従業員のための退職金制度をこれから整えたいものの、「自社で積み立てると資金繰りが不安」「中退共や企業型DCなど名前は聞くが、何がどう違うのか分からない」と迷っていませんか。
中小企業が退職金を用意する方法には、掛金を外部に積み立てて管理・運用を任せられる制度がいくつもあります。制度ごとに、掛金がいくらから始められるか、会社と従業員のどちらが負担するか、国の助成や税制の優遇があるかが異なります。
本記事では、中小企業退職金共済(中退共)・特定退職金共済・確定給付企業年金・企業型確定拠出年金(企業型DC)・小規模企業共済といった主な選択肢を横並びに比較します。対象・掛金・国の助成・税制の違いから、自社に合う積み立て方を選ぶための判断材料を整理しました。退職金制度は、人材の採用・定着や社会保険料の軽減にもつながる仕組みです。自社の規模と目的に合った制度を見つける手がかりとしてご活用ください。
目次
中小企業が退職金を積み立てる主な方法
中小企業が従業員の退職金を準備する方法には、大きく分けて、社内に積み立てる「内部積立」と、外部の機関に掛金を預けて管理・運用を任せる「外部積立」があります。まずは主な選択肢を、対象・掛金・国の助成・税制の違いで横並びに整理します。
| 主な対象 | 掛金(月額の目安) | 主な拠出者 | 国の助成 | 税制上の扱い | 運用リスクの所在 | 事務・運営の負担 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 中退共 | 従業員 | 5,000〜30,000円 | 会社 | ● | 掛金は全額を損金・必要経費に算入 | 実施機関(会社は負わない) | 小さい(機構が管理) |
| 特定退職金共済 | 従業員 | 実施団体により異なる | 会社 | × | 掛金を損金・必要経費に算入 | 実施団体 | 小さい |
| 確定給付企業年金(DB) | 従業員 | 給付設計に基づき会社が決定(法令上の掛金上限なし) | 会社 | × | 掛金を損金に算入 | 会社 | 大きい(制度運営・年金数理) |
| 企業型DC | 従業員(役員も可) | 事業主掛金は上限55,000円 (他制度併用時は調整) | 会社 (選択制は従業員本人の給与から) | × | 掛金・運営費を損金に算入、運用益は非課税 | 従業員(自ら運用) | 中程度(運営管理機関に委託) |
| 小規模企業共済 | 経営者・役員・個人事業主 | 1,000〜70,000円 | 経営者本人 | × | 掛金全額が所得控除(経営者本人) | 実施機関(中小機構) | 小さい |
※上記は各制度の一般的な傾向です。掛金や税制の詳細・最新の適用条件は各制度の公式情報をご確認ください。
各数値の根拠は、以下の各制度の要点で出典とともに詳しく解説します。
出典・参考資料(3件)
従業員向けの制度と経営者向けの制度を分けて考える
制度を選ぶ前に押さえておきたいのが、それぞれが「誰のための制度か」という点です。中退共・特定退職金共済・確定給付企業年金・企業型DCは従業員の退職金を準備する制度です。一方で小規模企業共済は、名前が似ているため従業員の退職金制度と混同されがちですが、対象が異なります。
対象で分けると、候補は次のように整理できます。

小規模企業共済は、小規模企業の個人事業主(共同経営者を含む)または小規模企業の役員の方が、廃業や退職後の生活安定資金、事業再建資金をあらかじめ積み立てて準備することができる退職金制度です。
出典:小規模企業共済|独立行政法人中小企業基盤整備機構
小規模企業共済は、経営者・役員・個人事業主が自分自身の引退後の資金を準備するための制度です。従業員に退職金を用意したい場合は中退共や企業型DCなどを、経営者自身の退職金を準備したい場合は小規模企業共済を、という使い分けになります。両方を併用することもできます。
内部積立と外部積立の違い
退職金の準備方法は、社内に資金をためておく内部積立と、外部の機関に掛金を預ける外部積立に分かれます。内部積立は自由度が高い一方、将来の支払いに備えた資金を会社が自力で確保し続ける必要があり、業績が悪化した時期に支払い原資が不足するリスクを抱えます。
これに対し、この記事で扱う中退共・特定退職金共済・確定給付企業年金・企業型DCは、いずれも掛金を外部に積み立てる外部積立の制度です。掛金を毎月拠出しておくことで、将来の退職金の原資を計画的に準備でき、資金管理や運用の負担を外部の機関に委ねられます。中小企業が退職金制度を選ぶ際は、この外部積立の制度から検討するのが一般的です。
このほか、従業員自身のiDeCo加入に会社が掛金を上乗せする「iDeCoプラス(中小事業主掛金納付制度)」のような選択肢もあります。本記事では、会社が退職金を積み立てる代表的な制度に絞って解説します。
各制度の要点(掛金・助成・始め方・向く企業)
ここからは、比較表で見た各制度について、掛金や国の助成の具体額、始め方、どのような企業に向くかを解説します。自社の候補を絞り込む材料としてご覧ください。
中小企業退職金共済(中退共)
中小企業退職金共済(中退共)は、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する、中小企業向けの外部積立型の退職金制度です。単独では退職金制度を設けにくい中小企業のために国が設けた制度で、会社が掛金を納付すると、従業員の退職時に機構から直接退職金が支払われます。
掛金は従業員一人ひとりについて、月額5,000円から30,000円までの範囲で選べます。短時間労働者向けには、さらに低い掛金も用意されています。
掛金は5,000円から30,000円まで設定することが可能です。5,000円から10,000円までは1,000円刻み、それ以降は2,000円刻みの16種類に分かれており、いずれかを選択します。短時間労働者についても適用できるのが中退共の特徴で、2,000円、3,000円、4,000円の掛金を設定することもできます。
出典:中小企業退職金共済制度の概要|労働金庫連合会
中退共の大きな特徴は、国の助成が受けられる点です。新規に加入する場合と掛金を増額する場合に、掛金の一部を国が負担します。
中退共には国の助成制度があり、一定の条件に該当する場合、掛金の一部を国が負担してくれます。現在では「新規に中退共に加入した場合」、掛金額の2分の1(上限は5,000円)を加入4ヵ月後から1年間国が助成します。また「掛金を増額した場合」、増額分の3分の1について1年間国が助成します(18,000円以下の掛金の増額の場合)。
出典:中小企業退職金共済制度の概要|労働金庫連合会
厚生労働省も、中退共の新規加入時には掛金の一部を国が肩代わりする助成があるとして、「従業員ごとに最高6万円を国が減額」すると案内しています(会社が納める掛金のうち最大6万円分を国が負担するという意味です)。これは掛金月額の2分の1・上限5,000円を1年間助成する仕組みで、上限どおりであれば5,000円×12か月=6万円にあたります。
掛金の管理や運用は機構が担うため、会社側の事務負担が小さいことも中退共が広く使われている理由です。加入手続きは、金融機関や委託事業主団体の窓口を通じて申し込む形です。従業員に確実に退職金を用意したい中小企業にとって、始めやすい制度といえます。
従業員が受け取る退職金は、掛金月額と納付月数に応じて定まる基本退職金に、運用収入の状況に応じた付加退職金が上積みされて決まります。掛金月額ごとの基本退職金額は機構が公表しているため、加入を検討する段階でおおよその受取額の目安を確認できます。
ただし、加入期間が短いうちに退職すると、納めた掛金を下回ることがある点には注意が必要です。掛金の納付月数が11か月以下の場合は退職金が支給されず、納めた掛金は事業主に返金されません(通算制度や他制度からの引き継ぎがある場合は例外もあります)。
12か月以上23か月以下の場合は掛金の納付総額を下回る額となり、24か月以上でおおむね掛金相当額、43か月以上で運用に応じて掛金総額を上回る仕組みです。短期間で退職する従業員が多い職場では、この特性を踏まえて導入を検討する必要があります。
特定退職金共済(特退共)
特定退職金共済(特退共)は、商工会議所・商工会などの団体が実施する退職金共済制度です。所得税法施行令に基づき、税務署長の承認を受けて行われる制度と位置づけられています。
特定退職金共済事業(所得税法施行令の規定に基づき税務署長の承認を受けて行う退職金共済事業をいう。)
出典:中小企業向け退職金制度|厚生労働省
特退共は実施する団体ごとに掛金や給付の内容が定められるため、条件は団体によって異なります。中退共と同じく外部積立で事務負担が小さく、地域の商工会議所などに加入していれば検討しやすい制度です。中退共と特退共は別の制度のため、両方を利用することも可能とされています。掛金や給付の条件、併用の可否は団体ごとの規程によって異なるため、加入を検討する際は自社が所在する地域の実施団体に確認する必要があります。
確定給付企業年金(DB)
確定給付企業年金(DB)は、将来受け取る給付額をあらかじめ約束する企業年金制度です。会社が掛金を拠出し、信託銀行や生命保険会社などの外部機関で年金資産を運用します。掛金は約束した給付をまかなえるよう年金数理に基づいて算定され、企業型DCのような法令上の一律の拠出限度額はありません。
事業主が従業員と給付の内容をあらかじめ約束し、高齢期において従業員がその内容に基づいた給付を受けることができる企業年金制度。給付内容があらかじめ定められることから、DB(Defined Benefit Plan)、「給付建て年金」とも呼ばれる。年金資産は一括して運用され、運用のリスクは企業が負う。
出典:用語集 確定給付企業年金(DB)|企業年金連合会
給付額が確定しているため従業員にとっては将来の見通しが立てやすい一方、運用の成果が想定を下回れば会社が不足分を補う必要があります。給付を約束するDBでは、運用リスクと積立不足時の追加負担を会社が負う点が特徴です。
制度の設計や運営に年金数理などの専門的な手続きが必要で、事務負担は他の制度より大きくなります。給付を手厚く約束できる反面、運営体制を整えられる企業に向いた制度です。
出典・参考資料(1件)
企業型確定拠出年金(企業型DC・選択制含む)
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、会社が拠出した掛金を、従業員が自分で運用商品を選んで運用する企業年金制度です。給付額は運用の成果によって変わり、受け取りは原則60歳以降になります。会社が制度を導入し、運営管理機関(金融機関や専門会社)を選んで運営します。
事業主が拠出できる掛金には上限があります。厚生労働省は、拠出限度額を次のように定めています。
拠出限度額 55,000円/月からDB等の他制度掛金相当額を控除した額
出典:確定拠出年金制度の概要|厚生労働省
確定給付企業年金など他の企業年金に加入している場合は、その掛金相当額を差し引いた額が上限になります。この仕組みは2024年12月1日に施行されたもので、当面は従前の水準を下回る場合に月27,500円を上限とする経過措置が設けられています。さらに2026年12月1日には、拠出限度額を引き上げる改正が予定されています。
第2号加入者のiDeCoの拠出限度額について、勤務先の企業年金の有無等による差異を解消し、企業年金と共通の拠出限度額に一本化したうえで、この共通拠出限度額について、月額6.2万円に引き上げられます。
出典:2025年の制度改正について|厚生労働省
この改正は、企業型DCの事業主掛金の上限そのものを55,000円から62,000円へ引き上げるものではありません。会社員などの第2号被保険者がiDeCo(個人型確定拠出年金)に拠出できる限度額を、勤務先の企業年金の有無で差が出ないよう、企業年金と共通の枠として月額6.2万円に一本化する改正です。
会社が拠出する企業型DCの掛金と、従業員個人がiDeCoやマッチング拠出で上乗せする掛金を組み合わせて設計する場合に関わってきます。施行は2026年12月1日が予定されているため、個人の上乗せも含めて設計する際は最新の限度額を確認しておくとよいでしょう。
企業型DCには、会社が新たに掛金を上乗せするのではなく、従業員が給与の一部を掛金に振り替える「選択制」という導入方法があります。新たな会社負担を増やさずに始められることから、中小企業が導入する際の入り口になっています。掛金に振り替えた分は給与として受け取らないため、所得税・住民税や社会保険料の負担が軽くなる可能性があります。
ただし、この社会保険料の軽減には注意すべきトレードオフがあります。厚生労働省の確定拠出年金Q&Aは、給与を掛金に振り替える方式について、事業主が従業員へ次の点を説明する必要があるとしています。
給与や賞与が減額されることで、社会保険・雇用保険等の保険料負担が軽減される可能性があることだけではなく、厚生年金保険・健康保険の標準報酬月額や雇用保険の基礎手当日額等が引下げられること等により、これらを用いて算定される社会保険・雇用保険等の給付が減額する可能性があることを説明する必要がある。なお、説明にあたっては、具体的な事例を用いて説明することが望ましい。
出典:確定拠出年金Q&A|厚生労働省
選択制で給与を掛金に振り替えると、標準報酬月額などが下がるため、将来受け取る老齢厚生年金や、傷病手当金・出産手当金・雇用保険の給付など、標準報酬月額を基礎に算定される給付が減る可能性があります。
目先の社会保険料の軽減だけでなく、こうした将来の給付への影響も含めて従業員に正確に説明することが、事業主に求められています。企業型DCの掛金・運営費は損金に算入でき、運用益も非課税になるため、税制面のメリットは大きい制度です。ただし選択制を採る場合は、社会保険料の軽減と将来の給付減はトレードオフの関係にあることを理解したうえで導入する必要があります。

小規模企業共済(経営者向け)
小規模企業共済は、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、経営者・役員・個人事業主が自分自身の退職金を準備するための制度です。前述のとおり従業員向けの制度ではありませんが、中小企業の退職金準備を考えるうえで押さえておきたい選択肢です。
掛金は幅広く選べ、加入後も柔軟に増減できます。
掛金月額は1,000円~70,000円で、その範囲内において500円刻みで増額・減額をいつでもすることができます。
出典:小規模企業共済|独立行政法人中小企業基盤整備機構
税制面では、掛金の全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得から控除できるため、経営者自身の所得税・住民税の負担を抑えながら退職金を準備できます。加入資格は業種ごとの従業員数などで定められているため、自社が対象になるかを中小機構の公式情報で確認したうえで申し込む必要があります。従業員向けの退職金制度とあわせて、経営者自身の引退後の資金づくりとして併用を検討する価値があります。
出典・参考資料(1件)
各制度の税制メリットや導入前の注意点を、次の章で制度ごとに整理します。制度の全体像がつかめたところで、自社にとってのメリットとリスクを具体的に確認しましょう。
退職金積立の税制メリットと導入時の注意点
退職金を外部に積み立てる制度の多くは、掛金が税制上優遇されます。ここでは、税制メリットの中身を制度ごとに整理したうえで、導入前に押さえておきたい注意点を解説します。
掛金の損金算入・所得控除は制度で異なる
従業員向けの制度は、会社が払う掛金が会社の経費として扱われます。中退共では掛金の全額が損金または必要経費になります。
掛金は損金または必要経費として全額非課税されます。
出典:中小企業向け退職金制度(中退共制度)|厚生労働省
企業型DCも掛金や運営費を損金に算入でき、運用益は非課税になります。一方で小規模企業共済は、会社の経費ではなく経営者本人の所得控除という形で優遇される点が異なります。
掛金は全額が小規模企業共済等掛金控除として課税対象となる所得から控除できます。共済金(退職金)を一括で受け取る場合は退職所得扱い、分割で受け取る場合は、公的年金等の雑所得扱いになります。
出典:小規模企業共済|独立行政法人中小企業基盤整備機構
このように、同じ「掛金が税制優遇される」でも、会社の損金になるのか経営者本人の所得控除になるのかは制度によって異なります。従業員向けか経営者向けかという対象の違いが、税制の扱いにも表れています。
受け取り時の税制
積み立てた資金を受け取るときにも税制上の配慮があります。小規模企業共済では、共済金を一括で受け取る場合は退職所得、分割で受け取る場合は公的年金等の雑所得として扱われます。退職所得は勤続年数に応じた控除があり、税負担が軽くなる仕組みです。
企業型DCも、一時金で受け取る場合は退職所得、年金形式で受け取る場合は公的年金等の雑所得として扱われます。中退共や確定給付企業年金から従業員が受け取る退職金も、一時金であれば退職所得として勤続年数に応じた控除の対象になります。受け取り方によって税負担が変わるため、制度を選ぶ際は将来の受け取り方まで見据えておきましょう。
導入前に押さえておきたい注意点
制度ごとに、導入前に確認しておきたい点があります。内部積立は自由度が高い反面、支払い原資を会社が自力で確保し続ける必要があり、業績が悪化した時期に負担が集中しやすい点に注意が必要です。
特定退職金共済は実施団体によって掛金や給付の条件が異なるため、加入前に自社が所在する地域の団体の内容を確認しておくことが必要です。本記事で扱う共済・企業年金のほかに、生命保険(法人保険)で退職金を準備する方法もありますが、解約のタイミングによっては解約返戻金が払い込んだ保険料を下回ることがあります。
また、多くの制度では加入して間もない時期に退職した従業員への給付が抑えられる設計になっているため、短期離職が多い職場では給付水準や加入資格を事前に確認しておくと安心です。
自社に合う退職金積立制度の選び方
ここまでの各制度の特徴を踏まえ、自社に合う制度を絞り込むための判断軸を整理します。次の順に考えると、候補が見えてきます。
まず従業員向けか経営者自身の退職金かで分ける
最初の分かれ道は、退職金を用意したい対象です。従業員のための退職金なら中退共・特定退職金共済・確定給付企業年金・企業型DCが候補になり、経営者自身の引退後の資金なら小規模企業共済が候補になります。両方の目的があるなら、従業員向けの制度と小規模企業共済を併用する形も選べます。ここを取り違えると、そもそも目的に合わない制度を検討してしまうため、最初に切り分けておくことが重要です。
導入の目的で選ぶ
次に、退職金制度を導入する主な目的を整理します。事務負担を抑えて確実に退職金を用意したいなら、掛金の管理を機構に任せられ国の助成も受けられる中退共が始めやすい選択肢です。手厚い給付を約束して従業員の安心につなげたいなら確定給付企業年金が候補になりますが、運営体制の整備が必要です。
福利厚生の充実で採用・定着につなげたい、あるいは会社の新たな負担を増やさずに始めたいなら、選択制の企業型DCが検討候補になります。目的が定まると、優先すべき制度の性質が絞られてきます。
会社の負担と事務体制で選ぶ
最後に、会社がどこまで負担できるかを確認します。新たな掛金負担を増やせない場合は、従業員が給与の一部を振り替える選択制の企業型DCが現実的です。ただし選択制には前述の社会保険料と将来給付のトレードオフがあるため、従業員への説明を丁寧に行う前提で検討します。
事務体制については、中退共や小規模企業共済は機構が管理するため負担が小さく、確定給付企業年金は制度運営に専門的な手続きが必要で負担が大きくなります。加入資格は制度ごとに従業員数や業種で定められているため、候補を絞ったら公式情報で自社が対象になるかを確認しておきましょう。これらを重ねていくと、自社に合う制度の候補が具体的に定まります。
サービスを活用して企業型DCを導入する
各制度の中でも、新たな会社負担なく始められる選択制の企業型DCは、中小企業からの相談が増えています。企業型DCは運営管理機関を選んで導入しますが、制度設計や従業員への説明、運用商品の整備まで含めて支援するサービスを使うと、専任担当がいない中小企業でも導入を進めやすくなります。ここでは、中小企業向けの企業型DC導入支援サービスを紹介します。
中小企業からの相談では、どのような点に関心が寄せられているのでしょうか。中小企業向けに企業型DCを提供する事業者への独自インタビューでは、相談理由の傾向が次のように語られています。

圧倒的に多いのは、税金と社会保険料の負担軽減に目を付けていただくパターンです。社長様ご自身がNISAなどで資産運用しているなかでDC制度を知り「これは会社の福利厚生としてとてもいいんじゃないか」と思っていただき、お問い合わせいただくケースが多いです。特に社会保険料の部分は、会社と従業員で労使折半で支払っていますので、企業側でも負担を軽減できるところにもメリットを感じていただけます。「従業員にたくさん給料をあげているのに、税金や社会保険料で取られてしまって手取りが増えていない」「ベースアップをしてあげたいけれど、負担が大きくて二の足を踏んでいる」といったお悩みに対して、企業型DCがメリットのある選択肢になる場面が増えています。
以下はご紹介する企業型DC導入支援サービスの比較表です。いずれも中小企業向けで選択制に対応しています。5社のうち4社はSBIベネフィット・システムズの総合型プランを基盤としており、SBIの企業型DCはその運営元にあたります。そのため実質的には、共通の基盤の上で制度設計・投資教育・費用といった支援内容がどう異なるかを比べる形になります。
| サービス名 | SBIの企業型DC | 総経401kプラン(マウンティン) | 日本企業型確定拠出年金センター(NDC) | さわかみ投信 企業型DC | Financial DC Japan |
|---|---|---|---|---|---|
| 運営会社 | SBIベネフィット・システムズ株式会社 | 株式会社マウンティン (総合経営サービスグループ) | 株式会社日本企業型確定拠出年金センター | さわかみ投信株式会社 | 株式会社Financial DC Japan |
| 対象企業規模 | 加入者1名から (30名未満の小規模も可) | 役員1名から (中小・小規模) | 中小企業中心 (全国対応) | 中小企業中心 | 中小企業中心 |
| 運営基盤 | 自社 (記録管理を自社開発) | SBIベネフィット基盤 (総経401kプラン) | SBIベネフィット基盤 (SBIぷらす年金) | SBIベネフィット基盤 (提携) | SBIベネフィット基盤 (提携) |
| 制度設計・導入支援 | 運営管理機関として対応 | 士業連携 (税理士・社労士・CFP) | 制度設計コンサル・事務取次 | 導入支援に対応 | 説明会・事務手続きを代行 |
| 投資教育・継続サポート | 従業員説明会・投資教育 (ロボアド・シミュレーション活用) | 従業員向け投資勉強会 (定期実施) | コラム等で情報提供 | 集合・オンライン・eラーニング | 導入時+継続投資教育 |
| 費用の目安 | 導入一時金110,000円〜 月額11,000円/事業所 (ダイレクトプラン) | 導入一時金220,000円 月額14,850円/事業所 | 要問い合わせ | 要問い合わせ (公式に具体額掲載なし) | 窓口手数料は無料と案内 (運管・記録はSBI基盤) |
| 詳細情報 | 導入を相談する | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト |
※上記は各社の公表情報に基づく企業型DC導入支援の比較です。手数料は運営管理機関(SBIベネフィット・システムズ)の基盤手数料に各社の支援費用が加わる構造で、プランや企業規模により異なります。最新の費用・対応範囲は各社にご確認ください。
ここで取り上げた以外にも企業型DCの導入を支援するサービスは複数あります。制度の仕組みや税制優遇、中小企業に合った選び方まで含めて幅広く比べたい場合は、以下の記事で導入支援サービスを比較・解説しています。
企業型DCの導入支援サービスおすすめ15選を比較|仕組み・税制優遇と中小企業の選び方を解説
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SBIの企業型DC(SBIベネフィット・システムズ株式会社)

SBIベネフィット・システムズが提供する、加入者1名から導入できる中小企業向けの企業型DCです。記録関連業務のシステムを自社開発しているため、他の金融機関では対応が難しい従業員30名未満の小規模な会社でも導入できる点を強みにしています。給与の一部を掛金に振り替える選択制にも対応しており、新たな会社負担なく始めたい企業に向いています。
運用商品は制度上で用意できる範囲で幅広くそろえ、信託報酬などのコストが低い商品を選定していることも特徴です。導入後は従業員向けの説明会も実施しており、制度が複雑になりがちな企業型DCについて、加入者が理解しやすい形で運用を始められるよう支援します。掛金や運営費を損金に算入できる税制メリットとあわせて、福利厚生の充実や社会保険料の軽減を目的に導入する中小企業に適した選択肢です。
選択制で導入した場合、従業員がどの程度この制度に加入するかは会社にとって気になる点です。従業員向け説明会が加入率にどう影響するかについて、独自インタビューでは次のように語られています。

この説明会を実施すると、大半の従業員様が「自分も拠出したい」と申し出てくださるケースが多く、参加率の面でも一定の効果は必ず得られると感じています。説明会自体はオプションになりますが、独自に進められる企業様より、説明会を実施いただいた企業様の方が圧倒的に加入率は高まります。
まとめ
中小企業が退職金を積み立てる方法には、中退共・特定退職金共済・確定給付企業年金・企業型DCといった従業員向けの制度と、経営者自身のための小規模企業共済があります。掛金の負担者や国の助成、税制の扱い、運用リスクの所在は制度ごとに異なるため、まず従業員向けか経営者向けかを切り分け、次に導入の目的と会社が負担できる範囲で候補を絞り込むと、自社に合う制度が見えてきます。
中でも選択制の企業型DCは、新たな会社負担なく始められる一方、社会保険料の軽減と将来の給付減というトレードオフがあります。仕組みを正しく理解したうえで、自社の目的に合った制度を選んでください。必要に応じて導入支援サービスも活用しながら、従業員にとっても会社にとっても意味のある退職金制度づくりを進めましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 中小企業が退職金を積み立てる方法にはどんな選択肢がありますか?
A. 中小企業が従業員の退職金を積み立てる主な方法は、中小企業退職金共済(中退共)・特定退職金共済(特退共)・確定給付企業年金(DB)・企業型確定拠出年金(企業型DC)の4つの外部積立制度です。
いずれも掛金を外部の機関に預けて管理・運用を任せる仕組みで、掛金の額・負担者・国の助成の有無・税制の扱いが制度ごとに異なります。経営者自身の引退後の資金を準備したい場合は、これらとは対象が異なる小規模企業共済が選択肢になります。
Q. 従業員が数名の小さな会社でも入れる退職金制度はありますか?
A. 従業員が数名の会社でも、中退共や選択制の企業型DCなら退職金制度を始められます。中退共は従業員一人ひとりについて月額5,000円から掛金を設定でき、短時間労働者には2,000円からのさらに低い掛金も用意されています。
企業型DCも、記録管理を自社で行う運営管理機関を使えば従業員30名未満の小規模な会社でも導入できるサービスがあります。まずは無理のない掛金や、新たな会社負担が生じない選択制から始める方法を検討するとよいでしょう。
Q. 退職金の掛金は途中で減額や停止ができますか?
A. 掛金を変更できるかは制度によって異なり、小規模企業共済は月額1,000〜70,000円の範囲で500円刻みでいつでも増額・減額できます。一方、従業員向けの制度では、いったん設定した掛金の引き下げに一定の手続きや条件が伴う場合があります。将来の業績変動も見据えて、無理のない掛金から始めておくことが大切です。
Q. 選択制の企業型DCにすると、従業員の手取りや将来の年金はどうなりますか?
A. 選択制の企業型DCは、給与の一部を掛金に振り替えるため目先の社会保険料や所得税・住民税の負担が軽くなる一方、標準報酬月額が下がることで将来の老齢厚生年金や傷病手当金・雇用保険の給付などが減る可能性があります。
厚生労働省は、給与を掛金に振り替える方式について、社会保険料が軽減される可能性だけでなく、標準報酬月額などの引き下げによってこれらを基礎に算定される給付が減る可能性があることを、事業主が従業員へ正確に説明する必要があるとしています。目先の負担軽減とあわせて将来への影響も理解したうえで導入することが大切です。
出典・参考資料(1件)
Q. 中退共と特定退職金共済(特退共)は併用できますか?
A. 中退共と特退共は別の制度のため、両方を利用することも可能とされています。どちらも従業員向けの外部積立制度ですが、特退共は商工会議所や商工会などの団体が実施し、掛金や給付の条件、併用の可否や条件は団体ごとの規程によって異なります。加入を検討する際は、自社が所在する地域の実施団体の条件を中退共と見比べたうえで確認することが大切です。
Q. 小規模企業共済は従業員の退職金にも使えますか?
A. 小規模企業共済は、経営者・役員・個人事業主が自分自身の退職金を準備するための制度で、従業員の退職金には使えません。名前が似ているため従業員向けの退職金制度と混同されがちですが、対象が異なります。従業員の退職金を用意したい場合は中退共や企業型DCなどを、経営者自身の引退後の資金を準備したい場合は小規模企業共済を、という使い分けになり、両方を併用することもできます。
出典・参考資料(1件)
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
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