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反社チェックはどこまで必要?対象範囲・調査の深さ・頻度の線引きを実務目線で解説

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取引先や役員への反社チェックは始めたものの、「どこまでやれば足りるのか」で迷う担当者は少なくありません。全取引先や全従業員を毎年調べるのは現実的でなく、かといって範囲を絞りすぎれば見落としが不安になります。上司や監査から「なぜこの範囲・この頻度なのか」と問われて答えに詰まる、という声もよく聞かれます。

反社チェックの「どこまで」は、実は3つの線引きに分けて考えると整理できます。対象範囲(誰を調べるか)・調査の深さ(どの手法・段階まで使うか)・頻度(どの間隔で確認するか)の3つです。この3つに自社の答えを出せれば、「うちはここまでやる」と社内で線を引けるようになります。

本記事では、この3つの線引きを最低ラインと拡張ラインに分けて示したうえで、その拠り所となる法令・基準を整理します。頻度のように法令が具体的な数値を定めていない部分は、「法令の要求」と「実務上の目安」を切り分けて解説します。後半では、決めた範囲を人手でなく現実的に回すための反社チェックツールも取り上げます。

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反社チェックは「どこまで」やれば十分か(3つの線引き)

反社チェックの「どこまで」は、対象範囲・調査の深さ・頻度の3つの線引きで決まります。いずれも法令が「誰まで」「何段階まで」「何年ごと」と一律の数値で定めているわけではなく、取引の重要度やリスクの高さに応じて各社が設計するのが基本です。下の表は、対象ごとに「最低ライン」と「広げるとき」の目安、そのときに使う調査の深さ、確認の頻度を1枚に束ねたものです。まず自社の状況を当てはめてみてください。

反社チェックの「どこまで」を決める3つの線引きの図。対象範囲は誰を調べるかで、最低ラインは取引先(会社・代表者・主な役員)と自社の役員、広げるときは株主・従業員・関係会社・実質的支配者。調査の深さはどの手法まで使うかで、全対象にWEB検索・記事DB・専用ツールで一次スクリーニングし、重要な先は調査会社や警察・暴追センターへの照会で深掘り。頻度はどの間隔で確認するかで、新規は契約・就任・採用の前、既存は年1回程度を目安に、兆候があれば随時。いずれも法令が一律に定めず、リスクに応じて各社が設計する。
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チェック対象取引先(法人)自社の役員・従業員株主・出資者関係会社・再委託先実質的支配者(UBO)
チェックの位置づけ最低ライン(必ず実施)役員は必須
従業員はリスクに応じて
主要株主は推奨
(上場準備では重視)
重要な取引で推奨重要取引で推奨
金融・不動産等は法的に必須
主に確認する範囲会社・代表者・主な役員役員本人/採用候補者一定割合以上を保有する株主実質的に取引に関与する先法人を実質的に支配する個人
調査の深さの目安公開情報+新聞・記事DB/反社チェックツール公開情報+反社チェックツール公開情報+反社チェックツール公開情報+反社チェックツール登記・公開情報+必要に応じ調査会社
確認頻度の目安新規は契約前
既存は年1回程度を目安に
就任・採用の前
以降は随時
新規出資・資本異動のとき重要な委託の開始時取引開始時(取引時確認)

※各ラインは実務上の目安であり、法令が一律に定めた基準ではありません。根拠は「拠り所となる法令・基準」で解説します。

この表の背景には、政府が示す「反社会的勢力とは一切の関係をもたない」という考え方があります。全員を同じ深さで調べるのではなく、関係の深さや取引のリスクに応じて範囲と深さを設計する、いわゆるリスクベースの発想です。ここからは、3つの線引きをそれぞれ詳しく見ていきます。

対象範囲:誰を・どのラインまで広げるか

まず「誰を対象にするか」です。最低限おさえたいのは取引先(会社・代表者・主な役員)と、自社の役員です。ここに、リスクや取引の性質に応じて従業員・株主・関係会社・実質的支配者を加えていく、という広げ方が実務の基本になります。

最低ライン・推奨ライン・深掘りラインの分け方

最低ラインは、取引先の会社・代表者・主な役員と、自社の役員です。ここでいう主な役員とは、登記上の取締役・代表者を基本に、実質的に経営へ関与する執行役員などを含めた範囲を指します。取引や契約の当事者にあたるため、ここを外して反社チェックを「やった」とは言いにくい範囲です。新規取引では契約前に確認し、既存取引先も定期的に見直すのが基本です。

推奨ラインは、主要株主と、採用する従業員です。株主は会社の意思決定に影響を与える立場のため、一定割合以上(金融商品取引法で主要株主とされる議決権10%以上が一つの目安)を保有する株主を対象に加えます。

とくに上場を準備する企業では、主幹事証券会社や監査法人から株主・役員を含む体制の確認を求められることが多く、早い段階から対象に含めておくと安心です。従業員は全員を一律に調べるより、役員候補や重要ポジションの採用時に確認するのが現実的です。

深掘りラインは、関係会社・再委託先・実質的支配者(UBO)です。反社会的勢力は、表に出る会社の背後で実質的に関与しているケースがあるため、取引額が大きい・継続的といった重要な取引では、契約の相手方だけでなくその背後まで確認する意義があります。全取引で深掘りするのは負担が大きいため、リスクの高い取引に絞って広げるのが実務的です。

表に出る会社やその代表者を調べるだけでは、その背後にいる反社会的勢力の存在をつかめないことがあります。弁護士の阿部由羅氏は、名前を検索する調査の限界と、実質的支配者まで遡る必要性について次のように指摘しています。

阿部由羅氏
ゆら総合法律事務所 代表弁護士(埼玉弁護士会)
阿部由羅氏
専門家コラムより

インターネット検索や新聞記事のデータベースなどを利用して、相手方の会社名や代表者名を検索しても、背後にいる反社会的勢力の存在は判明しません。相手方の実質的支配者まで遡って徹底的に反社チェックを行い、少しでも疑わしい要素があれば取引中止を検討するといった厳密な取り組みが求められます。

実質的支配者・関係会社・再委託先まで、どこまで広げるか

外縁をどこまで広げるかは、取引のリスクと、業種による法的な要請の2つから判断するのが実務的です。一般的な事業会社では、重要取引に限って実質的支配者や関係会社まで確認する、という運用が現実的です。一方で、上場を準備する企業や、金融・不動産などの一部業種では、外縁の確認がより明確に求められます。

上場(準備)企業の場合、証券取引所の規程が反社会的勢力を排除する体制の整備を求めています。東京証券取引所の有価証券上場規程は、上場会社に対して次のように定めています。

上場会社は,反社会的勢力による被害を防止するための社内体制の整備及び個々の企業行動に対する反社会的勢力の介入防止に努めるものとする。

出典:有価証券上場規程 第22条|日本取引所グループ

上場審査では、この体制整備の状況が確認されます。役員・主要株主・重要な使用人といった具体的な人的範囲は、条文そのものではなく、上場審査の実務や新規上場ガイドブックの記載事項として運用されているものです。上場を見据える企業は、こうした実務を踏まえて対象範囲を早めに広げておくとよいでしょう。

実質的支配者とは、法人の議決権の25%超を保有するなど、その事業経営を実質的に支配する個人を指します(犯罪による収益の移転防止に関する法律〔犯収法〕上の目安)。実質的支配者の確認は、金融機関や不動産事業者など一部の業種では法律上の義務になっています(詳しくは「拠り所となる法令・基準」で解説します)。

それ以外の業種では法的な義務ではありませんが、重要な取引では実質的支配者まで確認するという考え方は、リスク管理として広く応用できます。

調査の深さ:どの相手にどの手法・段階まで

次に「どの深さまで調べるか」です。反社チェックの手法は、手軽なものから専門的なものまで段階があります。すべての対象に最も深い手法を使う必要はなく、対象のリスクに応じて段階を使い分けるのが基本です。まず、各手法で何が分かり、何が分からないのかを整理します。

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調査の手法インターネット検索新聞・記事データベース/官報専用データベース・反社チェックツール調査会社(興信所)への依頼警察・暴追センターへの照会
主に分かること報道・風評・関係者情報など幅広い公知情報過去の報道・行政処分・破産などの公的記録反社関連の独自DB・制裁リストとの照合結果現地調査・関係者調査を含む踏み込んだ情報暴力団該当性に関する公的な確認
弱いこと・分からないこと行政処分・裁判情報は漏れやすい
ノイズが多く判断に手間
掲載されない事案は把握できない最終的な該当判断は自社に残る費用と時間がかかる照会の要件・回答範囲に制約がある
どの相手・段階で使うか一次スクリーニングとして全対象に取引先・役員など主要な対象に件数が多い対象を一括で確認するとき重要取引・疑わしい先を深掘りするとき疑いが強い場合の最終確認として

※各手法の使い分けは実務上の目安です。

実務では、すべての対象にまずインターネット検索と記事データベース・専用ツールで一次スクリーニングをかけます。そのうえで、懸念が出た先や取引額の大きい重要な先だけを、調査会社への依頼や全国の暴力追放運動推進センター(暴追センター)・警察への照会で深掘りするのが一般的です。

調査の深さをリスクに応じて段階的に上げる流れの図。全対象への一次スクリーニングとして、WEB検索(幅広い公知情報だがノイズが多く公的記録は漏れやすい)、記事データベース・官報(過去の報道・行政処分・破産などの公的記録)、専用データベース・反社チェックツール(独自DB・制裁リストと一括照合、件数が多い対象に)を行う。そのうえで重要な先だけ調査会社(現地・関係者調査で踏み込むが費用と時間がかかる)で深掘りし、疑いが強い先のみ警察・暴追センターへの照会(暴力団該当性の公的な確認、最終確認)を行う。浅く広くから深く狭くへ。

政府の指針も、対応の基本原則の一つとして「外部専門機関との連携」を挙げており、自社だけで抱え込まず、必要に応じて専門機関を使うことを想定しています。

注意したいのは、インターネット検索だけで済ませると、行政処分や裁判情報など公的な記録が漏れやすい点です。検索結果が少ない相手ほど「情報が無い=問題ない」と判断せず、記事データベースや専用ツールで裏を取る姿勢が求められます。暴追センターは、事業者からの相談や情報提供に応じる公的な窓口として設置されており、判断に迷う場合の相談先になります。

そもそも企業が警察や暴追センターに直接照会して「相手が反社かどうか」の回答を得られるのか、実際に使える公的窓口と相談の進め方は、次の記事で詳しく解説しています。

頻度:新規と既存をどの間隔で確認するか

3つ目は「どの間隔で確認するか」です。先に押さえておきたいのは、反社チェックの頻度や間隔を「何年ごとに行う」と定めた法令・条例はないという点です。政府の指針や暴力団排除条例は「平素から注意を払う」「疑いが生じた時点で速やかに関係を解消する」ことを求めていますが、具体的な回数までは示していません。

解説記事や情報源によって「年1回」「1〜3年に一度」「3年に一度」と目安が分かれるのは、法定の数値がなく、各社の運用に委ねられているためです。自社では、次に示すリスク区分ごとに間隔を決めると根拠を持って説明できます。

そのうえで実務上の目安を示すと、新規の取引先・役員・採用候補者には、取引や関係が始まる前の確認が求められます。これから体制を組む場合は、まず既存の取引先をまとめて初回スクリーニングし、以降を定期・随時で回すと着手しやすくなります。

既存の取引先は、契約更新のタイミングや、毎年決まった月に一斉に見直すといった運用で、年1回程度を目安に定期確認するのが広く見られる形です。これは法令の要求ではなく、契約更新や年次監査、取引先の登記・決算情報が更新される周期と足並みをそろえやすいことから選ばれている運用です。

全取引先に同じ頻度を一律に当てはめると負担が大きく、本当に注意すべき先への確認が手薄になりがちです。取引先をリスクの高低で分け、区分ごとに間隔を変えるのが現実的です。リスクの高低は、年間取引額・与信残高の大きさ、反社リスクが高いとされる業種か、過去に懸念情報があったかといった軸で、自社の基準を決めます。目安を整理すると次のようになります。

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取引先の区分リスク高リスク中リスク低
対象の目安取引額・与信残高が大きい主要取引先
過去に懸念情報があった先
継続年数が長い一般的な取引先小口・単発の取引先
確認頻度の目安四半期〜半年に1回
または継続的に監視
半年〜年1回年1回程度を下限の目安に

※上記の間隔は実務上の目安であり、法令が定めた基準ではありません。

定期の間隔を待つあいだにも、相手の状況は変わります。取引先の役員・主要株主の変更、逮捕や行政処分などのネガティブな報道、取引額の大幅な増加といったリスクの兆候が生じたときは、定期を待たずに随時確認することが重要です。

「一律の頻度」ではなく「リスクに応じて頻度を変える」という考え方は、金融庁のマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(マネロンガイドライン)にも表れています。同ガイドラインが直接の対象とするのは金融機関等ですが、その考え方は業種を問わず頻度設計の参考になります。

出典・参考資料(1件)

定期の間隔を決めても、こうした兆候を取りこぼさない仕組みがなければ随時の確認は機能しません。阿部氏は、変化を早期に把握するための契約上の手当てと社内体制について、次のように述べています。

阿部由羅氏
ゆら総合法律事務所 代表弁護士(埼玉弁護士会)
阿部由羅氏
専門家コラムより

代表者・役員・株主・所在地などの変更については、契約において直ちに通知することを相手方に義務付けましょう。また、相手方に直接対応する営業担当者などが違和感を覚えたときは、すぐに法務部門やコンプライアンス部門などへ共有できる仕組みを整えることも重要です。

頻度は、自社のリスク区分ごとにこの目安を当てはめたうえで、初回・定期・随時の実施タイミングを社内規程として明文化しておくと、担当者が変わっても同じ運用を続けられます。

3つの線引きを社内で決めたら、次に問われるのが「その範囲・深さ・頻度でよいと言える根拠は何か」です。ここでは、反社チェックの拠り所となる法令・基準を、それぞれ何を求めているのかとともに整理します。

最も基本になるのが、政府の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(2007年)です。多くの企業の反社排除の取り組みの土台となっており、次のように「一切の関係をもたない」ことと、平素からの注意を求めています。

反社会的勢力とは、一切の関係をもたない。そのため、相手方が反社会的勢力であるかどうかについて、常に、通常必要と思われる注意を払うとともに、反社会的勢力とは知らずに何らかの関係を有してしまった場合には、相手方が反社会的勢力であると判明した時点や反社会的勢力であるとの疑いが生じた時点で、速やかに関係を解消する。

出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(2007年6月19日 犯罪対策閣僚会議 申合せ)|法務省

ここで押さえておきたいのは、この指針は「一切の関係をもたない」という到達目標を示す一方で、誰を対象にするかの人的範囲も、何年ごとに確認するかの頻度も列挙・数値化していない点です。指針自体に法的な拘束力はなく、企業の規模や業態に応じた対応でよいとされています。つまり「対象・深さ・頻度をリスクに応じて自社で設計する」ことこそが、この指針に沿った姿勢だと言えます。

各都道府県の暴力団排除条例も、事業者に対応を求めています。暴排条例は2011年10月までに全47都道府県で整備されており、例えば東京都暴力団排除条例(2011年10月1日施行)は、契約時の確認について次のように定めています。

事業者は、その行う事業に係る契約が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合には、当該事業に係る契約の相手方、代理又は媒介をする者その他の関係者が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする。

出典:東京都暴力団排除条例 第18条|東京都例規集

条例が求めているのは、契約時に相手方や関係者が暴力団関係者でないことを確認する努力義務です。罰則を伴う一律の義務ではなく、対象の人的範囲も「契約の相手方・代理媒介者・その他の関係者」までで、実質的支配者や関係会社を条文で列挙しているわけではありません。「反社チェックが求められている」ことと「対象・頻度が法律で決まっている」ことは別である、という点に注意が必要です。

上場企業・上場準備企業では、これらに加えて証券取引所の規程が関わります。前掲の東京証券取引所の有価証券上場規程(第22条)は、上場会社に反社会的勢力を排除する社内体制の整備を求めており、上場審査ではその整備状況が確認されます。上場を見据える場合は、対象範囲を役員・主要株主まで広げた体制を、この規程を拠り所として説明できるようにしておくとよいでしょう。

金融・不動産など一部業種は実質的支配者まで確認義務がある

業種によっては、対象範囲が法律で明確に広げられています。犯収法は、銀行などの金融機関や宅地建物取引業者といった「特定事業者」に対し、取引時に顧客の確認を義務づけています。その確認事項には、法人顧客の実質的支配者が含まれます。

当該顧客等が法人である場合において、その事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にあるものとして主務省令で定める者があるときにあっては、その者の本人特定事項

出典:犯罪による収益の移転防止に関する法律 第4条第1項|e-Gov法令検索

ここで注意したいのは、犯収法が確認義務を課すのは、銀行・信用金庫などの金融機関、宅地建物取引業者、貸金業者といった政令で定められた特定事業者に限られる点です。これはマネー・ローンダリング対策としての取引時確認であって、すべての企業に反社チェックを命じる条文ではありません。

ただし、金融・不動産などこれらの業種では、法人顧客の実質的支配者まで確認することが法的な下限になります。自社がこれらの業種にあたる場合は、対象範囲を実質的支配者まで広げる前提で体制を組む必要があります。

これらをまとめると、対象・深さ・頻度のいずれについても、法令は「一切の関係をもたない」という目標と、業種ごとの下限(上場・金融・不動産など)を示すにとどまり、具体的な線引きは各社がリスクに応じて設計する、という構図になります。社内で範囲や頻度を決める際は、これらの根拠を添えておくと、監査や稟議での説明がしやすくなります。

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反社チェックで守るべき注意点

範囲・深さ・頻度を決めて運用を始める前に、実務で押さえておきたい注意点が3つあります。集めてはいけない情報・証跡の残し方・判断の仕方です。

1つ目は、集めてはいけない個人情報があることです。とくに役員候補や採用候補者など個人を対象にチェックする場合、社会的差別につながるおそれのある情報の収集は原則として認められません。厚生労働省は、公正な採用選考の考え方として次のように示しています。

なお、求職者の個人情報を保護する観点から、職業安定法第5条の5及び指針(平成11 年労働省告示第141 号)により、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報などについては、原則として収集が認められません。

出典:公正な採用選考の基本|厚生労働省

本籍地や家族、思想・信条、支持政党といった、本人の適性・能力に関係のない事項がこれにあたります。反社チェックの目的は反社会的勢力との関係を確認することであり、こうした情報まで踏み込む必要はありません。採用や個人を対象とするチェックでは、確認する項目が収集の許される範囲に収まっているかを、あらかじめ確認しておきましょう。

採用の場面では、候補者を本人の同意なく調べてよいのか、個人情報保護法との境界はどこか、反社と判明したとき内定取消ができるのかといった論点がさらに絡みます。採用フローに反社チェックを組み込む場合の可否と進め方は、次の記事で詳しく解説しています。

2つ目は、チェックの証跡を残すことです。いつ・誰が・どの対象を・どの手法で確認し、どう判断したかを記録に残しておくと、監査やコンプライアンス委員会での説明、上場審査での体制の証明に使えます。検索結果が0件だった場合も「確認した」という記録として残すのが実務のポイントです。

3つ目は、主観だけで判断しないことです。同姓同名や似た社名など、検索結果には紛らわしい情報が混ざります。担当者の印象で「問題あり/なし」を決めず、生年や所在地などで本人を同定し、要確認とする基準や、懸念が出たときの社内への報告ルートをあらかじめ決めておくと、担当者が変わっても同じ基準で運用できます。

決めた範囲を現実的に回す方法(反社チェックツール)

対象・深さ・頻度の線引きを決めても、対象の件数が増えると手作業での確認は現実的でなくなります。1件ずつインターネットと新聞記事を別々に検索し、結果を保存して……という運用は、担当者の負担が大きく、抜け漏れも生じやすくなります。

こうした運用を支えるのが、複数の対象を一括でスクリーニングでき、前回以降の新しい情報だけを再検索する差分機能や、登録した対象を継続的に監視して変化を通知するモニタリング機能を備えた反社チェックツールです。

ここでは、決めた範囲を一括でチェックし、定期的な再確認まで回しやすい主なツールを取り上げます。対応するデータソースや一括処理の規模、継続監視の仕組み、料金体系はサービスごとに異なるため、自社の対象範囲と件数に合うものを確認してください。

提供企業側も、ツールを導入すること自体より、決めた範囲や基準を日々の業務フローに組み込めるかを重視しています。反社・コンプライアンスチェックツールを提供するソーシャルワイヤーの杉山氏は、運用が定着しやすいケースについて次のように述べています。

杉山賢人氏
ソーシャルワイヤー株式会社 事業部長
杉山賢人氏
独自インタビューより

成功しやすいのは、対象範囲、検索条件、要確認とする基準、承認者、履歴の保存先、再チェックの頻度を導入時に整理し、取引申請や契約更新など既存の業務フローに組み込むケースです。既存取引先への定期確認では、前回検索以降に追加・更新された情報を確認する差分検索も有効です。

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比較項目RiskAnalyzeRISK EYESRoboRoboコンプライアンスチェック
主なデータソース国内約1,000媒体を1時間おきに自動収集
海外240以上の国・地域
WEBニュース・新聞記事
ブログ/掲示板・制裁リスト・独自反社DB
インターネット記事・新聞記事DB
海外情報DB(約190ヵ国)
一括スクリーニングCSVで1,000件を約1分リストをアップロードして一括検索Excelをドラッグ&ドロップで一括登録
差分検索・継続モニタリング公式資料に記載なし差分検索・リスクアラート対応公式資料に記載なし
海外リスク情報(制裁・PEPsなど)240以上の国・地域
PEPs・制裁リスト
日米の制裁リスト約190ヵ国・約540万件のDB
初期費用無料無料無料
料金の目安(2026年6月時点)月額27,500円〜
(ライトプラン/年間600検索)
月額最低15,000円〜(税別)
1媒体あたり300円〜の従量制
従量・定額の2プランを用意
件数に応じて設計(要問い合わせ)
無料トライアルあり(期間・件数は要相談)ありあり(取引先10件まで)
詳細情報公式資料を見る公式資料を見る公式資料を見る

RiskAnalyze(KYCコンサルティング株式会社)

RiskAnalyze 公式サイトのスクリーンショット

KYCコンサルティング株式会社が提供する、AIを活用したWEBサービス型のコンプライアンス・反社チェックツールです。個人名・企業名を入力すると、反社会的勢力とのつながり・逮捕歴・行政処分・訴訟歴・風評などを調査し、判定済みの調査レポートを1件あたり最短0.4秒で表示します。国内約1,000媒体の情報を1時間おきに自動収集する独自データベースを軸にしています。

広い対象範囲を一括で確認したい場面に向くのが、CSVによる一括検索です。1,000件のスクリーニングを約1分で処理できるため、取引先リストや役員リストをまとめて調べられます。240以上の国と地域の海外リスク情報(PEPs・制裁リスト)も収録しており、海外取引先や実質的支配者の確認にも対応します。

調査の証跡はクラウド上に7年間自動保存され、REST/JSONのAPI連携(無料)やSalesforce・kintoneとの連携で既存の業務フローにも組み込めます。

初期費用は無料、月額はライトプランの27,500円(年間600検索)からで、検索数の多い企業向けのプランも用意されています(2026年6月時点)。累計導入企業数は1,300社(2025年6月時点)です。

RISK EYES(ソーシャルワイヤー株式会社)

RISK EYES 公式サイトのスクリーンショット

もともとは、提供元のソーシャルワイヤー株式会社が自社の上場準備で行っていた反社チェック業務を効率化するために開発したクラウドツールで、2017年10月に正式なサービスとして提供が始まりました。法人名・人名とネガティブワードを組み合わせ、WEBニュース・新聞記事・ブログ/掲示板・制裁リスト・独自データベースを横断して検索できる、反社チェック専用のツールです。

既存取引先を定期的に再確認する運用に直結するのが、前回以降の新規記事だけを対象とする差分検索です。全件を調べ直す手間を省けます。登録した監視対象にリスク情報が報道された際に懸念レベルを段階的に通知するモニタリングや、検索から確認・証跡保存までを自動化するワークフロー機能も備え、決めた範囲を継続的に回す運用に向いています。導入事例では反社チェック業務を約95%削減した例も報告されています。

料金は初期費用が無料、最低利用料金が月額15,000円(税別)からで、検索は1媒体あたり300円(税別)からの従量制です(2026年6月時点)。無料トライアルも用意されています。

RoboRoboコンプライアンスチェック(オープン株式会社)

RoboRoboコンプライアンスチェック 公式サイトのスクリーンショット

オープン株式会社が提供するクラウド型のコンプライアンス・反社チェックサービスです。インターネット記事検索・新聞記事データベース検索・海外情報検索を組み合わせ、生成AIによる記事の要約や、AIによる注目度の3段階自動判別でノイズを絞り込みます。上場企業に求められるコンプライアンスチェックの要件という観点で、SBI証券が監修しています。

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初期費用は無料で、実際の取引先を10件まで無料で試せます。料金は従量課金や定額など複数のプランが用意されており、チェック件数に応じて設計できます(2026年6月時点)。

RoboRoboを提供するオープンの関根氏は、自動化によって現場の確認作業がどう変わるかを、導入現場の例をもとに次のように述べています。

関根氏
オープン株式会社 RoboRobo事業部 マーケティング部 部長
関根氏
独自インタビューより

たとえばシステム会社では、毎日数十件から多い時には100件のチェック業務が発生しますが、人手で行うと1件あたり1分として100分以上かかります。自動化によって怪しい情報が出た時だけ担当者が確認するという運用に切り替えることで、大幅な工数削減を実現しています。

ここで取り上げた3サービスを含め、主要な反社チェックツールを料金・データソース・検出精度といった選び方の観点でまとめて比較したい場合は、次の記事が参考になります。

まとめ

反社チェックの「どこまで」は、対象範囲・調査の深さ・頻度の3つの線引きで決まります。対象は取引先と自社の役員を最低ラインに、リスクや上場・業種の要請に応じて株主・従業員・関係会社・実質的支配者へ広げます。深さは全対象に一次スクリーニングをかけ、重要な先だけ調査会社や暴追センターまで深掘りします。頻度は新規を契約前に、既存を年1回程度を目安にし、リスクの高い先にはより短い間隔での確認が望まれます。

これらはいずれも、法令が一律の数値で定めたものではありません。政府の指針は「一切の関係をもたない」という目標を、暴力団排除条例は契約時の確認を、犯収法は金融・不動産などでの実質的支配者確認を、証券取引所の規程は上場企業の体制整備を求めていますが、具体的な線引きは各社がリスクに応じて設計します。決めた範囲・深さ・頻度に根拠を添えておくことが、監査や稟議での説明につながります。

対象や件数が増えると手作業では回りきらなくなるため、一括スクリーニングや差分検索・モニタリングに対応したツールの活用も検討してください。自社の対象範囲と件数に合うツールを比較する際は、下記から複数サービスの資料をまとめて確認できます。

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よくある質問(FAQ)

Q. 反社チェックとは何ですか?

A. 反社チェックとは、取引先や自社の関係者が暴力団などの反社会的勢力に該当しないかを確認する調査です。政府指針が示す「反社会的勢力とは一切の関係をもたない」という考え方に基づき、契約や取引を始める前などに相手の該当性を確認します。何を・どこまで調べるかは法令が一律に定めているわけではなく、対象範囲・調査の深さ・頻度の3つの線引きを、取引のリスクに応じて自社で設計するのが基本です。

Q. 反社チェックはどこまで調べれば十分ですか?

A. 反社チェックは、対象範囲・調査の深さ・頻度の3つの線引きを取引のリスクに応じて設計すれば十分とされ、一律に「ここまで」と定めた法令はありません。最低ラインは取引先(会社・代表者・主な役員)と自社の役員で、重要な取引ではここに主要株主・実質的支配者・関係会社を加えます。

深さは全対象にインターネット検索や専用ツールで一次スクリーニングをかけ、懸念が出た先や重要な先だけ調査会社などで深掘りするのが現実的です。

Q. 反社チェックは法的な義務ですか?

A. 反社チェックそのものをすべての企業に一律で命じた法律はなく、政府指針や暴力団排除条例が努力を求める規範として企業に確認を促しているのが実情です。政府の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」に法的な拘束力はなく、暴力団排除条例が定める契約時の確認も努力義務です。

ただし、金融機関や不動産事業者などは犯収法により、法人顧客の実質的支配者を確認することが法律上の義務になります。

出典・参考資料(2件)

Q. 反社チェックは取引先の代表者だけでよいですか、役員全員まで必要ですか?

A. 反社チェックは、取引先の会社・代表者に加えて主な役員まで確認するのが最低ラインです。代表者だけでなく、意思決定に関与する取締役などの主な役員も対象に含めるのが実務の基本になります。全役員を一律に深く調べる必要はなく、公開情報や反社チェックツールでの一次スクリーニングを主な役員にかけ、懸念が出た人物だけを調査会社などで深掘りする段階運用が現実的です。

Q. 反社チェックは株主や実質的支配者まで必要ですか?

A. 反社チェックで株主・実質的支配者まで確認するかは、取引の重要度と業種によって決まります。一般の事業会社では、取引額が大きい・継続的といった重要な取引に限って、主要株主や実質的支配者(UBO)まで広げるのが現実的です。一方、上場を準備する企業は主要株主を含む体制を早めに整える必要があり、金融・不動産などの業種では犯収法により実質的支配者の確認が義務づけられています。

Q. 反社チェックで従業員全員を調べる必要はありますか?

A. 反社チェックで従業員全員を一律に調べる必要はなく、役員候補や重要ポジションの採用時に確認するのが現実的です。役員は就任前の確認が必須ですが、一般の従業員は全員を毎回調べるより、採用時にリスクに応じて対象を絞ります。なお個人を対象にする場合、本籍地や思想・信条など社会的差別につながるおそれのある情報の収集は原則として認められない点に注意が必要です。

Q. 反社チェックは業種によって調べる範囲が変わりますか?

A. 反社チェックの範囲は業種によって変わり、金融・不動産などの一部業種は実質的支配者の確認まで法的に求められます。銀行などの金融機関や宅地建物取引業者といった犯収法の「特定事業者」は、取引時に法人顧客の実質的支配者を確認する義務があります。

それ以外の一般の事業会社では法的な義務ではありませんが、重要な取引では実質的支配者まで確認するという考え方は、業種を問わずリスク管理として応用できます。

Q. 反社チェックはインターネット検索だけで足りますか?

A. 反社チェックはインターネット検索だけでは不十分で、新聞・記事データベースや専用ツールで裏を取る必要があります。インターネット検索は一次スクリーニングとして有効ですが、行政処分や裁判情報などの公的な記録は漏れやすいという弱点があります。

検索結果が少ない相手ほど「情報がない=問題ない」と判断せず、記事データベースや反社チェックツールで確認し、懸念が出た先は調査会社や暴力追放運動推進センターへの照会まで段階的に深めます。

Q. 反社チェックの費用相場はどのくらいですか?

A. 反社チェックの費用は手法によって幅があり、自社でのインターネット検索は無料、新聞データベースや調査会社への依頼は数万円から数十万円程度が目安です。すべての対象に費用のかかる手法を使うのではなく、まず無料〜低コストの一次スクリーニングで絞り込み、重要な先だけ費用をかけて深掘りするとコストを抑えられます。

多数の対象を継続的に確認する場合は、月額制の反社チェックツールを使うと、1件あたりの負担を下げやすくなります。

Q. 既存取引先の反社チェックは年1回で足りますか?

A. 既存取引先の反社チェックは年1回程度を目安に定期確認するのが広く見られる運用ですが、頻度を定めた法令はなく、リスクに応じて間隔を変えるのが基本です。取引額が大きい先や過去に懸念があった先は四半期〜半年に一度、小口・単発の先は年1回を下限の目安にするなど、リスクの高低で間隔を分けます。役員・主要株主の変更やネガティブな報道など兆候が生じたときは、定期を待たずに随時確認します。

Q. 中小企業も反社チェックは必要ですか?

A. 反社チェックは企業規模を問わず必要で、むしろトラブルが経営に直結しやすい中小企業ほど重要です。暴力団排除条例は事業者一般に契約時の確認を求めており、規模による除外はありません。人手が限られる中小企業では、対象をリスクの高い取引に絞ったうえで、一括スクリーニングできる反社チェックツールを使うと、負担を抑えながら必要な範囲をカバーできます。

Q. 反社チェックツールを使えば「どこまで」の負担は減らせますか?

A. 反社チェックツールを使うと、決めた対象範囲を一括でスクリーニングし、既存取引先の定期確認まで効率的に回せます。複数の対象をまとめて検索する一括処理、前回以降の新しい情報だけを再確認する差分検索、登録した対象を継続的に見張るモニタリングといった機能で、人手では負担の大きい「広い範囲を定期的に確認する」運用を支えます。

ただしツールが該当性の最終判断まで代わるわけではないため、要確認とする基準や懸念が出たときの報告ルートは自社で決めておく必要があります。

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監修者

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト

松嶋真倫

都市銀行にて金融実務を経験後、暗号資産関連スタートアップの創業期に参画し、市場分析・業界調査に従事。2018年にマネックスグループ入社。以降、ビットコインをはじめとするデジタルアセットからマクロ経済環境まで、金融市場を横断した調査・分析および情報発信を担う。FinTech・次世代金融領域のリサーチ統括、各種レポートや書籍の執筆、日本経済新聞など国内主要メディアへのコメント・寄稿、イベント登壇などを行う。2021年3月より現職。
記事内でご紹介している製品・サービスは監修者が選定したものではなく、編集部が独自に選定したものです。
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。
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