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反社チェック 金融機関の法的義務とは|監督指針・犯収法・暴排条例と実務プロセスを解説

反社チェック 金融機関の法的義務とはのサムネイル画像

金融機関の反社会的勢力(反社)チェックは、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)の特定事業者としての義務、業態別4指針の反社関連セクション、都道府県暴力団排除条例、業法上の処分規定が重層的に根拠となります。一般企業に課される暴排条例上の努力義務とは水準が異なり、取引時確認・記録の7年保存・疑わしい取引の届出(STR)といった義務まで含みます。

本記事は、金融機関に求められる反社チェックの法的根拠を、犯収法・金融庁監督指針・暴排条例・業法の該当条文で整理します。あわせて、業態別(銀行・保険・証券・貸金業)の要件差、行政処分・判例の時系列、新規口座開設から契約解除までのタイミング別実務フロー、誤検知・同姓同名判別と過剰排除の是正、暴排条項のモデル条文、金融機関向け反社チェック・AMLツールの機能軸を扱います。

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金融機関に求められる反社チェックは、単一の法令ではなく、犯収法・金融庁監督指針・都道府県暴排条例・業法(銀行法・保険業法・金融商品取引法・貸金業法)が重層的に根拠となっています。この節では、まず反社会的勢力の定義を確認し、一般企業との義務水準の違いを整理したうえで、法令ごとの該当箇所と金融機関に求められる措置を一枚の対応表にまとめます。

反社会的勢力の定義(企業暴排指針の属性要件・行為要件)

金融機関の反社チェックが対象とする「反社会的勢力」の範囲は、平成19年6月19日に犯罪対策閣僚会議幹事会が申し合わせた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(企業暴排指針)で定義されています。金融庁の各監督指針は、いずれも本指針の趣旨を踏まえて反社会的勢力対応を求めているため、金融機関がまず参照すべき定義文書がこれになります。

暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。

出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(平成19年6月19日 犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)|法務省(PDF

企業暴排指針が示す反社会的勢力の把握枠組みは、「属性」と「行為」の二軸で捉えるところにあります。属性要件は暴力団・暴力団関係企業・総会屋・社会運動標ぼうゴロ・政治活動標ぼうゴロ・特殊知能暴力集団などの類型を挙げ、行為要件は暴力的要求や不当要求といった実際の行動を捉えます。金融機関の反社チェックも、この二軸のいずれか、あるいは両方に該当するかを判定する運用となります。

一般企業と金融機関で「義務の水準」がどう違うか

反社チェックそのものは、一般企業でも都道府県暴排条例上の努力義務や、取締役の善管注意義務(会社法330条・民法644条)の派生として求められます。ただし、一般企業に対する義務の中心は「暴排条項の導入」「取引開始時の一次確認」にとどまり、体制整備や継続的な確認までは求められていません。

これに対し金融機関は、犯収法上の「特定事業者」として、取引時確認(本人特定事項・取引目的・職業/事業内容・実質的支配者)、確認記録および取引記録の7年保存、疑わしい取引の届出(STR)、外国送金の通知義務、体制整備までを法令上の義務として負っています。金融庁の監督指針では、この上に反社関連の内部管理態勢の整備(一元管理部署の設置、事前審査・事後検証、取引解消への取組みなど)が加わります。

根拠法令 × 金融機関に求められる措置の対応表

金融機関の反社チェックに関わる法令・指針・条例と、そこから求められる措置を対応表にまとめます。

根拠該当箇所金融機関に求められる措置
犯収法(特定事業者)第2条第2項(一 銀行/二 信用金庫/十七 保険会社/十八 外国保険会社等/十九 少額短期保険業者/二十一 金融商品取引業者/二十九 貸金業者 ほか)金融機関の主要業態が「特定事業者」として個別列挙され、以下の義務の対象となる
犯収法(取引時確認)第4条第1項本人特定事項・取引目的・職業/事業内容・実質的支配者の4項目を確認。厳格な顧客管理を要する取引では資産・収入の状況も追加確認
犯収法(確認記録の作成・保存)第6条第1項・第2項取引時確認を行った場合、確認記録を作成し、契約終了日等から7年間保存
犯収法(取引記録等の作成・保存)第7条第1項・第3項特定業務に係る取引ごとに取引記録を作成し、取引日から7年間保存
犯収法(疑わしい取引の届出)第8条第1項・第4項取引で収受した財産が犯罪収益の疑いがある場合、速やかに行政庁へ届出(STR)。届出を顧客等に漏らしてはならない(tipping-off禁止)
犯収法(外国為替取引の通知)第10条第1項本邦から外国への為替取引を他の特定事業者・外国所在為替取引業者に委託する際、顧客・支払相手の本人特定事項等を通知(トラベル・ルール)
犯収法(体制整備)第11条取引時確認・記録保存・STR等の措置を的確に行うため、情報を最新に保つほか、教育訓練・規程作成・統括管理者の選任等を実施(努力義務)
金融庁監督指針(主要行等)Ⅲ-3-1-4「反社会的勢力による被害の防止」組織対応、一元管理態勢、事前審査、事後検証、取引解消、不当要求対処、株主情報管理の7つの着眼点
金融庁監督指針(中小・地域金融機関)Ⅱ-3-1-4主要行等向けと同一の着眼点。地方銀行・信金・信組が直接参照
金融庁監督指針(保険会社)Ⅱ-4-9主要行等向けの着眼点に加え、保険金支払審査を通じた反社対応
金融庁監督指針(金融商品取引業者等)Ⅲ-2-11市場介入型(IPO・エクイティ・ファイナンス経由)の反社介入を含む態勢整備
都道府県暴排条例例:東京都暴力団排除条例 第18条契約が暴力団の活動を助長する疑いがある場合、相手方が暴力団関係者でないことの確認と暴排条項の契約書導入を努力義務化
企業暴排指針(政府)平成19年6月19日 犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ組織対応、外部専門機関との連携、取引を含めた一切の関係遮断、有事における民事・刑事対応、裏取引・資金提供の禁止の5基本原則
銀行法第26条(業務改善命令)/第27条(免許取消し等)反社関連の態勢に重大な問題が認められた場合の業務改善命令、悪質な法令違反等での業務停止・免許取消し
保険業法第132条(業務改善命令)/第133条(免許取消し等)同上(保険会社)
金融商品取引法第51条(業務改善命令)/第52条第1項(登録取消し・業務停止)同上(金融商品取引業者)
貸金業法第24条の6の3(業務改善命令)/第24条の6の4(登録取消し・業務停止)同上(貸金業者)
出典・参考資料(11件)
  • 出典:犯罪による収益の移転防止に関する法律|e-Gov 法令検索(法令本文
  • 出典:主要行等向けの総合的な監督指針|金融庁(PDF
  • 出典:中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針|金融庁(PDF
  • 出典:保険会社向けの総合的な監督指針|金融庁(PDF
  • 出典:金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針|金融庁(PDF
  • 出典:東京都暴力団排除条例|警視庁(条例ページ
  • 出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針|法務省(PDF
  • 出典:銀行法|e-Gov 法令検索(法令本文
  • 出典:保険業法|e-Gov 法令検索(法令本文
  • 出典:金融商品取引法|e-Gov 法令検索(法令本文
  • 出典:貸金業法|e-Gov 法令検索(法令本文

AML/CFTとの位置づけ整理(反社チェックとKYC/CDD/EDD/STRの関係)

金融機関の実務では、反社チェックはマネー・ローンダリング/テロ資金供与対策(AML/CFT)と一体で運用されます。両者は目的も根拠法も部分的に重なるため、位置づけを整理しておくと後続の実務プロセスが読み解きやすくなります。

本人確認(KYC)は、犯収法第4条第1項が定める取引時確認の一部で、氏名・住所・生年月日など本人特定事項を収集する行為を指します。顧客管理(CDD)は、この本人確認に取引目的・職業/事業内容・実質的支配者の確認を加え、リスクに応じた継続的な情報更新(継続的顧客管理)まで含む広い概念です。

強化本人確認(EDD)は、なりすまし疑いや制裁対象国関係者との取引など、高リスク取引でCDDに資産・収入の状況の確認や上級管理者による承認を上乗せする措置です。

反社チェックは、この一連の顧客管理のうち「取引相手が反社会的勢力の属性・行為に該当しないか」を判定する部分にあたります。単独で走らせるのではなく、CDDの一部として本人特定事項の取得と同じタイミングで走らせ、疑いが認められれば犯収法第8条の疑わしい取引の届出(STR)につなぎます。

金融機関の反社チェックが厳格に求められる背景には、この「反社チェック単体で完結せず、CDD/EDD/STRのフロー全体を回すことが求められる」という構造があります。

金融庁監督指針の該当箇所(原文引用・業態別4指針)

金融庁は、業態ごとに総合的な監督指針を公表しており、いずれにも「反社会的勢力による被害の防止」の独立セクションが置かれています。ここでは主要行等向け・中小地域金融機関向け・保険会社向け・金融商品取引業者等向けの4指針から、反社セクションの該当箇所を原文で確認します。

主要行等向けの総合的な監督指針 Ⅲ-3-1-4

都市銀行など主要行を対象とする本指針では、Ⅲ-3-1-4に「反社会的勢力による被害の防止」を独立節として置き、意義(Ⅲ-3-1-4-1)、主な着眼点(Ⅲ-3-1-4-2)、監督手法・対応(Ⅲ-3-1-4-3)の3層構成で規定しています。意義部の原文は次のとおりです。

反社会的勢力を社会から排除していくことは、社会の秩序や安全を確保する上で極めて重要な課題であり、反社会的勢力との関係を遮断するための取組みを推進していくことは、企業にとって社会的責任を果たす観点から必要かつ重要なことである。特に、公共性を有し、経済的に重要な機能を営む金融機関においては、金融機関自身や役職員のみならず、顧客等の様々なステークホルダーが被害を受けることを防止するため、反社会的勢力を金融取引から排除していくことが求められる。
もとより金融機関として公共の信頼を維持し、業務の適切性及び健全性を確保するためには、反社会的勢力に対して屈することなく法令等に則して対応することが不可欠であり、金融機関においては、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)の趣旨を踏まえ、平素より、反社会的勢力との関係遮断に向けた態勢整備に取り組む必要がある。

出典:主要行等向けの総合的な監督指針 Ⅲ-3-1-4-1|金融庁(PDF

Ⅲ-3-1-4-2 主な着眼点は、次の7項目が挙げられています。

(1)組織としての対応
(2)反社会的勢力対応部署による一元的な管理態勢の構築
(3)適切な事前審査の実施
(4)適切な事後検証の実施
(5)反社会的勢力との取引解消に向けた取組み
(6)反社会的勢力による不当要求への対処
(7)株主情報の管理

出典:主要行等向けの総合的な監督指針 Ⅲ-3-1-4-2|金融庁(PDF

監督手法・対応(Ⅲ-3-1-4-3)は、態勢に問題があると認められた場合の対応を次のように定めています。

検査結果、不祥事件等届出書等により、反社会的勢力との関係を遮断するための態勢に問題があると認められる場合には、必要に応じて法第24条に基づき報告を求め、当該報告を検証した結果、業務の健全性・適切性の観点から重大な問題があると認められる場合等には、法第26条に基づく業務改善命令の発出を検討するものとする。その際、反社会的勢力への資金提供や反社会的勢力との不適切な取引関係を認識しているにもかかわらず関係解消に向けた適切な対応が図られないなど、内部管理態勢が極めて脆弱であり、その内部管理態勢の改善等に専念させる必要があると認められるときは、法第26条に基づく業務改善に要する一定期間に限った業務の一部停止命令の発出を検討するものとする。
また、反社会的勢力であることを認識しながら組織的に資金提供や不適切な取引関係を反復・継続するなど、重大性・悪質性が認められる法令違反又は公益を害する行為などに対しては、法第27条に基づく厳正な処分について検討するものとする。

出典:主要行等向けの総合的な監督指針 Ⅲ-3-1-4-3|金融庁(PDF

この3層構成は、報告徴収(銀行法第24条)→業務改善命令(第26条)→業務停止・免許取消し(第27条)へと処分が段階的に厳しくなる金融庁の監督フレームワークを示しています。反社関連の不備がこのフレームで扱われることが、他業種と決定的に違う点です。

中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 Ⅱ-3-1-4

地方銀行・信用金庫・信用組合を対象とする本指針では、Ⅱ-3-1-4に「反社会的勢力による被害の防止」が置かれています。意義(Ⅱ-3-1-4-1)の第1段落は主要行等向けとほぼ同文です。

反社会的勢力を社会から排除していくことは、社会の秩序や安全を確保する上で極めて重要な課題であり、反社会的勢力との関係を遮断するための取組みを推進していくことは、企業にとって社会的責任を果たす観点から必要かつ重要なことである。特に、公共性を有し、経済的に重要な機能を営む金融機関においては、金融機関自身や役職員のみならず、顧客等の様々なステークホルダーが被害を受けることを防止するため、反社会的勢力を金融取引から排除していくことが求められる。

出典:中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 Ⅱ-3-1-4-1|金融庁(PDF

主な着眼点(Ⅱ-3-1-4-2)と監督手法・対応(Ⅱ-3-1-4-3)の3層構造も主要行等向けと同一で、報告徴収(銀行法第24条)→業務改善命令(第26条)→業務停止・免許取消し(第27条)のフレームワークが適用されます。地方銀行・信金・信組のコンプラ担当者は、この監督指針を主として参照し、必要に応じて主要行等向けを参考にする形になります。

保険会社向けの総合的な監督指針 Ⅱ-4-9

保険会社向けの本指針では、Ⅱ-4-9に「反社会的勢力による被害の防止」が置かれています。意義部の原文は主要行等向けとほぼ同文ですが、主体が「金融機関」から「保険会社」に置き換わっています。

反社会的勢力を社会から排除していくことは、社会の秩序や安全を確保する上で極めて重要な課題であり、反社会的勢力との関係を遮断するための取組みを推進していくことは、企業にとって社会的責任を果たす観点から必要かつ重要なことである。特に、公共性を有し、経済的に重要な機能を営む保険会社においては、保険会社自身や役職員のみならず、顧客等の様々なステークホルダーが被害を受けることを防止するため、反社会的勢力を金融取引から排除していくことが求められる。

出典:保険会社向けの総合的な監督指針 Ⅱ-4-9-1|金融庁(PDF

着眼点の中身は銀行版とほぼ共通ですが、保険会社版には「保険金等の支払審査の実施」(反社からの不当請求防止)が独自の項目として加えられています。保険引受時のスクリーニングだけでなく、保険金支払時の再チェックまで態勢に組み込むことが期待されているという点で、業態固有の要件になります。

金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針 Ⅲ-2-11

証券会社などを対象とする金融商品取引業者等向けの本指針では、Ⅲ-2-11に「反社会的勢力による被害の防止」が置かれています。意義部の後半には、証券会社に固有のリスクとして市場介入型の反社介入が明記されています。

特に、近時反社会的勢力の資金獲得活動が巧妙化しており、関係企業を使い通常の経済取引を装って巧みに取引関係を構築し、後々トラブルとなる事例も見られる。また、新興市場における新規株式公開や上場市場におけるエクイティ・ファイナンス等により、暴力団等の反社会的勢力が金融商品市場に介入し、資金獲得を図っている状況も窺われる。こうしたケースに適切に対処するには経営陣の断固たる対応、具体的な対応が必要である。

出典:金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針 Ⅲ-2-11(1)|金融庁(PDF

監督手法・対応(Ⅲ-2-11(3))では、業態別に処分の根拠法条が明示されています。

検査結果や日常の監督事務等を通じて把握された金融商品取引業者の反社会的勢力との関係を遮断するための態勢上の課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金商法第56条の2第1項に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な改善状況を把握することとする。その際、反社会的勢力への資金提供や反社会的勢力との不適切な取引関係を認識しているにも関わらず関係解消に向けた適切な対応が図られないなど内部管理態勢が極めて脆弱であり、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく厳正な処分について、必要な対応を検討するものとする。

出典:金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針 Ⅲ-2-11(3)|金融庁(PDF

証券会社の場合、市場介入型の反社介入を防ぐには、口座開設時のスクリーニングに加えて、上場審査・エクイティファイナンス案件での反社関与チェックまで態勢を組む必要がある、というのが本指針から読み取れる方向性です。

業態別の反社チェック要件(銀行/保険/証券/貸金業)

「金融機関」と一括りにされることが多い反社チェック要件も、業法レベルでは業態ごとに根拠条文と処分の枠組みが異なります。業態別に条文と実務要件を整理します。

銀行(銀行法第26条:業務改善命令/第27条:業務停止・免許取消し)

銀行の反社関連の処分は、監督指針Ⅲ-3-1-4-3が明示するとおり、報告徴収(銀行法第24条)→業務改善命令(第26条)→業務停止・免許取消し(第27条)の3層で構成されます。業務改善命令の根拠条は次のとおりです。

第二十六条 内閣総理大臣は、銀行の業務若しくは財産又は銀行及びその子会社等の財産の状況に照らして、当該銀行の業務の健全かつ適切な運営を確保するため必要があると認めるときは、当該銀行に対し、措置を講ずべき事項及び期限を示して、当該銀行の経営の健全性を確保するための改善計画の提出を求め、若しくは提出された改善計画の変更を命じ、又はその必要の限度において、期限を付して当該銀行の業務の全部若しくは一部の停止を命じ、若しくは当該銀行の財産の供託その他監督上必要な措置を命ずることができる。

出典:銀行法 第二十六条|e-Gov 法令検索(法令本文

業務改善命令の枠内で「業務の一部停止」まで踏み込む余地があり、反社関連の重大事案では実際に一部停止命令が出された例(後述のみずほ銀行 平成25年12月26日)があります。より重大・悪質な法令違反や公益を害する行為には、第27条に基づく免許取消し・業務停止・役員解任命令まで踏み込むことができます。

第二十七条 内閣総理大臣は、銀行が法令、定款若しくは法令に基づく内閣総理大臣の処分に違反したとき又は公益を害する行為をしたときは、当該銀行に対し、その業務の全部若しくは一部の停止若しくは取締役、執行役、会計参与、監査役若しくは会計監査人の解任を命じ、又は第四条第一項の免許を取り消すことができる。

出典:銀行法 第二十七条|e-Gov 法令検索(法令本文

信用金庫・信用組合には、それぞれ信用金庫法・協同組合による金融事業に関する法律(協金法)が銀行法を準用する構造となっており、後述のいわき信用組合の令和7年10月31日処分も、協金法第6条第1項による銀行法第26条第1項の準用を根拠としています。

保険会社(保険業法第132条:業務改善命令/第133条:業務停止・免許取消し)

保険会社の場合、業務改善命令の根拠は保険業法第132条、業務停止・免許取消しの根拠は第133条です。第132条は「保険契約者等の保護を図るため必要がある」ときの措置命令として位置付けられており、業務改善命令から業務停止まで一つの条文で幅広く対応する構造です。

第百三十二条 内閣総理大臣は、保険会社の業務若しくは財産又は保険会社及びその子会社等の財産の状況に照らして、当該保険会社の業務の健全かつ適切な運営を確保し、保険契約者等の保護を図るため必要があると認めるときは、当該保険会社に対し、措置を講ずべき事項及び期限を示して、経営の健全性を確保するための改善計画の提出を求め、若しくは提出された改善計画の変更を命じ、又はその必要の限度において、期限を付して当該保険会社の業務の全部若しくは一部の停止を命じ、若しくは当該保険会社の財産の供託その他監督上必要な措置を命ずることができる。

出典:保険業法 第百三十二条|e-Gov 法令検索(法令本文

第百三十三条 内閣総理大臣は、保険会社が次の各号のいずれかに該当することとなったときは、当該保険会社の業務の全部若しくは一部の停止若しくは取締役、執行役、会計参与、監査役若しくは会計監査人の解任を命じ、又は第三条第一項の免許を取り消すことができる。
 一 法令、法令に基づく内閣総理大臣の処分又は第四条第二項各号に掲げる書類に定めた事項のうち特に重要なものに違反したとき。
 二 当該免許に付された条件に違反したとき。
 三 公益を害する行為をしたとき。

出典:保険業法 第百三十三条|e-Gov 法令検索(法令本文

反社関連では、保険会社向け監督指針Ⅱ-4-9が着眼点として「保険金支払審査の実施」を独自に含むため、保険引受時のスクリーニングだけでなく、保険金支払時の再チェックまで態勢に組み込むことが求められます。これが銀行との実務上の主な違いです。

証券会社(金商法第51条:業務改善命令/第52条:業務停止・登録取消し)

証券会社(金融商品取引業者)の処分は、業務改善命令が金商法第51条、業務停止・登録取消しが第52条第1項に規定されています。監督指針Ⅲ-2-11(3)が「金商法第51条の規定に基づく業務改善命令」「金商法第52条第1項の規定に基づく厳正な処分」と明示するとおり、反社関連の処分もこの二段構造で運用されます。

第五十一条 内閣総理大臣は、金融商品取引業者の業務の運営又は財産の状況に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、その必要の限度において、当該金融商品取引業者に対し、業務の方法の変更その他業務の運営又は財産の状況の改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

出典:金融商品取引法 第五十一条|e-Gov 法令検索(法令本文

第五十二条 内閣総理大臣は、金融商品取引業者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該金融商品取引業者の第二十九条の登録を取り消し、第三十条第一項の認可を取り消し、又は六月以内の期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。
 (中略)
 七 金融商品取引業又はこれに付随する業務に関し法令(第四十六条の六第二項を除く。)又は法令に基づいてする行政官庁の処分に違反したとき。
 (中略)
 十 金融商品取引業に関し、不正又は著しく不当な行為をした場合において、その情状が特に重いとき。

出典:金融商品取引法 第五十二条第一項|e-Gov 法令検索(法令本文

実務では、日本証券業協会が定める自主規制規則「反社会的勢力との関係遮断に関する規則」で、証券会社が加盟して利用する反社会的勢力データベース(協会DB)への照会を業界共通の義務としています。金商法上の処分規定と、業界の自主規制規則の両輪で反社関連の態勢が担保される構造です。

貸金業者(貸金業法第24条の6の3:業務改善命令/第24条の6の4:登録取消し・業務停止)

貸金業者の処分は、業務改善命令が貸金業法第24条の6の3、登録取消し・業務停止が第24条の6の4に規定されています。銀行・保険・証券と同じく、業務改善命令と重大処分の二段構造です。

第二十四条の六の三 内閣総理大臣又は都道府県知事は、その登録を受けた貸金業者の業務の運営に関し、資金需要者等の利益の保護を図るため必要があると認めるときは、当該貸金業者に対して、その必要の限度において、業務の方法の変更その他業務の運営の改善に必要な措置を命ずることができる。

出典:貸金業法 第二十四条の六の三|e-Gov 法令検索(法令本文

第二十四条の六の四 内閣総理大臣又は都道府県知事は、その登録を受けた貸金業者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該貸金業者に対し登録を取り消し、又は一年以内の期間を定めて、その業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。
 (略)
 二 貸金業の業務に関し法令(略)又は法令に基づく内閣総理大臣若しくは都道府県知事の処分に違反したとき。

出典:貸金業法 第二十四条の六の四|e-Gov 法令検索(法令本文

反社関連では、貸金業者向けの監督指針でも銀行と同型の反社関連セクションが置かれ、暴排条項の徹底・反社データベースの整備・提携ローンにおける入口チェックの強化が求められています。金融庁 平成25年12月26日「反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進について」が業界横断で示した3層フレームワーク(入口・中間管理・出口)は、貸金業者にも適用される想定です。

金融機関の反社関連 行政処分・判例(時系列一覧)

反社関連の態勢不備が実際にどのような処分・責任追及につながるのかは、抽象的なリスク論よりも具体的な実例で押さえる方が社内説明に使えます。ここでは金融機関に対する行政処分の代表例を時系列で示し、民事の損害賠償責任・刑事責任も判例レベルで整理します。

金融機関への行政処分(時系列一覧)

金融庁が公表した金融機関の反社関連の行政処分を、古い順に整理します。処分の正式名称・年月日・根拠条・出所とあわせて示します。

年月日金融機関処分の正式名称・根拠条概要
平成25年9月27日みずほ銀行業務改善命令(銀行法第26条第1項)|金融庁提携ローンにおいて、多数の反社会的勢力との取引が存在することを把握してから2年以上も抜本的な対応を行っていなかったこと、反社との取引が多数存在するという情報も担当役員止まりとなっていること等、経営管理態勢・内部管理態勢・法令等遵守態勢に重大な問題点が認められた
平成25年12月26日みずほ銀行/みずほフィナンシャルグループ業務改善命令+業務の一部停止命令(銀行法第26条第1項)|金融庁9月命令に続く追加処分。4者提携ローンにおける新規の与信取引を平成26年1月20日〜2月19日の間停止することを命令。監督指針Ⅲ-3-1-4-3が想定する「業務改善に要する一定期間に限った業務の一部停止命令」の実例
令和7年10月31日いわき信用組合業務改善命令+新規融資業務停止命令(協金法第6条第1項において準用する銀行法第26条第1項)|金融庁元役員に対するヒアリングで、遅くとも平成4年頃から反社等からの度重なる不当要求に応じて資金提供を行っていたことが判明。反社等への多額現金提供、反社等が所有する法人・親族・紹介者への融資が認められた。反社等との取引を直ちに遮断し、実効性のある管理態勢を確立することが命令内容に含まれる。令和7年11月17日〜12月16日の間、新規顧客に対する融資業務を停止

特にみずほ銀行の平成25年12月26日処分では、命令の内容が次のように明示されました。反社関連の態勢不備で「業務の一部停止命令」まで踏み込んだ、その後の実務に大きな影響を与えた事例です(「4者提携ローン」は、銀行・信販会社・販売店・保証会社の4者による自動車ローン等の提携スキーム)。

【みずほ銀行】(銀行法第26条第1項)
 1.平成26年1月20日(月)から平成26年2月19日(水)までの間、4者提携ローンにおける新規の与信取引を停止すること。
 なお、上記期間において、4者提携ローンに関与する全ての役職員に対する研修を実施するなど、4者提携ローンに関する改善を徹底すること。

出典:みずほ銀行及びみずほフィナンシャルグループに対する行政処分について(平成25年12月26日)|金融庁(公表ページ

直近5年で、金融機関の反社関連を主因とする公表処分は令和7年10月31日のいわき信用組合の1件です(金融庁公表ベース)。処分理由の逐語からは、反社等との関係が長期にわたって放置されていた事実と、それが融資業務の一時停止命令にまで至った事実が読み取れます。

今回検査において、当組合の元役員に対するヒアリングを行ったところ、遅くとも平成4年頃から、当組合に対する反社等からの度重なる不当な要求が繰り返され、これらに応じて資金提供を行っていた旨の説明が得られた。これらを踏まえ今回検査で検証を行ったところ、当組合では、少なくとも、(イ)反社等に対して多額の現金の提供を行っているほか、(ロ)反社等が所有する法人に対する融資や、(ハ)反社等の親族に対する融資、(ニ)反社等から紹介を受けた者に対する融資を行った事案が認められる。

出典:いわき信用組合に対する行政処分について(令和7年10月31日)|金融庁(公表ページ
出典・参考資料(3件)
  • 出典:株式会社みずほ銀行に対する行政処分について(平成25年9月27日)|金融庁(公表ページ
  • 出典:みずほ銀行及びみずほフィナンシャルグループに対する行政処分について(平成25年12月26日)|金融庁(公表ページ
  • 出典:いわき信用組合に対する行政処分について(令和7年10月31日)|金融庁(公表ページ

善管注意義務違反による損害賠償責任(蛇の目ミシン事件)

反社関連の対応を怠った場合、行政処分に加えて取締役の個人責任として損害賠償を負う可能性があります。会社法第330条・民法第644条の善管注意義務、会社法第423条・第429条の任務懈怠責任がその根拠です。代表的な判例が、蛇の目ミシン工業株主代表訴訟事件です。

最高裁判所第二小法廷 平成18年4月10日判決(民集第60巻第4号1273頁)は、上場会社の経営者が反社会的勢力からの不当要求に対して負う対応義務を次のように示しました。

証券取引所に上場され、自由に取り引きされている株式について、暴力団関係者等会社に好ましくないと判断される者がこれを取得して株主となることを阻止することはできないのであるから、会社経営者としては、そのような株主から、株主の地位を濫用した不当な要求がされた場合には、法令に従った適切な対応をすべき義務を有するものというべきである。

出典:最二小判 平成18年4月10日 民集60巻4号1273頁(蛇の目ミシン事件)|判例解説 OIKE LIBRARY No.25(PDF

本判決を受けて事件は差戻し控訴審に移り、そこで元取締役に対して総額583億6千万円余の損害賠償を命じる判決が下されました。個人責任として金融機関の取締役・監査役に対しても同様の理路が及ぶことは、監督指針Ⅲ-3-1-4-2が「組織としての対応」を最初の着眼点に置き、経営陣の関与を求めている背景の一つです。

口座開設をめぐる刑事責任(反社側の詐欺罪と、金融機関の関与リスク)

金融機関側だけでなく、反社側にも刑事責任が及ぶ判例があります。最高裁判所第二小法廷 平成26年4月7日決定(刑集第68巻4号715頁)は、暴力団員が身分を偽って総合口座の開設等を申し込み、通帳・キャッシュカードの交付を受けた行為を、刑法第246条第1項の詐欺罪に当たると判示しました。

暴力団員であるのに暴力団員でないことを表明,確約して銀行の担当者に口座開設等を申し込み,通帳等の交付を受けた行為は,当該銀行において,政府指針を踏まえて暴力団員からの貯金の新規預入申込みを拒絶する旨の約款を定め,申込者に対し暴力団員でないことを確認していたなどの本件事実関係(判文参照)の下では,刑法246条1項の詐欺罪に当たる。

出典:最二小決 平成26年4月7日 刑集68巻4号715頁|RETIO 1257 判例概要(PDF

この決定で重要なのは、「政府指針を踏まえて暴排条項を約款化し、申込者に暴力団員でないことを確認していた」という金融機関側の運用が、詐欺罪の成立要件である「重要事項の欺罔」を基礎付ける前提とされている点です。裏を返すと、暴排条項の整備・申込時の確認プロセスがなければ、反社側の詐欺罪成立は成り立たず、金融機関が事後に契約解除する法的根拠も弱まる、ということになります。

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反社チェックの実務プロセス(タイミング別フロー)

ここまでの法的根拠と処分事例を踏まえ、金融機関の反社チェックが実務でどのように運用されるかを、新規口座開設から契約解除までのタイミング別に整理します。全体構成は、金融庁 平成25年12月26日「反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進について」が示した「入口・中間管理・出口」の3層フレームワークに沿っています。

1.反社との取引の未然防止(入口) ○暴力団排除条項の導入の徹底 ○反社データベースの充実・強化 (各金融機関・業界団体の反社データベースの充実/銀行界と警察庁データベースとの接続の検討加速化) ○提携ローンにおける入口段階の反社チェック強化
2.事後チェックと内部管理(中間管理) ○事後的な反社チェック態勢の強化 ○反社との関係遮断に係る内部管理態勢の徹底
3.反社との取引解消(出口) ○反社との取引の解消の推進 ○預金取扱金融機関による、特定回収困難債権の買取制度の活用促進 ○信販会社・保険会社等による、サービサーとしてのRCCの活用

出典:反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進について(平成25年12月26日)|金融庁(公表ページ

新規口座開設時(取引時確認・実質的支配者確認・反社DB照合・制裁リスト照合)

新規口座開設時は、犯収法第4条第1項に基づく取引時確認からスタートします。個人であれば氏名・住居・生年月日、法人であれば名称・本店所在地に加え、取引目的・職業/事業内容を確認します。法人取引では実質的支配者の確認が加わります。

第四条 特定事業者は、顧客等との間で、(略)特定業務のうち(略)特定取引を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次に掲げる事項の確認を行わなければならない。
 一 本人特定事項(自然人にあっては氏名、住居(略)及び生年月日をいい、法人にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。以下同じ。)
 二 取引を行う目的
 三 当該顧客等が自然人である場合にあっては職業、当該顧客等が法人である場合にあっては事業の内容
 四 当該顧客等が法人である場合において、その事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にあるものとして主務省令で定める者があるときにあっては、その者の本人特定事項

出典:犯罪による収益の移転防止に関する法律 第四条第一項|e-Gov 法令検索(法令本文

この取引時確認と並行して、反社会的勢力データベースへの照合、暴排条項に基づく暴力団員でないことの表明・確約、および必要に応じて制裁リスト(財務省の資産凍結等措置対象者リスト、外為法上の規制対象者、米OFAC・EU・国連の制裁リスト)への照合を行います。全国銀行協会は平成30年1月4日、預金保険機構を介して銀行界から警察庁の暴力団情報データベースへ接続する枠組みを開始しました。

(1)警察庁の暴力団情報データベースへの接続は、預金保険機構を介して実施する。
(2)対象取引は、新規の個人向け融資等とする。
(3)対象者は、個人の融資申込者等とする。

出典:反社会的勢力との関係遮断に向けた対応について(平成30年1月4日)|全国銀行協会(公表ページ

この接続の対象は当初、新規の個人向け融資等に限定されて開始されました。加えて銀行以外の業界団体(貸金業協会・信販協会・生命保険協会・日本損害保険協会など)も自らの反社データベースを整備・拡充しており、業界横断で「入口段階の反社チェック」が実務化されています。

制裁リスト照合の詳細(財務省の資産凍結等措置対象者リスト・外為法規制対象者・OFAC・EU・国連制裁リストの照合手順と対応ツールの選び方)については、以下の記事で個別に整理しています。国際取引や外国送金を扱う金融機関のご担当者は、あわせてご確認ください。

融資審査時(追加のデューデリと反社DB再照合)

融資審査時には、口座開設時の反社チェックとは別に、融資対象者・保証人・借入目的・資金使途の観点で追加のデューデリジェンスを行います。提携ローン(信販会社・住宅ローン保証会社等が仲介するローン)については、みずほ銀行の平成25年12月26日処分を機に、金融機関側でも保証会社任せにせず自ら反社チェック態勢を組むことが徹底されました。

全国銀行協会の平成25年11月14日申し合わせ「反社会的勢力との関係遮断に向けた対応について」でも、提携先の管理態勢の検証・銀行による反社チェック態勢の整備が明記されています。

2.反社会的勢力の水際排除に向けた取組み
 (1)反社データベースの充実・強化
 (2)提携先の管理態勢の検証・対応
 (3)銀行による反社チェック態勢の整備

出典:反社会的勢力との関係遮断に向けた対応について(平成25年11月14日 申し合わせ)|全国銀行協会(公表ページ

実務では、口座開設から時間が経った既往顧客に対する新規融資では、既存の反社DB照合結果の有効期間を定めて再照合するのが一般的です。融資申込があった時点で、直近の反社DB・制裁リスト・行政処分情報を横断的に再チェックし、審査部門で異常が検知されればコンプラ部門・法務部門にエスカレーションします。

継続的顧客管理(定期再照合の頻度・取引モニタリング)

入口・追加審査を通過した既存顧客に対しては、継続的顧客管理として定期的な再照合と取引モニタリングを回します。犯収法第11条は、特定事業者に対して、取引時確認をした情報を最新の内容に保つことと、教育訓練・規程作成・統括管理者の選任等の措置を努力義務として求めています。

第十一条 特定事業者は、取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置(以下この条において「取引時確認等の措置」という。)を的確に行うため、当該取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置を講ずるものとするほか、次に掲げる措置を講ずるように努めなければならない。
 一 使用人に対する教育訓練の実施
 二 取引時確認等の措置の実施に関する規程の作成
 三 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査その他の業務を統括管理する者の選任
 四 その他第三条第三項に規定する犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案して講ずべきものとして主務省令で定める措置

出典:犯罪による収益の移転防止に関する法律 第十一条|e-Gov 法令検索(法令本文

再照合の頻度は、金融庁のマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策ガイドラインが示す高・中・低のリスク区分に応じて設定するのが一般的で、高リスク顧客は年1回程度、中リスクは数年に1回、低リスクはさらに間隔を空ける形で運用されます。取引モニタリングでは、金額・頻度・相手方・仕向国など複数軸で異常検知ルールを設定し、閾値超過や異常パターンが検知されたらSTR(後述)の要否をコンプラ部門で判定します。

継続的顧客管理(ODD)の頻度設計・リスク評価基準・ガイドラインの読み解き方や、運用を効率化する具体的な手法について、より詳しく知りたい場合は以下の記事で解説しています。

疑わしい取引の届出(STR、JAFICへの届出手続き)

取引モニタリング等で反社関連の疑い、または犯罪収益の疑いが認められた場合には、犯収法第8条第1項に基づき、速やかに行政庁へ疑わしい取引の届出(STR)を提出します。金融機関の場合、金融庁が届出先となり、犯罪収益移転防止対策室(JAFIC、警察庁)に集約されます。

第八条 特定事業者(第二条第二項第四十六号から第四十九号までに掲げる特定事業者を除く。)は、特定業務に係る取引について、当該取引において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあるかどうか、又は顧客等が当該取引に関し組織的犯罪処罰法第十条の罪若しくは麻薬特例法第六条の罪に当たる行為を行っている疑いがあるかどうかを判断し、これらの疑いがあると認められる場合においては、速やかに、政令で定めるところにより、政令で定める事項を行政庁に届け出なければならない。

出典:犯罪による収益の移転防止に関する法律 第八条第一項|e-Gov 法令検索(法令本文

金融庁は、金融機関がSTRの要否を判断するために特に注意を払うべき取引の類型を「疑わしい取引の参考事例(預金取扱い金融機関)」として公表しています。第1「現金の使用形態に着目した事例」、第2「真の口座保有者を隠匿している可能性に着目した事例」、第3「口座の利用形態に着目した事例」のカテゴリで、実際の取引パターンごとに具体例が列挙されており、社内の判定基準を組み立てる際の起点になります。

なお、犯収法第8条第4項は、STRを行おうとしていること、または行ったことを、当該顧客等または関係者に漏らしてはならないと定めています(いわゆるtipping-off禁止)。届出プロセスの中で顧客対応担当者に対しても、届出の事実自体を顧客に伝えないよう社内ルールで徹底する必要があります。

反社発覚時の口座解約・契約解除(暴排条項の発動と警察・暴追センターとの連携)

反社会的勢力に該当する事実が確認された場合、預金規定・約款に定めた暴排条項に基づいて口座解約・契約解除を進めます。金融機関の預金規定に組み込まれる暴排条項は、全国銀行協会が公表するモデル条項をベースにしており、詳細は本記事の「暴排条項のモデル条文」節で示します。

解約・解除に際しては、反社対応の一元管理部署(監督指針Ⅲ-3-1-4-2の着眼点の②)が主導し、外部専門機関(警察、暴力団追放運動推進センター、弁護士など)と連携します。企業暴排指針の基本原則も「外部専門機関との連携」「有事における民事と刑事の法的対応」を挙げており、金融機関が単独で反社と直接対峙することは避け、専門機関と連携した対応が求められます。

回収困難となった債権については、金融庁 平成25年12月26日文書が示すとおり、預金取扱金融機関による特定回収困難債権の買取制度、信販会社・保険会社等によるサービサーとしてのRCC活用など、出口フェーズ固有の枠組みも用意されています。

誤検知・同姓同名判別・グレーゾーン判定と過剰排除の是正

反社チェックの実務で最も現場を悩ませるのが、シロクロがはっきりつかないグレーゾーン案件の扱いです。反社DBのヒットが同姓同名の別人だった、疑いはあるが警察情報では確認できない、元暴力団員だが離脱から相当期間が経過している——といった案件で、金融機関が過剰排除に振れると、正当な取引まで断ることになり顧客保護の観点で問題が生じます。金融庁も過剰排除の是正について明確な見解を示しています。

同姓同名判別を含む判別基準とエスカレーションフロー

反社DBやニュース検索でのヒットは、そのまま「反社に該当」と判定できるものではありません。判別の基準としては、企業暴排指針が示す「属性要件」(暴力団・関係企業・総会屋・特殊知能暴力集団などの類型に該当するか)と「行為要件」(暴力的要求・不当要求などを実際に行っているか)の二軸で判定するのが基本形です。情報源の信頼度(警察情報・全国紙報道・業界共有DB・SNS投稿の順で信頼度が変わる)も勘案します。

同姓同名判別では、生年月日・住所履歴・所属企業・親族関係など、氏名以外の識別情報を組み合わせて別人であることを確認します。ツール機能面での対応(生年月日検索・名寄せ・重複排除など)は後述の「金融機関向け反社チェック・AMLツールと体制整備」節で扱います。

グレーゾーン案件が発生した場合のエスカレーションフローは、実務部門→反社対応の一元管理部署(コンプラ部門)→法務部門→必要に応じて外部の弁護士・警察・暴力団追放運動推進センターの順で組むのが一般的です。監督指針Ⅲ-3-1-4-2の着眼点②「反社会的勢力対応部署による一元的な管理態勢の構築」は、この一元管理部署を明確に置くことを求めています。

過剰排除の是正(元暴力団員・生活口座・グレー案件を一律排除しない当局見解)

金融庁は、反社と断定できない案件について金融機関が一律に契約解除等の措置を講じることは求めていません。平成26年6月4日公表の「反社会的勢力への対応に係る監督指針等の一部改正案に対するパブリックコメントの結果等について」で、No.77として次の見解を明示しています。

(コメント)金融機関において契約当事者が反社会的勢力に該当するとの疑いを認知したものの、警察から当該契約当事者が反社会的勢力に該当する旨の情報提供が得られず、かつ、他に当該契約当事者が反社会的勢力に該当すると断定するに足りる情報を入手し得なかった場合に、期限の利益の喪失等の特段の措置を講じないことは必ずしも利益供与となるものではなく、また、必ずしも金融機関の業務の適切性が害されていると評価されるものではないと解されるが、そのような理解でよいか。
(金融庁の考え方)ご指摘の場合は、様々な手段を尽くしたものの反社会的勢力であると判断できなかった場合と理解されますので、ご理解のとおりと考えます。

出典:反社会的勢力への対応に係る監督指針等の一部改正案に対するパブリックコメントの結果等について 別紙1 No.77(平成26年6月4日)|金融庁(PDF

この見解の要点は、「様々な手段を尽くしても反社と判断できなかった場合、期限の利益喪失等の特段の措置をとらなくとも、業務の適切性が害されると評価されるものではない」という点にあります。反社疑いを認知した時点で機械的・一律に取引を打ち切ることは、当局の求める運用ではないという理解が現場で必要です。

判断できない案件については、判定根拠・調査経過・情報源を記録に残し、後日の当局検査で「様々な手段を尽くしたこと」を説明できる状態にしておくことが、過剰排除と態勢不備の両方を避ける実務対応になります。

離脱者(いわゆる元暴力団員)の扱いについては、全国銀行協会の暴排条項参考例が「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」を排除対象に含める、いわゆる元暴5年条項を採用しています。逆に言えば、離脱から5年を超えている元暴力団員については、暴排条項による自動的な排除対象ではなくなります。

生活口座(給与振込・年金受給・公共料金引落しなど基本的生活に不可欠な口座)についても、暴排条項参考例が排除対象を「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」に限定していることから、離脱後5年を超える元暴力団員は暴排条項による自動的な排除対象からは外れます。

記録保存と個人情報保護法との整合(照会履歴・判定根拠の保存)

反社チェックの照会履歴・判定根拠は、犯収法第6条の確認記録および第7条の取引記録として、契約終了日等から7年間の保存義務があります。

第六条 特定事業者は、取引時確認を行った場合には、直ちに、主務省令で定める方法により、当該取引時確認に係る事項、当該取引時確認のためにとった措置その他の主務省令で定める事項に関する記録(以下「確認記録」という。)を作成しなければならない。
2 特定事業者は、確認記録を、特定取引等に係る契約が終了した日その他の主務省令で定める日から、七年間保存しなければならない。

出典:犯罪による収益の移転防止に関する法律 第六条|e-Gov 法令検索(法令本文

第七条 特定事業者(次項に規定する特定事業者を除く。)は、特定業務に係る取引を行った場合には、少額の取引その他の政令で定める取引を除き、直ちに、主務省令で定める方法により、顧客等の確認記録を検索するための事項、当該取引の期日及び内容その他の主務省令で定める事項に関する記録を作成しなければならない。
(第2項略)
3 特定事業者は、前二項に規定する記録(以下「取引記録等」という。)を、当該取引又は特定受任行為の代理等の行われた日から七年間保存しなければならない。

出典:犯罪による収益の移転防止に関する法律 第七条|e-Gov 法令検索(法令本文

この記録は、後日の当局検査でグレーゾーン判定の妥当性を説明する根拠となるため、判定した年月日・情報源・判定者・エスカレーション経路まで含めて残しておくことが実務的に推奨されます。

個人情報保護法との整合について、金融庁は同じ平成26年6月4日パブコメのNo.27で、次のように示しています。

本監督指針で共有するよう努めることとされているのは、反社会的勢力に関する情報であって、これに該当しない者の情報の共有までを求めているものではありません。
なお、ご指摘のいわゆる不芳情報がいかなる情報までを含むものか明らかではなく、一律に判断することはできません。ただし、金融機関の役職員の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合、業務妨害行為を行う悪質者等に係る情報については個人情報の保護に関する法律(平成15年5月30日法律第57号)第23条第1項第2号に該当するものと考えられます(金融分野における個人情報保護に関するガイドライン第13条第1項第2号ご参照)。

出典:反社会的勢力への対応に係る監督指針等の一部改正案に対するパブリックコメントの結果等について 別紙1 No.27(平成26年6月4日)|金融庁(PDF

反社関連情報のグループ間共有については、個人情報保護法第23条第1項第2号(人の生命・身体・財産の保護に必要がある場合)に該当するものとして、本人同意なしに共有可能な運用が当局から示されています。これは反社チェックの実務で本人同意を得ることが現実的でないケースに対応するもので、社内規程・グループ内規程を整備する際の根拠となります。

暴排条項のモデル条文(金融機関の預金規定・約款)

反社関連の契約解除の実効性を担保するには、預金規定・当座勘定規定・融資契約・保証契約などに暴排条項を組み込む必要があります。金融機関で標準的に採用されているのは、全国銀行協会が平成23年6月2日に公表した「融資取引および当座勘定取引における暴力団排除条項参考例」です。ここでは銀行取引約定書に盛り込む暴排条項の逐語を確認します。

全銀協モデル条項の逐語(属性要件・行為要件・契約解除条項)

全銀協モデルは、属性要件(第1項)と行為要件(第2項)の二軸で表明・確約を求める構造となっており、企業暴排指針の枠組みと整合します。

第○条(反社会的勢力の排除)
① 私または保証人は、現在、暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下これらを「暴力団員等」という。)に該当しないこと、および次の各号のいずれにも該当しないことを表明し、かつ将来にわたっても該当しないことを確約いたします。
 1.暴力団員等が経営を支配していると認められる関係を有すること
 2.暴力団員等が経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること
 3.自己、自社もしくは第三者の不正の利益を図る目的または第三者に損害を加える目的をもってするなど、不当に暴力団員等を利用していると認められる関係を有すること
 4.暴力団員等に対して資金等を提供し、または便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有すること
 5.役員または経営に実質的に関与している者が暴力団員等と社会的に非難されるべき関係を有すること
② 私または保証人は、自らまたは第三者を利用して次の各号の一にでも該当する行為を行わないことを確約いたします。
 1.暴力的な要求行為
 2.法的な責任を超えた不当な要求行為
 3.取引に関して、脅迫的な言動をし、または暴力を用いる行為
 4.風説を流布し、偽計を用いまたは威力を用いて貴行の信用を毀損し、または貴行の業務を妨害する行為
 5.その他前各号に準ずる行為

出典:融資取引および当座勘定取引における暴力団排除条項参考例の一部改正について 別紙1(平成23年6月2日)|全国銀行協会(PDF

第1項は、本人・保証人が「暴力団員等」(属性要件)に該当しないこと、および経営支配・経営関与・不正利益目的の利用・資金等の提供・非難されるべき関係のいずれにも該当しないことの表明・確約を求めています。「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」を排除対象に含める、いわゆる元暴5年条項がここに明記されています。

第2項は行為要件で、暴力的要求・不当要求・脅迫・偽計・威力による信用毀損などを行わないことの確約を求めます。表明・確約に違反した場合には、期限の利益の喪失や買戻請求権など、金融機関側が契約を打ち切るための法的根拠がモデル条項の第3項以下に規定されています。

自行の預金規定・当座勘定規定・融資契約書がこのモデルの内容を満たしているか、特に「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」(元暴5年)、「経営支配・経営関与・不正利益目的の利用・資金等の提供」(属性関連の5要件)、「暴力的要求・不当要求・脅迫・偽計・威力による信用毀損」(行為要件の5要件)が漏れなく規定されているかを、社内で突き合わせることが実務のチェックポイントになります。

保険会社・証券会社の暴排対応の骨格(銀行モデルとの共通点・差分)

保険会社は、生命保険協会・日本損害保険協会が業界横断の反社排除条項の参考例を整備し、契約者・被保険者・保険金受取人が反社会的勢力に該当する場合の契約解除・保険金支払拒絶を条件化しています。属性要件・行為要件の二軸に基づく骨格は銀行と共通で、保険業固有の要素として保険金支払審査を通じた反社関与検知のプロセスまで実務化するのが特徴です。

証券会社は、日本証券業協会が「反社会的勢力との関係遮断に関する規則」(自主規制規則)で、加盟会員が協会DBへの照会等を通じて反社チェックを行うことを義務化しています。証券口座開設時の契約書・約款には、反社に該当する場合の口座開設拒絶・強制解約の条項が組み込まれており、上場審査・エクイティファイナンス案件では、対象企業の株主・関係者に対する追加的な反社チェックまで態勢に組み込むのが実務です。

金融機関向け反社チェック・AMLツールと体制整備

ここまで整理してきた当局要件・実務プロセス・グレーゾーン判定を、実際にどのような機能で担保するかを整理します。金融機関の反社チェックは、警察庁の暴力団情報照会システム、業界団体の共有反社データベース、民間反社DB、新聞記事データベース、AIモニタリング、制裁リスト照合ツールといった機能を組み合わせて構築するのが一般的です。それぞれの機能軸で、要件との対応関係を確認していきます。

警察庁の暴力団情報照会システム(照会要件・対象金融機関・利用手続き)

警察庁が保有する暴力団情報データベースへの照会は、金融機関側から預金保険機構を介して接続する枠組みで運用されています。全国銀行協会が平成30年1月4日に公表した接続開始時点では、対象取引が「新規の個人向け融資等」、対象者が「個人の融資申込者等」に限定されて開始されました。

銀行界からの照会は預金保険機構を経由する枠組みで、個別の金融機関が警察庁に直接接続する形ではありません。実務では、警察庁DBは「最終的な確度の高い照会先」として位置付けられ、民間反社DB・新聞記事DBでの一次スクリーニングでヒットまたはグレー判定となった案件について、追加確認として利用するのが一般的です。

警察庁DBに全案件を照会する運用は、預金保険機構の処理容量・費用面からも現実的でなく、階層化されたスクリーニングの終点として利用されます。

民間反社DB・新聞記事DB・AIモニタリング・制裁リスト照合ツールの機能軸整理

民間の反社チェックツールは、機能軸で整理すると次の5類型に分けられます。金融機関のユースケースでは、複数の機能を組み合わせて態勢を組みます。

  • 反社データベース照合:業界団体または事業者が独自に整備した反社関連情報のデータベースを検索します。反社関連の報道・行政処分・訴訟情報を集約したもので、事業者ごとに収録範囲・更新頻度が異なります。犯収法第4条の取引時確認・監督指針の事前審査に対応します
  • 新聞記事データベース照合:全国紙・地方紙・業界紙の記事データベースを氏名・企業名で検索し、反社関連の報道が存在するかを確認します。日経テレコン・ELNET・G-Searchなどの汎用ニュースDBが利用されます。反社DBに未収録の最新事象や、判定根拠の裏づけとして活用します
  • 制裁リスト・PEPs照合:財務省の資産凍結等措置対象者リスト、外為法上の規制対象者、米OFAC・EU・国連の制裁リスト、および外国要人(PEPs:Politically Exposed Persons)リストへの照合を行います。犯収法第10条のトラベル・ルール、AML/CFTガイドラインの制裁対応に対応します。国際展開する金融機関では必須機能です
  • 継続モニタリング・アラート:初回照合で問題なしと判定した既存顧客について、反社DB・新聞DB・制裁リストの更新差分を自動検知し、新規ヒットがあればアラートを発する機能です。犯収法第11条の「情報を最新に保つ措置」および監督指針の事後検証に対応します
  • 記録保存・調査証跡・API連携:照会履歴・判定根拠・エスカレーション経路をシステム上で自動保存し、犯収法第6条・第7条の7年保存義務および当局検査への説明責任に対応します。既存の基幹システム・CRM・ローン審査システムとAPI連携できるかは、大量スクリーニングを回すうえでの実装コストを左右します

金融機関の選定では、この5類型のうちどの機能を組み合わせるかを、業態と規模、既存の内部管理態勢に照らして決めます。単一のツールで全機能を賄うのは難しく、反社DB+新聞DB+制裁リスト照合を別ベンダーで組む、あるいは複数機能を統合したプラットフォームを軸に足りない部分を補完する、といった組合せが一般的です。

金融機関の反社チェックを支援する主要サービス

ここからは、金融機関の当局要件(AML/CFT・制裁リスト/PEPs照合・大量スクリーニング・継続的顧客管理・記録保存)に応える機能を持つサービスを紹介します。まず比較表で全体像を示し、その後にサービスごとに機能・特徴を解説します。

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サービス名RiskAnalyzeRISK EYESRoboRoboコンプライアンスチェックSansan リスクチェックSP RISK SEARCH日経リスク&コンプライアンスJCIS WEB DB Ver.3RiskdogDQ反社チェック
制裁リスト・PEPs対応海外PEPs・制裁リスト+国内PEPs追加日米制裁リスト対応(PEPsは公式明示なし)LSEG World-Check連携(PEPs・制裁リスト)LSEG World-Check・各国制裁リスト海外制裁リスト・PEPs(info4c AG連携)各国制裁リスト・PEPs(200カ国・22職種・親族関係含む)海外リスク検索でPEPs 140万件超(ARI社提携)制裁対象・PEPsデータ 30万件riskey Globalで制裁リスト・PEPs対応
継続モニタリング公式明示なしリスクアラート(懸念度5段階)・差分検索公式明示なし一括再チェック機能公式明示なしウォッチリスト24/365更新・TPRMで一元管理再検索1年以内無料(アラート機能は明示なし)即時アラートリスクアラート・スケジュール検索(riskey)
大量スクリーニングCSV一括1,000件を約1分一括検索(リストアップロード、最短2営業日で予約)Excel一括登録・1クリック検索Sansan保有の取引先データを一括再照合個人法人一括検索 最大20,000件マネージドサービスで一括照合・DDR代行CSV最大5,000件/API即時検索公式明示なし(API連携で対応)riskey BulkCheck(目安500件〜)
主なデータソース国内約1,000媒体(1時間おき更新)
海外240カ国以上
WEB記事・新聞35年遡及
掲示板・日米制裁リスト
アンチソーシャルDB(2015年〜)
SPネットワーク反社DB
LSEG World-Check・官報DB
海外約190カ国540万件
LSEG(旧Refinitiv)World-Check
KYCコンサル・各国制裁リスト
独自DB(QSS 60万件)
新聞1960年以降
ネット風評・info4c AG(海外)
日経テレコン(1975年〜)
ダウ・ジョーンズ400万件超
OFAC対象5.4万社・国有企業29.7万社
自社DB・全国紙/地方紙
ARI社海外約500万件
PEPs 140万件超
行政処分2万件・訴訟12万件
許認可500万件・SNS数億件
過去30年分
WEB・新聞・判例・官報
世界調査業協会ネットワーク(海外)
API連携API/OEM無料20,000〜70,000円Sansan本体のAPI仕様に準ずる仕様は要問い合わせデータフィード/API提供即時検索のみ対応要問い合わせ公式明示なし
情報セキュリティ認証ISO/IEC 27001:2022(2025年7月取得)公式明示なしISMS準拠(正式認証は未確認)公式明示なしプライバシーマーク取得公式明示なしプライバシーマーク取得ISO/IEC 27001(Baseconnect社取得)公式明示なし
料金体系初期費用無料
月額27,500円〜(年間600検索)
初期費用無料
月額15,000円〜(税別)+300円/検索
初期費用無料
従量250円/件〜(インターネット検索)
要問い合わせ
Sansan本体のオプション機能
要問い合わせ
会員制
要問い合わせ
ID利用料+検索単価×件数(1年契約)
初期費用無料
年間ID利用料+従量(要見積もり)
要問い合わせ
最低契約12ヶ月
初期費用無料
従量500円/件〜(一括)/月額10,000円〜(riskey)
詳細情報公式資料を見る公式資料を見る公式資料を見るサービス詳細を見るサービス詳細を見るサービス詳細を見るサービス詳細を見るサービス詳細を見るサービス詳細を見る

上記は金融機関の実務要件(AML/CFT・制裁リスト/PEPs対応・大量スクリーニング・継続的顧客管理)に応える9サービスの比較です。業態や導入検討の段階によっては、金融機関以外の用途も含めた反社チェックツール全般を、料金・データソース・精度の観点で横並びに見たいこともあります。以下の記事で主要16サービスを網羅比較していますので、あわせてご参照ください。

1. RiskAnalyze(KYCコンサルティング株式会社)

RiskAnalyzeのウェブサイト

KYCコンサルティング株式会社が提供する、金融機関のAML/CFT対応を軸にした反社チェック・コンプライアンススクリーニングツールです。海外PEPsおよび制裁リスト情報に加え、国内のPEPs情報も追加で保有し、金融機関の国際取引・国内取引の双方に対応する構成となっています。

大量スクリーニングでは、CSVでの一括アップロードにより1,000件を約1分で処理でき、既存顧客の一括再照合など金融機関の継続的顧客管理のユースケースに応えます。調査証跡はクラウド上に7年間自動保存され、犯収法第7条の取引記録保存義務に直結する構成です。

公式サイトが訴求する国立大学との共同開発AI(具体の大学名は非公表)によるノイズ除去、API/OEM連携(無料)でCRM・基幹システムへの組込にも対応します。

ISO/IEC 27001:2022を取得しており、金融機関の情報セキュリティ調達基準にも整合しやすい構成です。

2. RISK EYES(ソーシャルワイヤー株式会社)

RISK EYESのウェブサイト

日米制裁リスト検索に対応する反社チェックツールで、金融機関の制裁対応・継続的顧客管理を支える機能を備えています。差分検索と5段階のリスクアラートで継続モニタリングを自動化し、一括検索(リストアップロード)と最短2営業日での予約対応で大量チェックにも対応します。

独自に整備するアンチソーシャルDBは2015年以降の反社報道を独自収集する構成で、懸念度ラベリングでノイズを抑えます。生年を検索条件に含めた検索が可能で、金融機関のグレーゾーン判定で必須となる同姓同名判別の実務に応えます。制裁リスト対応・継続モニタリング・大量チェックの3点を1ツールで賄いたい金融機関に向く構成です。

3. RoboRoboコンプライアンスチェック(オープン株式会社)

ロボロボコンプライアンスチェックのウェブサイト

SBI証券が「上場企業に求められるコンプライアンスチェックに必要な要件」の観点で監修に関与している反社チェックツールで、上場審査基準を反映した設計となっています。

データソースはLSEG(旧Refinitiv)のWorld-Check、SPネットワークの反社DB、官報データベース等と連携しており、World-Checkは金融機関のAMLスクリーニングで広く採用されているソースです。

海外情報データベースは約190カ国・540万件をカバーし、AIによる注目度3段階(高・中・低)の自動判別と、生成AI/LLMによる記事要約・解析で判定効率を高めます。多要素認証(MFA)・IPアドレス制限などのセキュリティ機能も備えます。World-Check連携が要件となる金融機関のAMLスクリーニングに向く選択肢です。

4. Sansan リスクチェック(Sansan株式会社)

Sansanリスクチェックのウェブサイト

Sansan本体が保有する名刺・取引先データを母集団に、LSEG(旧Refinitiv、World-Check等)とKYCコンサルティングの2系統データベースを連携して、反社・マネロン・テロ資金供与を自動照合するオプション機能です。2022年に各国制裁リストがスクリーニング対象に追加され、金融機関のAML/CFT要件にも対応する構成となりました。

特徴的なのは、名刺・取引先データを母集団としてまとめて再照合できる点です。金融機関で既存顧客ベースの継続的顧客管理・一括再チェックを回す際、Sansanで管理している取引先データにそのままリスクチェックを走らせる運用が可能になります。Sansan本体の契約が前提のオプション機能である点は、選定時に確認しておく必要があります。

SP RISK SEARCHのウェブサイト

株式会社エス・ピー・ネットワークが提供する反社チェックツールで、独自の反社関連情報データベース(QSS=Quickスクリーニング・システム)を核に構成されています。QSSの提供開始時(2019年8月時点)には「金融機関や証券会社をはじめとする約600社の会員企業」に情報を提供していると公式に言明されていました。

海外コンプライアンスチェック(2021年追加)で制裁リスト・PEPsリスト・AML/CFT・贈賄リスクに対応し、情報統合はinfo4c AGとの連携で行っています。

個人法人一括検索は最大20,000件まで対応し、金融機関の大量スクリーニングに用いられます。新聞記事アーカイブは1960年以降まで遡ることができ、EDD(強化本人確認)で過去の関与情報を確認する用途にも使えます。プライバシーマークを取得しています。

6. 日経リスク&コンプライアンス(株式会社日本経済新聞社)

日経リスク&コンプライアンスのウェブサイト

ダウ・ジョーンズ提携のグローバルウォッチリスト400万件超、PEPs(200カ国・22職種・親族関係含む)、各国制裁リスト、OFAC対象企業5.4万社、国有企業29.7万社を24時間365日更新する構成で、AML・経済安全保障・M&Aデューデリを公式にユースケースとして明示しています。導入企業として伊予銀行・内藤証券などの金融機関実績が公表されています。

TPRM(サードパーティリスク管理)プラットフォームで取引先リスクを一元管理でき、マネージドサービスによる一括照合・DDR(Due Diligence Report)代行も提供します。Dow Jones系のグローバルウォッチリストは国内金融機関のAMLスクリーニングでも活用されており、国際取引や海外関係の顧客が多い金融機関に適合します。

7. JCIS WEB DB Ver.3(日本信用情報サービス株式会社)

JCIS Web DBのウェブサイト

事業内容としてKYC・eKYC・AMLコンサルティングを明示しており、金融機関の顧客管理・実質的支配者確認と接続しやすい構成です。海外リスク検索ではARI社との提携により約500万件、PEPsデータは140万件超をカバーします。

年間検索780万件、CSV一括で最大5,000件、API即時検索での連携で大量スクリーニングに対応します。同一性確認コンサルティング(誤検知抑制・グレーゾーン判定)を提供する点、契約1年・再検索1年以内無料という継続モニタリング前提の料金設計、プライバシーマーク取得と警察庁協力企業としての位置付けなど、金融機関実務との整合性が高い構成です。

AML/KYCコンサルティング・PEPs対応・大量スクリーニング・同一性確認の4機能を1つのプラットフォームで提供します。

8. Riskdog(Baseconnect株式会社)

Riskdogのウェブサイト

Baseconnect株式会社が2025年1月にリリースした反社チェックツールで、公式に「金融業界を中心に多くのお客様にご利用いただいております」と位置付けています。PEPs・制裁リストデータを保有し、行政処分2万件・訴訟12万件・許認可500万件・SNS投稿数億件を統合して検索対象としています。

過去30年分のデータを収録し、スコアリング・ピックアップ・名寄せ・生成の4種のAIで判定を補助します。役員・親会社・子会社の関係を自動追跡できる点はEDD相当の機能で、法人取引の実質的支配者確認と親和します。継続モニタリングと即時アラートに対応し、Baseconnect社としてISO/IEC 27001を取得しています。

「金融業界中心」を公式に位置付けており、リリースから間もない新規サービスであることも含めて、既存ツールとあわせて比較検討する候補になります。

9. DQ反社チェック(株式会社ディークエストホールディングス)

DQ反社チェックのウェブサイト

riskey Globalで制裁リスト・PEPsリスト・現地メディア・判例までカバーするサービスで、AML/CFT・国際取引の要件対応が可能です。riskey DeepSearchは聞き取り調査を含む深度で、EDD(強化本人確認)の実務にも応えます。

専門調査員の目視精査でノイズ除去・同姓同名判別に対応する点は、金融機関のグレーゾーン判定の実務課題と接続します。反社チェックサービス自体はサービス開始から20年、運営会社は一般社団法人 日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)の事務局を担っています。riskey本体でリスクアラート・モニタリング機能を提供します。

制裁リスト/PEPs対応の海外オプションと聞き取りDDの深度で、金融機関のEDDに対応します。

まとめ

金融機関の反社チェックは、犯収法上の特定事業者としての義務(取引時確認・7年保存・STR)、業態別4指針の反社関連セクション(Ⅲ-3-1-4/Ⅱ-3-1-4/Ⅱ-4-9/Ⅲ-2-11)、都道府県暴排条例、業法上の処分規定(銀行法26/27条・保険業法132/133条・金商法51/52条・貸金業法24条の6の3/4)が重層的な根拠となります。

一般企業の努力義務レベルとは異なる高い水準が求められ、態勢不備は業務改善命令から業務停止までの処分につながる可能性があります。

実務では、新規口座開設時の取引時確認・反社DB照合・制裁リスト照合から始まり、融資審査時の追加デューデリ、継続的顧客管理での定期再照合、STR、反社発覚時の暴排条項発動と外部専門機関連携までの一気通貫フローを、金融庁 平成25年12月26日の3層フレームワーク(入口・中間管理・出口)に沿って回します。

過剰排除の是正・同姓同名判別・グレーゾーン判定については、金融庁 平成26年6月4日パブコメの見解を踏まえ、判定根拠と情報源を記録に残しながら実務対応することが求められます。

これらの実務要件を機能で担保するには、警察庁DB・業界共有DB・民間反社DB・新聞記事DB・AIモニタリング・制裁リスト照合の各機能を組み合わせた態勢を組み立てる必要があります。単一ツールで全機能を賄うのは難しいため、自業態・規模・既存の内部管理態勢に応じて、複数ツールの組合せかプラットフォーム+補完ツールの構成を検討してください。

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よくある質問(FAQ)

Q. 金融機関の反社チェックとは何ですか?

A. 金融機関の反社チェックは、取引相手が反社会的勢力に該当しないかを判定・記録する内部管理措置です。犯収法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)と金融庁監督指針の要件に沿って、暴力団・暴力団関係企業・総会屋・特殊知能暴力集団などを対象にチェックします。

一般企業が都道府県暴排条例上の努力義務として行うレベルとは異なり、金融機関は犯収法第2条第2項の「特定事業者」として、取引時確認(第4条)、確認記録および取引記録の7年保存(第6条・第7条)、疑わしい取引の届出(第8条)を法令上の義務として負っています。

これに加えて、業態別4つの金融庁監督指針(主要行等 Ⅲ-3-1-4/中小・地域金融機関 Ⅱ-3-1-4/保険会社 Ⅱ-4-9/金融商品取引業者等 Ⅲ-2-11)が求める内部管理態勢の整備(一元管理部署、事前審査、事後検証、取引解消への取組みなど)が上乗せされる構造です。

Q. 金融機関の反社チェックは、金融庁監督指針のどこに書かれていますか?

A. 金融機関の反社チェック要件は業態別4指針で規定されています。「反社会的勢力による被害の防止」セクションに、意義・主な着眼点・監督手法および対応の3層構成で示されています。

該当箇所は、主要行等向け Ⅲ-3-1-4、中小・地域金融機関向け Ⅱ-3-1-4、保険会社向け Ⅱ-4-9、金融商品取引業者等向け Ⅲ-2-11 の4か所です。

主な着眼点は、①組織としての対応、②反社会的勢力対応部署による一元的な管理態勢の構築、③適切な事前審査の実施、④適切な事後検証の実施、⑤反社会的勢力との取引解消に向けた取組み、⑥反社会的勢力による不当要求への対処、⑦株主情報の管理の7項目で、業態を横断してほぼ共通します。保険会社向けは、これに「保険金支払審査の実施」が独自の着眼点として加わります。

Q. 銀行・保険・証券・貸金業で、金融機関の反社チェック要件はどう違いますか?

A. 監督指針上の着眼点はほぼ共通ですが、処分の根拠条文と業態固有の実務要件が異なります

処分の根拠条文は、銀行が銀行法第26条(業務改善命令)・第27条(業務停止・免許取消し)、保険会社が保険業法第132条・第133条、金融商品取引業者が金商法第51条・第52条第1項、貸金業者が貸金業法第24条の6の3・第24条の6の4です。信用金庫・信用組合には信用金庫法・協金法(協同組合による金融事業に関する法律)が銀行法を準用します。

業態固有の実務要件としては、保険会社は保険金支払時の再チェック(監督指針Ⅱ-4-9 の独自項目)、証券会社は日本証券業協会の自主規制規則「反社会的勢力との関係遮断に関する規則」に基づく協会DBへの照会、貸金業者は提携ローンにおける入口段階の反社チェックの徹底が求められます。

Q. 金融機関は警察庁の暴力団情報データベースに直接照会できますか?

A. 銀行界からの照会は預金保険機構を介する枠組みで運用され、個別の金融機関が警察庁に直接接続する形ではありません

全国銀行協会が平成30年1月4日に公表した接続開始時点では、対象取引が「新規の個人向け融資等」、対象者が「個人の融資申込者等」に限定されていました(対象は以降段階的に拡大)。

実務上、警察庁DBは「最終的な確度の高い照会先」として位置付けられ、民間反社DB・新聞記事DBでの一次スクリーニングでヒットまたはグレー判定となった案件について、追加確認として利用する階層化されたスクリーニングの終点として運用されます。全案件を警察庁DBに照会する運用は、処理容量・費用面から現実的ではありません。

Q. 金融機関の継続的顧客管理では、既存顧客の反社チェックをどのくらいの頻度で行う必要がありますか?

A. 犯収法第11条は「取引時確認をした情報を最新に保つ措置」を求めていますが、一律の再照合頻度は法令に定められていません。金融庁のマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策ガイドラインが示す高・中・低のリスク区分に応じて設定するのが実務の一般形です。

一般的な運用では、高リスク顧客は年1回程度、中リスク顧客は数年に1回、低リスク顧客はさらに間隔を空ける形で回します。あわせて、金額・頻度・相手方・仕向国など複数軸の異常検知ルールで取引モニタリングを走らせ、閾値超過や異常パターンが検知されたらSTR(疑わしい取引の届出)の要否をコンプライアンス部門で判定します。

既往顧客への新規融資では、既存の反社DB照合結果の有効期間を定めて、融資申込時点で反社DB・制裁リスト・行政処分情報を横断的に再照合する運用が一般的です。

Q. 金融機関は暴力団を離脱した元暴力団員でも、一律に取引を断らなければならないのですか?

A. 全国銀行協会のモデル暴排条項は「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」(いわゆる元暴5年)を排除対象に含めており、離脱から5年を超えている元暴力団員は暴排条項による自動的な排除対象からは外れます

また金融庁は、平成26年6月4日公表の「反社会的勢力への対応に係る監督指針等の一部改正案に対するパブリックコメントの結果等について」別紙1 No.77 で、「様々な手段を尽くしたものの反社会的勢力であると判断できなかった場合に、期限の利益喪失等の特段の措置を講じないことは、必ずしも金融機関の業務の適切性が害されると評価されるものではない」との見解を明示しています。

反社疑いを認知した時点で機械的・一律に取引を打ち切ることは当局の求める運用ではなく、判定根拠・調査経過・情報源を記録に残しながら実務対応することが、過剰排除と態勢不備の両方を避ける実務対応になります。生活口座(給与振込・年金受給・公共料金引落しなど)についても、犯罪利用の疑いが具体的にない限り、離脱者に対して一律に解約を求めることは想定されていません。

Q. 金融機関の反社DB照合で同姓同名の別人がヒットした場合、どう判別すればよいですか?

A. 氏名以外の識別情報(生年月日・住所履歴・所属企業・親族関係など)を組み合わせて別人であることを確認し、あわせて情報源の信頼度(警察情報・全国紙報道・業界共有DB・SNS投稿の順で信頼度が変わる)を勘案して判定します。

反社チェックツールでも、生年を検索条件に含める機能や、氏名の名寄せ・重複排除機能、AIによるノイズ除去や懸念度ラベリング機能を持つものが増えており、この機能の有無が金融機関ユースケースの選定ポイントの一つです。

判別できずグレーゾーンとなった案件は、実務部門→反社対応の一元管理部署(コンプラ部門)→法務部門→必要に応じて外部の弁護士・警察・暴力団追放運動推進センターの順でエスカレーションし、判定根拠と調査経過を犯収法第6条・第7条の記録として保存します。監督指針Ⅲ-3-1-4-2 の着眼点②「反社会的勢力対応部署による一元的な管理態勢の構築」は、この一元管理部署を明確に置くことを求めています。

Q. 金融機関が疑わしい取引の届出(STR)を行う際、顧客に届出の事実を伝えてもよいのですか?

A. 犯収法第8条第4項がtipping-off禁止を定めており、顧客に届出の事実を伝えることはできません。同項は、STRを行おうとしていること、または行ったことを当該顧客等または関係者に漏らすことを禁じています。

社内ルールとしても、届出プロセスに関与しない顧客対応担当者(窓口・営業)に対しても、届出の事実そのものを顧客に伝えないよう徹底する必要があります。

届出そのものは犯収法第8条第1項に基づき、収受した財産が犯罪収益である疑い、または顧客が組織的犯罪処罰法第10条・麻薬特例法第6条の罪に当たる行為を行っている疑いを認めた場合に、行政庁(金融機関の場合は金融庁)へ速やかに提出し、JAFIC(犯罪収益移転防止対策室、警察庁)に集約されます。

金融庁が公表している「疑わしい取引の参考事例(預金取扱い金融機関)」は、届出要否の判定基準を組み立てる際の起点になります。

Q. 金融機関の反社チェックの記録は何年保存する必要がありますか?

A. 犯収法第6条第2項が定める確認記録は契約終了日等から7年間、第7条第3項が定める取引記録は取引日から7年間の保存義務があります

反社チェックの照会履歴・判定根拠・エスカレーション経路もこの記録の一部として、判定した年月日・情報源・判定者・エスカレーション経路まで含めて残しておくことが実務的に推奨されます。後日の当局検査で、グレーゾーン判定の妥当性(金融庁 平成26年6月4日パブコメが求める「様々な手段を尽くしたこと」の説明)を裏づける根拠になるためです。

反社チェックツールの選定でも、記録保存・調査証跡の自動保存機能、API連携による基幹システムへの証跡取込、7年間のクラウド保存対応の有無は、犯収法第6条・第7条への直接的な整合性という観点で確認しておくべきポイントです。

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監修者

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト

松嶋真倫

都市銀行にて金融実務を経験後、暗号資産関連スタートアップの創業期に参画し、市場分析・業界調査に従事。2018年にマネックスグループ入社。以降、ビットコインをはじめとするデジタルアセットからマクロ経済環境まで、金融市場を横断した調査・分析および情報発信を担う。FinTech・次世代金融領域のリサーチ統括、各種レポートや書籍の執筆、日本経済新聞など国内主要メディアへのコメント・寄稿、イベント登壇などを行う。2021年3月より現職。
記事内でご紹介している製品・サービスは監修者が選定したものではなく、編集部が独自に選定したものです。
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。
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