取引先に商品やサービスを掛けで提供したのに、支払期日を過ぎても入金がなく、催促しても払ってもらえない——。売掛金の未払いは、専任の法務担当を置きにくい中小企業や個人事業主ほど、「そもそもどこに相談すればいいのか」で迷いやすい問題です。弁護士に頼むほどの話なのか、費用倒れにならないかの判断もつきにくいのが実情です。
先に相談先の全体像をお伝えすると、売掛金の未払いを相談できる先は、大きく〈弁護士(法律事務所)/公的な無料相談窓口/債権回収会社(サービサー)/請求代行・回収代行・売掛債権保証などのサービス〉の4つに分かれます。それぞれ、できること・費用・向くケース・法律上の制限が異なるため、自社の状況に合う相談先を見極めるのが第一歩です。
本記事では、4つの相談先の違いと選び方を整理します。あわせて、相談前に押さえたい時効を止める初動と証拠の確認、相談先ごとの費用と回収手続きの進め方、自分でできる初動と専門家に任せる線引きまでを、民法や裁判所などの根拠とともに解説します。自社のケースで「まずどこに相談すべきか」を判断する材料にしてください。
目次
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売掛金が回収できないときの相談先は?まず押さえたい4つの選択肢
売掛金の未払いに直面したとき、相談できる先はいくつかの種類に分かれます。まずは全体像を押さえ、自社はどこに相談すべきかの当たりをつけましょう。大きく分けると、次の4つの選択肢があります。
- 弁護士(法律事務所):交渉から内容証明、支払督促・訴訟、強制執行までを代理で進められます。相手の財産調査など、自社では使えない手段も扱えます。
- 公的な無料相談窓口:日本弁護士連合会の「ひまわりほっとダイヤル」など、中小企業が弁護士に無料で初回相談できる窓口です。まず何をすべきか整理したいときの入口になります。
- 債権回収会社(サービサー):法務大臣の許可を受けて債権の管理・回収を担う会社です。ただし後述のとおり、扱える債権が法律で限定されており、通常の売掛金は原則として対象外です。
- 請求代行・回収代行・売掛債権保証などのサービス:請求から督促までを代行したり、売掛金の未回収を保証したりするサービスです。いま抱えている回収というより、未回収を防ぐ再発防止に効きます。
これらは、いずれも実在する制度・機関やサービスです。弁護士や公的窓口は日弁連・法テラス、サービサーは法務省が所管する債権管理回収業に関する特別措置法、支払督促や少額訴訟は裁判所の手続きとして整備されています。次章では、それぞれのできることや費用、向くケース、制限を一覧で比べ、自社に合う相談先を選べるようにします。
出典・参考資料(3件)
- 参考資料:ひまわりほっとダイヤル(中小企業向け弁護士相談窓口)|日本弁護士連合会
- 参考資料:債権回収会社(サービサー)制度|法務省
- 参考資料:支払督促|裁判所
相談先の使い分け|弁護士・公的窓口・債権回収会社(サービサー)・回収代行の違い
ここからは、4つの相談先を〈できること・費用の目安・向くケース・制限〉で見比べていきます。まず全体を一覧にすると、次のように整理できます。
| 相談先 | 弁護士 (法律事務所) | 公的な無料相談窓口 (日弁連ひまわりほっとダイヤル等) | 債権回収会社 (サービサー) | 請求代行・回収代行・売掛債権保証・ファクタリング等のサービス |
|---|---|---|---|---|
| できること | 交渉・内容証明・支払督促・訴訟・強制執行の代理、弁護士会照会による財産・住所調査 | 弁護士への初回相談・進め方の助言 | 特定金銭債権の管理・回収(法務大臣の許可業者) | 請求〜督促の代行、売掛金の未回収保証、早期資金化 |
| 費用感 | 相談料・着手金・報酬金・実費など(事務所により異なる。無料相談枠のある事務所も) | 初回30分無料(一部地域を除く) | 委託・譲渡に応じた手数料等 | 月額・手数料など(サービスにより異なる) |
| 向くケース | 相手が争っている/高額/強制執行まで見据えたい | まず何から手をつけるか整理したい/相談先を探している | 対象の債権が「特定金銭債権」に当たる場合 | 督促を効率化したい/未回収を防ぎたい(再発防止) |
| 制限 | 費用がかかるため、少額債権では費用倒れになりやすい | 相談が中心で、回収の実行は別途弁護士等への依頼が必要。法テラスは資力要件を満たす個人が対象 | サービサー法で特定金銭債権に限定。通常の売掛金は原則対象外 | 弁護士でない事業者は、報酬目的で他人の債権回収を代理・交渉できない(弁護士法72条) |
※費用・提供内容はサービスや事務所により異なります。詳細は各窓口・各社の最新情報でご確認ください(2026年9月時点)。
弁護士(法律事務所)に相談する場合
弁護士は、売掛金の回収を交渉から法的手続きまで一貫して代理できる相談先です。内容証明郵便の送付、相手との交渉、支払督促や訴訟、判決後の強制執行までを任せられます。自社が矢面に立たずに済み、相手が「弁護士が出てきた」と受け止めて任意に支払うケースもあります。
相手の住所や勤務先、財産が分からないときに、弁護士会を通じて照会できる「弁護士会照会」(弁護士法23条の2)のように、自社では使えない調査手段を扱える点も強みです。金額が大きい、相手が支払いを争っている、強制執行まで見据えたいといったケースで有力な選択肢になります。一方で費用がかかるため、少額債権では費用対効果の見極めが必要です。
請求額が140万円以下なら、認定司法書士(法務大臣の認定を受けた司法書士)も選択肢になります。司法書士法3条1項6号・7号により、認定司法書士は簡易裁判所での訴訟・支払督促などの代理や、140万円以下の紛争についての相談・裁判外の和解の代理を担えます。弁護士より費用を抑えやすい一方、140万円を超える請求や地方裁判所以上の手続きは弁護士の領分です。
出典・参考資料(1件)
公的な無料相談窓口(日弁連ひまわりほっとダイヤル・法テラス)
「いきなり弁護士に費用を払うのはためらう」という場合は、公的な相談窓口から入る方法があります。中小企業や個人事業主の主な窓口が、日本弁護士連合会の「ひまわりほっとダイヤル」です。全国共通番号(0570-001-240)に電話すると、地域の弁護士会の窓口につながり、一部の都道府県を除いて初回相談30分が無料とされています。
混同しやすいのが法テラス(日本司法支援センター)の無料法律相談・費用立替(民事法律扶助)です。こちらは収入・資産が資力基準以下の「個人」を対象とする制度で、法人・団体は対象外とされています。事業に関する売掛金の回収相談は、個人事業主で資力要件を満たす場合に限られると考えておくのが安全です。中小企業が広く使える公的窓口としては、まずひまわりほっとダイヤルを押さえておきましょう。
いずれも「相談」が中心で、実際の回収を代理で進めるには、そこから弁護士への依頼につなぐ流れになります。まず何をすべきか整理したい段階の入口として活用するのが実態に合います。
債権回収会社(サービサー)に依頼する場合(対象範囲と制限)
債権回収会社は「サービサー」とも呼ばれ、債権の管理・回収を専門に扱う会社です。誰でも営めるわけではなく、債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)で、法務大臣の許可を受けた株式会社だけが営めると定められています。
債権管理回収業は、法務大臣の許可を受けた株式会社でなければ、営むことができない。
出典:債権管理回収業に関する特別措置法 第3条|e-Gov法令検索
注意したいのは、サービサーが扱えるのは同法の定める「特定金銭債権」に限られる点です。特定金銭債権は、金融機関の貸付債権やリース・クレジットの債権、取引先が破産・民事再生などの手続に入った場合の債権などに、法律で範囲が限定列挙されています。
そのため、一般の事業者どうしの通常の売掛金(商品売買や役務提供の代金債権)は、原則として特定金銭債権に当たらず、サービサーに委託・譲渡して回収してもらうことはできません。「債権回収会社なら何でも回収してくれる」わけではない、という点は押さえておく必要があります。取引先が倒産手続に入ったなど、特定金銭債権に該当する場合に検討する相談先だと考えてください。
請求代行・回収代行・売掛債権保証・ファクタリング等のサービス
民間のサービスにも、売掛金にまつわる負担を軽くする選択肢があります。請求書の発行から入金確認、督促までを代行する請求代行・回収代行サービス、取引先の倒産や支払い遅延で売掛金が回収できないときに保証会社が代金を支払う売掛債権保証サービス、売掛債権を売却して早期に資金化するファクタリングなどです。
このうちファクタリングは、売掛債権を売却して早期に資金化する手段で、すでに焦げ付いた債権の取り立てを代行するものではありません。回収そのものを相談したい今回の場面とは目的が異なります。
これらは、すでに焦げ付いた債権を法的に取り立てる手段というより、督促業務を効率化したり、未回収リスクそのものを移転・回避したりする、再発防止寄りの位置づけです。
弁護士や許可を受けたサービサー以外の事業者が、報酬を得る目的で他人の債権回収を代理・交渉することは弁護士法72条で禁じられています(詳しくは次項で解説します)。「回収を丸ごと代行します」とうたう業者は、この点を踏まえて中身を見極めることが大切です。具体的なサービスは記事後半で紹介します。
悪質な取り立て業者・違法業者を見分けるポイント
相談先を探すうえで、無許可・違法な業者を避ける視点も欠かせません。前述のとおり、報酬を得る目的で他人の債権回収を業として行えるのは、弁護士(弁護士法人)と法務大臣の許可を受けたサービサーに限られます。弁護士法72条は、この点を次のように定めています。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
出典:弁護士法 第72条|e-Gov法令検索
「債権を買い取って回収します」「示談交渉を代行します」と持ちかけながら、弁護士でも許可サービサーでもない業者は、この規定に抵触するおそれがあります。相手が正規のサービサーかどうかは、法務省が公表する債権管理回収業の営業を許可した株式会社一覧で確認できます。正規のサービサーの名前をかたった架空請求への注意喚起も法務省が出しているため、少しでも不審に感じたら、依頼や支払いの前に照合してください。
出典・参考資料(6件)
相談する前にやっておくこと|時効を止める初動と証拠の確認
相談先の当たりがついたら、相談・回収を有利に進めるために、相談前に自分で確認・準備しておきたいことがあります。とくに大切なのが、時効を止める初動と、契約内容を裏づける証拠の確認です。
売掛金の時効は原則5年(2020年民法改正)— 時効を止める方法
売掛金は、一定期間そのままにしておくと、請求する権利そのものが時効で消えてしまいます。民法166条1項は、消滅時効を次のように定めています。
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
出典:民法 第166条|e-Gov法令検索
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
売掛金は通常、支払期日を自社で把握しているため、一号の「権利を行使できることを知った時から5年」が働きます。ただし、この5年という期間は2020年4月1日施行の改正民法によるもので、2020年3月31日以前に生じた債権には、改正前の短期消滅時効(売掛金は原則2年など)が適用されます。古い債権を扱うときは、発生時期を確認してください。
時効の完成が近いときは、進行を止める手立てがあります。手軽なのが、内容証明郵便などによる「催告」です。民法150条は次のように定めています。
催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
出典:民法 第150条|e-Gov法令検索
ただし催告は6か月の「完成猶予」を生むだけで、時効を確定的に更新するものではありません。その間に、訴訟や支払督促などの裁判上の請求へ進む必要があります(民法147条)。相手による残高確認書への署名・一部弁済・支払猶予の申し入れといった「承認」(民法152条)や、書面で協議を行う旨の合意(民法151条)でも完成猶予・更新が生じます。時効が近ければ催告を打っておくのが安全です。
出典・参考資料(1件)
相談前に確認すべき証拠・書類チェックリスト
回収の相談を実のあるものにするには、「そのような取引があり、いくら未払いか」を示す証拠がそろっているほど有利です。書類が不足していると、支払督促や訴訟に進んでも、取引の存在や金額を立証しにくくなります。相談前に、次のような書類・記録を手元に整理しておきましょう。
- 契約書・取引基本契約書:取引条件・支払期日・金額の根拠。捺印された書面があると立証が容易になります。
- 発注書・注文書:相手が発注した事実と内容の記録。
- 納品書・受領書:商品・サービスを引き渡した事実の記録。
- 請求書:請求した金額・支払期日の記録。
- やり取りの記録:メール・チャット・議事録など、合意や支払いの約束を示す記録。契約書がなくても、これらの積み重ねで取引を証明できる場合があります。
あわせて、これまでの入金状況や、相手とのやり取りの経緯(いつ・どんな理由で支払いが止まったか)を時系列で整理しておくと、相談先が状況を素早く把握でき、次の一手の判断がスムーズになります。
相談先ごとの費用と進め方|内容証明から支払督促・少額訴訟・強制執行まで
相談に踏み出す前に気になるのが、費用の見当と、回収がどう進むのかという見通しです。公的な無料相談窓口は相談自体が無料で、サービサーや請求代行・回収代行などのサービスの費用は前掲の比較表を参照してください。ここでは、弁護士や認定司法書士に依頼した場合の費用と、回収手続きの流れを整理します。
弁護士に依頼した場合の費用の考え方(相談料・着手金・報酬金)
弁護士費用は事務所ごとに設定が異なり、法律で一律の金額が定められているわけではありません。一般的には、次のような費目の組み合わせで構成されます。
- 相談料:相談の段階でかかる費用。初回無料や、公的窓口(ひまわりほっとダイヤルの初回30分無料など)を入口にできる場合もあります。
- 着手金:依頼時に支払う費用。回収の成否にかかわらず発生するのが一般的です。
- 報酬金(成功報酬):回収できた金額に応じて支払う費用。
- 実費:内容証明の郵便料金、裁判所に納める申立手数料・郵便切手など。手続きに応じて実際にかかる費用です。
- タイムチャージ:作業時間に応じて課金する方式。事務所や事件の性質により採用される場合があります。
金額は事務所や債権額、手続きの内容によって変わるため、依頼前に見積もりを取り、回収見込み額と費用のバランスを確認することが欠かせません。少額の債権では、費用が回収額を上回る「費用倒れ」に注意が必要です。
弁護士費用は事務所ごとに自由に設定されており、多くは旧・日本弁護士連合会の報酬基準を目安にしています。参考として、2004年に廃止された同基準では、経済的利益が300万円以下の場合、着手金はその8%(最低10万円程度とする例が多い)、報酬金は回収できた額の16%が一つの目安でした。
あくまで相場感の目安ですが、少額債権では最低着手金が費用倒れの分かれ目になりやすいので、依頼前に必ず見積もりで確認してください。
手続きに応じた実費も見込んでおきます。裁判所に納める申立手数料は請求額で決まり、2026年5月施行の改正民事訴訟法にもとづく書面申立てでは、請求額60万円で訴え提起(少額訴訟を含む)が8,500円、支払督促が5,700円です。
請求額100万円ならそれぞれ12,500円・7,700円で、電子申立てはこれより低くなります。支払督促は同じ請求額の通常訴訟より手数料を抑えられます。
内容証明郵便の費用は、郵便局の窓口で出す場合、定形郵便物の基本料金110円に、内容証明の加算480円(2枚目以降は1枚ごとに290円)・一般書留の加算480円・配達証明の加算350円を足した、1枚あたり合計1,420円ほどが目安です。電子内容証明(e内容証明)なら1枚・通常送付で合計1,295円が目安になります。
出典・参考資料(6件)
- 出典:手数料額早見表(PDF)|裁判所
- 参考資料:民事訴訟費用等に関する法律 別表第一|e-Gov法令検索
- 出典:内容証明|日本郵便
- 参考資料:一般書留の料金|日本郵便
- 参考資料:配達証明の料金|日本郵便
- 出典:e内容証明の料金|日本郵便
回収手続きの流れ(内容証明→支払督促・少額訴訟→強制執行)
回収は、費用と手間の軽い手段から段階的に進めるのが基本です。全体の流れを押さえておきましょう。

まず、電話やメールでの催促に応じない場合は、内容証明郵便で正式に支払いを求めます。いつ・誰が・どんな内容の督促をしたかを郵便局が証明する方法で、前述の「催告」に当たり、時効の完成を6か月猶予する効果もあります。ここで相手が支払うか、支払いの約束(承認)をすれば、そのまま解決に向かいます。
任意の支払いに応じないときは、簡易裁判所の支払督促を検討します。裁判所書記官が申立てにもとづいて相手に支払いを命じる書面手続きで、裁判所公式は次のように説明しています。
債権者の申立てにより、その主張から請求に理由があると認められる場合に、支払督促を発する手続
出典:支払督促|裁判所
債務者が支払督促に対し異議を申し立てると、請求額に応じ、地方裁判所又は簡易裁判所の民事訴訟の手続に移行します。
書類審査のみで簡易・低廉ですが、相手が督促異議を出すと通常訴訟へ移行します。金額が60万円以下なら、原則1回の審理で判決に至る少額訴訟も使えます。民事訴訟法368条1項が、次のように定めています。
簡易裁判所においては、訴訟の目的の価額が六十万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、少額訴訟による審理及び裁判を求めることができる。ただし、同一の簡易裁判所において同一の年に最高裁判所規則で定める回数を超えてこれを求めることができない。
出典:民事訴訟法 第368条|e-Gov法令検索
同じ簡易裁判所に対して同じ年に申し立てられる回数は年10回までとされ、被告が通常訴訟を求めた場合は通常訴訟へ移行します。判決や支払督促の確定で権利が確定すると、それが「債務名義」となり、応じない相手に対して強制執行(民事執行法)で預貯金や不動産などを差し押さえて回収できます。
強制執行では、相手の預貯金や売掛金を押さえる債権執行、店舗の在庫・設備などを押さえる動産執行、土地・建物を対象とする不動産執行を、財産の種類に応じて使い分けられます。
注意したいのは、訴訟や支払督促には一定の時間がかかり、その間に相手が財産を処分・移動してしまうと、判決を得ても回収できないおそれがある点です。これを防ぐのが仮差押え(民事保全法)です。訴訟を起こす前や訴訟と並行して、相手の預貯金・売掛金・不動産などを暫定的に押さえておく手続きで、後の強制執行の実効性を確保します。
相手に財産隠しの兆候があるときや、確実に回収したい高額の債権では、弁護士に相談して保全から検討する価値があります。
強制執行を実効あるものにするには、相手にどんな財産があるかを把握しておく必要があります。弁護士に依頼すれば、弁護士会照会(弁護士法23条の2)で相手の住所・勤務先・取引先などを照会できるほか、債務名義を得たうえで相手の財産を裁判所に開示させる「財産開示手続」(民事執行法196条以下)や第三者からの情報取得手続も使えます。財産調査は自力では届きにくく、専門家に任せる価値が出やすい部分です。
出典・参考資料(6件)
- 出典:民事訴訟法 第368条|e-Gov法令検索
- 出典:弁護士法 第23条の2|e-Gov法令検索
- 参考資料:支払督促|裁判所
- 参考資料:少額訴訟|裁判所
- 参考資料:民事執行法(第196条 財産開示手続)|e-Gov法令検索
- 参考資料:民事保全法|e-Gov法令検索
自分でできる初動と専門家に任せる線引き
ここまで見た手段のうち、どこまでを自社で対応し、どこから専門家に任せるか。判断の目安を整理します。
自分でできる回収の初動(催促・相殺・分割・内容証明・支払督促)
初動の多くは、弁護士に依頼しなくても自社で着手できます。まずは電話・メールで催促します。支払いの失念や請求内容の行き違いなら、これで解決することも少なくありません。
自社も相手に対して買掛金などの支払債務がある場合は、「相殺」で対当額を回収できます。相殺は、双方の債務が弁済期にあるときに、一方からの意思表示だけで行え、相手の同意は要りません(民法505条・506条)。
相手が一括では払えないというときは、分割払いの合意を取り付けるのも有効です。分割の申し出や一部の入金は前述の「承認」に当たり、時効が更新される実益もあります。
分割払いに応じるときは、合意を公正証書にし、「支払わなければ直ちに強制執行に服する」旨の執行認諾文言を入れておくと、支払いが滞っても訴訟を経ずに強制執行へ進めます。公正証書の作成手数料は目的の価額に応じ、50万円以下で3,000円、100万円以下で5,000円、200万円以下で7,000円、500万円以下で13,000円です(公証人手数料令)。
それでも応じない場合の内容証明郵便(郵便局の窓口のほか、電子内容証明=e内容証明ならオンラインで差し出せます)や、簡易裁判所に申し立てる支払督促も、自社で手続きすること自体は可能です。ここまでは、費用を抑えて自力で試せる範囲といえます。
出典・参考資料(2件)
費用倒れを避ける判断軸|どこから専門家に任せるか
専門家に任せるかどうかは、回収できる見込み額と、かかる費用・手間・時間を比べて判断します。相手が支払いを争っている、金額が大きい、財産調査や強制執行まで見据える必要がある、といったケースでは、自力での対応に限界があり、弁護士に任せる価値が高まります。
一方、数万円〜数十万円の少額債権では、着手金や実費、対応にかける時間が回収額を上回る「費用倒れ」になりやすい点に注意が必要です。少額なら、まず無料相談で見通しを聞き、支払督促や少額訴訟といった費用の軽い手段から試すか、早めに回収を見切って再発防止に切り替える判断も現実的です。迷ったときは公的な無料相談窓口で回収見込みと費用感の当たりをつけてから、依頼するかを決めるのが安全です。
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相談してもなお回収できないとき・同じ問題を繰り返さないために
手を尽くしても回収が難しいと判断したときは、無理に費用を投じ続けるより、損失を確定させて次に備える方が合理的な場合があります。ここでは、回収できないときの資金繰りと、同じ未回収を繰り返さないための備えを見ていきます。
取引先の倒産で売掛金が回収できず、資金繰りが苦しくなったときには、公的な融資制度があります。日本政策金融公庫の「取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)」は、関連企業の倒産で経営が困難になった事業者向けの融資です。倒産企業に50万円以上の売掛金債権を持つこと、取引依存度20%以上であることなどが対象要件です。これは回収の相談窓口ではなく、連鎖倒産を防ぐ資金繰り支援です。
出典・参考資料(1件)
回収を断念して損失として処理する場合は、税務上「貸倒損失」として損金に算入できる要件を満たしているかの確認が欠かせません。法人税法上、貸倒損失が認められる条件は厳格に定められており、要件を満たさないまま計上すると否認されるおそれがあります。貸倒損失の要件や、黒字倒産を招かないための会計・税務上の考え方は、以下の記事で詳しく解説しています。
今回の未払いを教訓に、次から同じ問題を繰り返さない仕組みづくりも大切です。取引開始時の与信管理や前受け・前払いの設定に加え、支払期日の督促を確実に・早めに届ける体制を整えると、初期の未回収を取りこぼしにくくなります。
以下で紹介するサービスは、いずれもこれからの取引での未回収を防ぐ再発防止と、日々の督促・回収を支える手段です。督促や回収の代行、売掛金の未回収保証を使えば、社内の負担と貸し倒れリスクの両方を軽くできます。いますでに焦げ付いている債権そのものの回収は、内容証明から支払督促へ進む手順や相談先の選び方を扱った前半の各節を参照してください。
| サービス名 | 請求まるなげロボ | 債権回収ロボ | URIHO(ウリホ) |
|---|---|---|---|
| 提供会社 | 株式会社ROBOT PAYMENT | 株式会社ROBOT PAYMENT | 株式会社ラクーンフィナンシャル |
| タイプ | 請求代行+売掛金保証 | 督促・回収の自動化SaaS | 売掛保証(未回収保証) |
| 主な機能・対応範囲 | 与信審査〜請求書発行・代金回収・入金消込・督促を代行 | 未入金の督促・回収を自動化(督促シナリオ設計・履歴の一元管理) | 与信審査と売掛金の未回収保証(入金消込などの債権管理機能は持たない) |
| 未回収保証 | ●与信通過した適格債権を100%保証 | ×保証なし(督促・回収を自動化) | ●倒産・1か月以上の支払い遅延を保証 |
| 督促の代行・自動化 | ●メール・電話・弁護士法人が対応 | ●メール・SMS・オートコール・郵送を自動化 | ×保証特化で督促代行はなし |
| 対象・対応債権 | 法人とのBtoB請求(売掛金サイクル) | BtoB売掛金・BtoC消費者債権・決済代行の未収金など(家賃債権は事例未確認) | 法人・屋号のある個人事業主とのBtoB売掛債権(海外法人・消費者は対象外) |
| 初期費用 | 要問い合わせ | 要問い合わせ | 無料 |
| 月額費用 | 請求書発行件数に応じて変動 | 要問い合わせ | ミニ 4,980円〜 A 9,800円/B 29,800円 C 99,800円(非課税) |
| 手数料 | 1.0%〜(商材・金額により個別算出) | 要問い合わせ | なし(月額料金に含む) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | オンライン相談を予約 | サービス詳細を見る |
請求まるなげロボ(株式会社ROBOT PAYMENT)

企業間取引の請求業務を、与信審査から請求書の発行・送付、代金回収、入金消込、督促までまとめて代行するサービスです。取引先の与信審査は3営業日で行われ、審査で適格債権と判断され与信を通過した債権については、回収の結果にかかわらず売掛金が100%保証されます(適格債権でないものは除く)。
与信を通過しなかった取引先は保証の対象外となりますが、その分の請求書発行や入金消込は同じプラットフォーム上で自社管理でき、与信通過分・対象外分を一元管理できます。未回収を完全に防げるわけではなく、保証は与信通過した債権に限られる点を理解したうえで、新規取引先の与信をアウトソースしたい、請求から回収までの工数を減らしたいという企業に向いています。
督促は、担当窓口からのメール・電話に加え、弁護士法人による対応まで用意されています。料金は月額利用料と手数料1.0%〜(商材や金額により個別に算出)という構成です。提供元の株式会社ROBOT PAYMENTは東京証券取引所グロース市場に上場しており、ISMS(ISO/IEC 27001)やPCI DSSなどの認証を取得しています。
債権回収ロボ(株式会社ROBOT PAYMENT)

未入金の督促・回収業務を自動化するSaaSです。メール・SMS・オートコール(自動音声)・郵送の4チャネルを組み合わせた督促シナリオを、債務者の属性や債権額に応じて設計し、自動で実行します。督促の状況や受信・返信の履歴を一元管理できるため、担当者ごとにばらつきがちな督促業務を標準化できます。
2026年3月に提供が始まった比較的新しいサービスで、債務者の特性に応じて催促のスケジュールを最適化する技術について特許を出願しています。BtoBの売掛金では決済代行事業者の未収金回収に、BtoCでは個人向けカーサブスクリプションの月額利用料回収にと、幅広い債権で導入事例があります。同社の請求管理システムと連携すれば請求から督促・回収までを一元管理できるほか、単独での利用も可能です。
料金は要見積もりです。提供元の株式会社ROBOT PAYMENTは、ISMS(ISO/IEC 27001)やPCI DSSなどの認証を取得しています。
URIHO(ウリホ)(株式会社ラクーンフィナンシャル)

売掛金の未回収を保証する、売掛保証サービスです。取引先の倒産(破産・民事再生・会社更生など)や1か月以上の支払い遅延によって売掛金が回収できなくなった場合に、保証会社が取引代金を支払います。申込から取引先登録、保証金請求までをオンラインで完結できるのが特徴です。
月額定額(サブスク型)で、保証する取引先数に上限を設けていない料金体系を採ります。月額料金はミニプラン4,980円〜、Aプラン9,800円、Bプラン29,800円、Cプラン99,800円(いずれも非課税)で、保証料や審査費用は月額料金に含まれ、従量課金はありません。取引先の信用リスクを「保証推奨度」として5段階で表示する与信審査機能もあり、新規取引の可否判断にも使えます。
保証の対象は、法人および屋号を持つ個人事業主とのBtoB取引で発生する売掛債権で、海外法人や一般消費者との取引は対象外です。入金消込や売掛金台帳といった債権管理システムの機能は持たず、あくまで与信と未回収保証に特化している点を踏まえ、回収不能になる前のリスク移転・再発防止の手段として位置づけると分かりやすくなります。導入企業は2,600社以上とされています。
ここで取り上げた以外にも、督促代行や債権回収代行、売掛債権保証のサービスは数多くあります。依頼先のタイプごとの違いや費用相場、督促自動化の仕組みまで踏まえて自社に合う一社を選びたい場合は、以下の記事で主要サービスを比較しています。
まとめ
売掛金が回収できないときの相談先は、弁護士(法律事務所)、公的な無料相談窓口(日弁連ひまわりほっとダイヤルなど)、債権回収会社(サービサー)、請求代行・回収代行・売掛債権保証などのサービスの4つに大きく分かれます。サービサーが扱えるのは特定金銭債権に限られ通常の売掛金は原則対象外であること、法テラスは資力要件を満たす個人が対象であることなど、それぞれの制限を踏まえて選ぶことが大切です。
相談の前には、時効(原則5年)が近ければ内容証明などの催告で完成を止め、契約書・発注書・納品書・請求書・やり取りの記録といった証拠を整理しておきましょう。回収は内容証明から支払督促・少額訴訟(60万円以下)、強制執行へと段階的に進み、少額債権では費用倒れを避ける見極めも欠かせません。回収できないときは、公的融資での資金繰りや、督促の自動化・売掛債権保証といった再発防止の仕組みも検討してください。
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出典・参考資料(10件)
- 参考資料:債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)|e-Gov法令検索
- 参考資料:弁護士法|e-Gov法令検索
- 参考資料:民法|e-Gov法令検索
- 参考資料:民事訴訟法|e-Gov法令検索
- 参考資料:民事執行法|e-Gov法令検索
- 参考資料:ひまわりほっとダイヤル|日本弁護士連合会
- 参考資料:民事法律扶助業務|日本司法支援センター(法テラス)
- 参考資料:債権回収会社(サービサー)制度・許可業者一覧|法務省
- 参考資料:支払督促|裁判所
- 参考資料:少額訴訟|裁判所
売掛金の回収相談に関するよくある質問(FAQ)
Q. 債権回収会社(サービサー)とは何ですか?
A. 債権回収会社(サービサー)とは、法務大臣の許可を受けて他人の債権の管理・回収を専門に行う株式会社です。債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)にもとづき、許可業者だけが営めます。ただし扱えるのは同法の「特定金銭債権」(金融機関の貸付やリース・クレジット、倒産手続中の債権など)に限られ、通常の売掛金は原則対象外です。「何でも回収してくれる」わけではない点に注意が必要です。
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Q. 売掛金の未払いは、まずどこに相談すればよいですか?
A. 売掛金の未払いの相談先は、弁護士・公的な無料相談窓口・債権回収会社(サービサー)・請求代行や売掛保証などのサービスの4つに分かれます。費用をかけず方針を整理したいなら、中小企業などが弁護士に無料相談できる日弁連の「ひまわりほっとダイヤル」(0570-001-240)が入口です。金額が大きい・相手が争っている・強制執行まで見据えたい場合は、交渉から手続きまで代理できる弁護士への依頼が有力です。
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Q. 契約書がない取引でも、売掛金は回収できますか?
A. 契約書がなくても、取引の事実と金額を示す証拠があれば売掛金を回収できる可能性があります。契約は口頭でも成立するため、発注書・納品書・請求書・メール等のやり取り・入金履歴などを積み重ねて取引と金額を証明します。ただし相手が金額や合意を争う場合は立証が難しくなるため、書面の証拠が多いほど支払督促や訴訟に進みやすくなります。相談前に、手元の書類・記録を時系列で整理しておきましょう。
Q. 売掛金が「時効で消滅した」と言われました。もう回収できないのでしょうか?
A. 相手の主張する時効が未完成の場合や、進行を止めていた場合は、「時効で消滅した」と言われても回収できることがあります。売掛金の消滅時効は原則5年(2020年4月改正後)ですが、催告で完成を6か月猶予でき、その間に訴訟・支払督促へ進めば確定的に更新できます。残高の承認や一部弁済があれば、その時点から時効はリセットされます。時効を主張されても諦めず、まず弁護士に相談してください。
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Q. 取引先から分割払いにしてほしいと言われたら、回収を確実にする方法はありますか?
A. 分割払いに応じる場合は、合意を公正証書にし、執行認諾文言(支払わなければ強制執行に服する旨)を入れておくと、支払いが滞っても訴訟を経ずに差し押さえへ進め、回収の確実性が高まります。担保や連帯保証を付けるのも有効です。分割の申し出や一部の入金は法律上の「承認」に当たり、その時点から消滅時効が更新される点も押さえておきましょう。
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Q. 売掛金の回収可能性が高いのは、どのような場合ですか?
A. 売掛金の回収可能性は、相手の銀行口座・勤務先・所有不動産など、差し押さえられる財産が把握できている場合に高くなります。判決や支払督促で「債務名義」を得ても、相手にめぼしい財産がなければ強制執行は空振りに終わるためです。財産の所在が分からないときは、弁護士会照会(弁護士法23条の2)や財産開示手続で調べる道があり、これらは弁護士への依頼が前提になります。
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Q. 少額の売掛金でも、弁護士に相談・依頼する意味はありますか?
A. 数万〜数十万円の少額債権では、着手金や実費が回収額を上回る「費用倒れ」になりやすいため、依頼前に費用対効果を見極めることが大切です。少額なら、まず無料相談で回収見込みを聞いたうえで、自社でできる内容証明郵便や、申立手数料の安い支払督促・少額訴訟(60万円以下)から試すのが現実的です。回収の手間や費用が見合わないと判断したら、早めに損失を確定させて再発防止に切り替えるのも合理的な選択です。
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Q. 取引先が倒産した場合でも、売掛金は回収できますか?
A. 取引先が倒産すると、売掛金の全額回収は難しくなりますが、破産・民事再生などの手続内で配当を受けられる可能性は残ります。自社が納入した商品の代金債権であれば、動産売買の先取特権(民法311条・321条ほか)を主張できる場合があります。納入した商品やその売却代金から、他の債権者に優先して回収できる仕組みです。
倒産手続に入った債権はサービサー法の「特定金銭債権」に当たる場合があり、サービサーへの委託を検討できるケースもあります。倒産で自社の資金繰りが苦しいときは、日本政策金融公庫の「取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)」など、連鎖倒産を防ぐ公的融資も使えます。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
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