入社手続きで交わす雇用契約書を、紙の印刷・押印・郵送で運用している企業は少なくありません。テレワークや遠方採用が広がるなかで、雇用契約書(労働条件通知書を兼ねる書式を含む)を電子でやり取りしたいという声が増えています。一方で「労働条件は書面で明示するもの」という原則が長く続いてきたため、電子に切り替えて交付が無効にならないか不安を感じる担当者も多いはずです。
結論から言えば、雇用契約書の電子化は可能です。ただし、労働者本人が希望・同意していることが条件になります。本記事では、電子化してよいかの結論と条件を根拠となる条文とともに示したうえで、雇用契約書と労働条件通知書の違い、電子化の進め方、電子署名で締結した契約の法的効力、対応できる電子契約システムまでを整理します。社内で電子化を通すための判断材料としてご活用ください。
目次
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雇用契約書は電子化してよいか(結論:本人の希望・同意が条件)
雇用契約書(労働条件通知書を兼ねる書式を含む)は、電子で作成・交付・締結できます。ただし手放しで認められるわけではなく、労働者本人が電子化を希望・同意していることが条件です。まず結論とその根拠、続いて実務で満たすべき要件を確認します。
電子化が認められる法的根拠(2019年の労基則改正)
使用者には、労働契約を結ぶ際に労働条件を労働者へ明示する義務があります。これは労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条第1項に定められています。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
出典:労働基準法 第15条第1項|e-Gov法令検索
この「厚生労働省令で定める方法」を具体的に定めているのが、労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第5条第4項です。原則は書面の交付ですが、2019年(平成31年)4月1日に施行された改正により、労働者が希望した場合に限って電子メール等による明示が認められるようになりました。
法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
出典:労働基準法施行規則 第5条第4項|e-Gov法令検索
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(中略)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)
条文の建て付けは「原則は書面。労働者が希望した場合に限り、例外として電子メール等による方法を認める」というものです。電子化が適法になる前提は、労働者本人の希望にあります。ただし、この第5条第4項は労働条件の明示(通知)の方法を定めた規定であり、雇用契約書という書面そのものの電子化ではなく、労働条件を電子で明示できる根拠にあたる点は後の章で改めて整理します。
電子化で満たすべき3つの要件
電子で労働条件を明示・交付する際に満たすべき要件は、次の3つに整理できます。ひとつでも欠けると電子交付が認められないため、自社の運用で漏れがないか確認してください。
- 労働者本人が希望・同意していること。会社が一方的に電子化するのではなく、本人の希望が前提となります。
- 出力して書面を作成できる形式で交付すること。電子メール等による交付では、労働者が記録を印刷して書面にできる形式(PDF等)であることが求められます。
- 到達を確認すること。送信しただけで終わらせず、労働者に確実に届いたかを確認します。
①の本人の希望について、厚生労働省は口頭での希望も含まれるとしつつ、紛争を未然に防ぐ観点から、希望したか否かを個別かつ明示的に確認することが望ましいとしています。
則第5条第4項の「労働者が(中略)希望した場合」とは、労働者が使用者に対し、口頭で希望する旨を伝達した場合を含むと解されますが、法第 15 条の規定による労働条件の明示の趣旨は、労働条件が不明確なことによる紛争を未然に防止することであることに鑑みると、紛争の未然防止の観点からは、労使双方において、労働者が希望したか否かについて個別に、かつ、明示的に確認することが望ましいです。
出典:改正労働基準法に関するQ&A(平成31年4月)Q4-1|厚生労働省
②の出力可能性は、労働基準法施行規則第5条第4項第2号(電子メール等による方法)に定められた要件です。厚生労働省は、SMSやRCSはPDF等の添付ファイルを送れず、出力による書面作成が念頭に置かれていないため労働条件明示の手段としては例外的だとしており、原則は電子メールやSNSのメッセージ機能を用いる方法が望ましいとしています。
③の到達確認は、労働者が電子データを実際に受け取れたかを確かめる運用上の要件です。送信履歴や開封確認、システムのログなどで受領を残せる形にしておくと、後の紛争防止にもつながります。
雇用契約書と労働条件通知書の違い
電子化を検討する前提として、「雇用契約書」と「労働条件通知書」の違いを押さえておく必要があります。両者は法的な位置づけが異なり、兼用している書式ではその違いが分かりにくくなるためです。
交付義務があるのはどちらか
労働条件通知書は、労働基準法第15条第1項に基づく明示義務を果たすための書面で、使用者に交付義務があります。この明示義務に違反した場合、労働基準法第120条第1号により30万円以下の罰金の対象になります。
一方、雇用契約書は労使双方の合意を示す書面ですが、契約自体は合意によって成立するため、書面の作成・締結は法的な義務ではありません。民法(明治29年法律第89号)第623条は、雇用契約が当事者の合意によって効力を生じると定めています。
(雇用)第六百二十三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
出典:民法 第623条|e-Gov法令検索
両者の違いを整理すると次のとおりです。
| 書類区分 | 雇用契約書 | 労働条件通知書 |
|---|---|---|
| 目的 | 労使双方の合意の記録 | 使用者から労働者への労働条件の明示 |
| 作成・交付義務 | なし(合意で契約は成立) | あり(労働基準法第15条第1項) |
| 根拠法 | 民法第623条 | 労働基準法第15条第1項 |
| 署名・押印 | 労使双方が署名・記名押印 | 使用者が交付(労働者の署名は不要) |
| 違反時の罰則 | なし | あり(30万円以下の罰金・労働基準法第120条第1号) |
| 電子化の可否 | 可(合意の方式は自由) | 可(本人希望が条件・労基則第5条第4項) |
電子化にあたって注意が必要なのは労働条件通知書のほうです。雇用契約書は書面の形式に法的な縛りがない一方、労働条件通知書は本人の希望という条件と出力可能性などの要件を満たす必要があります。
出典・参考資料(1件)
兼用書式(労働条件通知書兼雇用契約書)の扱い
実務では、労働条件通知書と雇用契約書を1つの書式にまとめた「労働条件通知書兼雇用契約書」を使う企業が多くあります。この兼用書式には、労働条件を明示しつつ双方の合意も残せるという利点があります。
交付・締結の形には、大きく次の3つのパターンがあります。自社の運用に合わせて選びます。
- 労働条件通知書の交付のみ:明示義務を果たすために通知書だけを交付する。雇用契約書は作成しない。
- 労働条件通知書と雇用契約書を別々に締結する:通知書を交付したうえで、別途、雇用契約書に双方が署名して合意を残す。
- 兼用書式で締結する:1つの書式に明示事項と合意欄をまとめ、会社の申込みと労働者の承諾で雇用契約を成立させる。
ここで注意したいのは、本人の希望・出力可能性・到達確認という要件がかかるのは、あくまで労働条件の明示(=労働条件通知書や兼用書式の明示部分)を電子で行う場合だという点です。雇用契約書そのものの合意は方式が自由なため、書面の形式に法的な縛りはありません。
ただし兼用書式は明示の性質を含むため、電子化する際は通知書と同じ要件を満たす必要があります。兼用しているからといって、明示要件を省けるわけではありません。
2024年4月に追加された労働条件の明示事項
2024年(令和6年)4月1日に施行された労働基準法施行規則の改正により、労働条件の明示事項が追加されました。電子化の前提として、通知書・兼用書式にこれらの事項が漏れなく記載されているかを確認しておく必要があります。追加された主な事項は次の3点です。
- 就業場所・業務の変更の範囲(全労働者が対象。労基則第5条第1項第1号の三)
- 更新上限の有無と内容(有期労働契約が対象。同第1号の二)
- 無期転換申込機会と無期転換後の労働条件(無期転換申込権が発生する有期労働契約が対象。労基則第5条第5項)
特に「就業場所・業務の変更の範囲」は全労働者に関わるため、既存の書式を見直していない場合は改正内容を反映してから電子化を進めます。
出典・参考資料(1件)
雇用契約書を電子化するメリット・デメリット
電子化を社内で提案する際は、得られる効果と事前に押さえるべき注意点の両面を整理しておくと判断しやすくなります。
電子化するメリット
雇用契約書を電子化すると、印刷・押印・郵送にかかる手間と郵送費・用紙代を削減できます。遠方や在宅の入社者ともオンラインで締結できるため、入社日までのやり取りが早くなり、採用手続きのスピードが上がります。締結後の契約書はシステム上で保管・検索できるため、書類の管理や再発行の負担も軽くなります。
電子化するデメリット・注意点
一方で、電子化には運用面の準備が必要です。労働者への説明と同意取得の手間がかかるほか、システムの導入・運用コストが発生します。雇用契約書には個人情報が含まれるため、アクセス権限の設定や送信ミスの防止といった情報管理の体制も欠かせません。パソコンやスマートフォンの操作に不慣れな従業員がいる場合は、電子と紙を併存させる運用が現実的でしょう。
雇用契約書を電子化する進め方
ここからは、雇用契約書の電子化を実際に進める際の実務論点を、同意の取得から保存対応まで順に解説します。まず、入社者1名の兼用書式を電子で締結する場合の基本的な流れを示します。
- 内定通知や入社手続きの案内の段階で、電子での交付・締結でよいか本人の希望を確認する(明示要件①)。
- 2024年4月の追加事項を反映した兼用書式(PDFなど、印刷して書面にできる形式)を用意する(明示要件②)。
- 電子契約システムから本人へ署名依頼を送り、本人が電子署名して合意する(雇用契約の締結)。
- 本人に届いたか、受領したかを送信履歴やシステムのログで確認する(明示要件③)。
- 締結済みのデータを、電子帳簿保存法の保存要件に沿って保存する。
前半の「本人の希望・出力可能な形式・到達確認」は労働条件の明示に係る要件、署名依頼から合意までは雇用契約の締結にあたります。以下では、この流れの各論点を順に見ていきます。

同意の取り方
電子化の前提となる本人の希望・同意は、後の紛争を防ぐために記録に残せる形で取得します。実務では、次の方法が使われています。
- 個別の同意書を取得する:入社時に電子交付への同意欄を設けた書面や電子フォームで、労働者ごとに同意を得る。
- メールや人事システム上で同意を得る:電子交付を希望する旨を返信・入力してもらい、履歴を残す。
- 就業規則で包括的に規定する:電子交付の方針を就業規則に定めたうえで、個別の希望確認と組み合わせる。
前述のとおり厚生労働省は希望の有無を個別かつ明示的に確認することが望ましいとしているため、就業規則での包括的な規定だけに頼らず、労働者ごとの希望を確認できる形にしておくと安全です。
同意書のひな形を用意する場合は、電子交付する書類の範囲・交付方法(メール/システム)・撤回できる旨などを盛り込んでおきます。撤回された場合は、以後の交付を紙に切り替えれば足り、すでに締結した電子契約の効力には影響しません。
電子化に同意しない社員への対応
電子化はあくまで労働者が希望した場合に認められる方法であり、会社が一律に強制することはできません。書面での交付を希望する社員には、従来どおり紙で交付する必要があります。
そのため、電子化を進めても当面は紙の交付と併存させる運用が現実的です。全員を一度に電子へ切り替えようとせず、希望者から段階的に電子化し、希望しない社員には紙で対応できる体制を残しておきます。電子化の運用を始めた後に書面を希望する社員が出た場合も、その意向に沿って紙で交付します。
電子帳簿保存法への対応
電子で締結・交付した契約書のデータは、電子帳簿保存法上の電子取引にあたる場合があり、その場合はデータのまま保存する対応が必要になります。電子帳簿保存法(平成10年法律第25号)第7条は、電子取引を行った場合に取引情報の電磁的記録を保存する義務を定めています。
(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)第七条 所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。
出典:電子帳簿保存法 第7条|e-Gov法令検索
第7条が定めるのは、電子取引データを紙に出さず電磁的記録のまま保存する義務までで、具体的な保存の要件は財務省令(電子帳簿保存法施行規則第4条)に委ねられています。
施行規則第4条は、タイムスタンプの付与や訂正・削除の履歴を確認できるシステムの利用、または訂正削除防止の事務処理規程の整備といった措置に加え、見読可能装置の備付けと検索機能の確保を求めています。国税庁はこれらの要件を「真実性の確保」「見読可能性の確保」「検索機能の確保」の3つに整理しています。
ただし、電子帳簿保存法は本来、所得税・法人税に関わる国税関係の保存規律です。電子で授受した契約書はその対象になりうるため、実務では上記の保存要件に沿った対応をとりますが、労務書類のすべてが当然に対象となるわけではありません。自社での取り扱いに迷う場合は、税務の観点から確認しておくと安全です。
出典・参考資料(2件)
対応システムの選定ポイント
電子化を支える電子契約システムを選ぶ際は、次の観点を確認すると自社に合うものを絞り込めます。
- 電子署名の方式:手軽さを重視するなら立会人型、当事者本人の署名を厳格に残したい場面があるなら当事者型(マイナンバーカード署名など)に対応しているか。
- 労務書類への対応:雇用契約書だけでなく、入社時の他の書類も同じシステムで扱えるか。
- 電子帳簿保存法への対応:タイムスタンプ付与や検索機能など、保存要件を満たす機能があるか。
- 操作のしやすさ・コスト:受け取る労働者側の操作が簡単か、送信件数に応じた料金が自社の運用量に合うか。
雇用契約書の締結は入社のタイミングに限られるため、月あたりの送信件数が少なく収まる企業も少なくありません。件数が少ないうちは各社の無料プランで運用できる場合もあります。無料枠の件数の数え方や上限を超えたときの費用は、以下の記事で比較しています。コストを抑えて始めたい場合の参考にしてください。
無料で使える電子契約システムおすすめ26選を比較|無料枠の件数と数え方、上限を超えたときの費用で選ぶ
電子契約を使ってみたいものの、月額1万円前後の利用料は月に数件の契約に見合わないと感じていませんか。実際には多くの電子契約システムが無料で使えるプランを用意しており、契約件数が少ない事業者であれば費用をかけずに運用を始められます。 ただし、…
電子署名で締結した雇用契約の法的効力
電子で締結した雇用契約が、裁判などの場面で本当に効力を持つのか不安に感じる担当者は少なくありません。電子契約の証拠力は、電子署名に関する法律によって裏づけられています。
本人による電子署名は真正成立が推定される
電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号。以下「電子署名法」)第3条は、本人による一定の電子署名が行われた電磁的記録について、真正に成立したものと推定すると定めています。真正に成立したと推定されるとは、その文書が本人の意思で作成されたものとして扱われるということで、紙の文書に本人が押印した場合と同等の証拠力が認められます。
第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
出典:電子署名及び認証業務に関する法律 第3条|e-Gov法令検索
電子契約の効力を確保する要素
電子署名法第2条は、電子署名を「作成者を示すこと(本人性)」と「改変が行われていないかを確認できること(非改ざん性)」を満たす措置と定義しています。実務では、この本人性と非改ざん性を確保するために、電子署名・タイムスタンプ・電子証明書を組み合わせます。
電子署名は誰が署名したかを示し、タイムスタンプはいつ署名されたかと以後改ざんされていないことを示し、電子証明書は署名者が本人であることを証明します。電子契約システムはこれらの仕組みを備えることで、締結した契約の証拠力を確保しています。
出典・参考資料(1件)
e-文書法の位置づけ
電子化の周辺には、書面での保存が求められる文書を電磁的記録の保存で代替できるようにする一般法として、e-文書法(民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律。平成16年法律第149号)があります。第3条は、他の法令で書面保存が求められる文書について、主務省令の定めにより電磁的記録の保存に代えられると定めています。
ただしe-文書法は、あくまで書面の「保存」を電子化できるようにする共通ルールです。雇用契約書の電子交付・締結そのものの根拠は労働基準法施行規則第5条第4項や電子署名法にあり、e-文書法とは役割が異なる点は区別しておくとよいでしょう。
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雇用契約書以外に電子化できる労務書類(36協定など)
雇用契約書の電子化を進めるなら、あわせて他の労務書類の電子化も検討する余地があります。主な労務書類の電子化・電子申請の可否と根拠を整理すると、次のとおりです。
| 書類 | 労働条件通知書 | 雇用契約書 | 36協定届(時間外・休日労働に関する協定届) | 就業規則(変更)届 |
|---|---|---|---|---|
| 電子化・電子申請の可否 | 可(本人が希望した場合) | 可 | 電子申請が可能 | 電子申請が可能 |
| 根拠・留意点 | 労基則第5条第4項。出力可能な形式で交付 | 民法第623条。合意の方式は自由、電子署名で締結できる | e-Gov電子申請。2021年4月から電子署名・電子証明書は不要。協定書を兼ねる場合は労使の合意を示す方法が別途必要 | e-Gov電子申請。2021年4月から電子署名・電子証明書は不要 |
特に、労働基準法に基づく届出は電子申請が広がっています。36協定届(時間外・休日労働に関する協定届)や就業規則(変更)届などは、e-Gov電子申請システムで提出でき、従来は必須だった電子署名・電子証明書の添付が2021年(令和3年)4月1日から不要になりました。
ただし、36協定届が労使の協定書そのものを兼ねる場合は、届出の電子化とは別に、署名または押印など労使双方の合意が明らかとなる方法が必要です。届出の電子化と、協定そのものの成立要件は分けて考えてください。
出典・参考資料(1件)
雇用契約書の電子化を進めるサービス
雇用契約書の電子化を支えるサービスには、大きく2つのタイプがあります。1つは電子署名で契約の締結・保管まで完結できる電子契約システム、もう1つは雇用契約書の作成や2024年の改正対応を弁護士監修のひな形・相談で支えるサービスです。ここでは、それぞれのタイプから主なサービスを紹介します。
まずは各サービスの特徴を比較表で確認してください。比較表の項目は締結機能を軸にしているため、法務相談型のサービスは締結の欄が「要問い合わせ」となる点に留意してください。
| サービス名 | クラウドサイン | 電子印鑑GMOサイン | CLOUD LEGAL(クラウドリーガル) |
|---|---|---|---|
| 提供会社 | 弁護士ドットコム株式会社 | GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社 | MOLTON株式会社 |
| 電子署名方式 | 立会人型(標準) 当事者型(マイナンバーカード署名) | 立会人型・当事者型 (ハイブリッド署名可) | 要問い合わせ (高度な締結は外部サービス連携) |
| 月額費用(最小有料プラン) | 11,000円 (税抜・Lightプラン) | 8,800円 (税込9,680円・ライトプラン年間契約) | 11,000円 (税込・ブロンズプラン) |
| 送信料 | 220円/件 (税抜・242円税込) | 立会人型100円/件(税込110円) 当事者型300円/件(税込330円) | 要問い合わせ |
| 電子帳簿保存法対応 | ●認定タイムスタンプ標準付与 | ●JIIMA認証(契約印&実印プラン) | 要問い合わせ (公式に明示なし) |
| 雇用契約書・労務書類対応 | ●雇用契約書の締結に対応 | ●雇用契約書の締結に対応 | △弁護士監修ひな形の作成・相談(締結は外部連携) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 公式資料を見る |
※料金・機能は2026年8月時点の各社公式情報にもとづきます。CLOUD LEGALの電子署名方式・送信料・電子帳簿保存法対応は公式サイトで明示を確認できなかったため「要問い合わせ」と表記しています(高度な締結は提携サービスとの連携が前提)。最新の内容は各社にご確認ください。
1. クラウドサイン(弁護士ドットコム株式会社)

弁護士ドットコム株式会社が運営するクラウドサインは、書類のアップロード・送信から電子署名・タイムスタンプの付与、契約書の保管・検索までをオンラインで完結できる電子契約サービスです。雇用契約書の締結にも利用できます。
標準の署名方式は事業者署名型(立会人型)で、認証局での本人確認が不要なため、受け取る労働者側の手続きが簡単です。加えて2023年からは、マイナンバーカードの電子証明書を用いて契約当事者本人が署名する当事者型の「マイナンバーカード署名」も提供しています。
料金は、送信月2件までのフリープラン(無料)のほか、月額11,000円(税抜)のLightプラン、月額28,000円(税抜)のCorporateプランなどがあり、有料プランの送信料は1件220円(税抜)です(2026年8月時点)。
出典・参考資料(1件)
2. 電子印鑑GMOサイン(GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社)

GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社が運営する電子印鑑GMOサインは、立会人型にあたる契約印タイプと、当事者型にあたる実印タイプの両方に対応した電子契約サービスです。契約の重要度に応じて署名方式を使い分けられる点が特徴です。
雇用契約書のように手軽さを重視する書類は契約印タイプ、より厳格な本人性が求められる契約は実印タイプ、といった運用が可能です。契約の重要度に応じて署名の厳格さとコストを調整できます。
料金は、月額基本料0円のお試しフリープランのほか、月額8,800円(税込9,680円)のライトプラン、月額24,000円(税込26,400円)のスタンダードプランなどがあり、送信料は契約印タイプが1件100円(税込110円)、実印タイプが1件300円(税込330円)です(2026年8月時点)。
出典・参考資料(1件)
3. CLOUD LEGAL(クラウドリーガル)(MOLTON株式会社)

CLOUD LEGAL(クラウドリーガル)は、MOLTON株式会社が提供する法務BPaaS(法務業務をインターネット経由で継続的に利用できるサービス形態)です。弁護士監修のAIと、弁護士・司法書士・社会保険労務士などの士業の体制を組み合わせ、契約書の作成・レビューや法務・労務の相談をオンラインで受けられます。法務部や顧問弁護士を置いていない中小企業でも利用しやすい設計です。
雇用契約書に関しては、弁護士監修のひな形をもとに書類を作成し、2024年4月の明示事項追加のような法改正を踏まえた内容の確認まで相談できる点が、締結中心のサービスと異なります。料金は月額11,000円(税込)のブロンズプランから始まり、初期費用は全プラン0円です(2026年8月時点)。
契約の締結・電子署名の機能も備えますが、より高度な電子署名を用いる締結では外部の電子契約サービスと連携する形をとるため、締結方式の詳細は導入前に確認しておくとよいでしょう。
CLOUD LEGAL を提供する MOLTON株式会社は、雇用契約書のような書類の作成や法務相談を社内だけでは担いにくい、法務の専任担当や顧問弁護士を置きにくい企業の状況について、次のように説明しています。

日本の産業を下支えし多くを占める個人事業主や中小企業だと「法務部がない」「法務専任担当者がいない」さらにはコスト面で「顧問弁護士もいない」という状況がまだまだ多いです。では顧問弁護士に全部お願いすればいいかというと、正直コスト面の壁もあって、なかなか現実的に難しいです。さらに人材不足の影響で、専門人材である法務人材の採用も難しくなっています。結果として、現状維持でリスクは無い前提としてなんとなく運用してしまっている企業も少なくないと思っています。
ここで紹介したほかにも電子契約システムは多くの選択肢があります。以下の記事では、料金体系や電子署名のタイプ別の選び方をふまえて電子契約システム全体を比較しています。雇用契約書の締結を含めて自社に合う一社を絞り込みたい方は、あわせてご覧ください。
まとめ
雇用契約書(労働条件通知書を兼ねる書式を含む)の電子化は、労働者本人が希望・同意していることを条件に認められています。進めるにあたっての要点は次のとおりです。
- 可否と条件:電子化は可能。ただし本人の希望が前提で、出力可能な形式での交付と到達確認が要件(労働基準法施行規則第5条第4項)。
- 雇用契約書と労働条件通知書:交付義務があるのは労働条件通知書。2024年4月の追加明示事項を書式に反映してから電子化する。
- 進め方:同意は記録に残る形で取得し、希望しない社員には紙で対応。電子取引データは電子帳簿保存法の保存要件に沿って保存する。
- 法的効力:本人による電子署名が行われた電磁的記録は真正に成立したものと推定される(電子署名法第3条)。
自社の運用量や求める署名方式に合わせて電子契約システムを選び、まずは資料請求で要件への対応状況を確認してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 雇用契約書の電子化とは何ですか?
A. 雇用契約書の電子化とは、紙で作成・押印・郵送していた雇用契約書(労働条件通知書を兼ねる書式を含む)を、電子データで作成・交付・締結することです。2019年(平成31年)4月に施行された労働基準法施行規則の改正により、労働者が希望した場合には電子メール等で労働条件を明示できるようになり、電子契約システムを使ったオンラインでの締結・保管が広がっています。
Q. 電子化した雇用契約書は法的に有効ですか?
A. 電子化した雇用契約書は、本人による電子署名が行われていれば、紙に押印した契約書と同等の証拠力を持ちます。電子署名法第3条は、本人による電子署名が行われた電磁的記録を真正に成立したものと推定すると定めており、電子で締結した雇用契約も裁判などの場面で効力が認められます。電子契約システムは、電子署名・タイムスタンプ・電子証明書を組み合わせてこの証拠力を確保しています。
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Q. 労働条件通知書も電子で交付できますか?
A. 労働条件通知書も、労働者本人が希望した場合に限り電子で交付できます。労働条件通知書は労働基準法第15条第1項に基づき交付義務のある書面ですが、労働基準法施行規則第5条第4項により、本人が希望すれば電子メール等(出力して書面を作成できる形式に限る)による明示が認められます。会社が一方的に電子化できない点が、締結義務のない雇用契約書との違いです。
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Q. 雇用契約書の電子化に従業員の同意は必須ですか?
A. 労働条件を電子で明示する場合は、労働者本人の希望・同意が必須です。これは労働条件通知書や、通知書を兼ねる雇用契約書の明示部分にかかる要件です。雇用契約書そのものの合意は方式が自由なため同意要件はありませんが、実務では通知書を兼ねる書式が多く、その場合は本人の希望が前提になります。
厚生労働省は、希望したか否かを個別かつ明示的に確認することが望ましいとしています。同意書や人事システム上の履歴など、記録に残る形で取得しておくと安全です。
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Q. 電子化に同意しない社員がいる場合はどう対応すればよいですか?
A. 電子化に同意しない社員には、従来どおり紙で交付する必要があり、電子化を一律に強制することはできません。電子化はあくまで労働者が希望した場合に認められる方法のため、当面は電子と紙を併存させ、希望者から段階的に切り替える運用が現実的です。電子運用を始めた後に書面での交付を希望する社員が出た場合も、その意向に沿って紙で交付します。
Q. 雇用契約書の電子化に電子帳簿保存法への対応は必要ですか?
A. 電子で締結・交付した雇用契約書のデータは、電子帳簿保存法上の電子取引にあたる場合があり、その際は電磁的記録のまま保存する対応が必要です。保存義務は同法第7条が定め、タイムスタンプの付与や検索機能の確保といった具体的な保存要件は施行規則第4条によります。ただし労務書類のすべてが当然に対象となるわけではないため、迷う場合は税務の観点から確認しておくと安全です。
出典・参考資料(1件)
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。

















