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秘密鍵の管理方法とは?保管方式の種類・選び方と法人の暗号資産を守る運用ルールを解説

秘密鍵の管理方法とは?種類・選び方と法人の運用ルールのサムネイル画像

暗号資産やデジタル資産を扱うとき、その所有と移転のすべては「秘密鍵」に握られています。鍵を失えば資産は二度と動かせず、鍵が漏れれば資産は一瞬で持ち去られます。だからこそ「秘密鍵をどう管理すればよいのか」は、暗号資産を保有・運用するすべての事業者にとって避けて通れない問いです。

ただ、「秘密鍵」という言葉は指すものが一つではありません。暗号資産ウォレットの鍵もあれば、通信を守るTLS証明書やデータ暗号化の鍵、開発現場で使うSSHキーやAPIキーといった機密情報も同じ「秘密鍵」と呼ばれます。検索して出てくる情報がかみ合わないと感じるのは、この3つが混ざっているためです。

本記事では、まず自分がどのケースを扱っているのかを切り分けたうえで、法人が自社の暗号資産・デジタル資産の秘密鍵をどう保管し、誰が承認して動かすかに焦点を当てて解説します。

紙やハードウェアウォレットからHSM・マルチシグ・MPC、外部カストディの委託まで、保管方式ごとの守備範囲と弱点を一覧で比較し、鍵のライフサイクルの運用ルール、自己管理と委託の選び方、国内の規制、漏洩・紛失時の対処までを解説します。

暗号資産ウォレット・カストディの関連サービス資料
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秘密鍵の管理方法とは?まず「自分のケース」を切り分ける

秘密鍵の管理方法を考える前に、自分が守ろうとしている鍵がどの種類なのかをはっきりさせると、必要な対策が一気に絞り込めます。ここでは3つのケースを切り分け、本記事が主に扱う範囲を示します。

秘密鍵とは(暗号資産の鍵/暗号化・PKIの鍵/開発シークレットの違い)

秘密鍵とは、暗号技術で「本人だけが持つべき秘密の情報」の総称です。用途によって次の3つに大きく分かれ、それぞれ守り方の勘所が異なります。

  • 暗号資産ウォレットの秘密鍵:ビットコインやイーサリアムなどの資産を動かす署名に使う鍵。漏れれば資産を直接送金されてしまい、失えば資産へアクセスできなくなります。ニーモニック(シードフレーズ)はこの鍵を復元するための言葉の列です。
  • 暗号化・PKIの鍵:TLS/SSL通信やデータ暗号化、電子署名に使う鍵(PKIは公開鍵基盤の略)。Webサーバーや社内システムの安全性を支えます。IPAやNISTが管理の枠組みを体系化している領域です。
  • 開発シークレット:SSHキー、APIキー、署名用のGnuPG鍵など、開発・運用で使う機密情報。ソースコードのリポジトリに誤って置いてしまう事故が典型的なリスクです。

いずれの鍵も「安全に生成し、安全に保管し、必要な人だけが使い、役目を終えたら安全に廃棄する」という管理の考え方は共通します。暗号鍵管理の一般的な枠組みは、情報処理推進機構(IPA)と暗号技術評価プロジェクト(CRYPTREC)が「暗号鍵管理システム設計指針」として、また米国国立標準技術研究所(NIST)が「SP 800-57」として体系化しています。

出典・参考資料(2件)

個人か法人か/本記事が主に扱う範囲

同じ暗号資産の秘密鍵でも、個人が自分の資産を守る場合と、法人が事業として保有・運用する資産を守る場合とでは、求められる体制が変わります。個人であれば、ハードウェアウォレットとシードフレーズの安全な保管が中心になります。一方、法人では、誰が鍵を持つか、「誰が承認して動かすか」「担当者が替わったときにどうするか」といった、組織としての運用設計が欠かせません。

本記事は、このうち法人が自社の暗号資産・デジタル資産の秘密鍵をどう管理するかを中心に扱います。TLS/PKIの鍵や開発シークレットの管理は別の専門領域のため、必要に応じて前掲のIPA・NISTの枠組みや各クラウドの鍵管理サービスのドキュメントを参照してください。

秘密鍵の保管方式を一覧で比較(方式×守備範囲・弱点×向く利用者)

ここからは、暗号資産の秘密鍵を保管・運用する代表的な方式を、守備範囲(何に強いか)と弱点(何に注意が必要か)、向く利用者の観点で並べます。多くの現場では単独ではなく、コールド保管とマルチシグ、HSMと承認ワークフローのように組み合わせて使います。

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保管方式紙・ニーモニック(紙保管)ハードウェアウォレットホットウォレット(オンライン)コールドウォレット(オフライン)HSM(ハードウェアセキュリティモジュール)クラウドKMS(鍵管理サービス)マルチシグ(マルチシグネチャ)MPC/しきい値署名外部カストディ委託
仕組みの要点秘密鍵やシードフレーズを紙・金属プレートに書き出しオフライン保管秘密鍵を専用デバイス内に隔離し、署名だけをデバイス内で実行常時インターネットに接続した状態で鍵を保持し即時に送金秘密鍵を常時インターネットから切り離して保管し、署名時のみ限定的に扱う耐タンパー性(内部の情報を物理的に取り出せない性質)を持つ専用ハードウェア内で鍵を生成・保管・署名(例:Thales Luna、各クラウドの専用HSM)クラウド事業者が提供するマネージドな鍵管理・暗号化基盤(例:AWS KMS、Azure Key Vault、Google Cloud KMS)1つの送金に複数の秘密鍵による署名を必要とする(例:3つのうち2つ)秘密鍵そのものを1か所で生成せず、複数の要素(シェア)に分散して署名を生成暗号資産の保管・鍵管理を専門のカストディ事業者に委ねる
強み(守備範囲)ネット経由の攻撃を受けない。低コスト鍵をネットに晒さずに署名できる。持ち運びやすい入出金の即時性が高く、頻繁な取引に向くオンライン攻撃の経路を断てる。大口資産の保管に適する鍵の抽出を物理的に防ぐ。可用性・監査性が高い導入が手軽でコスト効率が良く、権限管理・監査ログが整う単一の鍵漏洩・単独犯行では資産を動かせない。相互牽制を組み込める完全な鍵が一度も出現しない。チェーンを問わず適用しやすくシードフレーズ依存を避けられる自社で高度な鍵運用体制を持たずに済む。規制対応・監査を事業者が担う
弱み・注意点物理的な紛失・焼失・盗難・撮影に弱い。単独では組織運用に不向きデバイスの紛失・故障に備えた復元設計が必須。多人数運用や大量処理には煩雑ネット接続ゆえに攻撃対象になりやすい。保有額を絞る運用が前提署名のたびに手間がかかり即時性は低い。運用手順の設計が要る導入・運用コストが高く、専門知識が要る暗号鍵一般向けが主で、暗号資産ウォレット固有の運用は別途設計が要る対応するブロックチェーンが限られる場合がある。鍵の分散管理が要る実装・運用がブラックボックスになりやすく、事業者選定が重要委託先の信頼性・分別管理・可用性の見極めが要る。手数料が発生する
向く利用者個人、少額・長期保管のバックアップ用途個人、小規模な事業者の自己管理頻繁な少額決済、取引の即時性が要る業務大口・長期保有の法人、交換業者の利用者資産保管金融機関・交換業者など高いセキュリティが要る法人暗号鍵一般の管理、クラウド基盤を持つ事業者組織で権限を分けたい法人、共同管理複数拠点・複数人で鍵を分散したい法人自社で運用体制を持ちにくい事業者、大口資産

主な秘密鍵の保管方式と守備範囲(2026年9月時点の一般的な整理)

特に法人でよく論点になるのが、マルチシグとMPCの違いです。マルチシグは複数の完全な秘密鍵をブロックチェーンの仕組みで束ね、規定数の署名がそろって初めて送金できる方式です。MPC(Multi-Party Computation:秘密鍵を1か所で生成せず、複数の要素に分散したまま署名を計算する技術)は、そもそも完全な秘密鍵をどこにも作らない点が異なります。

この違いは実運用に効きます。マルチシグはブロックチェーン側の機能を使うため対応チェーンが限られることがあり、署名者の構成変更はオンチェーンの操作を伴います。MPCはチェーンに依存せず適用でき、シェアの再生成で復旧できるためシードフレーズへの依存を避けられます。自社が扱うチェーンの範囲と、鍵を失ったときの復旧のしやすさで選ぶのが実務的です。

鍵のライフサイクルと運用ルール(生成・保管・バックアップ・ローテーション・廃棄)

秘密鍵は「作って保管して終わり」ではありません。生成から廃棄までの各段階でリスクと対策が変わります。NISTのSP 800-57は鍵の状態を6種類(使用前・稼働・停止・失効・危殆化・破棄)、鍵管理を4つのフェーズに整理しており、ここでは実務に落とし込みやすいよう5つの段階で押さえます。

出典・参考資料(1件)

各段階(生成→保管→バックアップ→ローテーション→廃棄)のリスクと対策

秘密鍵のライフサイクルを5段階で示した図。生成(オフライン環境やHSM・MPCなど生成過程を守れる方式で作る)、保管(資産規模とリスクに見合う方式を選び大口はコールドが基本)、バックアップ(復元テストまで実施し保管場所を分散・アクセスを限定)、ローテーション(定期更新で悪用リスクを下げ異動・退職時は必ず見直す)、廃棄(不要な鍵とそのバックアップを確実に無効化・消去)の順に矢印でつないでいる。

生成の段階では、乱数の質と生成環境が要点です。予測されやすい乱数や、マルウェアに汚染された端末で鍵を作ると、その時点で漏洩の芽を抱えます。オフライン環境やHSM・MPCなど、鍵の生成過程を守れる方式で作るのが基本です。

保管では、前掲の保管方式のうち資産規模とリスクに見合ったものを選びます。大口はコールドを基本に、日常的に動かす分だけをホットに置き、その保有額を絞るのが定石です。

バックアップは「取って満足」で終わらせないことが肝心です。バックアップから実際に鍵を復元できるかを事前に確認し、保管場所を分散し、アクセスできる人を限定することが求められます。復元テストをしていないバックアップは、いざというときに使えないことがあります。

ローテーション(鍵の定期的な更新)は、鍵が長期間使われるほど漏洩に気づけないまま悪用され続けるリスクを下げます。ただし更新頻度に唯一の正解はなく、NISTやIPAも用途やアルゴリズムに応じて期間(クリプトピリオド)を定める考え方を示しています。頻度は自社のリスク評価に基づいて定め、担当者の異動・退職の際には必ず見直すのが基本です。

廃棄では、不要になった鍵とそのバックアップを確実に無効化・消去することが求められます。消したつもりのバックアップが残っていると、そこが侵入口になります。

法人の鍵管理ベストプラクティス(運用チェックリスト)

組織で秘密鍵を扱うときに、最低限おさえておきたい運用の勘所を整理します。

  • 大口資産はコールドで保管し、オンラインに置く額を必要最小限に絞る
  • マルチシグやMPCで、単一の鍵・単独の担当者では資産を動かせないようにする
  • 送金を「申請」「承認」「実行」に分け、役割ごとに権限を分掌する(たとえば事業・経理の担当者が申請し、セキュリティ責任者が承認、運用担当が実行する、といった分担)
  • 操作の履歴を監査ログとして残し、誰がいつ何をしたかを追えるようにする
  • バックアップは復元テストまで実施し、保管場所とアクセス権を分散・限定する
  • 担当者の異動・退職時に鍵と権限を棚卸しし、必要に応じてローテーションする
送金の権限分掌を3段階で示した図。申請(事業・経理の担当者が送金を起票する)、承認(セキュリティ責任者が内容を承認する)、実行(運用担当が送金を実行する)を矢印でつなぎ、役割ごとに権限を分けて単独では資産を動かせないようにする流れを表す。

法人が暗号資産の秘密鍵を管理する方法:自己管理と外部カストディ委託の比較

法人が暗号資産の秘密鍵を管理する道は、大きく「自社で鍵を持つ自己管理」と「専門の事業者に委ねる外部カストディ委託」に分かれます。ここからは、それぞれの中身と選び方を整理し、実際に法人向けの鍵管理・ウォレットを提供しているサービスを具体例として紹介します。

自己管理と外部カストディ委託を2列で比較した図。自己管理はコールド保管とマルチシグ/MPCで鍵を分散し権限分掌・監査ログで運用する方式で、裁量と機動力を保てる反面、保管・署名・復旧・権限管理を自社の責任で担い、運用・監査を担える体制がある法人に向く。外部カストディ委託は保管と鍵管理を専門事業者に任せる方式で、高度な体制や規制対応を自社で抱えずに済む反面、委託先の信頼性・分別管理・可用性・手数料の見極めが要り、運用体制を持ちにくい事業者や大口資産に向く。資産規模・社内体制・規制や事業形態・可用性の4点で判断する。

自己管理(コールド+マルチシグ/MPC+権限分掌+監査ログ)

自己管理(ノンカストディ)は、鍵を自社で保持し、自社の判断で資産を動かせる方式です。裁量と機動力を保てる一方、鍵の保管・署名・復旧・権限管理のすべてを自社で設計・運用する責任を負います。実務では、コールド保管を基本にしつつ、マルチシグやMPCで鍵を分散し、送金を申請・承認・実行に分けて権限を分掌し、操作を監査ログに残す、という組み合わせが標準的です。

法人向けウォレット製品は、こうした運用をダッシュボードやワークフローとして提供し、自己管理のハードルを下げます。

外部カストディ委託(分別保管・鍵管理の代行)

外部カストディ委託は、暗号資産の保管と鍵管理を専門の事業者に任せる方式です。高度なセキュリティ体制や規制対応を自社で抱えずに済む一方、委託先の信頼性・分別管理の方法・出金の可用性・手数料を見極める必要があります。日本では、他人のために暗号資産を管理する事業者は暗号資産交換業として登録が求められ、利用者の資産を自己の資産と分別して管理する義務を負います(詳しくは次章)。

委託を検討する際は、この登録の有無と分別管理の方法が確認の起点になります。あわせて、コールド保管の比率、対応する暗号資産・チェーン、出金までの時間や停止時の対応、監査体制、手数料の体系(残高連動か取引連動か)が確認のポイントになります。

委託先となる事業者には、国内外のカストディ専業の事業者や、機関向けウォレット基盤を提供する事業者があります。国内では暗号資産交換業の登録を受けた事業者が利用者の資産の保管を担います。自社の状況に合う委託先を具体的に比較したい場合は、後掲の暗号資産ウォレット・カストディの比較記事で候補を確認してください。

自己管理と委託の選び方(判断軸)

どちらが適しているかは、次の観点を自社の状況に照らして考えると整理しやすくなります。

  • 資産規模:大口ほど、事故時の影響と求められる体制が大きくなります。委託や高度な自己管理製品の検討価値が上がります。
  • 社内体制:鍵運用・監査を担える人員がいるかどうか。体制が薄いなら委託や運用支援つきの製品が現実的です。
  • 規制・事業形態:他人の資産を預かる事業なら暗号資産交換業の枠組みが関わります。自社資産の運用かどうかで前提が変わります。
  • 可用性:どれだけ速く安全に送金する必要があるか。即時性と安全性のバランスで方式を選びます。

以下では、法人向けに秘密鍵の管理・署名の仕組みを提供するサービスを、狙いの異なる3タイプの例として取り上げます。鍵の保管・署名・承認までを一つの画面で回す業務用ウォレット、鍵管理方式を選べるWeb3ビジネス向けウォレットSaaS、そして署名を場所・時刻で縛って漏洩・内部不正に備える対策レイヤーです。市場にはほかにも多くの選択肢があり、ここで挙げるのはその一部です。

このうち3つ目のTRUSTAUTHYは、鍵の保管方式そのものではなく、既存の鍵運用に重ねて使う認証・対策レイヤーです。保管方式の比較軸とは別の役割を担う選択肢として並べています。

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比較項目N SuiteTRUSTAUTHYGinco Enterprise Wallet
提供会社double jump.tokyo株式会社Vlightup株式会社株式会社Ginco
タイプ(提供形態)法人向けウォレットSaaS
(自己管理を支援)
既存の対策に重ねる
セキュリティレイヤー
業務用ウォレットシステム
(交換業者・金融機関向け)
鍵管理方式マルチシグ/AWS KMS連携/MPCから選択。MPCは鍵を3分割し、N Suiteサーバーとモバイルアプリで分散MPCベースの分散署名(GeoMPC)と位置情報認証を組み合わせる。シードフレーズに依存しない設計を掲げる秘密鍵をHSMと専用署名端末に分散。署名端末は完全オフラインで保管し、生体認証で識別
マルチシグ/MPCマルチシグ・MPCとも対応(選択制)MPC中心。マルチシグは導入設計の選択肢として支援マルチシグ対応(2-of-3・3-of-5など署名数を調整可)。鍵管理はHSM分散方式
コールド保管対応MPCで鍵を分散管理(コールド専用製品ではない)署名を場所・時刻で制御する対策レイヤー(保管方式は既存体制に重畳)100%コールド管理が可能(署名端末は完全オフライン)。ホットも提供
承認ワークフロー・権限分掌申請→承認・署名→実行の3段階。Standardプランは申請履歴のCSV出力に対応エリア設定で重要操作を特定の場所・時刻からのみ署名可能に制御作成→署名→内部承認→送信の工程を分割。ホワイトリスト送金に対応
向く利用者Web3ビジネスを行う法人全般取引所のエンタープライズウォレット、高額なグローバル決済を行うB2B事業者暗号資産交換業者・金融機関
初期費用0円要問い合わせ要問い合わせ
月額費用45,000円〜
(Lite・年間契約、税抜)
要問い合わせ要問い合わせ
詳細情報公式資料を見る公式資料を見るサービス詳細を見る

1. N Suite(double jump.tokyo株式会社)

N Suiteのウェブサイト

N Suiteは、Web3ビジネスのための法人向けウォレットSaaSです。「MPC秘密鍵管理・承認ワークフロー・監査ログ」を統合し、鍵の持ち方から日々の送金オペレーションまでを一つの管理画面で回せる点が特徴です。

鍵管理方式はマルチシグ・AWS KMS連携・MPCから選べ、2024年12月提供開始のMPC方式では秘密鍵を3つのシェアに分割し、N Suiteサーバーとモバイルアプリで分散して管理します。

送金は「申請」「承認・署名」「実行」の3段階に分かれ、事業担当者と経理の分業や、役割ごとの権限分掌を設計できます。Standardプランでは申請履歴のCSVダウンロードに対応し、会計・監査の証跡づくりにも使えます。料金は年間契約でLiteが月額45,000円、Standardが月額180,000円(2026年9月時点、公式料金ページ)で、より大規模な利用やAPI提供の有無は要問い合わせです。

2. TRUSTAUTHY(Vlightup株式会社)

TRUSTAUTHYのウェブサイト

TRUSTAUTHY(トラストオーシー)は、位置情報と時刻を認証の要素に組み込み、既存のセキュリティに重ねて使う対策レイヤーです。準天頂衛星「みちびき」の高精度な位置情報を用い、「このエリアの中からでなければ署名できない」といった制御(エリア設定)で、重要操作を物理的な条件で縛れる点を訴求しています。

なりすましや不正アクセス、内部不正への対策として、暗号資産の署名執行に現実世界の条件を結びつけます。

鍵の管理では、MPCの考え方を用いてシードフレーズに依存しない形を目指し、アクセス権限を複数の場所に分散して、規定数の署名がそろえばリカバリーできる設計を掲げています。既存のセキュリティを全面的に置き換えるのではなく、重ねて多要素的に強化する導入の仕方を想定しています。料金はトランザクション量やAPI利用数、カストディ対象の残高などをもとに設計され、詳細は要問い合わせです。

位置情報と時刻を認証に組み込む発想の背景について、Vlightup株式会社の皆本氏は、従来の認証の考え方の限界を次のように述べています。

皆本氏
Vlightup株式会社 代表取締役
皆本氏
独自インタビューより

いま一般的な対策は、ID/パスワードやMFA、IP制限など“論理情報”が中心です。ただ、論理情報だけの防御では、AIで自動化される盗難や端末乗っ取りを防ぎきれない局面が増えてきています。AIの時代になると指紋や声みたいな情報も偽装が現実的になってきます。1回突破されると一気に抜かれるリスクがある。だからこそ、論理情報の世界だけで守る発想から一段上がって、物理的に改ざんしにくい「場所の事実」をセキュリティのレイヤーとして足すことに力を入れています。

重要なのは、既存の対策を否定することではありません。今ある仕組みは活かしつつ、突破されにくい条件をもう一段積み上げる。そのための選択肢として、位置情報と時刻を使う、という整理です。

3. Ginco Enterprise Wallet(株式会社Ginco)

Ginco Enterprise Walletのウェブサイト

暗号資産交換業者や金融機関の業務利用を想定して設計されているのが、株式会社GincoのGinco Enterprise Walletです。秘密鍵をHSMと専用の署名用端末に分散して管理し、署名用端末は完全にオフラインのまま保管して生体認証で利用者を識別します。コールドウォレットとホットウォレットの双方に対応し、顧客資産を100%コールドで管理し続けられる運用を訴求しています。

送金業務は「トランザクション作成」「署名」「内部承認」「ブロードキャスト」といった工程に分割され、各担当者が管理範囲外の工程を進められないよう権限を分散します。マルチシグは2-of-3や3-of-5のように必要な署名数を調整でき、組織の相互牽制を業務オペレーションに組み込めます。料金は要問い合わせで、導入相談はカタログのサービスページから確認できます。

国内の規制・実務(資金決済法のカストディ規制・分別管理・コールドウォレット保管)

法人が暗号資産の秘密鍵を扱う際の前提として、国内の規制の枠組みを押さえておきます。ここで重要なのは、規制の義務がかかる相手が誰か(名宛人)です。以下は法的な可否を断定するものではなく、実務上の留意点として整理します。個別の判断は監督官庁の公表資料や専門家に確認してください。

資金決済に関する法律(資金決済法)は、暗号資産交換業の定義のなかで「他人のために暗号資産の管理をすること」(いわゆるカストディ)を対象に含めています。2019年の改正(2020年5月1日施行、金融庁公表)で、暗号資産の売買・交換だけでなく、他人のための暗号資産の管理のみを行う事業者も暗号資産交換業として登録の対象になりました。

この法律において「暗号資産交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、(中略)「暗号資産の管理」とは、第四号に掲げる行為をいう。(中略)四 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)。

資金決済に関する法律 第2条第15項|e-Gov法令検索

分別管理などの義務が直接かかるのは、暗号資産交換業者(他人のために暗号資産を管理する事業者や、売買・交換を行う事業者)です。一般の事業会社が自社で保有する自社の暗号資産を自己管理するだけであれば、原則としてこの「他人のための管理」には当たりません。外部カストディに委託する場合は、委託先がこの規制の名宛人となるため、登録の有無と管理方法が委託先選定の確認点になります。

暗号資産交換業者には、利用者の暗号資産を自己の暗号資産と分別して管理する義務が課され、さらに「利用者の保護に欠けるおそれが少ない方法」で管理することが求められます。

暗号資産交換業者は、その行う暗号資産交換業に関して、内閣府令で定めるところにより、暗号資産交換業の利用者の暗号資産を自己の暗号資産と分別して管理しなければならない。この場合において、当該暗号資産交換業者は、利用者の暗号資産(中略)を利用者の保護に欠けるおそれが少ないものとして内閣府令で定める方法で管理しなければならない。

資金決済に関する法律 第63条の11第2項|e-Gov法令検索

この「内閣府令で定める方法」の具体が、コールドウォレットでの保管です。暗号資産交換業者に関する内閣府令は、利用者の暗号資産を移転するために必要な情報(=秘密鍵)を、常時インターネットに接続していない電子機器などに記録して管理する方法を求めています。

オンラインで持てるのは業務上必要な最小限度に限られます。同内閣府令第27条第2項は、この最小限度を「その管理する利用者の暗号資産の数量を本邦通貨に換算した金額に百分の五を乗じて得た金額を超えない場合に限る」と定めています。

さらに、そのホット保有分には、同種・同量の履行保証暗号資産を自己資産として持つ義務(資金決済法第63条の11の2)が対応します。

暗号資産交換業の利用者の暗号資産を移転するために必要な情報を、常時インターネットに接続していない電子機器、電磁的記録媒体(中略)その他の記録媒体(中略)に記録して管理する方法その他これと同等の技術的安全管理措置を講じて管理する方法

暗号資産交換業者に関する内閣府令 第27条第3項第一号|e-Gov法令検索

自社資産の自己管理には直接の法的義務が及ばない場合でも、これらの「コールド保管を原則とし、オンライン保有を絞り、裏付けを持つ」という考え方は、法人が自社のリスクを抑える運用設計のよりどころになります。

出典・参考資料(3件)

秘密鍵の漏洩・紛失時の対処と失敗事例

どれだけ備えても事故はゼロにはなりません。ここでは、漏洩・紛失が起きたときの初動と、過去の事例から学べる再発防止策を整理します。

漏洩・紛失時の初動対処(誰に・何を・どの順で動くか)

秘密鍵の漏洩や不正送金が疑われたときは、被害の拡大を止めることが最優先です。おおむね次の順で動きます。

  1. 疑わしい鍵・ウォレットからの送金を止め、まだ動かせる資産は安全な新しい鍵(未使用のコールド環境)へ退避する
  2. 影響範囲を特定する(どの鍵が・いつから・どの資産に影響するか、監査ログで追跡する)
  3. 社内の責任者・セキュリティ担当・法務に速やかに共有し、対応体制を立ち上げる
  4. 事業形態に応じて監督官庁・取引先・利用者への報告と、警察・専門家への相談を検討する
  5. 原因を究明し、漏れた鍵を廃棄したうえで、体制を立て直す

紛失(鍵やシードフレーズを失った)の場合は、事前に用意したバックアップやマルチシグ・MPCの復旧手順が頼りになります。裏を返せば、平時に復元テストと復旧設計をしていなければ、失った資産は取り戻せません。

失敗事例と再発防止策(コインチェック等の公開事例に学ぶ)

国内で広く知られる事例が、2018年のコインチェックの流出事案です。関東財務局・金融庁の公表によれば、2018年1月26日に不正アクセスを受け、インターネットに接続された状態で管理していた暗号資産NEMが外部に不正送信されました。同社はその後、2018年1月29日と3月8日の2回にわたり、資金決済法にもとづく業務改善命令を受けています(当時は登録審査中のみなし交換業者)。

流出額は約580億円相当、対象は約26万人とされます(いずれも同社発表にもとづく各社報道による数値で、当局の公表資料で確認できたものではありません)。

この事案の教訓は明快です。ネットに接続したまま大口を保管していたことが被害を大きくしました。裏返せば、コールド保管を原則にオンライン保有を絞る、マルチシグで単独犯行を防ぐ、送金を権限分掌して監査ログを残す、という再現可能な対策が効きます。前章で見た分別管理・コールド保管・履行保証暗号資産といった制度整備は、まさにこうした事故を踏まえて進められたものです。

出典・参考資料(2件)

コインチェックのような流出事案の背景には、フィッシングやマルウェア、内部犯行、ブロックチェーンの脆弱性の悪用など、多様な攻撃手口があります。実際のハッキングの手口と、国内の暗号資産取引所が講じているセキュリティ対策を具体的に知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

まとめ

秘密鍵の管理は、まず自分が守る鍵の種類を切り分け、資産規模とリスク・体制に見合った保管方式を選ぶところから始まります。法人が暗号資産を扱うなら、コールド保管を基本に、マルチシグやMPCで鍵を分散し、送金を申請・承認・実行に分けて権限を分掌し、監査ログで追跡できる状態をつくることが要点です。

自社で運用体制を持ちにくい場合は、暗号資産交換業として登録され分別管理を行う外部カストディへの委託も選択肢になります。

自社に合う方式や、法人向けのウォレット・カストディの選択肢をさらに比較したい場合は、暗号資産ウォレット・カストディの比較記事もあわせて参考にしてください。鍵管理方式・コールド対応・承認ワークフロー・対応チェーンなどの観点で、各サービスを横並びで確認できます。

よくある質問(FAQ)

Q. 秘密鍵とは何ですか?

A. 秘密鍵とは、暗号資産の送金や、データの暗号化・電子署名を、本人だけが実行できるようにする非公開の情報です。用途によって暗号資産ウォレットの鍵、TLS/PKIなど暗号化の鍵、SSHキーやAPIキーといった開発シークレットに分かれ、いずれも漏れれば第三者に資産や情報を操作され、失えばアクセスできなくなります。だからこそ、生成から廃棄まで安全に扱う管理方法が欠かせません。

Q. 秘密鍵の保管はホットウォレットとコールドウォレットをどう使い分ければよいですか?

A. 秘密鍵の保管は、大口や長期保有の資産をオフラインのコールドウォレットに置き、日常的に動かす最小限の額だけをホットウォレットに持つのが基本です。ホットウォレットは常時インターネットに接続していて即時送金に向く反面、攻撃対象になりやすいため保有額を絞ります。

コールドウォレットはネット経由の攻撃経路を断てる代わりに即時性が低く、大口の保管に適します。多くの現場では両者を併用し、リスクと利便性のバランスを取ります。

Q. 秘密鍵管理におけるKMSとHSMの違いは何ですか?

A. 両者の違いは、KMSがクラウド事業者の提供する手軽でコスト効率の高いマネージドな鍵管理サービスなのに対し、HSMは鍵の抽出を物理的に防ぐ耐タンパー性の専用ハードウェアである点です。KMSは導入が容易で権限管理・監査ログが整う一方、暗号鍵一般向けが主で、暗号資産ウォレット固有の運用は別途設計が要ります。

HSMは鍵の抽出を物理的に防ぐため高い安全性が得られますが、導入・運用コストが高く専門知識を要するため、金融機関や暗号資産交換業者など高い安全性が求められる場面で使われます。

Q. マルチシグとMPCは何が違いますか?

A. 違いは、マルチシグが複数の完全な秘密鍵をブロックチェーン上で束ねて規定数の署名を求める方式なのに対し、MPCは完全な秘密鍵をどこにも作らず、分散した要素(シェア)だけで署名を生成する技術である点です。

どちらも単一の鍵漏洩や単独犯行では資産を動かせない状態をつくれますが、マルチシグは対応するブロックチェーンが限られる場合があり、MPCはチェーンを問わず適用しやすくシードフレーズ依存を避けられる反面、実装が事業者に依存します。

組織で権限を分けたい法人は、いずれかを用いて鍵を分散するのが一般的です。

Q. 秘密鍵を複数人で共有してもよいですか?

A. 秘密鍵は、共有せず一人ひとりに個別発行し、権限を分掌して管理するのが原則です。鍵を共有すると、転送中に盗み見られるリスク、誰が悪用したかの責任の所在が不明になる問題、退職者がコピーを持ち出して不正アクセスに使う危険が生じます。複数人で送金を承認したい場合は、鍵そのものを配るのではなく、マルチシグやMPCで署名の権限を分散し、申請・承認・実行を役割ごとに分ける設計にします。

Q. 秘密鍵はどのくらいの頻度でローテーション(更新)すべきですか?

A. ローテーションの頻度に唯一の正解はなく、鍵の用途・アルゴリズム・リスクに応じて「クリプトピリオド(鍵を使い続けてよい期間)」を定めて決めます。NISTやIPAも、一律の日数ではなくこの考え方で期間を設定するよう示しています。

長期間同じ鍵を使うほど、漏洩に気づけないまま悪用され続けるリスクが高まるため、担当者の異動・退職時や、危殆化(漏洩の疑い)が生じたときは頻度にかかわらず速やかに更新します。

Q. 法人は暗号資産の秘密鍵を自己管理と外部委託のどちらにすべきですか?

A. 自己管理と外部委託は、資産規模・社内体制・規制や事業形態・求める可用性の4点で判断し、鍵運用と監査を担える体制があれば自己管理、持ちにくければ外部カストディ委託が現実的です。自己管理は裁量と機動力を保てる反面、保管・署名・復旧・権限管理のすべてを自社で設計・運用する責任を負います。

外部委託は高度な体制を自社で抱えずに済みますが、委託先の登録の有無・分別管理の方法・出金の可用性・手数料を見極める必要があります。

Q. シードフレーズや秘密鍵を紛失したら暗号資産は復元できますか?

A. 紛失した場合、事前に用意したバックアップや、マルチシグ・MPCの復旧手順があれば資産を復元できますが、それらが無ければ原則として取り戻せません。ビットコインやイーサリアムなどのブロックチェーンには、運営者による鍵の再発行やパスワードリセットの窓口が存在しないためです。平時にバックアップの復元テストと復旧設計をしておくことが、紛失に備える唯一の現実的な手段になります。

Q. 自社で保有する暗号資産を自己管理する場合、資金決済法の分別管理義務はかかりますか?

A. 資金決済法の分別管理義務の名宛人は暗号資産交換業者であり、一般の事業会社が自社で保有する暗号資産を自己管理するだけなら、原則としてこの義務は直接は及びません。同法が対象とする「他人のために暗号資産の管理をすること」に当たらないためです。ただし、外部カストディに委託する場合は委託先の事業者が規制の名宛人となるため、登録の有無と分別管理の方法が確認点になります。

義務が直接かからない場合でも、コールド保管を原則にオンライン保有を絞る考え方は、自社のリスクを抑える運用指針として有効です。

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監修者

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト

松嶋真倫

都市銀行にて金融実務を経験後、暗号資産関連スタートアップの創業期に参画し、市場分析・業界調査に従事。2018年にマネックスグループ入社。以降、ビットコインをはじめとするデジタルアセットからマクロ経済環境まで、金融市場を横断した調査・分析および情報発信を担う。FinTech・次世代金融領域のリサーチ統括、各種レポートや書籍の執筆、日本経済新聞など国内主要メディアへのコメント・寄稿、イベント登壇などを行う。2021年3月より現職。
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