上場準備や上場後のJ-SOX(内部統制報告制度)対応で、監査法人や経営企画から「業務プロセスの3点セットを整備してほしい」と求められる場面は少なくありません。3点セットが業務記述書・業務フローチャート・リスクコントロールマトリクス(RCM)の3つを指すことは分かっても、実際にそれぞれ何をどう書けばよいのか、特にRCMの列に何を並べ各欄に何を記入するのかで手が止まりがちです。
この記事では、3書類それぞれの埋まった記載例を本文の表で示しながら、RCMの列ごとの書き方や6つの評価要件(アサーション)、評価範囲の決め方、作成後の毎期更新の進め方までを解説します。1つの業務プロセス(売上・請求)を通して、3書類がどうつながるかを追えます。
記載例は、金融商品取引法にもとづく内部統制報告制度の実施基準が示す参考例に沿っています。自社の業務プロセスに当てはめて、監査法人とのやり取りで手戻りしにくい粒度を掴むための検討材料としてご活用ください。
目次
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内部統制の3点セットとは(業務記述書・業務フローチャート・RCMの全体像)
内部統制の3点セットとは、業務プロセスに関する内部統制を評価するために作成する、業務記述書・業務フローチャート・リスクコントロールマトリクス(RCM)の3つの文書を指します。業務の流れを言葉と図で明らかにし、そこに潜むリスクとリスクを防ぐ統制活動を対応づけることで、財務報告が正しく行われる仕組みを可視化します。
まずは3書類が何を担うのかを一覧で押さえてください。3つは別々の書類ではなく、同じ業務プロセスを異なる切り口で表した、互いに整合すべき文書です。
| 書類 | 役割 | 主な記載内容 |
|---|---|---|
| 業務記述書 | 業務の流れを文章で明文化する | いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように処理するか(5W1H)。使用するシステムや帳票の正式名称、承認のタイミング |
| 業務フローチャート | 業務記述書の内容を図で可視化する | 業務の流れ、担当部署、使用システムとデータの流れ、承認・照合のポイント |
| リスクコントロールマトリクス(RCM) | 業務上のリスクと、それを防ぐ統制活動を一覧化する | 業務ごとのリスク、対応する統制活動、統制が担保する評価要件、統制の種類(予防的・発見的、手作業・自動)、実施頻度、実施者、キーコントロールの別 |
なお、これらの呼び方は実務で定着した名称です。金融庁の実施基準では業務フローチャートを「業務の流れ図」、RCMに相当する表を「リスクと統制の対応」と表記しています。呼称は異なりますが、指し示す内容は同じです。
J-SOX(内部統制報告制度)における3点セットの位置づけ
3点セットは、J-SOX(内部統制報告制度)で求められる内部統制の評価作業を支える基礎資料です。内部統制報告制度は金融商品取引法にもとづく制度で、上場会社などに内部統制報告書の提出を義務づけています。
第二十四条第一項の規定による有価証券報告書を提出しなければならない会社(中略)のうち、第二十四条第一項第一号に掲げる有価証券の発行者である会社その他の政令で定めるものは、内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府令で定める体制について、内閣府令で定めるところにより評価した報告書(以下「内部統制報告書」という。)を有価証券報告書(中略)と併せて内閣総理大臣に提出しなければならない。
出典:金融商品取引法 第24条の4の4第1項|e-Gov法令検索
内部統制報告制度は2008年(平成20年)4月1日以後に開始する事業年度から適用され、その後2023年(令和5年)に評価・監査の基準と実施基準が改訂されました。改訂後の基準は2024年(令和6年)4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。経営者はこの制度のもとで内部統制を評価し、その過程で業務プロセスの実態を裏づける資料として3点セットを整備します。
3点セットを作成する目的
3点セットを作成する目的は、財務報告の信頼性を確保することにあります。売上や在庫といった財務数値がどの業務プロセスを通じて記録されるのかを明文化し、そこで起こりうる誤りや不正のリスクと、それを防ぐ統制活動を可視化することで、統制が有効に機能しているかを経営者や監査人が評価できるようになります。
逆に言えば、3点セットは業務マニュアルや手順書とは目的が異なります。作業の手順を漏れなく書き記すことが目的ではなく、財務報告に影響するリスクと統制に焦点を絞って業務を描くことが求められます。
【記載例】業務記述書・業務フローチャート・RCMの記入例
ここからは、3書類それぞれの記載例を示します。分かりやすさのため、金融庁の実施基準が参考例として掲げている「卸売販売プロセス(受注→出荷→売上計上→請求)」に沿って、1つの業務を3書類で表していきます。同じ業務を題材にすることで、業務記述書・業務フローチャート・RCMがどうつながるかを追えます。
なお、実施基準が示す様式はあくまで参考例で、この形式でなければならないわけではありません。実施基準自身も次のように記しています。
(注)図や表の例としては、参考2(業務の流れ図(例)、業務記述書(例))が挙げられる。ただし、これは、必要に応じて作成するとした場合の参考例として掲載したものであり、また、企業において別途、作成しているものがあれば、それを利用し、必要に応じそれに補足を行っていくことで足り、必ずしもこの様式による必要はないことに留意する。
出典:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準の改訂について(意見書)|金融庁
業務記述書の記載例
業務記述書は、業務の流れを工程ごとに文章で書き下ろした文書です。「誰が・いつ・どのシステムを使って・何を・どのように処理し、どこで承認・照合するか」を、あいまいさが残らない粒度で記述します。次は、卸売販売プロセスを業務記述書として書いた例です。
| 工程 | 業務記述書の記載例 |
|---|---|
| 1. 受注 | 電話による注文の場合は、販売担当者が受注メモを作成する。販売管理システムへの受注入力は、得意先マスタに登録されている得意先の注文のみ入力できる。受注入力後、システムから出荷指図書および注文請書が出力され、受注メモまたは注文書と照合したうえで、販売責任者の承認を受ける。 |
| 2. 出荷 | 出荷担当者は、出荷責任者の承認を受けた後、出荷指図書にもとづき商品を出荷する。 |
| 3. 売上計上 | 出荷入力された出荷データは売上データへ変換され、会計システムへ転送されて売上伝票が出力される。 |
| 4. 請求 | 出力された請求書は販売担当者へ回付され、販売担当者が売上伝票と照合する。 |
ポイントは、システムや帳票を正式名称で書き、承認・照合が「誰の手で」「どの資料と」行われるかを明示することです。この記述の一つひとつが、後のRCMでリスクと統制を洗い出す材料になります。上記の記載例は、金融庁の実施基準(参考2)が示す業務記述書の例に沿ったものです。
業務フローチャートの記載例
業務フローチャートは、業務記述書に書いた流れを図で表したものです。部署を縦の帯(レーン)で分け、処理の順に記号をつないでいくと、担当の受け渡しと承認・照合の位置が一目で分かります。作図では、次のような記号を使い分けるのが一般的です。
| 記号 | 表すもの | 卸売販売プロセスでの例 |
|---|---|---|
| 端子(角丸の四角) | 業務の開始・終了 | 「受注」の開始、「請求」の終了 |
| 処理(四角) | 作業・処理の内容 | 受注入力、出荷、売上データ変換 |
| 判断(ひし形) | 条件による分岐 | 得意先マスタに登録済みか、承認可否 |
| 書類(下辺が波線の四角) | 帳票・出力物 | 受注メモ、出荷指図書、注文請書、請求書 |
| データ・システム | システム処理・データ保存 | 販売管理システム、会計システム |
これらの記号を使い、卸売販売プロセスを部署(レーン)ごとに並べると、次のような流れになります(◇は条件による分岐)。
| レーン(担当) | フローの流れ(→で接続) |
|---|---|
| 販売部門 | 受注メモ作成 → 販売管理システムに受注入力 → ◇得意先マスタに登録済みか(未登録なら差し戻し)→ 注文請書・出荷指図書を出力し注文書と照合 → ◇販売責任者の承認 |
| 出荷部門 | 出荷責任者の承認 → 出荷指図書にもとづき出荷 → 出荷入力 |
| 経理・システム | 出荷データを売上データへ変換 → 会計システムへ転送し売上伝票を出力 → 請求書を出力 |
| 販売部門 | 請求書を売上伝票と照合 → 完了 |

この流れは、先の業務記述書の記載例と同じ受注→出荷→売上計上→請求のプロセスを、担当部署とシステムの受け渡しが見える形に置き換えたものです。承認・照合のポイント(◇の分岐や照合の処理)が、後のRCMでリスクと統制を洗い出す起点になります。
業務フローチャートで特に重要なのは、業務記述書との整合です。業務記述書に「販売責任者が承認する」と書いたなら、フローチャートにも同じ承認の分岐が現れていなければなりません。片方だけを更新して食い違いが生じると、監査の過程で必ず指摘されます。フローチャートは、業務記述書の内容を図として写し取り、抜けや矛盾を発見するための照合ツールでもあります。
リスクコントロールマトリクス(RCM)の記載例
RCMは、業務プロセスのどこにどんなリスクがあり、それをどの統制活動で防ぐのかを一覧表にした文書です。3点セットの中で最も作成に迷いやすい書類ですが、列の構成が決まれば各行の埋め方は見えてきます。次は、卸売販売プロセスのRCMを記入した例です。
| 業務 | リスク | アサーション(評価要件) | コントロール(統制活動) | 統制の種類 | 頻度 | 実施者 | キーコントロール |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 受注 | 登録のない得意先や与信限度を超える受注を入力してしまう | 実在性 | 販売管理システムは、得意先マスタに登録された得意先の注文のみ入力できる | 予防的・自動 | 都度 | システム/販売担当者 | ○ |
| 受注 | 受注入力の金額や数量を誤る | 実在性・網羅性 | システムが出力した注文請書・出荷指図書を注文書と照合し、販売責任者が承認する | 発見的・手作業 | 都度 | 販売責任者 | ○ |
| 売上計上 | 出荷していない売上を計上する、または計上が漏れる | 実在性・網羅性・期間配分の適切性 | 出荷入力された出荷データのみが売上データへ変換される。日次で出荷実績と売上計上の件数を突合する | 発見的・自動+手作業 | 日次 | 経理担当者 | ○ |
| 請求 | 請求金額が売上と一致しない | 網羅性・評価の妥当性 | 出力された請求書を売上伝票と照合する | 発見的・手作業 | 都度 | 販売担当者 | — |
キーコントロール列で請求行だけを「—」にしているのは、その手前の売上計上時点の統制が、同じ誤りをより上流で防いでいるためです。売上計上では、出荷データのみを売上に変換し、日次で件数を突合しています。請求書と売上伝票の照合も重要な統制ですが、同じ誤りを複数の統制が防ぐときは、影響の大きい上流の統制をキーコントロールに選び、評価の重点を置きます。
金融庁の実施基準では、この表に相当するものを「リスクと統制の対応(例)」として、業務・リスクの内容・統制の内容・評価要件を対応づける形で示しています。次の章で、各列に何を書くのかを1列ずつ見ていきます。
RCMの列ごとの書き方とキーコントロール
RCMは列の意味を取り違えると、リスクと統制が噛み合わない表になってしまいます。ここでは、記載例で使った各列に何を書くのかを整理します。
各列に何を書くか
- 業務:受注・出荷・売上計上・請求といった、業務プロセスを構成する単位。業務記述書・業務フローチャートの工程と対応させる。
- リスク:その業務で財務報告に誤りが生じうる原因。「金額を誤る」「計上が漏れる」など、起こりうる誤りを具体的に書く。
- アサーション(評価要件):そのリスクが、財務報告のどの要件を脅かすか。実在性・網羅性など後述の6要件から該当するものを選ぶ。
- コントロール(統制活動):リスクを防ぐために実際に行っている手続き。「誰が・何と照合し・どう承認するか」を、業務記述書の記述と一致させて書く。
- 統制の種類:リスクの発生を未然に防ぐ「予防的統制」か、発生した誤りを後から見つける「発見的統制」か。あわせて、人が行う「手作業統制」か、システムが行う「自動統制」かも区別する。1つの統制がシステムと人手の両方にまたがる場合は「自動+手作業」のように併記する。
- 頻度:統制を実施する間隔。都度・日次・月次・四半期などで記す。評価時のサンプル件数の目安にもなる。
- 実施者:統制を実行する担当者や部署、またはシステム。
- キーコントロール:そのリスクを防ぐうえで中心的な役割を果たす統制。数ある統制のうち、財務報告への影響が大きいものを絞り込んで印を付け、評価の重点を明確にする。
すべての統制を等しく評価しようとすると作業量が膨らみます。キーコントロールを見極めて評価の重点を置くことが、RCMを実務で回すうえでの勘所です。
6つのアサーション(評価要件)とは
アサーションは、財務諸表が適正であるために満たすべき要件を指す実務上の呼び方です。金融庁の実施基準では「適切な財務情報を作成するための要件(監査要点)」として、次の6つを挙げています。RCMでリスクを洗い出す際は、そのリスクがどの要件を脅かすのかを対応づけます。
出典:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準の改訂について(意見書)|金融庁
- a.実在性-資産及び負債が実際に存在し、取引や会計事象が実際に発生していること
- b.網羅性-計上すべき資産、負債、取引や会計事象を全て記録していること
- c.権利と義務の帰属-計上されている資産に対する権利及び負債に対する義務が企業に帰属していること
- d.評価の妥当性-資産及び負債を適切な価額で計上していること
- e.期間配分の適切性-取引や会計事象を適切な金額で記録し、収益及び費用を適切な期間に配分していること
- f.表示の妥当性-取引や会計事象を適切に表示していること
たとえば「出荷していない売上を計上する」リスクは、実際には発生していない取引を計上する誤りなので実在性に、「計上が漏れる」リスクは網羅性に関わります。
また、当期の売上を翌期に計上するような期ずれは期間配分の適切性、売掛金を回収可能額より過大に計上する金額の誤りは評価の妥当性に結びつきます。
リスクごとに該当する要件を対応づけると、どの要件をどの統制で守っているかが整理でき、統制の抜けを見つけやすくなります。
3点セットの作り方(評価範囲の決め方・ヒアリング・作成順序)
ここからは、3点セットをゼロから作る手順を、評価範囲の決定から3書類の作成・整合まで順に説明します。全社のすべての業務を対象にするのではなく、財務報告への影響が大きい範囲に絞ってから着手するのが基本です。
評価範囲の決定(重要な事業拠点・勘定科目、売上高2/3の目安と2023年改訂)
業務プロセスの評価範囲は、重要な事業拠点を選び、その拠点の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを対象に決めます。重要な事業拠点を選ぶ指標として、実施基準は連結ベースの売上高等の一定割合という考え方を例示しています。
(注2)一定割合をどう考えるかについては、企業により事業又は業務の特性等が異なることから、一律に示すことは困難であると考えられる。全社的な内部統制の評価が良好であれば、例えば、連結ベースの売上高等の一定割合(おおむね3分の2程度)とする考え方や、総資産、税引前利益等の一定割合とする考え方もある。
出典:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準の改訂について(意見書)|金融庁
ここで注意したいのは、「売上高のおおむね3分の2」は固定のルールではなく、全社的な内部統制の評価が良好である場合の一例として示された数値だという点です。2023年(令和5年)の改訂では、この目安を機械的に適用すべきでないことが明確化されました。
評価対象とする重要な事業拠点や業務プロセスを選定する指標について、例示されている「売上高等のおおむね3分の2」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」を機械的に適用すべきでないことを記載した。
出典:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準の改訂について(意見書)|金融庁
さらに改訂の経緯では、これらの数値目安について段階的な削除を含む取扱いを今後検討するとも述べられています。評価範囲は数値の当てはめで決めるのではなく、財務報告に対する影響の重要性を踏まえて判断する、という考え方に立って範囲を設定することが求められます。
実務では、売上・売掛金・棚卸資産に至る業務プロセスが対象の出発点として挙げられることが多いものの、これも機械的に当てはめる対象ではありません。取引金額の規模、見積りや判断の入る余地の大きさ、不正が起きやすい業務かどうかといった観点から、財務報告への影響が大きいプロセスを選び、対象とする勘定科目とプロセスを絞り込みます。
ヒアリングと作成体制
評価範囲が決まったら、対象となる業務プロセスの担当者にヒアリングを行い、実際の業務の流れを把握します。マニュアル上の建前ではなく、現場で実際にどう処理し、どこで誰が承認しているのかという実態を聞き取ることが、正確な業務記述書・業務フローチャートの前提になります。
作成体制では、業務を理解している現場の担当者と、内部統制の要件を理解している管理部門やIPO準備の担当者が協力する形が現実的です。現場だけに任せると財務報告リスクの観点が抜けやすく、管理部門だけで書くと業務の実態とずれます。ヒアリングした内容は、聞き取った担当者以外の目でも確認し、業務の実態と食い違わないかを照らし合わせておくと、後の手戻りを減らせます。
3書類の作成順序と整合
3書類は、業務記述書→業務フローチャート→RCMの順に作るのが基本です。まず業務記述書で業務の流れを言葉にし、それを図に写して業務フローチャートを作り、可視化された流れの中からリスクと統制を抜き出してRCMにまとめます。前の書類が次の書類の土台になるため、この順序だと手戻りが起きにくくなります。

作成後に崩れやすいのが3書類の整合です。よくあるのは、業務記述書だけを更新してフローチャートやRCMを直し忘れ、承認や照合のポイントが書類間で食い違うケースです。
そこで、業務プロセスやシステムを変更するたびに3書類をセットで見直す運用ルールにしておきます。更新の担当とタイミングを決め、変更が3書類すべてに反映されたかを点検すれば、書類間の食い違いを未然に防げます。1つだけを直して残りを放置しないことが、整合を保つうえでの前提になります。
作成・記載のポイントと注意点
3点セットの作成では、細かく網羅的に書くほど良いと考えて作業量を増やしてしまいがちです。監査で手戻りしにくく、かつ運用し続けられる3点セットにするために、次の点を押さえておきます。
- 財務報告に関わるリスクに絞る:3点セットは業務マニュアルではありません。財務数値の正確さに影響しないリスクまで書き込むと、量が膨らみ評価も維持も回らなくなります。財務報告への影響という観点でリスクを選びます。
- 実態に合わせて書く:ヒアリングで把握した実際の運用を書き、建前の手順を書かない。実態と異なる統制を書くと、評価の段階で「記載どおりに運用されていない」という不整合が生じます。
- 3書類の整合を保つ:業務記述書・業務フローチャート・RCMで、承認者・照合対象・処理の順序を一致させます。
- 毎期見直す:業務プロセスやシステムが変われば3点セットも更新します。作りっぱなしにせず、期ごとに実態との差を点検します。
特に「どこまで細かく書けば監査で通るのか」という不安から過剰に作り込むと、その後の毎期更新が負担になり、かえって実態とのずれを招きます。評価の重点はキーコントロールに置き、財務報告リスクに直結する統制を確実に描くことを優先します。
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Excel・専用ツールでの作成と毎期の運用
3点セットは、Excelやスプレッドシートでも作成できます。導入費用がかからず、様式を自社に合わせて自由に組める点は利点です。一方で、3書類の整合を人手で保ち続ける必要があり、業務プロセスの変更のたびに業務記述書・業務フローチャート・RCMを別々に直して突き合わせる作業が発生します。ファイルが増えるほど、どれが最新かの管理や、期をまたいだ更新履歴の追跡も難しくなります。
作成後の毎期更新や文書間の整合維持に負担を感じる場合は、内部統制の文書化に対応した専用ツールを使う選択肢があります。業務フローの変更を関連文書へ自動で反映し、3書類の整合を保ちやすくする製品が提供されています。ここでは、3点セットの作成・維持に対応する代表的なサービスを紹介します。
まずは両サービスの概要を比較表で確認してください。
| サービス名 | smoove J-SOX | iGrafx SOX+ |
|---|---|---|
| 提供会社 | 株式会社WARC | 株式会社サン・プラニング・システムズ |
| 提供形態 | クラウド(SaaS) | インストール型(デスクトップ)中心 |
| 主要機能 | 3点セット(業務フロー・業務記述書・RCM)作成 業務フロー変更をRCMに自動連動 証憑管理 整備・運用・ロールフォワード評価 AIリスクスキャン | 業務プロセスのフローチャート作成 リスク・コントロールの図上での可視評価 RCMのExcel入出力 フローチャート変更を関連文書へ自動反映(3点セット整合維持) |
| 料金 | 要お問い合わせ (組織規模・ユーザー数に応じた個別見積もり) | 要お問い合わせ (ライセンス購入型) |
| 無料トライアル・試用 | ●あり(申込制) | △評価・相談は問い合わせ対応 |
| 対象規模 | IPO準備企業〜東証プライム上場企業 | 上場企業を中心に導入 |
| セキュリティ認証 | Pマーク、ISMS(ISO/IEC 27001)取得 SSO・MFA対応 | 公式に記載なし |
| 詳細情報 | 公式サイト | 公式サイト |
※2026年9月時点の各社公式情報等に基づきます。料金を公開していないサービスは「要お問い合わせ」、公式情報で確認できない項目は「公式に記載なし」と記載しています。最新の料金・機能・提供形態は各社公式ページをご確認ください。
smoove J-SOX(株式会社WARC)

smoove J-SOXは、株式会社WARCが提供する内部統制業務向けのクラウドサービスです。3点セット(業務フロー・業務記述書・RCM)の作成から、証憑データの管理、整備状況・運用状況の評価、ロールフォワード評価までを、年間を通じてクラウド上で一元管理できます。
業務フローの変更をRCMに自動で反映し、採番などの重複作業を減らせる点が、文書間の整合維持という課題に直結します。生成AIが業務記述を分析して見落としリスクを検知する機能や、子会社・事業部門ごとにワークスペースを分ける運用にも対応します。
料金は組織規模や利用人数に応じた個別見積もりで、無料トライアルが用意されています。IPO準備企業から上場企業まで、Excel運用からの脱却を検討する内部統制部門に向いたサービスです。
iGrafx SOX+(株式会社サン・プラニング・システムズ)
iGrafx SOX+は、内部統制の文書化に特化したツールです。業務プロセス可視化ツール「iGrafx」に内部統制文書化のアドオンを組み合わせた製品で、業務フローチャートの作成、リスクとコントロールの図上での評価、RCMのExcel形式での入出力に対応します。
フローチャートの変更が関連文書に自動反映されるため、3点セット間の整合を手作業で突き合わせる負担を軽減できます。インストール型が中心で、クラウド型のsmoove J-SOXとは提供形態が異なるため、自社の運用方針に合わせて選ぶ際の比較対象になります。料金はライセンス購入型で、問い合わせベースでの提示です。上場企業を中心に導入実績があります。
ここで取り上げた2サービスのほかにも、内部統制の文書化やリスク・コンプライアンス管理に対応するツールは数多くあります。以下の記事では、GRCツールの選び方や主要サービスの機能・料金を比較して解説しているので、専用ツールの導入を検討される方はあわせてご覧ください。
まとめ
内部統制の3点セットは、業務記述書で業務の流れを言葉にし、業務フローチャートで図に写し、RCMでリスクと統制を一覧化する、互いに整合すべき3つの文書です。作成でつまずきやすいRCMは、リスク・アサーション・コントロール・統制の種類・頻度・実施者・キーコントロールという列の意味を押さえ、財務報告に影響するリスクに絞って埋めていくのが要点になります。
評価範囲は「売上高の3分の2」といった数値を機械的に当てはめるのではなく、2023年改訂の趣旨に沿って財務報告への影響の重要性で判断します。作成後は3書類の整合を保ちながら毎期見直すことが欠かせず、この維持の負担を抑える手段として専用ツールの活用も検討できます。まずは自社の重要な業務プロセスを1つ選び、本記事の記載例を土台に業務記述書から書き起こしてみてください。
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よくある質問(FAQ)
Q. 内部統制の3点セットとは何ですか?
内部統制の3点セットとは、業務プロセスに関する内部統制を評価するために作成する、業務記述書・業務フローチャート・リスクコントロールマトリクス(RCM)の3つの文書です。業務の流れを言葉と図で明らかにし、そこに潜むリスクと、それを防ぐ統制活動を対応づけることで、財務報告が正しく行われる仕組みを可視化します。J-SOX(内部統制報告制度)で求められる内部統制の評価作業を支える基礎資料として整備します。
Q. 内部統制の3点セットの作成は義務ですか?
内部統制の3点セットは、特定の様式による作成が法令で名指しで義務づけられているわけではありませんが、上場会社などがJ-SOX(内部統制報告制度)に対応するうえで事実上欠かせない資料です。金融商品取引法は上場会社などに内部統制報告書の提出を義務づけており、経営者が業務プロセスの内部統制を評価するには、その実態を裏づける文書が必要になります。
金融庁の実施基準も、業務の流れ図や業務記述書は「必ずしもこの様式による必要はない」としつつ、リスクと統制を可視化する文書の作成を前提としています。すでに社内に業務フロー等がある場合は、それを利用して補足していく形でも足ります。
Q. 内部統制の3点セットはすべての業務プロセスで作成する必要がありますか?
内部統制の3点セットは、全社のすべての業務ではなく、財務報告への影響が大きい重要な業務プロセスに絞って作成します。まず重要な事業拠点を選び、その拠点の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを評価範囲として決めます。
金融庁の実施基準は「連結ベースの売上高等のおおむね3分の2」といった目安を例示していますが、2023年(令和5年)の改訂で、この数値を機械的に適用すべきでないことが明確化されました。数値の当てはめではなく、財務報告への影響の重要性を踏まえて評価範囲を判断します。
Q. 内部統制の3点セットはどの順番で作成しますか?
内部統制の3点セットは、業務記述書→業務フローチャート→RCMの順に作成するのが基本です。まず業務記述書で業務の流れを言葉にし、それを図に写して業務フローチャートを作り、可視化された流れの中からリスクと統制を抜き出してRCMにまとめます。
前の書類が次の書類の土台になるため、この順序だと手戻りが起きにくくなります。作成の前提として、対象業務の担当者へのヒアリングで実際の業務の流れを把握しておくことが正確な記述の出発点になります。
Q. 内部統制の3点セットは毎年作り直す必要がありますか?
内部統制の3点セットは、毎年ゼロから作り直すのではなく、業務プロセスやシステムの変更に合わせて毎期見直し・更新するのが基本です。作りっぱなしにせず、期ごとに実態との差を点検し、変わった部分を反映します。
このとき、業務記述書・業務フローチャート・RCMのどれか1つを直したら残りも合わせて見直し、承認者・照合対象・処理の順序が書類間で食い違わないよう整合を保つことが重要です。整合が崩れたまま放置すると、監査の過程で統制の実在を説明できず指摘の原因になります。
Q. 内部統制の3点セットはExcelと専用ツールのどちらで作成すべきですか?
内部統制の3点セットは、Excel(スプレッドシート)でも専用ツールでも作成でき、作成後の毎期更新や3書類の整合維持にかかる負担で選ぶのが現実的です。Excelは導入費用がかからず様式を自由に組める一方、3書類の整合を人手で保つ必要があり、ファイルが増えるほど最新版の管理や更新履歴の追跡が難しくなります。
文書間の整合維持や毎期更新の負担が大きいと感じる場合は、業務フローの変更を関連文書へ自動反映する、内部統制の文書化に対応した専用ツールを検討するとよいでしょう。
Q. 内部統制の3点セットを監査法人に手戻りしにくい粒度で作るにはどうすればよいですか?
内部統制の3点セットを手戻りしにくく作るには、細かく網羅的に書き込むよりも、財務報告に影響するリスクとキーコントロールに焦点を絞って描くことがポイントです。3点セットは業務マニュアルではないため、財務数値の正確さに影響しないリスクまで書き込むと量が膨らみ、評価も毎期更新も回らなくなります。
ヒアリングで把握した実際の運用を書いて建前の手順を書かないこと、そして数ある統制のうち財務報告への影響が大きいキーコントロールに評価の重点を置くことで、監査で確認すべき点が明確になり手戻りを減らせます。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。

















