暗号資産やステーブルコインを法人で扱うとき、その保管手段をどう選ぶかは、資産の安全性と事業の継続性を左右する判断です。秘密鍵を自社で持って管理するのか、専門の事業者に預けるのか。この選択の違いが「カストディアル(預託型)」と「ノンカストディアル(自社で鍵を持つ型)」という2つの分け方に表れます。
秘密鍵の紛失や漏えい、外部からのハッキング、社内の不正、預け先の破綻といったリスクを避けながら、資金決済法上の分別管理やカストディ規制にも適合させる。この両立を、社内の技術リソースや運用体制と見合う形で実現できるサービスはどれか、という問いに多くの担当者が直面しています。
本記事では、法人向けの暗号資産ウォレット・カストディサービスをタイプ別に比較・解説します。カストディアルとノンカストディアルの違いや秘密鍵の管理方式(MPC・マルチシグ・ハードウェア)に加え、鍵管理方式・セキュリティ認証・資産保全・料金・導入形態を横並びで比べられる比較表と、資金決済法上の分別管理・カストディ規制の整理を用意しました。自社に合う保管手段を選ぶ材料としてご活用ください。
また、自社の状況に合わせて最適なサービスを最短で見つけられるよう、「30秒で終わる選定診断ツール」をご用意しています。ぜひこちらもご活用ください。
目次
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カストディアル型・ノンカストディアル型とは|暗号資産ウォレットの基本
ここからは、暗号資産の保管方式がなぜ選択の分かれ目になるのか、そして誰が秘密鍵を管理するかで2つのタイプに分かれる前提を整理します。
暗号資産は、銀行口座のように事業者が残高を管理する仕組みではなく、ブロックチェーン上の資産を動かす権限そのものを「秘密鍵」という文字列が握ります。この秘密鍵を誰が保有・管理するかによって、保管手段は大きく2つに分かれます。第三者に預ける形が「カストディアル型」、自社(利用者)側で鍵を持つ形が「ノンカストディアル型」です。
暗号資産ウォレットと秘密鍵・シードフレーズの役割
暗号資産ウォレットは、暗号資産そのものを保管する「財布」ではなく、ブロックチェーン上の資産を操作するための秘密鍵を管理し、送金時に電子署名を行うためのツールです。資産の残高はブロックチェーンに記録されており、ウォレットはその資産を動かす権限を扱います。
秘密鍵は、対応する公開鍵(受け取り用アドレスの基になる情報)と対になっています。この秘密鍵の復元には、単語を並べた「シードフレーズ(リカバリーフレーズ)」を用いる方式が広く使われます。秘密鍵やシードフレーズを失えば資産を動かせなくなり、第三者に知られれば資産を奪われます。暗号資産の保管とは、この秘密鍵を安全に保持し、正当な取引だけで署名できる状態を保つ課題に帰着します。
カストディアル型(預託・資産管理)の仕組み
カストディアル型は、秘密鍵の保管と署名を暗号資産交換業者やカストディ事業者などの第三者に委託する方式です。利用者は事業者が用意する画面や API を通じて残高の確認や出金指示を行い、鍵の物理的な管理は事業者が担います。銀行に預金を預ける感覚に近く、社内で鍵管理の専門体制を持たなくても運用を始められます。
その代わり、資産の安全性は預け先の事業者の管理体制と信用力に依存します。事業者がハッキングを受けたり経営破綻したりすれば、利用者の資産が影響を受ける可能性があります。日本では、他人のために暗号資産を管理する行為が資金決済法上の規制対象となっており、委託先の登録状況や資産の保全方法を確認できることが、このタイプを選ぶ際の前提になります。
ノンカストディアル型(自社で鍵を持つ)の仕組み
ノンカストディアル型は、秘密鍵を自社(利用者)側で保有し、署名も自社の環境で行う方式です。第三者に鍵を預けないため、預け先の破綻や凍結の影響を受けにくく、資産を動かす権限を自社で完結して握れます。トークンを発行する事業者や、独自の運用ポリシーで資産を扱いたい企業に向く形です。
一方で、秘密鍵の生成・保管・バックアップ・署名の権限管理まで自社の責任で行う必要があります。鍵を失えば資産を復元できず、管理を誤れば内部不正や漏えいの原因になります。この負担を下げるため、法人向けのノンカストディアル型サービスでは、後述する MPC やマルチシグで鍵を分割し、承認ワークフローや監査ログで内部統制を組める仕組みが用意されています。
カストディアル型とノンカストディアル型の違い
ここでは、2つのタイプを主要な観点で対比し、自社がどちらを軸に検討すべきかの当たりをつけます。
それぞれのメリット・デメリット
カストディアル型の利点は、鍵管理の専門体制を自社で持たずに運用を始められ、事業者のセキュリティ設備や監査体制を利用できる点にあります。反面、資産の安全性が預け先の管理と信用に左右され、出金の可否や対応チェーンが事業者の仕様に制約されます。事業者の破綻・凍結・システム障害が、そのまま自社の資産アクセスに影響しうる構造です。
ノンカストディアル型の利点は、資産を動かす権限を自社で完結して握れることです。預け先の都合で資産が凍結される事態を避けられ、運用ポリシーを自社の裁量で設計できます。
その分、秘密鍵の保管・バックアップ・署名権限の設計を自社の責任で担うため、鍵を失えば資産を復元できないという不可逆なリスクと、運用体制の整備コストを引き受けることになります。どちらが優れているかではなく、資産を動かす権限と保管の責任を自社に置くか委託先に置くか、という業務設計の選択です。
一目でわかる比較(管理主体・必要な社内体制・規制上の位置づけ・向いている用途)
2つのタイプの違いを、秘密鍵の管理主体・必要な社内体制・資金決済法上の位置づけ・向いている用途の観点で整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | 自社で鍵を持つノンカストディアル型 | 事業者に預けるカストディアル型 |
|---|---|---|
| 秘密鍵の管理主体 | 自社(利用者)が保有・署名 | 委託先の事業者が保有・署名 |
| 必要な社内体制 | 鍵の保管・バックアップ・署名権限の設計を自社で担う。MPC・マルチシグで負担を軽減 | 自社での鍵管理体制は不要。委託先の選定・監査の確認が中心 |
| 資金決済法上の位置づけ | 自社資産の自己保管は「他人のための暗号資産の管理」に当たらず、暗号資産交換業の登録・分別管理義務の対象外 | 他人の暗号資産を管理する委託先が暗号資産交換業として登録・分別管理義務を負う |
| 向いている用途 | トークン発行、独自の運用ポリシーでの保有、預け先リスクを避けたい保管 | 運用負荷を抑えた保管、規制対応済み事業者への委託、機関投資家向けの大口保管 |
※上記は各タイプにおける一般的な傾向です。個別のサービスにおける実際の機能・提供形態については各社情報をご確認ください。
秘密鍵の管理方式(MPC・マルチシグ・ハードウェア)とセキュリティ
ここからは、法人の選定軸に直結する秘密鍵の管理方式を、仕組みとして整理します。いずれも「秘密鍵を1か所に集中させない」ことで、単一障害点と内部不正を抑える発想が共通します。

MPC(マルチパーティ計算)は、1つの秘密鍵を最初から作らず、複数の当事者がそれぞれ持つ鍵の断片(シェア)を使い、鍵を1か所に復元しないまま共同で署名を生成する方式です。
完全な秘密鍵がどこにも存在しないため、単一の端末や担当者が侵害されても署名を偽造されにくく、断片の保管場所を分散させて内部不正の難度を上げられます。ブロックチェーン側から見ると通常の1つの署名として扱われるため、対応チェーンを問わず適用しやすい点も特徴です。
マルチシグ(複数署名)は、1つの送金に複数の秘密鍵による署名を必要とする方式です。たとえば3つの鍵のうち2つの署名がそろわないと送金できない「2-of-3」のように、承認に必要な鍵の数をあらかじめ決めておきます。担当者・責任者・外部保管先などに鍵を分けて持たせることで、一人の判断や一つの鍵の漏えいだけでは資産を動かせない相互牽制の体制を、ブロックチェーンの機能として実装できます。
ハードウェアウォレット/HSM(ハードウェアセキュリティモジュール)は、秘密鍵を専用のハードウェア内部に閉じ込め、鍵を外部に取り出さないまま機器の中で署名を行う方式です。インターネットから物理的に切り離した「コールドウォレット」として運用でき、鍵がネットワーク経由で盗まれる経路を断てます。HSM は改ざん検知や耐タンパー性の認証を備えた業務用の機器で、大口資産の保管や事業者側の基盤で用いられます。
これらの方式は排他的ではなく、MPC やマルチシグで署名権限を分散しつつ、鍵の断片をコールドウォレットや HSM に保管するといった組み合わせで用いられます。法人が選定する際は、方式の名前だけでなく、鍵の断片を誰がどこに保管し、どの承認をそろえれば送金できるのか、その権限設計が自社の内部統制と合うかを確認することが要点になります。
暗号資産の保管で起こりうるリスクと事故
ここでは、暗号資産の保管で現実に起こりうるリスクを挙げ、それを運用体制でどう抑えるかまで掘り下げます。
起こりうる主なリスク(紛失・漏えい・ハッキング・内部不正・取引所破綻)
暗号資産の保管に伴うリスクは、大きく次のように分けられます。第一に、秘密鍵やシードフレーズの紛失です。鍵を失えば資産を動かす権限そのものが失われ、原則として復元できません。
第二に、鍵やシードフレーズの漏えいで、不正な送金に直結します。第三に、ウォレットソフトや接続環境を狙った外部からのハッキングです。
加えて、法人特有のリスクとして内部不正があります。鍵や送金権限が特定の担当者に集中していると、その一人の操作で資産が流出しうる状態になります。事業者に預けるカストディアル型では、これらに預け先の破綻・凍結のリスクが加わります。過去には大手取引所の破綻で利用者の資産引き出しが困難になった事例が国内外で起き、預け先の管理体制と資産の保全方法が問われる契機となりました。
近年の大型流出は、秘密鍵の暗号そのものが破られて起きているわけではありません。2025年2月に発生した過去最大の暗号資産流出(約15億ドル相当)では、攻撃者が署名画面の表示を偽装し、正規の承認者に不正な取引をそのまま署名させる手口が使われました。破られたのは鍵の強度ではなく、「何に署名しているか」を確認できない運用と、承認フローや連携先を含めた周辺の仕組みでした。鍵をどれだけ厳重に守っても、署名させる中身をすり替えられれば資産は動いてしまう、という前提で選定・運用を考える必要があります。
運用体制でリスクを抑える(内部統制・鍵の分散管理・資産保全)

これらのリスクは、ツールの機能だけでなく運用体制の設計で抑えます。まず鍵の分散管理です。前述の MPC・マルチシグで署名権限を複数の担当者・場所に分け、一人の判断や一つの鍵の漏えいだけでは送金できない状態にすれば、内部不正と単一障害点の両方を抑えられます。
日常的に動かさない資産をインターネットから切り離したコールドウォレットに置き、出金に使う分だけをホットウォレットに残す使い分けも、外部ハッキングの被害範囲を限定します。
次に内部統制です。誰が送金を起案し、誰が承認するかを分離し、操作の記録を監査ログとして残せば、不正な操作を抑止し事後の追跡も可能になります。送金先アドレスをあらかじめ許可制にするホワイトリスト、一定額以上の送金に追加承認を求める設計なども有効です。
あわせて確認したいのが、署名する内容を人が検証できるかです。取引の中身が読めないまま承認する「ブラインド署名」を避け、送金先・金額・呼び出す関数といった署名対象を承認者が確認できる形(クリア署名)に対応しているかを確認します。また、異常な取引を検知・保留できる仕組みは、前述の署名すり替えの手口への実務的な備えになります。サービス選定では、鍵の保管方式だけでなく、この署名時の検証と承認フローの堅牢さまで確認しておくことが望まれます。
カストディアル型を選ぶ場合は、こうした体制を委託先がどう構築し、資産の保全(分別管理や保険)をどう担保しているかを確認することが、資産保全の観点で重要になります。法人向けサービスの選定では、これらの運用要件を満たせるかが判断軸になります。
自社に合うタイプ・サービスの当たりを、ここまでの観点(保管方式・鍵管理・運用体制)を踏まえて手早く確認できるよう、選定診断を用意しました。以下からお試しください。
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法人向け暗号資産ウォレット・カストディサービスの比較
ここからは、自社の課題や要件に合わせて客観的に比較・選定できるよう、主要な法人向けウォレット・カストディサービスを、秘密鍵の管理主体(自社で持つか、事業者に預けるか)で分類してご紹介します。
タイプ別の見取り(自社で鍵を持つ型/事業者に預ける型)
比較表は、秘密鍵を自社側で保有・署名する「自社で鍵を持つノンカストディアル型」と、保管・署名を事業者に委託する「事業者に預けるカストディアル型」に分けて示します。
前者は自社の運用ポリシーで資産を扱いたい場合や、トークン発行に伴って鍵を自社で管理したい場合に、後者は運用負荷を抑えて規制対応済みの事業者に預けたい場合に、それぞれ候補となります。鍵管理方式・対応チェーン・セキュリティ認証・資産保全・料金・導入形態を横並びで確認できます。
表内の「未公表(要確認)」は、第三者認証を取得していないという意味ではなく、各社が公式に公表していない項目です。導入検討時は、各社のセキュリティページや第三者認証の報告書で最新の取得状況を確認してください。料金も、案件ごとの個別開発型では「要問い合わせ」が基本で、実際の費用は保管する資産額・取引量・必要な機能や導入形態によって決まります。
| サービス名 | N Suite | Spize wallet | pokke | TRUSTAUTHY | Ginco Enterprise Wallet | Fireblocks | Cobo | Ledger Enterprise | GK8 by Galaxy | BitGo | Copper | Komainu | Anchorage Digital | Zodia Custody | Hex Trust |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 分類 | ノンカストディアル型 主な用途: Web3事業のトークン発行・トレジャリー運用 | ノンカストディアル型 主な用途: 独自トークン発行プロジェクト向け | ノンカストディアル型 主な用途: NFTの配布・受け取り向け | ノンカストディアル型(セキュリティ基盤) 主な用途: 取引所・ステーブルコイン決済事業者のセキュリティ強化向け | ノンカストディアル型 主な用途: 交換業者・金融機関の業務基盤向け | ノンカストディアル型(カストディも提供) 主な用途: 機関投資家・取引所の大規模運用向け | ノンカストディアル型(カストディも提供) 主な用途: 取引所・機関のマルチチェーン運用向け | ノンカストディアル型(セルフカストディ) 主な用途: 取引所・機関のトレジャリー自己管理向け | ノンカストディアル型(セルフカストディ技術) 主な用途: 金融機関の自社運用カストディ基盤向け | カストディアル型(自己管理型も提供) 主な用途: 大口トレジャリー・機関カストディ向け | カストディアル型 主な用途: 機関の取引・決済・大口カストディ向け | カストディアル型 主な用途: 機関投資家の規制対応カストディ向け | カストディアル型 主な用途: 規制対応を重視する機関カストディ向け | カストディアル型 主な用途: 銀行・機関投資家の規制対応カストディ向け | カストディアル型 主な用途: アジア拠点の機関カストディ向け |
| 鍵管理方式 | MPC/マルチシグ/AWS KMS (用途に応じて選択) | コールドウォレット方式 (利用者が鍵を意識しない設計) | NFCチップのコールドウォレット チップ・アプリ・パスワードで署名(pokke2) | 位置情報認証(GeoAuth)+分散署名(MPC応用) | HSM+専用署名端末に分散 マルチシグ(2-of-3/3-of-5 等) | MPC(鍵シェアをHSM/エンクレーブに分散、鍵を復元しない) | MPC・スマートコントラクト・カストディを選択可 | FIPS 140-2 Level 3 認証HSM+Safeベースのマルチシグ | air-gappedコールド(Impenetrable Vault)+MPC(uMPC)のハイブリッド | マルチシグ(対応チェーン)/MPC(非対応チェーン) | MPC(鍵シャード分離)+2-of-3クォーラム署名(顧客/Copper/第三者) | 機関グレードのカストディ (Ledger のセキュリティ技術を活用) | HSMコールドストレージ+MPCベースの署名 (ポリシーワークフロー) | コールドウォレット・バイ・デザイン (エアギャップ・コールドストレージ) | FIPS 140-2 Level 3 HSM/マルチシグ承認/資産分別 |
| 対応チェーン・資産 | マルチチェーン(EVM系) Japan Open Chain・JPYC対応 | BTC・ETH など既存チェーン (独自トークン発行向け) | Ethereum ほか (NFT用途・公式一覧非公開) | 既存ウォレットに重ねる (Web3全般のセキュリティ基盤) | マルチチェーン対応(62通貨〔2024年9月時点、自社公表〕) 交換業者・金融機関向け | マルチチェーン対応 (網羅一覧は要問い合わせ) | マルチチェーン対応 (80以上のチェーン・3,000以上のトークン) | マルチチェーン対応 | マルチチェーン (ステーキング・DeFi 接続) | マルチチェーン対応 | マルチアセット対応 (450以上のデジタル資産・45以上の取引所に接続、自社公表) | マルチアセット対応 | マルチチェーン対応 (ステーキング対応) | マルチアセット対応 (75以上の暗号資産・Bitcoin・Ethereum ほか) | マルチチェーン対応(25以上のチェーン、自社公表) (Bitcoin・Ethereum・Solana ほか) |
| セキュリティ・第三者認証 | AWS Qualified Software 認定 (ISO/SOC等は未公表) | 未公表(要確認) | 未公表(要確認) | 未公表(ベータ提供段階) | ISO/IEC 27001(社本体) SOC2 Type II(GEW対象範囲・社本体) | SOC 2 Type II/ISO 27001・27017・27018 CCSS Level III | SOC 2 Type I/II・ISO 27001 複数法域でライセンス | FIPS 140-2 Level 3(HSM) SOC/ISO等は要確認 | ISO/IEC 27001:2022/SOC 2 Type 2 | SOC 2 Type II/保険付保 | SOC 2 Type II/ISO 27001 | JFSC(ジャージー)・VARA(ドバイ)の規制ライセンス/保険付保 | SOC 1/SOC 2 Type II/保険(付保額非開示) | ISO/IEC 27001/SOC 1 Type II・SOC 2 Type I/資産犯罪・サイバー保険 | SOC 2 Type II(AssuranceLab)/ISO/IEC 27001/AON手配の保険 |
| 資産保全・規制適合 | 自社保管(分別管理義務の対象外) 複数名承認・監査ログで内部統制 | 自社保管(分別管理義務の対象外) | 自社(利用者)保管 NFC物理カードで鍵を保持 | 許可した場所以外からの操作を遮断 AML/CFT・取引追跡を訴求 | コールド/ホット両対応 権限分散・ホワイトリスト送金 | 自社運用・預託の双方に対応 ポリシーエンジンで送金統制 | オムニカストディ (署名要件をカスタマイズ) | 顧客が常に鍵を管理 提供元・第三者は鍵に非アクセス | 導入企業が自社で鍵を保有・運用 ポリシー主導のガバナンス | 州認可信託会社・適格カストディアン 資産の混蔵・貸出なし | ClearLoop (資産を取引所に預けずに決済) | 野村・CoinShares・Ledger の合弁 規制対応カストディ | 米国OCC連邦国法信託銀行・SEC適格カストディアン 分別管理・倒産隔離 | 英国FCA登録・信託構造で完全分別管理 再担保なし | 香港TCSP・シンガポールMAS・ドバイVARA 資産分別 |
| 料金 | 月額45,000円〜(Lite) 180,000円〜(Standard)※税抜・年間契約 | 要問い合わせ (案件ごとの個別見積もり) | 要問い合わせ (案件ごとの個別見積もり) | 要問い合わせ (取引量・API利用数連動または月額の個別設計・ベータ提供) | 要問い合わせ | 要問い合わせ (利用規模・機能に応じた個別見積もり) | 要問い合わせ (製品・利用規模に応じた個別見積もり/低コスト版MPC Liteあり) | 要問い合わせ | 要問い合わせ (機関向け技術ライセンス・個別見積もり) | 要問い合わせ (機関向け・最低利用条件が高め) | 要問い合わせ | 要問い合わせ | 要問い合わせ | 要問い合わせ | 要問い合わせ |
| 導入形態 | SaaS(クラウド) 国内提供・日本語対応 | 個別開発・SaaS 国内提供・日本語対応 | NFCハードウェア+アプリ 国内提供・日本語対応 | 既存運用へのオーバーレイ(API) 国内提供・日本語対応 | SaaS(コールド/ホット・API) 国内提供・日本語対応 | SaaS/API・SDK(WaaS) 海外発・英語中心(日本営業体制構築中) | SaaS/API・SDK(WaaS) 海外発・英語中心 | SaaS+HW/FW一体 海外発・英語中心 | オンプレ/クラウド/ハイブリッド 海外発・英語中心 | SaaS(カストディ・ウォレット) 海外発・英語中心 | SaaS/API 海外発・英語中心 | SaaS(アプリベース) 海外発・英語中心(野村グループ経由の接点) | SaaS(カストディ) 海外発・英語中心 | SaaS(コールド設計) 海外発・英語中心 | SaaS(カストディ) 海外発・英語中心 |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 詳細を見る | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト |
※2026年9月時点の各社公式情報をもとに作成しています。最新の対応範囲・料金・認証の取得状況は各社情報をご確認ください。
タイプ別・サービス個別紹介
ここからは、比較表で取り上げたサービスを、秘密鍵の管理主体のタイプごとに個別に紹介します。それぞれの提供元・特徴・向いている用途を確認し、資料請求の判断材料としてご活用ください。
自社で鍵を持つノンカストディアル型(自社運用ウォレット・ウォレットSDK)
秘密鍵を自社側で保有・署名し、MPC やマルチシグ、HSM で鍵を分割して内部不正や単一障害点を抑えるタイプのサービスです。承認ワークフローや監査ログで内部統制を組み込めるものが中心です。
1. N Suite(double jump.tokyo株式会社)

double jump.tokyo株式会社が提供する、Web3事業を行う法人向けのウォレットSaaSです。ブロックチェーンの秘密鍵を、承認ワークフローや監査ログとともに組織で共有・管理する仕組みを備えます。
秘密鍵の管理方式は、MPC・マルチシグ・AWS KMSから用途に応じて選べます。2024年12月に追加したMPC方式では秘密鍵を複数のKey Shareに分割し、いずれか1つが盗まれても資産を動かせない設計で、マルチシグより対応チェーンが広く、顧客側でのAWSアカウント準備も不要とされます。
上場企業の利用も想定した申請・複数名承認のワークフローと監査ログを標準で備え、内部統制や監査対応を支えます。同社によると国内初の法人向けWeb3ウォレットとして日本円建てステーブルコインJPYCに対応し、Japan Open Chain対応も完了しています。
SOC2・ISO/IEC 27001などの第三者認証の取得状況は公表されていませんが、安全性はMPC・マルチシグによる鍵の分散に加え、複数名の承認ワークフローと監査ログで送金権限を分け操作を追跡できる内部統制に支えられています。
2. Spize wallet(スパイズウォレット)(株式会社テコテック)

独自の暗号資産・トークンを発行するプロジェクト向けに、株式会社テコテックが提供するウォレットシステムです。利用者がブロックチェーンの複雑さを意識せずに支払いや保有を行える設計を掲げています。
秘密鍵の管理を利用者に意識させないコールドウォレット方式を採り、ブロックチェーンの知識がないユーザーにもトークンを配布できる点を特徴とします。BTC・ETHなど既存チェーンへの対応や、EC決済への組み込み・QR決済への機能拡張にも対応するとしています。
テコテックはWeb3関連プロダクト群「Spizeシリーズ」を展開しており、本サービスはそのうちウォレット機能に特化した製品です。料金は案件ごとの個別見積もりで、初期費用・月額費用とも要お問い合わせとなっています。
3. pokke(ポッケ)(株式会社PBADAO)

NFC(近距離無線通信)チップを内蔵した物理カードやリングにスマートフォンをタッチするだけで、ウォレット開設やNFTの受け取りができる体験型のハードウェアウォレットです。株式会社PBADAOが提供し、2023年10月に「NFTag」から名称を変更しました。
アプリと直接接続しないコールドウォレットとして設計され、後継版のpokke2では12語のシードフレーズに代えて、チップ内の不可視領域・アプリ・利用者が設定するパスワードを組み合わせて署名する方式を採用しています。
暗号資産の知識がない利用者でも、交通系ICカードと同じ「タッチする」操作で扱えるため、イベントやノベルティと連携したNFT配布に向きます。東急やNTTデータ、神戸市など、企業・自治体での導入が公表されています。
4. TRUSTAUTHY(Vlightup株式会社)

Vlightup株式会社が提供する、暗号資産・Web3向けのセキュリティ/コンプライアンス基盤です。ウォレットそのものではなく、秘密鍵やパスワードが漏れても許可された場所以外からは資産を操作できないようにする仕組みを、既存の運用に重ねて提供します。
衛星測位による位置情報認証と、秘密鍵を分散して署名する方式を組み合わせる構成で、事前に登録した場所からのアクセスかを検証し、許可外の場所からの操作や遠隔アクセスを遮断します。行動ログからリスクを評価する信用スコアの機能も備えます。
暗号資産取引所のエンタープライズウォレットや、ステーブルコインで高額決済を行う事業者を主な対象とします。提供はベータ段階で、料金は取引量やAPI利用数などを軸に個別設計され、要お問い合わせとなっています。
5. Ginco Enterprise Wallet(株式会社Ginco)

暗号資産交換業者や金融機関の業務利用を想定した、株式会社Gincoの業務用ウォレットシステムです。秘密鍵をHSM(ハードウェアセキュリティモジュール)と専用の署名用端末に分散して管理し、コールド・ホットの両形態に対応します。
導入する交換業者・金融機関が自ら鍵を保有・運用するノンカストディアル型でありながら、その事業者が自社の利用者(エンドユーザー)の資産を預かって管理するための基盤として使う、という二重の位置づけを持つ点が特徴です。
送金業務を「トランザクション作成」「署名」「内部承認」「ブロードキャスト」の工程に分け、各担当者が管理範囲外の工程を進められないよう権限を分散します。マルチシグでは署名に必要な鍵数を2-of-3や3-of-5などに調整でき、送金先を登録済みアドレスに限るホワイトリストも備えます。
ISO/IEC 27001(2022年取得)に加え、Ginco Enterprise Walletを対象範囲に含むSOC2 Type IIの保証報告書を受領しています(いずれも会社本体での保有)。銀行・信託銀行のカストディや証券会社のセキュリティトークン管理など、金融機関向けの用途を想定しています。
6. Fireblocks(Fireblocks Inc.)

Fireblocks Inc.(米国)が提供する、機関投資家・企業向けのデジタル資産インフラです。MPCで秘密鍵のシェアを分離したセキュアハードウェアに分散し、鍵を単一の環境で完全な形に復元しない設計を採ります。
ロールベースのアクセス制御や送金ルールを自動適用するポリシーエンジン、API・SDKで組み込むウォレット提供(WaaS)などを備えます。自社運用ウォレットと預託(カストディ)の双方の運用に使える点が特徴です。
セキュリティ認証として、SOC 2 Type II、ISO/IEC 27001・27017・27018、CCSS Level IIIの取得を公表しています。英語での提供が中心で、日本市場向けの営業体制を整えつつある段階です。
7. Cobo(Cobo)

Cobo(シンガポール拠点)は、カストディとウォレットインフラを一つの基盤で提供する事業者です。カストディアル型と、MPCやスマートコントラクトを用いたノンカストディアル型のウォレットまでを横断して選べる「オムニカストディ」を掲げます。
API・SDKで組み込むWallet-as-a-Serviceでは、事業の要件に合わせて署名の要件をカスタマイズできます。80以上のブロックチェーンと3,000以上のトークンに対応すると自社が説明しています。
セキュリティ認証としてSOC 2 Type I・Type II、ISO/IEC 27001の取得と、4法域でのライセンス取得を説明しています。提供は英語が中心で、日本国内での提供実態は確認が必要です。
8. Ledger Enterprise(Ledger SAS)

フランスのLedger SASが企業向けに提供する、自己管理(セルフカストディ)型のSaaSです。ハードウェアウォレットで知られるLedger社のブランドで、顧客が常に秘密鍵を管理し、提供元も第三者も鍵にアクセスしない設計を原則とします。
秘密鍵はFIPS 140-2 Level 3認証のHSM内に保護され、ホワイトリストや金額上限、承認ステップ、引き出し遅延などの社内ポリシーを取引の各段で強制できます。マルチ承認のワークフローは完全に監査可能とされます。
マルチシグはスマートコントラクト規格のSafeプロトコル上に構築したセルフサーブ型で、Clear Signingに対応します。ハードウェア・ソフトウェア・ファームウェアを一体で提供し、提供は英語が中心で、国内導入の実態は確認が必要です。
9. GK8 by Galaxy(GK8 Ltd.)

GK8 by Galaxy は、金融機関が自ら鍵を保有・運用するためのデジタル資産カストディ技術を提供します。事業者に資産を預ける形とは異なり、導入企業が自社のガバナンスの下で鍵を管理する自社運用のモデルです。GK8 Ltd.(Galaxy Digital Holdings傘下)が開発しています。
完全にオフラインで送金トランザクションを作成・署名・送信できるair-gapped方式のコールド基盤「Impenetrable Vault」と、鍵シェアを分散し高頻度取引に向くMPCボールト「uMPC」を、用途で使い分けるハイブリッド構成を採ります。
導入はオンプレミス・クラウド・ハイブリッドから選べ、導入企業の規制要件に合わせて構成できます。セキュリティ認証としてISO/IEC 27001:2022とSOC 2 Type 2の取得を公表しています。国内での提供実態は確認が必要です。
事業者に預けるカストディアル型(預託・資産管理)
秘密鍵の保管・署名を規制対応の専門事業者に委託し、運用負荷を抑えながら資産を保管するタイプのサービスです。分別管理や保険、第三者認証などによる資産保全の体制が選定の論点になります。
10. BitGo(BitGo Holdings, Inc.)

BitGoは、2013年に設立された米国の事業者で、機関投資家・企業向けに暗号資産のカストディとウォレットを提供します。カストディ業務は州認可の信託会社であるBitGo Trust Companyが担い、適格カストディアン(Qualified Custodian)として位置づけられます。
鍵管理は、対応チェーンではネイティブのマルチシグ、非対応チェーンではMPCを使い分け、秘密鍵を1か所に集中させない設計です。顧客資産は自己の資産と混ぜず、貸し出しも行わない運用を掲げています。
セキュリティ面ではSOC 2 Type IIのフレームワークに基づく統制を敷き、適格カストディアンとして最大2.5億ドルの保険を付保します。カストディと自己管理型ウォレットの双方を提供しており、規制対応を重視して大口資産を預けたい法人が対象です。
11. Copper(Copper Technologies (UK) Limited)

英国ロンドンに本社を置くCopper Technologiesが2018年から提供するのが、機関投資家向けのデジタル資産カストディ・プライムサービス・決済基盤「Copper」です。鍵の保管から取引・決済までを一つの基盤で扱えるように設計されています。
鍵管理はMPCを用い、鍵シャードを分離して独立に生成したうえで、顧客・Copper・信頼できる第三者による2-of-3のクォーラムで署名します。一人の判断や単一の鍵だけでは資産を動かせない相互牽制の設計です。
中核の「ClearLoop」は、資産を取引所に移さずにリアルタイムで決済できるオフエクスチェンジ決済の仕組みで、取引相手先リスクの低減を狙います。SOC 2 Type IIとISO/IEC 27001を取得しており、多数の取引所や資産に接続して資産を運用したい法人が対象です。
12. Komainu(Komainu (Jersey) Limited)

Komainuは、野村ホールディングス・デジタル資産運用のCoinShares・暗号資産セキュリティのLedgerが設立した合弁事業で、2020年から機関投資家向けの規制対応カストディを提供します。運営はジャージー島のKomainu (Jersey) Limitedが担います。
Komainu (Jersey) はジャージー金融サービス委員会(JFSC)、ドバイ拠点はVARAの規制下で運営し、複数のデジタル資産に対応した保険付きのカストディを提供します。Copperの決済ネットワークと連携したオフエクスチェンジ決済にも対応します。
親会社に野村グループを持ち、2023年にはCrypto Garageと提携して日本の機関投資家向けの暗号資産導入を促す取り組みを発表しています。伝統的金融のガバナンスと暗号資産のセキュリティを併せ持つ点を掲げ、規制対応を重視する機関が対象です。
13. Anchorage Digital(Anchor Labs, Inc.)

Anchorage Digitalの中核を担うのは、米国OCC(通貨監督庁)から国法信託銀行の連邦免許を取得した子会社Anchorage Digital Bank, N.A.です。親会社のAnchor Labs, Inc.が2017年に立ち上げた、機関投資家向けの暗号資産カストディ事業者です。
顧客資産を分別管理し、かつ倒産隔離(bankruptcy-remote)の構造で保管する点を掲げ、SECの適格カストディアンを訴求します。鍵管理はHSMで保護したコールドストレージとMPCベースの署名を組み合わせ、ポリシーに基づく承認フローで運用します。
SOC 1/SOC 2 Type IIの監査済み統制を備え、カストディに加えてEthereumやSolanaなど複数ネットワークのステーキング、ガバナンスといった付帯サービスも提供します。規制ステータスの明確さを重視する機関が対象です。
14. Zodia Custody(Zodia Custody Limited)

Standard CharteredとNorthern Trustが2020年に設立し、SBIグループやNational Australia Bankなどの金融機関も出資してきたのが、機関投資家向けの規制対応カストディ事業者Zodia Custody(英国)です。2026年にStandard Charteredが同社の暗号資産カストディ事業を取得しました。
MPCのホット運用を中心とするSaaS型とは異なり、「コールドウォレット・バイ・デザイン」を掲げ、エアギャップのコールドストレージを基本設計とします。顧客資産は信託法の下で完全に分別管理し、再担保を行わないポリシーを取ります。
決済ネットワーク「Interchange」により、資産をカストディの外に出さずに取引・貸借・運用ができる点を訴求します。ISO/IEC 27001やSOC準拠の統制、資産犯罪・サイバーリスクの保険を備え、英国FCA登録のもと複数の法域で機関投資家にサービスを提供します。
15. Hex Trust(Hex Trust)

Hex Trustは、香港を拠点にアジア太平洋・中東・欧州で展開する、機関投資家向けのデジタル資産カストディ事業者です。2018年の設立以降、香港のTrust and Company Service Provider、シンガポールのMAS Major Payment Institution、ドバイのVARAなど複数の法域でライセンス・登録を得ています。
鍵管理にはFIPS 140-2 Level 3認証のHSMを用い、マルチシグ承認と資産分別を基盤とします。対応範囲は25以上のブロックチェーンにおよび、Bitcoin・Ethereum・Solanaなどを扱えます。
カストディに加えて、OTC決済やレンディング、ステーキング、トークンラッピング、ウェルスマネジメント(Aura)などの付帯サービスを提供します。SOC 2 Type II(AssuranceLab)やISO/IEC 27001の認証、AONが手配する保険を備え、アジアを軸に規制対応のカストディを求める機関が対象です。
国内外の提供事業者の動向
ここまで個別に見たサービスを、提供事業者の構成という視点で捉え直します。国内ベンダーの層の薄さと外資先行という構造をつかむと、候補の絞り込みがしやすくなります。
国内では、法人向けに秘密鍵管理や運用ウォレットを提供するベンダーが、暗号資産交換業者・金融機関向けの業務用ウォレットを手がける事業者を中心に育ってきました。トークン発行や NFT の受け渡しといった用途に特化した国内スタートアップも参入していますが、機関投資家が扱うような大口資産の保管を専門に担う純粋なカストディ事業者は、国内にはまだ限られているのが実情です。
一方、機関投資家向けの大規模なカストディや、複数チェーンに対応する鍵管理基盤の領域は、海外の事業者が先行しています。適格カストディアンとして規制下で資産を預かる事業者や、MPC を用いた機関向けウォレット基盤を提供する事業者は、その多くが海外で事業を確立し、日本市場へは提携や営業体制の構築を通じて段階的に展開を進めています。
事業者に預けるカストディアル型を選ぶ場合、国内には資金決済法上の登録を受けて法人の資産を預かるカストディ事業者が限られ、機関投資家向けの大口保管では海外の事業者が選択肢の多くを占めています。
海外の事業者に預ける際は、その事業者が日本の法人にサービスを提供しているか、どの国の規制下にあり日本で登録を受けているかを確認する必要があります。後述の規制の節で触れるとおり、委託先が登録を受けた事業者かどうかは、稟議や監査を通すうえでの確認軸になります。
したがって法人が選択肢を検討する際は、国内で日本語のサポートや契約体制が整った事業者と、海外発で機能・実績が厚い事業者の双方を視野に入れ、自社の保管規模と運用体制に照らして候補を絞ることになります。
自社に合うウォレット・カストディの選び方
ここからは、用途や要件に照らして保管手段を絞り込むための観点を整理します。以下の問いに自社の状況を当てはめると、候補のタイプとサービスが見えてきます。
自社で鍵を保有すべきか、事業者に預けるべきか
最初の分岐は、資産を動かす権限を自社に置くか委託先に置くかです。トークンを自社で発行する、預け先の破綻・凍結リスクを避けたい、運用ポリシーを自社の裁量で設計したいといった要件があれば、自社で鍵を持つノンカストディアル型が軸になります。
逆に、鍵管理の専門体制を自社で持つ余力がなく、運用負荷を抑えて規制対応済みの事業者に任せたい場合は、カストディアル型が現実的です。保有量が大きく監査対応が重い場合は、資産保全の体制が整ったカストディアル型か、内部統制を組み込めるノンカストディアル型かを、社内リソースと照らして判断することが重要です。
秘密鍵の管理方式は自社の内部統制と合っているか
ノンカストディアル型を検討するなら、自社の内部統制の要件をサービスの機能でそのまま実現できるかを確認することが求められます。具体的には、送金の起案者と承認者を分離できるか、一定額以上に追加承認を課せるか、鍵の断片を誰がどこに保管し、どの承認をそろえれば送金できるかを、自社の職務分掌に照らして確かめておきましょう。
日常的に動かさない資産はコールドウォレットで保管し、出金に使う分だけホットウォレットに置く使い分けができるかも、外部ハッキングへの備えとして確認しておきたいポイントです。
対応チェーン・資産と業務要件が合っているか
扱う暗号資産やトークンが、そのサービスの対応チェーン・対応資産に含まれるかを確かめておきましょう。複数のチェーンにまたがって資産を扱う場合、チェーンごとに別のツールを併用すると運用が煩雑になるため、必要なチェーンを1つの基盤で扱えるかが効いてきます。将来的に扱う資産を増やす計画があるなら、対応範囲の拡張性も含めて見ておくと、乗り換えの手戻りを避けられます。
委託先の規制適合・資産保全を確認できるか
事業者に預けるカストディアル型では、委託先が資金決済法上の登録を受けているか、利用者資産を自己資産と分別して管理しているか、分別管理の状況について監査を受けているかを確認できることが、稟議や監査を通すうえで重要になります。
第三者によるセキュリティ認証の取得状況や、資産の保全を裏づける保険・信託の有無も、資産保全の観点で確認軸になります。これらを開示・説明できる事業者かどうかが、選定の分かれ目です。詳しくは次の規制の節で整理します。
導入・運用のコストと社内リソースに見合うか
導入形態が SaaS・API・オンプレのいずれかによって、初期の構築負担と運用のしやすさが変わります。自社にブロックチェーンや鍵管理に明るい人材がどの程度いるかによって、どこまで自社で運用しどこから事業者に任せるかの線引きが決まります。
料金体系も、保有資産額に応じた課金か、利用機能に応じた課金かで総コストの見え方が変わるため、想定する保管規模と運用頻度に当てはめて試算し、社内リソースに見合うかを見極めることが求められます。
暗号資産カストディに関わる規制(資金決済法の分別管理・カストディ規制)
ここでは、保管手段を選ぶうえで確認しておきたい規制を、資金決済法と金融庁の事務ガイドラインに沿って整理します。要点は、これらの規制が主にかかるのは「他人のために暗号資産を管理する事業者」であり、自社の暗号資産を自社で保管する行為そのものではない、という点です(2026年9月時点の現行法令)。
カストディ(暗号資産の管理)が規制の対象になる理由
資金決済に関する法律(資金決済法)は、他人のために暗号資産を管理する行為(いわゆるカストディ業務)を「暗号資産交換業」に含めています。
この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「暗号資産の交換等」とは、第一号又は第二号に掲げる行為をいい、「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。
出典:資金決済に関する法律 第2条第15項|e-Gov法令検索
四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。
この「他人のために暗号資産の管理をすること」を暗号資産交換業に含める枠組みは、2019年(令和元年)の資金決済法改正で導入され、2020年(令和2年)5月1日に施行されました。さらに、暗号資産交換業は「内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行ってはならない」(第63条の2)と定められており、他人の暗号資産を預かって管理する事業者は登録が必要です。
裏を返せば、自社の暗号資産を自社で保管するノンカストディアル型は「他人のための管理」ではないため、この登録・カストディ規制の対象外です。事業者に預ける場合に、その委託先が登録を受けているかが確認軸になります。
出典・参考資料(2件)
委託先事業者に求められる分別管理・信託・監査
暗号資産交換業者は、利用者から預かった金銭と暗号資産を自己の資産と分けて管理する「分別管理」の義務を負い、その状況について定期的に公認会計士または監査法人の監査を受けなければなりません。委託先を選ぶ際は、これらが履行されているかが資産保全の裏づけになります。
暗号資産交換業者は、その行う暗号資産交換業に関して、暗号資産交換業の利用者の金銭を、自己の金銭と分別して管理し、内閣府令で定めるところにより、信託会社等に信託しなければならない。
出典:資金決済に関する法律 第63条の11(利用者財産の管理)|e-Gov法令検索
2 暗号資産交換業者は、その行う暗号資産交換業に関して、内閣府令で定めるところにより、暗号資産交換業の利用者の暗号資産を自己の暗号資産と分別して管理しなければならない。(略)
3 暗号資産交換業者は、前二項の規定による管理の状況について、内閣府令で定めるところにより、定期に、公認会計士又は監査法人の監査を受けなければならない。
利用者の金銭は信託会社等への信託が求められ、利用者の暗号資産は自己の暗号資産と分別したうえで、利用者保護に欠けるおそれが少ない方法で管理することが求められます。委託先の選定にあたっては、この分別管理と監査が実施されているかを、事業者の説明や開示で確認できることが望まれます。
コールドウォレット管理と履行保証暗号資産による保全
利用者の暗号資産を管理する方法について、金融庁の事務ガイドラインは、原則としてコールドウォレット等で管理することを求めています。コールドウォレットとは、送金に必要な秘密鍵を常時インターネットに接続していない機器等に記録して管理する方法を指します。
自己で対象暗号資産を管理する場合には、法第63条の11第2項及び内閣府令第27条第2項で定める要件に該当する受託暗号資産(以下「対象受託暗号資産」という。)を除き、当該対象暗号資産が外部に流出することがないよう、当該対象暗号資産を移転するために必要な秘密鍵等を、常時インターネットに接続していない電子機器等に記録して管理する方法その他これと同等の技術的安全管理措置を講じて管理する方法(以下、「コールドウォレット等」という。)により管理しているか。
出典:事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)16 暗号資産交換業者関係 Ⅱ-2-2-3|金融庁
一方で、出金などの都合でインターネットに接続したホットウォレットに残す分については、それと同じ種類・数量の暗号資産を交換業者が自己の資産として保有し、分別して管理する仕組みが設けられています。これは「履行保証暗号資産」と呼ばれ、資金決済法第63条の11の2は、ホットウォレット管理分と「同じ種類及び数量」の暗号資産を自己資産として保有することを事業者に求めています。
破綻や流出が起きた場合の利用者保護の裏づけです。委託先を評価する際は、原則コールドウォレット管理か、ホットウォレット分の保全がどう担保されているかを、この枠組みに照らして確認できると安心につながります。
出典・参考資料(1件)
保管の体制と規制対応を整えたうえで、法人が暗号資産を保有・運用する際にもう一つ避けて通れないのが、期末の評価や仕訳といった会計・税務の実務です。複数の取引所やウォレットにまたがる取引履歴を集約し、損益計算や決算作業をツールで効率化する方法は、以下の記事で整理しています。
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まとめ
法人の保管手段選びは、鍵の保管責任を自社が引き受けるか、専門事業者に委ねるかで大きく二分されます。自社で鍵を持つノンカストディアル型は、預け先リスクを避け運用ポリシーを自社で設計できる代わりに、鍵管理と内部統制の責任を負います。事業者に預けるカストディアル型は、運用負荷を抑えられる代わりに、委託先の規制適合と資産保全の確認が前提になります。
いずれのタイプでも、MPC・マルチシグ・HSM による鍵の分散管理、コールドウォレットとホットウォレットの使い分け、承認フローと監査ログによる内部統制が、紛失・漏えい・ハッキング・内部不正・預け先の破綻といったリスクを抑える鍵になります。
委託先を選ぶ場合は、資金決済法上の登録・分別管理・監査、原則コールドウォレット管理や履行保証暗号資産による保全を確認できるかが、稟議や監査を通す根拠になります。自社の保管規模・運用体制・扱う資産に照らし、比較表と診断ツールで候補を絞り込んだうえで、各サービスの資料で詳細を確認することをおすすめします。
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よくある質問(FAQ)
Q. 暗号資産のカストディ(カストディアル型)とは何ですか?
A. 暗号資産のカストディ(カストディアル型)とは、利用者に代わって事業者が秘密鍵を保管・署名し、暗号資産を預かって管理することです。日本では「他人のために暗号資産を管理する」行為として資金決済法上の暗号資産交換業に含まれ、事業者は内閣総理大臣の登録を受ける必要があります。これに対し、自社の暗号資産を自社で保管するノンカストディアル型は、この「他人のための管理」には当たりません。
Q. 暗号資産ウォレットの秘密鍵とは何ですか?
A. 秘密鍵とは、ブロックチェーン上の暗号資産を動かす権限そのものを握る文字列です。暗号資産ウォレットは資産を保管する財布ではなく、この秘密鍵を管理して送金時に電子署名を行うためのツールです。秘密鍵や、それを復元するためのシードフレーズを失えば資産を動かせなくなり、第三者に知られれば資産を奪われるため、これをいかに安全に保持するかが保管の核心になります。
Q. カストディアル型とノンカストディアル型の違いは何ですか?
A. 両者の違いは、秘密鍵を誰が管理するかです。カストディアル型は鍵の保管・署名を事業者に委託する預託型、ノンカストディアル型は自社(利用者)が鍵を保有・署名する自己管理型です。運用負荷を抑えて規制対応済みの事業者に任せたいならカストディアル型、預け先の破綻・凍結を避け、資産を動かす権限を自社で完結して握りたいならノンカストディアル型が検討の軸になります。
Q. ノンカストディアル型(自社で鍵を持つ保管)は安全ですか?
A. ノンカストディアル型は、資産を動かす権限を自社で完結して握れる一方、秘密鍵を失えば資産を復元できない不可逆なリスクを自社で引き受ける方式です。預け先の破綻や凍結の影響は受けにくい反面、鍵の保管・バックアップ・署名権限の設計は自社の責任になります。法人では、MPC・マルチシグで鍵を分割し、承認ワークフローや監査ログで内部統制を組むことで、この負担と、単一障害点・内部不正のリスクを抑えます。
Q. カストディアル型(事業者に預ける保管)の主なリスクは何ですか?
A. カストディアル型の主なリスクは、資産の安全性が預け先の事業者の管理体制と信用力に依存する点です。事業者がハッキングを受けたり、経営破綻や口座凍結に至れば、自社の資産アクセスが影響を受けます。
過去には大手取引所の破綻により、預けた資産の引き出しが困難になった事例も国内外で発生しました。委託先が資金決済法上の登録を受け、分別管理・監査・資産保全を担保しているかを確認できることが、このリスクを抑える前提になります。
Q. MPCとマルチシグは何が違いますか?
A. 両者の違いは、鍵を「1つも復元しないまま分散する」か、「複数の完全な鍵で分散する」かです。MPC(マルチパーティ計算)は1つの秘密鍵を作らず、複数の鍵の断片を使って鍵を復元しないまま共同で署名し、ブロックチェーン上は通常の1つの署名として扱われます。
マルチシグ(複数署名)は複数の秘密鍵による署名を必要とし、「2-of-3」のように送金に必要な署名数をブロックチェーンの機能として設定します。いずれも鍵を1か所に集中させず、単一障害点と内部不正を抑える狙いは共通します。
Q. 法人が自社で暗号資産を保管する場合、資金決済法上の登録は必要ですか?
A. 自社の暗号資産を自社で保管するノンカストディアル型は、「他人のための暗号資産の管理」に当たらないため、暗号資産交換業の登録や分別管理義務の対象外です(2026年9月時点の現行法令)。一方、他人の暗号資産を預かって管理する事業者は登録が必要で、分別管理や定期監査の義務を負います。したがって、事業者に預けるカストディアル型を選ぶ場合は、その委託先が登録を受けているかが確認軸になります。
Q. 暗号資産の秘密鍵を紛失したら資産はどうなりますか?
A. 秘密鍵やシードフレーズを紛失すると、原則として暗号資産を動かす権限そのものが失われ、資産を復元できません。この不可逆性に備えるため、ノンカストディアル型ではMPCやマルチシグで鍵を分割し、1つの鍵や端末を失っても資産を動かせる冗長性を持たせる運用が一般的です。
カストディアル型では事業者が鍵の管理・復旧を担うため、利用者が鍵を直接失う事態は避けられますが、その分、預け先の管理体制に依存することになります。
Q. 法人向け暗号資産ウォレット・カストディサービスの料金相場はどのくらいですか?
A. 法人向けサービスの料金は、月額固定のサブスクリプション型と、保有資産額や取引量に応じた個別見積もり型に大きく分かれます。自社運用ウォレットには、利用ユーザー数に応じて月額数万円台から始まるプランを公開している例があります。
一方、機関投資家向けの大口カストディや高機能な鍵管理基盤は、価格を公開しない事業者が多く見られます。保管規模・対応資産・求められる内部統制やレポーティングが導入先ごとに大きく異なり、個別に設計しないと価格を提示しにくいためです。
比較する際は、見積もり依頼で課金モデル(月額固定/保有資産額連動/取引量連動)・初期費用・最低契約期間や最低利用額・対応資産の範囲をそろえて尋ねると、事業者間の総コストを同じ土俵で比べやすくなります。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。
















