事業の拡大や後継者不在への備えとして、「M&A」や「買収」という言葉を目にする機会が増えています。ところが、いざ自社で検討しようとすると「M&Aと買収は同じことなのか、違うのか」「買収と合併では何が変わるのか」といった、言葉の関係そのものがあいまいなまま、という声は少なくありません。
買収には株式譲渡や事業譲渡などいくつもの手法があり、進め方・かかる費用・税金の扱いも手法によって変わります。まずは言葉の意味と全体像を正しく押さえることが、自社にとって現実的な選択肢かどうかを見極める第一歩になります。
本記事では、買収とは何かという定義から、M&A・合併との違い、主な手法、メリットとデメリット、進め方の流れと期間、費用の考え方、そして誰に相談すればよいかまでを、はじめて調べる方にもわかりやすく整理します。専門用語はその場で意味を補いながら解説するので、自社で買収を検討すべきか、どの手法が合うのか、誰に相談すればよいかを判断する材料としてご活用ください。
目次
一括ダウンロードする
買収とは?M&A・合併との違い
買収とは、ある会社が他の会社の株式や事業を買い取り、その会社の経営権(支配権)を取得することです。「買収」と聞くと強引な乗っ取りのような印象を持つ方もいますが、実際には後継者不在の解決や成長戦略の一環として、当事者双方の合意のもとで進むケースが大半を占めます。
ここでいう経営権とは、株主総会での議決権を通じて会社の重要事項を決められる立場のことです。会社法は株式を自由に譲渡できることを原則として定めており、株式を買い集めて議決権の多数を握れば、対象会社の経営を実質的に動かせるようになります。この「株式を買って経営権を得る」というかたちが、買収の最も基本的な仕組みです。
出典・参考資料(1件)
- 出典:会社法 第127条(株式の譲渡)|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086)
買収の対象には2つのかたちがあります。会社そのもの(株式)を買って会社ごと引き継ぐ「企業買収」と、特定の事業だけを切り出して買う「事業買収」です。どちらのかたちを取るかで、手続きや引き継ぐ範囲が変わります。この違いは後半の「買収の主な種類と手法」で詳しく整理します。
M&Aと買収の違い(M&Aは総称)
「M&A」と「買収」を並べて検索する方が多いのは、この2つの言葉の関係がわかりにくいためです。結論から言うと、M&Aは合併・買収などをまとめて指す総称で、買収はそのなかの代表的な手段の一つという包含関係にあります。
M&Aは「Mergers and Acquisitions」の略で、直訳すると「合併と買収」です。実務では、会社を1つに統合する合併、株式や事業を取得する買収に加え、資本提携や業務提携なども広くM&Aの一部として語られます。買収は、M&Aという大きな枠の中にある具体的な手段であり、「M&Aで会社を買う=買収する」と理解するとつかみやすくなります。
M&Aと買収・合併・提携の関係を図にすると、次のようになります。

買収と合併の違い(法人格が残るか、消えるか)
買収と合併の最も大きな違いは、対象になった会社の法人格が残るか消えるかです。買収では、株式や事業が移っても対象会社そのものは法人として存続し、株主や経営権だけが買い手に移ります。一方、合併では複数の会社が1つの法人に統合され、消滅する会社が生じます。
この違いは会社法の条文にも表れています。合併では、消滅する会社が「解散」して法人格を失い、その権利義務は存続会社や新設会社にまとめて引き継がれます。買収でこうした解散は原則として起こりません。
出典:会社法 第2条第27号・第471条第4号|e-Gov法令検索
- (吸収合併)会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。
- (解散の事由)株式会社は、次に掲げる事由によって解散する。……四 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。)
3つの言葉の関係を整理すると、次のようになります。
| M&A(エムアンドエー) | 買収 | 合併 | |
|---|---|---|---|
| 意味 | 合併・買収・提携などを幅広く含む総称。「会社や事業をめぐる取引全般」を指す言葉 | 他社の株式や事業を取得して経営権を得ること。M&Aの代表的な手段の一つ | 2つ以上の会社を1つの法人に統合すること |
| 対象会社はどうなるか | ─(総称のため手段による) | 法人として存続する(株主や経営権が移る) | 消滅する会社が生じる(権利義務は存続会社が承継) |
買収の主な種類と手法(スキーム)
ひとくちに買収といっても、その手法(スキーム)はいくつもあり、「何を買うか」「対象会社の法人格はどうなるか」「対価を誰が受け取るか」が手法ごとに変わります。まず全体像を一覧で押さえてから、中小企業の買収で多い手法を個別に見ていきます。
| 株式譲渡 | 事業譲渡 | 会社分割 | 株式交換・株式移転 | 第三者割当増資 | TOB(株式公開買付け) | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 何を買うか | 対象会社の株式(会社そのもの) | 特定の事業(資産・負債・契約などを個別に選択) | 切り出した事業(権利義務を包括的に承継) | 発行済株式の全部 | 対象会社が新たに発行する株式 | 上場会社などの株券等 |
| 法人格 | 存続する | 存続する | 存続する | 存続する(完全子会社になる) | 存続する | 存続する |
| 対価の主な受取先 | 株主(売り手個人・親会社) | 対象会社(法人) | 会社または株主(分割の型による) | 株主 | 対象会社(法人。資本が増える) | 株主 |
| 主に向くケース | 中小企業のM&Aで最も多い。手続きが比較的シンプル | 一部の事業だけを売買したい/簿外債務を引き継ぎたくない場合 | 事業を組織再編として切り出す場合 | 対象会社を完全子会社化してグループに組み込む場合 | 資本提携・出資により関係を強めたい場合 | 上場企業の株式を市場外でまとめて取得する場合 |
※各手法の一般的な位置づけを整理したものです。個別の案件で適した手法や手続きは、対象会社の状況により異なります。
株式譲渡(中小企業のM&Aで最も多い)
株式譲渡は、売り手(株主)が保有する対象会社の株式を買い手に譲り渡す手法です。会社法は「株主は、その有する株式を譲渡することができる」(第127条)と株式譲渡の自由を原則として定めており、株式を買い集めることで会社の支配権を取得できます。中小企業のM&Aでは、この株式譲渡が最も多く使われます。
特徴は、会社をまるごと引き継ぐため、資産・負債・契約・従業員などの関係が原則そのまま維持される点です。取引先との契約や許認可を個別に結び直す手間が比較的少なく、手続きがシンプルになりやすい一方で、買い手は貸借対照表に載っていない簿外債務まで引き継ぐ可能性があるため、後述するデューデリジェンス(買収前の調査)が重要になります。
対価は株主個人(オーナー)が受け取るため、会社に資金が入るわけではない点も、株式譲渡の特徴です。
事業譲渡(欲しい事業だけを選んで買う)
事業譲渡は、会社そのものではなく、特定の事業を対象に、資産・負債・契約・従業員などを個別に選んで売買する手法です。会社法上は、事業の全部または重要な一部の譲渡について、原則として株主総会の特別決議による承認が必要とされています(第467条)。
買い手にとっては、引き継ぐ範囲を選べるため、不要な資産や把握しきれない債務を避けやすいのが利点です。半面、契約や許認可を個別に移し替える手続きが必要になり、株式譲渡より手間がかかる場合があります。対価は会社(法人)が受け取る点も、株主が受け取る株式譲渡との違いです。
税務面では、事業譲渡は資産の譲渡として扱われるため、譲渡する資産のうち建物・機械・のれん(営業権)などの課税資産に消費税がかかり、買い手がこれを負担します。土地や有価証券などは非課税です。
出典・参考資料(2件)
- 出典:会社法 第467条(事業譲渡等の承認等)|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086)
- 出典:No.6145 資産の譲渡の具体例|国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6145.htm)
その他の手法(会社分割・株式交換・株式移転・第三者割当増資・TOB)
株式譲渡・事業譲渡以外にも、目的に応じていくつかの手法があります。いずれも中小企業の買収では株式譲渡ほど一般的ではありませんが、全体像として押さえておくと選択肢の幅がわかります。
- 会社分割:事業に関する権利義務の全部または一部を、他の会社(吸収分割)や新設会社(新設分割)に承継させる組織再編です。事業を切り出す点は事業譲渡に似ますが、権利義務が包括的に引き継がれる点が異なります。
- 株式交換・株式移転:対象会社の発行済株式の全部を取得して完全子会社にする手法です。既存の会社を親会社にするのが株式交換、新たに設立する持株会社を親会社にするのが株式移転です。
- 第三者割当増資:対象会社が新株を特定の相手に割り当てて発行し、買い手がそれを引き受ける手法です。会社法上は「募集株式の発行等」にあたり、既存株主からの譲渡と違って会社に資金が入ります。資本提携で関係を強めたい場合に使われます。
- TOB(株式公開買付け):買い手があらかじめ買付価格・買付期間・予定株数を公告し、その条件で市場を通さずに多くの株主から一度に株券等を買い付ける手続きです。会社法ではなく金融商品取引法(第27条の2以下)が根拠で、主に上場企業が対象となるため、非上場の中小企業の買収では基本的に使われません。後述する家具大手ニトリによるホームセンター島忠の買収(約2,100億円)が、このTOBで行われた代表例です。
出典・参考資料(2件)
- 出典:会社法 第2条・第199条(募集事項の決定)|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086)
- 出典:金融商品取引法 第27条の2(発行者以外の者による株券等の公開買付け)|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000025)
友好的買収と敵対的(同意なき)買収
買収は、対象会社の経営陣の同意があるかどうかで、友好的買収と敵対的買収に分けられます。友好的買収は、対象会社の経営陣の合意を得たうえで進める買収で、中小企業のM&Aはほとんどがこの形です。事前に情報を共有し、条件をすり合わせながら進めるため、従業員や取引先への影響も調整しやすくなります。
一方、敵対的買収(同意なき買収)は、対象会社の経営陣の賛同を得ないまま株式を買い集める買収です。上場企業の株式を市場やTOBで取得する場面で問題になることが多く、非上場が中心の中小企業では通常起こりません。ニュースで話題になる買収の多くはこの敵対的買収ですが、実際の件数としては友好的買収が大半を占めます。
買収のメリット・デメリット(買い手・売り手それぞれ)
買収の損得は、買う側(買い手)と売る側(売り手)で見え方が変わります。ここでは、それぞれの立場でのメリットと注意点を整理し、あわせて買収でつまずきやすいポイントを押さえます。
買い手のメリット・デメリット
買い手にとっての最大のメリットは、事業を一から立ち上げるより短い時間で、既存の顧客基盤・人材・技術・許認可などの経営資源を手に入れられることです。同業種を買収して規模を拡大したり、異業種を買収して新規事業へ参入したりと、成長のスピードを上げる手段になります。
一方でデメリットは、買収に相応の資金が必要になることと、買収後に想定した効果が得られないリスクがあることです。特に、買い取った会社に貸借対照表へ表れていない簿外債務が潜んでいたり、統合がうまくいかず人材が流出したりすると、投資の回収が難しくなります。こうしたリスクを事前に見極めるために、後述するデューデリジェンス(買収前の調査)が欠かせません。
売り手のメリット・デメリット
売り手にとってのメリットは、後継者がいない場合でも事業を第三者に引き継いで存続させられること、そして創業者が株式の譲渡対価(創業者利益)を得られることです。従業員の雇用や取引先との関係を維持したまま、経営者が引退できる点も、事業承継の手段として買収が選ばれる理由になっています。
デメリットとしては、希望どおりの条件で買い手が見つかるとは限らないこと、交渉や調査に一定の時間と労力がかかることが挙げられます。また、買収後は経営方針や社内の仕組みが変わることもあり、従業員や取引先への説明を丁寧に進める必要があります。
買収を失敗させないためのポイント
買収でよくある失敗には、いくつか共通する原因があります。第一に、相場より高い金額で買ってしまう「高値づかみ」です。買収価格の根拠があいまいなまま交渉を進めると、投資の回収が難しくなります。第二に、簿外債務や偶発債務を見落として引き継いでしまうケースです。株式譲渡では会社をまるごと引き継ぐため、事前の調査で財務や法務のリスクを洗い出しておく必要があります。
第三に、買収後の統合(PMI)でつまずくケースです。PMIは「Post Merger Integration」の略で、買収後に組織・制度・システムを実際に一体化していく作業を指します。ここが計画的に進まないと、期待したシナジー(相乗効果)が出ないだけでなく、キーパーソンとなる人材が離れてしまうこともあります。
買収は契約して終わりではなく、統合まで見据えて進めることが成否を分けます。こうした調査や統合には専門的な判断が必要になるため、後述する専門家の関与が有効です。
買収の流れと期間
ここからは、買収が実際にどのような流れで進み、どのくらいの期間がかかるのかを整理します。手法や案件の規模によって前後しますが、大きな流れは共通しています。
買収の流れ(相談から統合まで)
一般的な買収は、相談から統合まで、おおむね次の順序で進みます。手法や案件の規模によって前後しますが、大きな流れは共通しています。全体の流れと期間の目安をまとめると、次のとおりです。

- 目的・方針の整理と相談:買収の目的や希望条件を整理し、仲介会社やアドバイザーへ相談します。
- 秘密保持契約(NDA):相手候補と本格的にやり取りを始める前に、情報を守るための契約を結びます。
- 相手候補の検討(企業概要書・IM):相手の概要をまとめた資料(企業概要書、IM)をもとに検討と交渉を進めます。
- 基本合意書の締結:価格や条件の大枠について合意し、基本合意書を結びます。
- デューデリジェンス(DD):財務・税務・法務・事業などの観点から、対象会社のリスクや実態を詳しく調査します。
- 最終契約の締結:調査結果を踏まえて最終的な条件を交渉し、最終契約を結びます。
- クロージング:代金の支払いと株式・事業の引き渡しを行い、買収が成立します。
- 統合(PMI):成立後、組織・制度・システムを実際に一体化していきます。
中小企業のM&Aの一般的な進め方は、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも手引きとして示されています。
出典・参考資料(1件)
- 参考資料:中小M&Aガイドライン(第3版)|中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf)
買収にかかる期間の目安
買収に要する期間は案件ごとに幅がありますが、相手探しから成立まで、おおむね半年から1年以上かかることが少なくありません。相手候補がなかなか見つからなければ長引きますし、条件が早くまとまれば短くなります。
工程ごとのおおよその目安は次のとおりですが、いずれも案件の規模や交渉の進み方によって大きく変わる点に注意してください。
- 相手候補の探索〜基本合意:数か月かかることが多く、最も期間が読みにくい工程です。
- デューデリジェンス(DD):1〜2か月程度が一つの目安とされます。
- 最終契約〜クロージング:1か月前後で進むことが多いですが、許認可の移転などがあると延びます。
買収は思い立ってすぐに完了するものではなく、一定の準備期間を見込んでおくことが現実的です。具体的なスケジュールは、対象会社の規模や選ぶ手法、相談する専門家の進め方によって変わります。
一括ダウンロードする
買収にかかる費用・手数料
買収にかかるお金は、買収そのものの対価(会社・事業を買う金額)と、仲介会社やアドバイザーに支払う手数料の2つに分けて考えると整理しやすくなります。ここでは、手数料の考え方と、買収価格がどう決まるかを順に見ていきます。
仲介・FAへの手数料(レーマン方式)
仲介会社やアドバイザーへの成功報酬の計算には、「レーマン方式」と呼ばれる方法が広く使われています。これは、取引金額を段階に分け、金額が大きい部分ほど低い料率を掛けて合算する方式です。法律で料率が定められているわけではありませんが、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、実務で多く用いられる算定方法として次の一例が示されています。
以上の価額を基に報酬を算定する手法として、レーマン方式が採られることが多い。……特にM&A 専門業者において広く用いられている。
- 5億円以下の部分 … 5%
- 5億円超10億円以下の部分 … 4%
- 10億円超50億円以下の部分 … 3%
- 50億円超100億円以下の部分 … 2%
- 100億円超の部分 … 1%
※あくまで一例であり、各階層における価額・割合は各仲介者・FAにより異なる。
出典:中小M&Aガイドライン(第3版)|中小企業庁
実際の料率や、基準となる金額を株価ベースで見るか負債を含む総資産ベースで見るかは、会社によって異なります。相談先を選ぶときは、この料率の前提もあわせて確認しておくと、費用の比較がしやすくなります。
着手金・中間金・最低報酬
成功報酬以外に、契約時の着手金、基本合意時の中間金といった費用が発生する場合があります。着手金・中間金はそれぞれ50万〜200万円程度(中間金は成功報酬の10〜20%程度とする例もあります)が一つの目安ですが、いずれも成約に至らなくても返還されないのが通例です。
近年は、着手金・中間金をとらず成約時にのみ報酬が発生する「完全成功報酬制」を掲げる会社も増えていますが、その分、最低報酬額が設定されていることが一般的です。
中小M&Aガイドラインでも、最低手数料を設ける仲介者・FAが多いことが示されています。最低報酬額は各社で異なりますが、数百万円から2,000万円程度に設定されていることが多く、取引額が数百万円〜数千万円規模にとどまる小規模な案件では、料率で計算した成功報酬よりこの最低額のほうが高くなり、費用の中心になることも少なくありません。
費用の総額は、料率だけでなく、着手金・中間金の有無や最低報酬額まで含めて比較することが大切です。
買収価格(企業価値)はどう決まるか
買収の対価となる会社・事業の価格は、企業価値評価(バリュエーション)にもとづいて交渉されます。評価の考え方は大きく3つに分かれます。純資産などの帳簿価値を基準にする「コストアプローチ」、将来生み出す利益やキャッシュフローを基準にする「インカムアプローチ」、類似する会社や取引の相場を参考にする「マーケットアプローチ」です。
実務では、これらを組み合わせて評価額の目安を出し、そこから交渉で最終的な価格を決めていきます。買い手・売り手のどちらの立場でも、価格の根拠を理解しておくことが、納得のいく取引につながります。
とくに中小企業のM&Aでは、コストアプローチをもとにした簡便な目安として「年買法(年倍法)」がよく用いられます。これは、時価純資産(資産を時価に評価し直した純資産)に、営業利益の数年分(実務ではおおむね3〜5年)を「のれん(営業権)」として上乗せする方法です。
たとえば時価純資産が1億円、営業利益が2,000万円の会社で3年分を見込むなら、1億円+2,000万円×3年=1億6,000万円が一つの目安になります。計算がわかりやすく当事者間で合意しやすい半面、将来の収益力や事業のリスクを十分には織り込めないため、あくまで交渉の出発点となる概算として扱われます。
売り手にかかる税金も手法によって変わります。個人株主が株式を譲渡する株式譲渡では、譲渡益に対して申告分離課税が適用されます。
上場株式等に係る譲渡所得等、一般株式等に係る譲渡所得等のいずれについても、税率は20%(所得税15%、住民税5%)です。
出典:No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)|国税庁
これに加えて、平成25年から令和19年までは復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)が併せて課されます。中小企業の非上場株式は「一般株式等」にあたります。一方、事業譲渡では、会社に生じた譲渡益が法人税の課税対象になるほか、前述のとおり課税資産に消費税がかかります。どの手法を選ぶかで税負担の構造が変わるため、税務は専門家に確認しながら進めるのが安全です。
会社買収の事例(どんな目的で行われるか)
買収は、その目的によっていくつかの型に分かれます。代表的なのは、後継者不在の会社を引き継ぐ「事業承継型」、同業種を取り込んで規模やエリアを広げる「規模拡大型」、異業種や新技術を持つ会社を取り込んで新規事業に参入する「新規参入型」です。自社がどの目的で買収を考えるのかを整理すると、必要な手法や相手像が見えてきます。
実際の買収では、企業名や金額が公表されるものもあります。たとえば、当サイト「MCB FinTechカタログ」を運営するマネックスグループは、2018年4月、暗号資産交換業のコインチェックの全株式を36億円で取得し、完全子会社化すると発表しました。
金融庁の業務改善命令を受けて経営体制の立て直しが求められていたコインチェックを、マネックスグループが経営管理やシステムリスク管理のノウハウを提供して支援する、新規参入と再建支援を兼ねた株式譲渡の例です。このように、公表された事例からは、買収がどんな目的・スキーム・金額で行われたのかを具体的にたどることができます。
出典・参考資料(1件)
- 参考資料:コインチェック買収発表 マネックスが36億円で全株|日本経済新聞(2018年4月7日)(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO29082070W8A400C1MM0000/)
規模拡大や事業領域の拡大を狙う買収もあります。家具大手のニトリホールディングスは、2020年11月から公開買付け(TOB)でホームセンター大手の島忠を買収し、2021年に完全子会社化しました。買付総額は最大で約2,100億円にのぼり、同社にとって初の大型M&Aとなりました。
コインチェックの例が株式を直接取得する株式譲渡だったのに対し、島忠の例は上場企業を対象とするTOBという手法の違いがあります。公表された事例をたどると、目的(再建支援・領域拡大など)やスキーム、金額の幅が具体的に見えてきます。
出典・参考資料(1件)
- 参考資料:島忠買収 高値が決め手 ニトリ2100億円、16日からTOB|日本経済新聞(2020年11月13日)(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO66223420T11C20A1EA5000/)
一方、中小企業どうしの事業承継型の買収では、当事者間の合意で金額を公表しないケースが大半です。そのため公表される事例は規模の大きい案件に偏りますが、進め方や手法の考え方は、規模を問わず共通しています。
買収は誰に相談して進めるか
買収は手続きが多く、専門的な判断が続くため、買い手・売り手のいずれの立場でも専門家の関与が有効です。相談先を選ぶうえでまず押さえておきたいのが、「仲介」と「FA(ファイナンシャル・アドバイザー)」という立場の違いです。
大まかには、相手を広く探して成約まで一括で進めたい場合は双方の間に立つ仲介、自社の売却などで自分の側に立った条件交渉を重視したい場合は一方だけを支援するFAが向きます。まずはこの違いを押さえると、次の比較表でどの相談先が自社の立場に合うかを見極めやすくなります。
M&A仲介とFA(アドバイザー)の違いと選び方
M&A仲介は売り手・買い手の双方と契約し、両者の間に立って成約を目指す立場です。一方、FAは売り手・買い手のどちらか一方と契約し、その依頼者に有利な条件での成約を目指します。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」は、両者の違いを次のように整理しています。
出典:中小M&Aガイドライン(第3版)|中小企業庁
- (仲介者)譲り渡し側・譲り受け側の双方と契約を締結する。双方から手数料の支払を受けることが通常である。
- (FA)譲り渡し側・譲り受け側の一方と契約を締結する。その一方から手数料の支払を受ける。……依頼者の意向を踏まえて、依頼者にとって有利な条件でのM&A の成立を目指し、助言や調整を行う。
仲介は双方の間に立つため、相手探しから成約までを一元的に進めやすい一方、同ガイドラインは仲介者に利益相反のリスクがあることも指摘しています。FAは依頼者の側に立って条件交渉まで支援する分、相手側は自分で探すか別の専門家に依頼することになります。どちらが適しているかは、自社が売り手か買い手か、どこまで条件交渉にこだわりたいかによって変わります。
ここからは、M&A仲介・FAサービスを紹介します。まずは、各社の立場(仲介型か片手のFA型か)や手数料体系を横断的に確認できるよう、以下の比較表をご覧ください。
| サービス名 | M&A Lead | 日本M&Aセンター | M&Aキャピタルパートナーズ | ストライク | fundbook(ファンドブック) | M&A総合研究所 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 形態(仲介・FA) | FA(売主専門・片手取引) | 仲介(両手取引) | 仲介(両手取引) | 仲介(両手取引) | 仲介(両手取引) | 仲介(両手取引) |
| 主な対象規模・領域 | 中小〜上場企業の子会社まで売却案件全般 (事業承継・事業の切り出し)/全国対応 | 中堅・中小企業 (事業承継・地方案件に強い) | 中小企業オーナーの事業承継・会社売却 (売上1億円未満〜50億円以上) | 中堅・中小企業の事業承継M&A (年商1億円以下〜100億円超) | 中堅・中小企業 (全国10万社規模の企業データベース) | 中堅・中小企業 (売上規模 約1億円〜約100億円) |
| 報酬体系(着手金・成功報酬) | 着手金・中間金なし 完全成功報酬(レーマン方式・譲渡対価の1〜5%)/売主のみ負担 | 着手金100万〜500万円あり 成功報酬はレーマン方式(売り手最低2,000万円) | 着手金・月額報酬無料 中間報酬+成功報酬(株価レーマン方式) | 着手金無料 基本合意報酬100万〜300万円+成功報酬(レーマン方式・最低2,000万円) | 着手金・中間金無料(原則) 完全成功報酬(レーマン方式) | 売り手は着手金・中間金・月額無料の完全成功報酬 成功報酬はレーマン方式(譲渡代金ベース) |
| 特徴・強み | 売主だけに立つFAとして 譲渡条件の最大化に専念 | 東証プライム上場 累計成約11,000件超 | 専任アドバイザーが一貫担当 累計成約1,000組以上(東証プライム) | 公認会計士創業・東証プライム上場 成約3,700件以上/プラットフォーム「SMART」運営 | 独自システム「fundbook cloud」を備えた ハイブリッド型のM&A仲介(東証プライムグループ) | AIマッチングでスピード成約 (平均7.2ヶ月・最短43日) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト |
M&A Lead(M&A Lead株式会社)

M&A Leadは、売り手(譲渡企業)の側だけに立って支援する「売主専門」のM&Aアドバイザリーです。売り手・買い手の双方から手数料を受け取る仲介会社とは異なり、買い手からは手数料を受け取らない片手取引(FA型)を採用しています。譲渡価格や雇用・契約条件など、売り手に有利な条件の追求に専念できる立場を明確にしている点が特徴です。
費用は、着手金・中間金がかからず成約時にのみ発生する完全成功報酬制で、手数料はレーマン方式(譲渡対価の1〜5%)にもとづきます。相談は無料で全国に対応しており、後継者不在の事業承継から上場企業の子会社の切り出しまで、幅広い規模・背景の売却案件を扱っています。会社や事業の売却を検討する売り手にとって、依頼者の側に立つFAを探す際の選択肢になります。
ここで取り上げた相談先のほかにも、M&Aや事業承継、財務戦略を支援する会社は数多くあります。専門領域ごとの違いや費用相場、選び方をふまえて相談先を広く比較したい場合は、以下の記事もあわせてご確認ください。
金融コンサル会社徹底比較|専門領域別おすすめ19選と選び方【費用相場も解説】
資金繰りや財務戦略、事業承継やM&Aといった経営の重要局面では、社内の知見だけで最適解にたどり着くのが難しい場面が少なくありません。「専門家に相談したいが、どの金融コンサルに頼めばよいのか分からない」と迷う方も多いでしょう。 金融コ…
まとめ
買収とは、他社の株式や事業を取得して経営権を得ることで、合併・提携などを含む「M&A」という総称のなかの代表的な手段です。合併と違って対象会社の法人格は残り、株式譲渡・事業譲渡をはじめとする複数の手法から、目的や規模に応じて選びます。
買収は、経営資源を短期間で獲得できる一方、高値づかみや簿外債務、統合(PMI)の失敗といったリスクもあります。相手探しから成立まで半年〜1年以上かかることも多く、費用は買収対価に加えて仲介・FAへの手数料(レーマン方式が一般的)がかかります。
まずは自社が買い手か売り手か、どの目的で買収を考えるのかを整理し、仲介とFAの違いを理解したうえで、信頼できる相談先に早めに相談することが、納得のいく買収への近道になります。
一括ダウンロードする
よくある質問(FAQ)
Q. 買収とは何ですか?
A. 買収とは、ある会社が他の会社の株式や事業を買い取り、その会社の経営権(支配権)を取得することです。合併・提携などを含む「M&A」という総称のなかの代表的な手段で、株式を買い集めて議決権の多数を握る「株式譲渡」が最も基本的な形です。「乗っ取り」のような強引な印象を持たれがちですが、実際には当事者双方の合意のもとで進むケースが大半を占めます。
Q. 買収とM&Aの違いは何ですか?
A. 買収とM&Aは対立する概念ではなく、M&Aが合併・買収・提携などをまとめて指す総称で、買収はそのなかの一手段という包含関係にあります。M&Aは「Mergers and Acquisitions(合併と買収)」の略で、資本提携・業務提携まで含む広い言葉です。「M&Aで会社を買う=買収する」と理解するとつかみやすくなります。
Q. 中小企業の買収では、どの手法が多く使われますか?
A. 中小企業のM&Aで最も多く使われるのは、対象会社の株式を買い取って会社をまるごと引き継ぐ「株式譲渡」です。会社法が株式譲渡の自由を原則として定めており(第127条)、資産・負債・契約・従業員の関係を原則そのまま維持できるため、手続きが比較的シンプルになりやすいことが理由です。
ただし貸借対照表に載っていない簿外債務まで引き継ぐ可能性があるため、事前の調査(デューデリジェンス)が重要になります。
Q. 中小企業でも会社を買収できますか?
A. 中小企業でも会社の買収は広く行われており、規模の大小を問わず現実的な選択肢になります。後継者不在の会社を引き継ぐ事業承継型や、同業種を取り込んでエリア・規模を広げる規模拡大型など、中小企業どうしのM&Aは近年増えています。ニュースで話題になる敵対的買収は上場企業をめぐる例が中心で、中小企業の買収はほとんどが当事者双方の合意にもとづく友好的買収です。
Q. 会社を売却する側(売り手)には、どんなメリットがありますか?
A. 売り手にとっての会社売却のメリットは、後継者がいなくても事業を第三者に引き継いで存続させられること、そして創業者が株式の譲渡対価(創業者利益)を得られることです。従業員の雇用や取引先との関係を維持したまま経営者が引退できるため、事業承継の手段としても買収が選ばれています。半面、希望どおりの条件で買い手が見つかるとは限らず、交渉や調査に一定の時間と労力がかかる点は考慮が必要です。
Q. 買収におけるデューデリジェンス(DD)とは何ですか?
A. デューデリジェンス(DD)とは、基本合意のあとに、買い手が対象会社の財務・税務・法務・事業などを詳しく調べる買収前の調査のことです。簿外債務や偶発債務、契約上のリスクなどを事前に洗い出し、高値づかみや思わぬ債務の引き継ぎを避ける目的で行います。とくに会社をまるごと引き継ぐ株式譲渡では、DDの徹底が買収の成否を大きく左右します。
Q. 会社の買収には、どのくらいの期間がかかりますか?
A. 会社の買収は、相手探しから成立まで、おおむね半年から1年以上かかることが少なくありません。とくに相手候補の探索・選定と、基本合意後のデューデリジェンス・最終交渉に時間がかかりやすく、条件が早くまとまれば短く、相手がなかなか見つからなければ長引きます。思い立ってすぐ完了するものではないため、一定の準備期間を見込んでスケジュールを組むのが現実的です。
Q. 会社の買収にかかる費用(手数料)の目安はどのくらいですか?
A. 買収の費用は、会社・事業を買う対価とは別に、仲介会社やアドバイザーへの手数料がかかり、成功報酬は「レーマン方式」で計算されるのが一般的です。中小企業庁の中小M&Aガイドラインが示す一例では、取引金額のうち5億円以下の部分に5%、5億円超10億円以下の部分に4%というように、金額が大きい部分ほど低い料率を掛けて合算します。
これに加えて着手金・中間金や最低報酬額が設定される場合があり、費用の総額はこれらを含めて比較することが大切です。
Q. 会社の買収は、M&A仲介とFAのどちらに相談すればよいですか?
A. M&A仲介は売り手・買い手の双方の間に立って成約を目指す立場、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)は一方だけと契約して依頼者に有利な条件を目指す立場です。相手探しから成約までを一元的に進めやすいのが仲介、条件交渉を自社側に立って支援してもらえるのがFAで、どちらが適するかは自社が売り手か買い手か、条件交渉をどこまで重視するかによって変わります。
中小企業庁の中小M&Aガイドラインは、仲介者には利益相反のリスクがある点も指摘しています。
Q. 会社が買収されると、従業員はどうなりますか?
A. 株式譲渡による買収では、会社をまるごと引き継ぐため、従業員の雇用契約は原則としてそのまま維持されます。買い手にとっても人材やノウハウは買収の目的の一つであり、雇用の継続が前提になることが少なくありません。ただし事業譲渡では従業員の引き継ぎに個別の同意が必要になるなど、手法によって扱いが変わるため、条件交渉のなかで確認しておくことが大切です。
Q. 赤字や債務超過の会社でも売却(買収)できますか?
A. 赤字や債務超過であっても、売却できる可能性はあります。買い手は現在の利益だけでなく、技術・顧客基盤・人材・許認可・立地といった資産に価値を見いだして買収することがあるためです。実際の売却可否や価格は、こうした強みをどれだけ評価してもらえるかによって変わるため、早い段階でM&Aの専門家に相談し、自社の強みを整理しておくことが有効です。
M&Aアドバイザリー・FAの料金・資料を一括チェック
MCB FinTechカタログでは、M&A・事業承継の相談先となるアドバイザリー・FAサービスの最新資料を無料で一括請求できます。支援範囲や手数料体系を比べて、自社に合う相談先を検討できます。
一括ダウンロードする
MCB FinTechカタログに掲載しませんか?
MCB FinTechカタログでは、掲載企業様を募集しています。マネックスグループの金融実務ノウハウを活かした独自の評価軸と検索設計により、導入検討者が最適なサービスを効率的に発見できる法人向け比較プラットフォームです。掲載後は管理画面から料金表や導入事例を随時更新でき、常に最新の情報を訴求可能。まずは下記フォームより、お気軽にお問い合わせください。

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。

















