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マネーロンダリングの日本の事例|手口タイプ別の実例・最新統計と企業の対策

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「マネーロンダリング」という言葉は知っていても、日本で実際にどんな事件が起きているのかは、意外と知られていません。犯罪で得た資金を、他人名義の口座や暗号資産、電子マネー、ペーパーカンパニーを使って出所を隠す手口は、いまも国内で次々と摘発されています。

特定事業者として本人確認や取引モニタリングを担う立場では、「自社が知らないうちに資金洗浄に使われていないか」を具体的な事例で押さえておきたいところです。実務の点検や社内での共有のために、実際の手口と結末を確かめておきたい場面もあります。

本記事では、警察庁や金融庁が公表した日本の実在するマネーロンダリング事例を手口タイプ別に整理し、最新の検挙・届出統計、犯罪収益移転防止法や組織的犯罪処罰法が事業者に求める義務、業態別の対策の実務までを解説します。

【日本の事例】手口タイプ別のマネーロンダリング実例

ここでは、警察庁や警察庁犯罪収益移転防止対策室(JAFIC)が公表した日本の実在事例を、手口のタイプ別に紹介します。いずれも当局が公表した事例で、個人が特定されないよう属性や地域のみが示されています。

まず全体像として、代表的な手口を「どの段階でどう隠したか」「どんな前提犯罪の収益か」「どの機能で検知・対策できるか」の観点で整理します。以下で紹介する事例は、いずれも組織的犯罪処罰法第10条(犯罪収益等隠匿)を中心とする罪で摘発されたものです。

手口の3段階(プレイスメント・レイヤリング・インテグレーション)や条文の詳細は後半の解説で、検知・対策は業態別の対策の実務で扱います。海外を経由する手口はこれらに横断的に絡むため、表では独立させず後述します。

手口タイプ隠し方(主な段階)前提犯罪の例対応する検知・対策の要点
暗号資産の利用国外の交換所で別の暗号資産に交換(レイヤリング)特殊詐欺オンチェーン分析・取引モニタリング
他人名義・架空法人口座複数口座へ順次送金し分散(レイヤリング)詐欺本人確認・取引モニタリング
電子マネー・プリペイド架空人名義のポイントを商品購入に使用(インテグレーション)電子計算機使用詐欺なりすまし登録対策・利用モニタリング
ペーパーカンパニー架空法人名義の口座間で送金(レイヤリング)詐欺・オンラインカジノ実質的支配者の確認・反社/制裁スクリーニング
特殊詐欺収益の受け渡し現金を対面で回収(プレイスメント)特殊詐欺取引モニタリング・疑わしい取引の届出

暗号資産を利用した事例

暗号資産は、国境を越えて短時間で送れることや、複数のアドレスへ分散させやすいことから、資金の出所を隠す手段として使われます。JAFICの令和7年報告書には、令和7年に警視庁と愛知県警が検挙した、次のような事例が記載されています。

特殊詐欺グループのメンバーらは、相対取引を利用して、特殊詐欺によって得た犯罪収益を用いて購入された暗号資産を、国外の暗号資産交換所を介して、別の暗号資産に交換した上、移転役の女のコインアドレスに送信し、暗号資産の対価として現金と交換したことから、同メンバーらを組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙した。

出典:犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)|警察庁(JAFIC)

資金の流れをブロックチェーン上で追跡する手法は「オンチェーン分析」と呼ばれます。暗号資産のマネーロンダリングでは、複数の資金を混ぜ合わせて出所を分かりにくくする「ミキサー」がよく使われます。

異なるブロックチェーン間で資産を移す「クロスチェーンブリッジ」を経由したり、多数の中間ウォレットを通したりすることで、資金の流れは単純な直線ではなくなります。こうした手口は、オンチェーン分析ベンダーの調査でも指摘されています。

出典・参考資料(1件)

こうした手口は、取引記録が公開台帳に残る一方で、その流れを人手だけで追うのは困難です。暗号資産交換業者では、取引をリアルタイムに監視し、リスクの高いアドレスを検知する仕組みが対策の中心になります。

暗号資産を使った資金洗浄の手口の全体像や、交換業者に求められる対策の実務は、次の記事で事例とあわせて詳しく整理しています。

他人名義口座の売買・利用による事例

他人名義の口座は、犯罪収益の受け皿や、資金を転々とさせる中継地点として悪用されます。売買された口座やその情報が使われるため、口座の名義人と実際に資金を動かす人物が一致しないことが特徴です。

中国人の女らは、詐欺被害者に同女らの管理する架空の法人名義口座に被害金を振込送金させ、他の一般財産と混和させた上、インターネットバンキングを利用して二次口座(架空法人名義口座)に振込送金し、さらに同様の手口で二次口座から三次口座、三次口座から四次口座へと移転・分散させたことから…組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙した。

出典:犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)|警察庁(JAFIC)

口座の不正な売買そのものも取り締まりの対象です。JAFICによると、令和7年中の預貯金通帳等の不正譲渡等(犯罪収益移転防止法違反)の検挙件数は4,699件で、前年より186件増加しました。口座の入口となる本人確認と、開設後の取引モニタリングの両面が対策の鍵になります。

出典・参考資料(1件)

電子マネー・プリペイドを利用した事例

電子マネーやプリペイド型のポイント、各種プリペイドカードも、犯罪収益を別の価値に置き換えて使う手段になります。次は、令和7年に大阪で検挙された、架空人になりすまして得たポイントを商品購入に充てた事例です。

ベトナム人の男らは、架空人名義で登録した「デジタル地域ポイントアプリ」を用いて、氏名不詳者が電子計算機使用詐欺で得た犯罪収益であるデジタル地域ポイントを使用し、架空人になりすまして、同ポイントでたばこ等を購入し…組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙した。

出典:犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)|警察庁(JAFIC)

不正に入手した電子決済コードやポイントを使う手口は、来日外国人が関与する事案でもみられると報告されています。決済・ポイント事業者では、登録時のなりすまし対策と、利用実態のモニタリングが求められます。

ペーパーカンパニー・法人を悪用した事例

実体のないペーパーカンパニー(架空法人)を設立し、その名義で口座を開設して資金を動かす手口は、規模が大きくなりやすいのが特徴です。令和7年警察白書には、次の事例が掲載されています。

会社役員の男(35)らは、令和3年9月から令和5年8月にかけて、SNS等で犯罪実行者を募集し、応募してきた者らに、ペーパーカンパニー(架空法人)を設立させるとともに、その法人名義で口座を開設させ、詐欺やオンラインカジノの犯罪収益を、同口座間で送金させる方法でマネー・ローンダリングを行っていた。

令和6年9月までに、同男ら6人を組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)等で逮捕した。逮捕時、同男らは約500社のペーパーカンパニーに係る約4,000の法人口座を管理していた(大阪)。

出典:令和7年警察白書 第4章 マネー・ローンダリング事犯の検挙状況|警察庁

約500社・約4,000口座という規模は、法人口座が組織的に悪用される実態を示しています。法人との取引では、名義だけでなく、その法人を実際に支配しているのは誰か(実質的支配者)を確認することが、こうした悪用を見抜く手がかりになります。

では、どこまで調べれば背後の支配者にたどり着けるのでしょうか。弁護士の阿部由羅氏は、相手方の会社名や代表者名を検索するだけでは不十分だとして、次のように指摘しています。

阿部由羅氏
ゆら総合法律事務所 代表弁護士(埼玉弁護士会)
阿部由羅氏
専門家コラムより

インターネット検索や新聞記事のデータベースなどを利用して、相手方の会社名や代表者名を検索しても、背後にいる反社会的勢力の存在は判明しません。相手方の実質的支配者まで遡って徹底的に反社チェックを行い、少しでも疑わしい要素があれば取引中止を検討するといった厳密な取り組みが求められます。

特殊詐欺の犯罪収益を隠匿した事例

特殊詐欺はマネーロンダリングの前提犯罪として最も多いものの一つです。だまし取った現金を対面で受け渡す、比較的単純な手口も摘発されています。次は、令和7年に大分で検挙された事例です。

溶接工の男は、特殊詐欺の被害者からだまし取った現金の一部を、商業ビル個室トイレの扉越しに回収役の無職の男に手渡したことから、両名を組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙した。

出典:犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和7年)|警察庁(JAFIC)

後述の統計でも、マネーロンダリング事犯の前提犯罪は詐欺が最多です。特殊詐欺で得た資金を口座や暗号資産に移す段階が、事業者にとっての検知ポイントになります。

国境をまたぐ資金移動で注意すべき点

資金を海外へ移すと、国内の捜査機関による追跡が難しくなります。先の暗号資産の事例でも、国外の暗号資産交換所を経由して別の暗号資産に交換する過程が含まれていました。

JAFICは、来日外国人による手口として、日本国内で開設された他人名義の口座を利用したり、不正に入手した他人の電子決済コードやクレジットカード情報を使ったりする例を挙げています。国境をまたぐ資金移動では、送金の目的や取引の背景を確認し、制裁対象や高リスク国との関係がないかを見極めることが重要です。

出典・参考資料(1件)

日本のマネーロンダリングの最新動向と統計

ここからは、日本のマネーロンダリングがいまどのくらいの規模で起きているのかを、公式統計で確認します。年によって出所と数値が異なるため、発表主体と対象年を明記して整理します。

令和7年警察白書によると、令和6年(2024年)中のマネー・ローンダリング事犯の検挙件数は1,283件で、前年より374件(41.1%)増加しました。前提犯罪の内訳は、詐欺が462件、窃盗が386件、電子計算機使用詐欺が288件と続きます。

出典・参考資料(1件)

より新しいJAFICの令和7年報告書では、令和7年(2025年)中に特定事業者から届け出られた疑わしい取引の件数が1,019,405件となり、100万件を超えて過去最多を記録しました。

同年の組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯の検挙件数は1,777件で、前年より515件(40.8%)増えました。内訳は犯罪収益等隠匿が1,421件、犯罪収益等収受が352件、法人等事業経営支配が4件です。

警察白書の1,283件(令和6年・マネロン事犯全体)とJAFICの1,777件(令和7年・組織的犯罪処罰法に係る分)は、集計の範囲と対象年が異なる数字です。いずれも前年から大きく増えており、近年は増加傾向が続いています。

届出件数の大きさは、それだけ多くの取引が事業者の目でチェックされていることの表れでもあります。届出は特定事業者に課された義務であり、日々の取引モニタリングの積み重ねが、この件数を支えています。

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マネーロンダリングとは?手口の3段階

ここからは、これまでの事例が「なぜ成立し、なぜ摘発できたのか」を、仕組みの面から整理します。マネーロンダリング(資金洗浄)の定義について、財務省は次のように説明しています。

マネロンとは一般に、犯罪によって得られた収益を、他人名義の口座へ振込入金することや、偽名を使用して盗品等を売却すること等で、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関による収益の発見や検挙を逃れようとする行為をいいます。

出典:教えて!マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策|財務省

このとき、不法な収益を生み出すもとになった犯罪を「前提犯罪」と呼びます。日本では詐欺や窃盗が前提犯罪として多く、その収益を隠す行為がマネーロンダリングにあたります。

マネーロンダリングは、一般に次の3段階に整理されます。日本の当局が定義として3語を用いているわけではありませんが、資金洗浄の流れを理解する枠組みとして広く使われています。

  • プレイスメント(預け入れ):犯罪で得た現金を金融システムに投入する段階。特殊詐欺の現金を口座に入金する、といった動きが該当します。
  • レイヤリング(分離・重層化):資金を複数の口座や暗号資産に転々とさせ、出所を分かりにくくする段階。二次口座・三次口座への分散や、国外の交換所を経由した交換が典型です。
  • インテグレーション(統合):出所を隠した資金を、合法的な資産や消費として使う段階。ポイントで商品を購入する、事業への出資に使う、といった動きが該当します。
マネーロンダリングの手口の3段階を示す流れ図。STEP1プレイスメント(預け入れ)=犯罪で得た現金を金融システムに投入、STEP2レイヤリング(分離・重層化)=複数の口座や暗号資産に転々とさせ出所を隠す、STEP3インテグレーション(統合)=出所を隠した資金を合法的な資産や消費として使う、の順に矢印でつないだ図。

前半で紹介した事例は、この3段階のどこかに位置づけられます。たとえば架空法人名義の口座を二次・三次へと移す動きはレイヤリング、架空人名義のポイントで商品を買う動きはインテグレーションにあたります。

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日本の規制と事業者の義務(犯罪収益移転防止法・組織的犯罪処罰法)

ここからは、マネーロンダリングに関わる主な法律と、事業者に課された義務を条文で確認します。日本のAML/CFT(マネーロンダリング・テロ資金供与対策)は、犯罪収益移転防止法(犯収法)と組織的犯罪処罰法を中心に、テロ資金提供処罰法や外国為替及び外国貿易法(外為法)などで構成されています。

犯罪収益移転防止法が求める取引時確認・記録・疑わしい取引の届出

犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)は、金融機関や暗号資産交換業者、士業、不動産・貴金属取扱事業者などの「特定事業者」に、いくつかの義務を課しています。

第一に、取引時確認です(第4条)。事業者は、顧客の本人特定事項(氏名・住居・生年月日、法人は名称・所在地)に加え、取引を行う目的、顧客の職業または事業の内容、法人の場合はその事業経営を実質的に支配する者(実質的支配者)を確認しなければなりません。第6条・第7条は、これらの確認記録・取引記録を作成し、7年間保存することを義務づけています。

このうち法人の実質的支配者を、議決権25%超の判定や間接保有の合算までさかのぼってどう特定するかは、実務で判断に迷いやすいところです。具体的な確認の手順は次の記事で解説しています。

第二に、疑わしい取引の届出です。犯収法第8条は、収受した財産が犯罪収益である疑いや、顧客が犯罪収益等隠匿にあたる行為を行っている疑いがあると認められる場合に、速やかに行政庁へ届け出ることを求めています。

特定事業者…は、特定業務に係る取引について、当該取引において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあるかどうか、又は顧客等が当該取引に関し組織的犯罪処罰法第十条の罪…に当たる行為を行っている疑いがあるかどうかを判断し、これらの疑いがあると認められる場合においては、速やかに、政令で定めるところにより、政令で定める事項を行政庁に届け出なければならない。

出典:犯罪による収益の移転防止に関する法律 第8条|e-Gov法令検索

この条文は、届出の判断基準として組織的犯罪処罰法第10条(犯罪収益等隠匿)を明示的に参照しています。前半で紹介した「隠匿」の事例と、事業者の届出義務は、条文のうえでつながっているわけです。また、同条第4項は、届出を行おうとすること・行ったことを顧客やその関係者に漏らすことを禁じています。

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組織的犯罪処罰法の3類型(第9条・第10条・第11条)

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織的犯罪処罰法)は、マネーロンダリングにあたる行為を3つの類型で処罰します。前半の事例の多くは、このうち第10条(犯罪収益等隠匿)で検挙されています。

犯罪収益等…の取得若しくは処分につき事実を仮装し、又は犯罪収益等を隠匿した者は、十年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

出典:組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律 第10条|e-Gov法令検索

3類型の内容と罰則は次のとおりです。いずれも罰則は、2025年6月に施行された改正刑法により「懲役」から「拘禁刑」の表記に改められています。

  • 第9条(不法収益等による法人等の事業経営の支配を目的とする行為):10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはその併科。
  • 第10条(犯罪収益等隠匿):10年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその併科。未遂も処罰されます。
  • 第11条(犯罪収益等収受):情を知って犯罪収益等を収受した者は、7年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科。
出典・参考資料(1件)

事業者が問われる責任と処分

マネーロンダリングの罪は、資金を隠した本人だけの問題ではありません。事業者が義務を怠り、結果として資金洗浄に使われた場合、事業への影響は多岐にわたります。

犯収法上の義務違反があれば、所管行政庁による是正命令などの行政処分の対象になり得ます。加えて、犯罪収益と知りながら収受すれば組織的犯罪処罰法第11条に問われる可能性があり、取引時確認や届出を軽視すれば、自社が資金洗浄の経路として使われるリスクが高まります。事件に巻き込まれれば、報道や取引先の離反による信用の低下も避けられません。

こうしたリスクを避けるには、法律が求める取引時確認・記録・届出を確実に運用し、疑わしい取引を早期に検知する体制を整えることが基本になります。

業態別の注意点とマネーロンダリング対策の実務

ここからは、自社が知らないうちにマネーロンダリングに使われないために、業態ごとに何を見るべきか、そしてどのような対策の仕組みがあるかを整理します。

業態別に注意すべき取引

金融庁は、犯収法第8条の届出判断を助けるために「疑わしい取引の参考事例」を業態別に公表しています。預金取扱い金融機関・保険会社・金融商品取引業者・暗号資産交換業者・公認会計士等の業態ごとに、届出の対象となり得る取引の類型が示されています。

たとえば預金取扱い金融機関の参考事例では、「現金の使用形態」や「口座の利用形態」、真の口座保有者の隠匿、外国との取引といった観点が挙げられています。短期間に多額の入出金を繰り返す、名義と実際の利用者が異なる疑いがある、合理的な理由なく高リスク国との取引が行われるといった取引が、注意の対象です。

暗号資産交換業者では、短時間に多数のアドレスへ資金を分散させる送金や、リスクの高いアドレス・国外交換所を経由する取引が注意点になります。前述のオンチェーン分析や、送付先情報を通知するトラベルルールへの対応が実務の軸です。

決済・ポイント事業者では、架空人・他人名義での不自然な新規登録や、入手経路の説明がつかないポイントの利用が注意点です。登録時のなりすまし対策と、利用実態のモニタリングが対応の中心になります。

自社の業態でどの類型が該当するかを把握し、日々の取引と照らし合わせることが、疑わしい取引の早期発見につながります。詳細は業態ごとに整理されているため、金融庁の資料で自社に関わる業態を確認しておくことが有効です。

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本人確認・取引モニタリング・スクリーニングの実務

ここまで見てきた事例と義務を踏まえると、対策は大きく4つの機能に整理できます。事例の手口と対応させると、それぞれの役割が見えてきます。

  • 本人確認(KYC・eKYC):口座開設時のなりすましや他人名義口座の入口を塞ぐ。犯収法の取引時確認義務に対応する。
  • 取引モニタリング・不正検知:口座開設後の不自然な入出金や、他人名義口座を経由した送金、特殊詐欺収益の移動を検知する。
  • 反社・制裁スクリーニングと実質的支配者の確認:反社会的勢力や制裁対象との取引を避け、ペーパーカンパニーの背後にいる実質的支配者を把握する。
  • オンチェーン分析:暗号資産の取引を追跡し、リスクの高いアドレスやミキサー経由の資金を検知する。
マネーロンダリング対策の4つの機能と、それぞれが対応する手口を並べた図。本人確認(KYC・eKYC)=なりすまし・他人名義口座の入口、取引モニタリング・不正検知=不正送金・特殊詐欺収益の移動、反社・制裁スクリーニングと実質的支配者の確認=反社・制裁対象や法人(ペーパーカンパニー)の悪用、オンチェーン分析=暗号資産の資金洗浄、の4つのカードで整理した図。

次のセクションでは、これらの機能を担う具体的なソリューションを紹介します。自社の業態と、想定される手口に合わせて選ぶことが出発点になります。

マネーロンダリング対策に活用できるソリューション

ここでは、前節で整理した4つの機能に対応するソリューションを紹介します。まずは主要サービスの特徴を一覧で比較したうえで、各サービスを個別に見ていきます。

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サービス名ネクスウェイの本人確認(eKYC)TRUSTDOCKFraudAlertSardineRiskAnalyze(リスクアナライズ)コンプライアンス・ステーションChainalysisElliptic
提供会社株式会社ネクスウェイ株式会社TRUSTDOCK株式会社カウリス株式会社DGビジネステクノロジー
(Sardine AI 正規代理店)
KYCコンサルティング株式会社コンプライアンス・データラボ株式会社Chainalysis Inc.
(日本法人あり)
Elliptic Enterprises Limited
(日本法人あり)
主な機能領域本人確認(eKYC・JPKI・法人確認)本人確認(eKYC・JPKI)+法人確認(KYB)・反社チェック取引モニタリング・不正検知
(口座開設・ログイン・入出金)
不正検知(行動バイオメトリクス+デバイス分析)反社・制裁スクリーニング
(PEPs・制裁・逮捕歴・官報情報)
実質的支配者(UBO)確認・継続的顧客管理オンチェーン分析
(取引監視KYT・調査Reactor)
オンチェーン分析
(リアルタイムスクリーニング・クロスチェーン調査・制裁スクリーニング)
対応する主な手口口座開設時のなりすまし
(他人名義口座の入口対策)
他人名義口座・法人(ペーパーカンパニー)の入口確認他人名義口座の不正利用・不正送金・特殊詐欺収益の移動不正な口座開設・不正送金の検知犯罪収益の収受・反社/犯罪関与者との取引、法人の法的地位(破産・解散)確認ペーパーカンパニー・法人悪用
(実質的支配者の秘匿)
暗号資産の分散・国外交換所を経由した資金洗浄暗号資産の分散・国境を越えた資金移動、法定通貨に潜む暗号資産リスク
初期費用50,000円〜要問い合わせ要問い合わせ要問い合わせ無料無料要問い合わせ要問い合わせ
月額費用25,000円〜(従量課金制)要問い合わせ要問い合わせ要問い合わせ27,500円〜(ライトプラン/年間600検索)要問い合わせ(年額50万円〜)要問い合わせ要問い合わせ
詳細情報公式資料を見るサービス詳細を見るサービス詳細を見る公式資料を見る公式資料を見るサービス詳細を見るサービス詳細を見るサービス詳細を見る

ここからは、各サービスがどの機能を担い、前半で見たどの手口の検知・対策に対応するかを個別に見ていきます。

ネクスウェイの本人確認(eKYC)ソリューション(株式会社ネクスウェイ)

ネクスウェイの本人確認(eKYC)ソリューションのウェブサイト

犯収法に準拠したクラウド型の本人確認サービスです。オンライン本人確認(eKYC)、公的個人認証(JPKI)、書類の目視確認、法人確認、本人確認後の工程を代行するBPO、転送不要郵便の発送追跡までを1つのサービスでまかなえます。他人名義口座の悪用を入口で防ぐ、取引時確認の要となる仕組みです。

2027年4月の犯収法改正で導入されるICチップ読み取り・公的個人認証への一本化にも対応しています。公式によると導入は300社以上、うち犯収法上の特定事業者は100社以上で、暗号資産交換業や金融商品取引業をはじめ幅広い業種で使われています。審査体制が薄い事業者でも、BPOを組み合わせて運用できる点が特徴です。

TRUSTDOCK(株式会社TRUSTDOCK)

TRUSTDOCKのウェブサイト

個人のeKYCと法人確認(KYB)を単一の基盤で提供するプラットフォームです。身分証確認や公的個人認証(JPKI)に加え、法人番号・履歴事項全部証明書を使った法人確認、代表者・取引担当者の個人確認を組み合わせられます。ペーパーカンパニーや法人の悪用が疑われる場面で、法人と関係者の両面を確認できる点が強みです。

確認業務を専任スタッフに委託できるBPOを24時間365日体制で提供し、API・JavaScriptアップローダー・自社アプリの3系統から実装方式を選べます。反社チェックやリスク確認も法人向けに用意されており、2027年4月の犯収法改正を見据えた移行支援も打ち出しています。

FraudAlert(株式会社カウリス)

FraudAlertのウェブサイト

Web・スマートフォンの両方で、口座開設・ログイン・入出金をモニタリングするクラウド型の不正検知サービスです。端末情報を常時分析して「本人らしさ」をデータベース化し、端末の変化や不審な振る舞いを組み合わせて検知します。他人名義口座の不正利用や不正送金といった、前半の事例に直接対応する仕組みです。

複数の事業者間で不正利用者の情報を共有する仕組みを持ち、業界横断で不正口座の検知や資金凍結を可能にします。この仕組みについては、犯収法第8条への対応を警察庁が確認済みと公式に説明しています。2024年12月には振込ルールと端末情報を組み合わせて不正な入出金を検知する機能も提供を開始しました。

Sardine(株式会社DGビジネステクノロジー)

Sardineのウェブサイト

デバイスインテリジェンス(端末情報の分析)と行動バイオメトリクス(サイト・アプリ内の操作から本人性を判定)を組み合わせ、AIで不正を検知するプラットフォームです。会員登録・ログイン・情報変更・決済・送金など、利用者の各タッチポイントに適用できます。日本市場では株式会社DGビジネステクノロジーが販売・導入・サポートを担っています。

アカウント乗っ取りや不正なアカウント作成、不正送金を、脅威のパターンごとに検知アプローチを分けて対策します。リモート操作ツールの使用や不自然な操作、共有デバイスの利用といったシグナルを組み合わせて評価する仕組みで、他人名義口座の開設や特殊詐欺収益の移動といった場面で活用できます。

RiskAnalyze(リスクアナライズ)(KYCコンサルティング株式会社)

RiskAnalyze(リスクアナライズ)のウェブサイト

AIを活用したWebサービス型のコンプライアンス・反社チェックツールです。個人名や企業名を入力すると、反社会的勢力とのつながり、逮捕歴、行政処分、訴訟歴などを調査し、判定済みのレポートを表示します。犯罪収益の収受や、犯罪関与者との取引を避けるためのスクリーニングに使えます。

海外のPEPs(重要な公的地位にある者)や制裁情報に対応するAML/CFT機能に加え、2026年5月には官報情報データベースを追加しました。企業の破産・解散といった法的地位を把握できるため、ペーパーカンパニーや法人の悪用が疑われる取引先の確認にも役立ちます。証跡はクラウド上に7年間自動保存されます。

コンプライアンス・ステーション(コンプライアンス・データラボ株式会社)

コンプライアンス・ステーションのウェブサイト

金融機関を主な対象に、AML/CFTに必要なデータ収集・整備・リスク評価を支援するプラットフォームです。中核は実質的支配者(UBO)情報のオンライン即時取得で、犯収法の取引時確認に求められる実質的支配者の確認を効率化します。ペーパーカンパニーの背後にいる真の支配者を把握するのに直接役立ちます。

東京商工リサーチの1,000万件超の法人データベースを活用し、実質的支配者・資本系列・役員・取引先の情報を一元的に取得できます。資本関係を図で可視化する機能や、取引先の重要な変化を通知するモニタリング機能も備えます。書面のやり取りでは20〜30%程度だった確認の回収率を、90%まで高めた事例が公式に紹介されています。

Chainalysis(Chainalysis Inc.)

Chainalysisのウェブサイト

ブロックチェーン上の取引データを分析し、取引を実世界の取引所やサービスなどに紐付けるオンチェーン分析プラットフォームです。暗号資産交換業者や金融機関、規制当局が、AML/CFT対応や制裁スクリーニング、不正資金の追跡・調査に利用しています。暗号資産を使った資金洗浄の事例で見た、複数アドレスへの分散や国外交換所の経由を追跡する用途に直接対応します。

取引をリアルタイムに監視しリスクを評価するKYT、調査向けのReactor、ステーブルコインのリスク評価など、監視から深掘り調査までを一貫してカバーする製品群を持ちます。日本法人のChainalysis Japan株式会社を通じて、日本語での製品提供と国内導入実績があります。

Elliptic(Elliptic Enterprises Limited)

Ellipticのウェブサイト

2013年にロンドンで創業した、暗号資産取引の分析・AML・制裁スクリーニングを提供するブロックチェーン分析企業です。ウォレットや取引のリアルタイムスクリーニング、ブロックチェーンをまたいだ資金の追跡調査、暗号資産交換業者のデューデリジェンスを1つのプラットフォームで提供します。国境を越えた暗号資産の資金移動を追う場面で活用できます。

伝統的な金融機関向けに、法定通貨の取引に潜む暗号資産リスクを検知する機能も持ちます。ステーブルコインの発行体向けのデューデリジェンスも提供し、日本ではステーブルコインのAML体制整備での提携実績があります。日本法人のElliptic Japan株式会社を擁し、国内の取引所などでの実績を持ちます。

取引モニタリング・制裁スクリーニング・KYCといった機能や対応法令、提供形態まで含めて幅広く比較したい場合は、AMLシステムを網羅的に比較した次の記事が参考になります。

まとめ

日本のマネーロンダリングは、暗号資産・他人名義口座・電子マネー・ペーパーカンパニーなど、手口を変えながらいまも摘発が続いています。検挙件数は令和6年の1,283件から令和7年は1,777件(組織的犯罪処罰法に係る分)へと増え、疑わしい取引の届出も令和7年に100万件を超えました。前提犯罪の多くは特殊詐欺で、犯罪収益等隠匿(組織的犯罪処罰法第10条)での検挙が中心です。

特定事業者には、犯収法が定める取引時確認・記録・疑わしい取引の届出の義務があります。自社が知らないうちに資金洗浄に使われないためには、本人確認・取引モニタリング・スクリーニング・オンチェーン分析といった仕組みを、自社の業態と想定される手口に合わせて整えることが有効です。各サービスの資料を取り寄せて、自社の課題に合うものを比較検討してみてください。

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よくある質問(FAQ)

Q. マネーロンダリング(資金洗浄)とは何ですか?

A. マネーロンダリング(資金洗浄)とは、犯罪で得た収益を、他人名義の口座への振込入金や偽名での売却などによって出所や真の所有者を分からなくし、捜査機関による発見や検挙を逃れようとする行為です。この収益を生み出したもとの犯罪を「前提犯罪」と呼び、日本では詐欺や窃盗が多くを占めます。

出典・参考資料(1件)

Q. マネーロンダリングを行うと、どんな罰則がありますか?

A. マネーロンダリングは組織的犯罪処罰法で処罰され、犯罪収益を隠した場合(犯罪収益等隠匿・第10条)は10年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその併科が科されます。事情を知って犯罪収益を受け取った場合(犯罪収益等収受・第11条)は7年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金です。

第10条は未遂も処罰の対象で、罰則は2025年6月施行の改正刑法により「懲役」から「拘禁刑」の表記に改められています。

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Q. 日本のマネーロンダリングの検挙件数はどのくらいですか?

A. 警察庁によると、令和6年(2024年)中のマネー・ローンダリング事犯の検挙件数は1,283件で、前年より41.1%増加しました。組織的犯罪処罰法に係る検挙に絞ると、令和7年(2025年)は1,777件とさらに増えています。

また、JAFICの令和7年報告書では、令和7年に特定事業者から届け出られた疑わしい取引の件数が1,019,405件となり、初めて100万件を超えて過去最多を記録しました。前提犯罪としては詐欺が最も多くなっています。

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Q. 銀行口座を売買するとどうなりますか?なぜ問題なのですか?

A. 他人名義の口座は犯罪収益の受け皿やマネーロンダリングの中継地点として悪用されるため、口座(預貯金通帳等)の不正な譲渡・売買そのものが犯罪収益移転防止法違反として処罰の対象になります。JAFICによると、令和7年(2025年)中の預貯金通帳等の不正譲渡等の検挙件数は4,699件で、前年より186件増えました。

売買した口座が特殊詐欺やマネーロンダリングに使われれば、名義人が責任を問われるおそれもあります。

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Q. マネーロンダリングと知らずに加担してしまった企業も罰せられますか?

A. 組織的犯罪処罰法の犯罪収益等隠匿・収受の罪は、犯罪収益であると知りながら行った場合に問われるため、まったく知らずに巻き込まれただけで直ちに刑事罰を受けるわけではありません。ただし、特定事業者が犯罪収益移転防止法上の取引時確認や疑わしい取引の届出を怠れば、所管行政庁による是正命令などの行政処分の対象になり得ます。

自社が資金洗浄の経路として使われれば、報道や取引先の離反による信用低下も避けられないため、義務を確実に運用することが重要です。

Q. 企業(特定事業者)はマネーロンダリング対策として何をすべきですか?

A. 特定事業者には、犯罪収益移転防止法にもとづく取引時確認(本人確認)・確認記録や取引記録の7年間保存・疑わしい取引の届出が義務づけられています。実務では、口座開設時の本人確認(KYC・eKYC)、開設後の取引モニタリング、反社・制裁スクリーニングと実質的支配者の確認、暗号資産のオンチェーン分析を、自社の業態と想定される手口に合わせて組み合わせることが有効です。

出典・参考資料(1件)

Q. 暗号資産を使ったマネーロンダリングはどうやって防ぐのですか?

A. 暗号資産のマネーロンダリングは、取引記録が公開台帳に残る一方で、複数のアドレスへの分散や国外交換所・ミキサーの利用によって追跡が難しくなるため、資金の流れをブロックチェーン上で追う「オンチェーン分析」で取引をリアルタイムに監視し、リスクの高いアドレスを検知することが対策の中心になります。

暗号資産交換業者では、これに口座開設時の本人確認と開設後の取引モニタリングを組み合わせて、資金洗浄の入口と流れの両面を押さえます。

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監修者

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト

松嶋真倫

都市銀行にて金融実務を経験後、暗号資産関連スタートアップの創業期に参画し、市場分析・業界調査に従事。2018年にマネックスグループ入社。以降、ビットコインをはじめとするデジタルアセットからマクロ経済環境まで、金融市場を横断した調査・分析および情報発信を担う。FinTech・次世代金融領域のリサーチ統括、各種レポートや書籍の執筆、日本経済新聞など国内主要メディアへのコメント・寄稿、イベント登壇などを行う。2021年3月より現職。
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