「後継者がいないまま自分も年をとってきた。廃業も頭をよぎるけれど、社員や取引先を放り出すのは忍びない」。そんなとき選択肢に挙がるのがM&A(合併・買収)です。ただ、M&Aと聞くと大企業同士の話に思えて、自社のような小さな会社でも本当にできるのか、ぴんとこない方も多いのではないでしょうか。
実際には、中小企業のM&Aは特別な話ではなくなっています。国全体のM&A件数は2024年に過去最多を記録し、譲渡する企業には従業員20名以下の小規模な会社も多く含まれます。後継者不在と経営者の高齢化を背景に、事業を次の担い手へ引き継ぐ現実的な手段として広がってきました。
この記事では、中小企業M&Aとは何かという基本から、増えている理由・メリットとデメリット・主な手法・売却の流れ・いくらで売れるのか・費用や税金・失敗しないための注意点・実際の案件例、そして「結局、誰に相談すればいいのか」までを順番に整理します。
目次
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中小企業M&Aとは?自社の規模でもできるのか
中小企業M&Aとは、中小企業が自社の株式や事業を第三者に譲り渡す(売却する)、あるいは他社を譲り受ける(買収する)取引の総称です。後継者のいない会社が事業を次の担い手に引き継ぐ「事業承継」の手段として使われることが多く、廃業と違って従業員の雇用や取引先との関係を残したまま事業を続けられる点が特徴です。
まず気になるのが「自社のような小さな会社でもできるのか」という点でしょう。結論からいえば、中小企業のM&Aはすでに珍しいものではありません。2025年版中小企業白書によると、日本企業が関わったM&Aの件数は2024年に過去最多の4,700件に達し、大企業だけでなく中小企業でも増えています。
規模の面でも同様です。東京商工会議所の調査では、M&Aで譲渡した企業の従業員規模で最も多いのは従業員20名以下の会社で、その割合は75.6%にのぼります。これは同会議所の会員企業を対象とした調査で全国の数値ではありませんが、小規模な会社ほどM&Aを選んでいる実態がうかがえます。
そもそも「中小企業」の範囲は中小企業基本法で業種別に定められています。自社が当てはまるかどうかの目安として、次の基準を確認しておきましょう。
| 業種 | 資本金・出資の総額 | 常時使用する従業員数 |
|---|---|---|
| 製造業・建設業・運輸業など(下記以外) | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
さらに従業員がおおむね20人以下(商業・サービス業は5人以下)の会社は「小規模企業者」と定義されています。数人規模の会社であっても、M&Aの対象になり得るということです。業績が振るわない会社でも、独自の技術や取引先、許認可、人材といった強みがあれば買い手がつくことは珍しくなく、規模や足元の業績だけで「売れない」と決まるわけではありません。
出典・参考資料(3件)
- 出典:中小企業基本法 第2条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000154)
- 出典:2025年版中小企業白書 第2部第2章第3節|中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b2_2_3.html)
- 出典:事業承継の取組と課題に関する実態アンケート報告書|東京商工会議所(https://www.tokyo-cci.or.jp/jigyoshoukeiportal/column_ma1/)
なぜ今、中小企業でM&Aが増えているのか
ここからは、中小企業のM&Aが選択肢として広がってきた背景を見ていきます。理由の中心にあるのは、後継者の不在と経営者の高齢化です。
帝国データバンクの調査によると、2025年の後継者不在率は全国で50.1%でした。改善傾向にはあるものの、中小企業に限ると51.2%、そのうち小規模企業では57.3%と、規模が小さいほど後継者が決まっていない割合が高くなります。半数前後の会社が「継ぐ人が決まっていない」状態にある、ということです。
同時に、経営者自身の高齢化も進んでいます。2025年版中小企業白書によれば、全国の経営者の平均年齢は2024年に60.7歳となり、60歳以上の経営者が過半数を占めています。引退が視野に入る年代に達しても後継者が見つからなければ、廃業か、第三者への引き継ぎ(M&A)かの二択に向き合うことになります。
親族や社内に後継者がいない場合でも、M&Aなら事業を存続させ、従業員の雇用や取引先との関係を守れる可能性があります。こうした事情が重なり、中小企業M&Aは「特別な会社の話」ではなく、多くの経営者にとって現実的な出口の一つになってきました。
出典・参考資料(2件)
- 出典:全国「後継者不在率」動向調査(2025年)|帝国データバンク(https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/)
- 出典:2025年版中小企業白書|中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b1_1_9.html)
中小企業がM&Aを行うメリットとデメリット
M&Aは売り手(譲渡企業)と買い手(譲受企業)の双方にメリットとデメリットがあります。まず、この記事の主な読者である売り手側から整理し、続いて相手方である買い手側の狙いも押さえておきましょう。相手が何を求めているかを知っておくと、交渉の見通しが立てやすくなります。
売り手(譲渡企業)のメリット・デメリット
売り手の最大のメリットは、後継者がいなくても事業を存続させられることです。廃業では従業員が職を失い、取引先も取引を打ち切られますが、M&Aで引き継げば雇用や取引関係を残せる可能性があります。加えて、株式や事業の売却によって創業者が対価(売却益)を得られ、個人保証や担保から解放されるケースもあります。
一方で、希望する条件の相手がすぐ見つかるとは限らず、成約まで一定の時間がかかります。買い手が決まっても、企業文化や労働条件の違いから統合後に摩擦が生じることもあります。譲渡後は経営の主導権が相手に移るため、「自分の会社」ではなくなる点も受け止めておく必要があります。
買い手(譲受企業)のメリット・デメリット
買い手にとってのメリットは、時間を買えることです。新規事業を一から立ち上げる代わりに、既存の顧客・人材・ノウハウ・許認可をまとめて取得でき、事業拡大のスピードを高められます。人手不足の解消や、隣接領域への進出の足がかりとしても使われます。
ただし、買収後に想定していたシナジー(相乗効果)が得られないリスクや、事前の調査で把握しきれなかった簿外債務・訴訟リスクが後から表面化する可能性もあります。買い手側もデューデリジェンス(詳細な事前調査)に相応のコストと手間をかける必要があります。
中小企業M&Aの主な手法
M&Aにはいくつかの手法があります。中小企業では株式譲渡と事業譲渡が中心的な手法で、まずこの2つを押さえておけば全体像がつかめます。
株式譲渡
株式譲渡は、売り手の株主が保有する株式を買い手に売却し、会社の経営権ごと引き継いでもらう手法です。会社の資産・負債・従業員・取引契約・許認可を原則そのまま引き継げるため、手続きが比較的シンプルで、中小企業M&Aで広く使われています。売り手にとっては、会社という「器」ごと譲る形になります。
一方で、簿外債務や偶発債務も含めて引き継がれるため、買い手は事前のデューデリジェンスを丁寧に行う必要があります。
事業譲渡
事業譲渡は、会社が持つ事業の全部または一部を切り出して売却する手法です。会社法第7章「事業の譲渡等」(第467条以下)にもとづき、譲渡する範囲を選べるのが特徴で、「特定の事業だけを譲りたい」「不要な資産や負債は残したい」といったケースに向きます。買い手も必要な事業や資産だけを選んで取得できます。
ただし、取引先との契約や従業員との雇用契約、許認可を個別に移し替える手続きが必要で、株式譲渡に比べて手間がかかる場合があります。
このほかにも、会社を複数に分割して一部を承継させる会社分割(会社法第2条29号・30号)、株式を対価に子会社化する株式交換(同31号)や株式移転(同32号)、複数の会社を一つにまとめる合併といった手法があります。中小企業M&Aで使われる場面は株式譲渡・事業譲渡ほど多くないため、まずは主要な2手法を理解し、必要に応じて専門家に相談するとよいでしょう。
出典・参考資料(2件)
- 出典:会社法(第2条・第467条ほか)|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086)
- 参考資料:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料1 中小M&Aの主な手法と特徴|中小企業庁(https://www.meti.go.jp/files/900016254.pdf)
中小企業M&A(売却)の流れ
ここからは、売り手の立場で見たM&Aの一般的な流れを確認します。おおまかには、準備から成約まで次のようなステップで進みます。

- 準備・相談:自社の状況を整理し、仲介会社・FA(ファイナンシャル・アドバイザー)・公的窓口などの相談先を決め、譲渡の方針や希望条件を固めます。
- 企業価値の把握・資料準備:決算書などをもとに自社のおおよその価値を把握し、買い手に提示する資料を整えます。
- 相手探し(マッチング):秘密保持を前提に、条件に合う買い手候補を探します。
- 交渉・基本合意:買い手候補と条件をすり合わせ、価格やスキームの大枠について基本合意を結びます。
- デューデリジェンス(買い手による詳細調査):買い手が財務・法務・税務などを精査します。
- 最終契約・クロージング:最終契約を締結し、株式や事業、対価の受け渡しを行って取引が完了します。
準備から成約までにかかる期間は、相手探しの状況や交渉の進み方によって大きく変わります。一般には数か月から1年程度が一つの目安とされますが、個別の事情で前後するため、余裕を持ったスケジュールで臨むのが安全です。
いくらで売れる?企業価値と価格の考え方
「自社がいくらで売れるのか」は、売却を考える誰もが気になる点です。企業価値の算定にはいくつかの考え方があり、代表的なのは次の3つのアプローチです。
- コストアプローチ:純資産(資産から負債を差し引いた額)をもとに価値を評価する方法。中小企業で広く使われます。
- マーケットアプローチ:類似する上場企業や過去の取引事例と比較して価値を評価する方法。
- インカムアプローチ:将来生み出すと見込まれる利益やキャッシュフローをもとに価値を評価する方法。
中小企業の実務では、より簡易な目安として「時価純資産に営業利益の数年分(おおむね2〜5年分)を加える」考え方(年買法)が使われることもあります。仮に時価純資産5,000万円・営業利益1,000万円の会社なら、7,000万〜1億円程度が一つの目安です。あくまで簡易的な見立てで、実際の価格は交渉で変わります。
ただし、これらはあくまで価格の「たたき台」です。実際の売却価格は、算定した企業価値を出発点に、買い手との交渉によって最終的に決まります。事業の将来性や買い手にとっての魅力(シナジー)によって、算定額より高くも低くもなり得ます。公開されている案件の実際の譲渡希望額は数百万円台から幅があり、後述の事例で具体的に紹介します。
出典・参考資料(1件)
- 参考資料:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料2 中小M&Aの譲渡額の算定方法|中小企業庁(https://www.meti.go.jp/files/900016261.pdf)
中小企業M&Aの費用・手数料と税金
M&Aを進めるうえで避けて通れないのが、専門家に支払う費用と、売却によって生じる税金です。それぞれの考え方を整理します。
費用・手数料の仕組み
仲介会社やFAに支払う手数料は、成約時の成功報酬を中心に、契約時の着手金や交渉の節目で支払う中間金を組み合わせる形が一般的です。近年は着手金・中間金を無料とし、成功報酬のみとする事業者も増えています。
成功報酬の計算には「レーマン方式」が広く使われます。中小M&Aガイドラインは、この方式について次のように注意を促しています。
仲介者・FAの手数料については、レーマン方式によるものが多いが、「基準となる価額」に様々な考え方があり、採用される考え方によって報酬額が大きく変動し得るため、「基準となる価額」の考え方・金額の目安や報酬額の目安を確認しておくことが重要である点などの留意点を記載している。
出典:中小M&Aガイドライン|中小企業庁
レーマン方式では、取引金額に応じた料率(たとえば5億円以下の部分は5%など)を段階的に掛けて報酬を計算します。仮に譲渡価額が1億円なら、5%を掛けた500万円(+消費税)が成功報酬の一つの目安です。ただし基準となる金額を「株式の価額」とするか「負債を含めた総額」とするかで報酬は大きく変わります。
また多くの事業者が最低手数料を設けているため、小規模な案件では計算上の成功報酬より最低手数料のほうが上回り、それが実質的な費用になることもあります。契約前に、基準となる価額の考え方・料率・最低手数料を必ず確認しましょう。
費用をかけずに相談したい場合は、後述する事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的窓口を無料で利用できます。
中小企業M&Aにかかる税金
売り手にかかる税金は、選ぶ手法によって異なります。個人株主が非上場株式を売却する株式譲渡の場合、譲渡益(売却益)は「一般株式等に係る譲渡所得等」として申告分離課税の対象になり、税率は所得税15%・住民税5%の合計20%です。これに復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加わるため、合計の実効税率はおおむね20.315%となります。
一方、会社が事業の一部を売却する事業譲渡では、売主である法人の譲渡益に法人税が課され、課税対象となる資産の移転には消費税がかかります。税額は資産の内容や会社の状況によって変わるため、具体的な試算は税理士など専門家に確認することをおすすめします。
出典・参考資料(2件)
- 出典:No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)|国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm)
- 出典:中小M&Aガイドライン|中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html)
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中小企業M&Aで失敗しないための注意点
M&Aを安全に進めるには、押さえておきたい注意点があります。基本となるのは、情報漏洩の防止と、根拠のある譲渡価額の設定です。M&Aの検討が従業員や取引先に早く漏れると、動揺や離職を招きかねないため、秘密保持を徹底し、開示のタイミングを慎重に管理することが重要です。譲渡価額も、感覚ではなく企業価値の算定にもとづいて根拠を持たせることが、交渉と成約後のトラブル防止につながります。
相談先の選び方でも注意が必要です。中小企業庁の中小M&Aガイドラインは2024年8月に第3版へ改訂され、仲介者・FAをめぐる近年のトラブルを踏まえた論点が追記されました。第3版では、仲介者が売り手と買い手の双方から手数料を受け取る立場ゆえに生じ得る利益相反や、成約後のトラブルについて、次のように整理しています。
また、第2版改訂時と同様にM&A専門業者の支援の質を確保する観点から、仲介者・FAが実施する営業・広告に係る規律の明記や仲介者において禁止される利益相反事項の具体化を図っている。さらに、譲り渡し側・譲り受け側の当事者間において、最終契約に定めた事項の不履行等のトラブルも発生している。特に、譲り渡し側の経営者保証の扱いについては、譲り渡し側の経営者保証を譲り受け側に移行させる想定であったにもかかわらず移行しない等の行為を行う譲り受け側の存在も指摘されている。
出典:中小M&Aガイドライン(第3版)|中小企業庁
ここから読み取れる実務上の注意点は主に3つです。第一に、仲介者に依頼する場合は利益相反の可能性を理解し、自社の利益が守られる契約になっているかを確認すること。第二に、経営者保証を買い手に移すつもりなら、それが最終契約で確実に履行される仕組みになっているかを見極めることです。
第三に、営業・広告の規律に反する強引な勧誘には慎重に対応しましょう。第3版では、業界内で不適切な譲り受け側の情報を共有する仕組みの構築も期待される旨が追記されており、相手方の信頼性を確かめる姿勢が一段と重要になっています。
出典・参考資料(2件)
- 出典:中小M&Aガイドライン(第3版)|中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html)
- 参考資料:中小M&Aガイドライン(第3版)参考資料13 中小M&A時の経営者保証の取扱いについて|中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline/reference/013.pdf)
中小企業M&Aの事例(業種・価格帯)
「実際にどんな会社が、いくらくらいで売買されているのか」を知ると、M&Aが自社にとっても現実的な選択肢だと実感しやすくなります。M&A・事業承継のマッチングプラットフォームでは、売却を希望する会社の案件が業種・地域・金額の条件付きで数多く公開されています。
たとえばマッチングサイト「バトンズ」では、2026年9月時点で4万件を超える売却案件が掲載されています。具体的には、旅行・娯楽・レジャー業(売上高3,000万〜5,000万円規模)で譲渡希望額300万円といった、数百万円台からの小規模案件も公開されています。
飲食・サービス・製造など幅広い業種があり、必ずしも大きな会社でなくても買い手を探せます。掲載件数や価格は日々変動するため、最新の相場感や自社に近い業種・規模の案件は、実際の案件ページで確認するとよいでしょう。
公的な支援を通じた成約も増えています。2025年版中小企業白書では、後継者不在の中小企業と譲受を希望する企業をつなぐ事業承継・引継ぎ支援センターの相談社数・成約件数がともに増加傾向にあると報告されています。小規模な会社の事業承継型M&Aが、着実に成立している実態を示すものです。
出典・参考資料(2件)
- 参考資料:M&A・事業承継 売却案件一覧|バトンズ(2026年9月時点で確認)(https://batonz.jp/sell_cases)
- 出典:2025年版中小企業白書 第2部第2章第3節|中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b2_2_3.html)
誰に相談すればいい?相談先の種類と選び方
中小企業M&Aの相談先にはいくつかの種類があり、それぞれ役割・費用の出方・向いている相手が異なります。「専門家に相談を」と言われても選べないという方のために、まず全体像を整理します。
| 相談先 | M&A仲介会社 | FA(ファイナンシャル・アドバイザー) | M&Aマッチングサイト | 金融機関 | 士業(弁護士・税理士・公認会計士) | 事業承継・引継ぎ支援センター(公的) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 主な役割 | 売り手と買い手の間に立ち、相手探しから成約までを仲介する | 売り手または買い手の一方に付き、依頼者の利益を専任で支援する | 売却・譲受案件をオンラインで掲載・検索し、当事者同士をつなぐ | 取引銀行などが取引先ネットワークを活かして紹介・支援する | 契約・税務・企業価値評価など専門分野を支援する | 国の公的窓口として相談・マッチングを支援する |
| 費用の出方 | 着手金・中間金・成功報酬(レーマン方式・最低手数料あり) | 着手金・成功報酬など(依頼者側のみ負担) | 成功報酬中心(成約時。無料をうたうサービスもある) | 相談は無料の場合が多く、成約時に手数料 | 報酬は業務内容による | 相談は無料 |
| 向いている人 | 相手探しから成約まで幅広く任せたい会社 | 自社の利益を最優先に交渉を進めたい会社 | まず相場や相手の有無を自分で確かめたい会社 | 既存の取引銀行に相談したい会社 | 顧問など既存の専門家がいる会社 | まず費用をかけず公的な窓口に相談したい会社 |
M&A仲介とFAの違いは押さえておきたいポイントです。仲介会社は売り手・買い手の双方の間に立つため中立的にまとめてくれる一方、双方から手数料を受け取る立場ゆえに利益相反が生じ得ます。FAは一方の当事者だけに付いて依頼者の利益を専任で守る立場です。どちらが良い・悪いではなく、「幅広く任せたいか」「自社の利益を最優先に交渉したいか」で選ぶとよいでしょう。
まず費用をかけずに相談したいなら、事業承継・引継ぎ支援センターが有力な選択肢です。国の公的窓口として全都道府県に設置され、無料で相談やマッチングの支援を受けられます。
民間の仲介者・FAを選ぶ際は、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」の登録支援機関データベースが役立ちます。中小M&Aガイドラインは、このデータベースについて次のように説明しています。
また登録制度のホームページでは、同制度に登録された仲介業務又はFA業務を行う支援機関のデータベースを提供しており、登録支援機関の種類(専門業者、金融機関等の別)、M&A支援業務の開始時期、専従者や所在地、また手数料の算定基準(最低手数料の水準や報酬基準額の種類等)等を確認・検索することができ、中小企業が仲介者・FAを選定する際の情報手段として有用である。
出典:中小M&Aガイドライン|中小企業庁
登録支援機関のデータベースでは、支援機関の種類や手数料の算定基準(最低手数料の水準など)を条件に検索できます。相談先を絞り込む段階で、料金体系や実績を横並びで確認する材料として活用しましょう。
出典・参考資料(3件)
- 出典:中小M&Aガイドライン|中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html)
- 参考資料:M&A支援機関登録制度(登録支援機関データベース)|中小企業庁(https://ma-shienkikan.go.jp/)
- 出典:2025年版中小企業白書 第2部第2章第3節|中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b2_2_3.html)
ここからは、資料請求や相談ができるM&Aアドバイザリー・FAを紹介します。いずれも仲介ではなく、依頼者の利益を専任で守るFA型です。一般的な中小企業の売却では、売主全般を支援するFAがまず基本の選択肢になります。そのうえで、自社が特定の業界に属する場合には業界特化型という選び方もある、という順で見ていきましょう。
売主の支援に特化したサービスと、特定業界に特化したサービスという異なる強みの例として、まず特徴を一覧で整理しました(業界特化型は、その業界の会社を対象とした選び方の一例です)。
| サービス名 | M&A Lead | Consensus Base |
|---|---|---|
| 対象・強み | 中小企業の売主全般 売主に専任するFA型で利益相反を回避 | Web3・ブロックチェーン業界に特化 技術DD・トークン法務など専門評価に対応(一般の中小企業向けではない) |
| サービス形態 | 売主専門M&Aアドバイザリー(FA型) | Web3特化M&Aアドバイザリー |
| 料金体系 | 完全成功報酬制 レーマン方式(譲渡対価の1〜5%) 着手金・中間金は無料 | 要問い合わせ (レーマン方式の採用有無は非公開) |
| 対応エリア | 全国対応 | 国内外(東南アジア・欧州・北米のネットワーク) |
| 無料相談 | あり(オンライン・電話) | あり |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る |
M&A Lead(M&A Lead株式会社)

M&A Leadは、売主(譲渡側)を専門に支援するM&Aアドバイザリーです。売り手と買い手の双方に立つ仲介ではなく、売り手側に専任で付くFA型のため、譲渡する経営者の利益を優先して交渉を進められる点が特徴です。中小企業の事業承継や会社売却を検討する経営者が、相手探しから条件交渉、成約までを相談できます。
料金は完全成功報酬制で、着手金・中間金は無料です。成功報酬はレーマン方式(1〜5%)にもとづき、成約まで費用が発生しない設計のため、まず相談してみたいという段階でも利用しやすいのが利点です。全国に対応し、オンラインでの相談にも応じています。
Consensus Base(コンセンサス・ベイス株式会社)

特定の業界に強みを持つアドバイザリーを選ぶという考え方もあります。Consensus Baseは、Web3・ブロックチェーン業界に特化したM&Aアドバイザリーです。同分野の技術やトークンの取り扱いに関する知見を活かせるのが強みです。技術デューデリジェンスやスマートコントラクトの観点からの評価、取引スキームの設計まで支援できる点が、一般的なアドバイザリーと異なります。
製造業や小売業といった一般的な中小企業の相談先というより、Web3関連事業を営む会社がM&Aを検討する際に、業界特化型の専門性を求める場合に選択肢となるサービスです。自社の業界に合った専門性を持つ相手を選ぶ、という観点の一例として参考になります。
ここで紹介したのは、売り手支援に特化したFAの一例です。事業再生・M&Aを含む金融コンサル会社を専門領域別に比較し、費用相場や選び方まで見比べて自社に合う相談先を探したい場合は、各社を比較表と診断ツールでまとめた次の記事も参考になります。
金融コンサル会社徹底比較|専門領域別おすすめ19選と選び方【費用相場も解説】
資金繰りや財務戦略、事業承継やM&Aといった経営の重要局面では、社内の知見だけで最適解にたどり着くのが難しい場面が少なくありません。「専門家に相談したいが、どの金融コンサルに頼めばよいのか分からない」と迷う方も多いでしょう。 金融コ…
まとめ
中小企業のM&Aは、後継者不在と経営者の高齢化を背景に、事業を次の担い手へ引き継ぐ現実的な手段として広がっています。小規模な会社でも広く行われており、自社の規模でも十分に選択肢になり得ます。まずは自社のおおよその企業価値と費用・税金の考え方を押さえ、失敗しないための注意点を理解したうえで、相談先を選ぶことが第一歩です。
相談先は、無料で使える事業承継・引継ぎ支援センターから、依頼者の利益を専任で守るFA、幅広く任せられる仲介会社まで幅があります。費用の出方と自社の状況に合わせて選び、複数の相手を比較検討しながら、納得できる形で事業の未来を託しましょう。
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よくある質問(FAQ)
Q. 中小企業のM&Aとは何ですか?
A. 中小企業のM&Aとは、中小企業が自社の株式や事業を第三者に売却する、あるいは他社を譲り受ける取引の総称です。後継者がいない会社が事業を次の担い手へ引き継ぐ「事業承継」の手段として使われることが多く、廃業と違って従業員の雇用や取引先との関係を残したまま事業を続けられる点が特徴です。
国内のM&A件数は2024年に過去最多を記録し、小規模な会社でもM&Aは広く行われています。数人規模の会社でも十分に選択肢になります。
Q. 中小企業のM&Aにかかる費用・手数料はいくらですか?
A. 中小企業のM&Aの費用は、仲介会社やFAに支払う手数料が中心で、成約時の成功報酬に着手金・中間金を組み合わせる形が一般的です。近年は着手金・中間金を無料とし、成功報酬のみとする事業者も増えています。
成功報酬は取引金額に料率を段階的に掛ける「レーマン方式」で計算され、基準となる価額の考え方や最低手数料の有無で金額が大きく変わるため、契約前に必ず確認しましょう。費用をかけずに相談したいなら、無料の公的窓口(事業承継・引継ぎ支援センター)も利用できます。
出典・参考資料(1件)
- 出典:中小M&Aガイドライン|中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html)
Q. 中小企業のM&Aは成約までどのくらいの期間がかかりますか?
A. 中小企業のM&Aは、準備から成約まで一般に数か月から1年程度が一つの目安とされます。相手探し(マッチング)の状況や、交渉・デューデリジェンス(買い手による詳細調査)の進み方によって前後するため、余裕を持ったスケジュールで臨むのが安全です。
Q. 中小企業のM&Aで従業員の雇用は守られますか?
A. 中小企業のM&Aでは、株式譲渡の場合、雇用契約が原則そのまま引き継がれ、従業員の雇用は維持されるのが一般的です。廃業と違って雇用や取引関係を残したまま事業を続けられることがM&Aの大きな利点ですが、労働条件の扱いは買い手との交渉事項となるため、雇用の継続や処遇を最終契約で確認しておくことが重要です。事業譲渡の場合は、従業員との雇用契約を個別に移し替える手続きが必要になります。
Q. 中小企業のM&Aは従業員や取引先に知られずに進められますか?
A. 中小企業のM&Aは、秘密保持を徹底すれば、検討段階を従業員や取引先に知られずに進めることが可能です。検討が早期に漏れると動揺や離職を招きかねないため、相手探しの段階から秘密保持を前提に進め、社内への開示は成約が固まった適切なタイミングまで慎重に管理するのが一般的です。情報漏洩の防止はM&Aを安全に進めるうえでの基本となる注意点です。
Q. 赤字や債務超過の会社でもM&Aで売却できますか?
A. 赤字や債務超過の会社でも、独自の技術・顧客基盤・人材・許認可など、買い手にとって魅力のある強みがあればM&Aで売却できる可能性があります。売却価格は純資産などをもとにした企業価値を出発点に、買い手との交渉で最終的に決まり、事業の将来性やシナジー(相乗効果)が評価されれば成立します。まずは自社の強みを整理し、公的窓口や専門家に相談して買い手の有無を確かめるとよいでしょう。
Q. 中小企業のM&Aを無料で相談できる窓口はありますか?
A. 中小企業のM&Aは、国が全都道府県に設置する「事業承継・引継ぎ支援センター」で、無料で相談やマッチングの支援を受けられます。費用をかけずに第一歩を踏み出したい場合の有力な選択肢です。民間の仲介会社・FAを選ぶ際は、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」の登録支援機関データベースで、手数料の算定基準(最低手数料の水準など)を条件に検索・比較できます。
出典・参考資料(2件)
- 参考資料:M&A支援機関登録制度(登録支援機関データベース)|中小企業庁(https://ma-shienkikan.go.jp/)
- 出典:中小M&Aガイドライン|中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html)
Q. M&Aの仲介会社とFA(ファイナンシャル・アドバイザー)は何が違いますか?
A. 最大の違いは立ち位置で、仲介会社は売り手と買い手の双方の間に立って中立的に取引をまとめ、FAは売り手か買い手の一方だけに付いて依頼者の利益を専任で守ります。
仲介は相手探しから成約まで幅広く任せたい会社に向く一方、双方から手数料を受け取る立場ゆえに利益相反が生じ得ます。FAは自社の利益を最優先に交渉したい会社に向きます。どちらが良い・悪いではなく、自社が重視する点で選ぶとよいでしょう。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。















