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会社のID・パスワード管理|安全に一元管理する方法と法人向けツール

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社員が業務で使うクラウドサービスや社内システムが増えるほど、管理するID・パスワードの数はふくらみ続けます。表計算ファイルの一覧表や紙のメモ、ブラウザの保存機能で管理している企業は少なくありませんが、この状態は使い回しや漏えい、退職者のアカウント放置といったリスクと隣り合わせです。

では、会社として多数のID・パスワードをどう管理すればよいのでしょうか。個人で使うアプリとは違い、複数の社員が使うパスワードを安全に共有し、退職者のアカウントまで管理する視点が必要になります。

本記事では、会社でID・パスワードを安全に一元管理する方法を整理します。個人向けと法人向けの違い、実際に使える法人向けパスワード管理ツール6製品の料金・機能、導入後の運用で気をつけたい点までをまとめました。自社の管理方法を見直す判断材料としてご活用ください。

会社のID・パスワードは何で管理すべきか

結論から言えば、会社で多数のID・パスワードを扱うなら、表計算ファイルや紙、ブラウザの保存機能をやめ、法人向けのパスワード管理ツール(パスワードマネージャー)で一元管理するのが現実的な解決策です。暗号化された保管庫にログイン情報をまとめ、強力なパスワードの自動生成・自動入力・端末間の同期を任せられるため、覚えきれない・使い回してしまうといった問題を根本から減らせます。

総務省も、サービスごとに異なる安全なパスワードを覚えておくのは難しいとして、専用ツールの利用を推奨しています。

各サービスごとに異なる充分に安全なパスワードを覚えておくのは大変なので、パスワードを覚える必要のない、パスワード管理ツールを使うことも推奨されます。

出典:安全なパスワードの設定・管理|総務省 国民のためのサイバーセキュリティサイト
出典・参考資料(1件)

Excel・紙・ブラウザの保存機能で管理する問題点

よく使われる3つの管理方法には、それぞれ業務で見過ごせない弱点があります。

表計算ファイル・紙のメモ・ブラウザの保存機能という3つのパスワード管理方法の弱点を示した図。表計算ファイルはファイルを開ければ誰でも全パスワードを閲覧でき、コピーが各端末に散らばって最新版が不明になり、閲覧・変更の記録も残らない。紙のメモは貼り紙や持ち歩きで第三者の目に触れるおそれがある。ブラウザの保存機能は一覧性が低く組織で把握できず、端末にログインできる人がそのまま使えてしまう。

表計算ファイルでの一覧管理は、ファイルを開ければ誰でも全パスワードを見られてしまう点が問題です。共有フォルダに置けば閲覧範囲を絞りにくく、コピーが各担当者の端末に散らばると、どれが最新かもわからなくなります。誰がいつ閲覧・変更したかの記録も残りません。

紙のメモは、ディスプレイ付近への貼り紙や手帳での持ち歩きで第三者の目に触れるリスクがあります。総務省も、パスワードを同僚など第三者に教えないこと、電子メールでやり取りしないこと、メモを他人の目に触れる場所に貼らないことを求めています。

ブラウザの保存機能は手軽ですが、一覧性が低く、どのサービスにどのID・パスワードを登録したかを組織として把握できません。端末やブラウザのアカウントにログインできる人がそのまま保存済みパスワードを使えてしまうため、共有端末や退職時の扱いが曖昧になりがちです。

こうした管理で特に怖いのが、同じパスワードの使い回しです。1つのサービスからID・パスワードが漏れると、同じ組み合わせを使う他のサービスにも不正ログインを試されます。総務省も、流出したアカウント情報を使って他のサービスへの不正ログインを試す手口が知られていると注意を促しています。

情報処理推進機構(IPA)も、不正ログインによる被害が増えているとして、パスワードを「できるだけ長く」「複雑で」「使い回さない」ものにすること、そして多要素認証を併用することを推奨しています。これらを人の記憶と手作業だけで徹底するのは難しいのが実情です。

出典・参考資料(2件)

個人向けと法人向けの違い(会社で外せない機能)

ここからは、会社でパスワード管理ツールを使うなら個人向けアプリでは埋まらない論点を整理します。個人向けは「自分のパスワードを安全にしまう」ことが目的ですが、会社では複数人で使う前提のため、共有・権限、退職者の処理、記録という3つの観点が欠かせません。

個人向けと法人向けのパスワード管理の違いを3つの観点で比較した図。共有・権限は、個人向けが自分のパスワードをしまうだけで共有や役割分けができないのに対し、法人向けは役割ごとに誰にどこまでかを制御でき、パスワードを見せずに自動入力だけ許可もできる。退職者処理は、個人向けに処理のしくみがないのに対し、法人向けは管理者がアカウントを無効化し業務用パスワードを後任へ引き継げる。監査ログは、個人向けにアクセス記録が残らないのに対し、法人向けはログイン・変更・共有などの操作をイベントログに記録する。

チームでの安全な共有と役割・権限管理

部署で使う共有アカウントのパスワードを、チャットや口頭で渡していないでしょうか。法人向けツールは、共有フォルダやコレクションといった単位でパスワードをチーム・グループに渡し、変更があれば自動で同期します。パスワードそのものを見せずに自動入力だけ許可する、閲覧のみ・編集可・管理可といった役割を分けるなど、「誰に・どこまで」を細かく制御できる点が個人向けとの大きな違いです。

法人向けツールでは、共有フォルダ単位・コレクション単位・レコード単位など、製品によって異なる形で最小権限の考え方に沿った共有・権限設定ができます。製品ごとの具体的な違いは、後述の比較表と各製品の紹介で確認できます。

退職者のアカウントの停止と引き継ぎ

退職者のアカウントやパスワードがそのまま残ることは、会社のセキュリティで見過ごせない穴です。総務省も、不正アクセスの原因として「退職したユーザのアカウントを利用」「長期間変更されていない共有アカウントの利用」を挙げています。

(不正アクセスの原因として)退職したユーザのアカウントを利用/長期間変更されていない共有アカウントの利用

出典:アカウント管理|総務省 国民のためのサイバーセキュリティサイト

法人向けツールは、退職時に管理者がアカウントを無効化し、本人が持っていた業務用パスワードを後任者へ引き継ぐしくみを備えています。

製品によっては、ロックしたアカウントのパスワードを後任者へまとめて移す機能や、管理者が退職者の保管庫からパスワードを取得して再割り当てする機能を備えています。SCIMなどのID連携を使えば、人事システムと連動して入社・退職時のアカウント付与と剥奪を自動化することも可能です。

出典・参考資料(1件)

監査ログ(誰がいつアクセスしたかの記録)

万一の情報漏えい時に、被害状況や影響範囲を調べるには、誰がいつどのパスワードにアクセスしたかの記録が欠かせません。総務省も、事後対応を効果的に行うために監査ログの取得と保管が重要だとしています。

外部からの不正アクセスやウイルス感染により、組織内部からの情報漏洩等の事故が発生してしまった場合、そのことにいち早く気づき、被害状況や影響範囲の調査などの事後対応を効果的に行うためには、監査ログ(通信記録)の取得と保管が重要になります。

出典:監査ログの管理|総務省 国民のためのサイバーセキュリティサイト

法人向けツールの多くは、ログイン・パスワード変更・共有・閲覧といった操作をイベントログとして記録します。製品によっては外部のSIEM(セキュリティ情報・イベント管理)へ連携し、他のログと合わせて監視できます。個人向けアプリにはない、組織としての説明責任を果たすための機能です。

出典・参考資料(1件)

安全なパスワード管理の基本(公的ガイドライン)

ツールを導入しても、運用の土台となる基本の考え方は変わりません。公的機関のガイドラインが示す要点を押さえておきましょう。

長く・推測されにくいものにする。総務省は、安全なパスワードを「他人に推測されにくく、ツールなどの機械的な処理で割り出しにくいもの」と説明しています。

米国国立標準技術研究所(NIST)の最新指針(SP 800-63B-4、2025年7月)は、パスワードを単独の認証手段として使う場合に15文字以上を求めています。一方で、大文字・小文字・記号を混ぜるといった構成ルールは課すべきではないとしています。ツールの自動生成を使えば、長く複雑な文字列を手で考える必要はありません。

使い回さない。前章のとおり、使い回しは1つの漏えいが他サービスの不正ログインに直結します。サービスごとに異なるパスワードを設定し、ツールの保管庫に預けるのが基本です。

意味のない定期変更はしない。かつて推奨された「数か月ごとの一律変更」は、現在はむしろ避けるべきとされています。総務省は、流出などの事実がなければ変更の必要はなく、定期変更はパターン化や使い回しを招くほうが問題だとしています。NISTも同様に、定期的な変更を利用者に求めるべきではなく、漏えいの証拠がある場合にのみ変更を強制すべきとしています。

実際にパスワードを破られアカウントが乗っ取られる等のサービス側から流出した事実がない場合は、パスワードを変更する必要はありません。むしろ定期的な変更をすることで、パスワードの作り方がパターン化し簡単なものになることや、使い回しをするようになることの方が問題となります。

出典:安全なパスワードの設定・管理|総務省 国民のためのサイバーセキュリティサイト

多要素認証を併用する。ID・パスワードが漏れても、それだけではログインできないようにする多要素認証は、不正ログイン対策として効果的です。総務省・IPAとも、設定できる場合は積極的に利用するよう推奨しています。多くのパスワード管理ツールは、保管庫自体のロックにも多要素認証や生体認証を使えます。

出典・参考資料(2件)

法人向けパスワード管理ツール6製品の比較

ここからは、会社で使える法人向けパスワード管理ツールを紹介します。取り上げるのは、国内外で導入実績があり法人での利用を想定した主要な6製品です。まずは料金・無料プラン・共有や退職者処理の機能・日本語サポートといった観点で全体を比較し、続いて各製品の特徴を見ていきます。

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サービス名BitwardenKeeperLastPassDashlaneZoho VaultJumpCloud
月額費用月額4米ドル〜
(Teams。上位Enterprise 6米ドル〜。年額契約・税別)
要お問い合わせ
(公式は金額非公開・ユーザー年契約)
月額4米ドル〜
(Teams。上位Business 7米ドル〜。年払い)
要お問い合わせ
(公式は金額非公開・年払い)
月額0.9米ドル〜
(スタンダード。年間払い・1ユーザー)
月額3米ドル〜
(パスワード管理の個別追加。SSOパッケージは11米ドル〜。国内は代理店見積もり)
無料プラン●最大2ユーザーの無料組織×14日間の無料トライアルのみ×14日間の無料トライアルのみ×14日間の無料トライアルのみ●永久無料プラン(チーム共有は有料)×30日間の無料トライアルのみ
共有・権限管理コレクション単位で共有
役割3種+Enterpriseでカスタム役割
レコード単位の権限
共有チームフォルダはBusiness〜
共有フォルダ(3段階権限)
グループ管理はBusiness〜
ロールベースアクセス制御
チーム・プロジェクト単位で共有
役割ベース権限(スタンダード〜)
フォルダー共有はプロ〜
共有フォルダ+4段階権限
ディレクトリのグループ単位で共有
退職者処理アカウント無効化(Revoke)
SCIM・Directory Connectorで自動化
アカウント転送(後任へ全レコード移管)ディレクトリ連携で自動化
共有フォルダ所有権は要再割り当て
Remove userで削除
退職前にFull accessで業務ログイン共有
スーパー管理者が退職者のパスワードを取得・再割り当てワンクリックオフボーディング
組織の資格情報は後任へ再割り当て
監査ログイベントログ(Teams〜)
60種以上・SIEM連携
内蔵アクティビティログ
高度なレポートはアドオン
アクティビティレポート(Business〜)
SIEM連携
Activity Log(15か月保持・CSV出力)操作記録は全プラン
アクセスログはスタンダード〜
Directory Insightsで監査
(別機能として提供)
SSO・SCIM連携SSOはEnterprise
SCIMはTeams〜
SSO・SCIMともEnterpriseSSOはBusiness〜(3アプリ)
Business Maxで無制限
SSO(SAML)・SCIMに対応SSO・SAML・AD連携はエンタープライズのみSSO・SCIM標準対応
(ID基盤が中核)
MFA・パスキー認証アプリ・FIDO2・パスキー対応2要素認証・生体・ハードウェアキーAuthenticator・生体
高度なMFAはBusiness Max
2要素認証の強制・パスキー対応Zoho OneAuth・パスキー・YubiKeyMFA標準・パスワードレス認証
日本語サポート△日本語UIあり・国内代理店は未確認●日本法人・国内代理店あり×公式に日本語サポートの記載なし●国内代理店(三井情報)が導入・運用支援●日本法人(ゾーホージャパン)が日本語で提供△本体は英語・国内代理店が日本語対応
詳細情報サービス詳細を見るサービス詳細を見るサービス詳細を見るサービス詳細を見るサービス詳細を見るサービス詳細を見る

※料金・機能は2026年9月時点の各社公式情報にもとづきます。最新の提供内容は各社公式サイトでご確認ください。

料金はいずれも各社公式の表示にもとづく2026年9月時点の情報です。米ドル表記の製品は、1ユーザーあたり月数百円程度(当時の為替の目安)から利用できます。KeeperとDashlaneは公式が金額を公開しておらず、利用規模に応じた個別見積もりのため、実際の費用は公式または国内代理店への問い合わせで確認してください。

出典・参考資料(6件)

1. Bitwarden(Bitwarden, Inc.)

Bitwardenのウェブサイト

Bitwardenは、ソースコードを公開しているオープンソースのパスワード管理ツールです。暗号化はエンドツーエンドのゼロ知識方式で、第三者のセキュリティ会社や独立した研究者による監査を受けていることを公式が明示しています。

法人向けには、最大2ユーザーまでの無料組織、ユーザー数無制限のTeams(1ユーザー月額4米ドル〜、年額契約・税別)、シングルサインオン(SSO)やセルフホストに対応するEnterprise(同6米ドル〜)があります。共有は「コレクション」単位で、Teams以上でイベントログ(監査ログ)やSCIMによる自動プロビジョニングを利用できます。

まず無料で小さく試し、必要に応じて拡張したい企業に向いています。料金は2026年9月時点の公式情報です。

2. Keeper(Keeper Security, Inc.)

Keeperのウェブサイト

Keeper Securityが提供するKeeperは、ゼロ知識・ゼロトラストの暗号アーキテクチャを採用した法人向けパスワード管理プラットフォームです。従業員ごとの暗号化された保管庫に加え、管理者がパスワードの利用状況の可視化・共有・権限管理を一元的に行えます。

退職者対応では、ロックしたアカウントの全レコードを後任者の保管庫へ移す「アカウント転送」に対応します。SOC 2 Type IIやISO/IEC 27001、FedRAMP Highなど多数の認証を取得しています。日本法人(Keeper Security APAC株式会社)と複数の国内代理店があるため、日本語での導入・運用支援を受けやすい点も特徴です。権限管理や監査を重視する組織に適しています。

3. LastPass(LastPass US LP)

LastPassのウェブサイト

LastPassは2008年から提供されているパスワード管理ツールで、ブラウザ拡張・デスクトップ・モバイルを横断して使えます。法人向けは、50ユーザーまでのTeams、ポリシー管理やディレクトリ連携・SIEM連携を備えたBusiness、SSOを無制限に使えるBusiness Maxの3プラン構成です。

共有フォルダでチームにパスワードを渡し、Business以上ではMicrosoft Entra IDやOktaなどとの連携で入社・退職時の処理を自動化できます。ただし2022年に暗号化された顧客保管庫のバックアップが流出する事故があったため、導入にあたっては後述の「過去のセキュリティインシデントをどう見るか」も踏まえて判断してください。

4. Dashlane(Dashlane Inc.)

Dashlaneのウェブサイト

パスワードの保管・共有に加えて、組織全体のパスワード強度を点数で可視化する「パスワードヘルススコア」やダークウェブ監視を組み合わせているのがDashlaneの法人向けプラットフォームです。公式は法人向けブランドを「Omnix」とし、暗号化保管庫を中心とするPassword Managementと、資格情報のリスク検知を担うCredential Protectionで構成すると説明しています。

SSO・SCIM連携に対応し、管理者の操作を15か月分記録するアクティビティログを備えます。国内では正規販売代理店の三井情報株式会社(MKI)が導入・運用支援を担っており、日本語での導入マニュアルなども用意されています。弱い・使い回されたパスワードを組織として洗い出したい企業に向いています。

5. Zoho Vault(ゾーホージャパン株式会社)

Zoho Vaultのウェブサイト

Zoho Vaultは、業務アプリ群で知られるZohoが提供する法人向けパスワード管理ツールです。永久無料プランでは個人の保管・自動入力が無制限に使え、チーム共有や役割ベースの権限、アクセスログは有料のスタンダード(公式表記で1ユーザー月額0.9米ドル〜、年間払い)以上で利用できます。

退職者対応では、スーパー管理者が退職者の保管庫から必要なパスワードを取得し、信頼できるメンバーへ再割り当てできます。日本法人のゾーホージャパンが販売・サポート・日本語のナレッジベースを提供しており、低コストで始めたい中小企業や、すでにZoho製品を使っている企業と相性がよい選択肢です。

6. JumpCloud(JumpCloud, Inc.)

JumpCloudのウェブサイト

JumpCloudは、クラウドディレクトリを中核にSSO・多要素認証・デバイス管理・パスワード管理を1つにまとめた統合型のプラットフォームです。パスワード管理は「Password Vault」という一機能として提供され、2026年9月に集中管理型のPassword Vaultが一般提供されました。組織の資格情報を共有フォルダで管理し、ディレクトリの操作ログを可視化できます。

単体のパスワード管理ツールというより、IDとアクセスをまとめて統制したい企業向けの基盤です。国内に日本法人はなく、提供は正規代理店経由で、公式サイトやサポートは英語が中心となる点は確認しておきましょう。パスワード管理だけでなく、アカウントと端末の管理をあわせて見直したい企業に向いています。

ここで紹介した主要6製品に加えて、ほかの製品も含めて選択肢を広げて比べたい場合は、法人向けパスワード管理ツールを共有・権限管理や監査ログ、SSO連携といった観点でより多く比較し、選び方まで詳しく解説した以下の記事が役立ちます。

導入・運用時の注意点

ツールを選んだあとも、安全に使い続けるために押さえておきたい運用上の注意点があります。

マスターパスワードの重要性と管理

パスワード管理ツールは、保管庫全体を1つの「マスターパスワード」で守るしくみです。多くの製品はゼロ知識方式を採用し、マスターパスワードやその鍵をサービス提供側が保持しないため、裏を返せばマスターパスワードが破られれば保管庫全体が危険にさらされます。総務省も、こうしたツールはマスターパスワードや端末のロック(生体認証など)で守る必要があるとしています。

これらのツールやサービスは、マスターパスワード(覚えられる充分に安全なもの)や、利用デバイス(スマートフォンなど)のロック(生体認証など)で守る必要があります。

出典:安全なパスワードの設定・管理|総務省 国民のためのサイバーセキュリティサイト

マスターパスワードは、他で使っていない十分に長く固有のものにし、保管庫のロック解除に多要素認証や生体認証を重ねることで、より安全に運用できます。

出典・参考資料(1件)

過去のセキュリティインシデントをどう見るか

パスワードをまとめて預ける以上、提供事業者のセキュリティ体制は選定時の関心事になります。実例として、LastPassは2022年にセキュリティインシデントを公表しています。公式発表によれば、開発環境への不正アクセスを起点に、最終的に顧客の基本的なアカウント情報や、暗号化された顧客保管庫のバックアップがコピーされました。

重要なのは、保管庫自体は暗号化されており、復号に必要なマスターパスワードはLastPass側が保持していなかったという点です。公式はゼロ知識アーキテクチャにより、マスターパスワードから導出した鍵でのみ復号できると説明しています。このため、十分に強く固有のマスターパスワードを設定していれば、流出したバックアップからパスワードを解読される難易度は高いという整理になります。

この事例は特定の製品の優劣を論じるためではなく、パスワード管理ツール全般において、マスターパスワードの強度と多要素認証の設定が最後の砦になることを示すものとして捉えるのが妥当です。事業者を選ぶ際は、採用している暗号方式や第三者認証の取得状況、インシデント発生時の情報開示の姿勢を確認するとよいでしょう。

出典・参考資料(1件)

「パスワードをツールにまとめて預けること自体が危険ではないか」という不安をより深く整理したい方は、管理アプリの安全性とリスク、企業として安全に使うための選び方をまとめた以下の記事も参考になります。

SSO・MFA・パスキーとの関係(パスワード自体を減らす選択肢)

パスワード管理ツールが「パスワードを安全に保管する」解決策であるのに対し、そもそも入力するパスワードを減らす方向の選択肢もあります。

SSOは、1つのIDで複数のサービスにログインできるしくみで、従業員が覚えるパスワードの数を減らせます。多要素認証(MFA)は、前章のとおりパスワードが漏れても単独ではログインさせないための追加の認証です。さらにパスキーは、指紋や顔認証などを使ってパスワードそのものを使わずにログインする方式で、フィッシングに強いとされています。

ただし、すべての社内システムやSaaSがSSOやパスキーに対応しているわけではなく、当面は多くのID・パスワードが残ります。そのため、「対応しているものはSSOやパスキーで減らし、残るパスワードは管理ツールで安全に保管する」という組み合わせが現実的です。

本記事で紹介したJumpCloudのようにディレクトリやSSOと一体でパスワードを管理できる製品もあり、アカウント管理全体を見直す際の選択肢になります。

パスワードの一元管理や多要素認証は、不正アクセスを防ぐ取り組みの一部です。従業員側・管理者側でそれぞれ何をすべきかを対策全体の視点で点検したい場合は、やるべきことをチェックリストで整理した以下の記事もあわせてご覧ください。

まとめ

会社で増え続けるID・パスワードは、表計算ファイルや紙、ブラウザの保存機能では安全に管理しきれません。使い回しや漏えい、退職者のアカウント放置といったリスクを抑えるには、共有・権限、退職者処理、監査ログという会社ならではの機能を備えた法人向けパスワード管理ツールで一元管理するのが現実的な解決策です。

選ぶ際は、料金や無料プランの有無だけでなく、チームでの共有・権限管理のしやすさ、退職者のアカウント処理、監査ログや日本語サポートの充実度を、自社の規模と運用体制に照らして比較してください。

おおまかには、まず無料で小さく始めたいなら無料プランのある製品、日本語での導入・運用支援を重視するなら日本法人や国内代理店のある製品、アカウントや端末の管理ごと見直したいならID基盤と一体の製品、というように、自社がどこを重視するかで候補を絞り込めます。

加えて、長く固有のマスターパスワードと多要素認証の併用、対応サービスでのSSO・パスキーの活用を組み合わせれば、より安全な運用に近づきます。

よくある質問(FAQ)

Q. 法人向けパスワード管理ツールとは何ですか?

A. 法人向けパスワード管理ツールとは、暗号化された保管庫に会社のID・パスワードをまとめて保管し、チームでの共有・権限管理・退職者のアカウント処理・操作の記録(監査ログ)を管理者が一元的に統制できるツールです。自分のパスワードを安全にしまうことが目的の個人向けアプリと違い、複数人で使う前提の機能を備えている点が特徴です。

Q. 会社のパスワード管理は無料ツールだけで足りますか?

A. 会社で使う場合、無料ツールだけで足りるかは「複数人での共有・権限管理・監査ログ・退職者処理が必要かどうか」で決まります。多くの法人向けツールの無料プランは個人利用やごく少人数向けで、チーム共有や役割ごとの権限、操作ログ、人事システムと連動した自動プロビジョニングは有料プランから提供されるのが一般的です。まず無料で小さく試し、組織利用の機能が必要になった段階で有料プランへ広げるのが現実的です。

Q. 会社のパスワードをエクセルやブラウザの保存機能で管理するのは何が危険ですか?

A. エクセルやブラウザの保存機能での管理は、ファイルを開ける人や端末にログインできる人なら誰でも全パスワードを見られてしまい、誰がいつ閲覧・変更したかの記録も残らない点が危険です。コピーが各端末に散らばって最新版がわからなくなり、同じパスワードの使い回しも組織として見つけられません。共有端末や退職時の扱いも曖昧になりがちで、情報を統制できなくなります。

Q. 退職者のID・パスワードは会社としてどう処理すればよいですか?

A. 退職者が出たら、そのアカウントを管理者が速やかに無効化し、本人が使っていた業務用パスワードを後任者へ引き継ぐのが基本です。退職者のアカウントや長期間変更されない共有アカウントの放置は、総務省も不正アクセスの原因に挙げています。

法人向けツールは、保管庫のレコードをまとめて別メンバーへ移す機能や、人事システムと連動して退職時にアカウントを自動で剥奪するID連携(SCIMなど)でこの処理を支援します。

Q. 個人向けのパスワード管理アプリを会社でそのまま使ってもよいですか?

A. 個人向けアプリは、複数人での安全な共有・役割ごとの権限・退職者のアカウント処理・監査ログといった組織運用に必要な機能を備えないため、会社での本格利用には向きません。個人の端末内にパスワードをしまうだけなら使えますが、部署の共有アカウントや退職者対応、情報漏えい時の調査まで考えると、法人向けプランのあるツールを選ぶのが安全です。

Q. パスワード管理ツールは、マスターパスワードが破られたら保管庫ごと漏れるのではありませんか?

A. 確かにマスターパスワードが破られれば保管庫全体が危険にさらされますが、だからこそ長く固有のマスターパスワードと多要素認証の併用が最後の砦になります。多くのツールはゼロ知識方式を採用し、復号に必要な鍵を提供事業者が保持しません。

実際に暗号化された保管庫のバックアップが流出した2022年のLastPassのケースでも、強く固有のマスターパスワードを設定していれば解読の難易度は高いと整理されています。事業者を選ぶ際は、採用している暗号方式や第三者認証の取得状況、インシデント時の情報開示の姿勢も確認するとよいでしょう。

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監修者

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト

松嶋真倫

都市銀行にて金融実務を経験後、暗号資産関連スタートアップの創業期に参画し、市場分析・業界調査に従事。2018年にマネックスグループ入社。以降、ビットコインをはじめとするデジタルアセットからマクロ経済環境まで、金融市場を横断した調査・分析および情報発信を担う。FinTech・次世代金融領域のリサーチ統括、各種レポートや書籍の執筆、日本経済新聞など国内主要メディアへのコメント・寄稿、イベント登壇などを行う。2021年3月より現職。
記事内でご紹介している製品・サービスは監修者が選定したものではなく、編集部が独自に選定したものです。
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。

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