自社の売却や事業承継を考え始めたとき、あるいは勤めている会社が買収されると聞いたとき、「会社が買収されると、実際に自分や会社の身に何が起きるのか」が具体的に見えず、不安を感じる場面は少なくありません。
経営権や社長の立場、従業員の雇用や給料、取引先との契約まで、買収によって変わるものと変わらないものは、買収の仕方(スキーム)や買い手の方針によって違ってきます。中小企業のM&Aは、その多くが友好的な合意にもとづく株式譲渡で行われ、会社そのものが消えてしまうわけではありません。
本記事では、会社が買収されると経営者・従業員それぞれの身に何が起きるのかを項目別に整理します。株式譲渡・事業譲渡・会社分割・合併といったスキーム別の扱いの違い、従業員が簡単には解雇されない法的な根拠、取引先との契約への影響、そして悪い方向に転ばないために当事者ができることまで、順を追って解説します。
売却を検討している経営者の方も、勤務先の買収に直面した従業員の方も、自社のケースに引きつけて読み進められる内容です。
目次
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会社が買収されると変わること・変わらないこと【立場別の全体像】
ここではまず、会社が買収されたときに何が変わり、何が変わらないのかを、経営者と従業員それぞれの立場から一望できるように整理します。前提として、中小企業のM&Aは大半が友好的な合意で進み、株式のやり取りで経営権を移す株式譲渡が一般的です。この場合、会社という法人はそのまま残り、日々の業務や雇用が翌日から一変するわけではありません。
変わりやすいのは経営権や経営方針、社風、給料・待遇などで、変わりにくいのは会社の法人格や雇用契約そのものです。もっとも、変化の度合いは買い手の方針と後述するスキームによって幅があります。
| 項目 | 経営権・議決権 | 社長・役員の立場 | 会社名・屋号・法人格 | 雇用契約 | 給料・待遇 | 退職金・人事制度 | 取引先との契約 | 社風・企業風土 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 経営者(売主)が押さえる点 | 自分が持つ株式が買い手へ移り、経営権(議決権)を手放すことになる | 引退・引き継ぎ後の退任・残留の3パターンに分かれる | 株式譲渡では法人格・会社名は原則そのまま残る | 従業員の雇用を引き継げるかは売却先選び・条件交渉の要点 | 待遇維持を売却条件として交渉に盛り込める | 制度統合の方針を買い手と事前に確認しておく | チェンジオブコントロール条項の有無を事前確認し取引先へ説明する | 買い手との相性が統合後の定着を左右する |
| 従業員が押さえる点 | 直接の変化は小さいが、最終的な意思決定者が変わる | 役員の入れ替えで直属の上司や決裁ルートが変わることがある | 勤務先の会社は継続。合併では消滅会社の社名が変わる場合がある | 株式譲渡は契約そのまま。事業譲渡は個別同意が必要(後述) | 当面は維持されることが多いが、一方的な不利益変更には個別同意が要る | 株式譲渡は原則そのまま。事業譲渡・統合で見直しの可能性 | 主要取引先が離れると担当業務に影響する場合がある | 評価基準や働き方、意思決定のスピードが変わることがある |
※上記は一般的な傾向です。実際の扱いは買収のスキーム・買い手の方針・契約内容により異なります。
経営権・経営陣・組織はどう変わる
買収でまず変わるのは経営権です。株式譲渡であれば、オーナーが持っていた株式が買い手に移り、株主総会での議決権を通じて会社の最終的な意思決定者が買い手に代わります。経営方針や投資判断、重要な人事は、買い手の方針に沿って決められるようになります。
組織面では、役員が買い手側から派遣されたり、既存の役員と入れ替わったりすることがあります。現場の従業員から見ると、直属の上司や決裁のルートが変わり、これまで社内で完結していた判断に本社(買い手)の承認が必要になる、といった形で影響が現れます。
社風・企業風土は変わるのか
社風や企業風土は、買収直後に一変するというより、買収後の統合作業(PMI)を通じて徐々に変わっていくのが一般的です。評価制度や会議体、稟議のスピード、情報共有の仕方などが買い手の流儀に近づき、それにともなって職場の雰囲気が変化します。
買い手と売り手の企業文化の相性が悪いと、優秀な人材の流出や現場の混乱につながることがあります。後述するように、この点は当事者の準備や条件交渉である程度和らげることができます。
会社名・屋号・法人格は残るのか
株式譲渡の場合、株主が変わるだけで、会社という法人格そのものは変わりません(会社法上も会社は法人とされています)。雇用主である会社が消えるわけではないため、会社名や屋号は原則としてそのまま残ります。これは法律上の義務というより、ブランドや取引実績を保つための実務上の判断によるもので、買収後も屋号を変えずに運営される例は多く見られます。
一方、合併では消滅する側の会社の法人格がなくなり、存続会社(または新設会社)に統合されます。この場合は会社名が買い手側のものに変わることがあります。事業譲渡では、譲渡した事業を買い手が自社の名前で運営することになり、屋号やブランド名を引き継ぐかどうかは譲渡契約の取り決めによって決まります。
出典・参考資料(1件)
社長・オーナー経営者はどうなる(3つの進路と手にする対価)
会社を売却する社長・オーナー経営者にとって最大の関心は、「自分自身は辞めることになるのか、残れるのか」「対価としていくら手に入るのか」でしょう。ここでは、買収後の社長の進路と、受け取る対価の考え方を整理します。
社長の進退は3パターン
買収後の社長の立場は、買い手との合意によって大きく3つに分かれます。どのパターンになるかは、事業の引き継ぎに社長の関与がどれだけ必要か、社長自身が経営を続けたいかによって決まります。

- 買収と同時に引退する:株式の譲渡と引き換えに経営から退き、対価を受け取ってリタイアするパターン。後継者不在を理由とした事業承継型のM&Aで多く見られます。
- 引き継ぎ期間を経て退任する:一定期間は代表や顧問として残り、取引先との関係や業務ノウハウを引き継いでから退くパターン。円滑な統合のため、この移行期間を設ける例は少なくありません。
- 子会社の社長・部門長として残留する:買収後もグループ会社の社長や事業責任者として経営に関与し続けるパターン。事業の成長余地が大きく、経営者の手腕が引き続き必要とされる場合に選ばれます。
社長が受け取る対価
株式譲渡では、オーナー経営者は保有株式を売却した対価を受け取ります。金額は企業価値評価(バリュエーション)にもとづいて買い手と交渉して決まり、業種・利益水準・純資産・将来性などによって大きく変わるため、一律の相場はありません。
目安を掴む方法として、中小企業のM&Aでは「時価純資産+営業利益の数年分(おおむね3〜5年分)」で概算する年買法(年倍法)が実務でよく使われます。実際の評価では、将来の収益力(DCF法)や類似企業との比較なども加味され、最終的な金額は交渉で決まります。自社のおおよその価値を知りたい場合は、こうした考え方をもとにアドバイザーへ相談するのが近道です。
対価の受け取り方には、契約時に一括で受け取る形のほか、次のような条件が付くこともあります。いずれも売主にとって重要な交渉ポイントです。
- ロックアップ(キーマン条項):売却後も経営者が一定期間、会社に残って経営を支えることを求める条件。引き継ぎを確実にする狙いがあり、残留期間中の役割や報酬をどう定めるかが交渉の対象になります。
- アーンアウト:売却後の一定期間の業績目標の達成度に応じて、対価の一部を後から追加で支払う仕組み。買い手のリスクを抑える一方、売主にとっては将来の業績次第で受け取り額が変動するため、目標の設定条件を慎重に確認する必要があります。
手取りを考えるうえでは税金も押さえておきます。個人が株式を売却して得た譲渡益には、現行制度では申告分離課税として合計20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)の税金がかかります。
これは株式の譲渡益にかかる税率です。対価の一部を退職金として受け取るなど、受け取り方によって課税の扱いは変わります。いずれの場合も税金はかかるため、受け取る対価がそのまま手元に残るわけではなく、税引き後の金額で資金計画を立てることが大切です。
もう一つ見落としがちなのが、経営者保証(個人保証)の扱いです。会社の借入にオーナーが連帯保証を付けている場合、株式譲渡をしても保証が自動的に外れるわけではありません。
買い手や金融機関との間で保証の引き継ぎ・解除を交渉する必要があり、「経営者保証に関するガイドライン」によって、M&Aなどを機に保証の解除を求めやすくなっています。売却の条件交渉では、譲渡価格とあわせて個人保証を外せるかを必ず確認しておきましょう。
従業員はどうなる(解雇・給料・退職金と「退職に追い込まれる」噂の実態)
従業員にとっては、「買収されたらクビになるのか、給料は下がるのか」が最大の不安です。ネット上には、経費削減で待遇が悪くなる、部署異動や無理なノルマで退職に追い込まれる、といった声もあります。ここでは、法的な根拠を示しながら、実際のところどうなるのかを整理します。
買収を理由に解雇されるのか(法的な答え)
結論から言えば、「買収されたから」という理由だけで従業員を自由に解雇できるわけではありません。日本では解雇に強い法的な歯止めがかかっており、労働契約法第16条は解雇について次のように定めています。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
出典:労働契約法 第16条|e-Gov法令検索
つまり、解雇そのものが一律に禁じられているわけではありませんが、合理的な理由を欠き社会通念上も相当と認められない解雇は無効になります。買収を口実にした安易な解雇は、この解雇権濫用法理に照らして無効と判断される可能性があります。
買収後の人員整理(いわゆるリストラ)が争われる場面では、裁判例で確立した「整理解雇」の判断枠組みが用いられます。これは条文で定められた要件ではなく、労働契約法16条の解雇権濫用法理を人員整理の場面に当てはめて裁判例が積み重ねてきた考え方で、厚生労働省は次の4つの事項を総合的に考慮して判断されると説明しています。
整理解雇 客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、権利の濫用として、労働契約法の規定により、無効となります。次の事項に着目して、これらを具体的に総合考慮して判断されます。・人員削減の必要性 ・解雇回避努力義務を尽くしたか ・被解雇者選定の妥当性 ・手続の妥当性
出典:労働契約の終了|厚生労働省 労働契約等解説セミナー
「四要件」と呼ばれることもありますが、条文上の要件ではなく裁判例上の判断枠組みである点に注意が必要です。いずれにせよ、買収を機にした解雇には高いハードルがあり、簡単に認められるものではありません。
異動やノルマで「退職に追い込まれる」ことはあるのか
「解雇はされなくても、異動や無理なノルマで辞めさせられるのでは」という不安もよく聞かれます。会社が「辞めてほしい」と促す退職勧奨そのものは違法ではありませんが、従業員に応じる義務はなく、断って働き続けることができます。
一方で、退職を執拗に迫る退職強要や、報復的・不合理な配置転換、達成不可能なノルマの押し付けは、人事権の濫用や違法な退職強要として、無効と判断されたり損害賠償の対象になったりすることがあります。おかしいと感じたら、指示された内容ややり取りを記録し、社内の労働組合や、勤務地を管轄する労働基準監督署・総合労働相談コーナー、弁護士などに早めに相談するとよいでしょう。
給料・待遇は下がるのか
株式譲渡の場合、雇用主である会社そのものは変わらないため、雇用契約は原則としてそのまま引き継がれ、給料や待遇も当面は維持されるのが一般的です。実務では、株式譲渡契約書で一定期間の待遇維持を確認することも少なくありません。
ただし、将来にわたって給料が保証されるわけではありません。買い手の人事制度に統合される過程で、評価基準や手当が見直されることはあります。もっとも、給料の引き下げのような労働条件の不利益変更を会社が一方的に行うことは原則として認められず、変更には従業員の個別同意が必要になります。
変化は必ずしも悪い方向とは限りません。資本に余裕のある買い手のグループに入ることで、給与水準や賞与、福利厚生、教育・キャリアの選択肢がむしろ広がることもあります。買収が必ず待遇の悪化につながるわけではなく、良くも悪くも変わり得るのが実態で、どちらに転ぶかは買い手の方針と後述する条件交渉に左右されます。
売り手の経営者側でも、従業員の処遇は売却の判断に強く影響しています。帝国データバンクの調査では、M&Aで売り手として重視することについて、次の結果が示されています。
〔売り手として重視することは〕「従業員の処遇」が78.7%(同0.4ポイント増)でトップとなり
出典:M&Aに対する企業の意識調査(2025年1月28日)|帝国データバンク
売り手企業の多くが、金額よりも従業員の処遇を最も重視しているという結果です。円満なM&Aでは、売主自身が従業員の待遇維持を売却条件として交渉するため、待遇が守られる方向に働きやすいといえます。ただし、これはあくまで売り手側が重視している項目であり、買い手が待遇を必ず維持する保証ではありません。だからこそ、後述するように売却条件へ雇用・処遇の維持を明記しておくことが有効です。
出典・参考資料(1件)
退職金・人事制度はどうなる
退職金や人事制度の扱いは、買収のスキームによって変わります。株式譲渡では会社が存続するため、退職金制度もそのまま引き継がれるのが基本です。一方、事業譲渡では従業員が買い手企業と新たに雇用契約を結び直すことになり、退職金や定年、給与などの労働条件が変更される可能性があります(詳しくは次章のスキーム別の解説をご覧ください)。
統合の過程で人事制度が買い手側に合わせて再編されることもありますが、退職金の減額など不利益な変更には、前述のとおり従業員の同意が必要です。既存の勤続年数がどう扱われるかは、買収時の合意内容によって決まります。
【従業員向け】勤務先が買収されたら確認すべきこと・同意を求められたときの判断
勤務先が買収されると聞いたとき、従業員が実際に不安を感じ、行動に移すことは珍しくありません。M&Aを経験した被買収企業の社員を対象にした調査では、次のような実態が報告されています。
その結果、被買収企業の社員の4割以上が、M&Aの発表を聞いて転職を考えたと回答しました。そして、社員の約10%がM&Aの発表から1年未満で、約20%が3年未満に実際に退職しており、買収企業にとって人材流出のリスクは予想以上に大きいことがわかりました。
出典:M&Aを経験した社員(被買収企業)の意識調査|クレイア・コンサルティング
法的に雇用が守られていても、統合後の社風や評価制度の変化、先行きへの不安から、自発的に転職を選ぶ人が一定数いるのが実態です。会社に残るか動くかを冷静に判断するためにも、まず自分の状況を正確に把握しておくことが役立ちます。
不安を過度に募らせないためにも、自分の状況を落ち着いて確認することが大切です。勤務先が買収される場合、従業員として押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- どのスキームか:株式譲渡なら雇用契約は原則そのまま。事業譲渡なら新しい会社との契約を結び直すことになるため、条件をよく確認します。
- 労働条件の変更の有無:給料・役職・勤務地・退職金など、契約条件が変わる場合は書面で確認します。不利益な変更には自分の同意が必要です。
- 同意を求められたときの判断:事業譲渡などで転籍や条件変更への同意を求められたら、変更後の条件を書面で確かめ、納得できない点は説明を求めます。同意は慎重に判断してかまいません。
- 会社分割の場合の異議申出:会社分割では、承継の扱いに納得できない場合に書面で異議を申し出られる手続きが法律で定められています(次章参照)。
出典・参考資料(1件)
買収の仕方(スキーム)で扱いはどう違う【株式譲渡・事業譲渡・会社分割・合併】
ここまで見てきた「どうなるか」は、実は買収の仕方(スキーム)によって結論が変わります。同じ買収でも、雇用契約や取引先契約の引き継がれ方、従業員の同意が必要かどうかが異なるためです。代表的な4つのスキームで、立場ごとに何が変わるかを一覧にまとめました。
| スキーム | 株式譲渡 | 事業譲渡 | 会社分割 | 合併(吸収・新設) |
|---|---|---|---|---|
| 従業員の雇用契約 | 会社が存続するためそのまま継続(包括承継) | 買い手と新たに契約を結び直す(特定承継)。条件変更の可能性 | 分割される事業に主として従事する労働者は承継の定めがあれば分割先へ承継。異議申出の手続きあり | 消滅会社の権利義務として存続・新設会社へ包括的に承継 |
| 従業員の個別同意 | 不要 | 必要(労働者本人の承諾) | 個別同意は不要だが法定の労働者保護手続あり | 不要 |
| 取引先との契約 | 原則そのまま継続(CoC条項があれば見直しの対象) | 個別に再契約・同意が必要 | 分割契約の定めに従い包括的に承継 | 包括的に承継 |
| 社長・株主 | 株式が買い手へ移り経営権が移転。法人格は不変 | 譲渡した事業の対価を会社が受け取る。会社自体は売主に残る | 事業を切り出して別会社へ。対価の受け取り方は分割の型による | 消滅会社の法人格はなくなり存続・新設会社へ統合 |
※一般的な扱いの整理です。個別のケースでは契約内容や合意により異なる場合があります。
ポイントは、雇用や契約が「自動で引き継がれるか」「本人の同意が要るか」がスキームで分かれることです。
株式譲渡では、株主が代わるだけで会社(法人)は変わらないため、雇用契約も取引先との契約もそのまま続きます。中小企業のM&Aで最も多く使われるスキームです。
事業譲渡では、事業に関わる契約を一つひとつ承継するため、従業員は買い手企業と改めて雇用契約を結び直す必要があります。民法は、労働契約上の使用者の地位を第三者へ移すには労働者本人の承諾が要ると定めています。
使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。
出典:民法 第625条|e-Gov法令検索
そのため、事業譲渡で買い手に移るかどうかは従業員自身が選べます。承諾しなければ、これまでの会社に残ることになります。
会社分割では、分割される事業に主として従事する労働者は、分割契約に承継の定めがあれば分割先の会社へ承継されます(労働契約承継法第3条)。個別同意までは求められませんが、労働者が一方的に不利益を受けないよう、次のような書面による異議申出の手続きが法律で定められています。
第二条第一項第一号に掲げる労働者であって、分割契約等にその者が分割会社との間で締結している労働契約を承継会社等が承継する旨の定めがないものは、同項の通知がされた日から異議申出期限日までの間に、当該分割会社に対し、当該労働契約が当該承継会社等に承継されないことについて、書面により、異議を申し出ることができる。
出典:会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律 第4条|e-Gov法令検索
合併では、消滅する会社の権利義務が存続会社または新設会社へ包括的に承継されます。会社法は、合併により消滅会社の権利義務を承継すると定めており、雇用契約や取引先との契約も個別同意なく引き継がれます。
出典・参考資料(3件)
取引先との契約はどうなる(チェンジオブコントロール条項)
買収の影響は社内だけでなく、取引先との関係にも及びます。株式譲渡であれば、会社が存続するため取引先との契約も原則そのまま引き継がれます。ただし、契約書にチェンジオブコントロール(CoC=経営権の移動)条項が入っている場合は注意が必要です。
チェンジオブコントロール条項とは、経営権の移動があった場合に、取引先が契約を解除したり、条件の見直しを求めたりできると定めた条項です。重要な取引先との契約にこの条項があると、買収を機に取引が打ち切られたり、条件が変更されたりするおそれがあります。
そのため、売却を検討する段階で、主要な取引先や金融機関との契約にチェンジオブコントロール条項がないかを確認しておくことが重要です。条項がある場合は、事前に取引先へ説明し、買収後も取引を継続してもらえるよう調整しておくと、統合後の混乱を避けやすくなります。
一方、事業譲渡の場合は、契約を締結しただけでは取引先との関係は自動的には引き継がれません。取引を継続するには、取引先ごとに個別の再契約や同意を得る手続きが必要になります。
悪い方向に転ばないために当事者ができること
買収がプラスに働くかどうかは、準備と進め方によって大きく変わります。売り手の経営者・従業員が、悪い方向に転ばないためにできることを整理します。
従業員・取引先への説明は適切なタイミングで行う
買収の情報を早く伝えすぎると、確定前の不安から人材流出や取引先の離反を招きかねません。逆に、伝えるのが遅すぎると不信感につながります。一般には、契約が固まった段階で、経営者から誠意をもって説明するのが望ましいとされます。誰に・いつ・どのように伝えるかを買い手とすり合わせておくことが、統合後の関係維持につながります。
条件交渉で雇用・処遇の保障を盛り込む
従業員の雇用や待遇を守りたい場合、その意向を売却の条件として買い手と交渉し、契約に盛り込んでおくことが有効です。一定期間の雇用維持や待遇維持を最終契約書に明記しておけば、買収後の一方的な変更を防ぎやすくなります。前述のとおり、売り手の多くが従業員の処遇を最重視しており、条件交渉の中心的なテーマになります。
売主側の専門家と進める
譲渡価格や雇用・契約条件の交渉を売主に有利に進めるには、M&Aの専門家のサポートが役立ちます。特に、売り手と買い手の双方から手数料を受け取る仲介ではなく、売主だけの立場に立って交渉するアドバイザーであれば、対価や従業員の処遇といった売主にとって重要な条件を追求しやすくなります。次章では、こうした売主の立場に立って支援するサービスを紹介します。
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売主の立場で有利に条件交渉するには(サービス活用)
買収後に何が変わるかを押さえたうえで、譲渡価格や雇用・契約条件を売主にとって有利にまとめるには、売主専門のM&Aアドバイザリーに相談する方法があります。ここでは、売主だけの立場で交渉を支援するサービスを紹介します。
M&A Lead(M&A Lead株式会社)

M&A Leadは、売主だけのために働く「譲渡企業専属」のM&Aアドバイザリーです。売り手・買い手の双方から手数料を受け取る一般的なM&A仲介とは異なり、売主(セルサイド)からのみ手数料を受け取る「片手取引」を採用しています。買い手からは手数料を受け取らないため、譲渡価格や雇用条件、契約条件など、売主にとって有利な条件の追求に専念できる立場を明確にしている点が特徴です。
料金は完全成功報酬制で、相談は無料、着手金・中間金・月額報酬は0円です。成功報酬はレーマン方式(譲渡対価に応じて1〜5%)で算出され、譲渡が完了するまで費用が発生しないため、検討初期の費用負担を抑えられます。自社に閉じず、他社のM&A仲介会社や独立系アドバイザーとも連携する「100を超えるM&Aネットワーク」を通じて、買い手候補へ幅広くアプローチする仕組みを採用しています。
相談はオンライン・電話に対応し全国から利用でき、中小企業庁のM&A支援機関登録制度にも登録されています。事業承継から上場企業の子会社の切り出し(カーブアウト)まで、幅広い規模・背景の成約実績を公表しています。買収後の従業員の処遇や取引条件を守りながら売却を進めたい経営者に向いたサービスです。
ここで紹介したM&A Lead以外にも、M&Aアドバイザリーやフィナンシャルアドバイザー(FA)を手がける会社は複数あり、得意な業種・規模や報酬体系はさまざまです。売主の立場で複数の相談先を比べて選びたい方は、専門領域別のおすすめや選び方、費用相場を次の記事で確認できます。
まとめ
会社が買収されると、経営権や社長の立場、社風などは変わりやすい一方で、株式譲渡であれば会社の法人格や雇用契約はそのまま残ります。従業員は「買収されたから」という理由だけで自由に解雇されることはなく、労働契約法や解雇権濫用法理による歯止めがあります。給料・待遇の一方的な不利益変更にも本人の同意が必要です。
もっとも、雇用契約や取引先契約の引き継がれ方、従業員の同意の要否は、株式譲渡・事業譲渡・会社分割・合併というスキームによって変わります。自社や勤務先がどのスキームなのかを押さえ、条件交渉で雇用・処遇の保障を盛り込み、適切なタイミングで関係者へ説明することが、悪い方向に転ばないための鍵になります。
売主の立場で有利に条件をまとめたい場合は、売主専門のM&Aアドバイザリーに早い段階から相談してください。
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よくある質問(FAQ)
Q. 会社の買収(M&A)とは何ですか?
A. 会社の買収とは、ある会社が他社の株式や事業を取得して、その経営権や事業を引き継ぐことです。中小企業のM&Aでは、株式の過半数を取得して経営権を移す株式譲渡が最も多く使われ、この場合は会社という法人はそのまま存続します。買収は敵対的なものばかりではなく、実際には売り手・買い手が合意して進める友好的なケースが大半で、後継者不在の解消や事業の成長を目的に行われます。
Q. 会社が買収されたことを理由に退職したら、会社都合退職になりますか?
A. 買収それ自体が退職理由を自動的に会社都合にするわけではなく、実際の離職区分は、退職に至った経緯によって判断されます。従業員は就業規則・雇用契約に従って通常どおり自分の意思で退職でき、株式譲渡で労働条件が変わらないまま自己都合で辞める場合は自己都合退職が基本です。
一方、買収後に給料や勤務地などの労働条件が著しく引き下げられ、それを理由に退職したような場合は、雇用保険で「特定受給資格者」に該当し、会社都合に近い扱い(給付制限なしなど)になることがあります。失業給付の区分はハローワークが個別の事情で判断するため、退職時は離職票の離職理由を必ず確認しましょう。
Q. 事業譲渡で買い手企業への転籍を求められ、同意しないとどうなりますか?
A. 事業譲渡では労働契約を買い手へ移すのに労働者本人の承諾が必要で、同意しなければ買い手企業へ移る必要はなく、これまでの(売り手の)会社に籍を残すことになります。民法第625条第1項が、使用者は労働者の承諾を得なければその権利を第三者に譲り渡せないと定めているためです。
ただし、譲渡した事業が売り手の会社からなくなると、社内での配置転換を求められたり、事業縮小に伴う人員整理が問題になったりする可能性もあります。転籍に同意する場合も、変更後の労働条件(給料・役職・勤務地・退職金など)を書面で確認し、納得できない点は説明を求めることが大切です。
出典・参考資料(1件)
Q. 株式譲渡と事業譲渡で、退職金の扱いはどう違いますか?
A. 株式譲渡なら退職金制度や勤続年数はそのまま引き継がれるのが基本で、事業譲渡なら買い手企業と雇用契約を結び直すため、退職金制度や勤続年数の通算が変更される可能性があります。事業譲渡で転籍する場合、それまでの勤続年数を買い手が引き継ぐのか、いったん退職金を精算するのかは、譲渡の際の合意内容によって決まります。
いずれのスキームでも、退職金の減額のような不利益な変更を会社が一方的に行うことはできず、従業員本人の同意が必要です。転籍にあたっては、勤続年数がどう扱われるかを事前に確認しておきましょう。
Q. 会社が買収される前兆やサインはありますか?
A. M&Aは秘密保持のもとで進むため、確実に見抜ける前兆はありません。目安として、経営幹部と社外との面談が増える、財務・法務資料の準備(デューデリジェンス対応)が急に動き出す、といった動きが表れることはあります。ただし、これらは通常の経営活動でも起こり得るため、憶測で不安を広げるのは得策ではありません。
M&Aの情報は、確定前の動揺による人材流出を避けるため、契約が固まった段階でまとめて公表されるのが一般的です。正式な発表があった際に、自社がどのスキームで買収されるのか、労働条件がどう変わるのかを落ち着いて確認することが大切です。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。

















