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ゼロトラストアーキテクチャとは?構成要素(PE・PA・PEP)と仕組みを図解でわかりやすく解説

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クラウドサービスの利用やテレワークが当たり前になり、社内と社外を分ける「境界」そのものが曖昧になっています。社外から社内システムへアクセスし、業務データはクラウド上に置かれる。こうした環境では、従来の「境界の内側は安全、外側は危険」という前提が通用しなくなりました。

その課題に対応する考え方が「ゼロトラスト」です。ただ、言葉としては知っていても、「アーキテクチャ」として具体的にどんな部品がどう連携して動くのか、自社で実現するには何が必要なのかまで腹落ちしている担当者は多くありません。

本記事では、ゼロトラストアーキテクチャを「論理構造」として理解できるよう、中核となる論理コンポーネント(ポリシーエンジンなど)がアクセス要求をどう判断するのかを、NIST(米国国立標準技術研究所)やデジタル庁が示す公式の原則も示しながら、具体的に解説します。

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ゼロトラストアーキテクチャとは

ゼロトラストアーキテクチャとは、「何も信頼せず、常に検証する」というゼロトラストの考え方を、企業のシステムとして実装するための論理的な構造を指します。

ここで「ゼロトラスト」と「ゼロトラストアーキテクチャ」は、しばしば混同されますが別の概念です。ゼロトラストが設計思想(考え方)であるのに対し、ゼロトラストアーキテクチャはそれを具体的な構成要素・運用ポリシー・ワークフローとして形にした計画・構造を指します。

この区別は、NIST が公表した標準規格「NIST SP 800-207」の定義に明確に示されています。NIST はゼロトラスト(ZT)を「ネットワークが侵害されているとみなしたうえで、情報システムやサービスへのアクセス判断を、正確かつ必要最小権限で行う際の不確実性を最小化するための概念とアイデアの集合」と定義しています。

そのうえで、ゼロトラストアーキテクチャ(ZTA)を「ゼロトラストの概念を活用し、コンポーネントの関係・ワークフロー計画・アクセスポリシーを包含する企業のサイバーセキュリティ計画」と定義しています。

Zero trust (ZT) provides a collection of concepts and ideas designed to minimize uncertainty in enforcing accurate, least privilege per-request access decisions in information systems and services in the face of a network viewed as compromised. Zero trust architecture (ZTA) is an enterprise’s cybersecurity plan that utilizes zero trust concepts and encompasses component relationships, workflow planning, and access policies.

出典:NIST Special Publication 800-207 Zero Trust Architecture Section 2|NIST

日本語の公式文書では、デジタル庁が2022年6月に公表した「ゼロトラストアーキテクチャ 適用方針」が、ゼロトラストアーキテクチャを次のように定義しています。「論理的構造的な考え方」という表現が、アーキテクチャが特定の製品ではなく構造を指すことを端的に表しています。

ゼロトラストアーキテクチャは、ゼロトラストの概念を利用し、クラウド活用や働き方の多様化に対応しながら、政府情報システムのセキュリティリスクを最小化するための論理的構造的な考え方。

出典:ゼロトラストアーキテクチャ 適用方針 表1-1|デジタル庁

重要なのは、デジタル庁が「ゼロトラストアーキテクチャは特定の実装やソリューションを指すものではない」と明記し、NIST も「単一のアーキテクチャではなく、ワークフローやシステム設計・運用のための指針の集合」だと同趣旨を示している点です。

そのため、ある1つの製品を導入すれば完成するものではなく、複数の要素を組み合わせて実現する構造だということです。この前提は、後述する「実現に必要なソリューション領域」を理解するうえでの土台になります。

出典・参考資料(2件)

境界型セキュリティとの違いと、ゼロトラストが注目される背景

ここからは、ゼロトラストアーキテクチャが生まれた背景を、従来の境界型セキュリティとの違いから整理します。構造の理解に入る前の、最小限の前置きです。

境界型セキュリティの限界

境界型セキュリティは、社内ネットワークと社外インターネットの間に「境界」を設け、ファイアウォールやVPNでその境界を守る考え方です。境界の内側に入れたものは信頼し、外側は信頼しない、という前提で成り立っています。

しかし、クラウドサービスの普及で業務データやシステムが社外に置かれ、テレワークで社員が社外から社内資源にアクセスするようになると、「守るべきものが境界の内側に収まっている」という前提が崩れます。

さらに、ひとたび攻撃者が境界の内側へ侵入すると、内部は信頼されているために横方向へ移動(ラテラルムーブメント)しやすく、被害が一気に広がるという弱点もあります。攻撃者がVPN機器の脆弱性などを突いて侵入し、内部で権限を広げながらランサムウェアを展開する、といった被害はこの構造的な弱点に起因します。

境界型とゼロトラストの比較

両者の考え方の違いを、信頼の前提・検証のタイミング・横方向の移動への強さで整理すると、次のようになります。

← 横にスクロールできます →
観点信頼の前提検証のタイミング守る対象の位置横方向の移動(侵入後)
境界型セキュリティ境界の内側(社内ネットワーク)は信頼する境界を越える入口で主に検証する社内ネットワーク内にある前提内部は信頼されるため広がりやすい
ゼロトラスト場所を問わず、暗黙に信頼しないリソースへのアクセス要求ごとに検証するクラウド・社外も含めて個々のリソースを守るリソースごとに検証し広がりを抑える

※境界型・ゼロトラストそれぞれの一般的な考え方の対比です。

ゼロトラストアーキテクチャを導入するメリット

ゼロトラストアーキテクチャの考え方を取り入れると、次のような利点が期待できます。いずれも、境界型では守りきれなくなった部分を構造で補うものです。

  • 場所やデバイスを問わない安全なアクセス:社外からのアクセスやクラウド利用を、境界の内外で区別せず同じ基準で検証できます。テレワークやハイブリッドワークとの相性がよい点が挙げられます。
  • 侵入後の被害の抑制:アクセスをリソース単位で検証するため、万一侵入されても横方向への移動を抑えやすくなります。
  • 可視性の向上:誰が・どの端末から・どのリソースにアクセスしたかを継続的に把握できるため、異常の検知や監査対応に役立ちます。

論理コンポーネント(PE・PA・PEP)はアクセス要求をどう判断するか

ここからは、本記事の中心である論理コンポーネントの話に入ります。ゼロトラストアーキテクチャが「アクセス要求ごとに検証する」といっても、実際には誰が・何を見て・どこで許可や拒否を実行しているのでしょうか。NIST SP 800-207 が示す構成要素で、その流れを具体的に見ていきます。

主要コンポーネントの役割

NIST SP 800-207 は、ゼロトラストアーキテクチャの中核となる論理コンポーネントとして、ポリシー決定点(PDP)とポリシー適用ポイント(PEP)を挙げています。さらに PDP は、ポリシーエンジン(PE)とポリシー管理者(PA)の2つに分けられます。それぞれの役割は次のとおりです。

  • ポリシーエンジン(PE:Policy Engine):あるアクセス要求を許可するかどうかを最終的に判断するコンポーネントです。企業のポリシーに加え、外部の情報源(後述するデータソース)を入力として、許可の可否を導く判定ロジック(トラストアルゴリズム)にかけ、アクセスの許可・拒否・取り消しを決め、その判断を記録します。
  • ポリシー管理者(PA:Policy Administrator):PE が下した判断を実行するコンポーネントです。主体(ユーザーや端末)とリソースの間の通信経路を確立したり遮断したりし、セッションごとの認証トークンや資格情報を生成します。許可されればPEPに通信の開始を指示し、拒否されれば接続を遮断させます。
  • ポリシー適用ポイント(PEP:Policy Enforcement Point):主体とリソースの間の接続を実際に有効化・監視・終了するコンポーネントです。PA と通信し、要求を転送したりポリシーの更新を受け取ったりします。端末側のエージェントと、リソースの手前に置くゲートウェイのように、2つに分かれる構成もあります。

このように、判断を下すのが PE、その判断を実行に移すのが PA、現場で通信を通すか止めるかを担うのが PEP、という分担です。PE と PA はまとめて PDP(ポリシー決定点)と呼ばれ、これらのコンポーネントは制御用の経路(コントロールプレーン)で連携し、実際の業務データは別の経路(データプレーン)でやり取りされます。

PE が判断に使う「データソース」には、次のようなものがあります。PE はこれらを総合して、そのアクセスを許可してよいかを動的に判断します。

  • 継続的診断・緩和(CDM)システム(端末の状態・構成の情報)
  • 業界コンプライアンスシステム/脅威インテリジェンスフィード(脅威の最新情報)
  • ネットワーク・システムのアクティビティログ/データアクセスポリシー
  • 企業の公開鍵基盤(PKI)/ID管理システム/SIEM(セキュリティ情報・イベント管理)システム
出典・参考資料(1件)

1回のアクセス要求が許可されるまでの流れ

これらのコンポーネントが、1回のアクセス要求に対してどう連携するのかを順に追うと、次のようになります。

  1. 主体(ユーザーや端末)が、業務アプリなどのリソースへアクセスを要求します。
  2. 要求はまず PEP(ポリシー適用ポイント)が受け取り、ポリシー決定点(PDP)へ転送します。PE が、企業のポリシーと各データソース(IDの状態・端末の状態・脅威情報など)を入力に、許可してよいかを判断します。
  3. PA が PE の判断を受け、許可なら PEP に通信の開始を指示し、セッション用の資格情報を発行します。拒否なら接続させません。
  4. PEP が主体とリソースの間の接続を有効化し、以後の通信を監視します。必要に応じて接続を終了します。
  5. PEP の先にあるリソースへアクセスできます。NIST はこの「PEP より先の信頼される範囲」を暗黙のトラストゾーンと呼び、これをできるだけ小さくすることを求めています。
ゼロトラストアーキテクチャの論理コンポーネントがアクセス要求を判断する流れの構造図。コントロールプレーンではポリシー決定点(PDP)の中でポリシーエンジン(PE)がアクセスの許可可否を最終判断し、ポリシー管理者(PA)がその判断を実行してPEPに通信開始を指示する。PEはID管理・端末の状態(CDM)・脅威インテリジェンス・ログ・PKI/SIEMなどのデータソースを参照する。データプレーンでは主体(ユーザー・端末)がリソースへアクセスを要求し、PEPが接続を有効化・監視してリソースへ到達する。PEPより先が暗黙のトラストゾーン。

この流れのポイントは、アクセスのたびに PE が動的に判断する点にあります。一度ログインすれば社内資源に自由にアクセスできる境界型とは異なり、リソースへの要求ごとに検証が入るため、認証情報が盗まれても被害を限定しやすくなります。

出典・参考資料(1件)

NIST SP 800-207 とデジタル庁が示す基本原則

ゼロトラストアーキテクチャを語る際、必ず参照されるのが NIST SP 800-207 とデジタル庁の文書です。ここでは、両者が示す基本原則を、原文の文言そのままで確認します。

NIST SP 800-207 の7つの基本理念(tenets)

NIST SP 800-207 は、ゼロトラストの基本理念(tenets)として7つを挙げています。英語の原文は次のとおりです。

1. All data sources and computing services are considered resources.
2. All communication is secured regardless of network location.
3. Access to individual enterprise resources is granted on a per-session basis.
4. Access to resources is determined by dynamic policy—including the observable state of client identity, application/service, and the requesting asset—and may include other behavioral and environmental attributes.
5. The enterprise monitors and measures the integrity and security posture of all owned and associated assets.
6. All resource authentication and authorization are dynamic and strictly enforced before access is allowed.
7. The enterprise collects as much information as possible about the current state of assets, network infrastructure and communications and uses it to improve its security posture.

出典:NIST Special Publication 800-207 Zero Trust Architecture Section 2.1 Tenets of Zero Trust|NIST

内容を日本語で要約すると、おおむね次のような理念です(筆者による訳)。

  • すべてのデータソースとコンピューティングサービスをリソースとみなす
  • ネットワークの場所にかかわらず、すべての通信を保護する
  • 個々のリソースへのアクセスはセッション単位で許可する
  • アクセスは、IDやアプリ・要求元の状態などを含む動的なポリシーで判断する
  • 自社が保有・関連するすべての資産の健全性とセキュリティ状態を監視・測定する
  • アクセスを許可する前に、認証と認可を動的かつ厳格に実施する
  • 資産やネットワーク・通信の現状について可能な限り情報を収集し、セキュリティの改善に活かす

NIST SP 800-207 は英語の規格文書で、公式の日本語版は提供されていません。上記の日本語は内容を理解するための訳であり、正確な原文は英語の引用部分をご確認ください。

出典・参考資料(1件)

デジタル庁「ゼロトラストアーキテクチャ 適用方針」の6つの方針

日本では、デジタル庁が政府情報システム向けに「ゼロトラストアーキテクチャ 適用方針」を公表しており、適用において必要となる6つの方針を示しています。原文は次のとおりです。

1) リソースを識別し、特定できる状態にする
2) 主体の身元確認・当人認証を実施する
3) ネットワークを保護する
4) リソースの状態を確認する
5) アクセス制御ポリシーで評価し、アクセス管理をする
6) リソースとアクセスを観測する

出典:ゼロトラストアーキテクチャ 適用方針 2 適用方針|デジタル庁

これらは、前述の NIST の理念を実務の方針に落とし込んだ内容と重なります。リソースを把握し、主体を確認し、通信を守り、状態を確かめ、ポリシーで評価し、継続的に観測する、という一連の流れです。

ただし、この文書は政府情報システム向けに作られたもので、文書自体が「ゼロトラストアーキテクチャへの理解を深める参考文書であり、適用の遵守を求めるものではない」と明記しています。民間企業にとっては、守るべき義務ではなく、考え方の参考として活用するものと捉えるのが適切です。

出典・参考資料(1件)

「7つの基本理念(tenets)」と「実現の柱(pillars)」は別物

ゼロトラストを調べていると、「7つの基本理念」「7つの柱」「5つの柱」など、似た言葉が入り混じって混乱しがちです。これらは出所の異なる別々の整理なので、区別して理解すると迷いにくくなります。

NIST SP 800-207 が示すのは、前述の「7つの基本理念(tenets)」です。一方で「柱(pillars)」という言葉は別のフレームワークで使われるもので、たとえば米国の CISA(サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)が公表する成熟度モデルでは「5つの柱(five pillars)」という整理が使われています。ベンダー各社が独自に「7つの柱」と呼ぶこともあります。

このように、「7つ」という数字が同じでも、NIST の理念(tenets)と各社の柱(pillars)は別の概念です。どの文書が示す「7つ」なのかを意識すると、記事やベンダー資料を読むときの混乱を避けられます。

出典・参考資料(2件)

ゼロトラストを実現するソリューション領域

ここからは、ゼロトラストアーキテクチャを実際に構築するために必要なソリューションの領域を、構造のどこを担うかという観点で俯瞰します。前述のとおりゼロトラストは1つの製品で完成するものではなく、領域ごとに手段を揃えていく形になります。

ID・認証(IDaaS/MFA/IdP)がどの役割を担うか

ゼロトラストでは「誰がアクセスしているか」の確認が起点になります。IDの一元管理を担う IDaaS(Identity as a Service)や、IDとパスワードだけに頼らず複数の要素で本人確認する多要素認証(MFA)、認証を集約する IdP(アイデンティティプロバイダー)がこの領域にあたります。構造上は、PE が判断に使う「IDの状態」を提供し、アクセスの入口で主体を検証する役割を担います。

ここで触れた多要素認証(MFA)について、仕組みや3要素、二段階認証との違いをもう少し詳しく知りたい方は、次の記事で解説しています。

端末(EDR/EPP)がどの役割を担うか

アクセス元の端末が安全な状態かどうかも、判断の重要な材料です。端末を保護する EPP(エンドポイント保護プラットフォーム)や、端末上の不審な挙動を検知して対応する EDR(Endpoint Detection and Response)がこの領域です。端末の状態(マルウェア感染の有無、構成の健全性など)をデータソースとして提供し、PE の判断に反映させる役割を担います。

通信・アクセス(ZTNA/SDP/CASB/SASE)がどの役割を担うか

主体とリソースの間の通信を、アクセス要求ごとに制御する領域です。ZTNA(ゼロトラストネットワークアクセス)や SDP(ソフトウェア定義境界)は、VPNのように「社内ネットワーク全体」へ通すのではなく、認証された主体に対して必要なアプリへの接続だけを許可します。CASB(キャスビー)はクラウドサービスの利用を可視化・制御します。構造上は PEP に近い、通信を通すか止めるかの役割を担います。

混同されやすいのが ZTNA と SASE(サッシー)です。ZTNA はゼロトラストの考え方でアプリへのアクセスを制御する仕組みを指すのに対し、SASE はネットワーク機能(SD-WANなど)とセキュリティ機能(ZTNA・CASB・SWGなど)をクラウドで統合して提供する枠組みを指します。ZTNA は SASE を構成する要素の1つという関係にあたります。

この領域には、マイクロセグメンテーションも含まれます。ネットワークを小さな区画に分け、区画をまたぐ通信を既定で遮断して必要なものだけを許可する方式で、万一ある区画に侵入されても、前述した横方向への移動(ラテラルムーブメント)による被害の拡大を抑えられます。NIST SP 800-207 も、ゼロトラストアーキテクチャを実現する代表的な方式の1つとして挙げています。

出典・参考資料(1件)

監視・運用(SIEM/SOAR)がどの役割を担うか

ゼロトラストは「導入して終わり」ではなく、継続的に状態を観測し改善していく運用が前提です。各機器やシステムのログを集約・分析する SIEM や、対応を自動化する SOAR、ネットワーク上の通信を記録・分析する仕組みがこの領域です。アクセスや資産の状態を可視化し、PE の判断材料とすると同時に、異常の検知・事後の調査に使われます。

ゼロトラストアーキテクチャ導入の進め方(5ステップ)

ここからは、「では、自社は何から着手すべきか」という問いに答えます。ゼロトラストの導入は、実務でよく用いられる次の5つのステップで整理できます。

公式のプロセスとしては、デジタル庁の適用方針が、識別・特定からスコープ決定・実装・観測・評価改善へと進む手順を示しています。語彙は異なりますが考え方は共通で、どちらも、どこから始めてもよく、1つの製品の導入で完了するものではないとしています。

①保護対象(守るべきデータ・資産)の特定

まず、守るべきデータ・アプリ・資産を自社で洗い出すことから始めます。すべてを一度に守ろうとせず、重要度の高いもの(機密データや基幹システムなど)から対象を絞ると、現実的に着手できます。

②トランザクションフローの可視化

特定した対象について、誰が・どの端末から・どのリソースへ・どう通信しているのかという流れを把握します。ここが曖昧なまま設計に進むと、必要なアクセスを塞いだり、不要なアクセスを見逃したりするため、丁寧に進めたい工程です。

③設計(アクセス制御・構成の設計)

可視化した流れをもとに、どこで誰に何を許可するか、どのコンポーネント(IDの認証・端末の確認・通信の制御)をどう配置するかを設計します。最小権限の原則に沿って、必要な範囲だけにアクセスを絞る方針を決めます。

④ポリシーの作成

設計に基づき、アクセスを許可・拒否する条件(ポリシー)を具体的に定めます。IDの状態・端末の状態・アクセス元・時間帯などをどう評価するかを決め、PE が判断に使える形にします。

⑤監視・改善

運用を始めたら、アクセスの記録や異常を継続的に監視し、ポリシーや構成を見直していきます。ゼロトラストは一度作って終わりではなく、新しい脅威や業務の変化に合わせて改善を続ける前提の取り組みです。

ゼロトラストアーキテクチャ導入でつまずきやすいポイント

最後に、導入の現場でつまずきやすいポイントを押さえておきます。考え方が理解できても、実務では次のような落とし穴があります。

  • 可視化が不十分なまま設計へ進む:通信の流れを把握しきれていないと、必要なアクセスまで止めて業務を滞らせたり、想定外の抜け道を残したりします。②の可視化を飛ばさないことが大切です。
  • 一度にすべてを置き換えようとする:ゼロトラストは広範な取り組みのため、全社・全システムを一斉に切り替えるのは現実的ではありません。重要度の高い対象から段階的に進めるのが定石です。
  • 導入後の運用体制を想定していない:ゼロトラストは継続的な監視・改善が前提です。デジタル庁の適用方針も、運用・保守体制の確保や、運用設計を初期段階から想定することを留意事項として挙げています。
  • 製品の組み合わせで囲い込まれる:特定ベンダーの製品だけで固めると、後から柔軟に見直しにくくなります。技術標準に沿った相互接続性を意識すると、将来の変更に備えられます。
出典・参考資料(1件)

ゼロトラストの実現を支えるサービス

ここからは、受け皿となるサービスを紹介します。前述の4つの領域のうち、ここでは ID・認証、端末、監視・運用を担うサービスと、導入前に自社の弱点を把握する現状診断のサービスを取り上げます。通信・アクセス(ZTNA・SASE)を担う製品は、記事末尾で案内する比較記事で確認できます。

1. CloudGate UNO(株式会社インターナショナルシステムリサーチ)

CloudGate UNOのウェブサイト

CloudGate UNO は、ゼロトラストの考え方にもとづくシングルサインオン(SSO)を提供する IDaaS です。一度の認証で複数のクラウドサービスへアクセスできる利便性と、最小権限の原則にもとづくアクセス制御を組み合わせ、ゼロトラストアーキテクチャの「ID・認証」領域を担います。

フィッシング攻撃への耐性が高いパスキー(FIDO2)によるパスワードレス認証に対応し、「端末・場所・時間」の3つの軸でアクセスを細かく制限できる点が特徴です。私用端末からのアクセス禁止や特定拠点への限定、時間帯による制御などを設定でき、国産で日本語のサポート体制を備えています。

こうしたID・認証の仕組みが実際の運用にどう表れるのかについて、提供元は次のように述べています。

平澤氏
株式会社インターナショナルシステムリサーチ 営業本部マーケティング部
平澤氏
独自インタビューより

導入と同時にパスワードレス認証に切り替えた企業では、IT部門の業務の約20%を占めていたパスワード関連のヘルプデスク業務が「0%」になったという事例があります。また、他社サービスからの乗り換え事例もございます。通常、設定の移行には時間がかかるものですが、当社のサポートによりわずか1週間で完了させたケースもあります。

2. Network Blackbox(株式会社クワッドマイナージャパン)

Network Blackboxのウェブサイト

ネットワークを流れる通信そのものを記録・分析するのが、フルパケットキャプチャを基盤とする NDR(Network Detection and Response)ソリューション、Network Blackbox です。シグネチャベースの検知・ユーザー行為ベースの検出・コンテンツ分析を組み合わせ、ゼロトラストの「監視・運用」領域を支えます。

外部からの侵入や内部の不審通信、横方向への移動(ラテラルムーブメント)、データの持ち出しなど、ネットワーク上に痕跡が残る事象の検知と事後調査に対応します。保存した通信をさかのぼって調べられるため、インシデント発生後のフォレンジックにも活用できます。EDR や SIEM とは連携して補完する設計で、エンドポイント単体の操作やネットワークに現れない事象は他の手段と組み合わせる前提です。

3. Shadow Desktop(アップデータ株式会社)

Shadow Desktop(シャドウデスクトップ)のウェブサイト

端末にデータを残さないという発想の製品が、Shadow Desktop です。PC内のユーザーデータをクラウド等の外部ストレージへ自動的に移し、PC本体にはデータを残さない「データレスクライアント」で、「侵害を前提とする」というゼロトラストの考え方を端末上のデータという観点から支えます。

通常のPCと同じ操作感を保ちながら、端末の紛失・盗難やランサムウェアによるデータ暗号化のリスクを下げられる点が特徴です。遠隔でのデータ消去(リモートワイプ)にも対応し、持ち出しPCの情報漏洩対策やBCP(事業継続計画)対策として利用されます。VDI(仮想デスクトップ基盤)と比べて導入のハードルを抑えやすい選択肢です。

4. KATABAMI サイバーセキュリティ対策パッケージ(株式会社SYNCHRO)

KATABAMI サイバーセキュリティ対策パッケージのウェブサイト

KATABAMI は、インターネット上に暗号化された専用の通信経路(ステルス回線)を構築する国産技術を使い、脆弱性診断・バックアップ・サイバー保険を1つにまとめたパッケージです。ゼロトラストの実践に向けて「現状のどこに弱点があるか」を把握する、着手点の可視化を支えます。

従来は専門家が現地を訪問して行っていたネットワーク内部の脆弱性診断を、リモートで継続的に実施できる点が特徴です。サーバーやネットワーク機器、複合機といったオフィス内の機器を外部から診断できるため、立ち会いの工数を抑えられます。

あわせて、改ざんされないイミュータブルなバックアップと、万一の際に備えるサイバー保険の自動付帯を組み合わせ、予防・復旧・補償を1つにしています。すでに導入済みの対策が適切に機能しているかを客観的に確認したい場合の受け皿になります。

なぜネットワークの内側の診断が欠かせないのか、提供元は次のように説明しています。

北口氏
株式会社SYNCHRO 取締役CMO
北口氏
独自インタビューより

前提として、ネットワークの内側をきちんと診断しなければならないという課題があります。サーバーやネットワーク機器、それから複合機、コピー機はどの会社にも必ずあり、すべてのパソコンと繋がっていて、プリンターやスキャンの機能も持っています。ここが乗っ取られると、全端末に対して自由に攻撃されてしまうリスクがあります。

5. Trend Vision One(トレンドマイクロ株式会社)

Trend Vision Oneのウェブサイト

トレンドマイクロが提供する Trend Vision One は、複数のレイヤーの情報を相関分析する XDR(Extended Detection and Response)統合プラットフォームです。端末(EDR)での検知を起点に、メールやネットワークなどの情報も組み合わせて脅威を可視化し、ゼロトラストの「端末」と「監視・運用」の領域を横断して支えます。

個々の製品が別々に出すアラートを1つの基盤で相関づけることで、見逃しや対応の分断を減らせる点が特徴です。クラウド環境の設定リスクの継続監視など、幅広い機能を同じプラットフォーム上で扱えます。ゼロトラストの各領域をまたいで状態を把握したい企業の選択肢になります。

【比較表】ゼロトラスト実現を支えるサービスの比較

以下は、ここまで紹介したサービスを、ゼロトラストアーキテクチャのどの領域を担うかという観点で整理した比較表です。

← 横にスクロールできます →
サービス名CloudGate UNONetwork BlackboxShadow DesktopKATABAMI サイバーセキュリティ対策パッケージTrend Vision One
担うゼロトラスト領域ID・認証監視・運用端末(データ保護)現状診断・復旧端末/監視・運用(横断)
製品タイプIDaaS(SSO・MFA)NDR(ネットワーク検知・対応)データレスクライアント脆弱性診断・バックアップ・保険の統合パッケージXDR統合プラットフォーム
主な機能・特徴パスキー(FIDO2)によるパスワードレス認証
端末・場所・時間の3軸でアクセス制限
SSOでクラウドサービスを一元化
フルパケットキャプチャで通信を保存
不審通信・横移動・持ち出しの検知
保存通信をさかのぼるフォレンジック
PC内データをクラウドへ退避しデータレス化
リモートワイプ・キャッシュ暗号化
ランサムウェア時の世代復旧(オプション)
ネットワーク内部からの月次脆弱性診断
隔離経路へのバックアップ
サイバー保険の自動付帯
複数レイヤーのテレメトリを相関分析(XDR)
EDR起点の脅威可視化
クラウド設定リスクの継続監視
初期費用要問い合わせ要問い合わせ初期費用なし要問い合わせ要問い合わせ
月額費用400円〜600円/ユーザー(税抜)要問い合わせ950円〜/ユーザー(税込1,045円)1台1,250円/月〜クレジット制(TrendAI Flex、価格非公開)
無料トライアル30日間なし(デモ申請あり)最大30日間なし(無料相談あり)30日間
詳細情報公式資料を見る公式資料を見るオンライン相談を予約オンライン相談を予約サービス詳細を見る

ゼロトラストの各領域を担うサービスは、ここで挙げた5つ以外にも数多くあります。通信・アクセス(ZTNA・SASE)領域の製品も含め、守る対象別にソリューションのタイプを整理し、代表的なサービスと選び方まで広く比較検討したい方は、以下の記事をご覧ください。

まとめ

ゼロトラストアーキテクチャは、「何も信頼せず常に検証する」という考え方を、論理コンポーネント(PE・PA・PEP)とポリシー、各種データソースの連携として実装する構造です。アクセス要求ごとに PE が判断し、PA が実行し、PEP が通信を制御することで、境界型では守りきれなかったクラウド利用やテレワーク、侵入後の横移動に対処します。

自社で取り組む際のポイントは、次の3点に整理できます。

  • 公式の原則を土台にする:NIST SP 800-207 の7つの基本理念やデジタル庁の適用方針を参考に、自社の方針を定める。
  • 段階的に進める:守るべき対象の特定から可視化・設計・ポリシー・監視へと、重要度の高いものから着手する。
  • 領域ごとに手段を揃える:ゼロトラストは1製品で完成しないため、ID・認証、端末、通信、監視といった領域ごとに適したサービスを組み合わせる。

まずは自社がどの領域から着手すべきかを見極め、各領域のサービスの資料を取り寄せて比較検討することから始めてみてください。

よくある質問(FAQ)

Q. ゼロトラストアーキテクチャとは何ですか?

A. ゼロトラストアーキテクチャとは、「何も信頼せず常に検証する」というゼロトラストの考え方を、企業のシステムとして実装するための論理的な構造(構成要素・運用ポリシー・ワークフローの集合)です。特定の製品を1つ導入すれば完成するものではなく、NIST SP 800-207 もデジタル庁も「特定の実装やソリューションを指すものではない」としています。

設計思想である「ゼロトラスト」と、それを形にした「ゼロトラストアーキテクチャ」は区別して理解すると混乱しにくくなります。

Q. ゼロトラストアーキテクチャとVPNは何が違いますか?

A. VPN が「社内ネットワーク全体」への通路を開くのに対し、ゼロトラスト(ZTNA など)は認証した利用者に必要なアプリへの接続だけを許可し、アクセス要求ごとに検証する点が大きく異なります。

VPN は境界型セキュリティの代表的な仕組みで、一度つながれば内部を比較的自由に移動できるため、認証情報が盗まれた際に横方向への侵入(ラテラルムーブメント)を許しやすい弱点があります。ゼロトラストはリソース単位で検証するため、万一侵入されても被害を限定しやすくなります。

Q. ZTNAやSASEはゼロトラストとどう関係しますか?

A. ZTNA はゼロトラストの考え方でアプリへのアクセスを制御する仕組み、SASE はネットワーク機能とセキュリティ機能(ZTNA・CASB・SWG など)をクラウドで統合して提供する枠組みで、ZTNA は SASE を構成する要素の1つという関係です。

いずれもゼロトラストアーキテクチャの「通信・アクセス制御」領域を担う手段であり、ゼロトラストそのものと同義ではありません。ゼロトラストが上位の考え方、ZTNA・SASE はそれを実現する手段と整理すると、混同しやすいこれらの用語を理解しやすくなります。

Q. ゼロトラストアーキテクチャは何から始めればよいですか?

A. ゼロトラストアーキテクチャは、まず「守るべきデータ・資産の特定」から始め、通信フローの可視化→設計→ポリシー作成→監視・改善へと段階的に進めるのが現実的です。すべてを一度に置き換える必要はなく、重要度の高いリソースから着手できます。デジタル庁の適用方針も、どこから始めてもよく1つの製品の導入で完了するものではないとしており、自社の弱点に応じて着手点を決めるのが基本です。

Q. ゼロトラストアーキテクチャに「完成」はありますか?

A. ゼロトラストアーキテクチャに明確な完成形はなく、導入後も継続的に監視し、新しい脅威や業務の変化に合わせてポリシーや構成を見直し続ける取り組みです。一度作って終わりではないため、運用・保守体制を初期段階から想定しておくことが重要になります。「導入すれば安全」ではなく、運用しながら成熟度を高めていくものと捉えるのが適切です。

Q. 中小企業でもゼロトラストアーキテクチャを導入できますか?

A. ゼロトラストアーキテクチャは、専任のセキュリティ人材が少ない中小企業でも、重要度の高い対象から段階的に着手できます。全社・全システムを一斉に切り替える必要はなく、まず ID・認証(MFA/IDaaS)やクラウド利用の可視化など、効果が出やすい領域から始める進め方が現実的です。1製品で完成するものではないため、自社の課題に合う領域のサービスを少しずつ組み合わせていくとよいでしょう。

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監修者

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト

松嶋真倫

都市銀行にて金融実務を経験後、暗号資産関連スタートアップの創業期に参画し、市場分析・業界調査に従事。2018年にマネックスグループ入社。以降、ビットコインをはじめとするデジタルアセットからマクロ経済環境まで、金融市場を横断した調査・分析および情報発信を担う。FinTech・次世代金融領域のリサーチ統括、各種レポートや書籍の執筆、日本経済新聞など国内主要メディアへのコメント・寄稿、イベント登壇などを行う。2021年3月より現職。
記事内でご紹介している製品・サービスは監修者が選定したものではなく、編集部が独自に選定したものです。
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