したら、その上場会社等のさらに上に株主がいても、そこで判定は確定します。上場会社等は自然人とみなされるため、それより上の株主はたどりません。上場企業が連鎖の最終的な支配者かどうかにかかわらず、連鎖の中に現れればそこが判定の到達点になります。
ケースD:上場企業が過半数を持たない場合(上場B社40パーセント・個人C35パーセント)
上場企業が株主にいても過半数は持たない場合を確認します。上場B社が顧客A社の議決権を40パーセント、創業家の個人Cが35パーセントを持つとします。ここでは50パーセント超を持つ者がいないため、判定順の1段目に戻り、25パーセント超を持つ者を実質的支配者とします。
このとき、上場B社も40パーセント(25パーセント超)を持つため、自然人とみなされて実質的支配者の一人になります。個人Cも35パーセント(25パーセント超)で実質的支配者です。結果として、A社の実質的支配者は上場B社と個人Cの2者になります。上場企業が株主にいても50パーセント超でなければ判定はそこで完結せず、25パーセント超を持つ他の個人も併せて確認・記載する点に注意してください。
「上場会社等」に含まれる範囲
ここまで「上場会社等」と呼んできた対象の範囲を、条文で確定させます。自然人とみなされるのは、施行規則第11条第4項がいう「国等およびその子会社」です。この「国等」の中身は、犯収法第4条第5項および施行令第14条に列挙されており、上場企業(上場株式等の発行者)は施行令第14条第5号にあたります。
第十四条 法第四条第五項に規定する政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
出典:犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令 第14条第5号|e-Gov法令検索
五 金融商品取引法施行令(昭和四十年政令第三百二十一号)第二十七条の二各号に掲げる有価証券(……)の発行者
整理すると、実質的支配者の判定で自然人とみなされ、そこで確定するのは次の対象です。国、地方公共団体、人格のない社団または財団は犯収法第4条第5項の本文に、独立行政法人や外国政府なども施行令第14条の各号に挙げられています。
そのうえで、上場会社等(施行令第14条第5号の有価証券発行者)とその子会社が、施行規則第11条第4項により自然人とみなされます。銀行や証券会社の口座開設案内が「国、地方公共団体、上場企業とその子会社は個人とみなす」と説明しているのは、この一連の規定をまとめたものです。
上場企業の「子会社」は会社法第2条第3号の子会社を指します。上場企業が議決権の過半数を持つなどして支配している会社であれば、その会社自身が非上場でも、上場会社等の子会社として自然人とみなされる点に注意してください。
ここでの上場会社等は、日本の金融商品取引法上の有価証券(施行令第14条第5号が引く金融商品取引法施行令第27条の2各号の有価証券)の発行者を指します。
そのため、海外の証券取引所にのみ上場している外国企業がこれに当たるかは、その企業の有価証券が金融商品取引法上の有価証券に該当するかによって変わります。海外上場の親会社が関わるケースでは、取引先の案内や条文で該当の可否を確認してください。
申告する側・確認する側の実務
ここからは、実際の手続きで何をすればよいかを、確認を受ける側と行う側の両面から整理します。
確認を受ける側(顧客法人)として、自社そのものが上場会社等またはその子会社であれば、実質的支配者の申告は不要になるのが原則です。取引先の様式によっては、上場している事実や、上場会社等の子会社である関係を申告書上で示すよう求められることがあります。
自社が非上場でも、株主に上場企業がいてそこで判定が確定する場合は、その上場企業を実質的支配者として記載することになります。株主構成や持株比率がすぐに示せるよう、株主名簿や資本関係の資料を手元に準備しておくと手続きが滞りません。
確認を行う側(特定事業者)としては、申告された内容が判定順と合っているかを、議決権割合と間接保有の合算まで含めて確認することになります。特に、大株主に上場企業がいるケースでは、その上場企業でさかのぼりが止まるのか、それとも持株比率が50パーセント以下で連鎖が延びないのかを見極める必要があります。
手続きの具体的な様式や添付書類は取引先ごと・金融機関ごとに異なるため、各社の案内にしたがって確認してください。
取引時確認では、実質的支配者だけでなく、法人そのものや取引担当者についても本人確認書類の提出が求められます。会社・取引担当者・実質的支配者それぞれで必要になる書類と確認方法は、以下の記事で一覧にまとめています。
根拠となる犯収法の条文まとめ
これまでの判断の根拠を、論点ごとに条文で一覧にします。実務で申告内容の根拠を示すときや、社内で判断の裏づけを確認するときに参照してください。
| 論点 | 実質的支配者の確認義務の根拠 | 実質的支配者の判定基準(25パーセント超・50パーセント超・支配的影響力・代表者) | 間接保有の議決権の合算 | 上場会社等およびその子会社を自然人とみなす | 「上場会社等」の定義(有価証券の発行者) | 「国等」の代表者確認の特例(上場会社等が国等に含まれる入口) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 根拠となる条文 | 犯収法 第4条第1項第4号 | 犯収法施行規則 第11条第2項 | 犯収法施行規則 第11条第3項 | 犯収法施行規則 第11条第4項 | 犯収法施行令 第14条第5号 | 犯収法 第4条第5項 |
| 定めの要点 | 顧客が法人のとき、その事業経営を実質的に支配できる関係にある「主務省令で定める者」(=実質的支配者)の本人特定事項を確認する | 資本多数決法人は、議決権25パーセント超の個人→50パーセント超がいればその者のみ→支配的影響力を持つ個人→代表者、の順で判定する | 個人が50パーセント超を持つ「支配法人」を通じた議決権を合算する。多段の連鎖も支配法人とみなして数珠つなぎに合算する | 「国等」およびその子会社を、実質的支配者の判定において自然人とみなす。判定の連鎖はここで確定する | 第4条第5項の「政令で定めるもの(国等)」の一つとして、上場株式等(金融商品取引法施行令第27条の2各号の有価証券)の発行者を挙げる | 国等については取引担当者の本人特定事項確認の字句を読み替える特例。「その他政令で定めるもの」を受けて施行令第14条が国等を列挙する |
※条番号・内容は2026年8月時点のe-Gov法令検索の現行条文にもとづきます。
出典・参考資料(3件)
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実質的支配者の確認・記録・継続的顧客管理を仕組みで運用する
ここからは、実質的支配者の確認をシステムで支える選択肢を紹介します。ここまで見てきたとおり、上場企業が絡む持株連鎖の把握は、株主構成や資本関係をたどる作業を伴います。取引のたびに株主名簿や登記情報を人手で集めて資本関係を追い、確認の証跡を残し続けるのは、取引件数が増えるほど負荷が高まる領域です。
実質的支配者情報のオンライン取得や、中間株主を含む資本関係の可視化、反社・PEPs(重要な公的地位を有する者)・制裁対象のスクリーニング、取引開始後の継続的なモニタリングといった機能をもつソリューションを使うと、これらの確認と記録を組織的に運用しやすくなります。
ソリューションによって得意分野は異なります。実質的支配者情報の取得や資本関係の可視化に強いものもあれば、反社・PEPs・制裁のスクリーニングや継続的な記録・モニタリングに強いものもあります。自社の確認業務で何を重視するかに合わせて選ぶとよいでしょう。以下は、実質的支配者の確認・記録・継続的顧客管理に役立つソリューションの比較です。
| サービス名 | RiskAnalyze(リスクアナライズ) | コンプライアンス・ステーション |
|---|---|---|
| 主な用途 | 反社・コンプライアンスチェック(KYC/AML) | AML/CFT・実質的支配者(UBO)確認 |
| 実質的支配者(UBO)情報のオンライン取得 | × | ◎TSR法人DB(1,000万件超)から取得 |
| 中間株主を含む資本系列図の可視化 | × | ●UBO+(プラス)で対応 |
| 反社・PEPs・制裁スクリーニング | ◎国内約1,000媒体・海外240超の国と地域に対応 | × |
| 継続的モニタリング・再チェック | △CSV一括検索で定期的に再チェック | ●UBOモニタリングで日次通知 |
| 取得・調査結果の保存 | クラウドに7年間自動保存 | Excel/CSVで取得・保存 |
| 対象ユーザー | 業種を問わず利用可 | 金融機関・特定事業者中心 |
| 初期費用 | 無料 | 無料 |
| 料金の目安 | 月額27,500円〜(ライトプラン/年間600検索) | 年額500,000円〜(税別・UBO基本プラン) |
| 無料トライアル | あり | あり |
| セキュリティ認証 | ISO/IEC 27001:2022 | ISO/IEC 27001:2022 |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 詳細を見る |
※上記は各社の公式サイト・プレスリリース等の公開情報にもとづき2026年8月時点で作成したものです。料金・機能・仕様は変更される場合があるため、最新の詳細は各サービスの公式情報・資料でご確認ください。◎=特に強み、●=対応、△=一部・条件付き対応、×=非対応を表します。
1. RiskAnalyze(リスクアナライズ)(KYCコンサルティング株式会社)

RiskAnalyzeは、KYCコンサルティング株式会社が提供する、AIを活用したWEBサービス型のコンプライアンス・反社チェックツールです。個人名・企業名を入力すると、反社会的勢力とのつながり・逮捕歴・行政処分・訴訟歴・風評などを調査し、判定済みの調査レポートを表示します。単件では最短0.4秒、CSV一括検索では1,000件を約1分で処理でき、調査の証跡はクラウド上に7年間自動保存されます。
取引時確認や継続的顧客管理の観点では、国内約1,000媒体からの情報収集に加え、240以上の国と地域の海外リスク情報やPEPs・制裁(Sanction)情報にも対応している点が実務に効きます。API利用料は無料で、Salesforce・kintoneなどのCRM・基幹システムと連携でき、確認業務を既存のワークフローに組み込めます。
情報セキュリティマネジメントの国際規格ISO/IEC 27001:2022を2025年に取得しており、記録の管理体制を第三者認証で担保しています。累計導入企業数は1,300社(2025年6月時点、公式プレスリリース)です。
反社・制裁スクリーニングや継続的な顧客管理を、記録の保存まで含めて仕組み化したい企業に向いています。
2. コンプライアンス・ステーション(コンプライアンス・データラボ株式会社)

実質的支配者の確認そのものを中核機能に据えるのが、コンプライアンス・データラボ株式会社のコンプライアンス・ステーションです。
金融機関などを主な対象に、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策(AML/CFT)に必要なデータの収集・整備・リスク評価を支援するオンラインプラットフォームです。実質的支配者情報(UBO:Ultimate Beneficial Owner)をオンラインで即時取得できる点が特徴です。
東京商工リサーチ(TSR)の1,000万件を超える法人データベースを活用し、法人名から実質的支配者・役員情報・取引先情報を取得できます。オプションのUBO+(プラス)では、中間にいる株主を含む資本系列図(UBOグラフ)を可視化でき、本記事で見たような上場企業が連鎖の途中に入るケースの資本関係を追う作業に直接役立ちます。
従来は書面の郵送で回収していた実質的支配者確認書のフローをオンライン化する設計で、公式事例では回収率が改善したケースが紹介されています。大手金融機関を中心に20社以上の導入実績(2025年4月時点、公式プレスリリース)があり、ISO/IEC 27001:2022も取得済みです。
実質的支配者の確認と資本関係の可視化を、犯収法対応の実務に沿ってオンラインで進めたい金融機関などに適しています。
法人の取引時確認では、実質的支配者の確認とあわせて、取引担当者など個人の本人確認(eKYC)が必要になる場面もあります。本人確認の方式やeKYCサービスを、導入費用・不正対策・法改正対応まで含めて比較検討したい場合は、以下の記事もあわせてご覧ください。
まとめ
実質的支配者の確認で株主・親会社をたどって上場会社等に行き着いたら、そこでさかのぼりを止めて構いません。上場会社等およびその子会社は施行規則第11条第4項によって自然人とみなされ、除外されて消えるのではなく、その位置で実質的支配者として確定するためです。顧客法人自身が上場会社等なら、実質的支配者の申告は不要になります。
連鎖の途中に上場企業が入るケースは、25パーセント超・50パーセント超の判定順と、支配法人を通じた間接保有の合算ルールを当てはめれば判断できます。50パーセント超を持つ上場企業まで連鎖が届けば、そこで確定します。
判断に迷ったら、本記事の条文まとめとe-Gov法令検索の原文で根拠を確認してください。実質的支配者の確認や継続的な顧客管理を反復して行うなら、確認と記録を仕組みで運用できるソリューションの活用も選択肢になります。
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よくある質問(FAQ)
Q. 実質的支配者とは何ですか?
A. 実質的支配者とは、その法人の事業経営を実質的に支配できる関係にある個人(自然人)を指し、法人が取引時確認を受ける際にその本人特定事項の確認・申告が求められます(犯収法第4条第1項第4号)。株式会社などの資本多数決法人では、議決権の25パーセント超を持つ個人→50パーセント超を持つ個人がいればその個人のみ→事業活動に支配的な影響力を持つ個人→代表者、の順で判定します(施行規則第11条第2項)。
Q. 自社が上場企業の場合、実質的支配者の申告は必要ですか?
A. 自社が上場会社等またはその子会社であれば、実質的支配者の申告は原則として不要です。上場会社等およびその子会社は実質的支配者の判定において自然人とみなされ、それ自身がそこで実質的支配者として確定するため、個人までさかのぼる必要がないからです(施行規則第11条第4項)。ただし取引先の様式によっては、上場している事実や上場会社等の子会社である関係を申告書上で示すよう求められることがあります。
Q. 非上場企業の株主に上場企業がいる場合、実質的支配者には誰を書きますか?
A. その上場企業が議決権の50パーセント超を直接・間接に持つ場合は、実質的支配者としてその上場企業(上場会社等)を記載します。上場会社等は自然人とみなされ、そこで判定が確定するため、背後の個人までさらにさかのぼる必要はありません(施行規則第11条第4項)。
一方、その上場企業が50パーセント超を持たない場合は、25パーセント超を持つ人が実質的支配者になります。その上場企業自身が25パーセント超を持つなら上場企業も含め、25パーセント超の個人が複数いればそれぞれが実質的支配者です。株主構成と持株比率を確認して当てはめてください。
Q. 上場会社等が「除外される」とは、実質的支配者の欄を空欄にするという意味ですか?
A. いいえ、「除外」は欄を空欄にすることではなく、上場会社等を自然人とみなして、その位置で実質的支配者として確定させることを指します。
法務省も実質的支配者リスト制度Q&Aで「上場会社又はその子会社が…実質的支配者に該当することとなります」と説明しており、消して個人までさかのぼるのではなく、上場会社等でさかのぼりを止めるのが条文どおりの扱いです(施行規則第11条第4項・施行令第14条第5号)。
Q. 実質的支配者の判定では、25パーセント超と50パーセント超のどちらが優先されますか?
A. 50パーセント超の議決権を持つ個人がいる場合は、その個人のみが実質的支配者となり、25パーセント超を持つ他の個人は対象になりません。施行規則第11条第2項第1号が、議決権25パーセント超の個人を実質的支配者としつつ、他の個人が50パーセント超を持つ場合を除くと定めているためです(施行規則第11条第2項)。
50パーセント超を持つ株主がいなければ、25パーセント超を持つ個人が(複数いればそれぞれ)実質的支配者になります。この判定では、支配法人を通じた間接保有の議決権も合算します(同条第3項)。
Q. 上場企業の非上場の子会社は、実質的支配者としてどう扱われますか?
A. 上場企業の子会社は、それ自身が非上場でも上場会社等の子会社として自然人とみなされ、実質的支配者として確定します(施行規則第11条第4項)。ここでの子会社は会社法第2条第3号の子会社を指し、上場企業が議決権の過半数を持つなどして支配している会社が該当します。したがって、株主連鎖が上場企業の子会社に行き着いた時点で、その子会社でさかのぼりを止めて構いません。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。












