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給与前払いは違法?労働基準法・貸金業法から見た適法運用の条件と注意点を解説

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アルバイトやパート比率の高い職場を中心に、働いた分の給与を給料日前に受け取れる「給与前払い」を福利厚生として導入する企業が増えています。一方で、導入を検討する人事・労務の担当者からは「そもそも給与を前払いして労働基準法に触れないのか」「手数料を給与から差し引く形は違法にならないか」といった不安の声が聞かれます。

結論からいえば、働いた分の賃金を給料日前に支払う給与前払いは、原則として適法です。ただし、運用の仕方によっては労働基準法や貸金業法に抵触するケースがあり、その境界を条文で押さえておくことが、安心して導入するための出発点になります。

本記事では、給与前払いが適法とされる根拠と、違法になる4つのケースを法律ごとに整理します。あわせて、給与ファクタリングとの違い、就業規則や労使協定など適法に運用するための実務、そして法令面から見た給与前払いサービスの選び方まで解説します。

給与前払いは違法?結論と「前払い・前借り」の違い

働いた分の賃金を給料日前に支払う給与前払いは、原則として適法です。労働基準法は賃金の支払い時期などにルールを定めていますが、すでに提供された労働に対する賃金を給料日より前に支払うこと自体を禁じてはいません。むしろ、後述する非常時払い(労働基準法第25条)のように、一定の場合には給料日前の支払いを使用者に義務づけています。

ここで最初に押さえておきたいのが、「前払い」と「前借り」の区別です。両者は似た言葉ですが、法律上の扱いが大きく異なります。

  • 前払い:すでに働いた分(既往の労働)に対する賃金を、給料日より前に支払うこと。賃金の支払い時期を早めているだけなので、貸し付けにはあたりません。
  • 前借り:これから働く予定の分(未労働分)を、賃金の前渡しとして先に受け取ること。労働の対価がまだ発生していないため、実質的には「貸し付け」の性質を帯びます。

この違いは、厚生労働省が示す解釈にもあらわれています。前借りの申し出への対応を扱った労働基準法のQ&Aで、厚生労働省は次のように説明しています。

労働基準法第25条には非常時(出産、結婚、病気、災害等)について、給料日前でも給料を払うように定めています。しかし、この条文で定めているのは、既に行った労働に対して給料日前でも支払うように定めているのであって、これから行う予定の労働に対して給料を払うように求めているものではありません。従って、前借りに応じる義務はありません。

出典:労働基準法に関するQ&A(前借りの申し出について)|厚生労働省

このように、給与前払いサービスが対象とするのは、あくまで「すでに働いた分」の賃金です。この範囲で運用する限り原則として適法であり、未労働分を貸し付ける前借りとは切り分けて考える必要があります。

給与前払いが違法になる4つのケース

給与前払いが違法と判断されうる代表的なケースは4つあります。いずれも「前払いだから違法」なのではなく、特定の運用が個別の法律に抵触する構造です。また、4つ目の給与ファクタリングは、給与前払いの運用ミスというより、混同されやすい別の仕組みにあたります。

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給与前払いが違法になりうる4つの形態未労働分の「前借り」を賃金と相殺手数料などの給与天引き手数料が実質的な貸付利息で上限超過給与ファクタリング形態
根拠となる法律労働基準法 第17条労働基準法 第24条利息制限法貸金業法
違法と判断される要件これから働く分(未労働分)を貸し付け、その返済を賃金から相殺(天引き)して回収する運用労使協定を結ばずに、手数料や前払い額を賃金から控除する(賃金全額払いの原則。労使協定があれば控除は可能)立替が貸し付けの性質を帯び、手数料を年率に換算すると上限(元本10万円未満は年20%など)を超える従業員の賃金債権を買い取って資金を交付し回収する(登録のない業者が行えば違法な貸金業)

※各形態が違法と判断される境界は、下記の各項で条文とともに解説します。

未労働分の「前借り」を賃金と相殺するケース(労働基準法第17条)

まだ働いていない分を貸し付け、その返済を給与から天引きして回収する運用は、労働基準法第17条に抵触します。第17条は次のとおり定めています。

(前借金相殺の禁止)第十七条 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

出典:労働基準法 第17条(前借金相殺の禁止)|e-Gov法令検索

ここで禁じられているのは、前借金と賃金の「相殺」です。前借り(貸し付け)そのものを一律に禁止する条文ではありませんが、未労働分を貸し付けて賃金から天引き回収する仕組みは、この相殺の禁止に触れる可能性が高くなります。給与前払いサービスが「すでに働いた分」に対象を限定しているのは、この構図を避け、貸し付けと相殺の問題を生じさせないためです。

第17条違反には罰則も定められています。労働基準法第119条は、第17条を含む一定の規定に違反した者を「六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金」に処すると規定しており、前借金と賃金を相殺する運用は、この罰則の対象になりえます。

手数料などを給与から天引きするケース(労働基準法第24条)

賃金の支払い方には、労働基準法第24条が定める原則があります。その一つが、賃金を全額支払わなければならないという全額払いの原則で、条文は次のように規定しています。

(賃金の支払)第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

出典:労働基準法 第24条(賃金の支払)|e-Gov法令検索

この第24条は、賃金の支払い方について次の5つの原則(賃金支払いの5原則)を定めています。上に引用した第1項が通貨払い・直接払い・全額払いの3原則を、続く第2項が毎月1回以上払い・一定期日払いの2原則を定めています。給与前払いで特に関わるのは、全額払いの原則(前払い手数料の天引き)と直接払いの原則(後述の給与ファクタリング)です。

  • 通貨払いの原則:賃金は通貨で支払う(第24条第1項)
  • 直接払いの原則:賃金は直接労働者に支払う(第24条第1項)
  • 全額払いの原則:賃金は全額を支払う(第24条第1項)
  • 毎月1回以上払いの原則:賃金は毎月1回以上支払う(第24条第2項)
  • 一定期日払いの原則:賃金は一定の期日を定めて支払う(第24条第2項)

賃金は全額を支払うのが原則で、前払いにかかる手数料を賃金から一方的に差し引くと、この全額払いの原則に反する恐れがあります。ただし、条文の但し書きにあるとおり、労働者の過半数で組織する労働組合、または過半数を代表する者との書面による協定(労使協定)があれば、賃金の一部を控除できます。

手数料を給与から天引きする形で運用する場合は、この労使協定を整えることが適法運用の条件になります。従業員が振込を受け取る際に手数料を負担する形など、賃金からの控除にあたらない設計であれば、この問題は生じません。

第24条(賃金の支払)に違反した場合、労働基準法第120条により「三十万円以下の罰金」が科されます。労使協定なく手数料を賃金から控除するといった全額払いの原則に反する運用は、この罰則に問われることがあります。

手数料が実質的な貸付利息として上限を超えるケース(利息制限法)

立替が貸し付けの性質を帯びる設計の場合、従業員が負担する手数料が「利息」とみなされ、利息制限法の上限が問題になります。利息制限法第1条は、上限金利を次のように定めています。

(利息の制限)第一条 金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
一 元本の額が十万円未満の場合 年二割
二 元本の額が十万円以上百万円未満の場合 年一割八分
三 元本の額が百万円以上の場合 年一割五分

出典:利息制限法 第1条(利息の制限)|e-Gov法令検索

利息制限法が適用されるのは「金銭を目的とする消費貸借における利息」です。後述のとおり、適法な給与前払いは「貸し付けにあたらない」立替なので、利息制限法が直接及ぶわけではありません。

問題になるのは、実質的に貸し付け(前借り型)の仕組みで、手数料を年率に換算すると上限(元本10万円未満で年20%など)を超える場合です。1回あたりは少額の手数料でも、短期間の立替を年率に引き直すと高い利率になることがあるため、貸付性を帯びた運用では注意が必要です。

利息制限法の上限を超えた利息は、その超過部分が民事上無効になるにとどまりますが、上限金利にはもう一段、刑事罰を伴う「出資法」の規制もあります。

出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)第5条第2項は、業として金銭の貸付けを行う場合に年20%を超える利息の契約をしたときは、「五年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と定めています(出資法・e-Gov法令検索)。

これは貸金業の登録を受けた業者であっても適用され、手数料が実質的な貸付利息として年20%を超えると刑事罰に問われることがあります。

給与ファクタリングの形態になっているケース(貸金業法)

従業員が使用者に対して持つ賃金債権を第三者が買い取り、資金を交付して回収する「給与ファクタリング」の形態は、貸金業に該当します。登録のない業者がこれを業として行えば、違法な貸金業(ヤミ金融)です。給与前払いとは仕組みが根本的に異なり、この違いは後述の「給与前払いと給与ファクタリングの違い」で金融庁の見解とあわせて整理します。

給与前払いサービスが貸金業にあたらないかどうかは、金融庁の見解で確認できます。ある事業者が産業競争力強化法のグレーゾーン解消制度(新しい事業の適法性を、事業者が所管の規制官庁に確認できる制度)を使って照会したところ、貸金業法を所管する立場から、平成30年12月20日付で次の回答が示されました。

本サービスは従業員の勤怠実績に応じた賃金相当額を上限とした給与支払日までの極めて短期間の給与の前払いの立替えであって、導入企業の支払い能力を補完するための資金の立替えを行っているものではなく、手数料についても導入企業の信用力によらず一定に決められているとの前提の下では、導入企業又は従業員に対する信用供与とは言えず、また、導入企業においても、信用供与を期待しているとまでは言えないことから、貸金業法上の「貸付け」行為に該当せず、貸金業に該当しないものと考えられる。

出典:確認の求めに対する回答の内容の公表(平成30年12月20日)|金融庁

ここで重要なのは、この「貸金業に該当しない」という結論が、無条件ではなく一定の前提のもとに成り立っている点です。回答文から読み取れる前提を整理すると、適法とされる給与前払いは次の要件を満たしています。

  • 前払いの上限が、従業員の勤怠実績に応じた賃金相当額にとどまる(未労働分の貸し付けにならない)
  • 給与支払日までの極めて短期間の立替である
  • 導入企業の支払い能力を補完する資金の立替ではない
  • 手数料が導入企業の信用力によらず一定に決められている

金融庁の回答は、これらの前提と相違し、実質的に貸し付けを行っていると認められる場合には、貸金業に該当する可能性が高いとも述べています。このように、給与前払いサービスの適法性は、この4つの要件を満たす仕組みであることに支えられています。この点は、後述する給与前払いサービスの選び方にも直結します。

給与前払いサービスと給与ファクタリングの違い

給与前払いサービスと混同されやすいのが「給与ファクタリング」です。両者は資金の流れが根本的に異なり、法律上の扱いも正反対になります。金融庁は、給与の買い取りをうたう業者への注意喚起で、給与ファクタリングを次のように説明しています。

いわゆる「給与ファクタリング」などと称して、業として、個人(労働者)が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、当該個人を通じて当該債権に係る資金の回収を行うことは、貸金業に該当します。

出典:給与の買取りをうたった違法なヤミ金融にご注意ください!|金融庁

この結論の法的な根拠は、金融庁が令和2年3月5日に示した法令解釈にあります。賃金債権の買い取りと回収を含む資金移転の仕組みは、経済的に貸し付けと同様の機能を持つため、貸金業にあたるという整理です。

照会に係るスキームにおいては、賃金債権の譲受人から労働者への金銭の交付だけでなく、賃金債権の譲受人による労働者からの資金の回収を含めた資金移転のシステムが構築されているということができ、当該スキームは、経済的に貸付け(金銭の交付と返還の約束が行われているもの。)と同様の機能を有しているものと考えられることから、貸金業法(昭和58年法律第32号)第2条第1項の「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法」に該当すると考えられる。

出典:法令解釈に係る書面照会手続(回答書)令和2年3月5日|金融庁

整理すると、給与前払いサービスは「すでに働いた分の賃金を、企業を通じて従業員に前倒しで支払う立替」であるのに対し、給与ファクタリングは「従業員の賃金債権そのものを業者が買い取り、従業員から回収する貸し付け類似の取引」です。

前者は貸金業にあたらず、後者は貸金業にあたるという違いが、両者を分ける核心になります。給与前払いを導入する企業は、契約しようとしているサービスが賃金債権の買い取りではなく、あくまで賃金の立替であることを確認しておくと安心です。

この違いは、先に触れた賃金支払いの5原則のうち「直接払いの原則」からも説明できます。労働基準法第24条は賃金を直接労働者に支払うよう定めており、使用者が賃金債権を買い取った業者へ賃金を代わりに支払うことはできません。

そのため給与ファクタリングでは、業者は資金を交付した労働者本人から回収せざるを得ず、この資金の流れが「経済的に貸付けと同様の機能」と評価されて貸金業に該当します。一方、会社を通じて働いた分の賃金を本人に支払う給与前払いは、この直接払いの枠組みの中に収まります。両者はこの点で性質が異なります。

混同されやすい前払い・前借り・給与ファクタリングの3つを、扱う対象と法的な性質で並べると、違いがはっきりします。

給与前払い・前借り・給与ファクタリングの3つを扱う対象と法的な性質で並べた図。給与前払いはすでに働いた分の賃金を企業を通じて給料日前に前倒しで支払う立替で、貸し付けにあたらず原則適法。前借りはこれから働く分の対価を先に受け取るもので貸し付けの性質があり、賃金との相殺は違法になりうる。給与ファクタリングは業者が従業員の賃金債権を買い取って資金を交付し回収するもので、貸金業に該当する。

給与前払いを適法に運用するための実務(就業規則・労使協定)

給与前払いを適法に運用するには、社内のルールと手続きを整えておくことが欠かせません。押さえておきたいのは、就業規則の整備、手数料を賃金から控除する場合の労使協定、そして導入までの進め方の3点です。

就業規則に前払いの取り決めを整備する(労働基準法第89条)

給与前払いを制度として導入する場合、賃金の支払い方法にかかわる事項として、就業規則に取り決めを記載しておくのが基本です。労働基準法第89条は、就業規則の作成・届出義務を次のように定めています。

(作成及び届出の義務)第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

出典:労働基準法 第89条(作成及び届出の義務)|e-Gov法令検索

前払いのルールは、第2号の「賃金の決定、計算及び支払の方法」にかかわる事項にあたります。就業規則の届出義務があるのは常時10人以上の労働者を使用する事業場ですが、10人未満の事業場でも、前払いの対象・上限・手数料の扱いを社内ルールとして明文化しておくと、運用時のトラブルを防ぎやすくなります。

手数料を給与から控除するなら労使協定を結ぶ(賃金支払いの原則)

手数料を賃金から差し引いて精算する運用にする場合は、控除の根拠として労使協定を結びます。締結の相手は、労働者の過半数で組織する労働組合があればその労働組合、なければ労働者の過半数を代表する者です。

協定は書面で結び、控除する項目(前払いの手数料)・金額の算定方法・控除する時期を定めます。就業規則の賃金に関する規定とも内容をそろえておくと、従業員への説明や運用がしやすくなります。

一方、従業員が受け取り時に手数料を負担する形など、賃金からの控除にあたらない設計であれば、労使協定は不要です。自社が導入するサービスがどちらの運用にあたるのかを先に確認しておくと、必要な手続きの範囲がはっきりします。

導入までの進め方

ここまでの内容を踏まえると、給与前払いの導入は次の順に進めると整理しやすくなります。

  1. 導入するサービスの運用形態(前払い原資のタイプ、手数料を誰が負担するか)を確認します。
  2. 就業規則に、前払いの対象者・上限・手数料の扱いを記載します(常時10人以上の事業場は作成・届出が必要)。
  3. 手数料を賃金から控除するなら、過半数労働組合または過半数代表者と書面で労使協定を結びます。
  4. 勤怠実績に応じた賃金相当額を上限とし、給与支払日までの短期間の立替で、手数料が導入企業の信用力によらず一定であるという、貸金業に該当しない前提を満たすサービスかを確認します。

手続きを整えることに加えて、実際に利用する従業員への影響にも目を配っておきたいところです。前掲の金融庁のグレーゾーン解消制度の回答(平成30年12月20日)は、貸金業に該当しないという結論に続けて、多重債務問題との関係で次のように付言しています。

本サービスを利用する従業員の中には、既に相応の債務を抱えている者がいる場合もあり得る。そうした場合、そのような者が手数料を負担すると、本来の給料日に受け取る賃金よりも低い金額しか受け取れなくなるため、賃金の先取りによって、流動性を確保することによる経済的生活の安定を図ろうとするも、経済的生活がかえって悪化する可能性がある。したがって、導入企業及び当該事業者は、本サービスの開始にあたっては、多重債務問題に繋がらないよう、従業員の利益の保護の観点から、本サービスの利用による従業員への影響に十分に配慮いただきたい。

出典:確認の求めに対する回答の内容の公表(平成30年12月20日)|金融庁

頻繁な利用や手数料の負担が、かえって従業員の家計を圧迫することもあります。利用回数や1回あたりの上限の目安を設ける、従業員向けに手数料や仕組みをわかりやすく案内するといった配慮を、制度設計や運用ルールに織り込んでおくと、金融庁が求めるこの趣旨に沿った運用につながります。

給与前払い・前借り・非常時払い・賃金デジタル払いの違い

給与前払いをめぐっては、似た言葉が複数あり、混同されがちです。それぞれ根拠となる制度や法律が異なるため、正しく整理しておくと導入判断がぶれません。

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給与前払いと混同されやすい制度の違い給与前払い(既往労働分の前倒し)前借り(未労働分の貸付)非常時払い(労働基準法第25条)賃金デジタル払い
内容すでに働いた分の賃金を給料日より前に受け取るこれから働く分を賃金の前渡しとして先に借りる出産・疾病・災害などの非常時に、既往労働分の賃金を給料日前に請求できる法定の権利賃金を厚生労働大臣が指定する資金移動業者の口座で受け取る支払方法
主な根拠任意の福利厚生。労働基準法第25条(非常時払い)を含む貸し付け。労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)労働基準法第25条・同法施行規則第9条労働基準法施行規則第7条の2(2023年4月1日施行)
給与前払いとの関係原則として適法前払いとは別。賃金と相殺する運用は違法になりうる前払いの一種だが「非常時」に限定され、使用者に支払義務がある支払『方法』の選択肢。支払『時期』を早める前払いとは別制度

非常時払い(労働基準法第25条)との位置づけ

非常時払いは、福利厚生としての任意の給与前払いとは異なり、法律で使用者に義務づけられた制度です。労働基準法第25条は次のように定めています。

(非常時払)第二十五条 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。

出典:労働基準法 第25条(非常時払)|e-Gov法令検索

ここでいう「非常の場合」は、労働基準法施行規則第9条で具体的に定められています。

第九条 法第二十五条に規定する非常の場合は、次に掲げるものとする。
一 労働者の収入によつて生計を維持する者が出産し、疾病にかかり、又は災害をうけた場合
二 労働者又はその収入によつて生計を維持する者が結婚し、又は死亡した場合
三 労働者又はその収入によつて生計を維持する者がやむを得ない事由により一週間以上にわたつて帰郷する場合

出典:労働基準法施行規則 第9条|e-Gov法令検索

非常時払いは、これらの限定された場合に、既往の労働に対する賃金を給料日前に支払う義務を定めたものです。福利厚生として導入する給与前払いは、こうした非常時に限らず、従業員が理由を問わず働いた分を前倒しで受け取れるようにする点で、非常時払いとは別の枠組みになります。給与前払い制度を設けていない企業でも、非常時払いの請求には応じる義務がある点は押さえておく必要があります。

第25条は使用者に課された義務であり、正当な理由なくこれに応じない場合は、労働基準法第120条により「三十万円以下の罰金」が科されることがあります。

賃金デジタル払いとの違い

賃金デジタル払いは、2023年4月1日に施行された労働基準法施行規則の改正で認められた、賃金の支払い方法の選択肢です。従来の預貯金口座への振込に加えて、厚生労働大臣が指定する資金移動業者の口座への賃金の支払いが可能になりました。導入には、事業場での労使協定の締結と、労働者本人の同意が必要です。

資金移動業者なら無条件に使えるわけではなく、労働基準法施行規則第7条の2は、指定を受けるための要件を細かく定めています。たとえば、賃金支払い用の口座残高が100万円を超えないようにする(超えた場合は速やかに100万円以下にする)措置が求められます。

加えて、業者が破産などで支払不能になったときに労働者へ残高全額を速やかに弁済することを保証する仕組みも必要です。さらに、口座の資金を現金でも1円単位で受け取れ、少なくとも毎月1回は手数料無料で引き出せる措置も欠かせません。

こうした利用者保護の要件を満たした事業者だけが「指定資金移動業者」として厚生労働大臣の指定を受けられます。

賃金デジタル払いは支払いの「方法」を広げる制度であり、支払いの「時期」を早める給与前払いとは別の制度です。両者を対応するサービスもありますが、法律上の位置づけは異なるため、混同しないように区別しておく必要があります。

制度の詳細は、厚生労働省の解説を参照できます。

出典・参考資料(1件)

適法に運用できる給与前払いサービスの選び方と主要サービス

ここまで見てきた法律のポイントを踏まえると、給与前払いサービスを選ぶときには、適法な仕組みで運用できる事業者かどうかを見極めることが重要になります。以下では法令面から見た選び方の観点を示し、主要なサービスを比較します。料金や機能を含めた各サービスの全体的な比較は、この章の最後にある比較記事もあわせてご覧ください。

法令面から見た選び方のポイント

金融庁が示した「貸金業に該当しない」前提を踏まえると、サービス選定では次の観点を確認しておくと安心です。

  • 前払い原資のタイプ:サービス会社が前払い分を立て替える「立替払い型」か、企業が原資を用意する「自社払い(デポジット)型」かで、費用構造や手数料の負担者が変わります。手数料が従業員負担か企業負担かは、賃金からの控除(労使協定の要否)にもかかわります。
  • 手数料の設計:手数料が公式に明示され、企業の信用力によらず一定であるかは、貸金業非該当の前提とも整合する確認ポイントです。
  • 資金移動業者登録や賃金デジタル払いへの対応:資金移動業者としての登録の有無や、賃金デジタル払いへの対応は、法令に沿った体制が整っているかの判断材料になります。
  • セキュリティ認証・システム連携:ISMS(ISO/IEC 27001)やプライバシーマークの取得、勤怠・給与計算システムとの連携は、勤怠実績に応じた正確な前払い運用を支えます。

以下は、法令面での確認材料がそろった主要な給与前払いサービスの比較表です。前払い原資のタイプや手数料、認証などを横並びで確認できます。

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サービス名即給 byGMOAirワーク 給与支払JOBPAY速払いサービス前給
前払い原資タイプ両対応(立替型・デポジット型・預託型)立替払い型自社払い型(デポジット)自社払い型(直接払い)自社払い型(給与支払制度/社内融資制度を選択)
従業員の手数料負担要お問い合わせ110〜440円/回(申請金額×1.65%+110円、税込)
負担者は企業/従業員を選択可
440円/回(税込、引出額による変動なし)要お問い合わせ要お問い合わせ
賃金デジタル払い対応対応(PayPay給与受取)対応(COIN+)—対応(PayPay給与受取)—
資金移動業者登録・セキュリティ認証公式に記載なし公式に記載なしISO/IEC 27001:2022
資金移動業者登録(関東財務局長 第00065号)
ISMS認証・プライバシーマーク公式に記載なし
詳細情報公式サイト公式サイト公式サイト公式サイト公式サイト

※前払い原資タイプ・手数料・認証は各社公式サイトの公表情報にもとづく(2026年9月時点)。「要お問い合わせ」は公式サイトに具体的な明示がない項目、「—」は賃金デジタル払いへの対応が公式に確認できない項目。「公式に記載なし」は公式サイトで登録・認証の記載を確認できないことを示すもので、登録・認証がない(適法でない)という意味ではありません。最新の料金・対応状況は各社の公式サイトや資料でご確認ください。

即給 byGMO(GMOペイメントゲートウェイ株式会社)

即給 byGMOのウェブサイト

即給 byGMOは、GMOペイメントゲートウェイ株式会社が三井住友銀行・さくら情報システムとの提携で提供する給与前払いサービスです。前払いの原資について、立替型・デポジット型・預託型の複数の方式に対応しており、自社の資金繰りや運用方針に合わせて選べる点が特徴です。手数料を企業側が肩代わりする設計も選択できます。

PayPayでの給与受け取り(賃金デジタル払い)にも対応しており、幅広い受け取り方法を用意しています。導入実績は15,000社以上(2026年5月31日時点、公式サービスページ)と多く、原資方式を柔軟に選びたい企業に向いています。

Airワーク 給与支払(株式会社リクルート)

Airワーク 給与支払のウェブサイト

株式会社リクルートが提供するAirワーク 給与支払は、給与振込代行と給与即払いを組み合わせたサービスです。初期費用・月額費用0円で始められ、立替払い型で運用します。手数料の負担者を選べる設計になっており、賃金からの控除にかかわる運用を自社に合わせて設計できます。

賃金デジタル払い(COIN+の受け取り)にも対応しており、この機能は厚生労働大臣の指定を受けた事業者を通じて提供されています。初期費用・月額費用0円で始められるため、導入コストを抑えて給与前払いを試したい企業に適した選択肢です。

JOBPAY(株式会社JOBPAY)

JOBPAYのウェブサイト

JOBPAY(旧CYURICA)は、株式会社JOBPAYが提供する自社払い(デポジット)型の給与前払いサービスです。運営会社は資金移動業者として関東財務局長の登録(第00065号)を受けており、法令に沿った体制のもとでサービスを提供しています。情報セキュリティの国際規格ISO/IEC 27001の認証も取得しています。

従業員が負担する手数料は1回あたり440円と明示されており、費用の見通しを立てやすい点も特徴です。原資を企業が用意するデポジット型のため、手数料の明示や登録体制を重視する企業の選択肢になります。

速払いサービス(株式会社エーピーシーズ)

速払いサービスのウェブサイト

マイナビグループの株式会社エーピーシーズが運営する速払いサービスは、企業が原資を用意する自社払い(直接払い)型の給与前払いサービスです。公式サイトでは、厚生労働省に確認した業務委託型の方式で提供している旨を明示しています。ISMSとプライバシーマークを取得しており、情報管理の体制を整えています。

導入企業数600社、年間取引件数275万件以上(公式サービスページ、2026年9月時点)の実績があり、PayPayでの受け取りにも対応しています。原資を自社で用意しつつ、運用実績とセキュリティ体制を重視する企業に適しています。

前給(きらぼしテック株式会社)

前給のウェブサイト

前給は、東京きらぼしフィナンシャルグループのきらぼしテック株式会社が運営する自社払い型の給与前払いサービスです。公式サイトのFAQで、前借りとの違いや、給与支払制度・社内融資制度としての位置づけ、労働基準法・貸金業法・利息制限法への対応を明示しており、本記事で扱ってきた法令面の論点に正面から答えているのが特徴です。

導入社数は累計2,000社以上、勤怠登録者数70万人以上(公式サイト記載)の実績があります。銀行系グループの運営という背景もあり、法令面の説明や体制を重視して検討したい企業に向いています。

料金や機能、勤怠・給与システムとの連携まで含めて給与前払いサービスを幅広く比較し、自社に合うサービスを選びたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

まとめ

働いた分の賃金を給料日前に支払う給与前払いは、原則として適法です。適法性は、勤怠実績に応じた賃金相当額を上限とし、給与支払日までの短期間の立替にとどめ、手数料を信用力によらず一定にするといった前提に支えられており、この範囲を超えて実質的な貸し付けになると、貸金業法などに抵触する恐れがあります。

導入にあたっては、未労働分の前借りと賃金の相殺(労働基準法第17条)、手数料の給与天引きと賃金全額払いの原則(第24条)、貸付性を帯びた手数料の上限(利息制限法)、給与ファクタリングとの違い(貸金業法)という4つの論点を押さえ、就業規則の整備や必要に応じた労使協定の締結を進めておくことが大切です。

サービスを選ぶ際は、原資のタイプや手数料の設計、資金移動業者登録や認証の有無など、適法な運用を支える体制を確認してください。給与前払いサービスの資料を取り寄せて、自社の運用に合うかを見比べることから始めてみてください。

よくある質問(FAQ)

Q. 給与前払い(サービス)とは何ですか?

A. 給与前払いとは、従業員がすでに働いた分の賃金を、給料日より前に受け取れるようにする仕組みで、多くは福利厚生として導入されます。企業が直接対応する方法と、専用の給与前払いサービスを利用する方法があり、サービスは勤怠実績に応じた賃金相当額を上限に、給料日までの短期間の立替として提供されるのが一般的です。まだ働いていない分を先に渡す「前借り(貸し付け)」とは区別されます。

Q. 給与前払いは違法ですか?

A. 働いた分の賃金を給料日前に支払う給与前払いは、原則として適法です。労働基準法は給料日前に賃金を支払うこと自体を禁じておらず、金融庁も、勤怠実績に応じた賃金相当額を上限とする給与支払日までの極めて短期間の立替で、手数料が導入企業の信用力によらず一定であるといった前提のもとでは、貸金業に該当しないとの見解を示しています。

ただし、未労働分の前借りや、実質的に貸し付けとみなされる運用は違法になりえます。

出典・参考資料(1件)

Q. 給与前払いと「前借り」は何が違いますか?

A. 給与前払いはすでに働いた分(既往の労働)の賃金を前倒しで支払うもの、前借りはまだ働いていない分を賃金の前渡しとして先に受け取るものです。前者は支払い時期を早めるだけで貸し付けにあたりませんが、後者は労働の対価がまだ発生していないため、実質的に貸し付けの性質を帯びます。厚生労働省も、労働基準法第25条が定めるのは既往の労働に対する支払いであって、前借りに応じる義務はないとしています。

出典・参考資料(1件)

Q. 給与前払いの手数料を従業員の給与から天引きするのは合法ですか?

A. 手数料を賃金から差し引く場合は、労働者の過半数を代表する者などとの書面による労使協定を結べば、適法に控除できます。労働基準法第24条は賃金の全額払いを原則としますが、労使協定があれば賃金の一部を控除できると定めているためです。従業員が受け取り時に手数料を負担するなど、賃金からの控除にあたらない設計であれば、労使協定は不要です。

出典・参考資料(1件)

Q. 給与前払いと給与ファクタリングはどう違いますか?

A. 給与前払いは賃金を企業を通じて前倒しで支払う「立替」であるのに対し、給与ファクタリングは業者が従業員の賃金債権を買い取って回収する「貸し付け類似の取引」で、貸金業に該当します。金融庁は、賃金債権を買い取って金銭を交付し回収する行為は貸金業にあたるとして注意喚起しており、登録のない業者がこれを業として行えば違法なヤミ金融です。

契約しようとしているサービスが賃金債権の買い取りではなく、あくまで賃金の立替であることを確認しておくと安心です。

出典・参考資料(2件)

Q. 給与前払いを導入するとき、就業規則や労使協定は必要ですか?

A. 前払いのルールは就業規則に記載しておくのが基本で、手数料を給与から天引きする運用にする場合は労使協定の締結が必要になります。労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する事業場に、賃金の支払い方法などを定めた就業規則の作成・届出を義務づけています。

届出義務のない10人未満の事業場でも、前払いの対象・上限・手数料の扱いを社内ルールとして明文化しておくと、運用時のトラブルを防ぎやすくなります。

出典・参考資料(1件)

Q. アルバイトやパートの従業員も給与前払いの対象にできますか?

A. 福利厚生として導入する給与前払いは、雇用形態を問わず、アルバイト・パート・契約社員・正社員のいずれも対象にできるのが一般的です。前払いの原資は本人がすでに働いた分の賃金なので、対象範囲や勤務実績に応じた上限といった利用条件は、企業が就業規則やサービスの設定で定めます。アルバイト・パート比率の高い職場ほど、採用力の強化や定着率の向上といった導入メリットが大きくなります。

Q. 給与前払いの利用に、非常時などの理由は必要ですか?

A. 福利厚生として導入する給与前払いでは、利用に特別な理由は求められないのが一般的です。一方、労働基準法第25条にもとづく「非常時払い」は、出産・疾病・災害・結婚・死亡・やむを得ない1週間以上の帰郷といった限定された非常の場合に、企業へ既往労働分の支払いを義務づける別枠の制度です。任意の福利厚生として前払い制度を設ければ、従業員は理由を問わず、働いた分を前倒しで受け取れるようになります。

出典・参考資料(1件)

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監修者

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト

松嶋真倫

都市銀行にて金融実務を経験後、暗号資産関連スタートアップの創業期に参画し、市場分析・業界調査に従事。2018年にマネックスグループ入社。以降、ビットコインをはじめとするデジタルアセットからマクロ経済環境まで、金融市場を横断した調査・分析および情報発信を担う。FinTech・次世代金融領域のリサーチ統括、各種レポートや書籍の執筆、日本経済新聞など国内主要メディアへのコメント・寄稿、イベント登壇などを行う。2021年3月より現職。
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監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。

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