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経営者・役員の退職金はいくら?功績倍率法での計算と準備・節税の方法

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退職金・企業型DC(企業型確定拠出年金)比較表(2026年版)のプレビュー

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退職金・企業型DC(企業型確定拠出年金)比較表(2026年版)

引退や事業承継を意識し始めた中小企業の経営者にとって、「自分の退職金はいくら受け取れるのか」「その原資をどう積み立てればよいのか」は、早めに考えておきたいテーマです。役員報酬として受け取るより税負担を抑えられると聞いて、具体的な進め方を知りたい方も多いのではないでしょうか。

経営者・役員の退職金は、多くの場合「最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率」という功績倍率法で目安の金額を計算します。受け取るときは退職所得として税制上の優遇があり、会社側では適正な範囲であれば損金に算入できます。原資の準備には、小規模企業共済や法人契約の生命保険、確定拠出年金など複数の手段があり、それぞれ掛金の上限や税制優遇、元本の扱いが異なります。

この記事では、まず功績倍率法による金額の計算方法と役職別の目安を示し、次に原資を準備する6つの手段を同じ基準で比較します。そのうえで、受け取るとき(個人)と会社側(法人)の税務、税務署に否認されない範囲と支給手続き、死亡退職金・弔慰金の相続税の扱いまでを整理します。金額の見当をつけ、自社に合う準備手段を選ぶための判断材料としてご活用ください。

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経営者・役員の退職金はいくら?功績倍率法の計算と役職別の相場

まず気になるのは「自分の場合いくら受け取れるのか」でしょう。ここでは金額の見当をつけるための計算式と、役職別に使われる目安を示します。

功績倍率法の計算式と当てはめ例

経営者・役員の退職金(役員退職慰労金)の目安は、次の計算式で求めるのが一般的です。

退職金の目安額 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率

たとえば最終報酬月額が100万円、役員としての在任年数が20年、功績倍率が3.0倍の社長の場合、100万円 × 20年 × 3.0 = 6,000万円が目安になります。最終報酬月額が80万円・在任15年・倍率3.0倍なら、80万円 × 15年 × 3.0 = 3,600万円です。自社の数字を当てはめれば、おおよその金額を把握できます。

この功績倍率法は、法律が「この式で計算せよ」と定めているわけではありません。役員退職給与が過大かどうかは、在任期間・退職の事情・同業で事業規模が類似する法人の支給状況などに照らして判断され、功績倍率法はその判断を実務で使える形にした計算方法です。

功績倍率が過大と判断されると、超えた部分は会社の損金に算入できません(根拠となる条文は会社側の税務で解説します)。日頃の報酬設定と在任期間にもとづいた金額に収めることが大切です。

役職別の功績倍率の目安

功績倍率は役職ごとに用いられる目安があります。次の値は、役員退職給与の適正額が争われた東京地方裁判所 昭和55年5月26日判決で、同業・類似規模の企業の調査から用いられた倍率に由来し、実務で広く参照されています。あくまで目安であり、法律で定められた上限ではありません。

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役職別の功績倍率の目安社長(代表取締役)専務常務取締役監査役
功績倍率の目安3.0倍2.4倍2.2倍1.8倍1.6倍

実際の支給額は、最終報酬月額と在任年数によって変わります。報酬月額を退職の直前だけ引き上げて退職金を増やそうとすると、その報酬が役員の職務に見合わない過大なものと見なされ、退職金の適正額の計算根拠としても認められないおそれがあります。倍率だけでなく、日頃の報酬設定と在任期間にもとづいた金額であることが重要です。

相場観の参考として、民間の調査(エヌエヌ生命保険「中小企業の退職金に関する調査」2020年3月)では、社長の役員退職金の平均支給額は約2,476万円と報告されています。取締役は約1,685万円、監査役は約1,150万円です。

ただし同じ調査でも支給額は200万円未満から1億円を超える層まで幅広く分布しており、対象企業や集計方法によっても変わるため、平均はあくまで目安です。自社の金額は、上記の計算式に自社の数字を当てはめて見当をつけるのが確実です。

退職金の原資を準備する手段の比較

退職金の目安がわかったら、その原資をどう積み立てるかを考えます。経営者退職金の準備によく使われる手段は、大きく分けて次の6つです。「誰の資金で積み立てるか(個人か会社か)」「掛金の上限」「税制優遇の種類」「解約時の元本割れの有無」が異なるため、自社の状況に合わせて選びます。

小規模企業共済は、中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、小規模企業の経営者・役員向けの退職金制度です。掛金は月額1,000円から70,000円まで500円単位で設定でき、その全額が「小規模企業共済等掛金控除」として個人の所得から控除されます。経営者個人が自分の資金で積み立てる制度です。

経営者向けの生命保険(法人契約)は、会社が契約者となり、解約返戻金や保険金を退職金の原資に充てる方法です。一生涯保障が続く終身保険、保障期間を長く設定する長期平準定期保険、保障額が段階的に増える逓増定期保険、満期保険金がある養老保険などが使われます。勇退時の退職金だけでなく、経営者が亡くなった場合の死亡退職金にも備えられるのが特徴です。

会社が掛金を拠出し、加入者が自分で運用する企業年金制度が企業型確定拠出年金(企業型DC)です。役員も加入でき、会社が拠出する掛金は損金に算入できます。現行の拠出限度額は、他の企業年金がない場合で月額55,000円です。

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、個人が掛金を拠出して運用する私的年金です。掛金は全額が所得控除の対象になり、運用益も非課税です。現行の拠出限度額は、自営業者などで月額68,000円、企業年金のない会社員で月額23,000円です。2026年12月の制度改正でこれらの上限は引き上げられる予定です。

本来は取引先が倒産したときに備える貸付制度が経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)で、こちらも中小機構が運営しています。掛金は月額5,000円から200,000円まで、総額800万円まで積み立てられ、掛金は損金に算入できます。40か月以上納付すれば解約時に掛金全額が戻るため、その解約手当金を退職金の原資に充てる使い方があります。ただし退職金専用の制度ではない点に注意が必要です。

企業年金(選択制の確定給付企業年金など)は、会社が制度を導入し、役員から従業員までを対象に退職金・年金を準備する仕組みです。はぐくみ企業年金のように、給与の一部を掛金に振り替える選択制のものもあります。

これら6つの手段を、掛金の上限・税制優遇・元本の扱い・向く会社の観点で並べると次のとおりです。

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退職金の準備手段小規模企業共済iDeCo(個人型確定拠出年金)経営者向け生命保険(法人契約)企業型確定拠出年金(企業型DC)経営セーフティ共済(倒産防止共済)企業年金(選択制の確定給付企業年金など)
誰の資金で積み立てるか(個人/会社)個人個人会社会社会社会社
(選択制は給与の
一部を振り替え)
掛金・積立の上限月1,000〜70,000円
(500円単位)
自営業者等 月68,000円
企業年金なしの会社員 月23,000円
(2026年12月改正で
75,000円・62,000円へ
引き上げ予定)
上限なし
(保険料は保障額・
年齢等で個別に設定)
月55,000円
(他の企業年金がない場合/
2026年12月改正で
62,000円に引き上げ予定)
月5,000〜200,000円
総額800万円まで
月1,000円〜
上限は基本給の20%または
月40万円のいずれか低い方
(はぐくみ企業年金の例)
税制優遇掛金全額が所得控除
(小規模企業共済等掛金控除)
掛金全額が所得控除
運用益は非課税
保険料の一部〜全部を損金算入
(最高解約返戻率の区分による/
2019年の通達改正)
事業主掛金は全額損金算入
運用益は非課税
掛金全額を損金算入
(所得控除ではない)
受取時に退職所得控除等が
適用される場合がある
解約時の元本割れあり
(納付期間が短いと
掛金を下回る)
運用成績により増減し
元本を下回ることも
(原則60歳まで引き出せない)
あり
(解約時期により
払込保険料を下回る)
運用成績により増減し
元本を下回ることも
(原則60歳まで引き出せない)
あり
(40か月未満は元本割れ、
12か月未満は0円)
制度による
(はぐくみ企業年金は
加入1か月以上で元本保証)
向く会社小規模企業の経営者・役員
個人事業主
老後資金も自分で
準備したい経営者・
個人事業主
死亡保障も同時に
確保したい会社
勇退時期に合わせて
準備したい会社
役員・従業員に企業年金を
用意したい会社
(役員のみの会社でも導入可)
取引先倒産に備えつつ
退職金原資も
準備したい会社
役員から従業員まで幅広く
退職金・年金を整えたい会社

※各制度の一般的な傾向をまとめたものです。掛金の上限・税制上の取り扱い・拠出限度額は改正されることがあり、詳細や最新の要件は各制度の公式情報をご確認ください。

出典・参考資料(5件)
  • 出典:小規模企業共済の掛金|中小機構(公式)
  • 出典:小規模企業共済等掛金控除|所得税法 第75条・e-Gov 法令検索(条文)
  • 出典:経営セーフティ共済の掛金|中小機構(公式)
  • 出典:iDeCoが大きく変わる!2026年12月制度改正のポイント|政府広報オンライン(記事)
  • 出典:法人が支払う生命保険料の取扱い|国税庁タックスアンサー No.5364(解説)

自社に合う手段の選び方

どの手段が適しているかは、会社の状況によって変わります。次の観点で整理すると選びやすくなります。

個人の資金で積み立てるか、会社の資金で積み立てるか。小規模企業共済とiDeCoは経営者個人が掛金を負担し、所得控除で個人の税負担を抑えます。法人契約の生命保険・企業型DC・企業年金・経営セーフティ共済は会社が資金を出し、損金算入で法人税を抑えます。役員報酬をどの程度に設定しているか、個人と会社のどちらで備えたいかで方向性が決まります。

掛金の上限で足りるか。目標とする退職金額に対して、各手段の掛金上限で計画的に積み立てられるかを確認します。上限の小さい手段だけでは不足する場合、複数の手段を組み合わせることもできます。

解約時に元本割れの可能性があるか。共済や確定拠出年金、生命保険は、納付期間が短いうちに解約すると受取額が掛金を下回ることがあります。引退までの期間が短い場合は、短期でも元本割れしにくい手段や、返戻率が高まるまでの期間を見込んだ計画が必要です。

いつ引退・準備を始めるか。積立型の手段は、始める時期が早いほど選択肢が広がります。引退が近い場合は、短期間でまとまった原資を確保できる手段を軸に検討します。自社のキャッシュフローに無理のない掛金で、続けられる手段を選ぶことが大切です。

たとえば従業員の少ない小規模な会社なら、まず掛金が全額所得控除になり少額から始められる小規模企業共済を軸にし、それだけでは目標額に届かない分を法人契約の生命保険や企業型DCで補う、という組み合わせがよく採られます。個人の資金と会社の資金の両方を使い、上限の異なる手段を重ねることで、無理なく原資を積み上げられます。

ここで挙げた小規模企業共済・企業型DCなどの退職金制度は、掛金の扱いや受け取り方が制度ごとに異なります。それぞれの違いや、従業員の退職金も含めた自社の規模に合わせた積み立て方をより詳しく比較したい方は、次の記事もあわせてご覧ください。

退職金の税務:受け取るとき(個人)と会社側(法人)

退職金を役員報酬より有利にしているのが税制です。受け取る個人の側と、支払う会社の側の両面で、税金の扱いを確認します。

受け取るときの税金(個人):退職所得控除と手取り

退職金は「退職所得」として、給与とは分けて課税されます。まず勤続年数(役員退職金では役員としての在任年数で数えます)に応じた退職所得控除を差し引き、さらに残額の2分の1だけが課税対象になるため、同じ金額を給与で受け取るより手取りが多く残ります。所得税法第30条は、退職所得の金額と控除額を次のように定めています。

2 退職所得の金額は、その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の二分の一に相当する金額(略)とする。

3 前項に規定する退職所得控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。/一 政令で定める勤続年数(略)が二十年以下である場合 四十万円に当該勤続年数を乗じて計算した金額/二 勤続年数が二十年を超える場合 八百万円と七十万円に当該勤続年数から二十年を控除した年数を乗じて計算した金額との合計額

出典:所得税法 第30条|e-Gov 法令検索

退職所得控除額は、在任年数20年以下なら「40万円 × 在任年数」、20年を超える部分は「800万円 + 70万円 ×(在任年数 − 20年)」で計算します。たとえば在任30年なら、800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円が控除額です。

退職金が3,000万円なら、控除後の1,500万円をさらに2分の1にした750万円が課税対象です。この750万円に所得税と住民税がかかります。退職所得は分離課税のため、所得税は速算表で「750万円 × 23% − 63万6,000円 = 約109万円」、復興特別所得税(2.1%)を加えて約111万円です。住民税は10%の75万円で、合計は約186万円になります。

この結果、退職金3,000万円に対する税負担は約186万円にとどまり、手取りは約2,814万円が残る計算です(在任30年・その年に他の退職所得がない場合の概算)。同じ金額を毎月の役員報酬で受け取ると累進税率での総合課税と社会保険料の対象になるため、退職金で受け取るほうが手取りは多く残ります。

ただし、役員としての在任年数が5年以下の場合(特定役員退職手当等)は、この2分の1課税が適用されません。長く在任してきたオーナー経営者は通常2分の1課税の対象ですが、短期間で退任する役員の退職金では扱いが変わる点に注意が必要です。

出典・参考資料(1件)
  • 出典:所得税法 第30条(退職所得)|e-Gov 法令検索(条文)

会社側の税務:損金算入と過大部分の損金不算入

会社側では、支払った役員退職給与を損金に算入でき、その分だけ法人所得が圧縮されて法人税の負担が下がります。ただし、金額が「不相当に高額」と判断された部分は損金に算入できません。法人税法第34条第2項と、その具体的な判定基準を定めた法人税法施行令第70条第2号は、次のように定めています。

2 内国法人がその役員に対して支給する給与(略)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。(法人税法第34条第2項)

二 内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与(略)の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額(法人税法施行令第70条第2号)

出典:法人税法 第34条|e-Gov 法令検索/法人税法施行令 第70条|e-Gov 法令検索

このように、退職金が適正かどうかは、①業務に従事した期間、②退職の事情、③同種・類似規模の法人の支給状況、という3つの要素に照らして判断されます。功績倍率法は、この判断を計算式にした実務上の手法です。相場からかけ離れた高額な退職金は、超えた部分が損金に算入できず、法人税の負担が想定より重くなるため、日頃の報酬設定と在任期間にもとづいた金額に収めることが重要です。

適正な範囲であれば、支給額はそのまま損金になります。たとえば退職金3,000万円を損金に算入すると、法人の実効税率を約30%とすれば約900万円の法人税等が軽減される計算です(税率は所得規模や地域で変わるため概算)。受け取る個人側の税負担(前述の約186万円)とあわせると、退職金の形は会社・個人の双方で負担を抑えやすいことが分かります。

出典・参考資料(2件)
  • 出典:法人税法 第34条(役員給与の損金不算入)|e-Gov 法令検索(条文)
  • 出典:法人税法施行令 第70条(過大な役員給与の額)|e-Gov 法令検索(条文)

役員報酬で受け取る場合との税負担の比較

同じ金額を会社から受け取るのでも、毎月の役員報酬として受け取る場合と、退職金として受け取る場合では、個人の税負担が変わります。役員報酬は給与所得として他の所得と合算され、累進税率で総合課税されるうえ、社会保険料の算定対象にもなります。一方、退職金は退職所得控除を差し引いたあとの残額の2分の1だけが課税対象となり、他の所得と分けて計算されるため、税負担を抑えられます。

会社側から見ても、どちらも損金に算入できる点は共通ですが、退職金は退任時にまとめて支払うため、その事業年度の所得を圧縮する効果があります。引退時に多額の資金を受け取る手段として、退職金が選ばれるのはこのためです。ただし、退職金の税制優遇を狙って退職の直前に報酬月額を不自然に引き上げると、過大な退職金と判断されるおそれがあるため、計画的な準備が前提になります。

否認されない範囲と支給までの手続き

適正な金額であっても、支給の手続きが整っていないと、損金算入が否認されたり支給そのものが無効になったりするおそれがあります。押さえておきたい手続きと注意点を整理します。

役員退職慰労金規程の整備と株主総会決議・議事録

役員の退職金(役員退職慰労金)は、役員報酬と同じく、定款に定めがなければ株主総会の決議によって金額や支給方法を決める必要があります。あらかじめ役員退職慰労金規程を整備しておき、規程にもとづいて株主総会で決議し、議事録を作成・保管しておくことが基本です。規程や決議がないまま支給すると、金額の根拠が示せず、いわゆる「お手盛り」の支給と見なされて過大部分の否認につながるおそれがあります。

退任後に顧問として関与し続ける場合の否認リスク

退職金は「退職」の事実にもとづいて支払うものです。形式上は退任しても、その後に顧問などの立場で実質的に経営に関与し続けていると判断されると、退職の事実が認められず、支給した金額が退職金ではなく通常の給与(賞与)として扱われ、損金に算入できなくなるおそれがあります。退任後に会社と関わる場合は、経営の意思決定から離れ、役割と報酬が実態に見合ったものであることを明確にしておく必要があります。

支給の手続きは退任のずっと前から準備する

役員退職慰労金規程の整備や支給方針の決定を、退任が具体化してから慌てて行うと、金額の根拠や手続きの正当性を十分に示せないおそれがあります。規程は早い段階で整えておき、支給方法や功績倍率の考え方を社内で共有しておくことが望ましいでしょう。

また、適正な金額の判断や損金算入の範囲は個別の事情で変わります。早い段階から顧問税理士などに相談し、規程の整備と原資の準備を並行して進めるのが安全です。

死亡退職金・弔慰金と相続税の非課税枠

経営者が在任中に亡くなった場合、遺族には死亡退職金や弔慰金が支払われることがあります。これらには相続税の非課税枠があり、家族への備えとしても退職金制度は意味を持ちます。

死亡退職金(退職手当金等)は、相続税法第12条第1項第7号により、「500万円 × 法定相続人の数」までが非課税になります。

七 相続人の取得した(略)給与(以下この号において「退職手当金等」という。)については、(略)全ての相続人が取得した退職手当金等の合計額が五百万円に当該被相続人の(略)相続人の数を乗じて算出した金額(略)以下である場合 当該相続人の取得した退職手当金等の金額

出典:相続税法 第12条|e-Gov 法令検索

たとえば法定相続人が3人なら、500万円 × 3人 = 1,500万円までの死亡退職金が非課税です。生命保険金にも同じ「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠がありますが(相続税法第12条第1項第6号)、これは死亡退職金とは別枠です。両方を受け取る場合は、それぞれに非課税枠が適用されます。

また、遺族が受け取る弔慰金は、相続税法基本通達3-20により、一定の範囲まで非課税として扱われます。

3-20 被相続人の死亡により相続人その他の者が受ける弔慰金、花輪代、葬祭料等(略)については、(略)次に掲げる金額を弔慰金等に相当する金額として取り扱い、当該金額を超える部分の金額があるときは、その超える部分に相当する金額は退職手当金等に該当するものとして取り扱うものとする。

(1) 被相続人の死亡が業務上の死亡であるときは、(略)賞与以外の普通給与(略)の3年分(略)に相当する金額
(2) 被相続人の死亡が業務上の死亡でないときは、(略)賞与以外の普通給与の半年分(略)に相当する金額

出典:相続税法基本通達 3-20(弔慰金等の取扱い)|国税庁

弔慰金の非課税限度は、業務上の死亡なら普通給与の3年分、業務外の死亡なら普通給与の半年分です。これを超える部分は退職手当金等として扱われ、死亡退職金の非課税枠の対象になります。生前に役員退職慰労金規程で死亡退職金・弔慰金の取り扱いを定めておくと、遺族が受け取る際の根拠が明確になります。

出典・参考資料(2件)
  • 出典:相続税法 第12条(相続税の非課税財産)|e-Gov 法令検索(条文)
  • 出典:相続税法基本通達 3-20(弔慰金等の取扱い)|国税庁(通達)

ここでは遺族が受け取る側の相続税を整理しましたが、会社が受け取る死亡保険金の経理処理や、支払う弔慰金の損金算入は、会社側の税務としても論点になります。事業承継まで見据えて会社側の扱いを確認したい方は、次の記事で詳しく解説しています。

まとめ

経営者・役員の退職金は、「最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率」で目安を計算し、社長なら3.0倍程度が実務上の目安とされます。ただしこれは法定の上限ではなく、在任期間・退職の事情・同業類似規模法人の支給状況に照らした個別判断で、過大な部分は会社の損金に算入できません。受け取る個人は退職所得控除と2分の1課税で税負担を抑えられ、会社は適正額を損金に算入できます。

原資の準備には、個人が積み立てる小規模企業共済・iDeCoと、会社が資金を出す法人契約の生命保険・企業型DC・企業年金・経営セーフティ共済があり、掛金上限・税制優遇・元本の扱いが異なります。自社の状況に合った手段を早めに選び、役員退職慰労金規程の整備や株主総会決議といった手続きとあわせて準備を進めることが大切です。

具体的な掛金や返戻の条件は各制度の資料で比較し、金額や損金算入の範囲は顧問税理士にも確認しながら検討するとよいでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 役員退職慰労金とは何ですか?

A. 役員退職慰労金とは、取締役や監査役などの役員が退任する際に、会社から支給される退職金です。従業員の退職金と同じく在任中の功労に報いるもので、支給には定款の定めまたは株主総会の決議が必要になります。金額は「最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率」という功績倍率法で目安を計算するのが一般的です。

Q. 経営者・役員の退職金は功績倍率が何倍まで認められますか?

A. 経営者・役員の退職金の功績倍率には、法律で「何倍まで」と定められた上限はありません。社長(代表取締役)で3.0倍程度が実務上の目安として広く参照されますが、これは役員退職給与の適正額が争われた東京地方裁判所 昭和55年5月26日判決で、同業・類似規模の企業の調査から用いられた倍率に由来する慣行です。

実際の適正額は、在任期間・退職の事情・同種で事業規模が類似する法人の支給状況に照らして個別に判断されます(法人税法施行令第70条第2号)。

出典・参考資料(1件)
  • 出典:法人税法施行令 第70条(過大な役員給与の額)|e-Gov 法令検索(条文)

Q. 役員退職金を支給するのに株主総会の決議は必要ですか?

A. 役員退職金の支給には、定款に定めがなければ株主総会の決議が必要です。あらかじめ役員退職慰労金規程を整備し、規程にもとづいて株主総会で金額や支給方法を決議し、議事録を作成・保管しておくのが基本です。規程や決議がないまま支給すると、金額の根拠を示せず「お手盛り」の支給と見なされ、過大部分が損金に算入できなくなるおそれがあります。

Q. 在任年数が短くても役員退職金は受け取れますか?

A. 在任年数が短くても役員退職金は受け取れます。退職金の支給に必要な最低勤続年数という法律上の定めはありません。ただし、役員としての在任年数が5年以下の場合(特定役員退職手当等)は、退職所得の2分の1課税が適用されず、同じ金額でも税負担が重くなる点に注意が必要です。長く在任してきたオーナー経営者は、通常この2分の1課税の対象になります。

出典・参考資料(1件)
  • 出典:所得税法 第30条(退職所得)|e-Gov 法令検索(条文)

Q. 赤字が続いている会社でも自分に退職金を出してよいですか?

A. 赤字の会社でも、役員退職金を支給すること自体は可能です。退職金を出せるかどうかは会社の黒字・赤字では決まりません。ただし、支給には会社の資金が必要なため、キャッシュフローを圧迫しない範囲で計画的に準備することが前提です。退職金は損金に算入できるため支給した事業年度の所得を圧縮する効果もありますが、無理な支給で資金繰りを悪化させないよう注意します。

Q. 役員報酬を低く設定していると退職金で不利になりますか?

A. はい。功績倍率法は最終報酬月額を基礎に計算するため、報酬月額を低く設定しているほど、退職金の適正上限額も下がります。ただし、退職金を増やす目的で退任の直前だけ報酬月額を不自然に引き上げると、その報酬自体が過大と見なされ、退職金の計算根拠としても認められないおそれがあります。日頃から在任期間を通じて実態に見合った報酬を設定しておくことが大切です。

Q. 退任後に顧問として関与し続けても退職金は認められますか?

A. 実質的に経営へ関与し続けていると、退職金ではなく通常の給与として扱われ、損金に算入できなくなるおそれがあります。形式上は退任しても、顧問などの立場で経営の意思決定に関わっていると判断されると、退職の事実が認められないためです。退職金として認められるには、経営の意思決定から実際に退き、退任後の役割と報酬が実態に見合ったものであることを明確にしておく必要があります。

Q. 支給前に経営者が亡くなった場合、退職金はどうなりますか?

A. 経営者が退職金の支給前に亡くなった場合は、遺族に「死亡退職金」として支払われ、相続税の課税対象になります。ただし「500万円 × 法定相続人の数」までは非課税です(相続税法第12条第1項第7号)。この非課税枠は、生命保険金にある同額の非課税枠(同項第6号)とは別枠のため、両方を受け取る場合はそれぞれに非課税枠が適用されます。

出典・参考資料(1件)
  • 出典:相続税法 第12条(相続税の非課税財産)|e-Gov 法令検索(条文)

Q. 退職金の準備手段は組み合わせて使えますか?

A. 退職金の準備手段は組み合わせて使えます。目標とする退職金額に対して単一の手段だけでは掛金の上限が足りない場合、小規模企業共済・法人契約の生命保険・企業型DCなどを併用できます。

個人の資金で積み立てて所得控除を受ける手段(小規模企業共済・iDeCo)と、会社の資金で積み立てて損金に算入する手段(法人保険・企業型DC・企業年金など)を組み合わせると、個人・会社の両面で税負担を抑えながら原資を確保できます。

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監修者

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト

松嶋真倫

都市銀行にて金融実務を経験後、暗号資産関連スタートアップの創業期に参画し、市場分析・業界調査に従事。2018年にマネックスグループ入社。以降、ビットコインをはじめとするデジタルアセットからマクロ経済環境まで、金融市場を横断した調査・分析および情報発信を担う。FinTech・次世代金融領域のリサーチ統括、各種レポートや書籍の執筆、日本経済新聞など国内主要メディアへのコメント・寄稿、イベント登壇などを行う。2021年3月より現職。
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