「自社のリスクマネジメントを見直したい」と考えたとき、まず知りたいのは、どんなリスクがあり、それぞれ実際にどう対応するのかという具体例ではないでしょうか。情報漏洩や自然災害、コンプライアンス違反、売掛金の回収不能まで、企業が直面するリスクは幅広く、自社に当てはめて考えるには一覧で見渡せる例が役立ちます。
リスクマネジメントは、こうしたリスクを洗い出して評価し、回避・低減・移転・受容といった手段で備える一連の活動です。抽象的な理論だけでは自社の行動に落とし込みにくいため、具体例とセットで理解することが実務では欠かせません。
本記事では、リスクの種類ごとの具体例と対応例を一覧で整理し、分類の考え方・進め方のプロセス・実在企業の取り組み事例までをまとめました。さらに、洗い出したリスクを日々の運用に落とすための手段(リスク管理台帳やGRC〈ガバナンス・リスク・コンプライアンス〉ツール)も紹介します。担当を任された方が、自社のリスクを整理し次の一手を決める材料としてご活用ください。
目次
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リスクマネジメントの具体例一覧(種類×具体例×対応例)
ここからは、企業が直面する主なリスクを種類ごとに整理し、それぞれの具体的な例と対応例を一覧にまとめます。対応例は、後述する4つの手法(回避・低減・移転・受容)を実務に当てはめたものです。自社に当てはまりそうな行を見つけ、リスクの洗い出しの出発点としてご活用ください。
| リスクの種類 | 具体的なリスクの例 | 主な対応例(回避・低減・移転・受容の当てはめ) |
|---|---|---|
| 情報セキュリティリスク | 個人情報・機密情報の漏洩、ランサムウェアなどのサイバー攻撃、システム障害によるデータ消失 | アクセス権限の最小化・多要素認証・脆弱性対策で発生確率を下げる(低減)/サイバー保険で被害額を移す(移転)/重要データを二重に保管する(低減) |
| コンプライアンスリスク | 法令違反、不正会計、下請法・景品表示法違反、インサイダー取引 | 取引先審査・稟議フローと社内規程の整備、定期研修、内部通報窓口の設置(低減)/違法性の高い取引そのものを行わない(回避) |
| 人事・労務リスク | ハラスメント、長時間労働・過重労働、人材の流出、労働災害 | 相談窓口と就業規則の整備、労働時間の可視化(低減)/安全衛生教育の徹底(低減) |
| 財務リスク | 売掛金の回収不能(貸し倒れ)、資金繰りの悪化、為替・金利の変動 | 与信管理と取引信用保険の活用(移転)/取引先の分散(低減)/回収不能が見込まれる取引を避ける(回避) |
| 災害(ハザード)リスク | 地震・水害・火災、設備事故による操業停止 | 事業継続計画(BCP)の策定と拠点の分散(低減)/火災保険・地震保険への加入(移転) |
| サプライチェーンリスク | 委託先・仕入先の事故や倒産による供給停止、委託先を起点とした情報漏洩 | 委託先の分散と代替先の確保(低減)/委託先へのセキュリティチェックと契約での責任の明確化(低減・移転) |
| 事業戦略リスク | 新規事業の失敗、需要の急変、競合の台頭による売上減 | 投資を段階化し撤退基準を事前に決める(低減)/採算が見込めない事業に参入しない(回避)/小さく試して許容範囲を決める(受容) |
| レピュテーションリスク | SNSでの炎上、不祥事報道によるブランドの毀損 | 情報発信のルール整備と初動対応体制の構築(低減)/日頃の情報収集で兆候を早期に把握(低減) |
| 感染症リスク | 感染症の流行による出社制限・操業停止 | テレワーク体制と業務のデジタル化(低減)/事業継続計画に感染症シナリオを加える(低減) |
同じリスクでも、業種によって重みは異なります。製造業なら設備事故や労働災害、IT企業なら情報漏洩やシステム障害、小売業なら在庫や品質のリスクが大きくなりやすいため、自社の事業に照らして関係する行を選んでみてください。
行を選んだら、「どの手段で備えるか」を対応例に沿って検討すると、具体的なアクションに落としやすくなります。次章では、これらのリスクを頭の中で仕分けるための分類の考え方を整理します。
リスクの分類の整理
数多くのリスクを漏れなく洗い出すには、分類の軸を持っておくと便利です。ここでは、代表的な2つの分類の考え方を紹介します。
純粋リスクと投機的リスク
最も基本的な分類が、損失だけをもたらす「純粋リスク」と、損失と利得の両方の可能性を持つ「投機的リスク」の区別です。日本アクチュアリー会の教科書は、両者を次のように定義しています。
将来の複数の起こりうる結果のうち、経済的損失の可能性のみがある(利得の可能性がない)リスクを「純粋リスク」という。一般に保険制度が対象としているのは、この純粋リスクである。一方「投機的リスク」は、不確実性の中に損失だけでなく利得の可能性も含まれるリスクである。
出典:損保 第1章 損害保険業とは(2023年2月改訂)|公益社団法人 日本アクチュアリー会
火災・地震・情報漏洩・労働災害などは損失のみをもたらす純粋リスクにあたり、保険や予防策で備える対象になります。一方、新規事業への参入や新商品開発、為替・金利の変動などは、損失と同時に利益の機会も伴う投機的リスクです。保険では備えにくく、投資判断や撤退基準の設計で管理します。
実務でよく使われる4つの分類
純粋・投機の2区分に加えて、実務では原因や領域に着目した分類もよく用いられます。代表的なのが、戦略リスク・財務(金融)リスク・ハザード(災害)リスク・オペレーショナルリスクの4分類です。これは特定の規格が定めた区分ではなく、企業が自社のリスクを網羅的に見渡すための一般的な整理の一例として広く使われています。
- 戦略リスク:競合の台頭や需要の変化、法規制の変更など、経営判断に関わるリスク
- 財務(金融)リスク:為替・金利・株価の変動や、売掛金の回収不能など、資金に関わるリスク
- ハザード(災害)リスク:地震・水害・火災などの自然災害や事故。保険で備えやすい領域
- オペレーショナルリスク:業務プロセスの不備や人材の離職、システム障害など、日常業務に潜むリスク
冒頭のマトリクスで挙げたリスクをこの軸で見ると、事業戦略リスクは戦略リスク、財務リスクは財務(金融)リスク、災害・感染症のリスクは主にハザード(災害)リスク、情報セキュリティ・コンプライアンス・人事労務・サプライチェーン・レピュテーションのリスクは主にオペレーショナルリスクに整理できます。
どの分類を使うかは自社の業種や規模によって選べば十分です。大切なのは、いずれかの軸で網羅的に見渡し、洗い出しの抜け漏れを防ぐことです。
リスクへの対応4手法(回避・低減・移転・受容)と当てはめ例
洗い出したリスクへの対応は、大きく「回避」「低減」「移転」「受容」の4つに整理できます。それぞれの意味と、実務での当てはめ例を見ていきましょう。
- 回避:リスクの原因となる活動そのものを行わないこと。例として、採算が見込めない新規事業への参入を見送る、災害リスクが高い地域での拠点開設を避ける、といった判断があります。
- 低減:発生確率や影響度を下げること。耐震補強で地震被害を抑える、セキュリティ対策や社員研修で情報漏洩の確率を下げる、といった対策が該当します。
- 移転:リスクの影響を第三者に移すこと。火災保険やサイバー保険への加入、業務の一部を専門会社にアウトソーシングする、といった手段があります。
- 受容:発生確率や影響度が小さく、対策コストが見合わない場合に、あえて特別な対策をとらず受け入れること。許容できる範囲をあらかじめ決めておくことが前提です。
リスクコントロールとリスクファイナンスの区分
4つの手法は、処理の方法によって「リスクコントロール」と「リスクファイナンス」の2つに束ねて整理することもできます。中小企業基盤整備機構は、両者を次のように説明しています。
リスクマネジメントは、リスクの処理手段によって、リスク・コントロールとリスク・ファイナンシングに分けることができます。リスク・コントロール…事前予防を行い、事故の防止や軽減を目的とした各種手段(リスクの回避/リスクの軽減)。リスク・ファイナンシング…事故が発生した際の損害に対して、資金を用意しておくこと(リスクの保有/リスク転嫁)。
出典:事業継続力強化におけるリスクファイナンス|独立行政法人 中小企業基盤整備機構
回避と低減は損失そのものを防ぐ「コントロール」、移転と受容は損失が起きたときの資金手当てを決める「ファイナンス」にあたります。両者を組み合わせて備えることで、予防と事後対応のバランスがとれます。

リスクマネジメントの進め方(特定→分析→評価→対応→モニタリング)
ここからは、リスクへ実際に備えるための進め方を解説します。国際規格ISO 31000(日本産業規格 JIS Q 31000:2019)は、リスクの特定・分析・評価をまとめて「リスクアセスメント」と位置づけています。その後のリスク対応、モニタリングまでを一連のプロセスとして示しており、実務では次の流れで進めるのが基本です。

- リスクの特定:自社の事業に影響しうるリスクを洗い出し、一覧(リスク管理台帳)にまとめます。前章のマトリクスや分類軸が抜け漏れ防止に役立ちます。
- リスクの分析:各リスクの発生確率と影響度を見積もります。
- リスクの評価:発生確率×影響度でリスクの大きさを比較し、優先順位を付けます。縦軸に影響度、横軸に発生確率をとった「リスクマップ」にすると、対応すべきリスクが一目で分かります。
- リスクへの対応:優先度の高いリスクから、回避・低減・移転・受容のいずれかで手を打ちます。
- モニタリングと見直し:対応の効果を定期的に確認し、事業環境の変化に合わせて台帳を更新します。
各ステップで「リスク管理台帳」や「リスクマップ」といったアウトプットを残すことが、進め方を形骸化させないコツです。
リスクマネジメントを形骸化させないポイント
プロセスを一度作っても、運用が続かなければ意味がありません。定着させるには、次の点を意識すると効果的です。
- 特定の担当者任せにせず、部門横断の体制(委員会など)で取り組む
- 経営層が関与し、重要リスクを経営課題として位置づける
- 台帳や評価基準を定期的に見直し、環境変化に追従させる
- 研修や情報共有を通じて、全社員がリスクに気づける状態をつくる
出典・参考資料(1件)
実在企業のリスクマネジメント事例
ここからは、実在企業がリスクマネジメントをどのように体制化しているかを見ていきます。いずれも各社の公表情報にもとづく事例です。自社の体制づくりの参考にしてください。
オリエンタルランド:社長を委員長とする委員会と緊急対応組織
株式会社オリエンタルランドは、有価証券報告書で次のようにリスク管理体制を説明しています。
当社グループでは、当社の社長を委員長とするリスクマネジメント委員会にて、年に一度以上を目安に当社グループにおけるリスクを抽出して評価し、「戦略リスク」と「運営リスク」を特定し…緊急的に事態の収拾を図る必要がある場合、対応方針を決定する組織として、「ECC(Emergency Control Center)」を設置しております。
出典:有価証券報告書(第64期)|株式会社オリエンタルランド
年1回以上リスクを抽出・評価して重要リスクを特定する定常的な仕組みと、緊急時に方針を決める専任組織を分けている点が特徴です。
カゴメ:3ラインモデルにもとづく統括委員会
カゴメ株式会社は、内部監査を独立した機能として位置づける「3ラインモデル」にもとづき、社長を委員長とするリスクマネジメント統括委員会を設けています。
当社では、3ラインモデルの考え方に基づくリスクマネジメント体制を整備しています。リスクマネジメント統括委員会は社長を委員長とし、CROを委員会事務局長とするグループ全体でのリスクマネジメント活動の統括組織です。
出典:さまざまなリスクへの対応|カゴメ株式会社
現場(第1のライン)、管理部門(第2のライン)、内部監査(第3のライン)の役割を分け、それぞれが独立してリスクを見る体制です。
高島屋・日産化学:委員会と重要リスクの特定
株式会社高島屋は、社長を委員長とする「高島屋グループサステナビリティ委員会」と「高島屋グループリスクマネジメント委員会」を設け、コンプライアンスリスクや自然災害リスクの予防・極小化にグループ横断で取り組んでいます。あわせて、コンプライアンス・ホットラインやハラスメント・ホットラインなどの内部通報窓口も整備しています。
日産化学株式会社は、CROを委員長とするリスク・コンプライアンス委員会を年2回開催し、前章で紹介した「発生確率×影響度でリスクマップを作る」進め方を実際に運用しています。同社は公式サイトで次のように説明しています。
各部門の事業特性やグローバルな政治・経済・社会情勢等、ビジネスを取り巻く環境を考慮してリスクを洗い出し、発生可能性と事業への影響度の観点からリスク評価を実施した上で、リスク評価結果に基づくリスクマップを作成し「グループ重要リスク」を選定
出典:リスクマネジメント|日産化学株式会社
いずれも大企業の例ですが、共通するのは「経営層の関与」「定期的な洗い出しと評価」「役割分担」の3点です。委員会を少人数の会議体に、専任者を他業務との兼任に置き換えれば、中小企業でも同じ考え方を小さく取り入れられます。
出典・参考資料(1件)
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リスクマネジメントを運用に落とす手段
ここまで見てきた「例の洗い出し」「評価」「対応」を継続的に回すには、記録と運用の仕組みが欠かせません。ここでは、まず自社で始められるアナログな方法と、規模が大きくなったときに検討したいツールを紹介します。
リスク管理台帳・チェックリストで回す最小の実践例
まず取り組みやすいのが、表計算ソフトで作る「リスク管理台帳」です。1行に1つのリスクを記録し、内容・分類・発生確率・影響度・対応方針・担当者・見直し時期といった列を設けると、前章のプロセスをそのまま台帳の上で運用できます。
担当者が限られる中小企業では、まず本記事のマトリクスから自社に関係するリスクを10件ほど書き出し、発生確率×影響度で優先順位を付けるだけでも十分な第一歩になります。四半期に一度など頻度を決めて見直せば、無理なく運用を続けられます。業種特有のリスク(製造業なら設備事故、ITなら情報漏洩など)は、現場の担当者にチェックリストで確認してもらうと抜け漏れを防げます。
GRCツール・リスク管理システムで効率化する
リスク全般の洗い出しと記録は前述のリスク管理台帳で回せますが、委託先が増えて審査が追いつかない、情報セキュリティの管理を認証運用ごと仕組み化したい、といった特に負荷の高い領域では、専用のGRCツールの活用が選択肢になります。
予算や運用負荷を抑えて選びたい中小企業の方は、選び方やIT導入補助金の活用を整理した『中小企業向けGRCツールおすすめ5選を比較』もあわせてご覧ください。
ここで紹介する2つは、いずれもこうした負荷の高い領域を仕組み化する例です。委託先の審査を仕組み化したいなら委託先リスク管理型のVendorTrustLink、ISMS・Pマークの運用とあわせて情報セキュリティのリスク管理を回したいなら認証運用型のSecureNaviが検討しやすいでしょう。以下は2サービスの概要の比較です。
| サービス名 | VendorTrustLink | SecureNavi |
|---|---|---|
| 提供会社 | 株式会社アトミテック | SecureNavi株式会社 |
| タイプ(主な用途) | 委託先リスク管理(TPRM) 委託先へのチェックシート審査を自動化 | ISMS(ISO/IEC 27001)・Pマークの 取得・運用を一元管理 |
| 主な機能 | チェックシートの自動送付・回収・採点 委託先管理・経年比較 ダッシュボードで可視化 | 規程・情報資産台帳・内部監査記録の一元管理 リスクアセスメント自動提案 委託先管理・Eラーニング |
| 提供形態 | クラウド(SaaS) | クラウド(SaaS) |
| 対象企業規模 | 中小〜大企業 (上場企業を含む複数社が利用) | 中小〜大企業 (導入1,400社以上) |
| 料金 | 要問い合わせ (公式は料金非公開) | 要問い合わせ (公式は料金非公開) |
| 資料請求・相談方法 | 資料ダウンロードに対応 | オンライン相談に対応 |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | オンライン相談を予約 |
1. VendorTrustLink(株式会社アトミテック)

VendorTrustLinkは、委託先・取引先に対するセキュリティチェックシートの送付・回収・採点・履歴管理をクラウド上で自動化する、委託先リスク管理(TPRM)サービスです。国際的なリスクマネジメントの指針であるISO 31000に沿った設計を掲げ、情報漏洩やコンプライアンス違反といった委託先を起点とするリスクの可視化・一元管理をコア機能としています。
Excelやメールで属人的に運用しがちなチェックシート審査を、配信から自動採点・経年比較まで一気通貫で回せる点が特徴です。委託先の重要度による分類、未回答者への自動リマインド、レーダーチャートでの結果表示などに対応し、委託先が多く供給網を起点としたリスク管理を体系化したい企業に向いています。
公式サイトによると、東証プライム上場企業を含む複数社に導入されています。料金はアカウント数と委託先数に応じた個別見積りのため、詳細は資料で確認するとよいでしょう。
2. SecureNavi(SecureNavi株式会社)

情報セキュリティリスクの管理を、認証運用とあわせて仕組み化したい企業に向くのがSecureNaviです。ISMS認証(ISO/IEC 27001)やPマーク(プライバシーマーク)の取得・運用を一元管理するクラウド型ツールで、ExcelやWordで分散しがちな規程類・情報資産台帳・リスクアセスメント・内部監査記録をSaaS上に集約します。
情報資産をもとにしたリスクアセスメントの自動提案や、内部監査・委託先管理・インシデント記録まで運用フェーズをカバーするため、本記事で挙げた情報漏洩・サイバー攻撃・コンプライアンスといったリスクの洗い出しから対応の記録までを、担当者がSaaS上で回せます。
専任のセキュリティ担当者を置きにくい中小企業でも運用しやすい設計で、導入企業は1,400社以上とされています。まずはオンライン相談で、自社の運用に合うか相談してみるとよいでしょう。
ここで挙げた2サービスのほかにも、リスクの評価・可視化や委託先管理を担うGRCツールは数多くあります。以下の記事では主要なGRCツールを選び方・機能・料金の観点で比較しているので、本格的に導入を検討する段階でツールを絞り込む材料としてご活用ください。
リスクマネジメントの基礎知識
最後に、ここまでの内容の土台となる基本用語と背景を整理します。すでに具体例と進め方を押さえた方は、確認として読み進めてください。
リスクマネジメントとは
リスクマネジメントとは、企業の目的の達成を妨げうる不確実性(リスク)を洗い出し、評価し、備えるための一連の活動です。JIS Q 31000:2019(ISO 31000:2018)は、リスクを「目的に対する不確かさの影響」、リスクマネジメントを「リスクについて、組織を指揮統制するための調整された活動」と定義しています。
なぜ今リスクマネジメントが重要なのか
近年、企業が向き合うリスクは多様化・複雑化しています。中小企業庁の2021年版小規模企業白書も、事業活動に影響を及ぼすリスクとして「自然災害や感染症のまん延、テロなどの事件の発生、大事故、サプライチェーンの途絶、サイバー攻撃など多岐にわたっている」と指摘しています。
デジタル化やグローバル化、SNSによる情報拡散が進むなかで、一つのリスクが事業全体に波及しやすくなっており、体系的な備えの重要性が高まっています。
クライシスマネジメント・BCP・リスクアセスメントとの違い
リスクマネジメントと混同されやすい用語を整理します。リスクアセスメントは、リスクの特定・分析・評価をまとめて指す、リスクマネジメントの一部の工程です。
クライシスマネジメントは、事故や不祥事などの危機が実際に起きた後の被害を最小化する活動で、事前の備えを含むリスクマネジメントより後の段階を担います。BCP(事業継続計画)は、災害などの緊急事態でも重要業務を継続・早期復旧するための計画で、リスクへの対応策の一つに位置づけられます。
出典・参考資料(2件)
まとめ
リスクマネジメントの具体例は、情報セキュリティ・コンプライアンス・財務・災害・サプライチェーンなど幅広い領域にわたります。まずは本記事のマトリクスから自社に関係するリスクを書き出し、発生確率×影響度で優先順位を付け、回避・低減・移転・受容のいずれかで対応方針を決めるところから始めるのが実践的です。
洗い出したリスクを継続的に管理するには、リスク管理台帳での運用を起点に、規模や委託先の増加に応じてGRCツールの活用を検討するとよいでしょう。自社に合ったツールの資料は、以下からまとめて請求できます。
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よくある質問(FAQ)
Q. リスクマネジメントとは何ですか?
A. リスクマネジメントとは、企業の目的達成を妨げるおそれのある不確実性(リスク)を洗い出して評価し、回避・低減・移転・受容といった手段で備える一連の管理活動です。国際規格のISO 31000(JIS Q 31000)では「リスクについて、組織を指揮統制するための調整された活動」と定義されています。一度きりの対策ではなく、特定→分析→評価→対応→見直しを継続的に回していく点が特徴です。
Q. リスクマネジメントの4つの対応方法(回避・低減・移転・受容)とは何ですか?
A. リスクへの対応方法は、リスクの原因を断つ「回避」、発生確率や影響を下げる「低減」、保険などで影響を第三者に移す「移転」、小さなリスクをあえて受け入れる「受容」の4つに整理できます。たとえば採算が見込めない新規事業の見送りは回避、耐震補強は低減、火災保険への加入は移転、影響が軽微なリスクを許容範囲として受け入れるのが受容にあたります。
このうち回避・低減は損失そのものを防ぐ「リスクコントロール」、移転・受容は損失が起きたときの資金面の備えを決める「リスクファイナンス」に対応し、両者を組み合わせて備えるのが基本です。
Q. リスクマネジメントとリスクアセスメントの違いは何ですか?
A. リスクアセスメントは、リスクの「特定・分析・評価」をまとめて指す、リスクマネジメントの一部の工程です。一方リスクマネジメントは、このアセスメントに加えて、その後のリスク対応やモニタリング・見直しまでを含む、より広い一連の活動を指します。つまりアセスメントはリスクの大きさを見極める段階、リスクマネジメントはその結果に手を打ち継続的に回し続ける全体像、という関係になります。
Q. リスクマネジメントとBCP・クライシスマネジメントはどう違いますか?
A. リスクマネジメントが事前の備え全般を指すのに対し、クライシスマネジメントは危機が実際に起きた後の被害を最小化する活動、BCP(事業継続計画)は緊急時でも重要業務を継続・早期復旧するための計画です。
時間軸で整理すると、平時の予防がリスクマネジメント、有事の対応がクライシスマネジメント、その中で事業を止めないための具体的な計画がBCPと位置づけられます。BCPはリスクへの対応策の一つとして、リスクマネジメントの中に含まれます。
Q. リスクマネジメントは何から始めればよいですか?
A. まずは自社に関係するリスクを書き出し、発生確率×影響度で優先順位を付けるところから始めるのが現実的です。本記事のマトリクスや分類軸(純粋/投機、戦略・財務・ハザード・オペレーショナル)を使うと、洗い出しの抜け漏れを防げます。
書き出した10件ほどを表計算ソフトの「リスク管理台帳」に記録し、優先度の高いものから回避・低減・移転・受容の方針を決めれば、無理なく第一歩を踏み出せます。最初から完璧を目指さず、四半期に一度など頻度を決めて見直すことが定着のコツです。
Q. 中小企業でもリスクマネジメントは必要ですか?
A. 企業規模を問わず必要であり、むしろ経営資源が限られる中小企業ほど、一つのリスクが事業全体に与える打撃は大きくなります。専任部署や高価なシステムがなくても、表計算ソフトのリスク管理台帳とチェックリストがあれば運用を始められます。まずは自社の主要なリスクを数件に絞って管理し、事業の成長や委託先の増加に応じて、GRCツールなどによる仕組み化を検討していくとよいでしょう。
Q. リスクマネジメントは社内の誰が担当すべきですか?
A. 特定の担当者任せにせず、経営層の関与のもとで部門横断の体制を組むのが望ましい形です。実在企業では、社長を委員長とするリスクマネジメント委員会を設けたり、現場・管理部門・内部監査で役割を分ける「3ラインモデル」を採用したりする例があります。小規模な組織であっても、総務や経営企画などが事務局となって各部門から情報を集め、経営層に報告する流れをつくることが、運用の形骸化を防ぐポイントです。
Q. リスクマネジメントに役立つツールやシステムにはどのようなものがありますか?
A. 身近なものでは表計算ソフトで作る「リスク管理台帳」、規模が大きくなれば、リスクの洗い出し・評価・可視化や委託先管理を効率化する「GRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)ツール」があります。
管理するリスクや委託先が増えて台帳での運用が限界に近づいたら、委託先のセキュリティチェックを自動化するサービスや、ISMS・Pマークの運用を一元管理するツールなどが選択肢になります。自社の課題(委託先管理、情報セキュリティなど)に合うものを、資料を取り寄せて比較検討するとよいでしょう。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
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