注文書や契約書をいまもFAXでやり取りしている会社は少なくありません。そうした現場で「電子契約にすれば収入印紙がいらない」「FAXで受け取った書類も電子帳簿保存法の対象になる」といった話を耳にして、自社が毎日流しているFAXは結局どちら扱いになるのか、戸惑うことがあります。
先に結論をお伝えすると、FAXでのやり取りは原則として「電子契約」そのものではなく、紙での契約のやり方の延長にあたります。ただし、印紙税や電子帳簿保存法の扱いは、同じFAXでも、紙に出力する複合機のFAXなのか、データのまま送受信するインターネットFAXなのかで変わります。この線引きがあいまいなまま判断すると、貼らなくてよい収入印紙を貼ってしまったり、逆に保存義務を見落としたりします。
この記事では、FAXでの契約と電子契約の違いを整理したうえで、FAX方式ごとの印紙税と電子帳簿保存法の扱いを早見表で示し、印紙が不要になる根拠を国税庁の見解や条文の原文までたどって解説します。あわせて、FAXをやめて電子契約に切り替えると何が変わるか、切り替えの手順と自社に合うサービスの選び方まで、判断材料を一通りまとめます。
目次
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FAXでやり取りする契約書・注文書は「電子契約」なのか
まず押さえたいのは、FAXでのやり取りが「電子契約」に当たるのかという点です。ここがはっきりすると、印紙税や電子帳簿保存法の扱いも順に理解できます。結論から言えば、FAXでの契約のやり取りは、電子署名で合意を証明する「電子契約」とは異なり、紙での契約のやり方をFAXという通信手段で行っているものと整理できます。
契約は合意だけで成立する(書面やFAXは成立の条件ではない)
そもそも契約は、当事者の合意があれば成立します。民法第522条は、申込みに対して相手方が承諾したときに契約が成立すると定め、第2項で「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」としています。
注文書と注文請書をFAXでやり取りして合意に至れば、契約そのものは成立します。FAXで送ったか紙の原本を郵送したかは、契約が成立するかどうかとは別の問題です。FAXは「契約の成立を支える手段の一つ」であって、契約の効力を特別に強めたり弱めたりするものではありません。
出典・参考資料(1件)
FAXは「紙の契約書をデータで送る」手段で、電子署名はない
FAXは、紙の書面を読み取って相手方の機器へ送り、受け取った側が内容を確認する通信手段です。複合機で紙に出力して確認・保管する従来型のFAXも、受信データをPDFなどで保存するインターネットFAXも、「作成した書面(またはそのデータ)を相手に届ける」という性質は変わりません。
ここに、後述する電子契約との決定的な違いがあります。FAXで送られてくるのは書面やその画像データであって、「誰が合意したのか」を技術的に証明する電子署名やタイムスタンプは付いていません。送信元の番号は分かっても、契約内容に本人が同意したことを後から証明する仕組みは、FAXそのものには備わっていないということです。
電子契約との違いは「電子署名・タイムスタンプの有無」
電子契約は、契約内容を記録した電子データに電子署名とタイムスタンプを付けて締結します。電子署名には、法律上の後ろ盾があります。電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)第3条は、本人による電子署名が行われている電子データについて、次のように定めています。
第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
出典:電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号)第3条|e-Gov法令検索
「真正に成立したものと推定する」とは、その電子データが本人の意思で作られたものと法律上はひとまず扱う、という意味です。本人だけが行える電子署名が付いていれば、後で「自分は合意していない」と争われても、本人が作成したものと推定されます。FAXにはこの電子署名がないため、電子契約と同じ推定効は働きません。この点が、FAXでのやり取りと電子契約の実務上の違いです。
【早見表】FAX方式×送受信別に見る印紙税・電子帳簿保存法の扱い
FAXといっても、紙に出力する複合機のFAXと、データのまま送受信するインターネットFAX(ペーパーレスFAX)では、印紙税と電子帳簿保存法の扱いが変わります。
自社のFAXは、受信した書類を紙に出力して保管していれば複合機のFAX、PDFなどデータのまま送受信・保存していればインターネットFAXと見分けられます。複合機でも受信データをPDFなどで保存している場合は、インターネットFAX側(電子取引)として扱います。自社がどの行に当たるかを確認してから、次章以降の説明に進んでください。

| FAXの方式 | 立場 | 収入印紙(印紙税) | 電子帳簿保存法の区分 |
|---|---|---|---|
| 紙に出力する複合機のFAX | 送信側(紙を読み取って送る) | 原則不要(相手に紙の現物を交付しないため) | 電子取引に該当しない(書面取引として扱う) |
| 紙に出力する複合機のFAX | 受信側(紙で出力して保管) | 受領側に印紙を貼る義務はない(印紙は作成・交付する側の負担) | 電子取引に該当しない(出力した紙を書面として保存) |
| インターネットFAX・ペーパーレスFAX | 送信側(データのまま送る) | 不要(相手に紙の現物を交付しないため) | 電子取引に該当(データのまま保存し、保存要件を満たす) |
| インターネットFAX・ペーパーレスFAX | 受信側(データで受信・保存) | 受領側に印紙を貼る義務はない | 電子取引に該当(データのまま保存し、保存要件を満たす) |
送信方式にかかわらず、FAX送信とは別に紙の原本を相手に交付した場合は、その紙に印紙税がかかります。
自社のケースに当てはめると、複合機のFAXで受信して紙で保管しているなら、電子取引には当たらず、出力した紙を書類として保存すれば足ります。インターネットFAXでデータのまま送受信・保存しているなら、電子取引として真実性・可視性の要件を満たした保存が必要です。
切り替え後の料金や署名方式はサービスごとに異なるため、候補となる電子契約サービスの資料を早めに見比べておくと判断がスムーズです。
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FAX送信した契約書・注文請書に収入印紙は必要か
ここからは、FAXで送った契約書や注文請書(注文を受けた側が「請け負いました」と返す承諾の書面)に収入印紙が必要かを、国税庁の見解と条文までたどって確認します。結論は「現物の紙を交付しない限り、FAX送信に収入印紙は不要」です。ただし送信の後に紙の原本を別途渡した場合は課税されるため、送信のしかたで分けて理解する必要があります。
FAX送信は「文書の交付」に当たらない(国税庁の見解)
印紙税がかかるのは、法律で定められた文書を作成したときに限られます。印紙税法第2条は「別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する」と定め、課税の対象を紙の文書に限定しています。国税庁は、電子データ(電磁的記録)はこの「文書」に当たらないとしており、建設工事の注文請書を電子データにして送った場合の印紙税について、次のように回答しています。
印紙税の課税対象となるのは、課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書に含まれません。
出典:質疑応答事例「取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い」|国税庁
したがって、おたずねの電磁的記録に印紙税は課税されません。
電子データが「文書」に含まれない以上、紙に出力せずデータのまま送受信するインターネットFAXは、課税対象の文書を作っていないことになります。紙を読み取って送る複合機のFAXでも、相手に紙の現物を交付しなければ印紙税はかかりません。その理由は、印紙税の「作成」の意味に関わります。
国税庁の印紙税法基本通達第44条は、課税文書の「作成」の意味を次のように定めています。
第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
出典:印紙税法基本通達 第44条(作成等の意義)|国税庁
課税文書の「作成の時」とは、次の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによる。
(1) 相手方に交付する目的で作成される課税文書 当該交付の時
「用紙等に課税事項を記載し」とあるとおり、印紙税がかかる「作成」は、紙などの用紙に契約内容を書き込むことが前提です。そして相手に交付する文書は「交付の時」が作成の時にあたります。紙の現物を相手に渡していなければ、課税される文書を作成したことにならない、という考え方です。
この考え方は、FAX送信について国税庁(福岡国税局)の文書回答事例でも示されています。建設工事の注文請書を電子データに変換して電子メールで送るケースについての回答で、FAXを同列に挙げて次のように述べています。
注文請書の調製行為を行ったとしても、注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、印紙税の課税原因は発生しないものと考える。
出典:文書回答事例「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について」(平成20年10月24日・福岡国税局)|国税庁
「ファクシミリ通信により送信したものと同様に」とはっきり書かれているとおり、FAXで送信して紙の現物を交付しない限り、収入印紙は不要です。注文請書のような請負契約の書面でも、紙の原本を手渡し・郵送していなければ課税原因は発生しません。
これらの国税庁の見解は、令和7年8月時点の法令・通達にもとづくものとして現在も公表されており、電子データやFAXでの送信に印紙税がかからないという扱いは維持されています。
印紙が必要なケース・不要なケース(送信形態別)
FAX送信で印紙が不要になるのは、あくまで紙の現物を交付しない場合です。同じ福岡国税局の文書回答事例は、次のただし書きも示しています。
ただし、電子メールで送信した後に本注文請書の現物を別途持参するなどの方法により相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課されるものと考える。
出典:文書回答事例「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について」(平成20年10月24日・福岡国税局)|国税庁
整理すると、印紙の要否は次のように分かれます。
- 不要:FAXやデータで送信するだけで、紙の原本を相手に交付しない場合
- 必要:送信とは別に、紙の原本を持参・郵送などで相手に交付した場合(交付した紙の現物に課税)
建設工事の請負契約では注意が必要です。建設業法第19条は、請負契約の当事者が契約内容を書面に記載し、署名または記名押印して相互に交付することを原則として求めています。この原則に従って紙の契約書を取り交わせば、その紙に印紙税がかかります。ただし同条第3項は、相手方の承諾を得たうえで電子的な方法(電子契約)に代えることを認めており、電子契約で締結すれば書面の交付自体が不要になります。
収入印紙が必要な場合の印紙税額一覧
紙の原本を交付して課税される場合に備えて、工事請負契約書や工事注文請書などが当たる「第2号文書(請負に関する契約書)」の印紙税額を確認しておきます。税額は契約金額によって次のように決まります。
| 契約金額 | 印紙税額(本則) |
|---|---|
| 1万円未満 | 非課税 |
| 1万円以上 100万円以下 | 200円 |
| 100万円を超え 200万円以下 | 400円 |
| 200万円を超え 300万円以下 | 1,000円 |
| 300万円を超え 500万円以下 | 2,000円 |
| 500万円を超え 1,000万円以下 | 1万円 |
| 1,000万円を超え 5,000万円以下 | 2万円 |
| 5,000万円を超え 1億円以下 | 6万円 |
| 1億円を超え 5億円以下 | 10万円 |
| 5億円を超え 10億円以下 | 20万円 |
| 10億円を超え 50億円以下 | 40万円 |
| 50億円を超えるもの | 60万円 |
| 契約金額の記載のないもの | 200円 |
国税庁 No.7140「印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」の税額区分をもとに作成(2026年10月時点。出典は下記)
上の金額は本則の税率です。建設工事の請負に関する契約書(第2号文書)のうち一定のものは、租税特別措置法による軽減措置の対象となり、税額が下がる場合があります。実際に適用される額は、国税庁の案内(コード7108)で契約金額の区分を確認してください。
ここで示したのは請負契約(第2号文書)の税額です。業務委託の継続的な基本契約書(第7号文書)や売買契約など、契約書の種類によって課税対象かどうかや税額は異なります。自社の契約がどの文書に当たるかは、国税庁の印紙税額一覧表で確認してください。
工事請負契約書や変更契約書、注文請書にかかる印紙税額や軽減措置の金額を、契約金額ごとの一覧でさらに詳しく確認したい場合は、以下の記事で建設業界の実務に即して整理しています。
貼り忘れ・過怠税への対処
紙の課税文書に収入印紙を貼り忘れると、過怠税がかかります。印紙税法第20条は、本来納めるべき印紙税を文書の作成時までに納めなかった場合、次のように定めています。
当該課税文書の作成者から、当該納付しなかつた印紙税の額とその二倍に相当する金額との合計額に相当する過怠税を徴収する。
出典:印紙税法(昭和42年法律第23号)第20条|e-Gov法令検索
この場合、貼り忘れた印紙税額に加えてその2倍が徴収され、合計で本来の税額の3倍になります。ただし、税務調査で指摘される前に自主的に不納付を申し出た場合は、本来の税額とその10%の合計(1.1倍)に軽減されます。また、印紙を貼っても消印をしていなかった場合は、その印紙の額面金額に相当する額(1倍)が徴収されます。いずれも過怠税の合計が1,000円に満たないときは1,000円となります。
FAX送信やデータ送信で紙の現物を交付しなければ、そもそも課税文書を作成していないため、この過怠税を気にする必要はありません。紙の原本を交付する運用が残っている場合に、貼り忘れのリスクが生じます。
FAXの書類は電子帳簿保存法でどう保存するか
印紙税と並んで迷いやすいのが、電子帳簿保存法での保存です。FAXでやり取りした注文書や請求書を、紙のまま保管してよいのか、データで残さなければいけないのか。ここでも、紙に出力する複合機のFAXか、データのまま扱うインターネットFAXかで区分が分かれます。
紙に出力する複合機のFAXは「電子取引」に該当しない
受信した内容を紙に出力して確認・保管する一般的なFAXは、書面でのやり取りとして扱われます。国税庁の電子帳簿保存法取扱通達7-10(ファクシミリの取扱いについて)は、FAXの扱いを次のように定めています。
ファクシミリを使用して取引に関する情報をやり取りする場合については、一般的に、送信側においては書面を読み取ることにより送信し、受信側においては受信した電磁的記録について書面で出力することにより、確認、保存することを前提としているものであることから、この場合においては、書面による取引があったものとして取り扱うが、複合機等のファクシミリ機能を用いて、電磁的記録により送受信し、当該電磁的記録を保存する場合については、法第2条第5号に規定する電子取引に該当することから、規則第4条に規定する要件に従って当該電磁的記録の保存が必要となることに留意する。
出典:電子帳簿保存法取扱通達 7-10(ファクシミリの取扱いについて)|国税庁
紙に出力して確認・保存する前提のFAXは「書面による取引があったもの」として扱われ、電子取引には該当しません。この場合は、出力した紙を書類として保存すれば足ります。
インターネット・ペーパーレスFAXのデータは「電子取引」で保存義務
一方、複合機のFAX機能で電磁的記録として送受信し、そのデータを保存する場合は、上の通達が示すとおり電子取引に該当します。国税庁の電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)も、電子取引に該当する授受方法の例として「ペーパーレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用」する場合を挙げています。いずれも電子取引に当たるため、取引情報のデータを保存する必要があります(令和8年7月版 問5)。
電子取引に該当するデータは、紙に印刷して保存するのではなく、データのまま一定の要件を満たして保存しなければなりません。その要件は「真実性」と「可視性」の2つに分かれます。
真実性の要件(4つのうちいずれか1つ以上)
真実性の要件は、データが後から改ざんされていないことを担保するためのもので、次の4つのうちいずれか1つを満たせば足ります。
- タイムスタンプが付された後に取引情報の授受を行う
- 取引情報の授受後、速やかに(または通常の業務処理期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付す
- 訂正・削除を行った記録が残る、または訂正・削除ができないシステムを使って授受・保存する
- 訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、備え付けて運用する
可視性の要件(3つすべて)
可視性の要件は、保存したデータを後から確認・検索できる状態にしておくためのもので、次の3つをすべて満たす必要があります。
- システムの概要を記載した書類の備付け(自社開発のプログラムを使用する場合に限る)
- ディスプレイやプリンターなど見読可能装置の備付け等
- 日付・取引先・金額などで探せる検索機能の確保
中小企業では、タイムスタンプの付与や専用システムの導入が負担になる場合に、訂正・削除の防止に関する事務処理規程を整えて運用する方法がよく選ばれます(国税庁がサンプルを公開しています)。使っている電子契約サービスやクラウドFAXが要件に対応していれば、保存のしかたをサービス側に任せることもできます。
出典・参考資料(1件)
受信側・送信側それぞれの対応
受信側は、インターネットFAXやペーパーレスFAXでデータを受け取ったら、そのデータを真実性・可視性の要件を満たして保存する必要があります。紙に出力する複合機のFAXで受け取った場合は、出力した紙を書類として保存すれば足ります。
送信側も考え方は同じです。ペーパーレスFAXやインターネットFAXでデータのまま送る場合は、送信したデータが電子取引の取引情報に当たるため、要件を満たして保存する必要があります。紙をスキャンして送る運用では、送った控えの扱いを社内で決めておきます。
保存期間は、法人の場合、注文書や契約書などの書類は原則7年です。青色申告で欠損金が生じた事業年度については10年(平成30年4月1日前に開始した事業年度は9年)となります。
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FAXをやめて電子契約に切り替えるとどう変わるか
ここまで見てきたとおり、FAXでのやり取りは印紙税・電子帳簿保存法の両面で、方式ごとに扱いを確認し続ける必要があります。FAXをやめて電子契約に切り替えると、この手間がどう変わるのかを整理します。
収入印紙がゼロになり、郵送・保管の手間も減る
電子契約は、電子データに電子署名を付けて締結するため、紙の現物を作成・交付しません。前章までで確認したとおり、課税される文書を作成しないので収入印紙は不要です。紙の原本を交付する運用をやめれば、印紙税の負担も貼り忘れの過怠税リスクもなくなります。
加えて、印刷・製本・押印・郵送といった作業や、紙の契約書をファイリングして保管するスペースも不要になります。締結状況をシステム上で確認でき、契約書を探す時間も短縮できます。電子帳簿保存法への対応も、要件を満たした電子契約サービスを使えば、保存のしかたをサービス側に任せられます。
契約件数が少ないと割高になるケースもある(自社で試算する)
一方で、電子契約サービスには月額料金や送信ごとの費用がかかります。契約の件数が少ない会社では、削減できる印紙税や郵送費よりも、サービスの月額料金のほうが上回ることもあります。
判断の目安は、年間に交わす契約の件数と、そのうち課税文書がどれだけあるかです。工事請負契約のように1通あたりの印紙税額が大きい契約が多い会社ほど、切り替えの効果は大きくなります。課税文書の少ない受発注が中心なら印紙税の削減効果は小さく、郵送・保管の手間やスピードを重視して判断することになります。送信料や無料枠はサービスごとに異なるため、自社の件数で試算してみてください。
契約件数が少なく月額料金が負担になりやすい場合は、無料で使える電子契約システムから始める選択肢もあります。無料で送れる件数の数え方や、上限を超えたときの費用まで比べて検討したい方は、以下の記事が参考になります。
移行の手順・始め方
FAXから電子契約への移行は、次の流れで進めると無理がありません。
- いまFAXでやり取りしている書類(注文書・注文請書・契約書など)と、その相手先を洗い出す
- 電子契約で締結するものと、相手先の都合で当面は紙やFAXが残るものを切り分ける
- 署名方式(立会人型・当事者型)や電子帳簿保存法への対応、料金を比べてサービスを選ぶ
- 取引先に電子契約への切り替えを案内し、承諾を得る(建設工事の請負契約では相手方の承諾が必要)
- 少数の契約や社内文書から試し、運用を固めてから対象を広げる
相手先がFAXを続けたい場合もあるため、すべてを一度に切り替える必要はありません。自社の受発注で件数の多い相手先から電子契約に移すだけでも、印紙税や事務の負担は着実に減ります。
FAXの契約を置き換える電子契約システム
ここからは、FAXでのやり取りを置き換えられる電子契約システムを紹介します。取引先にアカウント登録や費用の負担を求めにくい立会人型に対応し、電子帳簿保存法の保存要件にも対応したサービスを中心に、まず主な違いを比較表で示します。
| サービス名 | クラウドサイン | 電子印鑑GMOサイン | BtoBプラットフォーム契約書 | 契約大臣 |
|---|---|---|---|---|
| 署名方式 | 立会人型(標準) 当事者型(マイナンバー署名) | 立会人型・当事者型 (ハイブリッド可) | 立会人型 (事業者署名型) | 立会人型(電子サイン・標準) 事業者署名型(電子署名・有料オプション) |
| 電子帳簿保存法対応 | ●認定タイムスタンプ標準付与 | ●認定タイムスタンプ付与(JIIMA認証は契約印&実印プランで取得) | ●電子署名+タイムスタンプ付与 | ●認定タイムスタンプ付与(電帳法対応の書類保管は有料オプション) |
| 無料プラン | フリープラン (1名・月2件まで) | お試しフリープラン (1名・月5件まで・契約印タイプのみ) | フリープラン (契約締結5件/月・保管3件/月・ユーザー無制限) | フリープラン (累計2件・1名) |
| 初期費用 | 要お問い合わせ (料金ページに記載なし) | 要お問い合わせ (基本料金は記載なし) | 0円 (導入フォロー希望時は別途見積もり) | 0円 |
| 月額費用 | 11,000円〜 (税抜・Lightプラン、2026年10月時点) | 8,800円〜 (税抜・ライトプラン年間契約、2026年10月時点) | 10,000円〜 (税抜・シルバープラン、2026年10月時点) | 4,400円〜 (税込・スタータープラン月払い、2026年10月時点) |
| 送信料 | 220円/件 (税抜・242円税込) | 立会人型100円/件(税込110円) 当事者型300円/件(税込330円) | 通常署名100円/通・長期署名200円/通 (税抜。ゴールドは通常署名 月100通まで無料) | 基本は送信件数でプラン区分(従量課金なし) 電子署名オプション220円/送信(税込) |
| 導入実績 | 導入250万社以上 累計送信4,000万件超 | 導入350万社以上 累計送信5,000万件超 | シリーズ全体で115万社以上 (契約書単独の社数は非公開) | 公式に社数記載なし (小売・建設・医療など複数業種の事例を掲載) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る |
1. クラウドサイン(弁護士ドットコム株式会社)

クラウドサインは、弁護士ドットコム株式会社が運営する電子契約サービスです。書類のアップロードから電子署名・タイムスタンプの付与、締結後の保管・検索までをオンラインで完結でき、印刷・押印・郵送をなくせます。認証局での本人確認が不要で導入しやすい事業者署名型(立会人型)が標準のため、FAXの取引先にも登録や費用の負担を求めずに締結を依頼しやすい点が強みです。
締結したデータには認定タイムスタンプが付与され、電子帳簿保存法の要件を満たして保管できます。マイナンバーカードの電子証明書で契約当事者自身が署名する当事者署名型にも対応します。公式サイトによると導入社数は250万社以上、累計送信件数は4,000万件を超えています。
2. 電子印鑑GMOサイン(GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社)

GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社が提供する電子印鑑GMOサインは、立会人型(契約印タイプ)と当事者型(実印タイプ)の両方に対応する電子契約サービスです。両者を組み合わせたハイブリッド署名も利用できます。相手方の重要度に応じて署名方式を使い分けられるため、FAXでやり取りしていた日常の受発注から、より厳格な本人確認が求められる契約まで、一つのサービスでカバーできます。
電子署名とタイムスタンプを付与し、電子帳簿保存法に対応した保管ができます。対面でタブレットに手書きサインをもらうオプションなど、紙や対面の運用が残る現場に合わせた機能も用意されています。公式サイトによると導入事業者数は350万社以上、累計送信件数は5,000万件を超えています。
3. BtoBプラットフォーム契約書(株式会社インフォマート)

BtoBプラットフォーム契約書は、株式会社インフォマートが運営する企業間取引基盤「BtoBプラットフォーム」シリーズの電子契約サービスです。契約の締結から契約書の保管・管理までをWeb上で完結でき、電子署名とタイムスタンプを付与します。請求書や受発注などのサービスと同じ基盤に乗っているため、FAXでの受発注が多い企業が、受発注と契約を同じ仕組みに寄せていきたい場合に候補になります。
電子帳簿保存法に対応し、契約書をクラウド上に保管できます。雇用契約書のデジタル化や、取締役会議事録など社内文書の電子署名にも対応します。公式のサービス紹介ページでは、月100通の契約を処理する企業で印刷・製本・印紙税・郵送費などの削減により約35万円のコスト削減が可能と試算されています。
4. 契約大臣(株式会社TeraDox)

中小企業・個人事業主・スタートアップ向けに低価格帯のプランをそろえるのが、株式会社TeraDoxの契約大臣です。PDFの契約書や同サービスのテンプレートで作成した契約書を取引先へメールで送り、相手がURLから内容を確認して合意することで締結する立会人型を基本としています。まずは少ない契約件数から電子契約を試したい場合に向きます。
月額0円から始められる無料プランがあり、電子署名法・電子帳簿保存法への対応をうたっています。契約件数が少なく、サービスの月額料金が負担になりやすい会社が、FAXでのやり取りから電子契約へ無理なく移行するスモールスタートの選択肢になります。
ここで紹介したのは、FAXの置き換えに向く電子契約サービスです。料金やタイプ別の選び方も含めて、電子契約システム全体から自社に合う一社をじっくり比べて選びたい方は、以下の比較記事をご覧ください。
まとめ
FAXでのやり取りは、電子署名で合意を証明する電子契約とは異なり、紙での契約のやり方をFAXという手段で行うものです。そのうえで、印紙税と電子帳簿保存法の扱いは、紙に出力する複合機のFAXか、データのまま扱うインターネットFAXかで分かれます。
収入印紙は、FAXやデータで送信して紙の現物を交付しなければ不要で、送信後に紙の原本を別途交付した場合にだけ課税されます。電子帳簿保存法では、データのまま送受信・保存する場合が電子取引に当たり、真実性・可視性の要件を満たして保存します。FAXをやめて電子契約に切り替えれば印紙税がゼロになり、郵送・保管の手間も軽くなります。契約件数と課税文書の量を試算し、署名方式や料金を比べて選んでください。
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よくある質問(FAQ)
Q. インターネットFAX(ペーパーレスFAX)とは何ですか?
A. インターネットFAX(ペーパーレスFAX)とは、紙に出力せず、PDFなどの電子データのままFAXを送受信・保存する仕組みです。紙を読み取って送り、受信側が紙に出力して確認する従来の複合機FAXと違い、送受信から保存までをデータで完結します。この「紙を介すか、データのまま扱うか」の違いが、収入印紙や電子帳簿保存法の扱いを分ける分岐点になります。
Q. FAXで受け取った契約書・注文書に、受け取った側が収入印紙を貼る必要はありますか?
A. FAXで書類を受け取った側に、収入印紙を貼る義務はありません。収入印紙(印紙税)は、課税対象の文書を作成して相手に交付する側にかかる税金で、書類を受領しただけの側は納税義務者になりません。送信側が紙の現物を交付せずFAXやデータで送った場合は、そもそも課税文書を作成したことにならないため、送信側にも印紙は不要です。
Q. 注文書と注文請書では、どちらに収入印紙を貼るのですか?
A. 紙で作成・交付する場合、収入印紙を貼るのは原則として注文請書の側です。印紙税は課税文書を作成・交付する側の負担で、請負契約の成立を証する第2号文書に当たる注文請書が課税対象になるためです。注文書は原則として課税文書に当たりませんが、承諾の事実を証明する内容で契約書と同じ性質を持つ場合は課税されることがあります。FAXやデータで送信して紙の現物を交付しなければ、注文請書でも印紙は不要です。
Q. 建設工事の注文請書や契約書も、FAXで送れば収入印紙は不要になりますか?
A. 建設工事の注文請書・契約書でも、FAXやデータで送信して紙の現物を交付しなければ、収入印紙は不要です。国税庁(福岡国税局)の文書回答事例も、FAX送信は現物の交付がなく課税原因が発生しないと示しています。ただし建設業法第19条は請負契約で書面の相互交付を原則とするため、紙で取り交わせば印紙税がかかります。相手方の承諾を得て電子契約に代えれば、書面交付自体が不要です。
出典・参考資料(2件)
Q. 紙で受け取ったFAXをスキャンして電子データで保存する場合、何に気をつければよいですか?
A. 紙で受け取ったFAXを自社でスキャンして電子保存する場合は、電子帳簿保存法の「スキャナ保存」の要件を満たす必要があります。解像度・タイムスタンプ・検索機能などの要件は細かく定められており、満たして正しく運用していれば紙の原本を破棄できますが、要件を満たせているか確認してから処分してください。インターネットFAXなどデータで受け取ったものは、最初から電子取引として保存する必要があります。
Q. FAXで取り交わした契約書は、裁判などで証拠として有効ですか?
A. FAXで取り交わした契約書も、契約の成立を示す証拠として使えます。契約は当事者の合意で成立し、書面やFAXは成立の条件ではないためです。ただしFAXには本人による電子署名がないため、電子契約のように本人の意思で作成されたと推定される効力(電子署名法第3条)は働きません。後から合意を争われた場合に本人性を別途証明する手間が生じやすい点に注意が必要です。
Q. 取引先がFAXのままでも、自社だけ電子契約に切り替えられますか?
A. 取引先がFAXを続けていても、応じてくれる相手から順に電子契約へ切り替えられます。すべての取引先を一度に移行する必要はなく、受発注の件数が多い相手や、1通あたりの印紙税額が大きい契約から電子契約に移すだけでも、印紙税や郵送・保管の負担は着実に減ります。電子契約での締結には相手方の承諾が必要なため、切り替えの可否は取引先ごとに確認しながら進めます。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。
















